複製禁止 2 0 1 1 OUTPUT 平成24年7月 一般財団法人 関西情報センター は じ め に 当財団は、関西地域における情報化および産業活性化の推進機関として、事業を通して 広く社会に貢献するという役割を果たすために、企業や自治体における情報化の推進、 IT関連の新技術や制度の普及・啓発、地域活性化や産業競争力の強化に向けた取り組み を展開してまいりました。平成24年 4 月には一般財団法人関西情報センターに移行いた しましたが、今後につきましても関西地域の情報化、産業の活性化を使命として、職員 一同尽力してまいりますので、引き続きご理解とご支援をいただきますようお願いいた します。 さて、平成23年度は、事業計画書に基づいて、(1)調査・普及事業、(2)ビジネス・ 政策支援事業、(3)グリーン電力基金事業、(4)情報化推進事業、(5)社会システム支 援事業、(6)情報化基盤整備事業を実施いたしました。 その中でも継続的に取り組んでいる調査研究事業として、関西地域の情報化の実態を 明らかにする「e-Kansaiレポート」において関西地域のクラウドコンピューティングの利 用実態を明らかにすることができ、大変興味深い調査結果を得ることができました。 また、普及・啓発事業においては、ITシンポジウム「インフォテック2011」にて東日 本大震災以降、喫緊の課題として特に注目されているスマートコミュニティをテーマに して多くの方々にご参加いただきました。さらに、「IT戦略の再構築とビジネス・イノ ベーションに関するセミナー」、関西地域の中堅・中小企業におけるCIOの育成を支援す る「関西CIOカンファレンス」におきましては、これまでの取り組みに加え、CIOネット ワークサロンを発足するなど有意義な活動ができました。 ビジネス・政策支援事業では、国の政策を支援する立場から「次世代高信頼・省エネ 型IT基盤技術開発事業」における調査研究や「情報家電組み込み産業振興ネットワーク 活性化事業」、「関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事業」を実施しました。 一方、賛助会員を始めとする企業との連携においては、「情報家電ビジネスパートナ ーズ(DCP)」及び「関西情報通信融合イノベーション創出フォーラム(KICT)」など のビジネスマッチング、技術革新をお手伝いする事業を実施し、多くの企業にご参加い ただきました。中でもデジタルヘルス分野では定例会等における検討を踏まえて次年度 以降の事業推進モデルを検討することができました。 本号「KIIS OUTPUT 2011」では、平成23年度に当財団が実施したこれらの事業のう ち、その成果が今後の関西地域の発展につながることを期待するプロジェクトについ て、その概要をご報告いたします。ご高覧いただき、忌憚ないご意見を頂戴できれば幸 甚に存じます。 平成24年 7 月 一般財団法人 関西情報センター 専務理事 田 中 行 男 目 次 はじめに 1.e-Kansaiレポート2012 …………………………………………………………………… 1 2.平成23年度 関西CIOカンファレンス ………………………………………………… 12 3.関西情報通信融合イノベーション創出フォーラム(KICT)平成23年度事業報告…… 15 4.情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)平成23年度事業報告 …………………… 19 5.平成23年度 情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化事業 及び 関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事業 …………………………………… 24 6.平成23年度次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業 (中小企業利活用基盤整備事業) ……………………………………………………… 31 7.セキュアサポート事業 −安心!簡単!パスワード共有サービスのご紹介− 8.健康保険組合業務をサポートする「総合健康マネジメントシステム」 9.プライバシーマーク制度の概要と現状 …… 36 …………… 40 ………………………………………………… 45 10.関西グリーン電力基金 活動報告 ……………………………………………………… 50 e-Kansai レポート 2012 布施 匡章(事業推進グループ 研究員(経済学博士)) e-Kansai レポートは、関西地域における情報化の動向を多角的に捉え分析することで、 関西の情報化の問題点 ・課題を明らかにし、その解決策を提案する調査研究事業である。 平成23年度は、企業と自治体のクラウドコンピューティングの導入とIT人材育成等につ いて調査を行い、中堅 ・中小企業のためのクラウド提案に関する仮説等を提案した。これ らの仮説は平成24年度に検証予定である。本稿では企業編の概要を述べる。 1.企業のクラウド導入とIT投資に関する調 業種 査概要 (1)調査方針 製造業 404(45.3%) 金融業 39( 4.4%) 流通業 209(23.4%) サービス業 240(26.9%) クラウドコンピューティングとは、ネットワークの 購入・管理運営費用や蓄積されるデータの管理の手間 2.主なアンケート調査結果 を軽減するサービスである。中堅中小企業へのクラウ (1)クラウドコンピューティング ド導入が進まない中、何が課題となっているのかを把 ①クラウドの利用 握するために調査を実施した。また、IT人材の確 クラウドコンピューティングの利用状態として 保・育成が課題と言われる中で、IT部門統括者の役 は、全体で「導入済である」との回答が17.1%、 「導 割 ・職歴、IT人材の育成方針等についても調査を 入予定である」が3.0%という結果であり、およそ 行った。 2 割の企業で活用が進んでいる。しかし「今後、周 囲の動向を見てから判断する」との回答が51.1%あ (2)調査方法 り、全体としてはあまり導入が進んでいるとは言え 関西地域に本社を置く資本金1億円以上、従業員50 ない現状であることが分かった(図 1 ) 。 人以上の企業に対して、郵送によりアンケートを配布 また、企業規模別では大企業の方が中堅・中小企 し、回収した。 業より導入が進んでいた。中堅・中小企業のおよそ (回収期間:2011年 9 月26日〜10月31日) 12%が「不要である」と回答している(図 2 ) 。 アンケート回答企業より、24社に対してヒアリング 調査を実施し、クラウド導入やIT人材育成に関する 5.1% 10.9% 具体的な課題等を把握した。 3.0% 導入済である (3)アンケート回収実績 12.8% ・配布 6,000 ・回収 892 (回収率 14.9%) 企業規模 17.1% 導入予定である 導入を検討中である 今後、 周囲の動向を見てから判断する 大企業 164(18.2%) 中堅企業 332(37.2%) 中小企業 360(40.3%) 51.1% 不要 である 知らない (分 からない) 図1 クラウドコンピューティングの利用状況(N=890) 1 導入済である 導入を検討中である 不要である 0% 大企業 中堅企業 中小企業 10% 20% 30% 16.6% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 50.6% 3.0% 12.7% クラウド導入に際しての課題や不安では、最も 多いのは「データ管理に対するセキュリティの不 11.7% 5.4% 安」 (53.5%) 、次いで「問題発生時の事業者の対応 12.0% 5.0% に対する不安」 (39.4%) 、「価格 ・運用コストが高 55.9% 13.4% 2.2% 11.5% 100% 7.3% 4.9% 40.9% 16.5% 4.9% 25.6% ④クラウド導入に際しての課題や不安 導入予定である 今後、 周囲の動向を見てから判断する 知らない (分からない) 図2 クラウドコンピューティングの利用状況(企業規模別) い」 (38.5%) 、「システムの継続性に対する不安」 (35.5%)と、管理 ・運用に関する回答が多かった ②クラウド利用の業務領域 (図 5 ) 。 クラウドを利用している(または予定)と答えた (2)IT部門統括 企業の業務領域は、「グループウェア ・文書管理」 ①IT部門統括の役職 (52.1% ) が最も多く、次いで「販売(顧客管理 ・ 企業のIT部門を統括している方の役職につい 営業支援等) 」 (36.7%) 、 「財務・会計」 (25.4%)で ては、役員(40.6%)が最も多く、次いで部長級 あった(図 3 ) 。 (30.8%)であった(図6) 。企業規模別では、企業 0% 10% 財務・会計 人事・給与 開発・設計 調達 (SCM等) 生産・サービス提供 物流 販売 (顧客管理・営業支援等) カスタマーサポート グループウェア・文書管理 セキュリティ その他 20% 7.5% 8.8% 12.5% 10.4% 30% 40% 50% 60% 25.4% 20.4% 規模が小さくなるにつれ、社長または課長によって 統括される割合が高くなるという傾向が見られた (図 7 ) 。 36.7% 7.1% 6.2% 6.4% 52.1% 14.2% 17.1% 16.0% 図3 クラウド利用の業務領域(N=240) 社長 (代表取締役) 役員 ③クラウド導入のポイントや期待する点 40.6% クラウド導入のポイントや期待する点としては、 部長級 課長級 「管理がしやすい、利便性が高い」 (68.8% )、「経 30.8% その他 費の削減(イニシャルコスト・ランニングコスト) 」 (65.7%)であった(図 4 ) 。 0% 図6 IT部門を統括している役職(N=884) 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 65.7% 経費の削減 (イニシャルコスト・ランニングコスト) 68.8% 管理がしやすい、利便性が高い 5.2% 新規事業の創出 他社とのネットワークを作る 8.1% その他 6.2% 大企業 1.2% 中堅企業 5.2% 図4 クラウド導入のポイントや期待する点(N=724) 0% 10% 20% 30% 40% 40% 部長級 50% 課長級 60% 58.3% その他 70% 80% 90% 100% 9.2% 1.8% 29.4% 50% 60% 中小企業 10.1% 40.9% 31.8% 31.5% 31.3% 15.2% 19.4% 7.3% 7.3% 図7 IT部門を統括している役職(企業規模別) 28.3% 効果が分からない (見えにくい) ②IT部門統括者の役割や業務内容への関与 23.3% 39.4% 問題発生時の事業者の対応に対する不安 35.5% システムの継続性に対する不安 53.5% データ管理に対するセキュリティの不安 3.2% 33.6% カスタマイズの自由度が低い 6.8% 3.6% 図5 クラウド導入に際しての課題や不安(N=785) 2 30% 27.5% 必要なアプリケーションや機能が提供されていない その他 社長 (代表取締役) 役員 20% 38.5% 価格、運用コストが高い 人材不足 (クラウドに関する知識がない等) 他社がまだ導入していない 10% 28.0% 情報セキュリティの向上 他社との差別化ができなくなる 0% IT部門統括者の役割や業務内容への関与につ いては、「経営戦略の策定」 、「ITと経営目標を調 整」が自身で企画・調整するとの回答割合が高く、 「ITオペレーションとシステム・パフォーマンス の改善」 、 「ベンダとの交渉」等は部下やベンダに任 ②IT人材に関する課題 せるという回答割合が高い結果であった(図 8 ) 。 IT人材に関する課題では、「質の高い人材の また、IT部門統括者をサポートするメンバーに求 確保 ・調達」 (46.8%)、「育成の仕組みの整備」 める能力は「問題点を的確に感知しIT等を活用し (46.0%) 、「中堅 ・高度人材の育成」 (43.7%)を て業務改革を推進できる能力」 (71.6%)が最も多 課題だと考えている企業が多いとの結果であった かった(図 9 ) 。 (図11) 。 1 部下やベンダーに任せる 2 ← 0% ITと経営目標を調整 2.3% ITオペレーションとシステム・パフォーマンスの改善 21.2% 2.5% 3.2% ビジネス・プロセスの刷新 3.3% ITコストの抑制 経営戦略の策定 事業継続管理 4.7% セキュリティ管理 ベンダーとの交渉 23.8% 14.2% 23.0% 15.3% 事業戦略に沿った技術開発力の向上 11.7% 市場動向と顧客ニーズの調査 11.0% 29.0% 22.1% 9.8% 23.3% 44.7% 22.8% その他 14.7% 24.0% 26.3% 19.1% 10% 20% 30% 40% (N=853) 50% 60% 70% 71.6% 問題点を的確に感知しIT等を活用して業務改革を推進できる能力 48.5% 関係部門やベンダーとのコミュニケーションや調整を図る能力 37.9% 課題解決のための要件を定義し、 実現の全体構造を設計できる能力 10.3% 競争力強化に必要なIT人材の戦略的整備と組織力を向上させる能力 IT投資マネジメントを適切に行い、 投資効果を最大化していく能力 21.7% 7.5% 5.8% 1.4% 3.主なヒアリング調査結果 ヒアリングを行ったのは、大企業6社、中堅 ・中小 企業18社で、基本的にクラウドを導入し成功している と課題、IT統括者の具体的な職掌等である。以下、 18.6% 与えられた要員、 資源でプロジェクトのQCDを達成できる能力 36.9% 17.4% 企業である。質問項目としては、クラウド導入の経緯 47.8% 業務の現状を可視化し、 業務のあるべき姿をデザインできる能力 その他 80% 35.1% 経営戦略に基づいたIT戦略を立案できる能力 50% 5.5% 図8 IT部門統括者の役割や業務内容への関与(N=774) 0% 45% 6.5% 14.7% Q8-2:IT部門統括者サポートメンバーに求める能力 40% 図11 IT人材に関する課題(N=861) 13.1% 17.9% 45.9% 35% 46.8% 人材流出 (離職・異動) の抑止 9.6% 31.2% 30% 35.1% 人材に関するコスト削減 31.2% 25.3% 36.8% 25% 43.7% 育成・研修のための時間の確保 14.8% 38.2% 46.1% 20% 46.0% 人材の量的確保 10.6% 29.9% 15% 経験の浅い人材のレベルアップ 8.9% 15.5% 30.9% 34.7% 10% 人材のモチベーションの向上 20.9% 23.8% 44.4% 5% 育成の仕組みの整備 質の高い人材の確保・調達 8.5% 37.6% 12.6% 100% 中堅・高度人材の育成 16.0% 38.4% 14.5% 12.6% 90% 12.8% 26.3% 36.4% 10.8% 6.4% 80% 28.7% 35.6% 1.8% 5.0% 70% 31.0% 30.5% 6.0% 60% 37.9% 19.3% 8.1% 0% 5 自身で企画・調整する 50% 28.1% 7.6% 競合他社との差別化 → 40% 40.5% 11.6% 業務革新の推進 4 30% 24.9% 4.8% 11.0% リーダーとして変革を推進 20% 6.2% ユーザ部門と経営部門のパートナーシップを育成 新しいシステムとアーキテクチャの導入 3 関与 10% 主なヒアリング調査結果を記す。 17.5% 0.6% 図9 サポートメンバーに求める能力(N=853) (1)クラウド導入の主な目的は「省力化」 「グローバ (3)IT人材育成 ル対応」 「BCP 対策」 ①IT人材育成の制度等 ①システムやサーバなどの管理の省力化 IT人材育成についての制度や取り組みとして クラウド導入の目的で一番多く聞かれたのが、 は、「社外のスキルアップ研修への参加を促進して システムやサーバの管理にかかる人手を省力化す いる」 (58.3%)が最も多く、「IT部門と業務部門 ることであった。クラウドを導入している21社の との人事ローテーションを実施している」との回答 うち、 7 社が省力化をメインの目的、もしくは、 は15.8%にとどまった(図10) 。 もっとも大きな効果に上げている(ヒアリングに 対して、複数回答の企業もある。以下同様) 。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 70% 22.5% 資格に対する表彰制度がある IT部門と業務部門との人事ローテーションを 実施している とくにIT部門を少人数に絞り込んでいる企業に 15.8% とって、クラウド導入の大きな動機になっている。 27.7% 社内でスキルアップ研修を実施している 58.3% 社外のスキルアップ研修への参加を促進している 従業員の自主的なIT関連学習活動を 金銭的/時間的に支援している これはクラウドを導入していない企業も含めた 全企業のアンケート結果とも同じ傾向である。 10.8% キャリアアップの制度がある IT関連技能・能力のテストを実施している 60% 36.1% 2.4% 図10 IT人材育成の制度等(N=631) また、省力化に近いと思われるが、協力会社や 顧客など外部からアクセスされるシステムは、ク ラウド化した方が運営に負荷がかからないとの理 由で、導入している企業もあった。 3 ②グローバル化への対応 ⑤予想していたほど主要目的ではなかった経費の削減 事前にはそれほど主要な目的であるとは想定して アンケート結果では「クラウド導入のポイントや いなかったが、グローバル化に対応するためにクラ 期待する点」の二番目に「経費の削減」があがって ウドを導入している企業が意外に多かった。 4 社の いる。しかも、トップの「管理しやすい、利便性が 企業がこれを主要な目的にあげている。 高い」とは僅差である。アンケート結果で見る限り、 海外拠点が個別にシステムを開発・運用するのな この 2 つが「期待される点」の 2 本柱だと言える。 らともかく、日本国内の本社IT部門が複数の海外 しかし、導入済みの企業にヒアリングした結果で 拠点を統合するシステムを開発・運用するのは多大 は、「経費の削減」を主要目的に置いた企業は思っ な負担が生じる。仮に軌道に乗ったとしても、グ たほど多くなかった。これまで見た「省力化」 「グ ローバルに展開するシステムをメンテナンスするに ローバル対応」 「BCP 対策」などを主要目的に置い は、24時間対応が求められる。それもよりも、ク た企業では、経費がかかりすぎるのは論外ではある ラウドを利用する方が格段に円滑な運用ができる。 が、経費の削減自体はあまり強く意識されていな い。つまり、「クラウドにすれば安くなるのでは」 ③セキュリティや BCP の観点からのリスク回避 との期待は一般的なイメージとしては大きいが、実 アンケート結果では「クラウド導入に際しての課 際に導入される場合、「経費削減の手段」として検 題や不安」のトップは「データ管理に対するセキュ 討されるケースが突出しているわけではないことが リティの不安」であるが、ヒアリング調査では逆に、 わかった。 セキュリティ対策や BCP 対策上、積極的にクラウ ドを導入している企業が3社あった。自社内で管理 するよりも専門企業に任せた方が確実だとの判断で (2)クラウド普及の鍵を握る「価格の低下」 「事業者 対応」 「カスタマイズ対応」 ある。 ①企業規模別のラインナップの充実による価格の低下 バックアップ用にクラウドを利用するケースや、 思ったほど「経費の削減」が主要目的にあげられ クラウドで運用しながら、バックアップを自社に置 なかったとはいえ、クラウド導入に際して価格は重 くという企業もあった。 要な検討事項であり、検討の結果、割高感を感じて もちろん、ヒアリングした会社でも大半はセキュ いる企業は少なくなかった。また、かなり具体的に リティに課題があるとの回答だったが、導入メリッ 導入を検討したが、価格が高くて断念したという企 トと天秤にかけて検討した結果、導入を決めたとい 業が2社あった(この 2 社は断念したもの以外では う。 クラウドを導入) 。 その企業の規模で利用すると割高になったり、 4 ④迅速な導入とテスト的な導入 オーバースペックであったり、企業規模に適した 開発に時間がかからず、気軽に導入できる点をあ ラインナップが揃っていなかったので断念したとい げた企業もある。 う。ただし、このような価格の問題は、今後、クラ 具体的には、導入を急いでいるので、自社開発す ウドが普及していけば、クリアする問題ではないだ ると間に合わない、テスト的に一部門で導入する、 ろうか。 などである。 なお、初期投資がかかる自社開発と、初期投資は 基幹システムのように容易に止められないシステ かからないがランニングコストが高くなるクラウド ムでは無理だが、新たにSFAやCRMなどの構築 では、システムの利用期間によって、どちらが価格 を計画しているケースでは、クラウドはテスト的に 的に有利かが変わってくる。一つの目安は、3年な 導入できるサービスである。 らクラウド、5年以上になると自社開発か。また、 そういう意味では、クラウドは一つの選択肢であ るからだと思われる。実際、基幹をクラウド化して り、特別にクラウドを意識していない、という意見 いる 5 社は IaaS 型もしくは PaaS 型をクラウド化 がクラウドを導入した企業には多かった。 の大前提としている。 今後、IaaS 型が普及すると思われるが、それに ②更新時におけるベンダからの積極提案 よってカスタマイズの自由度は、今ほど問題視され 今回のヒアリングで、システムの更新時にベンダ なくなるのではないだろうか。 からの提案があり、そのタイミングで既存のシステ ムをクラウド化した企業が 2 社あった。クラウドを ④セキュリティの不安が最後の障壁? 選択した大きな理由は、ベンダからの提示価格がク ここまでクラウドは「管理の省力化」や「グロー ラウドの方が安かったからである。また、ベンダか バル化への対応」などに有効なサービスであると評 らの提案ではなかったが、既存のシステムをクラウ 価されていることを見てきた。また、障害となって ド化した企業が 4 社あった。いずれも、もともと いる「価格の問題」 「事業者の問題」 「カスタマイズ 使っていたシステムなので、移行は非常にスムーズ の問題」も順次、解決するのではないかと述べてき にいったという。 たが、「セキュリティの問題」については、具体的 アンケート結果では「クラウド導入に際しての課 な解消方法は見えてこない。セキュリュティの安全 題や不安」について、「データ管理に対するセキュ 性を客観的に保証する方法がないからである。 「セ リティの不安」 「事業者に対応に対する不安」 「シス キュリティの問題」が最後まで残る障害になるかも テムの継続性に対する不安」が上位を占めている しれない。 が、従来から取引のあるベンダに既存システムのク ただし、一方で、クラウドの方がむしろ安全性 ラウド化を委託する方法が、この 3 つの不安を解消 は高いとする判断もあり(アンケートでもクラウ するもっとも望ましい方法ではないかと思われる。 ド導入によるセキュリティ向上を期待する回答が 今後、このタイプのクラウド化が増えるものと思わ 28.5%)、今後、クラウドの導入が進むことで安全 れる。 性が既成事実化すれば、問題は解消することも予測 できる。どこかの時点で、そのタイミングを迎え、 ③ カスタマイズの自由度が高い IaaS 型の普及 クラウドが一気に普及するのではないだろうか。 今回、ヒアリングして意外だったことのひとつ なお、クラウド導入に際して、改めてセキュリ に、基幹システムをクラウド化した(もしくは構築 ティ対策を徹底した企業が 2 社あった。しかし、い 中)の企業が 5 社もあったことだ(うち 1 社はプ ずれもクラウド用のセキュリティを新たに構築した ライベートクラウド) 。アンケート結果でクラウド わけではなく、従来からの課題を再実行したレベル を導入(もしくは導入中)の企業は全体の 2 割程度 である。そういう意味では、クラウドの導入は、セ だったが、その一方で、ヒアリングの対象となった キュリティ対策を見直すいい機会となるだろう。 クラウド導入企業21社のうち、 5 社が事業の根幹 となる基幹システムをクラウド化していた。 もっとも、その 5 社以外は大半が基幹システムの (3)企業によって異なるIT部門統括者の役割と必要 な能力 クラウド化には、今のところ、消極的であった。そ 誰をIT部門統括者とするのか、また、IT部門に の理由は、セキュリティに不安が残ることと、カス 専門スタッフを抱えているかどうかによって、IT部 タマイズの自由度が低いこと。セキュリティについ 門統括者の役割や求められる能力は異なった。 ては次項に譲るが、カスタマイズの自由度の低さを IT部門統括者を含めたIT部門の役割を「IT 理由にあげているのは、SaaS 型を念頭に置いてい 戦略に関する経営的判断」 「IT戦略の企画 ・立案」 5 「IT業務のマネジメント」 「システム開発等の実務」 イプ A と同様であるが、IT部門統括者とCIO相 に分けて、それに沿って、ヒアリングした企業を類型 当の社長や取締役とのコミュニケーションが円滑に行 化すると、以下のようになる。 われているかどうかが、その企業がITをうまく活用 できるかどうかのカギを握ることが多い。 【タイプ A】CIOとIT専門集団 IT部門統括者であるCIOを筆頭に、ITの専門 【タイプ C】IT専門家と少数要員 集団を社内(もしくは、企業グループ内。以下、同様) ITの専門家であるIT部門長が実質的にIT部門 に擁するケースである。タイプ A の体制を取る企業 統括者を任されており、最終的な決裁が社長や役員会 は、企業規模が大きく、ITを自社のコアコンピタン に委ねられるという点でタイプ B と似ているが、大 スと位置づけて独自のIT戦略を展開する。企業規模 きく異なるのは、タイプ C は社内に開発部隊を持た が大きくないと、社内にITの専門集団を擁すること ず、すべてアウトソーシングしている点である。もと はできないので、タイプ A を選択できる企業は限ら もと社内に開発要員を擁していた企業が、固定的な開 れている。 発要員の人件費をなくし、企画業務のみを担当する少 社内に専門集団を擁するので、ITに関する情報収 数精鋭をIT部門に残した結果、タイプ C となるケー 集や研究も日常的に行なわれ、最新情報に基づく的確 スが多い。 な判断のもとにIT戦略が立案・実行されていると考 ベンダのマネジメントや最新情報の収集など、当面 えられる。ただし、社内の専門集団はコストと見るこ は少数ながら精鋭の要員で業務は遂行できるが、開発 ともできるので、外部に任せられる業務についてはア 部隊を持たないので、どのように後継人材の育成をす ウトソーシングをうまく活用することが課題である。 るのかという点を不安要素としてあげる企業もある。 クラウドの利用も一つの方法である。 ただし、今後、ITは外部調達のリソースになると CIOも部門長も専門性を有するので、IT部門に 考える企業にとっては、タイプ C と次のタイプ D は 勤めた経験は必須で、そこでキャリア積んだのち、部 合理的な体制である。高度な専門性は外部のベンダに 門長、CIOへと昇進する。しかし一方で、部門長、 任せ、IT部門はベンダとの交渉や社内調整などの一 CIOとして専門家をヘッドハンティングするケース 般的なマネジメント業務に専念すればいいからであ もある。 る。その場合、ベンダとの良好な関係を築く、必要に IT人材の育成は人事ローテーションによって、 応じて第三者的なITのコンサルを招くなど、専門性 IT部門や情報子会社の開発担当者に製造・営業・物 を担保することは必要である。 流などの現場を経験させることが多くおこなわれてい るが、実務部隊が大人数の企業では、それだけでなく、 【タイプ D】専門家ではないIT部門長のみ 研修制度が確立されている企業もある。 中小企業の場合、専属のIT人材を抱えるだけの体 中小企業の場合、専属のIT人材を抱えるだけの体 【タイプ B】役員兼任CIOとIT部門 制は組めず、営業や総務など別の部署から人事異動で CIOは社長や総務担当役員などが兼任する場合が IT部門長に就任し、ITを統括することが多い。も 多く、いずれもITの専門家ではないので、実質的に ちろん、リソースは外部から調達される。このような はITのプロであるIT部門長がIT部門統括者を任 ケースがタイプ D である。 されているケースである。最終的な決裁だけは、社長 タイプ D でIT部門統括者が求められる能力は、 や役員会に委ねられる。中堅のメーカーなどによく見 ITの専門性ではなく、ベンダとの交渉や社内調整な られるタイプである。 どの一般的なマネジメント能力である。したがって、 タイプ A とほぼ同じ体制なので、特徴や課題もタ とくにIT人材の育成という課題は意識されないこと 6 表2 IT経営力の分類 が多い。 タイプ D の場合も、ベンダとの良好な関係を築き、 IT経営力 必要に応じて第三者的なITのコンサルを招くなどし 経営戦略 て、専門性を担保することはできる。 業務 プロセス の可視化 4.クラウド導入に関する効果分析 企業のクラウドコンピューティング導入とIT投資 効果の関係について、アンケート結果より関連する要 因を分析する。 (1)IT投資割合とクラウドの関係 まず、クラウドコンピューティングを導入している システム 基盤の 標準化 投資評価 ITスキル 向上 企業はIT投資に積極的なのかどうかを確認する。表 1 は企業規模別、業種別、そしてクラウド導入別の企 業における売上に占めるIT投資額の割合である。ク ラウドを導入している企業は、クラウド未導入の企業 リスクへ の対応 より、IT投資割合がおよそ1%大きいことが分かる。 項目 中期計画等経営戦略(策定状況) 中期計画等経営戦略(周知状況) 主要業務プロセスの可視化 業務上の不正や誤りをシステム上発見できる仕 組み BPR(業務プロセスの改善・改革) システム基盤の標準化(データ、業務プロセス) システム基盤の標準化(担当者及び責任の所在) IT投資評価(評価基準) IT投資評価(実績把握と投資評価) ITスキル向上の取り組み(責任範囲、必要な スキルの明確化) ITスキル向上の取り組み(研修会、啓発活動 の実施) ITスキル向上の取り組み(教育プログラムの 整備) IT起因のリスク対応(経営層によるリスク発 生の予防策) IT起因のリスク対応(従業員および連携先企 業への情報提供) 情報セキュリティ方針や情報セキュリティ管理 規定の整備 また、企業規模別では大企業より中堅・中小企業の アンケートより得られたIT投資の効果(実感5段 方がIT投資割合は大きいが、クラウドを導入してい 階)を表 2 - 3 のように、 「コスト削減」と「増収益」 る企業の多くは大企業であることを考えると、中堅・ とを考えて分類した。IT投資効果は相互に影響しあ 中小企業でクラウドを導入している企業は、IT投資 うものであるが、この 2 種に分類することによって、 にかなり積極的であろうことがうかがえる。 どのような要因が主に「コスト削減」効果をもたらし、 表1 IT投資割合 (企業規模別、業種別、クラウド導入別) 全体 (N=617) 2.58% 大企業 (N=114) 1.56% 中堅企業 (N=235) 2.67% 中小企業 (N=253) 3.02% 製造業 (N=296) 1.32% 金融業 (N= 20) 4.89% 流通業 (N=143) 3.05% サービス業 (N=158) 4.20% クラウド導入 (N=106) 3.24% クラウド未導入 (N=511) 2.44% (2)IT経営力の整理・分類 またどのような要因が主に「増収益」につながるかを 明示した。 表3 IT投資効果の分類 IT投資効果 項目 コスト削減 業務プロセスの効率化 社員の生産性向上 業務コストの削減 意思決定の迅速化 ペーパレス化 社内情報の共有化 増 収 益 顧客満足度の向上 利益の増加 競争優位の獲得 売上の増加 新規顧客の開拓 新規ビジネス・製品の開発 アンケートで得られたIT経営力を分析のため、表 2 のとおり 6 つに分類し、主成分分析で合成し、 6 つの指標とした。 (3)クラウド導入の効果分析 クラウドの導入がIT投資効果を促進するのか、ど のような効果をもたらすのかを分析する。具体的に は、クラウドを導入することにより、企業内の情報化、 7 表 5 クラウド導入とIT投資効果(増収益) 業務の効率化が進む、あるいは、企業のIT担当者か ら管理・調達やセキュリティ対策等の業務負担が軽減 され、代わってIT部門と業務部門や経営部門とのコ ミュニケーションが進展し、効果的なIT導入等が行 われることによる効果であると考えられる。 そこでアンケートより得られた、企業のIT投資の 効果(12種)をそれぞれ、IT経営力( 6 種)とク 顧客満足度 競争優位の 利益の増加 獲得 の向上 7 ントロール変数として使用した。 0.033 -0.038 -0.068 -0.059 -0.078 (0.086) (0.086) (0.085) (0.085) (0.086) 業務プロセス の可視化 0.287 0.171 0.139 0.128 0.014 -0.037 (0.098) (0.096) (0.096) (0.096) (0.096) (0.096) システム基盤 の標準化 1 2 意思決定 の迅速化 3 4 ペーパレス 社内情報の 化 共有 5 6 IT経営力 経営戦略の 策定・周知 0.020 -0.091 0.127 0.102 0.040 (0.080) (0.078) (0.084) (0.085) (0.078) 業務プロセス の可視化 (0.093) システム基盤 の標準化 (0.090) 体制と評価 ITスキル向上 リスクへの 対応 クラウド導入 サンプル数 F値 Prob > chi2 0.357*** 0.253*** 0.174** 0.225** (0.089) 0.279*** (0.094) 0.259 0.147* (0.084) (0.089) 0.111 0.107 0.149 0.048 (0.087) (0.090) (0.094) (0.086) 0.233*** 0.223*** (0.075) リスクへの 対応 クラウド導入 サンプル数 F値 Prob > chi2 0.188** (0.092) 0.011 (0.076) 0.010 -0.020 0.025 0.096 0.108 (0.093) (0.093) (0.093) (0.092) (0.093) 0.162** (0.076) 0.054 0.123 (0.075) (0.076) 0.248*** (0.079) 0.273** (0.078) 0.171** (0.076) 0.180** (0.076) 0.131* (0.075) 0.127* 0.159* (0.077) (0.079) 0.238*** (0.077) 0.204*** (0.077) 0.148* 0.086 0.136* 0.129* 0.153* (0.079) (0.079) (0.077) (0.078) (0.078) 0.069 0.018 0.134 -0.056 0.384* 0.079 (0.201) (0.201) (0.205) (0.198) (0.199) (0.201) 688 673 659 669 662 656 122.73 95.17 99.78 83.10 105.79 100.56 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 ( )内は標準誤差、***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で統計的に有意 表 4 クラウド導入とIT投資効果(コスト削減) 業務プロセ 業務 コスト 社員の生産 スの効率化 の削減 性向上 12 -0.026 ITスキル向上 を用いた。企業規模(従業員数、資本金) 、業種をコ 11 (0.085) 経営力では説明できないIT投資効果が、クラウド導 あるため、順序プロビット(orderedprob IT)推計 10 経営戦略の 策定・周知 体制と評価 説明変数のIT投資効果が 1 〜 5 の 5 段階の数値で 9 新規顧客の 新規ビジネス 開拓 ・製品の開発 IT経営力 ラウド導入ダミーを用いて関係性を見ることで、IT 入によって補えるかどうかを検証する。推計方法は被 8 売上の 増加 0.203** (0.082) 0.205** (0.093) 0.234** (0.090) 0.078 0.060 0.078 (0.074) (0.070) (0.075) (0.075) (0.072) -0.028 -0.044 0.062 0.097 0.096 0.008 (0.072) (0.069) (0.072) (0.074) (0.069) (0.073) -0.008 0.078 0.071 0.144* 0.057 (0.071) (0.071) (0.073) (0.076) (0.069) -0.189 0.351* 0.143 0.340* (0.191) (0.189) (0.193) (0.198) 0.441** (0.187) 0.169** (0.072) パレス化」 、「新規顧客の開拓」といったIT投資効果 が実感されていることが確認された。これらはIT経 営力指標に沿って情報化を進めることを補う効果であ る。 「業務コストの削減」や「ペーパレス化」は、自社 にサーバを持たなくなることや、管理業務から解放さ れることによる効果であると考えられる。また、「意 思決定の迅速化」と「新規顧客の開拓」については、 企業のIT部門と業務部門や経営部門とのコミュニ ケーションが進展し、効果的なIT投資が生まれたこ とによる効果であると考えられる。 0.270 (0.193) 764 755 730 699 744 774 126.14 99.57 125.17 138.74 78.60 139.52 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.003 5.中堅・中小企業のためのクラウド提案 クラウドコンピューティングの導入の実情は、メ ( )内は標準誤差、***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で統計的に有意 ディア等での評判よりも低く、特に中堅・中小企業で 推定結果の表 3 より、業務効率に係わるIT投資効 未実施であることが分かった。しかし、システム管理 果には、IT経営力指標のうち「業務プロセスの可視 やセキュリティ対策等の業務負担の軽減をもたらすク 化」や「体制と評価」等の指標が正の効果をもたらす ラウドは、特に小さな規模の企業こそ業務効率の向上 ことが分かる。同様に表 4 より、増収益に係わるIT による利便性が高いものだと考える。 投資効果には、IT経営力指標のうち「体制と評価」 、 本節では調査結果と分析結果をまとめ、今後中堅・ 「ITスキル向上」 、「リスクへの対応」等の指標が正 中小企業がクラウド導入を進めるための考え方や方針 の効果をもたらすことが分かる。 について、仮説を提示する。 その一方で、クラウド導入による効果については、 クラウドを導入している企業では、未導入の企業に比 べて「業務コストの削減」 、 「意思決定の迅速化」 、 「ペー 8 (1)クラウド導入のメリットとデメリット た、導入当初には予期していなかった効果が出ている ①導入メリット 企業があった。また、クラウド導入とIT投資効果の アンケートやヒアリングの調査結果では、企業 分析結果でも、クラウドを導入している企業では、未 がクラウドを導入するにあたっての期待する点(メ 導入の企業に比べて「業務コストの削減」 、「ペーパレ リット)は「管理がしやすい、利便性が高い」 、 「経 ス化」以外に、 「意思決定の迅速化」 、 「新規顧客の開拓」 費の削減」の主に 2 点であった。 といったIT投資効果が実感されていることが確認さ 管理のしやすさについては、特に、情報部門を れた。これらは、企業のIT部門と業務部門や経営部 もたない中堅 ・中小企業にとってメリットが大き 門とのコミュニケーションが進展し、効果的なIT投 い。管理のしやすさとは、具体的には、サーバ、 資が生まれたことによる効果であると考えられる。 ストレージ、ネットワーク等の仕様決め、社内ユー これらのプラスアルファの効果を勘案することが、 ザのサポートといったIT調達 ・管理に関する負 中堅・中小企業のクラウド導入への可能性を増やすこ 担の軽減、あるいはファイアウォールの設定や変 とにつながる。 更、不正アクセス監視といったセキュリティ対策 負担の軽減である。 (3)業務の切り分けとコスト計算の提案 クラウド導入に際しては、クラウドでどの業務、ど ②導入デメリット(不安、留意点) の情報を扱うかを検討し、業務の切り分けを行う必要 中堅 ・中小企業がクラウド導入に躊躇する理由 がある。上記メリットと不安・留意点を鑑みた上で、 は、クラウドサービスに対する不安や留意点であ コスト計算を行い、決定する。行われるべきコスト計 る。アンケート調査とヒアリング調査では、「デー 算は、IT要員、IT資産、導入コスト、月々の運用 タ管理に対するセキュリティの不安」 、 「問題発生時 コスト、また、不安に対するコストである。 の事業者の対応に対する不安」 、 「システムの継続性 これらの作業が人材の問題等のためできす、クラウ に対する不安」といった意見が挙げられた。これら ドの導入を様子見する中堅・中小企業は少なくないと は集約すれば「ITベンダに対する信頼」の問題で 考える。また、導入の不安の多くは、データの管理を あり、クラウドベンダとの良好な関係の構築が大き 任せるITベンダに対する信頼の問題である。 な課題である。 よって、クラウド導入の検討に際しては、ITベン また、「カスタマイズの自由度の低さ」を問題に ダとともに業務の切り分けやコスト計算を実施し、そ あげる企業も少なくなく、システムのどの部分まで の企業に適したクラウド導入のあり方を考える必要が をクラウド化するのか、といった判断が重要にな ある。ベンダとの共同作業によって信頼関係を構築 る。クラウドを基幹業務に導入することによる社内 し、クラウド導入企業を増やすことができると考える。 ITスキルの低下を心配する声も少なくなかった。 その他、中小企業では「クラウドを理解する人材 不足」という意見もあり、自社にクラウドを導入す ることの効果を測ることもできない企業があること が分かった。 6.中堅 ・中小企業のIT部門統括とIT人材 育成 (1)IT部門統括の役割 アンケート調査、ヒアリング調査の結果より、IT 部門統括の役割で多かった回答は、「ITと経営目標 (2)クラウド導入によるプラスアルファの効果 を調整」 、 「経営戦略に基づいたIT戦略の策定」 、 「リー クラウド導入のメリットでは業務負担の軽減ばかり ダーとして変革を推進」の3点であった。いずれも今 が着目されがちであるが、ヒアリング調査の結果、 後の企業経営を考え、経営ツールとしてのITをどの データの有効活用や連携企業間での情報共有といっ ように活用していくかを考える役割であり、IT部門 9 統括が役員である必要性があることを示している。 確に感知しIT等を活用して業務改革を推進でき その一方で、部下やベンダに任せる役割は、「IT る能力」である。具体的には、現業部門とコミュ オペレーションとシステム・パフォーマンスの改善」 、 ニケーションによって業務要件を定義し、ITを 「ベンダとの交渉」等であった。 活用する方策、企業内のITデザインを行うこと である。 (2)IT部門統括サポートメンバーに求める能力 すなわち、 ITのスペシャリストではなく、 IT部門統括をサポートする社員に求められる能力 ITを活用する他の部署の業務に精通したジェネ は、「問題点を的確に感知しIT等を活用して業務改 ラリストこそが求められている。 革を推進できる能力」である。関係部門やベンダとの ITジェネラリストの育成には、社内的には現 コミュニケーションや調整を図る能力」 、「業務の現状 業部門とIT部門とを人事ローテーションする必 を可視化し、業務のあるべき姿をデザインできる能 要があると考える。しかし実際には、人事ローテー 力」が続く。 ションが行われている企業は調査結果より15%程 数年前の同調査では「経営戦略に基づいたIT戦略 度と少ない。IT部門から現業部門へ、現業部門 を立案できる能力」という回答が多かったが、立案か からIT部門へ異動し、それぞれの業務内容を理 ら推進に期待される業務が変化している。企業の多く 解することで、IT統括者の企画を現業部門、あ が、かつては名前だけのIT部門統括であったが、現 るいは組織全体に合致した形で推進できるように 在は実際に経営とITをつなぐ役割を果たしており、 なる。 その企画を実現できる人間をサポートメンバーとして その人事ローテーションを難しくしているのは、 IT人材に期待していると考えられる。 優秀な人材であればあるほど、他部署へ異動させ たくなく、また、他部署で評価されると戻ってこ (3)成功するIT部門統括とIT人材育成 ないという企業の人事評価システムにある。その ①IT部門統括 ため、優秀な人材であればあるほど、IT部門で 「ITと経営目標を調整」 、「経営戦略に基づいた の経験しか積まないという現象が生じている。こ IT戦略の策定」 、 「リーダーとして変革を推進」と れは、スペシャリストとしてのIT専門家の育成 いう役割に応えるために、IT部門統括に求められ という観点からは望ましいかもしれないが、その る能力とは、ITに関する知識よりも、経営能力で 一方で、ジェネラリストとしてのIT専門家の育 あると言える。 成を難しくしている。 具体的には、経営戦略に資するIT企画力とマネ また、社外的には、自社のIT導入だけでなく、 ジメント力である。その実施のためには、トップと 他社の知識も比較のため必要となる。それには、 の良い関係を築いていなければならず、トップから 他社の導入事例を調べ、技術以外のセミナーにも の厚い信頼や頻繁なコミュニケーションが必要にな 参加させることである。加えて、IT利活用に関 る。加えて、IT部門が開発や管理を行わなくなる する何らかの勉強会やコミュニティに属し、活動 ことによる、社内ITスキルの低下に対応できなけ させることがこれからのIT人材育成の鍵となる ればならない。この手法としては、業務の切り分け と考える。 や外部との連携であろう。 当財団では関西CIOカンファレンス事業と して、年に1度のフォーラム開催のほか、「関西 10 ②IT人材育成(ジェネラリスト育成の課題) CIOネットワークサロン」 、「IT人材育成セミ 上記のIT部門統括をサポートし、企業の将来 ナー」事業を実施している。前者はCIO(相当役) を担うIT人材に求められる能力は、「問題点を的 の方々を対象に交流を育んでいただくサロンを開 催するものであり、後者は企業のIT部門担当者 に、実例に基づいた課題をテーマに議論いただく セミナーである。これらの事業にご参加いただく ことで、当財団が関西地域のIT人材育成に少し でも貢献出来れば幸いである。 業務経歴 布施 匡章(事業推進グループ研究員 経済学博士(大阪大学) ) 近畿大学経営学部非常勤講師 関西大学経済学部非常勤講師 ・関西情報化実態調査(2005〜2007) ・地域再生計画認定制度等の事後評価に関する 調査(内閣府経済社会総合研究所2005) ・地域の人材形成と地域再生に関する調査研究 (内閣府経済社会総合研究所2006) ・ニュータウン再生を支える地域コミュニティ 創生に関する調査研究(2006) ・e-Kansai レポート(2008〜) ・猪名川町情報化計画策定事業(猪名川町2008) ・団塊の世代の活用による地域活性化に向けて の調査(内閣府2008) ・KIIS Quarterly vol.1-2「CIOがIT利活用 に果たす役割(自治体・上場企業) 」 (2008) ・KIIS Quarterly vol.3-1「関西地域の水道事業 アウトソーシングの現状」 (2008) ・近畿地域産業クラスター計画「関西フロント ランナープロジェクト『ネオクラスター』事業 (2009) ・構造改革特区の評価及び経済効果の分析等に 関する調査(内閣官房2009、2010) ・減税や給付金による家計の消費行動への影響 に関する調査(内閣府2009) ・関西CIOカンファレンス事業(2010〜) ・関西CIOネットワークサロン(2011〜) ・IT人材育成セミナー(2011〜) 11 平成 23 年度 関西CIOカンファレンス 布施 匡章(事業推進グループ 研究員(経済学博士)) CIO(Chief Information Officer)とは、企業において自社の経営戦略を支える情報化 戦略を立案、実行する責任者であり、 「最高情報責任者」や「情報戦略統括役員」といった 訳語が充てられる。当財団の調査(e-kansai レポート2010)でも、CIOを設置している 企業の方がIT投資の効果が高い等、CIOと企業のITによる経営効果の関係では、正 の相関が確認されている。 当財団では、2006年度より関西企業のIT経営力向上につながるCIOの普及 ・啓発 と、経営改革を促進するIT人材の育成のために、関西CIOカンファレンス事業として 取組みを実施しており、以下に各々の事業を紹介する。 1.関西CIOカンファレンス2011の開催 2011年 7 月28日に関西地域の中堅企業等を対象と した、「関西CIOカンファレンス2011 円卓会議 ・ シンポジウム」を以下の内容で開催した。ITによっ て企業価値を高め、新たなビジネスチャンスをもたら すCIOの設置の重要性について普及啓発を行った。 (1)円卓会議 先進企業におけるITを活用した事業事例の発表 と、CIOの経営に対する考えなど、活発な議論が行 藤野商事株式会社 ビジネスサポート事業部次長 われ、有意義な会議となった。 宮本 明彦 氏 ・テーマ「CIOと経営戦略・IT戦略」 マロニー株式会社 本社営業部 部長 上野 昌樹 氏 コーディネータ: 武蔵大学経済学部 教授 松島 桂樹 氏 (2)シンポジウム アドバイザー : 小島総合研究所 代表 小島 康男 氏 基調講演では、 大成ロテック株式会社の木内様 宮城大学 事業構想学部 教授 藤原 正樹 氏 より、「イノベーターとしてのCIO」と題して、 スピーカー : CIOの役割の変化や必要とされる能力、戦略的情報 京都信用金庫 システム部 部長 松井 哲二 氏 投資と基盤整備情報投資等についてお話いただいた。 サンコーインダストリー株式会社 専務取締役 事例発表では、ITによる経営改革に関する取り組 株式会社旬材 代表取締役社長 12 奥山 淑英 氏 みを、先進企業 2 社と経済産業省CIO補佐官の平本 西川 益通 氏 様よりそれぞれお話いただいた。 株式会社スーパーホテル 執行役員 IT戦略室 パネルディスカッションでは、これからのIT投資 のあり方についてそれぞれのお立場から普段の考え等 室長 日吉 常樹 氏 2. 関西CIOネットワークサロン 2011年11月24日に「関西CIOネットワークサロ ン」を設立した。本サロンは、関西で活躍するCIO (あるいはCIO相当役)のネットワークを形成し、 CIO間の情報交換・人的交流の促進を図りながら、 関西地域におけるCIO等の普及を目的とし、開催す るものである。 を披露いただき、フォーラムを締めくくるに相応しい 議論となった。 ・基調講演 「イノベーターとしてのCIO」 大成ロテック株式会社 常勤監査役 木内 里美 氏 調査報告「IT投資効果とIT人材育成に求められる もの」 サロンでは、学識経験者や有識者等による講演、メ (財)関西情報・産業活性化センター 布施 匡章 ・事例発表 ンバー相互の意見交換等を行うことにより、会員に とって有益な情報交換や人的交流を促進する。また、 SNSの活用やメールマガジンの発信を通じて、メン サンコーインダストリー株式会社 専務取締役 奥山 淑英 氏 藤野商事株式会社 ビジネスサポート事業部次長 宮本 明彦 氏 経済産業省 CIO補佐官 (1)主な活動 平本 健二 氏 バー間の情報の交流や共有化につとめるものである。 サロンでは幹事会を組成し、今後の活動方針等を決 定する。 (2)会員状況 ・幹事長 ・パネルディスカッション「これからの経営とIT」 コーディネータ: 武蔵大学 経済学部 教授 ㈱堀場製作所 業務改革推進センター 情報技術担当センター長 新井 修氏 松島 桂樹 氏 ・副幹事長 パネリスト: ㈱旬材 代表取締役 西川 益通氏 大成ロテック株式会社 常勤監査役 ・幹事 木内 里美 氏 サンコーインダストリー株式会社 専務取締役 奥山 淑英 氏 藤野商事株式会社 ビジネスサポート事業部次長 経済産業省 CIO補佐官 4名 ・アドバイザー 6 名 ・会員数 24名(2011年12月末現在) (3)サロンの開催と今後の予定 宮本 明彦 氏 第 1 回 2011年 11月24日 平本 健二 氏 株式会社堀場製作所 業務改革推進センター 13 情報技術担当センター長 新井 修 氏 回シリーズで開催した。 「企業のIT部門は変革が求められている!〜経営と テキストには当財団で出版し の一体化、グローバル化、BCP、法規制、複雑化し た『これからのIT投資』を用 たシステムの維持と改革、人財育成 等々〜」 いた。 『これからのIT投資』 キックオフの第 1 回サロンでは、幹事長の株式会社 は中堅企業等におけるIT人材 堀場製作所の新井修氏より、これからのCIOの心構 の育成の教材として作成したも えや堀場製作所における実際の取組みをご紹介いただ ので、当財団にて販売中。 (1)講師(ファシリテータ、執筆者) いた。 大阪市立大学大学院創造都市研究科 准教授 第 2 回 2012年 2 月27日 湯浅 忠 氏 若松経営情報研究所 代表 若松 敏幸 氏 「クラウドの利用について」 宮城大学 事業構想学部教授 藤原 正樹 氏 第 2 回サロンでは、株式会社オージス総研の宗平順 小島総合研究所 代表 小島 康男 氏 己氏より、クラウドコンピューティングの導入手法と 株式会社オージス総研 執行役員 宗平 順巳 氏 株式会社オージス総研 執行役員 宗平 順己 氏 効果等についてご講演いただいた。 (2)概要 第 1 回「上司を納得させるシステム企画の進め方」 第 3 回 2012年 5 月14日 兵庫県立大学大学院教授 有馬 昌宏 氏 第 2 回「ベンダーと上手に協業するために」 「CEOから見たCIOへの期待と評価—企業調査の 第 3 回「参加者の抱える課題とその解決策の議論」 結果から—」 いずれの回も講師と参加者間で予定時間いっぱいま 第 3 回は兵庫県立大学の有馬昌宏先生に、CEOか で活発な議論が行われ、有意義なセミナーとなった。 ら見たCIOへの期待と評価というテーマでお話いた 講師より与えられた課題をグループで議論しながら、 だいた。 参加者の企業での問題点を発見し、その点について講 師に尋ねる姿も見られた。 次回第 4 回は 9 月20日(木)開催予定である。 第 4 回 2012年 9 月20日(予定) 東京海上日動システムズ株式会社 経営企画部長 大内 美樹 氏 「アジャイル開発の最新動向」 3.IT人材育成セミナーの開催と『これから のIT投資』出版 当財団では若手〜中堅のITシステム部門社員を対 象に、IT人材育成セミナーを実施している。2011 年度は、「IT投資を成功させる実践ノウハウ」と題 し、本を読んでもなかなか身につかないと言われる IT投資を成功に導くノウハウを、実践的な課題に対 するディスカッションと資料作成 ・発表を通じて 3 14 業務経歴 布施 匡章(事業推進グループ研究員 経済学博士(大阪大学) ) (前掲) 関西情報通信融合イノベーション創出フォーラム(KICT) 平成 23 年度事業報告 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) 関西地域では、様々な大規模都市開発プロジェクトが多数動き始めている。これらはい ずれもユビキタス自体としての新たな産業都市形成を目指したものであり、情報技術を活 用した新たなビジネス創出フィールドとして期待されている。 KIIS では、平成21年度より、情報通信技術や電子技術、デジタルコンテンツ等と各種の サービスとを組み合わせることで新たな「ビジネス」を生み出すためのプラットフォーム 「関西情報通信融合イノベーション創出フォーラム(KICT) 」を立ち上げ推進している。 平成23年度は特に「ICT を活用したライフ ・ビジネスイノベーション」にフォーカスし、 医療・健康分野での ICT 利活用を中心とする新たなビジネス機会を探索する定例会活動を 行った。平成23年度の取り組み状況について報告するとともに、今後の取り組み方針につ いて概説する。 1.フォーラム設立趣旨 〜 ICT 活用により、関西における新たなビジ ネス創出の可能性を追求〜 の機会として大きく期待できる。 さらに関西には、大手家電メーカとともにたくさん の優秀なものづくり企業、電機・電子関連企業、コン 昨今、iPhone / iPad のブームやクラウド ・コン テンツ企業、また研究機関や大学等優秀な学識者の集 ピューティングに代表されるような、情報処理や通信 積がある。こういったポテンシャルを考えると、現在 技術、電子技術を活用した新たなビジネスの創出は、 はまさに関西地域における ICT を活用した新ビジネ 今後の我が国の経済活動にとって極めて重要である。 ス創出のまたとない機会であると言える。 これらはいずれも技術的な先進性だけではなく、そこ KIIS では、このビジネス創出の絶好の環境とタイ に「ビジネスモデル」を確立しているという点が成 ミングを活かすべく、関西に電子情報技術を活用し 功・発展の秘訣であるということは言うまでもない。 た新ビジネス創出を目指す場として「関西情報通信 新たな技術をサービスと連携させ、具体的なフィール 融合イノベーション創出フォーラム(KICT) 」を設 ドやマーケットを志向した取り組みを進めなければそ 立した(平成21年12月) 。また平成23年度からは特に れがビジネスとして成立しないということである。 「ICT を活用したライフ・ビジネスイノベーション」 翻って関西では、大阪駅北地区(通称:うめきた) にフォーカスし、医療 ・健康分野での ICT 利活用を の開発や尼崎、姫路地域でのディスプレイ関連産業の 中心とする新たなビジネス機会を探索する定例会活動 集積、南地区では堺地域を中心とした一大工場集積、 を行っている。 さらには天王寺地区や四ツ橋地区の開発など、数年後 に稼動を目指す大規模都市開発が多数動き始めてい 2.KICT の事業スキーム る。いずれも概ね 2 〜 3 年後を目標年度と設定して KICT は新ビジネス及びそれらを生み出すために必 おり、かつ、ICT を利用したユビキタス空間として 要な技術シーズ・利活用方法や、その展開フィールド 構築されることになる。関西経済の凋落が近年話題と となる関連都市開発や施策動向などの情報を共有し合 なっている中で、これらの動向は新たなビジネス創出 い、新ビジネス連携を行うための「パートナー」探し、 15 さらには事業化を目指すプロジェクトチーム組成のた 事業説明: 「今後の事業展開について」 めのプラットフォームとして展開するものである。 財団法人関西情報・産業活性化センター 事業推進 情報通信事業者や家電・情報機器メーカ、ソフトハ グループ主任研究員 石橋 裕基 ウス、コンテンツ事業者、流通・電鉄事業者、都市開 発事業者、各種サービスプロバイダ、大学・研究機関 など、新たなビジネス創出を目指す主体が業種の枠を ■第 2 回定例会「ICT 分野からの先端医療への新た な挑戦」 越えて集まり、具体的な都市開発プロジェクトに関す 日時:平成23年12月 2 日(金) る情報などを議論の材料として、プランニングやディ 15:00〜17:00(会議後交流会開催) スカッションを行う。 場所:KIIS 第 1 会議室 フォーラム活動の中から生まれた具体的なプロジェ 講演: クトチームは、戦略会議として位置づけ、議論を推進 「ネットワークロボティクスを活用したデジタルヘル する。新事業や新製品開発のプランニング、研究開発 ス社会の提案」 競争的資金獲得に向けた作戦会議、ユーザ企業や自治 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボ 体への共同売り込み、地域活性化に向けた提案、連 ティクス研究所環境知能研究室 室長 携 ・提携先企業の探索など、具体的な出口(目標)を 宮下 敬宏 氏 持った活動を行う。 「未病予測データベースを活用した未来のヘルスケア モデル」 3.平成23年度活動状況 平成23年度においては、 「ライフ・ビジネスイノベー ション」の中でも特にデジタルヘルス分野を中心に 4 回の定例会を実施した。フォーラムでの検討を踏ま え、次年度以降の具体的な事業推進モデルを検討した。 ■第 1 回定例会「ICT で変わるホームナーシング」 日時:平成23年10月18日(火) 15:00〜17:00(会議後交流会開催) 場所:KIIS 第 1 会議室 講演: 講演の様子 「薬局3.0へ、ICT で変わるホームナーシング」 ファルメディコ株式会社代表取締役社長/医師、 医学博士、外科専門医 狭間 研至 氏 「地域医療における WEB3.0の方向性」 シンコム ・システムズ ・ジャパン株式会社 ヘルス ケア ICT 企画部部長 浦川 修 氏 パネルディスカッション: 「ICT 地域医療ビジネスの 今後の方向性」 モデレータ:株式会社新産業文化創出研究所 上席 主任研究員/ 国立大学法人神戸大学連携創造本部 客員教授 卯津羅 泰生 氏 16 講師とのディスカッション 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボ 「日本 IBM の『Smarter Healthcare』 」 ティクス研究所 インタラクションシステム研究室 日本アイ ・ビー・エム株式会社 公共サービス事業 室長 篠沢 一彦 氏 部医療ソリューション 堀 信浩 氏 「fMRI を活用した次世代脳ドックシステムの開発を 全体モデレータ:株式会社新産業文化創出研究所 目指して」 代表取締役所長 廣常 啓一 氏 株式会社 ATR-Promotions代表取締役社長 正木 信夫 氏 4.今後の取り組み 平成23年度、KICT では医療 ・健康分野において ■第 3 回定例会「新たなデジタルヘルスコンテンツ市 場を拓く」 ICT を利活用し、新たなビジネス創出に向けた意見 交換及びコミュニティ醸成に取り組んだ。医療・健康 日時:平成24年 2 月 9 日(木) 分野はさまざまな社会システムと密接に関連する分野 15:00〜17:00(会議後交流会開催) であり、異業種・異分野のプレイヤーが多数関わって 場所:KIIS 第 1 会議室 いることから、ICT による産業構造の変化が社会的・ 講演: 経済的に大きなインパクトを与えることが期待でき 「デザイン事務所が考える医療情報コンテンツの整理 る。よって平成24年度以降、KICT においては活動を と発信の仕組み〜MedicalHealthContentsVender〜」 より具体化 ・深化させ、 「医療 ・健康分野での ICT 利 株式会社レイ・クリエーション代表取締役 活用」を大きなテーマとして、新たに「スマートヘル 原田 徹朗 氏 「オープンソースソフトウェア技術によるクラウド型 デジタルヘルスコンテンツ事例」 リバティ・フィッシュ株式会社代表取締役 石丸 博士 氏 「バイタルセンシングを活用したヘルスケアの今後」 コガソフトウェア株式会社 営業部 営業統括部門 課長 藤崎 淳矢 氏 全体モデレータ:株式会社新産業文化創出研究所代表 取締役所長 廣常 啓一 氏 ■第 4 回定例会「メディカルクラウド構築の現状と今 モデレータ:株式会社新産業文化創出研究所 廣常 啓一 氏 後の展開」 日時:平成24年 3 月13日(火) 15:00〜17:00(会議後交流会開催) 場所:KIIS 第 1 会議室 講演: 「ヘルスケア・メディカルクラウドの現状と今後の展 開について」 西日本電信電話株式会社 法人営業本部 クラウドビ ジネス部営業推進グループ 部長 有馬 義雄 氏 交流会の様子 17 スケア」の概念を導入し新ビジネス創出活動を推進し ていく。 そのため、例えば地域が「医療・健康」をキーワー ドとしたまちづくりを推進する際に、企業主導による イノベーティブなアイデアや技術シーズを連携体の形 で取りまとめ、それを地方自治体や病院等に提案する ような枠組みを検討しているところである。これによ り地域における「スマートヘルスケアシティ」プロ ジェクト実現に向けた素材を提供するとともに、ヘル スケア分野での新たな産業・製品・ネットワークづく りを目指すことが重要であると考えている。このと き、いわゆる「医療」分野に限定したアイデアや製品 だけでなく、広く人々の生活全般に関連する技術やビ ジネスモデル等も範疇に入れることで、より多くの産 業分野へのビジネス的広がりが期待できる。またプロ ジェクトの実現に向けて、経済産業省等国家プロジェ クト予算の獲得も視野に入れた活動を進めることが重 要である。 現在、具体的な提案フィールドや対象自治体等の選 定 ・調整を進めているところである。KIIS 賛助会員 企業においても、KICT への積極的な参画を賜り、ス マートヘルスケア分野での新たなビジネス創出にご協 力いただきたい。 18 業務経歴 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) ・NIRA 型ベンチマーク ・モデルを活用した政策 評価システムおよび行政改善への提案に関する 研究(2003〜) ・滋賀県データセンター機能構築基本調査(2003) ・自治体における電子申請システムに関する調査 研究(2003) ・官民連携 ICT 基盤を活用した都市型広域行政 に関する調査研究(2004) ・利用者の視点に立った電子自治体エージェント システム実現に向けた調査研究(2004) ・共同利用型自治体版 CRM 実現に向けた研究会 (2004) ・地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調 査(2005) ・近畿地域産業クラスター計画「関西フロントラ ンナープロジェクト『ネオクラスター』 」事業 (2006〜2008) ・情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)事業 (2006〜) ・近畿地域イノベーション創出共同体形成事業 (2008〜2009) ・未来型情報家電分野における川上・川下ネット ワーク構築事業(2009) ・関西情報通信融合イノベーション創出フォーラ ム「KICT」 (2009〜) ・次世代電子・エネルギー技術産業ナンバーワン 戦略プロジェクト「プロジェクトNEXT」 (2010) ・情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化 事業(2011) ・関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事 業(2011) 情報家電ビジネスパートナーズ(DCP) 平成 23 年度事業報告 川口 貴史(事業推進グループ 研究員) 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) 多くの中小 ・ベンチャー企業や大学などでは、日々様々な製品企画や技術開発が進めら れている。しかし、いざ商品として量産化やパッケージ化を図ろうとしても、費用やリス クが壁となり、実現できないケースがある。一方、大手企業では、市場での更なる競争力 を確保するため、スピードや技術に長けたベンチャー企業のアイデアを求めているが、見 極めが困難という問題がある。 「情報家電ビジネスパートナーズ(Digital Concept Partners:DCP) 」は双方の抱えるこ うしたジレンマの解消を目指し、中小 ・ベンチャー企業 ・大学などと大手企業のスムーズ な連携を図るシステムである。 以下、平成23年度に実施した事業内容について報告する。 1.DCP とは ① クローズドマッチング DCP 事業は、エレクトロニクスやエネルギー、住 提案したい企業、大学が提案書シートに概要を記 宅等大手14社のメンバー企業に対し、国内外の中小・ 述する。その際希望するアライアンス先(メンバー ベンチャー企業等が開発した技術製品の活用や共同開 企業)を指名し、事務局(KIIS)を通じて提案する。 発等の提案を仲介するシステムである。マッチングシ 1 次(書面)マッチング ・ 2 次(面談)マッチン ステムは大別すると下記の 3 つとなる。 グと進み、最終的には守秘義務契約(NDA)締結 図1 情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)マッチングスキームの概要 19 等を経て製品化・技術採用等を目指す。 式会社 E ・C ・R、池田泉州キャピタル株式会社、 エンゼルキャピタル株式会社、財団法人大阪国際経 ②オープンマッチング 済振興センター、株式会社大阪証券取引所、北浜法 定期的に開催するフォーラムによる公開マッチン 律事務所、京都銀行、京都信用金庫、株式会社グ グ。提案を希望する企業の中から優秀な技術をもつ ローバルサイバーグループ、京阪電気鉄道株式会 企業を事務局で選択し、プレゼン形式によりマッチ 社、株式会社システム・デザイン・ジャパン、株式 ングを実施する。聴衆として DCP メンバー企業や 会社損害保険ジャパン、大日本印刷株式会社、株式 サポート企業が参加する。 会社南都銀行、日本ベンチャーキャピタル株式会 社、ブリッジブックグローバル LLC、三井住友海 ③海外企業との産業ミッションによるマッチング懇 談会の開催 経済産業省・大使館・領事館等との連携により、 上火災保険株式会社、山本・森・松尾法律事務所、 SMBC 日興証券株式会社、住友商事株式会社、清 和工業株式会社、公益財団法人都市活力研究所 海外からの産業ミッション等とのコラボレーション イベントを開催する。海外の優秀な技術をもつ企業 (2)マッチング実績 とメンバー企業・サポート企業とのマッチングを実 平成23年度については延べ141件の技術提案があっ 施する。 た。案件の精査を前提とした面談重視のマッチング、 審査書類のブラッシュアップに努めた結果、新たに 7 2.平成23年度実績 件の成約案件(見込みを含む)を得ることができた。 (1)体制 平成23年度においては、下記14社のメンバー企業 と24社のサポート企業に参画いただき、中堅・中小・ ベンチャー企業等からの技術提案マッチングやオープ ンなプレゼンテーションフォーラム等を開催した。 [平成23年度実績] ・ 1 次マッチング件数(延べ) :141件 (H18〜 H23累計846件) ・ 2 次マッチング件数(延べ) :67件 (H18〜 H23累計279件) ①アドバイザー 白川 功 氏(兵庫県立大学応用情報科学研究科特 任教授) ②メンバー企業(14社) ・成約(見込み) :7件 (H18〜 H23累計45件) 100件 89件 1次マッチング 80件 2次マッチング シャープ株式会社(幹事企業) 、パナソニック株 式会社(幹事企業) 、アイコム株式会社、株式会社 成約(見込み) 60件 社、関西電力株式会社、京セラ株式会社、倉敷紡績 52件 46件 NTT ドコモ、大阪ガス株式会社、オムロン株式会 40件 株式会社、株式会社三社電機製作所、住友電気工業 株式会社、積水ハウス株式会社、船井電機株式会社、 21件 20件 株式会社村田製作所 0件 ③ サポート企業(24社) アイテック阪急阪神株式会社、尼崎信用金庫、株 20 5件 2件 海外 国内 図2 種類別マッチング件数 3.DCP 関連事業 (1)DCP ビジネスシーズ戦略会議の開催 株式会社コベルコ科研 エレクトロニクス事 業部 技術部 世木 隆 様 タイムリーなテーマでディスカッションを行い、各 界と DCP メンバー企業との交流を通じて、ビジネス 第 4 回:平成24年 2 月16日(木) シーズを発掘することを目的として、クローズドな会 【テーマ】 「次世代のエレクトロニクスデバイス」 議を 3 回、視察会を 1 回、計 4 回実施した。 【講 演】 「スーパー有機 EL デバイスとその革 新的材料への挑戦」 第 1 回:平成23年 7 月13日(水) 【テーマ】 「医工情報連携を核とした暮らし ・エ レクトロニクスの未来」 【講 演】 「ヘルスケア産業〜関西の状況は〜」 九州大学工学研究院応用科学部門最先端有機 光エレクトロニクス研究センター長・教授 安達 千波矢 様 「大阪発〜『光』の先端科学で産業を生み出す」 株式会社新産業文化創出研究所 大阪大学大学院工学研究科フォトニクス先端 上席主任研究員 卯津羅 泰生 様 融合研究センター長・教授 河田 聡 様 「先端科学技術が北ヤードを拓く」〜医療 ・看 護・介護にとってのイノベーション〜 (2)DCP ビジネスフォーラムの実施 一般社団法人臨床医工情報学コンソーシアム メンバー企業・サポート企業・推薦機関を対象とし 関西理事 澤 芳樹 様(大阪大学医学系研究 た事業として、有望技術やビジネスアイデアを持つ企 科心臓血管外科学講座教授) 業、将来性の高い企業等によるビジネスプラン発表会 を開催した。平成23年度はサポート企業とのコラボ 第 2 回:平成23年 9 月13日(火) レーションフォーラムも開催した。 【視察会】 ・性能で世界一を獲得したスーパーコン ピュータ「京」を視察 定例第 1 回:平成23年 7 月26日(火) サポート企業(京都銀行)コラボレーション企画 ・計算科学研究機構1階展示コーナー 「京銀活き活きベンチャー支援ネットワーク第 ・計算科学振興財団の活動紹介(スパコンを活 15回会合〜」 用した研究支援や産業利用促進等) 、各プロ 【発表企業: 4 社】株式会社レイトロン、株式 ジェクトシュミレーション事例紹介(地震 会社シン・コーポレーション、株式会社西研デ 波・電磁波シュミレーション他) バイズ、株式会社ナレッジ 第 3 回:平成23年11月15日(火) 定例第 2 回:平成23年 9 月16日(金) 【テーマ】 「スーパーコンピュータの産業利活用」 サポート企業(大日本印刷)コラボレーション企 【講 演】 「スーパーコンピューティングを活用 画「DCP ビジネスフォーラム in 大日本印刷」 した産業イノベーション〜自動車 ・医療健康 【講演】 「デジタルサイネージと双方向コミュニ 分野等への取組および今後のトレンド〜」 ケーション」 兵庫県立大学院工学研究科 電気系工学専攻 大日本印刷株式会社 情報コミュニケーショ 電子情報工学部門 准教授 倉本 圭 様 ン研究開発センター SP メディア研究所 所長 「リチウム二次イオン電池関係等のデータ解析事 例紹介およびスパコンを使った将来展望につ いて」 もたい五郎 様 【発表企業: 3 社】株式会社大木工藝、鷹羽産 業株式会社、マイクロ波環境化学株式会社 21 【見学会】ソリューションスクエア(ショールー ム)見学会 情報収受および産学連携に向けた意見交換を行い、関 連施設を視察した。 ○東北大学 サイクロトロン ・ラジオアイソトープセ 定例第 3 回:平成23年11月29日(火) ンターを訪問 サポート企業(池田泉州キャピタル)コラボレー 石井慶造センター長を訪問し、福島県の放射能除染 ション企画「水都大阪 ・水魚の交わり IGC ベ 対策の現状および今後の課題や展望についての情報を ンチャーセッション2011」 収受した。 【基調講演】 「タタのグローバル戦略と日本にお ○みやぎ復興パークを訪問 けるビジネス事情」タタコンサルタンシーサー みやぎ産業振興機構およびソニー仙台の協力を得 ビシズジャパン社長梶正彦 様 て、みやぎ復興パーク(ソニー仙台テクノロジーセン 【発表企業: 3 社】 エフアイエス株式会社、篠 田プラズマ株式会社、中島工業株式会社 ター敷地内)を訪問し、施設概要、復興支援状況等の 情報収受、被災工場などを視察した。 定例第 4 回:平成24年 3 月16日(金) 京都商工会議所とのコラボレーションフォーラ ム 【取り組みご紹介】 「知恵産業のまち ・京都〜知 恵ビジネスのススメ〜」京都商工会議所 知恵 産業推進室 次長 梨木 孝宏 様 (4)その他≪ GCP 事業の活用≫ 【発表企業: 4 社】共進電機株式会社、株式会 海外企業向け窓口である大阪商工会議所を中心に、 社サーモグラフィティクス、株式会社タイムド 経済産業省補助事業である GCP 事業(グローバル ・ メイン、利昌工業株式会社 コネクト・プログラム事業)を活用し、海外各国での 事業 PR 及びマッチング支援等を実施した。 (3)DCP 東北視察会の実施 東日本大震災復興支援行事として、宮城県仙台市を 訪問した。現地の被災・復興状況を視察すると共に、 東北を拠点とする企業や大学と、DCP メンバー・サ ポート企業とのビジネスマッチングを創出し、被災地 への復興支援とすることを目的として開催した。 ○海外の優秀企業の招聘マッチング ①カナダ企業:平成23年 6 月29日(水) 【テーマ】関西 ・カナダ グリーンテックフォー ラム 【発表企業: 2 社】Switch Material 社、 Bionic Power 社 <主なプログラム> 日程:平成24年 3 月 1 日(木)〜 2 日(金) ○ DCP ビジネスフォーラム in 東北 優れた技術を有する東北企業によるプレゼン会を 実施。 ②英国企業:平成24年 1 月30日(月) 【テーマ】英国最先端テクノロジーセミナー 【発表企業:11社】ARM 社、Nexeon 社、XMOS 社、XJTAG 社、Neul 社、DigIN 社、Test and 【発表企業: 3 社】東北電子産業株式会社、株式会社 Verification Solutions 社、SDL ジャパン社、 プロスパイン、株式会社ミウラセンサー研究所 Nallatech 社、 Oxford Digital 社、 Software ○東北大学加齢医学研究所を訪問 Imaging 社 川島隆太教授を訪問し、脳機能研究動向についての 22 ○海外 PR 活動の実施 ①米国 いる医療・ヘルスケア、バッテリー、スマートコミュ ニティ等のテーマにアプローチを予定している。要素 平成23年 7 月12日(火) 技術の高度化だけではなく、様々な業種が関連した新 ・ 「InterSolar2011」参加 たなサービスの創出など、実用化や市場化に向けた戦 場所:モスコーンコンベンションセンター(サン 略的なビジネス連携活動を推進する予定である。 フランシスコ) また、新たなビジネスを創出するための支援機能を 平成23年 7 月13日(水) 有する商社、金融機関やベンチャーキャピタル、法律 ・ 「大阪ビジネスセミナー」参加 事務所等、サポート機関の充実についても積極的に取 場所:ホテル PARC55 り組みたいと考えている。 これまで推進してきたベンチャー・大企業間のク ②イスラエル ローズドマッチング事業は十分な周知広報を図り、引 平成23年11月15日(火)〜17日(木) き続き推進するとともに、プレゼンテーション会など 「WATECIsrael2011」参加 オープンな場でのマッチングイベントを定期的に開催 場所:TelAvivExhibitionCenter(テルアビブ) し、活性化を図る。 さらに、社会的に重要度の高いテーマ等について 4.今後の展開 は、本事業に参画している大企業メンバーを中心に構 我が国経済は、東日本大震災の影響による落ち込み 成する「DCP ビジネスシーズ戦略会議」において技 から回復しつつあるものの、円高や世界経済の減速等 術的・政策動向を把握し、将来的には大企業間連携に の影響を受け、次第に回復の動きがゆるやかになって よるプロジェクト推進も見据えながら、今後の関西地 きている。また、これまでにも増してグローバル競争 域での戦略を練っていく。 が激化し、「情報家電」等要素技術を駆使した日本製 本事業は電子 ・エネルギー技術分野でのイノベー 品はその国際的シェアが下落している。今後の経済活 ションを継続的に生み出していくためのプラット 性化のためには、これまで培ったIT・エレクトロニ フォームとして、国内外から高く評価されている取り クス分野での要素技術など、我が国が持つ知的財産を 組みである。KIIS では引き続き本事業を積極的に推 最大限に生かし、融合サービス産業創出に向けた取り 進するとともに、関西地域発のイノベーション創出の 組み等新たなイノベーション創出活動を実施していく ために努力していきたいと考えている。 必要がある。 一方、関西地域においては「関西イノベーション国 際戦略総合特区」が指定され、今後は医療やバッテ リー、スマートコミュニティ等の分野において市場 化、実用化、国際競争力向上に向けた取り組みが推進 される。 DCP 事業も 7 年目を迎え、事業も定常化し、これ までも一定の成果を上げてきたところであるが、今後 は従来の事業に加え、新たな方策を模索し具体的な成 果を導出することが求められている。 今後取り組む分野としては、エレクトロニクスやエ ネルギーシステムに加え、関西イノベーション国際戦 略総合特区において重点ターゲットとして設定されて 業務経歴 川口 貴史(事業推進グループ 研究員) ・2010年度より DCP 事業に従事 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) (前掲) 23 平成 23 年度 情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化事業 及び 関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事業 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) 当財団では、 「ビジネス・政策支援事業」として、関西地域の産業ポテンシャルを最大限 活用し、企業のネットワークを組成するとともに新事業 ・新産業創出を支援する各種活動 を推進している。平成23年度は経済産業省近畿経済産業局「地域新成長産業創出促進事業 費補助金(地域新成長産業群創出事業) 」のスキームを活用し、「情報家電系組込み産業振 興ネットワーク活性化事業」及び「関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事業」の 2事業を実施した。これらにより関西地域における電子技術 ・エネルギーシステム産業分 野での新事業創出活動を推進したところである。以下に概要を紹介する。 1.補助事業の概要 イルコンピューティング時代への進展を背景に、特に 経済産業省「地域新成長産業創出促進事業費補助金 スマートフォンやタブレット端末の普及が進んでい (地域新成長産業群創出事業) 」は、地域経済の活性化、 る。またスマートグリッドやスマートコミュニティ 競争力強化を図ることを目的としている。そのため、 等、次世代エネルギーシステムを実現するために必要 地域が有する多様な強みや特長、潜在力を積極的に活 な技術やデバイスとしてスマートハウス、スマート 用し、産学官等の様々な主体のネットワークを形成す メーター、電気自動車等があるが、これらをコント ることにより新たな成長産業群の創出・育成に資する ロールする情報技術が不可欠である。 取組を支援する。 加えて、昨年 8 月に発表された産業構造審議会・情 特に近畿地域においては、情報家電やリチウムイオ 報経済分科会「中間とりまとめ」においては、我が国 ン蓄電池等、電子技術やエネルギーシステム産業分野 が今後特定の事業分野・技術・市場への対応だけでは での企業・研究機関集積が顕著である。この潜在力を 十分に競争力を確保できない時代が到来(市場の競争 生かし、近畿経済産業局においては、先述の補助事業 構造が変化)するとして、IT融合による新たなシス として「次世代電子技術・エネルギーシステム産業創 テム産業創出を目指すとしている。 出事業」を推進している。 こういった新たな産業を下支えするのが、様々な機 平成23年度、当財団は本事業を活用し、 「ビジネス・ 器や製品に搭載されている「組込みシステム」であ 政策支援事業」の一環として、「情報家電系組込み産 る。関西地域には、大手家電・電子機器メーカーや大 業振興ネットワーク活性化事業」及び「関西新エネル 手住宅メーカー、エネルギー系企業等の集積に加え、 ギービジネス創出ネットワーク事業」の2事業を推進 基盤的技術を持つ組込みシステム系企業が多数立地し した。以下に両事業の概要と成果について報告する。 ている。また合わせて圏内各地域において組込みシス テム系企業の振興団体が複数存在する。今回の補助事 2.情報家電系組込み産業振興ネットワーク活 業は、これらの企業や各種団体をネットワーク化し、 性化事業 関西全体として組込みシステム関連ビジネスを積極的 (1)事業の背景と趣旨 に生み出すプラットフォームを構築するとともに、実 昨今、電子技術産業分野においては、本格的なモバ 24 際のビジネス創出活動を推進するものである。 (2)事業内容 本事業において推進した事業は主に以下の 4 つで ある。 ①情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化委 員会の開催 ②組込み企業データベース「組込みパワフル企業集 in 関西」の策定と公表 ③組込み総合技術展 EmbeddedTechnology2011 「関西パビリオン」におけるマッチングイベント の開催 ④組込み産業活性化フォーラムinKansai の開催 以下にそれぞれの概要を示す。 ①情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化委 員会の開催 組込みシステム産業分野における各種団体・プロ 図 1 情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化事業 の概要 <委員会> 平成23年 8 月 4 日(金)、11月10日(木)、平成24年 3 月26日(月)の 3 回開催 ジェクトの代表者や学識経験者等による事業実行委 員会を組織した。各地域や機関における活動の有機 的な連携・ネットワーク化を図るとともに、本事業 ②組込み企業データベース「組込みパワフル企業集 in 関西」 における各活動の実施方針及び評価体制等について 組込みシステム分野における受発注間の情報の非 検討・オーソライズを行った。 対称性を解消するため、関西組込み関連企業の技術 や得意分野を「見える化」し、関西の組込みシステ <委員>(敬称略) ム関連事業のポテンシャルを内外へ発信する取組を 中本 幸一(兵庫県立大学大学院応用情報科学研究 行った。 科)=委員長 組込みシステム関連企業の技術情報や得意分野、 大﨑 人士(独立行政法人産業技術総合研究所) 活動実績等を個票としてまとめ、冊子「組込みパワ 吉村 和己(組込みシステム産業振興機構) フル企業集 in 関西」及び PDF ファイルで展示会 門田 浩(社団法人組込みシステム技術協会) 等各所に PR した。 笠原 伸一(財団法人関西文化学術研究都市推進機 本データベースは昨年度事業終了後も継続して追 構) 加 ・修正作業を推進しており、平成24年 5 月現在 土井 滋貴(奈良工業高等専門学校) で77社の企業情報を掲載している。掲載ウェブサ 荒井 喜代志(財団法人関西情報・産業活性化セン イト URL は以下の通り。 ター) http://www.kiis.or.jp/kumikomi/db/ 坂野 聡(近畿経済産業局地域経済部情報政策課) =オブザーバ 小林 正人(ウィンゲート株式会社)=コーディ ネータ ③組込み総合技術展 Embedded Technology 2011 「関西パビリオン」におけるマッチングイベント 新たなビジネスマッチングの機会を希望する組込 み受注企業に対し、具体的な商談の場として、大規 模な専門展示会の場を活用した展示・商談マッチン 25 参加者数:149名 内容: 【基調講演】 「関西組込みシステム産業の活性化に 向けて」組込みシステム産業振興機構副理事長/ 財団法人関西情報 ・産業活性化センター 会長 森下 俊三 【技術講演】 「ディペンダビリティ保証技術の動向」 名古屋大学情報連携統括本部情報戦略室教授 山本 修一郎 氏 図 2 組込み総合技術展 Embedded Technology 2011 関西パビリオン出展風景 グ会を企画 ・運営した。具体的には平成23年11月 【ビジネス講演】 「日本の電子産業、再成長への期 待と課題」日経 BP 社 執行役員・日経ビジネス 発行人 浅見 直樹 氏 16日〜18日にパシフィコ横浜で開催された「組込 【政策講演】 「各団体における事業・取組みの紹介」 み総合技術展 Embedded Technology 2011」におい 近畿経済産業局 情報政策課 課長 坂野 聡氏、 て、関西の組込みシステム系企業15社及び振興団 組込みシステム産業振興機構 事務局長 体 5 団体が共同出展する「関西の組込みパワフル企 吉村 和己 氏、 業(関西パビリオン) 」を運営した。 財団法人関西文化学術研究都市推進機構 理事 展示会開催直後に出展者に対し実施したアン 二宮 清 氏 ケートでは、以後「商談につながりそうな案件」が 77件あるとの回答を得た。また展示会出展後 3 ヶ 【事業フレーム説明】財団法人関西情報・産業活性 化センター 石橋 裕基 月を経過した時点でその後の成果進展状況を確認し たところ、その後の商談により具体的に数千万円程 度の受注契約を締結した旨の案件があった。 ④組込み産業活性化フォーラム in Kansai 関西圏組込みシステム関連企業に対し、組込み関 連の最新技術及びビジネス動向情報を提供し、技術 力及び製品開発力アップを図る目的で、大規模な フォーラムを開催した。 「関西こそ組込みビジネスの拠点である」という ことを国内外に PR するため、組込みシステム産業 振興機構が主催する「第 1 回全国組込み産業フォー ラム」と同日開催とした。東北、九州、名古屋等各 地の組込みシステム関連振興団体が大阪に集結する こととなり、全国的な事業連携ネットワークが構築 できた。 日時:平成24年 1 月24日(火) 13:00〜17:30(交流会17:30〜) 場所:帝国ホテル大阪 5 階 八重の間 26 図 3 組込み産業活性化フォーラム in Kansai (3)事業の成果と評価 め、特に「リチウムイオン蓄電池分野におけるビジネ 本補助事業において、特に事業③「組込み総合技術 ス情報提供」 、「家庭用定置型燃料電池システムに対す 展 Embedded Technology 2011」におけるマッチング る技術提案マッチング」 、それに「地域エネルギーマ イベントでは、展示会直後に出展15企業合わせて77 ネジメントシステム(EMS)を核とした新たなビジ 件の継続見込み案件が得られた。これらのうち20件以 ネスモデルの検討」に焦点を当て、それぞれのテーマ 上が具体的な商談として進展し、しかもそのうち数件 に合ったネットワーク活動を推進した。 については既に受発注契約が成立している。継続商談 中の案件を合わせ、商談・契約金額総額は数千万円に 及ぶ。加えてこれらの案件の中には、今後の受注拡大 (2)事業内容 本事業は以下の 3 つのサブテーマを設定し推進した。 に発展する可能性のある案件が多く含まれており、多 ①蓄電池ビジネス機会創出フォーラムの実施 くのビジネスマッチング成立が期待できる。 ②家庭用定置型燃料電池技術マッチング事業の実施 また本年度事業を通じ、フォーラム事業等におい ③低炭素社会システム・ビジネスモデル研究会の開催 て、全国の組込みシステム産業振興団体とのネット 以下にそれぞれの概要を示す。 ワークが構築できた。今後各種のイベントやビジネス マッチング事業等を推進する上で、互いの企業情報や ①蓄電池ビジネス機会創出フォーラム 地域ポテンシャル等を勘案し、連携による取り組みが 今後の我が国エネルギーシステムの中で重要な役 できると期待できる。その際、今年度本事業において 割を占める「蓄エネ」領域について、リチウムイオ 作成した「組込みパワフル企業集 in 関西」をメンテ ン電池を中心とする二次電池分野での企業参入を促 ナンス・継続使用することで、受発注企業間の情報非 進するため、最先端の技術動向及びビジネス動向を 対称性が解消でき、結果として地域内企業の受発注促 紹介する情報提供イベントを実施した。 進につながると考える。 日時:平成24年 2 月 7 日(火) 13:30〜17:15 3.関西新エネルギービジネス創出ネットワー ク事業 (1)事業の背景と趣旨 場所:追手門学院 大阪城スクエア 大手前ホール 参加者数:171名 平成23年12月に第一次指定を受けた、大阪・京都・ 内容: 神戸を主たるエリアとする「関西イノベーション国際 【基調講演】 「我が国蓄電池開発における現況と将 戦略総合特区」においても、我が国産業の競争力確保 来展望」旭化成株式会社 フェロー/技術研究組 として極めて重要で、かつ人々の生活にも密着した分 合リチウムイオン電池材料評価研究センター理 野である「バッテリー」 「スマートコミュニティ」が 事長 吉野 彰 氏 重点分野として位置づけられている。これは関西圏に 【マーケット ・技術展望講演】 「取引構造からみる おける新エネルギー分野の企業・研究機関とそれらを リチウムイオン電池関連産業の分析」株式会社帝 下支えする基盤技術の集積をポテンシャルとして、新 国データバンク産業調査部長小松崎五郎氏 たな技術や産業が次々と生み出されるよう、国レベル 【事例発表①】 「三菱自動車の電気自動車に関する での振興活動として推進されているものである。 取り組み」三菱自動車工業株式会社 EV ビジネ 本事業は、新エネルギー分野におけるこれらのポテ ス本部 上級エキスパート 和田 憲一郎 氏 ンシャルを背景に、より具体的なビジネスが生み出さ 【事例発表②】 「時代を創るスマートハウス〜「Smart れるよう、中堅・中小企業をも巻き込んだ新たな新事 xevoEcoproject」の取り組み」大和ハウス工業株 業創出ネットワークを推進するものである。そのた 式会社総合技術研究所所長代行 有吉 善則 氏 27 (c)企業からの提案内容(カッコ内は件数) 熱交換器(4) 弁類(3) 継手部(2) SOFC 集電材用ステンレス材(1) PEFC 用金属セパレータ(1) その他(4) ③低炭素社会システム・ビジネスモデル研究会 図 4 蓄電池ビジネス機会創出フォーラム 吉野 彰 氏 スマートグリッドやスマートコミュニティによ る低炭素社会実現においては、キーテクノロジー 【事例発表③】 「二次電池用電極塗工技術の変遷と として地域エネルギーマネジメントシステム(地域 現状課題」株式会社ヒラノテクシード研究開発部 EMS)が重要である。地域 EMS を普及させるため 研究開発課部長代理 森井 紀雄 氏 には、当該地域 EMS システムによるエネルギーコ スト削減効果に加え、地域 EMS インフラを活用し ②家庭用定置型燃料電池技術マッチング た新たなサービスや製品が生まれ、それによる利便 家庭用定置型燃料電池は、エネルギー効率が良 性向上等付加価値が必要となる。 い次世代「創エネ」システムとして期待される一 本事業では、地域でのエネルギー関連ビジネス 方、広範囲での普及のためにはその価格がネックと に関連し知見を有する企業等による検討会議を組 なっている。低価格・高品質(高耐久性)の商品を 成し、地域 EMS 及びスマートコミュニティの普及 開発するため、特に燃料電池システムにおける「補 に資する「ビジネスモデル」を検討した。検討にあ 機」部分に着目し、中小ものづくり企業による新 たっては、具体的なモデルを検討する「分科会」を たな加工技術や部品 ・部材の提供等を大手セット 2 グループ組成し、それらの検討に対しビジネス拡 メーカー 2 社(大阪ガス株式会社、パナソニック株 大等の視点からアドバイスを行う「研究会」を立ち 式会社)とマッチングさせる事業を推進した。 上げ、議論や調査、検討を行った。 <個別商談会の概要> (a)大阪ガス株式会社とのマッチング会 <検討委員会委員>(敬称略) 千田 二郎(同志社大学理工学部)=委員長 日時:平成24年 2 月22日(水) 深野 行義(大阪ガス株式会社) 13:00〜17:45 藤井 裕三(関西電力株式会社) 場所:ハービス PLAZA 水上 潔(株式会社日立製作所) 提案企業数: 6 社 小林 純雄(株式会社日立製作所) 松崎 正(三菱電機株式会社) (b)パナソニック株式会社とのマッチング会 鈴木 浪平(三菱電機株式会社) 日時:平成24年 2 月28日(火) 木村 文雄(積水ハウス株式会社) 13:00〜17:30 井上 猛(阪急不動産株式会社) 場所:ハービス PLAZA 雪定 登(アイテック阪急阪神株式会社) 提案企業数: 8 社 谷口 裕昭(西日本電信電話株式会社) 畑中 直樹(株式会社地域計画建築研究所(アル 28 パック) ) 会社、株式会社コミューチュア、シーレックス株式会 泉 勇策(特定非営利活動法人ワット神戸) 社、中央電設株式会社、株式会社日本環境取引機構、 石川 憲昭(アイマーケ株式会社)=事業アドバイ 福西電機株式会社、明花電業株式会社 ザー 近畿経済産業局資源エネルギー環境部=オブザーバ 趣旨: 地域 EMS 及び省エネ診断制度に対応した仕組み < EMS 次世代ビジネス分科会> (機器、ネットワーク、システム等)が導入された環 メンバー:畑中 直樹(株式会社地域計画建築研究所 境を想定し、そのインフラを最大限活用した、地域に (アルパック) )=座長 何らかのメリット(インセンティブ)を与える仕組み アイピー・パワーシステムズ株式会社、 株式会社 やサービスを検討した。 NTT スマイルエナジー、大阪ガス株式会社、シャー プ株式会社、積水ハウス株式会社、大和ハウス工業株 <活動成果報告会の開催> 式会社、東急不動産株式会社、阪急不動産株式会社、 日時:平成24年 3 月 8 日(木) 株式会社フルタイムシステム 15:30〜17:00 ※「第 2 回関西低炭素 ・エネルギー産業創造 懇話会」の第 2 部として実施 趣旨: 集合住宅等におけるさまざまな管理システムと 場所:大阪合同庁舎 1 号館 EMS を組み合わせ、そこに利用者に利便性や快適性 第 1 別館 2 階大会議室 を提供できる、さまざまなサービスをアドオンしたシ 内容: ステムの概要及びビジネスモデルを検討した。 【基調講演】 「環境 ・エネルギー問題と今後の持続 可能な都市社会について」同志社大学理工学部エ ネルギー機械工学科 教授 千田 二郎 氏 <経済的インセンティブ検討分科会> メンバー:泉勇策(特定非営利活動法人ワット神戸) 【活動報告】 「低炭素社会システム ・ビジネスモデ =座長 ル研究会活動報告」財団法人関西情報・産業活性 NPO 法人近畿エネルギー・環境高度化推進ネット 化センター事業推進グループ 主任研究員 石橋 ワーク(NPO-EE ネット) 、アイテック阪急阪神株式 裕基 表 1 分科会での検討内容 ■ EMS 次世代ビジネス分科会 シンプルエネルギーモニタ エネルギー「見える化」端末について、汎用的なタブレット端末等を用い、操作性の向上を図るとともに、将来 に向けた機能拡張性も実現する ECO サポートシステム付きマンション インテリジェントな分電盤やガスメータによる、電力・ガス需給のサポート機能を実現 『棟』向け情報サービス 蓄電池、EV、電動アシスト自転車、太陽光発電など、複数住戸により共有できる高効率機器・設備が充実(可能 な場合は給湯設備や空調などもシェア) 。賃貸住宅を対象とする場合には、家賃 ・管理費に加え「予想光熱費」 を表示することで利用者の利便性向上を図る 長期的・面的エネルギーマネジメント 複数の集合住宅でのエネルギー管理及び付帯サービスの提供を行うことで、さらに広範囲の地域でのエネルギー マネジメントインフラが整う。各地域 ・各棟のエネルギー効率化を図るとともに、地域全体でのエネルギーマネ ジメントを行う。 ■経済的インセンティブ検討分科会 Face to Face による家庭 ・中小企業 ・ビル 等省エネ診断サービス(基本サービス) 省エネ診断員が家庭や中小企業、ビル等を個別訪問し、現状のエネルギー使用や機器等の状況をチェック、省エ ネに向けた運用改善や機器更新提案 ・コンサルティングを実施。 「見える化」端末の導入により計測、診断結果 提示までは自動化可能。地域の商店(電器店、工務店、リフォーム店等)とタイアップし、新機器導入コンサル ティングを地元企業・商店等における集客と売上増につなげる。 アドオンサービス 基本サービスが推進されている地域内で、さらなるビジネス拡大につながるような追加サービスを検討した。 (商 店街等を巻き込んだ「地域エネルギーマネジメントポイント」の運用、見える化端末を活用した広告配信やクー ポン配信、ゲーム利用等) 29 (3)事業の成果と評価 果については引き続き KIIS がフォローアップし、成 蓄電池ビジネス創出フォーラムにおいては、多くの 果結実に向け継続的に事業を推進する予定である。 中堅・中小企業に対し、蓄電池そのものの技術・ビジ そのため、当財団では平成23年度に活用したような ネス動向だけでなく、周辺や応用分野における新たな 経済産業省等補助スキームを今後も継続的に獲得し、 ビジネス可能性についての情報提供ができた。来場者 国としての政策的支援も受ける形で、「ビジネス ・政 から講師に対する具体的な問い合わせ等もあり、今後 策支援事業」を推進したいと考えている。 のビジネスマッチングに期待が持てる。 今後、KIIS のミッションである「関西地域の経済・ 家庭用定置型燃料電池技術マッチング事業において 産業活性化支援」に向けて、より大きな成果を生み出 は、大手燃料電池メーカーである大阪ガス株式会社、 すための工夫と努力を継続的に推進していく。賛助会 パナソニック株式会社に対しそれぞれ 6 社、 8 社の 員各位には一層のサポートと積極的な事業参加をお願 技術シーズを提案し、個別面談を行った。いくつかの いしたい。 案件についてはこれまで大手メーカーの探索範囲にな かったもので、大手メーカー側での技術・製品採用に 向けて既に動き出している。 低炭素社会システム・ビジネスモデル研究会におい ては、分科会を中心に、地域 EMS の普及を後押しす るための各種ビジネスモデルについて詳細な検討を 行った。これらの検討結果は各社の技術シーズや各地 で推進されている実証実験結果等と合わせ、早期に具 体的なビジネス化に向けた展開が可能なテーマであ る。今回の検討成果には一部の地域が興味を示してお り、分科会、研究会に参画した主要プレイヤーを中心 に、フィージビリティスタディ事業等への進展、ある いはさらに足早に、具体的なビジネスコンソーシアム 設立に向けた足がかりとなっていくことが期待できる。 4.総括と今後の展開 以上、当財団が経済産業省補助金を活用し、平成23 年度に推進した 2 つの新事業 ・新産業創出活動につ いて概要と主な成果を報告した。 いずれも関西における産業ポテンシャルを生かし、 より具体的なビジネスにつなげていくためのネット ワーク活動として、一定の成果を生み出した。しかし これらの事業成果は一般的には形になるまでに長期間 の調整が必要な場合が多く、これから実を結んでいく 案件も数多く残されているはずである。経済産業省の 補助スキームにおいても、事業終了後 5 年間の成果 フォローが条件として付されている。よって平成23年 度に構築した企業・団体ネットワークやマッチング成 30 業務経歴 石橋 裕基(事業推進グループ 主任研究員) (前掲) 平成23年度次世代高信頼・省エネ型IT基盤技術開発・実証事業 (中小企業利活用基盤整備事業) 西田 佳弘(事業推進グループ リーダー) 当財団では、近畿地域の IT ベンダが提供するクラウドサービスと、それを活用する地 域ユーザの増大を図るために、地域のユーザ、ベンダ、各種支援機関(金融機関、商工会 議所等)で形成するコミュニティのあり方について検討した。具体的には、①中小企業の IT 化促進とビジネス発掘を目的に自立して活動する地域組織づくり、②企業の経営相談か ら IT 化案件を発掘するための仕組み、③中小 IT ベンダがクラウドビジネスへ参入するた めの新たなビジネスモデル、④中小 IT ベンダがクラウドサービスをユーザに提供するた めの課題や対応策、以上4つの視点から検討するために、それぞれ研究会を設置した。本 稿では、そのうち②、③の検討結果について報告する。 1.事業の背景及び目的 グローバル化する経済の中で、中小企業は競争力強 2.中小ユーザIT利活用研究会 (1)事業概要 化、生産性向上が喫緊の課題であり、その課題解決の 本研究会では、経営課題を抱えている中小企業か ためにはIT利活用が必要不可欠であるが、大企業に ら、IT利活用による課題解決が効果的な中小企業を 比べ情報技術の知識や活用能力、人材、IT投資額等 発掘するために、日頃から中小企業との接点が強い金 において不十分な状態にある。 融機関の法人担当等に着目し、その方々が顧客から受 この問題点に対して、経済性かつ利便性の高いクラ ける相談内容の解決手段として、IT、特にクラウド ウドコンピューティングの利活用を中心に、中小企業 サービスの活用を常に考えることができる方策につい のIT利活用の促進と中小ITベンダのクラウドサー て検討することを目的とした。 ビスの展開との連携強化が有効であると考えられる。 そのために、金融機関の顧客担当等が取引先企業に 近畿地域においては、大手ITベンダと中小ITベ 対して、IT利活用により経営課題の解決につながる ンダとが共存しており、相互補完することで、地域産 ツール「IT経営ガイドブック」を作成し、利用方法 業のIT利活用が促進されると考えられる。 について「IT経営ガイドブック説明会」を開催した。 そこで、当財団では、近畿地域のITベンダが提供 ガイドブックには、クラウドサービスの特徴、中小 するクラウドサービスと、それを活用する地域ユーザ 企業のクラウド利活用に関するメリット、IT利活用 の活性化を促進するために、地域コミュニティの役 の取り組み事例等を記載した。 割、自立化のための方策等について検討した。 このガイドブックを活用して、ITを効果的に活用 本稿では、IT化案件を発掘するための仕組みを検 して、自社の経営課題の解決を希望する企業の発掘及 討した「中小ユーザIT利活用研究会」及び中小IT びガイドブックの効果について検討した。 ベンダがクラウドビジネスに参入するための新たなビ (2)検討結果 ジネスモデルを検討した「大手・地域ベンダ連携研究 「IT経営ガイドブック説明会」に参加した金融機 会」の検討結果について述べる。 関の受講者を対象にアンケートを実施した。その中 で、 「日頃より受ける経営相談の内容」については、 「事 31 業継承」 、「税務、財務」に関する相談が多く、IT関 連の相談がきわめて少ないことが分かる。しかし、金 融機関の顧客担当者が「IT経営ガイドブック説明 会」を受講後のアンケート結果では、企業訪問等によ り受ける経営全般の相談の中からIT化により課題解 決につながると思われものが半数強となっており、効 果的なIT活用が課題解決につながると認識されたも のと思われる(図 1 、図 2 参照) 。 表 1 IT 化案件抽出企業の概要 業 種 売上(百万円) 紳士服製造・販売 従業員数(人) 相談分野 販売 ・生産指図の 管理 事業計画 (マーケティング) 491 28名 600 7名 1,950 24名 水産卸、小売 3,000 40名 広告デザイン 建築用塗料、 資材販売 金物総合卸 − 個人事業主 経営計画 (業務拡大) マーケティング 1,300 10名 マーケティング 病院、学校等向け 給食 婦人靴販売 (直営店 8 店舗) 500 52 経営改善計画 販路拡大 1% 3% 8% 46% 42% 図 3 IT経営ガイド活用に対する顧客の反応 図 1 企業から寄せられる経営相談 「IT経営ガイドブック」を活用した金融機関の顧 客担当から、業種別IT活用事例の追加、顧客に配布 するチラシの提供やIT導入効果が分かる記載の追加 等の要望があった(図 4 参照) 。以上の意見を踏まえ、 平成24年度は、IT経営ガイドブック改訂版を作成 し、IT化案件の発掘を目指す。 図 2 IT化で解決が見込まれる相談(説明会開催後) 図 4 IT経営ガイドブックに対する要望 「IT経営ガイドブック説明会」開催後、金融機関 の顧客担当が、ユーザ企業から受けた経営相談の中か また、今回発掘したIT化案件は、IT化計画を策 ら、IT経営ガイドを活用して、IT化により課題解 定するために専門家の指導が必要不可欠である。 決につながると想定されるケースを7社発掘した(表 現行の活動では専門家の紹介は可能であるが、発掘 1 参照) 。 した企業に対してIT化計画書の作成からITベンダ 7 社については、専門家を対象企業に派遣して、相 への提案依頼、マッチングまでを支援することができ 談内容を確認の上、経営課題の抽出等IT化計画に向 ない。 けての準備をすすめている。 このため、国の施策である中小企業支援ネットワー 金融機関の顧客担当に対して、ユーザ企業からの経 ク強化事業等、各種支援機関が実施している各種専門 営相談を受けた時に、IT経営ガイドの活用状況につ 家派遣制度と組み合わせてユーザ企業のIT化計画書 いてアンケート調査を行った結果、約1割が経営相談 作成をフォローアップするための仕組みが必要とな につながり、そのうちIT相談につながったケースも る。IT化案件の発掘からIT導入までの流れ及び派 みられた(図 3 参照) 。 遣制度の活用を示したものを図 5 に示す。 32 参入状況等を把握し、クラウドビジネスへ参入するた めの課題を抽出するとともに、参入のための必要機能 について検討することを目的としてアンケート調査を 行った。さらに、アンケート調査結果を補完するため に、ヒアリング調査を実施した。 また、アンケートやヒアリング結果を踏まえ、中小 ITベンダがクラウドビジネスへ参入するために、大 手ITベンダと中小ITベンダ、中小ITベンダ同士 図 5 IT化案件の発掘からIT導入までの流れ (3)まとめ及び今後の課題 が連携して新たなサービスを構築するための仕組み 「関西クラウド構想」について検討した。 さらに、関西地域の大手・中小ITベンダ及び交流 本研究会の活動を通じて、IT経営ガイドを活用す 会参加者を対象に、この構想及びクラウドビジネス参 ることにより、経営相談の中からIT化で解決が見込 入の可能性についての意見を求めるために、関西地域 まれる案件を発掘することができた。 のベンダの協業やパートナーとの連携を促進すること また、金融機関の顧客担当者がIT経営ガイドブッ を目的とした交流会を開催した。 クを活用する説明を受けたことにより、ユーザ企業の 経営改善に対して、IT化による効果を理解し、積極 (2)検討結果 的にIT活用を進める結果となった。 ここでは、関西地域の中小ITベンダを対象とした 一方、経営相談の中からIT化案件を増やすために アンケート、ヒアリング調査結果、及び関西クラウド 検討すべき課題も明らかになった。その方策を以下に 構想について記載する。 示す。 1)アンケート・ヒアリング調査結果 ・相談案件を進めるに当たり、有償・無償の範囲やそ 関西地域のITベンダを対象に「関西地域にお れに伴う費用を提示する ・IT経営ガイドブックにIT導入による効果や事例 企業を増やして企業へ配布する けるクラウドビジネスに関する調査」アンケート、 ヒアリング調査結果のまとめを以下に示す。 クラウドビジネスについては、大手ITベンダ ・相談企業のIT化に対する負担を軽減するために各 は、プライベートクラウド市場の開拓を主体とし 種支援機関が実施している専門家派遣制度のとの連 た戦略をとっている。中小ITベンダは、クラウ 携を図る ド事業への転換を考えているが、初期投資コスト、 技術的な要因等が課題となっている(図 6 参照) 。 3.大手・地域ベンダ連携研究会 (1)事業概要 中小ベンダがクラウド時代に生き残るためには、中 小ベンダ間や中小ベンダと大手ベンダがクラウドサー ビスの中で連携していくことが求められている。その ためには、クラウドビジネスの参入に対して、中小ベ 図 6 従業員規模別クラウド事業への取り組み ンダが抱えている問題点の洗い出しや具体的な連携方 ベンダのビジネス環境については、中小ITベ 策を検討する必要がある。 ンダの開発業務においては、受託開発型の占める 本研究会では、関西地域のITベンダを対象に、ク 割合が高く、案件も減少しており、経営に対する ラウドビジネスに関する意識、クラウドビジネスへの 危機感が強い。 (図 7 参照) 。 33 ことが予測される。しかし、中小ITベンダの中 には、ユニークなアプリケーション、ニッチでパー ツとして利用できるアプリケーションを所有して いる企業が見られる。 そこで、このような中小ITベンダが所有する 図 7 従業員別規模別事業領域 アプリケーションを他の中小ITベンダや大手 ITベンダのアプリケーションやサービスと連携 大手ITベンダ、支援機関に対する要望として、 することにより、販売チャネルの拡大や SaaS のカ 中小ITベンダは、開発のための支援情報や大手 スタマイズ受注につながると考えられる。 ベンダとの協業するための情報、専門家の支援等 ここでは、中小ITベンダがクラウドビジネス を要望している(図 8 参照) 。 へ参入するために、大手ITベンダと地域ITベ ンダ、中小ITベンダ同士が連携して新たなサー ビスを構築するための仕組みについて検討した。 以下にその内容について述べる。 この仕組みは、関西地域の中小ITベンダがク ラウドビジネスへ参入(クラウドサービスを提供) して、地域ユーザ企業のIT化を促進し、地産地 消型ビジネスモデルを構築することを目的とする。 そこで、中小ITベンダを対象としたアンケー 図 8 大手ITベンダ、行政に対する中小ITベンダの要望 ト結果から、クラウドビジネス参入のために、次 インフラ ・ファシリティ関連については、中小 の 4 つ「① SaaS 開発・運用環境の提供、②新たな ITベンダは、海外事業者の iDC を利用しており、 SaaS サービスの支援、③地域ベンダの発掘、④関 国内事業者の iDC は、ほとんど利用されていない。 西発クラウド情報発信」の機能が求められている。 この理由として、国内事業者の iDC は、高度な それぞれの機能について以下に述べる。 サービスに伴い価格が高いため、最低限必要なサー ① SaaS 開発・運用環境の提供 ビスに応じた価格を選択できないといった意見が SaaS 開発 ・運用環境では、IaaS、PaaS を所有す あった(図 9 参照) 。 るベンダが SaaS 運用ベンダに安価で提供することに より、開発された SaaS オブジェクト(中小ITベン ダが所有するアプリケーションを SaaS 化して、それ ぞれのアプリケーションが結合できるようにしたも の)をプラットフォーム上で結合する(図10参照) 。 図 9 iDC の利用状況 2)関西クラウド構想 アンケート調査、ヒアリング調査を踏まえ、中 小ITベンダの状況から、受託開発型業務の圧倒 的な減少により、経営基盤がますます脆弱となる 34 図10 SaaS 運用環境の提供イメージ ②新たな SaaS サービスの構築 関西のベンダ企業が得意とするアプリケーション の情報を集積して、新しい SaaS サービスの構築を 支援する。集積したアプリケーション情報を SaaS オブジェクトの情報として、データベース化する。 大手ITベンダと中小ITベンダ、あるいは複数 の中小ITベンダで連携し、データベースに登録 された SaaS オブジェクトを組み合わせて、新たな SaaS サービスの構築に資する(図11参照) 。 図13 関西発クラウド情報発信のイメージ ドビジネスに参入するための課題を明確にするため に、中小ITベンダを対象としたアンケート調査を実 施した。さらに、アンケート調査結果より明らかに なった課題を解決するために必要な 4 つの機能を備 えた仕組みを検討し、大手ITベンダと中小ITベン 図11 新しい SaaS サービスの構築イメージ ダ、中小ITベンダ同士の連携による新たなクラウド 参入のための仕組みを提案した。この仕組みを総称し ③地域ITベンダの発掘 て「関西クラウド構想」と呼ぶことにする。 関西ならではのサービスを提供するために、テー しかし、今後の課題として「関西クラウド構想」 マを決めたイベント(アワード、コンテスト)を開 を実現するためには、 4 つの機能の詳細な検討(① 催し、SaaS 化すればよいアプリケーションを発掘 SaaS 開発 ・運用環境の提供、②新たな SaaS サービ する(図12参照) 。 スの構築、③地域ITベンダの発掘、④関西発クラウ ド情報発信)を行う必要がある。さらに、関西企業の クラウドサービスのデータベースの構築、具体的な組 織づくりや運営方法の検討を行い、「関西クラウド構 想」を推進することが求められる。 また、「関西クラウド構想」の機能設計を行うため 図12 地域ベンダの発掘イメージ ④関西発クラウド情報発信 データベースに登録された SaaS オブジェクトの 情報は、関西クラウドのポータルサイトより、情報 発信する。 大手ITベンダや中小ITベンダは、このポータル サイトから SaaS オブジェクト情報を検索し、顧客ニー ズに応じた新たな SaaS サービスを構築する(図13) 。 (3)まとめ及び今後の課題 本研究会では、地域のITベンダが連携してクラウ に、国を始めとする行政機関や関連団体に対して、予 算計上の働きかけを行うとともに、研究会メンバーの 継続的な参加及び役割等を明確化していく必要がある。 業務経歴 西田 佳弘 (事業推進グループ リーダー) 戦略的情報化投資活性化事業 (ITSSP) (2001〜2004) 関西 IT 経営応援隊事業(2004〜2008) IT 経営応援隊経営者・CIO 育成研修会事業 (2004〜2008) 関西イノベーションパートナーシップ事業(2009) 新成長産業分野IT経営モデル事業 (調査研究) (2010) 新成長産業分野 IT 経営モデル事業(IT 利活用促進 事業) (2010) 農商工連携人材育成事業(2011) 35 セキュアサポート事業 −安心 ! 簡単 ! パスワード共有サービスのご紹介− 坊農 豊彦(情報化推進グループ) 当財団では、健全な高度情報化社会確立のためにセキュアサポートサービス事業を実施 していますが、その一環で、電子メールにてファイル交換を行う際、安全に相手へパスワー ドを送るための ASP サービス「安心!簡単!パスワード共有サービス」の提供を始めま したので、ご紹介いたします。 インターネットが社会に普及し、その利用が企業 ・組織のビジネスにおいても、いまや 欠かせないものになっています。特に企業間の情報のやり取の手段として電子メールが日 常的に利用されていますが、情報漏洩等の情報セキュリティ面において十分留意する必要 があります。 一般的に電子メールでのファイル交換のやり取りでは、ファイルを暗号化して送信して いますが、暗号化の手順やパスワードの交換に手間が掛り、ついつい対策が疎かになるの で、必ずしも安全な状態であるとはいえないのが現状です。 「安心!簡単!パスワード共有サービス」をご利用いただきますと、利用者は、「暗号化 する」ことを意識せず、添付ファイルを送信するだけで自動的にファイルを暗号化し、安 全に相手に送ることが可能になります。以下、 「安心!簡単!パスワード共有サービス」の システムの概要を説明いたします。 1.添付ファイル暗号化に関する課題 (1)添付ファイル暗号化の重要性 ルの数が増えてくると、わずらわしい作業となり、暗 号化をしなかったり、きわめて安易なパスワード(電 職場にあるパソコンで客先から送られてくる電子 話番号下 4 桁等)を使ってしまい、情報流出の原因に メールの添付ファイルを開こうとしたら、パスワード なる恐れになります。 の入力を求められるケースが増えています。これは相 これらのリスクを避けるため、添付ファイルを自動 手が情報セキュリティ対策として、添付ファイルを暗 的に暗号化して送信する仕組みを既存の電子メールシ 号化しているからです。 ステムの中に組込み、電子メール利用者に「添付ファ 2005年 4 月から個人情報保護法の施行やプライバ イルを暗号化する」という作業を意識させないシステ シーマーク制度の普及により、企業における個人情報 ムの構築を目指しました。 の取扱いは、厳格化されてきましたが、現在において も情報漏洩事故が絶えません。 (3)パスワードの課題 今後、企業における情報漏洩防止を強化する上で 現在、主流になりつつある、添付ファイルを暗号化 も、電子メールの添付ファイルを暗号化することの重 して送信する仕組みは「暗号化している」という理由 要性は、ますます高まると思われます。 だけで万全の対策を講じているように感じられます が、大きな落とし穴があります。 (2)添付ファイルの暗号化 それは、暗号化された添付ファイルを復号するパス 送信者が、添付ファイルの暗号化をしようとする ワードは、別便の電子メール(平文)にて、相手に送 と、暗号化ソフトを用意しなければなりません。しか るケースが多いことです。もし悪意の第三者が電子 し添付ファイルを送るたびに暗号ソフトを起動し、パ メールの添付ファイルを盗聴できたなら、パスワード スワードの設定をするのは面倒な操作です。電子メー を平文で記した別便の電子メールも盗聴されることは 36 確実です。これでは暗号化の意味がありません。 このように別便の電子メールでパスワードを送るこ 2. 「安心 ! 簡単 ! パスワード共有サービス」 (1)課題の解決 とは、安全に添付ファイルを相手に送る手段になって 前述したように添付ファイルを暗号化して送信する いないのが現状の課題です。また、桁数の短いパス 際、別便の電子メールでパスワードを送ることには欠 ワードにすると、解読ツールを使い短時間で解析され 点があります。しかし汎用性や利便性が高いことか る危険性もあります。 ら、この仕組みをベースとして、新たなパスワードの 伝達方法を考えることが、より現実的であると判断し ました。 そこで当財団では、パスワードの送信を Web 経由 で安全に相手へ伝達できる「安心 ! 簡単 ! パスワード 共有サービス」 (Web 版)を開発し、サービスを開始 しております。更に株式会社ギデオン様のご協力によ りゲートウェイ版の利用が可能となります。 ゲートウェイ版の大きな特長は、自社のネットワー 図1-1 第三者が電子メールを盗聴される危険性 ク上に「自動暗号化メールゲートウェイ(仮称)装置」 (以下、「暗号化 GW」 )を設置するだけで、送信メー ルに添付されているファイルを自動的に ZIP 形式の 暗号化ファイルに変換して送出することにあります。 その際、32桁のパスワードが自動的に生成されます。 受 信 者 は、SSL 通 信 1 で パ ス ワ ー ド 共 有 サ ー バ 「Whisper」にアクセスしてパスワードを入手します。 本サービスの特長は下記のとおりです。 ・暗号化 GW を通過する送信メールの添付ファイ ルは、自動的に暗号化されます(暗号化 GW の 設置場所を工夫すれば、社外向け宛先の添付ファ イルは暗号化、社内向け宛先の添付ファイルは非 暗号化として送信できます) 。 ・暗号化した添付ファイルのパスワードは、パス 図1-2 添付ファイルを自動暗号化するための 暗号化 GW の設置図 ワード共有サーバ「Whisper」に保管され、受信 者は、「Whisper」に Web(SSL 通信)アクセス してパスワードを入手します。 1 :Netscape Communications社が開発した、インターネット上で情報を暗号化して送受信するプロトコルです。現在イン ターネットで広く使われているWWWなどのデータを暗号化し、プライバシーに関わる情報やクレジットカード番号、企業秘密 などを安全に送受信することができます。 37 ・受信者は、 「ZipTheRipper2」を使えば、暗号化さ ドをお預かりしました」 )が届きます。 れた添付ファイルをパソコンのデスクトップ上 2)受信者の操作 にある「ZipTheRipper」ウィジェット画面にド 受信者は、相手から送信された添付ファイル(暗 ラグ & ドロップするだけで自動的に復号するこ 号化済)メールと「Whisper」から通知メール( 「パ とができます。 スワードをお預かりしました」 ) が届きます。 ・受信者が「Whisper」にてパスワードを入手した 「Whisper」通知メールには、「Whisper」の登録 際、受信者宛てにパスワードを受信した確認メー 者に対しては、 「Whisper」へログインする URL 記 ルが「Whisper」より通知されます。そのため、 載され、未登録者に対しては、ワンタイム URL が 他人による不正受信もすぐに検知できます。 記載されています。 ・送信後に宛先ごとの受信ロックが可能です。 受信者は、その URL にアクセスすることにより、 万一誤送信してしまった場合は、送信履歴画面か パスワードを入手できます(図1-4参照)。入手で らロックできます。 きるパスワードは、 1 度限りであるため、パスワー ドが流出する心配がありません。 図1-3 「安心簡単パスワード共有サービス」システム概要 (2)操作手順 1)送信者の操作 図1-4.「Whisper」のブラウザ画面 なお復号の際に、パスワード共有サービス対応 の復号ツール「ZipTheRipper」を使えば、パソコ 送信者の操作は、これまでと何ら変わりありませ ンのデスクトップ上にある「ZipTheRipper」ウィ ん。日頃お使いのメールソフトで、電子メールにファ ジェット画面(図1-5. 参照)に目的の暗号ファイ イルを添付して送信するだけで、自動的に暗号化され ルをドラグ&ドロップするだけで自動的にパス ます。その際、 「Whisper」から通知メール( 「パスワー ワードを取得し復号することが可能です。 2 :このソフトウェアは、一般財団法人関西情報センター(KIIS)が提供する、「安心!簡単!パスワード共有サービス」を より便利に活用するためのツールです。 【暗号化Zipファイル自動生成機能】 暗号化したいファイルをドラグ&ドロップするだけで、自動的に32桁のランダムなパスワードを設定し、暗号化ファイル (ZIP形式)を生成します。 【暗号化ファイル自動復号機能】 暗号化ファイルを復号した際に使用したパスワードを自分だけの鍵束へ追加保存し、以後の復号時に全て試して復号を試み ます。このため、一度復号に成功したファイルについては、二度とパスワードを必要とせず、自分だけが安全に開くことが できます。 38 図1-5 「ZipTheRipper」ウィジェット画面 3.おわりに 本稿では、電子メールによるファイル交換の現状と 危険性について説明し、その解決案として当財団が開 発した「安心 ! 簡単 ! パスワード共有サービス」につ いて紹介しました。 電子メールによるファイル交換は、既に日常的なコ ミュニケーション手段として確立されていますが、利 用の方法によっては、潜在的な情報漏洩リスクが、大 きいものになります。 「安心 ! 簡単 ! パスワード共有サービス」は、利便 性の高い電子メールでファイル交換を安全に行え、か つ、操作性に優れ、ユーザ管理が明確に行える旨をコ ンセプトに開発し、提供しているサービスです。 本サービスは利用者に広くお使いいただき、その用 途に合わせて機能拡張する予定です。 「安心 ! 簡単 ! パスワード共有サービス」のお問い合 わせ先 一般財団法人関西情報センター 情報化推進 グループ 〒530-0001 大阪市北区梅田 1 − 3 − 1 −800 大阪駅前第 1 ビル 8 階 E-mail secure-support@kiis.or.jp TEL 06-6346-2543 FAX 06-6346-2443 業務経歴 坊農 豊彦(情報化推進グループ) ネットワークの構築・運営事業 (2006-2008) 行政サービスシステム支援事業 (2008-2011) 関西イノベーションパートナシップ事業 (2009) 新成長産業分野 IT 経営モデル事業 ( 調査研究 ) (2010) 新成長産業分野 IT 経営モデル事業 (IT 利活用促 進事業 ) (2010) 農商工連携人材育成事業 (2011) 39 健康保険組合業務をサポートする 「総合健康マネジメントシステム」 高鳥 克己(システムソリューショングループ 課長) KIIS は1970年(昭和45年)の設立以来長きにわたり、関西地域の情報化の推進拠点を 標榜し、産業の発展と地域の活性化に寄与する一事業として、健康保険組合業務を支援す る各種システムの開発・提供を実施してきました。※1 近年、我が国では増大する国民医療費への対策が喫緊の課題となっていますが、健康保 険組合には医療受診の指導を適切に行っていくことによる医療費の削減と組合員の健康な 生活の実現が求められています。そのためには健康保険組合や企業本体が保有している医 療データを活用し、さまざまな現状分析を行った上で事業展開を行うことが重要ですが、 今年度、KIIS では長年の知見とノウハウを活かし、そのような健康保険組合のニーズを満 たす新システム「総合健康マネジメントシステム」のご提供を開始しました。本稿ではそ の開発に至る経緯と、システムの概要についてご紹介します。 1.システム開発の経緯 (1)保健制度の変化と医療情報の電子化 (2)増大するデータと健康保険組合の役割 これら増大する電子データを保有するのは健康保険 近年、国の施策によって健康診断や保健指導は「病 組合をはじめとする保険者ですが、データをいかに活 気の早期発見・早期治療」から「病気の予防」へと軸 用して組合員の健康づくりや効果的な適正医療受診の 足を移しています。また、それら蓄積する健康・医療 指導事業に役立てられるかが健康保険組合に問われる 情報(データ)の電子化が推し進められています。具 ようになってきています。 体的には、平成20年度から始まったメタボリックシン ドロームなど生活習慣病予防のための「特定健診・特 (3)研究会の設置 定保健指導」の義務化が前者であり、平成23年度から これらの現状を背景に、KIIS では、提供する健保 のレセプト(医療機関が作成する診療報酬明細書・請 業務システムをご利用いただいている健康保険組合 求書)オンライン化などが、後者にあたります。 様※ 2 と共に、効果的な医療データ活用 ・分析システ ムのあり方に関する研究会の設置を検討し、平成20年 ※1:KIIS は昭和48年に近畿地区の共同システム委託電子計算センターとして、健康保険組合連合会の指定をうけて健保共同 システムの開発・運用を行ってまいりました。現在は、全国のセンターとの連携による協議会方式により、健保業務システム の開発・運用を進めています。既に全国の健康保険組合様にご利用いただいており、当センターの担当する近畿地区では、約 90組合様にご利用いただいています。 また、KIIS 独自でも「健康管理指導支援システム」等の開発を行っており、企業や健康保険組合における効率的な健康管理 業務の運用や効果的な保健事業の実施を支援する「総合健康管理ソリューション」としてご提供することで、120を超える組 合様にご利用をいただいています。 さらには、病院、健康保険組合ホームページの作成・運用のほか、WEB 医療費通知等の ASP サービスの提供を行っています。 ※2 :社会保険に関する情報化の動向や、健康保険組合業務の効率性 ・安全性向上等をテーマに調査研究し、健保情報システ ムの改善強化についての提案を行い、会員相互の経験交流、情報交換ならびに親睦をはかることを目的としたユーザー会「健 保情報システム懇話会」(平成23年度現在、54組合様が参加)を運営しています。 40 ・ダイキン工業健康保険組合 豊富なデータ項目 自由度の高い 分析・評価 レセプト データ 健診データ ・クボタ健康保険組合 ・東洋ゴム工業健康保険組合 ・サントリー健康保険組合 ・グリコ健康保険組合 保健事業 実績データ 図1 「総合健康マネジメントシステム」の概念 ・三洋電機連合健康保険組合 ・セキスイ健康保険組合 ・コカ・コーラウエストグループ健康保険組合 ・神戸製鋼所健康保険組合 度より、研究会活動をスタートさせました。 研究会のねらいは、特定健診・特定保健指導の義務 ■研究会システム開発メンバー(順不同) 化によって整備される健康診断・保健指導データと、 ・ (公財)日本生産性本部 レセプトのオンライン化により整備されるレセプト ・東北インフォメーション・システムズ(株) データを有効活用し、医療費の適正化につなげていく ・ (株)ヒロケイ ことです。 ・ニッセイ情報テクノロジー(株) この課題に特に関心の高い健保組合様にご参集いた ・ (一財)関西情報センター だき、それぞれの取り組みや課題等に関する情報交換 を行いながら、適正受診指導や保健指導・健康づくり (2)活動の成果 の効果向上に役立つデータ分析を実現する「総合健康 20年度から今年度までの研究会の活動と成果は、表 マネジメントシステム」 (健康保険組合事業に関する 1 のとおりです。 各種の豊富なデータ項目を保持し、「保健事業費」や 平成20〜21年度にかけては、システムの概念や基 「就業情報」等の属性情報も活用した自由度の高い詳 本的な考え方について取りまとめを行い、22〜23年 細分析・評価を行うシステム)の構築をめざしました。 度において、具体的な機能案の策定、そのために必要 となるデータ項目の整理、システムのプロトタイプ構 2.研究会活動と成果 (1)研究会の構成 築、組合様での試行導入(フィールドテスト)を実施 して、第 1 期システムの完成へと繋げていきました。 システムの研究にあたって設置した「レセプト・健 診データ等を活用した健康マネジメント研究会」の構 成メンバーは、下記のとおりです。 ■研究会メンバー(順不同) ・住友金属健康保険組合(委員長) 表1.研究会開催の概要 年度 研究会 20年度 3回開催 ・研究会報告書 21年度 3回開催 ・研究会報告書 ・システム機能案策定 22年度 2回開催 ・研究会報告書 ・システム構築開始 23年度 2回開催 ・第1期システム完成 ・フィールドテスト 24年度 2回開催(予定) ・イトーキ健康保険組合 ・日本触媒健康保険組合 ・大阪瓦斯健康保険組合 主な成果 ・本格運用開始 ・大阪自動車販売店健康保険組合 ・日本ハム健康保険組合 3.システムの特徴(第 1 期システム) ・石原産業健康保険組合 既存の KIIS の「健康管理ソリューション」は、そ ・カネボウ健康保険組合 れぞれ「健康診断業務」 、 「特定健診・保健指導業務」 、 41 「レセプト分析業務」等、各業務の中で取り扱う電子 ・Plan:現状把握、傾向分析 データの管理を行い、それぞれの業務に特化した効率 ・Do:事業の実施 化を支援することを目的としていますが、今回の「総 ・Check:事業の効果分析 合健康マネジメントシステム」は、これら従来のシス ・Action:事業の見直し テムが保持するデータを横断的に網羅し、それらを組 み合わせた自由度の高い分析を行うことで「健康増進 (2)豊富なデータを保持 と医療費削減」と「保健事業の推進」に寄与するシス 「総合健康マネジメントシステム」が保持するデー テムとなっています。 タ項目は多岐にわたります。 医療費や健診値、保健指導・保健事業参加状況等を (1)PDCA サイクルを支援 ア.個人の生活・就業状況別、イ.事業所・所属の属 健康保険組合が社員やその家族などの被保険者に対 性別等に累積・分類し、さらには、個人の生活習慣や して、健康維持・増進のための事業(例えば「ウォー 勤怠状況など就業形態に関するデータも保持すること キング事業」などのイベント)を実施した場合、や ができ、従来のシステムでは行えなかった分析が可能 りっぱなしではなく、「それぞれの事業が本当に効果 になりました。これらのデータを組み合わせて、分析 を上げたかどうか」の判断が重要になってきます。費 対象としたいグループを任意に作成することが可能と 用対効果が得られない事業を継続することは、組合に なっています。 とって大きな負担となることから、適正な事業実施が 出来ているかどうかの見極めが必要なのです。 (3)自由度の高い分析 「総合健康マネジメントシステム」の分析機能は大 Plan 現状把握 傾向把握 Do 保健事業 個別保健指導 きくは「分析機能(単年度分析、時系列分析) 」と「評 価機能」に分けられます。各機能において可能な分析 の内容は以下のとおりです。 ①分析機能-単年度分析 断面的な分析では、単年度のデータを用いて医療 対象者選定 費や健康状況の実態把握を行うことを主な目的とし Action 保健事業の見直し 個別に再指導 Check 効果分析 是正対象の選定 ており、以下のような分析を行うことができます。 ○医療費実態把握(疾病傾向把握/医療費分布 確認) ○健康状況実態把握(健康リスク分布状況把握) ○結果の集計(事業所別/任意グループ別集計) 図2 「PDCA サイクル」を支援 ○任意条件検索(同一属性データの傾向把握) そのためには、一つの事業を図 2 の PDCA サイ ②分析機能-時系列分析 クルに沿って廻していかなくてはなりませんが、「総 時系列分析では、複数年度のデータを用いて医療 合健康マネジメントシステム」は、この「Plan」と 費や健康状態の経年変化の動向を把握することを主 「Check」の段階で、保健事業を有効にサポートでき な目的として、おり、以下のような分析を行うこと るシステムになっています。 ができます。 42 メタボリック該当者の各種状況別の分布分析 【条件指示画面】 総合健康マネジメントシステム 生活習慣や各状況条件毎にメタボリックシンドローム判定別の該当者を抽出し、 それぞれの判定該当者毎に状況条件に合致する分布状況を把握します。 【②状況別グラフ】 任意の条件で抽出された対象者を 母集団として指定することが可能 グラフと数表を展開 【①該当者の一覧表示画面】 グラフ表示対象を選択した状況項目の 全体割合のメタボ判定別の該当分布 【結果表示画面】 一覧共通機能 ・CSV出力 ・グループ登録連携 ・各種台帳情報参照 画面に展開された各グラフと数表は エクセル出力またはPDF出力が可能 【③判定別グラフ】 ① メタボ判定別に各状況の該当者数と割合を展開し、 該当分布状況を確認。 ② グラフ表示対象を選択した状況項目の メタボ判定毎の該当割合分布を比較 ③ グラフ表示対象を選択しグラフボタンを押下 図4 分析画面の例(数表とグラフィック表示で分かりやすい分析が可能) ○経年分析(医療費動向分析/健康推移分析) ○個別実態把握(受診者追跡機能/経年データ による縦覧点検/グラフ機能を活用した推移 分析) ○任意集団の比較(事業所別や任意グループ間 の推移動向比較) ③評価機能 評価機能は、健康保険組合が実施する各種の保健 事業の効果を定点的に(年 1 回を想定)評価するた めの機能で、以下のような内容の評価を行うことが できます。 ○効果の確認(事業所別や任意グループ間の結 果を比較し事業の有効性を確認) ○傾向分析(健診値及び医療費の経年変化) ○詳細情報の活用(疾病情報や診療行為情報な どの蓄積された詳細情報を活用した分析) ○各種情報を活用した評価(指導実施率と健診 値改善の関連/生活習慣病と疾病傾向の関連 /保健指導と医療費変動の関連) 4.今後の展開 「総合健康マネジメントシステム」は今年度、第1期 図3 システムのメニュー画面 システムのご提供を開始しましたが、すでにご関心を 43 お持ちいただいた複数の健康保険組合様にご導入、ご 検討をいただいています。 このような分析システムには、「ここまで作ったら 完成」という終わりがあるわけではなく、ユーザの皆 様からのご要望やご意見を基に、さらに充実した機能 を搭載した第 2 期、第 3 期システムへ発展させてい き、KIIS が重点実施事業として持つ社会システム支 援事業の使命を果たしていきたいと考えています。 5.おわりに 本システムは健康保険組合様をはじめ、企業様にも ご活用いただけるシステムとなっておりますので、ご 関心がございましたら、是非とも、システムソリュー ショングループ(TEL :06−6346−2841)までお問 い合わせください。 最後に、システムの構築にあたって、多大なご協力、 ご指導をいただいている「レセプト・健診データ等を 活用した健康マネジメント研究会」委員の皆様に深謝 申し上げます。 業務経歴 高鳥 克己(システムソリューショングループ 課長) ・兵庫県朝来町資源循環活用基本計画策定調査 (H14〜 H15) ・兵庫県家島町石材採掘業振興指導事業(H14) ・福井県美浜 ・三方町広域振興計画策定調査 (H15) ・滋賀県マキノ町における体験型観光産業振興方 策策定調査(H16〜 H17) ・ 「大阪安全 ・安心まちづくり支援 ICT 活用協議 会」運営業務(H16〜 H18) ・IT(アクティブ IC タグ)を活用した児童生 徒の安心安全確保システム構築事業(H17) ・経済産業省産業クラスター計画 関西フロント ランナープロジェクト Neo Cluster 運営業務 (H18〜 H21) ・健康・保健分野におけるシステムソリューショ ンの提供事業(H22〜) 44 プライバシーマーク制度の概要と現状 田中 照浩(プライバシーマーク審査グループ) 日々進化発展する高度情報通信技術により、ネットワーク上で個人情報が大量にやり取 りされている現代社会において、その保護が強く求められるようになった。そのため、実 効性のある個人情報保護のための方策が求められてきたことから、プライバシーマーク制 度が創設された。その制度の概要についての解説とあわせて KIIS における平成23年度の プライバシーマーク審査業務の実施状況について報告する。 1.プライバシーマーク制度が誕生した背景 (1)日本を取り巻く環境 性が増大したのである。そのため、世界的な課題とし て「個人情報」の保護を図りつつ、その利用を促進さ かつて企業活動を支える経営資源は「ヒト」 「モノ」 せるための取り組みが検討され、進められるように 「カネ」であった。しかし、ネットワーク社会におい なってきたのである。 て、高度情報通信技術を活用した効率的な経営手法が 欧米諸国における個人情報保護の動向は、1970年 実現し始めると、新たな経営資源として「情報」の価 代からすでに個人情報保護あるいはプライバシー保護 値が急速に認められるようになった。企業は大きな価 に関する法整備の動きが活発であった。1980年には 値のある情報があれば、より大きな事業活動が展開で 経済協力開発機構(OECD)で「プライバシー保護と きるようになる一方で、情報の取り扱い方を誤れば企 個人データの国際流通についてのガイドラインに関す 業存亡の危機に瀕する恐れもあり、事業活動において る理事会勧告」が公表され 、 その中で同勧告の付属 その情報の持つ重要性 ・重大性をあらためて認識す 文書に基本原則である、いわゆる「OECD 8 原則」が る必要がある。企業が活動するうえで必要とされる 示されたのである。 「OECD 8 原則」は ①収集制限 「情報」には様々なものがあるが、その中でも住所・ の原則(個人データの収集には制限を設けるべきで 氏名・年齢・性別・生年月日・電話番号といったその あり、いかなる個人データも、適法かつ公正な手段 他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人 によって、かつ適当な場合には、データ主体に知ら を識別できる「個人情報」は日常生活の中で取り扱わ しめ又は同意を得た上で、収集されるべきである。 ) れており、例えば商品を購入しそれを自宅へ届けても ②データ内容の原則(個人データは、その利用目的 らうためには販売元へ住所・氏名・電話番号などを明 に沿ったものであるべきであり、かつ利用目的に必要 らかにするのが普通であるし、また、懸賞付きキャン な範囲内で正確、完全であり最新なものに保たれなけ ペーンへ応募する場合も、懸賞に当選した場合を見込 ればならない。 ) ③目的明確化の原則(個人データの んであらかじめ応募用紙に住所・氏名・電話番号・性 収集目的は、収集時よりも遅くない時点において明確 別・年齢などを書き込んで企業へ送付することが広く 化されなければならず、その後のデータの利用は、当 行われている。このように「個人情報」は広く世の中 該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでか にあふれ、大手企業から個人商店に至るまで何らかの つ、目的の変更毎に明確化された他の目的の達成に限 目的で個人情報が取り扱われているのが現実であり、 定されるべきである。 ) ④利用制限の原則(個人デー 近年ではインターネット等の普及により一瞬のうちに タは、③目的明確化の原則により明確化された目的以 これらの個人情報が不特定多数の目にさらされる危険 外の目的のために開示利用その他の使用に供されるべ 45 きではないが、次の場合はこの限りではない。データ タ保護指令」にみられるように、EU 諸国は「個人情 主体の同意がある場合、又は、法律の規定による場 報」の保護に関して意識が高く、世界的にも先導的に 合) ⑤安全保護の原則(個人データは、その紛失も 取り組んできた。一方、日本ではその指令が求める個 しくは不当なアクセス、破壊、使用、修正、開示等の 人情報の保護水準に関する法的な規制や制度がその当 危険に対し、合理的な安全保護措置により保護されな 時確立されておらず、そのため、EU 加盟国内にある ければならない。 ) ⑥公開の原則(個人データに係わ 日本企業の法人がスタッフを現地で採用した場合に、 る開発、運用及び政策については、一般的な公開の政 そのスタッフの詳細な経歴等を日本の本社へ送ること 策が取られなければならない。個人データの存在、性 が出来ないという事態も起こり得ると懸念されるよう 質及びその主要な利用目的とともにデータ管理者の識 になった。 別、通常の住所をはっきりさせるための手段が容易に そこで、通商産業省(現 : 経済産業省)は、我が国 利用できなければならない。 ) ⑦個人参加の原則(個 においても「個人情報の十分なレベルの保護」を確保 人は次の権利を有する。 (a)データ管理者が自己に関 するため民間事業者の自主的な取組を補完する諸制度 するデータを有しているか否かについて、データ管理 の整備、消費者(情報主体)の苦情等に対応する窓口 者又はその他の者から確認を得ること。 (b)自己に関 機能の充実等に関する検討を開始し、また、EU 指令 するデータを、合理的な期間内に、もし必要なら、過 採択等の国際的動向をも視野に入れ1997年(平成 9 度にならない費用で、合理的な方法で、かつ、自己に 年)に「民間部門における電子計算機処理に係る個人 分かりやすい形で、自己に知らしめられること。 (a) 情報の保護に関するガイドライン」が 、 また1998年 及び (b)の要求が拒否された場合には、その理由が与 (平成10年)に「個人情報ハンドブック」が完成し、 えられること及びそのような拒否に対して異議を申立 日本の企業や団体が「EU データ保護指令」に自主的 てることができること。自己に関するデータに対して に適合できるよう、「個人情報」に関する保護水準を 異議を申し立てること、及びその異議が認められた場 どこまで高めればよいかその目安が提供されたが、そ 合には、そのデータを消去、修正、完全化、補正させ れだけでは企業や団体の個人情報保護への取り組みを ること。 ) ⑧責任の原則(データ管理者は、上記の諸 推進させるために必ずしも十分とはいえなかった。検 原則を実施するための措置に従う責任を有する。 )の 討の結果、通商産業省(現 : 経済産業省)が告示した 8 項目で、プライバシーの保護と個人データの国際的 「民間部門における電子計算機処理に係る個人情報の 流通との調和を目指したものである。同ガイドライン 保護に関するガイドライン」に基づく「個人情報」の の中で示された「OECD 8 原則」は日本を含めた世界 取り扱いができていることを第三者の立場で評価して 各国の個人情報保護の考え方の基礎となっている。 認定し、その証を目に見えるロゴマークによって示す その後日本に影響を与えたのが1995年に欧州連合 ことができる「プライバシーマーク制度」が創設され、 (EU)において採択された「個人データ処理に係る 1998年(平成10年) 4 月、財団法人日本情報処理開 個人情報の保護及び当該データの自由な移動に関する 発協会(現 :一般財団法人日本情報経済社会推進協会) 欧州議会及び理事会の指令」いわゆる「EU 個人デー が運用を開始することとなった。その後1999年に日 タ保護指令」といわれるものである。これは、EU 加 本工業規格「JISQ15001 :1999(個人情報保護に関 盟国及び EEA(欧州経済領域)加盟国の30ヶ国に対 するコンプライアンス ・プログラムの要求事項) 」が して同指令に基づく国内法規を要求するものであり、 制定されたことに伴い、JISQ15001が「プライバシー 「個人データ保護のレベルが低い第三国への自国民の マーク制度」の審査基準となった。その後2005年に 個人データ移転禁止条項(第三国条項) 」等が設けら は「個人情報保護法」が全面施行となり、2006年に れており、日本をはじめとする第三国における経済活 は「個人情報保護法」に合わせ JIS Q 15001は「JIS 動への影響が懸念されることとなった。 「EU 個人デー Q15001 :2006(個人情報保護マネジメントシステム 46 −要求事項) 」に改正され置き換えられた。 情報保護法の定める「個人情報取扱事業者」よ 企業や団体などは、「個人情報」の取り扱いが適切 り広い概念を採用している。従って従業者の個 であり当該個人の権利利益を侵害することなく事業活 人情報も事業の用に供する個人情報であるた 動に活用する事業者であることを、個人(消費者)に め、全ての事業者が対象となる。 アピールする手段として「プライバシーマーク」を使 ②生死を問わない 用することができる。これがその企業や団体が社会的 ⇒個人情報保護法では生存する個人に関する情 信用を得ることにつながり、プライバシーマークを取 報に限られているが JISQ15001では原則とし 得することへの動機付けとなるのである。さらにはそ て死者(故人)の情報も含む。 (歴史上の人物 こで働く人々の個人情報保護に対する意識付けの道具 までは含まない) やモラルの向上となることから、「個人情報」の適切 ③消費者保護等の見地から個人の権利利益の保護の な取り扱いを実施している多くの企業や団体に導入 要請を強く求めている。 され、現在、12,000社を超える企業や団体がプライバ ⇒個人情報保護法では、本人が識別可能な情報 シーマークの付与認定を受けている。 を個人情報とすると定められているだけで区 別されていないが、JIS Q 15001では本人の思 (2)プライバシーマーク制度の認定基準 想 ・信条 ・宗教や人種といった社会的差別に 「プライバシーマーク制度」とは、前述の通り個人 つながる事実などの「特定の機微な個人情報 情報の取り扱いについて、工業標準化法に基づき、 (センシティブ情報) 」の取り扱いは原則禁止 日本工業標準調査会の審議を経て、経済産業大臣が されている。 2006年 5 月20日に改正した日本工業規格(JIS)の一 ⇒本人から書面に記載された個人情報を直接取 つで、個人情報を保護するための仕組みを定めた規格 得する場合は利用目的を事前に明示するだけ である「JISQ15001 :2006(個人情報保護マネジメ でなく、利用目的や事業者の氏名や名称等を書 ントシステム−要求事項) 」に適合しているか否かを 面によって本人に明示し、原則として“書面に 一般財団法人日本情報経済社会推進協会が公平かつ中 よる本人の同意”を必要としている。など個人 立的な第三者立場から評価認証する制度である。 情報保護法で求められている内容よりも高い 審査基準である JISQ15001の要求事項は、個人情 レベルで個人情報の取り扱いを求めているの 報保護法で求められている内容をすべて含んだうえ である。 で、それよりも高いレベルで個人情報の取り扱いを求 めているため、プライバシーマーク取得事業者は個人 2.付与事業者は「個人情報」を適切に取り扱う 情報保護法を満たしているのはもちろんのこと、より プライバシーマーク付与事業者は、「個人情報 適切に個人情報を取り扱っているとみなされる。又、 保護マネジメントシステム(Personal Information プライバシーマーク制度では、個人情報保護法はもち Protection Management Systems :略称 PMS) 」を構 ろんのこと各省庁が作成した個人情報保護に関するガ 築し、「個人情報」を安全に管理する体制を整えてい イドラインや、地方自治体による個人情報保護関連の る。手順に従えば個人情報の保護は確実にできると 条例をも取込むように規定されている。個人情報保護 いう仕組みであり、個人情報を取り扱う具体的な手 法上は適法であっても、プライバシーマーク制度では 順と同時に責任と権限も明確にしている。PMS の基 不適合となる場合がある。一例をあげると、 本的な仕組みは、「計画(Plan) 」 「実施(Do) 」 「点検 ①保有個人データの数を問わない。 ⇒個人情報を事業の用に供しているあらゆる種 類、規模の事業者を適用対象としており 、 個人 (Check) 」 「見直し(Act) 」から成る「PDCA サイク ル」というプロセスに着目したマネジメントシステム を採用している。 47 プライバシーマーク付与事業者は、個人情報保護管 みがある。このような体制によって、個人情報を保護 理体制構築の前提として組織のトップが「個人情報保 するための努力を日々続けているのである。 護方針」を策定し文書化したうえで内外にむけて宣言 しており、この方針に基づき、PMS を推進するため 3.消費者にとってのプライバシーマークとは の社内の体制を整え、 “計画” (Plan)を立案し、それ 企業が消費者の多様化し変化し続ける嗜好やニーズ に基づき“実施” (Do)していく。具体的には、事業 を分析し、有益な情報やサービスを提供してくれるこ 者が管理している個人情報の特定、個人情報保護マネ とは、消費者にとっても大きなメリットとなる。また、 ジメントシステムを具体的にどのように運用するかを 企業は消費者(顧客)が何を求めているかを的確につ 定めた規程などの作成と、その定めた規程に基づく運 かみ、その嗜好やニーズに合った独自の製品や商品を 用、従業員の教育などを実施する。そして、その実 発売したり、またはサービスを提供していくことで効 施 ・運用状況を“点検” (Check)し、改善すべき点 率的な事業活動を展開していく。事業活動をより効率 が発見されれば代表者が PMS 全体の“見直し” (Act) 良くまた的確に実施していくためには、消費者(顧客) を行うという業務プロセスを実施している。この一連 の「個人情報」と嗜好やニーズを結びつけて分析し、 のプロセスを進めていくなかで、プライバシーマーク その消費者(顧客)に対して最適な販売戦略を立てる 付与事業者は、PMS の運用と改善を繰り返し行うこ ことが必要であり、市場において競争優位を構築する とで、「個人情報」の保護レベルをさらに上げていく ための事業戦略の基礎となる消費者(顧客)の「個人 努力を行っているのである。 情報」はまさに企業にとって重要な「財産」となって いる。 企業は、その重要な「財産」である「個人情報」を 「活用」しながら事業活動を展開していくと同時に、 その重要な「財産」である「個人情報の保護」に努め なければならないが、個人情報を企業に提供する消費 者(顧客)にとって最も大切なのは、自分の情報を提 供する相手企業が真に信頼できる企業であるかどうか を客観的に評価することが出来るかどうかである。前 図1 PDCA サイクル 述のとおり、プライバシーマーク付与事業者は、個人 情報保護管理体制構築の前提として組織のトップに また、プライバシーマーク付与事業者は、緊急事態 よって「個人情報保護方針」を策定し文書化したうえ への準備として、トラブルにつながる恐れのあるリス で内外にむけて宣言しており、その企業のホームペー クに対し対応策を実施し、「個人情報」の取り扱いに ジから「個人情報保護方針」にアクセスすれば、個人 ついて安全に管理する努力を日頃から行っている。仮 情報の取得や利用を適切に行っていること、個人情報 にトラブルが発生した場合でも、プライバシーマーク を安全に管理していることなど、個人情報保護に関す 付与事業者はトラブルの対象となった「個人情報」の る取り組み方について知ることができ、消費者(顧客) 本人に対してその影響が最小限となるように、また二 からみて信頼するに足りるかどうかを判断する材料の 次的な被害が及ばないように、迅速かつ最適な措置を 一つとなるのである。また、企業のパンフレットや名 講じることが出来るように備えており、発生したトラ 刺などにも、プライバシーマーク(ロゴ)の使用が認 ブルの原因を分析し、リスクを回避するための対策を められており、消費者(顧客)はこのマーク(ロゴ) 取り、「個人情報」の取り扱いについてより安全に管 を確認することで個人情報を適切に取り扱っている企 理できるよう改善し、PMS に反映する社内的な仕組 業であると判断できるのである。 48 4.平成23年度における審査業務の実施状況に ついて 東京都だけで6,459社あり、全体の51%を占めている。 次いで大阪府が1,397社 で全体の11%となっており 、 KIIS ではプライバシーマーク付与適格性審査業務 圧倒的に関東地方をはじめ、大都市に集中しているこ において、平成23年度は794件の申請を受付け、書類 とがわかる。 審査・現地審査を実施し794件に付与適格決定をして 次に業種別にみると、全国で最も多いのが「サービ いる。なお、KIIS は平成18年 4 月18日付でプライバ ス業」で、次いで「製造業」 、 「卸売・小売業」 、 「運輸・ シーマーク指定審査機関に指定され、平成18年度の 通信業」の順となっている。なお、全体の75%を占め 申請受付が390件、以降の申請受付件数の推移は19年 る「サービス業」の約半分はシステム開発関係の「情 度556件、20年度は19年度と比べ大幅に増加し754件 報サービス・調査業」である。また、 「製造業」は「サー であったが、これは前述の通り審査基準である JIS Q ビス業」に次いで 2 番目となっているが、そのうち、 15001が改正され審査基準が切り換えられたことによ 約80%が印刷業関連である。この割合は関西地区で る前倒し申請が集中したものである。この影響により も、ほぼ同様となっており、今後もこの傾向が続くと 翌21年度は減少したが、22年度は再度増加し 、 以後 ものと考えられる。 増加傾向にある。 運輸・通信業, 4% 卸売・小売業、 飲食店,5% 全 国 その他、4% 関西地区 運輸・通信業,6% その他、5% 卸売・小売業、 飲食店,8% 製造業, 11% サービス業, 75% 製造業, 14% サービス業, 67% 図4 業種別付与の割合 図2 KIIS における審査実績推移 5.目指す役割と目指す姿について 個人情報保護に関して現在の取り巻いている状況を 平成24年 5 月31日現在、プライバシーマーク付与 踏まえ、今後の KIIS における目指す役割は「審査活 の有効事業者数は、全国で12,571社にのぼり、そのう 動を通じ、プライバシーマーク制度の普及に寄与し、 ち KIIS が担当している審査地域である福井県を含む 個人情報保護の精神を広く社会に浸透・定着させる」 関西地区における有効事業者数は1,955社 で、全体の ことであり、審査機関としては「審査業務に真摯に取 16%を占めている。また、地区別の割合をみると、 り組み、知識・見識や審査能力を高め、プライバシー マーク付与事業者に信頼され、評価される組織」を目 指していきたいと考えている。 業務経歴 図3 地区別付与事業者数 田中照浩(プライバシーマーク審査グループ) ・プライバシーマーク審査員(2010〜) 49 関西グリーン電力基金 活動報告 川口 貴史(事業推進グループ) 関西グリーン電力基金は、地域の皆さまから寄付金を募り、発電時に CO2を排出しない 自然エネルギー発電設備の建設を助成する、市民参加型の取り組みとして、平成12年10月 に設立し、当財団が主体となり運営を行ってきた。 一方で、今日のわが国における自然エネルギーの普及促進策は、基金の発足当時と比べ ると大きな拡がりを見せており、平成21年11月からの「太陽光発電の新たな買取制度」の 開始、更には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」の 成立により、平成24年 7 月から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が開始される など、自然エネルギーの普及促進のための費用を、国民全体で広く負担するという新しい 段階に移行してきた。 このような状況を踏まえると、善意の寄付を基にした当基金については、所期の役割を 十分に果たすことができたと考え、平成23年度をもって事業を終了することとなった。 以下、事業終了を受け、これまでの活動について報告を行う。 1.事業の概要 前田 勇治/川崎重工業㈱理事関西支社長 関西グリーン電力基金は、民間による自然エネル 財部 行廣/㈱京セラソーラー ギー発電普及促進のための応援基金として設立され コーポレーション 代表取締役社長 た。地域の皆さまから毎月100円/口の寄付金を募り、 井上 祐一/関西電力㈱環境室長 当財団が基金の管理や助成先決定・交付などの運営を 田中 行男/(一財)関西情報センター専務理事 行い、関西電力株式会社(以下、関西電力)が寄付金 の収納代行(毎月の電気料金と合わせて収納)を行う とともに自らも参加者からの寄付金と同額程度の寄付 3.これまでの寄付と助成実績 (1)寄付実績 を行ってきた。 平成12年度から23年度までの寄付金額の累計は、 約2.63億円となった。 (関西電力同額寄付を含む) 2.関西グリーン電力基金運営委員会 (2)助成実績 本委員会は、学識経験者、市民団体、産業界等の有 いただいた寄付金を原資として平成13年度から23 識者等で構成され、助成方針や助成先の決定など基金 年度までの間、計12回の助成募集を行い、累計228件 運営に関する事項等について審議を行う。 (設備出力約9.2万 kW)の自然エネルギー発電設備に (所属五十音順・敬称略・平成24年 4 月31日現在) 対し、約2.3億円の助成金交付を実施した。 【委員長】 ※寄付実績と助成実績の差額は事務局経費分 槇村 久子/京都女子大学現代社会学部教授 1)太陽光発電設備 【委員】 累計185件(設備出力約3.3千 kW)の公益的団体 早瀬 昇/(社福)大阪ボランティア協会常務理事 が設置する、公共性を有する太陽光発電設備に対 和田林 道宜/近畿日本鉄道㈱専務取締役 し、約1.6億円の助成金を交付した。 50 2)風力発電設備 累計 6 件(設備出力約88.5千 kW)の事業用を目 的とした風力発電設備に対し、約6千万円の助成金 を交付した。 3)普及 ・ 啓発用発電設備 累計32件(設備出力約29kW)の公益的団体が設 置する自然エネルギー普及啓発のための発電設備 に対し、約1千万円の助成金を交付した。 4.その他の活動 (1)基金参加者への事業活動報告 毎年 7 月に、前年度の基金参加者全員に対し、前年 度の事業報告書を送付し、活動状況の報告(会計収支 決算含む)を実施した。 (2)基金PR活動 各メディアを通じてのPR、既参加者や未加入者を 対象とした助成先見学会(H20・21年度実施)、市民 イベント等でPR活動を実施した。 5.基金参加者の推移 平成14年度末のピーク時で3,364件 ・13,881口の方 に参加いただいたが、国の政策動向の変化等も影響 し、寄付金受取終了時の平成23年11月末の加入件数 は1,919件 ・7089口で、ピーク時の実績と比較すると ほぼ半減した結果となった。 業務経歴 川口 貴史(事業推進グループ 研究員) (前掲) 51 KI IS成果一覧表 報 告 書 名 e-Kansai レポート 2012 (自主事業) 内 容 e-Kansai レポートは、関西地域における情 メ ン バ ー 仕 様 公開の 可 否 委員 報化の動向を多角的に捉え分析することで、 神戸大学大学院 教授 関西の情報化の問題点・課題を明らかにし、 原田 勉 氏ほか その解決策を提案する調査研究事業である。 事業推進グループ 平成 23 年度は、企業と自治体のクラウドコ 部 長 三坂 勝弘 ンピューティングの導入とIT人材育成等に 研究員 布施 匡章 ついて調査を行い、中堅・中小企業のための A4 200頁 可 クラウド提案に関する仮説等を提案した。内 容は、業務負担の減少ばかりではない、プラ スアルファの効果を打ち出すものである。こ れらの仮説は平成 24 年度に検証予定である。 「環境ビジネスロードマップ[追 平成 22 年度の追加調査として、東日本大震 事業推進グループ 加調査]」 (東大阪市委託事業)) 災での福島第一原発事故以降の電力不足の影 GM 三坂 勝弘 響を考慮し、エネルギー産業に着目した深堀 部長 佐藤 吉広 り調査を実施した。エネルギー産業を創エネ、 主任研究員 石橋 裕基 蓄エネ、省エネ(住宅)の 3 分野に分けて、 東大阪市内モノづくり企業(特に多い金属加 A4 70頁 可 工業やプラスチック加工業や機械治具製造 業)にとって参入可能性のある製品の市場展 望について整理した。 組込みパワフル企業集 in 関西 (経済産業省補助事業) 主に関西に拠点を置く「組込みシステム」関 発行:財団法人関西情報・ 産業活性化センター A4 ※経 済 産 業 省 補 助 事 業・ プラス 情報家電系組込み産業 チック 応可能な事業分野」や「保有する技術」が一 振興ネットワーク活性化 バインダ 覧できるようにし、個票では得意技術や開発・ 約150 事業 納入実績等詳細情報を掲載した。また合わせ ページ て KIIS ウェブサイトでも PDF ファイルを 連企業 77 社の優れた技術や得意分野をまと めた企業情報冊子を作成。企業一覧表で「対 公開した。 可 複製禁止 「KIIS OUTPUT 2011」 平成24年7月 発行 発 行 一般財団法人 関西情報センター 総務企画グループ 〒530 0001 大阪市北区梅田1 3 1 800 大阪駅前第1ビル 8 F TEL:06 6346 2441 FAX:06 6346 2443 E−mail:spoken@kiis.or.jp URL:http://www.kiis.or.jp
© Copyright 2024 Paperzz