海賊対処のための民間警備要員(PCASP)の 乗船に関する諸外国の対応について 株式会社 大和総研 調査提言企画室 主席研究員 長谷部正道 2012年12月1日 第4回日本海洋政策学会年次大会 最近(2012年1-9月)の海賊の動向(IMB:国際海事局統計による。) 1.発生件数: ソマリア44件(過去4年間で最低) 世界全体233件(過去4年間で最低) 2.インドネシア51件(過去最高)、ナイジェリア21件(過去4年間で最低)、アデン湾・紅海各13件 3.地域別:アフリカ131件、東南アジア70件、インド大陸15件、中南米12件 4.態様別:ハイジャック24件、乗船125件、発砲26件、未遂58件 5.船員の被害:死傷者24人(過去6年間で最低) 人質・誘拐 465人(過去5年間で最低) 6.被害を受けた船種:バルク49隻、ケミカルタンカー43隻、コンテナ33隻、タンカー26隻など 7.被害を受けた船籍:シンガポール39隻、パナマ36隻、マーシャル諸島16隻、独4隻、日0隻 8.被害船を支配していた国:シンガポール58隻、独33隻、希26隻、香港・英各11隻、日6隻 Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 1 ソマリア・アデン湾の状況 •ソマリアの海賊による事件は70件、うち、ソマリア南部海域 及びアラビア海で44件、アデン湾で13件、紅海南部で13件 発生。13隻がハイジャックされ、3人死傷、217人の船員が 人質に。 •7月からの第3四半期は、海賊件数が1件と激減。 •海軍による活発な哨戒活動、陸上の海賊の拠点の捜索、 BMP(Best Management Practice)に基づく自衛行動、民間 武装警備員の乗船が寄与しているものと考えられる。 •海賊の活動領域はアデン湾、紅海南部、イエメン沖、オマー ン沖、アラビア海、ソマリア沖、ケニア沖、タンザニア沖、セイ シェル諸島沖、マダガスカル沖、インド洋、モルジブ沖まで拡 大 Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 2 武装警備員の乗船の可否に関する各国の状況(国土交通省調べ) 1.公的武装要員の乗船を容認(4か国) 仏、伊、蘭、ベルギー 2. 民間武装要員の乗船を容認(17か国・地域) 英、希、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、西、米、韓、星、 バハマ、マーシャル諸島、香港、マン島、比、パナマ、リベリア、 キプロス 3.武装要員の乗船を認めていない国(7か国) 日、独、スウェーデン、マルタ、ブルガリア、アイルランド、リト アニア Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 3 海賊ハイリスク海域における武装警備員乗船の実態 1. 英国運輸省によるハイリスク海域の範囲 – 西はスエズ運河から東は東経78度まで、北はホルムズ海峡から南は南緯10度までの海 域 2. 民間武装要員乗船の実績 – 約25%(IMO予測)から約40%(The Economist予測)の大型船に乗船 – 民間武装要員が乗船した船はいまだハイジャックされたことがない。 – 武装要員4人が乗船した場合の警備コストは約4万5千米ドル(一部保険でカバー) – 日本船主協会によれば2012年に邦船社は武装警備員のために15-18億円支出 3. 民間警備会社の多くは英国の会社で、軍の特殊部隊経験者が創設したものが多い。 – 海事関係警備協会の統計によれば、全世界では140から160の海事系警備会社が存在 するも適正な認証を受けたものは少ない。 4. 民間武装要員の乗下船、武器の積み下ろしはスリランカ、オマーン、ジプチの港が使用されるこ とが多く、一方でイエメンなどは領海内における武器の携行を禁止している。 Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 4 IMO・MSCにおける議論 第90会期における主たる合意事項 • 船員による武器の携行は強く抑制されるべきこと。 • 民間武装警備員の乗船は、危険の高い海域を航行する際の例外的な手段であること。 • 加盟国は自国籍船における民間武装要員の乗船の可否と条件につき決定し、周知すること。 • 武器の持ち込みは当該寄港国の法制に従うこと。 • 寄港国は、武器の積み下ろし、民間武装要員の乗船、武器等の搭載の可否につき政府方針を 決定し、海運業界、警備業界、加盟国政府に通知すること。 第90会期におけるその他の検討事項 • 旗国が民間武装警備員の乗船を認めることによって、武力衝突が激化する恐れがあること。 • 旗国は民間武装要員の乗船に関する政府の方針を船長、船員、船主等に周知すること。 • 民間武装要員の乗船に係らず、船長が常に武器の使用に関し最終決定権を有すること。 • 民間武装要員の乗船はBest Management Practice (BMP)の代替措置ではないこと。 • 公海上においては旗国が管轄権を有するので民間武装要員には旗国の法律が適用されること。 • 民間武装要員が乗船しているときはMaritime Security Centre Horn of Africaに通報すること。 • 民間武装要員の主任務は最小限の武力による海賊の乗船の阻止であること。 • 武器の使用は切迫した身体への危険に対する自衛措置として必要最小限であるべきこと。 Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 5 IMOの各種ガイダンス・勧告 1.旗国に対するソマリア海賊の攻撃を防止・緩和するための暫定ガイダンス(MSC.1/Circ.1444) 旗国が国家海賊対処方針を作成するにあたって考慮すべき既存のガイダンスの列挙 自国籍船が順守すべき事項(危険海域入域前のリスク分析、関係機関への通報など) 自国船が拿捕されたときにとるべき船員及びその家族に対する人道的な措置 2.寄港・沿岸国に対する民間武装要員の使用に関する暫定勧告(MSC.1/Circ.1408/Rev.1) 民間武装要員及び要員が使用する武器の積み下ろし等に関する基準の明確化と周知義務 3.船主・船長等に対する民間武装要員の使用に関する改訂暫定ガイダンス(Circ.1405/Rev.2) リスク分析の方法、民間武装警備会社の選択基準・監督方法に関するガイダンス 4.民間武装警備員を派遣する警備会社に対しての暫定ガイダンス(MSC.1/Circ.1443) 警備会社の国際的な認証方法、具備すべき要件、具体的な警備方法等に関するガイダンス Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 6 例外的な状況における海賊対策として英国籍船に武装警備員を乗船させる際の暫定ガイド (Version 1.1 2011年11月英国運輸省(DFT)作成、 2012年6月改訂) 1. リスクアセスメント 2. 民間警備会社の選択 1. 2. 3. 民間警備会社としての、武器取扱い資格、輸出入資格等の各種要件 個々の警備要員に対する要件、武装警備要員に関する情報の船社に対する提出 船主・警備会社双方による武器使用に伴って発生する賠償責任に対する保険の購入 3. 警備要員の規模、構成、携行武器 4. 船長の権限・指揮命令権 5. 武器の保管、使用、携行 1. 2. 3. 4. 5. 武器保管庫の整備、民間所有禁止武器の保管、海賊対処計画に詳細な武器保管規定を記述 外国の領海内を無害通航する際の沿岸国法令の順守 外国の港湾において武器を積み降ろしする際の当該国法令の順守 英国領海・港湾への武器の持ち込み・積み降ろしの原則禁止 武器の輸出入に関するThe Export Control Organisationの権限 6. 関係機関への通報 7. 海賊に対する防護 8. 事件発生後の措置 9. 警護報告書 10. 海賊対処計画(付属書1) 11. 関係機関連絡先(付属書2) 12. 犯罪調査(付属書3) Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 7 The Protection of Cyprus Flag Ships from Acts of Piracy and Other Unlawful Acts (Law 77(I)2012) • 1. 2. 3. 4. 2012年5月31日に成立した欧州で初の海賊対処に関する包括的法律 船舶に対する不法行為の定義 船長・運航会社に対する安全・保安・報告義務 船長の海賊逮捕権限 民間海上警備会社への委任 • 運航会社はリスクが高い公海上において民間武装警備要員又は船員に対して海賊から 船を守るために、武器の使用を許可することが出来る。 • このために運航会社は逓信労働省民間海運局の承認を受けなくてはならない。 • 民間海上警備会社と運航会社はBIMCOの標準民間武装要員雇用協定を締結しなくては ならない。この協定の締結に当たっては、運航会社は民間海上警備会社が有効な証書・ 保険を有し、武装要員が船長や乗組員と連携できることを確認しなくてはならない。 • 民間海上警備会社は民間海事局から武装海上警備を行う承認を受けなくてはならない。 • 民間海上警備会社とその警備要員はキプロスの法令に従う義務を負い、義務違反に関す る訴訟はキプロスの裁判所が所管する。 • 民間武装警備員の武器の保持・使用については銃刀法の適用除外とする。 • 民間武装警備会社は民間海事局に対して所要の報告義務を負う。 • 船長は武器の積み降ろし、保管、使用に関し監督権限を持つ。武器が使用された場合は、 民間海事局に報告する義務を負う。 Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 8 •ご清聴ありがとうございました。 •ご質問お問い合わせは下記メールアドレスまでお願いいたし ます。 •masamichi.hasebe@dir.co.jp Copyright © 2012 Daiwa Institute of Research Ltd. All Rights Reserved. 9
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