野外調査法 第 6 回 「電子地図と GPS」

野外調査法 第 6 回 「電子地図と GPS」 宮本 真二(地理・考古学コース:地理学研究室) miyamoto@big.ous.ac.jp 1.GIS:地理情報システムとは? ・地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は,地理的位置を手がかり
に,位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し,視覚的に
表示し,高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である.
・平成 7 年 1 月の阪神・淡路大震災の反省等をきっかけに,政府において,GIS に関する
本格的な取組が始まった.その中核となる取組が,国土空間データ基盤の整備である.
・ハードウェア,ソフトウェアの低価格化が進み,簡易な GIS 導入が可能になる一方で,
地図データ等については,電子化されていない,データ仕様が異なり利用できない等の問
題があり,GIS を導入する主体が,各々整備する必要があり,社会的には二重,三重の投
資となる等の問題があった.
・このため,GIS を高度に活用できる社会の実現のためには,地図情報の電子化のみなら
ず,それを活用していく技術,制度,人材等が必要であり,これらの総体を社会的な基盤
としてとらえ,その総合的,体系的な整備を図っていく必要性が認識され始めた.
・このような背景のもと,平成 19 年5月には,地理空間情報の活用の推進に関する施策を
総合的かつ計画的に推進することを目的として,地理空間情報活用推進基本法が,国会で
制定された.
・人工衛星を利用して自分が地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム.米軍の
軍事技術の一つで,地球周回軌道に 30 基程度配置された人工衛星が発信する電波を利用し,
受信機の緯度・経度・高度などを数 cm から数十 m の誤差で割り出すことができる.
・米国防総省の管理する GPS 衛星(正式には「NAVSTAR 衛星」と呼ばれる)は高度約 2
万 km の 6 つの軌道面にそれぞれ 4 つ以上,計 24 個以上が配置され,約 12 時間周期で地
球を周回している.約 7 年半で寿命を迎えるため,毎年のように新しい衛星を打ち上げて
軌道に投入しており,概ね 30 個前後の衛星が常時運用されている.GPS 衛星は高性能の
原子時計を内蔵しており,1.2/1.5GHz 帯の電波で時刻を含むデータを地上に送信している.
・GPS 受信機は複数の GPS 衛星からの電波を受信してそれぞれとの距離を割り出すこと
により,現在位置を測定することができる.3 つの衛星が見えるところでは緯度と経度を,
4 つの衛星が見えるところではこれに加えて高度を割り出すことができる.
・衛星の発信する電波に含まれる時刻データは暗号化されたものと暗号化されていないも
のの 2 種類があり,暗号化されたデータは米軍しか利用することができない.誤差は数 cm
から数十 cm と言われており,精密誘導兵器などに利用されている.民生用に利用できる
ものは暗号化されていないデータで,故意に精度が落とされているため誤差は 10m 程度と
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なる.誤差をより小さくするため,正確な位置の分かっている地上の基準局から電波を発
信し,これを利用して位置情報の補正を行う「DGPS」(Differential GPS)という技術が実
用化されており,誤差を数 m に縮めることができる.
・過去には米国防総省が安全保障上の理由から民生用 GPS 信号の精度を 100m 程度まで落
としたことがあり,各国政府は位置情報をアメリカ政府に依存する状態に危機感を覚えて
いると言われている.EU(欧州連合)各国は共同で GPS 同様の人工衛星を利用した位置測
位システム「Galileo」(ガリレオ)を推進しており,中国などにも参加を呼びかけている.
ロシアも旧ソ連時代から「GLONASS」と呼ばれる位置測位システムを推進している.
・GPS の民生利用は航空機や船舶などの航行システムで行われてきたが,近年の半導体技
術の急激な発達に伴い機器の小型化・低価格化が進み,情報技術の進展から地図を表示す
るコンピュータシステムなども安価に提供されるようになったため,カーナビゲーション
システムや携帯電話に広く組み込まれるようになり,位置情報を利用した様々なサービス
が提供されるようになっている.
地理空間情報とは
地理空間情報とは,空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(位置情報)とそれ
に関連付けられた様々な事象に関する情報,もしくは位置情報のみからなる情報をいう.
地理空間情報には,地域における自然,災害,社会経済活動など特定のテーマについての
状況を表現する土地利用図,地質図,ハザードマップ等の主題図,都市計画図,地形図,
地名情報,台帳情報,統計情報,空中写真,衛星画像等の多様な情報がある.
地理空間情報は,その位置情報をキーにして異なるデータを重ね合わせることで,分析等
の活用がなされることから,様々な主体によって整備されるデータ間で位置情報の整合が
とれている必要がある.このためには,地理空間情報を空間上の位置に対応づけるための
基準となる基盤地図情報の整備・更新・提供が必要である.
基盤地図情報とは,地理空間情報活用推進基本法第 2 条第 3 項において,
「地理空間情報
のうち,電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる測量の基準点,
海岸線,公共施設の境界線,行政区画その他の国土交通省令で定めるものの位置情報(国
土交通省令で定める基準に適合するものに限る.)であって電磁的方式により記録されたも
の」と定義された,電子的な地理空間情報である.地理空間情報の整備に基盤地図情報が
活用されることにより,地理空間情報の相互活用が容易になる.(岡山県の事例)
2.RS:リモートセンシングとは? Remote Sensing「物を触らずに調べる」技術です.
リモートセンシングには様々な種類が有りますが,人工衛星に専用の測定器(センサ)を
載せ,地球を調べる(観測する)ことを衛星リモートセンシングといいます.
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衛星に乗せた(搭載した)センサは,地球上の海,森,都市,雲などからの反射したり,
自ら放射する電磁波を観測します.その観測結果から次の様なことが分かります.
・植物を計る 森林伐採,砂漠化,農作物(水田)の状況
・地表の温度を計る ヒートアイランド現象
・海面の温度を計る 黒潮の蛇行,エルニーニョ現象,漁場予測
・地表の高さを計る 地図の作成
・雲の状態を計る 天気予報,雨の強さ,台風の内部状況
・水の状況を計る ダムの貯水量,洪水の被害状況
3.GPS:地球測位システムとは? Geographical Positioning System:衛星からの電波を使って,位置を測定自動車の現在
地を知らせるカーナビゲーションシステムには,人工衛星を利用した「地球測位システム
(GPS)」が使われています.これは,地球の周りを周回している 24 機の衛星から送られて
くる電波を利用して位置を測定する方法です.元々は,冷戦時代に米国国防省が軍事目的
に開発した技術で,衛星から電波を発信した時間とその電波を受信した時間の差を計算す
ることによって位置が割り出せます.しかし,カーナビゲーションなどで一般に使われて
いる電波は,米国国防省が他国に利用されないようにわざと精度を落としており,最大で
100m の誤差が生じてしまいます.そのため,衛星からの電波にのみ頼るのではなく,他
の技術と組み合わせることで誤差を小さくしています.
測位の精度を 1,000 倍に
また,GPS の精度をさらに上げる技術も開発されています.1997 年 12 月に,航空宇宙
技術研究所(現 宇宙航空研究開発機構(JAXA))では「リアルタイム・キネマティック」方式
という新しく開発された技術を使って,航空機の位置を測定する実験を成功させています.
この方式は,複数の GPS 信号のずれを特殊なデータを使って補正し,位置の測定の誤差を
わずか数センチにするもので,その精度は通常の電波を使用したときのおよそ 1,000 倍に
なります.この技術が実用化されれば,高度な操縦技術が必要とされる航空機の離着陸に
おいても,自動操縦が可能になるとしています.
4.電子地図(でんしちず) Digital map:デジタル情報によって作成された地図のこと.
情報技術(IT)の成果のひとつとして,従来は主に紙媒体だった地図がパソコンなどで
扱うことのできるデジタル情報で表現できるようになった.紙媒体よりも多い情報を盛り
込むことができる.
最近,さまざまな地理情報をデータベースにまとめ,空間的に情報を取り扱うことのでき
る地理情報システム(GIS)の利用が広がっている.緯度・経度や住所などの位置情報
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を電子地図に結びつけることによって,電子地図から多くの情報を取り出すことが可能と
なった.
例えば,顧客の属性や地理的な分布などを分析し,新規店舗の出店判断に利用するマーケ
ティング・ツールとしての利用価値が高い.また,国や地方の行政機関が都市計画・災害
対策などに利用するケースも増えている.
さらに,インターネットなどの通信技術と併用すれば,電子地図の情報をいつも最新の状
態に保つことができる.店舗情報や道路情報などの更新は素早く反映され,古くなったか
らといって地図を買い換える必要はなくなる.
地球測位システム(GPS)の機能を組み入れた携帯電話で,自分のいる場所などが地図
で表示されるのも,比較的新しい技術.
今日のポイント!まとめ GIS Geographic or Geographical Information System→PC での地図作り. GPS Geographical Positioning System→緯度・経度を測位する技術. RS Remote Sensing→航空写真や人工衛星が撮影した画像とその解析. 書籍情報
フィールドワーカーのための
GPS・GIS入門
編著者
古澤拓郎・大西健夫・近藤康久 編著
Fieldnet 監修
本体価格 3,000 円(税別)
ISBN
978-4-7722-7111-0
判型
A4
頁数
120 ページ
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