社労士便り (2013 年 11 月) (Vol.092) 『 解雇制限期間及び例外規定 』 今月のテーマは、 「解雇制限期間及び例外規定」です。 ● 解雇制限期間 労働者が、解雇要件に該当したとしても、解雇できない期間があります。労働基準 法第 19 条第 1 項は、使用者が解雇を制限される期間として次の 2 つを規定していま す。 1. 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後 30 日間 2. 産前産後の女性が労働基準法第 65 条の規定によって休業する期間及びその後 30 日間 (注)労働基準法第 65 条:産前 6 週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)、産後 8 週間 なお、労働基準法第 119 条(罰則)は、同法 19 条(解雇制限)違反は、6 か月以下 の懲役又は 30 万円以下の罰金に処すると規定しています。 ● 第 1 項:業務上負傷による休業 例えば、業務上負傷し又は疾病にかかり療養していた労働者が完全に治ってはいな いが、勤務し得る程度に回復したので出勤し、元の職場で平常どおり勤務していたと ころ、使用者が就業後 30 日を経過して当該労働者に解雇予告手当を支給して即時解 雇した。当該労働者は、 「完全に治っていないので、解雇は無効だ。」と主張している。 このケースは違法となるでしょうか。 行政解釈(昭 24.4.12 基収 1134 号)によると、業務上の傷病により治療中であっ ても、そのために休業しないで出勤している場合は、解雇の制限を受けないというこ とから、上記ケースは労働基準法第 19 条に抵触しないとしています。 ● 第 2 項:産前産後の女性 産前 6 週間の休業について、労働基準法第 65 条第 1 項は、「6 週間(多胎妊娠の場 合にあっては、14 週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、 ~」と規定しています。つまり、産前 6 週間の休業は、労働者からの請求があって初 めて付与義務が発生するため、たとえ産前 6 週間の休業が取れる期間であっても、そ の労働者が休業を請求しないで就労している期間は、労働基準法第 19 条に抵触しな いことになります。ただし、実際の現場では、批判的な意見があるかもしれません。 ● 解雇制限期間の例外 労働基準法第 19 条には例外の規定(第 1 項及び 2 項但書)があり、解雇制限期間 内であっても次の場合には解雇できると規定しています。 1. 労働基準法第 81 条の規定によって打切補償を支払う場合 2. 天災その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合 3. 上記 2 の場合においては、その事由について行政官庁(所轄労働基準監督署長) の認定を受けなければならない。 (注)労働基準法第 81 条とは、労働基準法第 75 条の規定により療養補償を受ける労 働者が、療養開始後 3 年を経過しても負傷又は傷病がなおらない場合においては、 使用者は、平均賃金の 1,200 日分の打切補償を行い、その後は労基法の補償を行 わなくてもよいという規定です。 ● 打切補償と傷病補償年金 労働者災害補償保険法第 19 条の規定によって、業務上負傷し、又は疾病にかかっ た労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養開始後 3 年を経過した日において、傷病補 償年金を受けている場合、又は、同日後において同年金を受けることになった場合に は、使用者は、それぞれ当該 3 年を経過した日又は同年金を受けることとなった日に おいて、打切補償を支払ったものとみなされ、解雇制限は解除されます。 (注)傷病補償年金は、業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が当該負傷又は 疾病に係る療養の開始後 1 年 6 か月を経過した日に、治っておらず、障害の程 度が傷病等級に該当した場合に支給される。 ● 判例(打切補償を支払って行った解雇が無効) 上記のとおり、労働基準法第 81 条の規定によって打切補償を支払う場合、解雇の 制限は解除されます。 しかしながら、最近、打切補償を支払って行った解雇が労働基準法第 19 条第 1 項 に違反して無効とされた判例(東京地平 24.9.28)があります。 判例:「労災給付を受けて療養中の労働者は、 『労働基準法第 75 条によって(使用 者による)補償を受ける労働者』に該当しないため、同第 81 条の打切補償の対象に はならず、打切補償の支払いによる同第 19 条の解雇制限解除はできない。」 このような判決になった理由を理解するには、関連する条文を確認する必要があり ます。 まず、解雇制限の例外規定は、上記のとおり、 「労働基準法第 81 条の規定によって 打切補償を支払う場合」です。 次に、 「労働基準法第 81 条(打切補償)」とは、その文頭において、 「労働基準法第 75 条の規定により療養補償を受ける労働者が~」と規定されています。 次に、 「労働基準法第 75 条」 (療養補償)は、 「労働者が業務上負担し、又は疾病に かかった場合においては、使用者は、その費用で療養を行い、又は必要な療養の費用 を負担しなければならない。」と規定しています。 ただし、多くの場合、使用者は、労働基準法第 75 条に規定される療養補償を負担 していません。理由は、当該補償の代わりに、労働者災害補償保険法の療養補償給付 が支給されるからです。これは、労働基準法第 84 条第 1 項において、 「使用者は、労 働基準法で規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法の給付が行われ るべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる」と規定されており、 違法ではありません。 判決によると、労働基準法の療養補償ではなく、労働者災害補償保険法の療養補償 給付を受けた労働者は、 「労働基準法第 81 条の規定によって補償を受ける労働者」に 該当せず、打切補償の支払いにより、解雇制限は解除されないということです。逆に いえば、使用者が打切補償の支払いにより解雇制限が解除されるためには、労災保険 ではなく、労働基準法で補償する必要があるということになります。 この判決には様々な意見もあるようですので、今後も注目していきたいと思います が、いずれにしても、労災により休業中の労働者を解雇する場合には注意が必要とい うことでしょう。 (参考文献等) 労働法全書平成 26 年版:財団法人労務行政研究所編(労務行政) 新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法:西谷敏・野田進・和田肇編 (日本評論社) ● 労働法:菅野和夫著(弘文堂) 労働基準法解釈総覧(労働調査会) 採用から退職までの法律知識(安西愈) プロフィール 特定社会保険労務士 佐藤 敦 平成 16 年:神奈川県社会保険労務士会登録 ● 著書 『給料と人事で絶対泣かない 89 の知恵』(大和書房) 『働く高齢者の給料が減っても手取りを減らさない方法』(ダイヤモンド社)他。
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