現代の経済Ⅰ(第3回) (10 月 14 日) (担当 中村亨) e-mail: ntohru@eb.kobegakuin.ac.jp Web: http://www.eb.kobegakuin.ac.jp/~ntohru/ Twitter: @1959Harvard 第3章 「世界金融危機の衝撃と原因」 サブプライム発の金融危機による損失の推計 左図(Figure1.13)は金融危機時に発生した損失の比較 を示したものである。金融危機は、①米国の S&L(貯 蓄貸付組合)危機、②日本の金融危機、③アジア通貨危 機、④サブプライムローン危機等がある。IMF による と、今後2年間でサブプライムローン危機が原因で発生 する金融機関の損失の推定額は(1 兆 4 千 億 )ドル、 GDP 比率で( 10 )%である。この 21 世紀型危機 では,個別の政府や中央銀行の金融政策だけで,国境を 越える金融不安をくい止めるのは難しくなったといわ れている。 出所)Global Financial Stability Report 2009 危機のインパクトの違い 出所)Economic Report of President 2010 バーナンキ仮説の検証:世界金融危機の背景 2005 年、ベン・バーナンキは 2 つの影響力の大きなスピーチを行い、世界の巨額の貿易不均衡 全般、および、特に米国の巨額の経常赤字の原因を、世界的な貯蓄過剰に求める仮説を打ち出 した。 「世界的な貯蓄過剰」という言葉でバーナンキが指したのは、1995 年に始まる世界の貯蓄の供 給の大幅な増加である。彼は、この期間の最も重要な貯蓄の供給者の一つとして中国を挙げた。 バーナンキはさらに、この貯蓄過剰が米国への巨額の資金流入の要因であるとし、それによっ て消費ブームとそれに続く巨額の経常赤字が発生した、とした。 バーナンキのスピーチは議論を巻き起こしたが、それは米国の不均衡の原因、従ってその責任 の一端を、米国の外に求めたことが少なからぬ理由になっていた。 金融(銀行)危機の本質的原因 ①資産バブル→②株・土地などを担保にして積極的な借入れ・投資→③バブルの崩壊→④投資家(借り手) の損失及び銀行(貸し手)の資本の毀損→⑤デフレ加速→⑥債務の実質負担増・信用収縮→⑦不況・恐慌→ ⑧デフレ加速 ★ サ ブプライムローンとは サブプライムローン(subprime lending)とは、住宅ローンのうち、優良顧客(プライム層)向けでない、 過去に延滞経験があったり、所得の低かったり(例えば年収 300 万から 400 万円)、通常の住宅ローンの審 査には通らないような信用度の低い人向けのローンである。 第1段階 信用力の低い住宅購入者 ↑ 住宅ローン会社等 ↓サブプライムローン債権を売却 証券化業者(メリルリンチやシティ等) ↓↓↓↓ 世界中の投資家(影の銀行システムも含む)に RMBS や CDO を売却 第2段階 サブプライムローンの焦げ付き(返済できない人が急増) 第3段階 住宅ローンを担保にした証券の格下げ 第4段階 世界の金融市場の信用収縮 キ ー ワ ー ド:RMBS CDO RMBS=住宅ローン担保証券 CDO=債務担保証券 RMBS と CDO の組成過程 RMBS CDO 原資産 シニア(AAA) シニア サ ブ メザニン 1(AA) プ ラ イ 証券化 再証券化 メザニン 2(A) ム ロ メザニン エクイティ ン メザニン 3(BBB) + エクイティ(無格付け) 他の資産担保証券と 組み合わせて組成 サブプライム問題の本質 世界中に市場化が拡大し、競争の激化でインフレ率の低下に拍車がかかり、長期金利の低下も伴った。投資 家は金利の低下により、サブプライムローンのような、信用力の低い高利回りの証券化商品で埋め合わせよ うとした。最大の問題はリスクの高い金融資産の価格が適切に設定されなかったこと、同時に個々の金融資 産のリスクを評価できなかったことにある。 何故サブプライムローン問題が世界的な信用危機に発展したか? ① 投資ファンドは、保有証券を担保に多額の借入をしているが、担保価値が下がると、資産を売り、借入 金を返済しなければならない。当初の担保価値の減少が乗数倍の借入返済を要求される。 ② リスクの所在が不明確で、誰がどれだけの不良資産をもち、損失がどの程度ののぼるかは誰にもわから ず、不確実性が増すことになる。「質 へ の 逃 避 」行動がおこる。また住宅ローン証券を組み込んだ金融 商品の価格付けも難しくなり、それを担保に借り入れすることもできなくなった。銀行市場では資金の 貸し手がいなくなり、短期金利は急上昇する。 ★ 影 の 銀 行 システム 影の銀行システムとは SIV(投資ビークル)やヘッジファンドをさす。米国の金融機関は、影の銀行システ ムと、証券取引で利益をかせぐ。すなわち、SIV やヘッジファンドは短期の低い金利の債券(ABCP(資産担 保コマーシャルペーパー))を発行して資金を調達したり、銀行から借り入れたり、出資者の資金を元手に CP を発行してお金を集め、相対的に金利の高い長期の証券 CDO を購入する(長期投資)。このことで利益を 生んでいた。いったん購入した CDO を裏付けにまた ABCP を発行して資金を調達する・・・・。このようにして CDO は約 1.3 兆ドルまで拡大した。 証券会社(投資銀行) 他の証券会社(投資銀行) CDO 購入 CDO(長期) 代金 影の銀行システム CP(コマーシャルペーパー)発行 短期資金 市場 SIV やヘッジファンドは銀行の連結対象外のため、FRB や SEC(証券取引等監視委員会)の規制の対象外であ る。 課題: IM F は W orld Econom ic Outlook(『 世 界 経 済 見 通 し 』) を 発 表 し た ( 下 図 を 参 照 。 上 は 経 常 収 支 ( フ ロ ー )、 下 は 対 外 純 債 権 ( ス ト ッ ク ) を 表 す )。 下 の 問 い に 答 え 、 空 欄 を 適 語 で 埋 め な さ い 。 ( 1 ) 世 界 の 経 常 収 支 の 不 均 衡 が 最 大 だ っ た 年 は ( ) 年 で あ る 。 ( 2 )( 1 ) の 不 均 衡 の 原 因 は 、( ) の 赤 字 と 日 本 及 び ( ) の 黒 字 で あ る 。[( ) に は 国 名 を 入 れ よ ]。 ( 3 )( 1 ) の 不 均 衡 は 現 在 、 3 分 の 1 以 上 減 少 し た が 、 そ れ は 赤 字 国 で ( ① 供 給 ( 生 産 )、 ② 需 要 ( 消 費 ) を ) 抑 え た か ら で あ る 。 ( 4 )ス ト ッ ク の 面 で み る と 、す な わ ち 、債 権 国 と 債 務 国 と の 間 の 対 外 純 債 権 の 格 差 は ま す ま す( ① 縮 小 、 ② 拡 大 ) し て い る 。
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