小児外科・移植外科専門修練プログラム

小 児 外 科 ・ 移 植 外 科 専 門 修 練 プ ロ グ ラ ム 1 . 研 修 の 概 要 小児外科・移植外科は、外科の中でも特に専門性の高い領域ですが、その専門領域を極め
るためには、まず一般成人外科の知識と技術を身につけることが必要不可欠です。そのため、
当科入局後最初の数年間は、関連病院にて、小児外科疾患を扱うと同時に、一般消化器外科
の研修、実践を行うことを原則としています。特に、専門修練での一つの大きな目標は外科
専門医の取得にありますから、消化器外科のみではなく、必要に応じて、心臓血管外科、呼
吸器外科、乳腺・内分泌外科等の疾患の経験も積めるよう、学内外の研修先には配慮してい
ます。 専門修練修了後はそれぞれの目指す専門領域への道を進むこととなりますが、さらにハイ
レベルな外科医、小児外科医、移植外科医を目指すには、臨床のトレーニングだけでは限界
があり、リサーチの経験も非常に重要であると考えています。一定期間の外科修練を修了し
た者には、大学院へ進学し、博士号(学位)を取得することを薦めています。昨今、各学会
の専門医、指導医への志向が高まっていますが、臨床経験だけを積み上げて、手術手技の修
練さえしていれば充分という訳ではないと考えています。 学位取得と前後して、サブスペシャリティ専門医の取得を目指します。小児病院などでの
小児外科に特化したトレーニング、あるいは、大学での移植外科医としてのスペシャルトレ
ーニングと、それぞれの希望に応じた道を選択することが出来ます。 2 . 研 修 の 目 標 外科専門医取得に必要な外科症例数を経験すること。 一般消化器外科医として必須の技術と知識を身につけ、小児外科、移植外科といった専門
領域に進む素地を創ること。 3 . 研 修 の 方 略 < 一 般 的 な 研 修 コ ー ス に つ い て > 卒後 3 年目:大学病院にて1年間修練(場合によっては関連病院へ赴任することもあり) 卒後 4
6 年目:関連病院に赴任し、主として小児外科、成人外科の臨床医療に従事する 卒後 7 年目:外科専門医取得 大学院に進学し、リサーチ開始 もしくは、小児外科・移植外科のスペシャリストを目指して、小児病 院、移植施設などで、専門領域に特化した医療に従事する 卒後 11
13 年目:学位取得 小児外科専門医、移植認定医取得 希望により海外留学(大学院在学中でもリサーチ終了すれば可能) 標準的研修コース
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大学病院にて修練 関連病院での小児外科、成人外科の修練 $年
外科専門医取得 $
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小児病院、移植施設などでの専門特化修練 %%
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学位取得 小児外科専門医&
移植認定医取得 < 研 修 内 容 に つ い て > (1)大学病院での修練 大学病院においては、小児外科と移植外科の2つの分野の診療を同じスタッフが同時に行
っています。 【小児外科】大学病院では主として、胆道閉鎖症、胆道拡張症といった肝胆道系疾患と神
経芽細胞腫、肝芽腫、腎芽腫といった小児固形悪性腫瘍を中心に扱うこととなります。また、
NICU の拡充に伴い、先天性食道閉鎖症、先天性十二指腸閉鎖症、先天性腸閉鎖症、先天性横
隔膜ヘルニア、直腸肛門奇形といった新生児疾患も経験します。小児は単なる大人のミニチ
ュアではなく、小児外科疾患に対しては、特殊な病態に配慮した治療が必要であり、手術に
おいても時に高度な技術が要求されます。年齢(日齢)、体重に合わせた、きめ細かな術前術
後管理や、特殊な手術手技を学ぶことができます。なによりも、限りない未来のある小さな
子供達が、病気から回復し元気になり、あっという間に成長していく姿を見る喜びは、何事
にも代え難いものがあります。 小児外科学会認定施設であり、小児外科指導医ならびに小児外科専門医が指導にあたりま
す。 【移植外科】生体肝移植・脳死肝移植の術前術後管理と高度な手術手技を実際に学ぶこと
ができます。肝移植の対象疾患としては、小児では、胆道閉鎖症、劇症肝不全、ウィルソン
病などの代謝性肝疾患、肝芽腫などがあり、成人ではウィルス性肝炎、PBC などの胆汁うっ
滞性疾患、腫瘍性疾患、FAP などの代謝性肝疾患、劇症肝不全など様々な疾患がありますが、
通常の外科医ではまず目にすることもないような特殊な疾患も取り扱います。 臓器移植の手術手技は消化器外科、肝臓外科、血管外科、マイクロサージャリーなどの要
素を含み、まさに外科手術の集大成のようなものです。術後管理においては、臓器移植とい
う特殊な状況において、拒絶反応と感染症という、治療の方向性の相反する病態の管理を行
うことになります。難しい医療だけに、知識と経験が必要とされ、チームワークも不可欠で
あり、医師としてのやりがいもおのずと沸いてくるものです。また、まだまだ未知のことが
多い分野であり、研究面も含めて今後の発展性が大いに期待される分野です。 当科では、年間約 35 例(月 3 例程度)の生体肝移植を施行しており、移植症例数では全国
の常に上位にランクされています。また、数少ない小児肝移植の専門施設としても高い評価
を受けています。脳死肝移植ならびに脳死小腸移植実施施設の認定も受けています。 【研究発表】小児外科関係、移植外科関係の学会、研究会にできるだけ出席し、発表して
もらう機会を設けています。抄録、スライド、ポスターの作成、発表内容については、スタ
ッフが丁寧に指導します。学会発表の演題すべてについて、教室員全員の前で予演を行い、
綿密な検討をしています。また、スタッフの指導のもとに、症例報告の論文作成も積極的に
行ってもらいます。 (2)関連病院での修練 それぞれ赴任先での差異はありますが、多くの場合、小児外科と一般成人外科の両方の修
練を行います。施設により、新生児疾患を多く取り扱っている施設、気管、呼吸器疾患など
胸部疾患を多く扱っている施設、小児救急を多く取り扱っている施設など、関連病院ごとに
特徴を有しています。ただし、いずれに施設においても、大学病院ではあまり経験すること
のない、小児そけいヘルニアや急性虫垂炎など一般小児外科疾患を数多く経験できるでしょ
うし、腸重積症、肥厚性幽門狭窄症など、小児外科の日常的疾患も多数経験することになり
ます。この関連病院での経験を基に将来の小児外科専門医取得を目指します。 加えて、基本的な成人の消化器外科疾患の診断、治療についても学びます。手術としては、
腹腔鏡下胆嚢摘出術、乳房切除術、胃切除術、腸切除術、肝切除術、膵頭十二指腸切除術、
食道切除術などについて経験をつんでもらいます。施設によっては、最終的にこれらすべて
の手術を術者として経験できるところもあります。この間の経験により外科専門医取得が可
能となります。また、このような技術の習得は、小児外科・移植外科といった専門領域に進
む上でも、非常に大切なことです。 (3)大学院での研究 大学院では、動物実験や臨床研究といった、いわゆるリサーチに携わります。実験や研究
の計画の作成と実践、結果の分析と評価といった研究のイロハを教官や先輩大学院生の指導
のもとに学びます。試行錯誤の実験をくりかえしながら、思い通りに行かなかったときの落
胆と新たな事実を発見したときの喜びを経験することは大切です。週 1 回、教授を交えた大
学院生ミーティングを行い、月に 1 回は progress report を医局員に対して披露する機会を
設け、研究の方向性をスタッフ全員で討議することにしています。そうした経験を積む中で、
基礎的なリサーチがあって臨床が発展し、臨床のニーズがあってリサーチがまた発展してい
くという相互関係がおのずと見えてくるものです。 学会発表にむけた、抄録、スライド、ポスターの作成および、発表内容の構成について学
びます。発表では、どのようなストーリーで、どの部分を強調して、いかに魅力的な内容に
仕上げるのかという点を、皆で討議しながら検討します。さらに、英文論文の読み方、評価
を学び、自らの研究論文を作成します。こういったプレゼンテーション力の向上、論理的思
考法の習得、客観的に自己評価する習慣がいずれ臨床に戻った時に大いに役立ちます。3 年
程度で博士論文が完成すれば、早期の臨床への復帰や、海外留学も可能となります。 リサーチの基礎的手法の習得、学会発表のノウハウの習得、さらに、論文の読み方、書き
方の習得などは一見臨床の外科医療の実践とは関係がないように見えますが、長い目でみる
と非常に大切なことです。また、機会があれば、海外留学をして、語学も含めたインターナ
ショナルなマナーを身につけ、日本を外から見直す事も重要です。一流の外科医になるため
には、こういった幅広い経験と大きな視野を持つことが大切で、将来どのような専門性をも
った臨床外科医となるにしても、必ず大きな糧となります。 4 . 研 修 の 評 価 適宜、研修の習得状況を評価し、個人個人にあった研修環境を提供します。 5 . 研 修 実 施 責 任 者 猪股裕紀洋(教授) 6 . 研 修 指 導 責 任 者 阿曽沼克弘(特任教授)、武市卒之(助教)、山本栄和(助教)、李光鐘(助教) 林田信太郎(特任助教)、本田正樹(特任助教) 7 . 関 連 施 設 ( 日本外科学会専 門 医 制 度 修 練 施 設 ( 1 ) 、 小児外科認定施設(2)) 熊本市民病院 ( 1 ) (2)、熊本赤十字病院 ( 1 ) (2)、熊本地域医療センター ( 1 ) 、倉敷中央病院 ( 1 ) 、
八代郡医師会立病院 ( 1 ) 、宮崎県立延岡病院 ( 1 ) 、東京都立小児総合医療センター ( 1 ) (2) 8 . そ の 他 最近の入局者は、平成 22 年:2 名、平成 23 年:2 名、平成 24 年:0 名、平成 25 年:1 名
です。 大きな教室ではありませんので、一人一人の技術習得状況に応じた研修環境を提供できま
す。臓器移植という人手のかかる医療を行うため、厳しさの中にも全体のチームワークを重
視した家族的な雰囲気があります。 先端医療を通じて新しい情報を世界に発信していくとともに、忙しくても働きがいのある
職場環境造りを目指しています。 9 . 連 絡 先 小児外科・移植外科 医局長 李 光鐘(い・くわんじょん) TEL:096-373-5616 Email:kwangjong@fc.kuh.kumamoto-u.ac.jp