FTN「知財研究会」第3回(2012.8.1,UUプラザ) 最近の特許侵害事件からみた特許戦略 宇都宮大学 教授 山村 正明 ya a u a yamamura@cc.utsunomiya-u.ac.jp .u u o ya u.a .jp yamamura.m@384.jp 1.毛染め剤事件 2.切り餅事件 毛染め剤事件から見える 花王の巧みな知財戦術 (1)分割出願の活用 ・他社製品の捕捉 (補正はイ号品を見て) ・審査請求期間の利用 (査定前に次世代出願し、 (査定前に次世代出願し クレームの自由度をキープ→次のターゲット) (2)面接の活用、代理人の活用 (3)訴訟戦術 ・仮処分の活用 仮処分の活用 (4)自由度の高い(補正ができる)明細書 花王ニュースリリース 発表資料: 2011年02月25日 発表資 1)ドイツ ヘンケル社がドイツで2010年9月から販売を開始した泡状ヘアカ ラー(染毛剤)「Perfect Mousse」が花王の保有するドイツ実用新案 権第20 2004 021 775号を侵害するとして、花王は販売差し止 めと損害賠償を求め、2011年2月22日、ドイツ連邦共和国デュッセ ルドルフ地方裁判所に提訴いたしました。 2)日本 シュワルツコフ ル ヘンケル株式会社が日本で2010年9月から販売を ン ル株式会社 日本 20 0年9月 販売を 開始した泡状ヘアカラー「フレッシュライト 泡タイプカラー」が花王 の保有する日本特許権第4663772号を侵害するとして、花王は販 売差し止めを求め、2011年2月23日、東京地方裁判所に仮処分の 申し立てを行ないました。 花王は、特許などの知的財産権を極めて重要な経営資源 と位置づけており 自社の知的財産権が侵害されたと判断 と位置づけており、自社の知的財産権が侵害されたと判断 した場合は、毅然とした態度で臨んでいます。 発表資料: 2012年02月10日 (花王) 泡状ヘアカラー(染毛剤)に関するホーユーへの特許侵害訴訟での仮処分決定について 花王株式会社(社長・尾崎元規)は ホーユー株式会社より2011年3月1日に発売された泡状ヘアカラー「ビゲン ヘアカ 花王株式会社(社長・尾崎元規)は、ホーユー株式会社より2011年3月1日に発売された泡状ヘアカラー「ビゲン ラーDX クリーミーフォーム」について、花王の保有する特許権(特許第4762362号)を侵害するとして2011年7月6日、 東京地方裁判所に仮処分の申し立てを行なっておりました。このたび、花王の申し立てが認められ、2012年2月10日付 けで、対象製品* の製造・販売等の差し止めを認める仮処分決定がなされました。 * 対象製品:「ビゲン ヘアカラーDX クリーミーフォーム」のうち、下記の12製品(本品およびつめかえ用) 「2 より明るいライトブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン FMヘアカラー(A) 2」のものに限る) 「3 3 明るいライトブラウン」(第1剤の外箱表記が 明るいライトブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン ビゲン FMヘアカラ FMヘアカラー(A) (A) 3」のものに限る) 「3C キャラメルブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン FMヘアカラー(A) 31」のものに限る) 「4 ライトブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン FMヘアカラー(A) 4」のものに限る) 「5 ブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン FMヘアカラー(A) 5」のものに限る) 「6 ダークブラウン」(第1剤の外箱表記が「ビゲン ダ クブラウン (第1剤の外箱表記が「ビゲン FMヘアカラー(A) FMヘアカラ (A) 6」のものに限る) 6 のものに限る) 今回の決定を受け、花王は、特許権侵害により受けた損害の賠償を求める本案訴訟を、速やかに東京地方裁判所に提起 します。 上記特許権は、“ノンエアゾール型の容器を用いた2剤式泡状染毛剤”の技術(本技術)に関するもので、花王グループの ビューティケア事業を支える重要な知的財産権の一角を担うものです。 花王は2002年に本技術の開発に着手してから 2007年7月に日本でその実用化した商品である黒髪用ヘアカラ 「プ 花王は2002年に本技術の開発に着手してから、2007年7月に日本でその実用化した商品である黒髪用ヘアカラー「プ リティア ふんわり泡カラー」を発売し、2008年10月には白髪用ヘアカラー「ブローネ 泡カラー」を発売し、現在までに日 本での染毛剤市場において「泡状」というカテゴリーを確立するにいたっています。 本技術を実用化した家庭用泡状ヘアカラー商品(本商品)は、花王グループ企業によって、海外においても、2009年7月 の香港での販売を皮切りに、シンガポール、マレーシア、英国、オランダ、米国、タイ、台湾で発売し、好調な売れ行きを 続けています。2012年前半にはフランス、カナダおよびオーストラリアでの販売を開始する予定であり、今後さらなる販 売国の拡張も予定しており、本商品は、花王グループのビューティケア事業の海外展開の中核をなしています。 花王は、特許などの知的財産権を極めて重要な経営資源と位置づけており、他社の知的財産権を尊重しつつ、自社の知 的財産権が侵害されたと判断した場合は、毅然とした態度で臨んでいます。 泡フォーマー毛染め(花王出願戦略) 特願 2004-130373 (2004.4.26)) 「毛髪化粧品 毛髪化 」 登録 4663251 情報提供7件 1世代特願 2008-270377 (2008.10.20):登録(2010.12.27) ⇒ヘンケル 親の補正時期に分割 2世代特願2010-268209 (2010.12.1)登録(2011.6.17) ⇒ホーユー 第1世代の面接直後に分割 3世代特願2011-085916 (2011.4.8) 第2世代の補正時に分割 4世代特願2011-123082 (2011.6.1) 第3世代の補正時に分割 5世代特願2011-223151 (2011.10.7) 分割出願:もとの出願の3年経過後でも、出願可能 願 願 過後 願 出願後30日以内に審査請求 特願 2004-130373 【請求項1】 アルカリ剤を含有する第1剤 と過酸化水素を含有する第2 剤からなり、第1剤と第2剤の 少なくとも一方に界面活性剤 が含有される2剤式毛髪化粧 料、及び第1剤と第2剤の混 合剤を泡状に吐出するフォー マ 容器からなる毛髪化粧品 マー容器からなる毛髪化粧品。 特願2004-130373(2004.4.26) 特許4663251(2011.1.14) 【請求項1】 【請求項1】 (もとの出願 請求項2) アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化 アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化水素を含有す 拒絶査定 水素を含有する第2剤からなり、第1 審判⇒前置 る第2剤からなり、第1剤と第2剤とを使用直前に混 剤と第2剤の少なくとも一方に界面活 合し、泡状に吐出して毛髪に塗布して用いる2剤式 性剤が含有される2剤式毛髪化粧料、 毛髪脱色剤又は2剤式染毛剤から選ばれる毛髪化 及び第1剤と第2剤の混合剤を泡状に 粧料と、第1剤と第2剤の混合液を泡状に吐出する 吐出するフォーマー容器からなる毛髪 ノンエアゾールタイプのフォーマー容器とからなる毛 情報提供 化粧品。 髪化粧品であって 髪化粧品であって、 7件 【請求項2】 ファイル閲覧 混合液中に界面活性剤を0.1~10重量%含有し、 アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化 28件 混合液の25℃における粘度が10~80mPa・sで 水素を含有する第2剤からなり、第1 あり、混合液のpHが8~11である毛髪化粧品。 あり、混合液のpHが8 11である毛髪化粧品。 剤と第2剤とを使用直前に混合して用 いる2剤式毛髪化粧料と、第1剤と第 特願2008-270377 (2008.10.20) 2剤の混合液を泡状に吐出するフォー 特許4663772(2011. 特許 66 ( 1.14) ) マ 容器とからなる毛髪化粧品であ マー容器とからなる毛髪化粧品であっ 【請求項1】 て、 アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化水素を含有す 混合液中に界面活性剤を0.1~10 る第2剤からなる毛髪化粧料であって、第1剤と第2 重量%含有し 混合液の25℃におけ 重量%含有し、混合液の25℃におけ 剤の少なくとも一方に界面活性剤が含有される2剤 る粘度が1~300mPa・sである毛髪 式毛髪脱色剤又は2剤式染毛剤から選ばれる毛髪化 化粧品。 粧料及び第1剤と第2剤の混合液を泡状に吐出する 【請求項8】 ノンエアゾールタイプのフォーマー容器からなる毛髪 分割 請求項1~7のいずれかに記載の毛髪 化粧品を用いた毛髪処理方法であって、 化粧品の第1剤と第2剤の混合液を 第1剤と第2剤を混合した後、混合液をノンエアゾー フォーマー容器から泡状に吐出し 毛 フォーマー容器から泡状に吐出し、毛 ルタイプのフ ルタイプのフォーマー容器から泡状に吐出し、毛髪に マ 容器から泡状に吐出し 毛髪に 髪に塗布した後、3~60分間放置し、 塗布した後、 洗い流す毛髪処理方法。 3~60分間放置し、洗い流す毛髪処理方法。 親特許 2004.4.26:特許願 2006 12 6:出願審査請求書 2006.12.6:出願審査請求書 情報提供 7件 2007.12.26:刊行物 ファイル閲覧 28件 2008.3.3:刊行物 2008.3.3 刊行物 2008.7.22:拒絶理由通知書 2008.9.8:面接記録 2008 10 20:補正書(粘度10 80 Pa・s)、意見書、分割(子出願) 2008.10.20:補正書(粘度10~80 Pa s) 意見書 分割(子出願) 2008.11.11:刊行物 2009.1.6 拒絶理由通知書 2009.1.6:拒絶理由通知書 2009.3.9:補正書、意見書(些少) 2009.3.24:刊行物 2009 4 8:刊行物 2009.4.8:刊行物 2009.9.7:刊行物 2010.6.16:拒絶査定 2010.6.16 拒絶査定 (審査官 小松円香から福井美穂に交代) 2010.7.26:代理人受任届 2010.8.30:面接記録 2010 9 10:審判請求 補正書 (pH) 2010.9.10:審判請求、補正書 2010.10.7:審査前置移管 2010.10.18 刊行物 2010.10.18:刊行物 2011.1.4:特許査定 親特許(粘度、pH補正)と子特許は同時に登録 特願2008-270377 (2008.10.20) 特許4663772(2011. 1.14) 対ヘンケル 特願2008-270377 (2008.10.20) 特許4663772(2011 1 特許4663772(2011. 1.14) 14) 2008.10.20 2008.11.19 2010.8.5 2010 10 25 2010.10.25 2010.11.30 2011.1. 4 :特許願 特許願 :審査請求 :補正 :刊行物等提出 孫出願(2010 12 1) → 自由度を残す 孫出願(2010.12.1) :面接 :特許査定 特許査定 (審査官 福井美穂) 2011.7.19 :無効審判( 2011-800127 ) 第2世代特許第4762362号(花王) 【請求項1】 アルカリ剤を含有する第1剤と過酸化水素を含有する第2剤からな り、第1剤と第2剤の少なくとも一方に界面活性剤が含有される2 剤式染毛剤であって、第1剤と第2剤とを使用直前に混合し、泡状 に吐出して毛髪に塗布して用いる2剤式染毛剤と、第1剤と第2剤 の混合液を泡状に吐出するノンエアゾ ルタイプのフォ マ 容器と の混合液を泡状に吐出するノンエアゾールタイプのフォーマー容器と からなる毛髪化粧品であって、 第 剤 酸化染料又 直接染料を含有 、界面活性剤と 第1剤が酸化染料又は直接染料を含有し、界面活性剤としてアル ル キルポリグリコシド及びポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有 し、混合液の25℃における粘度が1~300mPa・sであり、混合液 のpHが8~11である毛髪化粧品。 粘度範囲が もとの出願の範囲に戻 ている 粘度範囲が、もとの出願の範囲に戻っている 特願2010-268209(第4762362号) (対ホーユー) 対 2010.12.1 2010 12 20 2010.12.20 2011.3.1 2011 4 8 2011.4.8 2011.4.27 2011 5 28 2011.5.28 2011.6.7 :特許願 :出願審査請求 出願審査請求 :ビゲン発売 :補正(APG) :面接 :補正(些少) :特許査定 (審査官 福井美穂) 2011.6.17 2011 7 6 2011.7.6 2011.9.16 2012 2 10 2012.2.10 2012.2.24 :登録 :仮処分申立 :無効審判(2011-800178)(牧野 vs 竹田) :仮処分決定 :東京地裁提訴(損害賠償)、ホーユー仕様回避済み 特願2004-130373(2004.4.26) 【請求項2】 【請求項1】 第1剤と第2剤とを使用直前 第1剤 第1剤:アルカリ剤 リ剤 に混合 第2剤:過酸化水素 性剤 界面活性剤:0.1~10重量% いずれかに界面活性剤 混合液の粘度:1~300mPa・s フォーマー容器 補正 特許4663251 (2011.1.14) 【請求項1】 (もとの出願 請求項2 の補正) 2008 10 20 2008.10.20 分割 補正 次のTargets 特許4663772(2011. 1 特許4663772(2011 1.14) 14) 【請求項1】 第1剤:アルカリ剤 粘度、pH規定なし 第2剤:過酸化水素 いずれかに界面活性剤 3~60分間放置し、 対ヘンケル 対 洗 流 洗い流す毛髪処理方法 処 法 補正 界面活性剤:0.1~10 重量% 粘度:10~80mPa・s pH:8~11 分割 【請求項8】 3 60分間放置し 3~60分間放置し、 洗い流す毛髪処理方法 分割 特許4762362(2011. 6.17) 【請求項1】 第1剤:アルカリ剤 染料 第1剤:アルカリ剤、染料 第2剤:過酸化水素 界面活性剤:APG&POE 粘度:1~300mPa s 粘度:1~300mPa・s pH:8~11 2010.12.1 ・粘度:もとの出 願に広がっている ・APG 対ホーユー 切り餅事件 サトウの切り餅事件:東京地裁平成22.11.30(H21(ワ)7718) 原告:越後製菓、被告:佐藤食品工業(一審) 知財高裁平成23 9 7中間判決(H23(ネ)10002)平成24 3 22(上告中) 知財高裁平成23.9.7中間判決(H23(ネ)10002)平成24.3.22(上告中) 差止 損害賠償(14億8500万円) 控訴審(59億4000万円) 知財高裁 差止 損害賠償(8億円) 特許第4111382号(2008.4.18)「餅」越後製菓株式会社 特願2002-318601(出願:2002.10.31) 【請求項1】 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体であ る切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部 の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向と してこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部 を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方 向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直 側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部と して、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対 して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に 膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形すること 膨化によ 膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化によ る外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。 争点 ・特許発明が、上面に切込のあ 特許発明が、上面に切込のあ る切り餅を含むか否か (イ号品は上面にも切込がある) 越後 出願 2002.10.31 佐藤 公開 2004.5.27 出願 2003.7.17 発売 登録 第3630045号 2004.11.26 登録 第4111382号 2008 4 18 2008.4.18 出願2002.10 審査請求2003.8 情報提供2004.10 拒絶査定2006.1 拒絶査定2006 1 審判請求2006.2 上下面の切り込みがあるた め、技術的範囲に属さず 審決2008.3 審決 8 登録2008.4 判定請求2009.1 判定請求2009 1 判定確定2009.5 無効審判2009.7 有効審決2010.6 地裁判決2010.11 ・明確性:「上下面に切り込 み無し」で明確 無 」 明 ・実施品:実施品は上下面 に切り込み有りで別の技術 H21(ワ)7718 高裁中間判決2011 9 H23(ネ)10002 高裁中間判決2011.9 高裁判決2012.3.22 上告2012.4.2 H22(行ケ)10225 特許第3620045号(2004.11.26)「切り餅」 特願2003-275876(出願 特願2003 2 8 6(出願 2003 2003.7.17) ) 佐藤食品工業株式会社 【請求項1】 上面,下面,および側面に切り込みを入れ、前記上面と下面には 十字の切り込みを入れ 前記側面には横方向の切り込みを入れる 十字の切り込みを入れ、前記側面には横方向の切り込みを入れる とともに、前記十字の切り込みは、切り餅の長辺と略平行な切り 込みと 切り餅の短辺と略平行な切り込みからなり 前記長辺と 込みと、切り餅の短辺と略平行な切り込みからなり、前記長辺と 略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの30~40%とし、前 記短辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの20~30% としたことを特徴とする切り餅。 留意点 自己の保有する特許発明の実施でも、 他人の特許権侵害の可能性がある。 論点:技術的範囲 ~載置底面又は平坦上面に切り込みのあるものを含むか~ 越後製菓の主張 「載置底面又は平坦上面ではなく」 「載置底面又は平坦上面ではなく → 「側周表面」を特定したもの。 「本件各発明は 本件各発明は、・・・載置底面 載置底面 又は平坦上面の切り込み部又 は溝部を設けない構成及び載 置底面又は平坦上面に切り込 み部又は溝部を設けた構成の 何れも含む(載置底面又は平 坦上面の切り込み部又は溝部 はあってもなくてもよい)もので ある。」 争点 ・特許発明が、上面に切込のあ る切り餅を含むか否か 切 餅 (イ号品は上面にも切込がある) 越後製菓の真の意図? 『載置底面又は平坦上面ではなく』 【請求項1】 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体であ る切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面 部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向 としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は 溝部を設け、・・・ 「載置底面又は平坦上面ではなく」 → 「側周表面」を特定したもの。 「側周表面」を特定したもの 争点 『切餅の載置底面又は平坦上面には切り込み部を設け ずに 切餅の側周表面に切り込み部を設ける』 ずに、切餅の側周表面に切り込み部を設ける』 Vs 『載置底面又は平坦上面ではなく 切餅の側周表面に 『載置底面又は平坦上面ではなく、切餅の側周表面に 切り込み部を設ける』 越後製菓の真の意図? 『載置底面又は平坦上面ではなく』 【0015】本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に 数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したり するのではなく 周方向に形成 例えば周方向に連続して形成してほぼ環状とした するのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状とした り、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成するため、この切り込み3の設定に よって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き 餅の美感も損なわない。 【0033】 しかも本発明は この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり しかも本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、 X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、 周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周 表面に周方向に沿って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の 膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損な わず しかも確実に焼き上が た餅は自動的に従来にない非常に食べ易く また食 わず、しかも確実に焼き上がった餅は自動的に従来にない非常に食べ易く、また食 欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで 難しいとされていた焼き餅を容易に均 に焼くことができこととなる画期的な餅 難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができこととなる画期的な餅 となる。 「単に」餅の平坦表面に切り込み」 単に」餅の平坦表面に切り込み」 → これに加えて周方向に切り込みを形成することを意味している 越後製菓の真の意図? 『載置底面又は平坦上面ではなく』 【0032】 【発明の効果】 本発明は上述のように構成したから、切り込みの設定によって焼き途中での膨化 による噴 出しを制御 による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化で ると共に 焼いた後 焼 餅 美感も損なわず実用化 き、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって 美感を損なわないだけでなく 逆に自動的に従来にない非常に食べ易く また食欲 美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲 をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、ま た今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を 飛躍的 増大さ る とも期待 飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。 る極め 画期的な餅となる 『切り込みの設定によっては』 → 載置底面又は平坦上面に切り込みを設けない場合には、『焼 き上が た餅が単にこの切り込みによ て美感を損なわない とし き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわない』とし ているのであって、この記載は、本件特許発明においても載置底 面又は平坦上面に切り込みを設ける場合があることを想定した 記載である。 ○ 周方向のメリットを主張 × 餅表面の切り込みの欠点 【0007】 一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを 制御しているが、同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切 り込みを入れると この切り込みのため膨化部位が特定されると共に 切り込みが長 り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長 さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを 抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡の ような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパッ クした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。 【0008】 本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ない ものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化によ る噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化で き、・・・ 【0016】 即ち 例えば 側周表面2Aに切り込み3を周方向に沿 て形成することで この切り 即ち、例えば、側周表面2Aに切り込み3を周方向に沿って形成することで、この切り 込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にある というだけでなく、オ ブン天火による火力が弱い位置に切り込み3が位置するため というだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込み3が位置するため 忌避すべき焼き形状とならない場合が多い。 東京地裁の判断 「【0008】切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると 【0008】切 込 設定 焼 途中 膨化 噴 出 を制御 共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき」るようにすることなどを目 的とし、切餅の切り込み部等(切り込み部又は溝部)の設定部位を、従来考えられて いた餅の平坦上面(平坦頂面)ではなく 上側表面部の立直側面である側周表面に いた餅の平坦上面(平坦頂面)ではなく、上側表面部の立直側面である側周表面に 周方向に形成」する構成を採用したことにより、焼き途中での膨化による噴き出し を制御 を制御できると共に、「【0016】切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成す と共 、 【00 6】切 込 部位 焼 上 時 平坦頂面 形成 る場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力 が弱い位置にあるため、焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌 避すべき焼き形状とならない場合が多い などの作用効果を奏することに技術的意 避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することに技術的意 義があるというべきであるから 「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側 周表面に 周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」との文言は、 切り込み部又は溝部を設け と 文言は 切り込み部等を設ける切餅の部位が、「上側表面部の立直側面である側周表面」で あることを特定するのみならず 「載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的 あることを特定するのみならず、 載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的 に述べるもの、すなわち、切餅の「載置底面又は平坦上面」には切り込み部等を設け ず、「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部等を設けることを意味す るも と解する が相当 ある るものと解するのが相当である。 無効審判(無効2009-800168請求人:佐藤食品) 「請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内に 「請求項1に係る発明は 本件特許出願前に日本国内に おいて製造販売された佐藤食品工業株式会社(本件審判 請求人)製の切餅『こんがりうまカ ト (以下 『サトウの 請求人)製の切餅『こんがりうまカット』(以下、『サトウの 『こんがりうまカット』』という。)において公然実施された発 明(または公然知られた発明でもある。)(以下、『サトウの こんがりうまカット』発明』という。)を含むから、特許法第 『こんがりうまカット』発明』という。)を含むから、特許法第 29条第1項第2号あるいは第1号の規定に該当し特許を 受けることができないものであり 特許法第123条第1項 受けることができないものであり、特許法第123条第1項 第2号により無効とすべきである。」 甲第1号証 → 佐藤食品の特許の有効性? 甲第1号証:川島貴志郎、「平成21年第97号事実実験公正証書」平成21年6月30日作成 本公 人 本公証人は,20個の切り餅を順に手に取り,個包装された状態のままで外側 20個 切 餅を順 手 取 個包装 状態 外側 から切り餅に施された切り込みの有無を確認できるか否か確認したところ,切り 餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施されていることが見て取れたほか, 切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の上下方向のほぼ 中央あたりに,長辺部の全長にわたり切り込みが施されていることを見て取るこ とができた(写真12ないし14参照。) と た(写真 2 参照。) 切り餅の厚さ:約15mm 切り餅の厚さ 約15 本公証人は,3個の切り餅にa,b,cの印を付け,切り餅の上面及 び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部を確認したところ び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部を確認したところ, ずれはあるものの,いずれもその上下方向の中央部付近に長辺部 の全長にわた て切れ込みが施されていることを確認することがで の全長にわたって切れ込みが施されていることを確認することがで きた。・・・また,切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向 する短辺部から見て取れる長辺部の切れ込みの深さは 約2mm する短辺部から見て取れる長辺部の切れ込みの深さは,約2mm ないし3mm程度であった。」 また 甲第1号証の別紙には 切り餅の上面及び下面に十字状の また、甲第1号証の別紙には、切り餅の上面及び下面に十字状の 切れ込みが施され、切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の 対抗する長辺部の全長にわたり切り込みが施された切り餅が認め られる。 知財高裁の判断 「載置底面又は平坦上面ではなく」 1)特許請求の範囲の記載 「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直 側面である側周表面に」の記載部分に読点が付されていない。 ⇒「載置底面又は平坦上面ではなく の部分は 「この小片餅体の上 ⇒「載置底面又は平坦上面ではなく」の部分は、「この小片餅体の上 側表面部の立直側面である」の部分とともに、「側周表面」を修飾する ものと理解するのが自然である。 ものと理解するのが自然である 東京地裁 「仮に切り込み部等を設ける切餅の部位が「載置底面又は平坦上 面 とは異なる「側周表面 であることを特定することのみを表現す 面」とは異なる「側周表面」であることを特定することのみを表現す るのであれば、「載置底面又は平坦上面ではない・・・側周表面」など の表現をするのが適切であることに照らすならば 原告が主張する の表現をするのが適切であることに照らすならば、原告が主張する 構成要件Bの記載形式のみから、「載置底面又は平坦上面ではな く」との文言が「側周表面」を修飾する記載にすぎないと断ずること はできないというべきである。」 知財高裁の判断 2)発明の詳細な説明の記載 「発明の詳細な説明欄において、側周表面に切り込み部等を設け、 更に 載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると 上記作用 更に、載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると、上記作用 効果を生じない等の説明がされた部分がない。」 3)出願経過 拒絶理由に対して、出願人が 側周表面のみに切り込み部を有する」 拒絶理由に対して、出願人が「側周表面のみに切り込み部を有する」 と補正したが、審査官に「当初明細書に記載された事項から「のみ」で あることが自明な事項であるとも認められないと拒絶されている。 東京地裁の判断 「本件特許出願の審査の過程の中で、前記拒絶理由通知を発した 本件特許出願の審査の過程の中で、前記拒絶理由通知を発した 当時の特許庁審査官が、本件発明の構成要件Bに関して原告主張 の解釈に沿う内容の判断を示し、これを受けた出願人たる原告も、 特許庁に提出した意見書等の中で、同趣旨の意見を述べていたと いうこと以上の意味を有するものではないから、このような審査過 程での一事情をもって、本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の解 釈を左右し得るとみることは困難というべきである。 公然実施について 佐藤食品の主張 佐藤食品「こんがりうまカット」について の公証人による公正証書および、佐藤食 品工業の従業員による証言(越後製菓特 許出願前にイトーヨーカドー留め型品とし て販売)により公然実施を主張した て販売)により公然実施を主張した。 越後製菓 H14.10.21 H14 10 31 H14.10.31 佐藤食品 留め型品販売 出願 H15.7.17 出願 H15 雑誌、新聞発表 H16.6.8 早期審査 H21.6.30 公正証書 【請求項1】 上面,下面,および側面に切り込みを入れたこと を特徴とする切り餅。 高裁の判断根拠 【請求項2】 1)元イトーヨーカドー従業員による 前記上面と下面には十字の切り込みを入れ、前記 否定証言 側面には横方向の切り込みを入れたことを特徴と する請求項1記載の切り餅 する請求項1記載の切り餅。 2)包装写真にサイドカ トがない 2)包装写真にサイドカットがない 【請求項3】 3)佐藤食品の出願(越後食品の出 前記十字の切り込みは、切り餅の長辺と略平行な 願後)内容 切り込みと、切り餅の短辺と略平行な切り込みか 4)佐藤食品の早期審査理由(特許 らなり、前記長辺と略平行な切り込みの深さを切 製品の販売) 製品 販売) り餅の厚さの30~40%とし、前記短辺と略平行 り餅の厚さの30 40 とし、前記短辺と略平行 な切り込みの深さを切り餅の厚さの20~30%と 5)新聞、雑誌報道内容 したことを特徴とする請求項2記載の切り餅。 無効審判の判断 【無効理由1】 明確性要件違反 「のみ」を前提にした判断 「のみ を前提にした判断 本件特許明細書の記載からみて、本件発明の構成要件B及びGの「載置底面又は 平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に ・・・切 平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切 り込み部又は溝部を設け」るとは、「載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を 設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」 ることを意味することは明らかであるから、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小 片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周 方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設 け」の記載は明確であり、この記載を明確でないとする請求人の主張は採用できない。 【無効理由4】 公然実施 以下の点で相違するといえる。 a 本件発明では、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の 本件発明では 「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の 立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に 長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」と特定されているのに 対して、甲1発明(公正証書)では、「載置底面及び平坦上面に十字状の切れ込みが 施されている」 佐藤食品の戦略のミス 【無効理由1】 明確性要件違反 「のみ」を前提にした判断 「のみ を前提にした判断 審決、判定の判断の前提である「のみ」をベースとしたために、 高裁(審決取消訴訟 侵害訴訟控訴審)で 「載置底面又は平坦上面ではなくこの 高裁(審決取消訴訟、侵害訴訟控訴審)で、 小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」 についての明確性違反を主 張していない。明確性要件は「焼き上げ状態」部のみを主張した。 高裁の判断根拠 1)元イトーヨーカドー従業員による否定証言 2)包装写真にサイドカットがない 3)佐藤食品の出願(越後食品の出願後)内容 4)佐藤食品の早期審査理由(特許製品の販売) 5)新聞、雑誌報道内容 【無効理由4】 公然実施 1)元ヨーカドー従業員の8年前の記憶(証言は「サイドカットの有無は記憶にない」) 1)元ヨ カド 従業員の8年前の記憶(証言は サイドカットの有無は記憶にない」) 2)包装写真にサイドカットがない vs 公証人の証言(実物にサイドカット有り) 3)4)ダメモト出願の失敗、請求項3を本命とする戦略 5)サイド2本カ ト品 製品化 5)サイド2本カット品の製品化・・・2本カットの効果の訴求 2本カ ト 効果 訴求
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