中国における稲作・ 養魚兼業システム - Food and Agriculture

稲作・養魚システムと生物多様性
稲作と養魚がともに古くから
行われているアジアは、多くの
種類のコメと魚の原産地である
ばかりでなく、これらが人間に
よる利用を目的として、初めて
開発された地域でもあります。
水田は稲作と同時に、あるい
は、稲作と交互に養魚場として
も利用できます。稲作と養魚の
兼業はまた、さまざまな集約度
で行うこともできます。
このシステムはまた、資源の
乏しい農民にとってのリスクを
最小限に抑え、天然資源を保護
し、生物多様性を促進します。
世界のコメ生産が増大する中
で、稲作・養魚兼業システムが採
用されるケースも増えています。
また、熱帯アジアはコイ、ナマズ、吸気魚をはじめ、多くの淡水魚種の原産
地でもあります。中国には現在、国内の異なる文化的、環境的および経済的
条件に適応した、多種多様な稲作・養魚兼業システムが存在しています。稲
作と養魚の兼業は独特の景観を作り出すだけでなく、生態系の特色と働き
(陸水の相互作用、生物学的コントロール、窒素固定など)を、本来備わっ
ている制約のいくつかを緩和するようなやりかたで、統合しています。
水田での養魚は同時に(混合農業)行われることも、稲作と交互に行われる
こともありますが、さまざまな集約度で実施することができます。
伝統的(捕獲)、同時的かつ集約度の低い養魚(肥料も飼料もまったく用い
ない)システムは、河川の氾濫期に見られ、集約度の高い養魚法に比べて、
多様な魚種の取扱いを促進します。稲の刈取りが終わった水田でも、魚の肥
育を行うことができます。
稲作・養魚兼業による利益
FAO/15334/J.Dent
魚はイネにとって、生物学的な害虫駆
除とアゾラ(アカウキクサ)摂取の役
割を果たすとともに、窒素の固定も行
います。さらに、微生物、昆虫、捕食
動物、作物および家畜の複雑かつ多様
な食物網は、システムの構成要素のい
ずれか、あるいは双方にとって利益と
なります。
8
稲作と養魚の兼業は資源の乏しい農民に
適しており、リスクを最小限に抑えるこ
とで、土手や海岸沿いで果物や野菜を栽
培したり、文化的、経済的に望ましい小
型家畜(豚や鶏−特にガチョウとカモ)
を飼育したりできるようにします。稲
作・養魚システムは、物質と養分のリサ
イクル、および、コメと魚の相乗効果を
通じ、生態学的・経済的効率を高めます。
また、水、土壌資源および農業多様性
(コメと魚ともに)を保護し、豊かな文
化的多様性とこれに関連する管理制度を
支えています。
脅威、課題、解決策
天水稲作・養魚システムは農薬をはじ
めとする化学薬品の過剰散布、人口が
増加を続ける中での主食となる稲作の
集約化、単種養魚の集約化、および、
灌漑システムの導入により、危険にさ
らされています。
稲作と養魚の兼業は市場のニーズに応
えるものであり、河川の上流地域や遠
隔地域では、伝統的な稲作・養魚シス
テムを促進する必要があります。
また、農業多様性の損失に対して、稲
作・養魚システムの集約化を促進する
政策、制度および経済的動機を査定す
る必要があり、これにより伝統的な集
約度の低い天水稲作・養魚システムを
保全できるような改革を定めることが
できます。
グローバルな重要性
全世界でコメの増産が進む中で、稲作・養魚兼業システムの実行例も増加しています。この
システムはまた、以下のような地球環境問題にとっても重要な意味を持っています。
蘆気候変動(水田からの温室効果ガスの排出量は、採用される営農法、作物の代謝および土
壌の特性によって決定されるが、天水農業は灌漑農法よりも排出量が低くなる傾向にある
ため)
蘆水の保全 (洪水の水を共有の集水地域と河川流域に保留することができるため)
蘆生物多様性 (コメの生態型と魚種の、双方におけるもの)
蘆稲作・養魚システムはFAO、ユネスコ、UNDPおよびGEF(地球環境ファシリティ)の共
同プログラムで「世界的に重要な独創的農業遺産システム」に認定されたこと。
これに対し、コメあるいは魚に特化した
集約的モノカルチャーは、短期的な利益
は上がりますが、生物多様性の損失など、
長期的には悪影響を及ぼします。
稲作・養魚システムは穀物、タンパク
質(動物性・植物性)、生物多様性の促
進、効率的な水利用、養分の循環と保
留、新たな好ましい微気候など、生態
系にとって重要な財とサービスを提供
しています。
どの農業生態学システム、文化システ
ムおよび管理システムをとってみても、
コメの生態型は選別されて、水土壌、
植生、再生産および成熟の特性を最適
化し、病害虫、競争相手(雑草、有機
廃棄物、代謝産物など)および環境の
危害(低温、酸性・塩類土壌、洪水な
ど)による損失を最小限に抑えるよう
な開発が行われています。
FAO/DSCF0657
稲作・養魚兼業システムは、一つの生
育地で重要な穀物とタンパク源をとも
に生産できるだけでなく、さまざまな
利益をもたらす相互作用を生み出しま
す。例えば、イネは魚に日陰と虫、さ
らには魚が利用できる有機物を提供す
る一方で、魚は水中に酸素を供給し、
かく はん
養分を攪 拌 することによって、イネの
生育を助けます。
伝統的な集約度の低い天水農業システ
ムでは、農家によって作付体系が違う
ことから、時間的、空間的および遺伝
的多様性が生じます。よって、生物多
様性のレベルは高くなり、病害虫に対
する少なくとも部分的な耐性が生まれ
ます。
FAO/DSCF0664
稲作・養魚兼業システムでは、
重要な穀物とタンパク源が1ヵ
所で同時に生産できるだけでな
く、極めて有益な共生作用もい
くつか見られます。たとえば、
イネは魚に日陰を提供する一方
で、魚は水中に酸素を送り込み
ます。
コメが圧倒的に主食となっている熱帯アジアでは、古くからコメ栽培を可能
にする努力が重ねられてきました。その結果、インディカ、ジャポニカおよ
びジャバニカの3種類のアジア米(Oryza sativa)を基本とする多種多様な
生態系が、さまざまな農業環境地域で栽培され、それぞれに異なる生育、粒
および収量の特性を持つに到っています。中国には灌漑生態系、棚田生態系、
低地天水生態系および洪水多発(超深水)生態系という、4つの基本的コメ
農業生態系が存在し、それぞれが特有の土壌条件を備えています。
FAO/DSCF0667
中国における稲作・
養魚兼業システム
生物多様性の観点から見て、稲作・養
魚システムは以下を促進します。
i)第一に収量、第二にシステムの維
持と経済的持続可能性を理由とし
た集中的な品種選別による高収量
コメ品種の低レベルから中レベル
の遺伝的多様性
ii)魚種内の選別があまり行われない
ことによる中レベルから高レベル
の魚種多様性
THE SITUATION
現状
AD/I/Y4875E/1/9.03/4000
お問合せ先
PARVIZ KOOHAFKAN
Land and Water Development Division
Land and Plant Nutrition Management Service
Room B-765 電話:(+39) 06 57053843 FAX (+39) 06 57056275
Eメール parviz.koohafkan@fao.org
Food and Agriculture Organization
of the United Nations
Viale delle Terme di Caracalla
Rome 00100
Italy
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稲作・養魚システムと生物多様性
稲作と養魚がともに古くから
行われているアジアは、多くの
種類のコメと魚の原産地である
ばかりでなく、これらが人間に
よる利用を目的として、初めて
開発された地域でもあります。
水田は稲作と同時に、あるい
は、稲作と交互に養魚場として
も利用できます。稲作と養魚の
兼業はまた、さまざまな集約度
で行うこともできます。
このシステムはまた、資源の
乏しい農民にとってのリスクを
最小限に抑え、天然資源を保護
し、生物多様性を促進します。
世界のコメ生産が増大する中
で、稲作・養魚兼業システムが採
用されるケースも増えています。
また、熱帯アジアはコイ、ナマズ、吸気魚をはじめ、多くの淡水魚種の原産
地でもあります。中国には現在、国内の異なる文化的、環境的および経済的
条件に適応した、多種多様な稲作・養魚兼業システムが存在しています。稲
作と養魚の兼業は独特の景観を作り出すだけでなく、生態系の特色と働き
(陸水の相互作用、生物学的コントロール、窒素固定など)を、本来備わっ
ている制約のいくつかを緩和するようなやりかたで、統合しています。
水田での養魚は同時に(混合農業)行われることも、稲作と交互に行われる
こともありますが、さまざまな集約度で実施することができます。
伝統的(捕獲)、同時的かつ集約度の低い養魚(肥料も飼料もまったく用い
ない)システムは、河川の氾濫期に見られ、集約度の高い養魚法に比べて、
多様な魚種の取扱いを促進します。稲の刈取りが終わった水田でも、魚の肥
育を行うことができます。
稲作・養魚兼業による利益
FAO/15334/J.Dent
魚はイネにとって、生物学的な害虫駆
除とアゾラ(アカウキクサ)摂取の役
割を果たすとともに、窒素の固定も行
います。さらに、微生物、昆虫、捕食
動物、作物および家畜の複雑かつ多様
な食物網は、システムの構成要素のい
ずれか、あるいは双方にとって利益と
なります。
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稲作と養魚の兼業は資源の乏しい農民に
適しており、リスクを最小限に抑えるこ
とで、土手や海岸沿いで果物や野菜を栽
培したり、文化的、経済的に望ましい小
型家畜(豚や鶏−特にガチョウとカモ)
を飼育したりできるようにします。稲
作・養魚システムは、物質と養分のリサ
イクル、および、コメと魚の相乗効果を
通じ、生態学的・経済的効率を高めます。
また、水、土壌資源および農業多様性
(コメと魚ともに)を保護し、豊かな文
化的多様性とこれに関連する管理制度を
支えています。
脅威、課題、解決策
天水稲作・養魚システムは農薬をはじ
めとする化学薬品の過剰散布、人口が
増加を続ける中での主食となる稲作の
集約化、単種養魚の集約化、および、
灌漑システムの導入により、危険にさ
らされています。
稲作と養魚の兼業は市場のニーズに応
えるものであり、河川の上流地域や遠
隔地域では、伝統的な稲作・養魚シス
テムを促進する必要があります。
また、農業多様性の損失に対して、稲
作・養魚システムの集約化を促進する
政策、制度および経済的動機を査定す
る必要があり、これにより伝統的な集
約度の低い天水稲作・養魚システムを
保全できるような改革を定めることが
できます。
グローバルな重要性
全世界でコメの増産が進む中で、稲作・養魚兼業システムの実行例も増加しています。この
システムはまた、以下のような地球環境問題にとっても重要な意味を持っています。
蘆気候変動(水田からの温室効果ガスの排出量は、採用される営農法、作物の代謝および土
壌の特性によって決定されるが、天水農業は灌漑農法よりも排出量が低くなる傾向にある
ため)
蘆水の保全 (洪水の水を共有の集水地域と河川流域に保留することができるため)
蘆生物多様性 (コメの生態型と魚種の、双方におけるもの)
蘆稲作・養魚システムはFAO、ユネスコ、UNDPおよびGEF(地球環境ファシリティ)の共
同プログラムで「世界的に重要な独創的農業遺産システム」に認定されたこと。
これに対し、コメあるいは魚に特化した
集約的モノカルチャーは、短期的な利益
は上がりますが、生物多様性の損失など、
長期的には悪影響を及ぼします。
稲作・養魚システムは穀物、タンパク
質(動物性・植物性)、生物多様性の促
進、効率的な水利用、養分の循環と保
留、新たな好ましい微気候など、生態
系にとって重要な財とサービスを提供
しています。
どの農業生態学システム、文化システ
ムおよび管理システムをとってみても、
コメの生態型は選別されて、水土壌、
植生、再生産および成熟の特性を最適
化し、病害虫、競争相手(雑草、有機
廃棄物、代謝産物など)および環境の
危害(低温、酸性・塩類土壌、洪水な
ど)による損失を最小限に抑えるよう
な開発が行われています。
FAO/DSCF0657
稲作・養魚兼業システムは、一つの生
育地で重要な穀物とタンパク源をとも
に生産できるだけでなく、さまざまな
利益をもたらす相互作用を生み出しま
す。例えば、イネは魚に日陰と虫、さ
らには魚が利用できる有機物を提供す
る一方で、魚は水中に酸素を供給し、
かく はん
養分を攪 拌 することによって、イネの
生育を助けます。
伝統的な集約度の低い天水農業システ
ムでは、農家によって作付体系が違う
ことから、時間的、空間的および遺伝
的多様性が生じます。よって、生物多
様性のレベルは高くなり、病害虫に対
する少なくとも部分的な耐性が生まれ
ます。
FAO/DSCF0664
稲作・養魚兼業システムでは、
重要な穀物とタンパク源が1ヵ
所で同時に生産できるだけでな
く、極めて有益な共生作用もい
くつか見られます。たとえば、
イネは魚に日陰を提供する一方
で、魚は水中に酸素を送り込み
ます。
コメが圧倒的に主食となっている熱帯アジアでは、古くからコメ栽培を可能
にする努力が重ねられてきました。その結果、インディカ、ジャポニカおよ
びジャバニカの3種類のアジア米(Oryza sativa)を基本とする多種多様な
生態系が、さまざまな農業環境地域で栽培され、それぞれに異なる生育、粒
および収量の特性を持つに到っています。中国には灌漑生態系、棚田生態系、
低地天水生態系および洪水多発(超深水)生態系という、4つの基本的コメ
農業生態系が存在し、それぞれが特有の土壌条件を備えています。
FAO/DSCF0667
中国における稲作・
養魚兼業システム
生物多様性の観点から見て、稲作・養
魚システムは以下を促進します。
i)第一に収量、第二にシステムの維
持と経済的持続可能性を理由とし
た集中的な品種選別による高収量
コメ品種の低レベルから中レベル
の遺伝的多様性
ii)魚種内の選別があまり行われない
ことによる中レベルから高レベル
の魚種多様性
THE SITUATION
現状
AD/I/Y4875E/1/9.03/4000
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Land and Water Development Division
Land and Plant Nutrition Management Service
Room B-765 電話:(+39) 06 57053843 FAX (+39) 06 57056275
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Rome 00100
Italy
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