The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 原著 若手看護師における退職の予測要因の検討 Predictors on Personnel Turnover among Japanese Young Nurses 渡邊 里香1) 荒木田 美香子2) 清水 安子1) 鈴木 純恵3) Rika Watanabe1) Mikako Arakida2) Yasuko Shimizu1) Sumie Suzuki3) Key words : young nurses, turnover, longitudinal questionnaire study, presenteeism キーワード : 若手看護師, 退職, 縦断的質問紙調査, 労働遂行能力の低下 Abstract The aim of this longitudinal questionnaire study was to find predictors for young nurses leaving their hospitals within one year of hire in the aspect of individual, organizational and health related factors, and to suggest a way to prevent turnover among nurses who had less than five years of experience. First survey was conducted in September 2007; 1430 nurses responded (response rate: 63.7%). The questionnaire was comprised of individual factors, organizational factors, and healthrelated factors. Subsequently, we investigated into whether the respondents resigned from their jobs in the respective hospitals within one year as of September 2008. Among the 1307 analyzed people, 182 (13.9%) resigned within one year, while 1125 continued to work. We clarified as fellow. 1. The more years of experience the nurses had, the higher the rate of leaving within one year was. 2. The group of nurses leaving hospitals had more subjective health problems than those who stayed, and health related presenteeism predicted turnover of nurses, so it is important to pay attention to health and work performance among nurses with less than 2 years of experience. 3. The study presented significant predictors of turnover were a chance to discuss, the relationship between nurses and doctors, adequate facilities, and overtime among nurses with 3-5 years of experience. This result revealed the ways of preventing their resignation were to prepare further education appreciated their roles and positions, to mutually understand among healthcare members, and to manage working hours and the work environment. 4. The health related presenteeism of the group of leaving hospitals was higher than staying nurses hence it was important to the organization to manage safety and health, especially health management. 要 旨 本研究の目的は,看護師経験 5 年未満の看護師の 1 年以内の退職の有無を予測する要因を個 人要因,組織要因,健康関連要因から検討することにより,若手看護師の退職予防について示 唆を得ることであった.2007 年 9 月に個人要因,組織要因,健康関連要因について自記式質問 紙調査を行い,1 年後に退職の有無を調査した. 初回調査では 1430 部を回収し(回収率 63.7%),分析対象者は 1307 名であった.1 年以内の退職者 ( 以下,退職群 ) は 182 名(13.9%) , 勤続者(以下,継続群)は 1125 名であり,以下のことが明らかとなった. 受付日:2010年9月22日 受理日:2010年12月18日 1) 大阪大学 Osaka University 2) 国際福祉医療大学 International University of Health and Welfare 3) 独協医科大学 Dokkyo Medical University 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 17 17 2011/09/08 19:17:09 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 1. 経験年数 5 年未満の看護師では経験年数が高くなるほど 1 年以内に退職する割合が高くなっ ていた. 2. 1‒ 2 年目では退職群で心身の不調の自覚症状が有意に多く,また心身の不調による労働遂行 能力の低下が 1 年以内の退職の予測要因であったことより,健康管理と労働遂行能力の低下 に注意して見守ることが重要である. 3. 3 ‒ 5 年目では話し合う場,医師との良好な関係,設備,超過勤務が退職の予測要因として有 意となり,役割や立場の変化に応じた教育やチーム医療メンバーの相互理解,労働時間の管理, 作業環境管理が重要である. 4. 退職群では継続群に比べて不調に伴う労働遂行能力の低下が認められたことより,組織的な 労働安全衛生管理の実施,特に健康管理が重要であると考えられた. Ⅰ. はじめに 研究された,マグネットホスピタルの研究(Scott et al., 1999),労働環境の国際比較を行った研究(Aiken, 18 日本における就業看護師約 81 万人のうち,25 歳 2001)など大規模調査が存在する.Irvine & Evans 未満の看護師は 9.5%,30 歳未満は 26.1%であり(厚 (1995)のメタアナリシスでは離職は離職意向と強 生労働省,2008) ,全労働人口と比較して(総務省, い正の相関があり職務満足と弱い負の相関があるこ 2010)若年層の労働力の割合が高い.また看護師は とが示された.Borda & Norman(1997)は職務満 類似の科で 3-5 年勤務することにより中堅レベルへ 足よりも離職意向のほうが実際の離職には関連があ 達するといわれており(Benner, 1984),経験年数 5 ること,離職に先行して欠勤(absence)が存在す 年程度までの若手は全くの新人から中堅へと専門職 る可能性を報告している.Hayes et al.(2006)は, として成長する重要な時期である.しかし経験年数 32 の文献より離職の要因を業務負担やスケジュー の少ない若手の時期の離職願望が高いことが報告さ ル,マネージメントスタイル,勤務表といった組織 れている(金井,2007).日本看護協会(以後,日 要因,年齢や経験年数などの個人要因,報酬や就職 看協)による調査では若年層看護職員(20-29 歳) の機会などの経済的要因とした.筋骨格系の障害 が最初の職場を離職した主な理由は,割合の高いも (Fochsen et al., 2006), 精 神 的 健 康 度( 水 田 ら, のから進学,出産・育児,結婚,勤務時間が長い・ 2004),BMI や コ レ ス テ ロ ー ル(Shimizu et al., 超過勤務が多い,であった(日看協,2005).看護 2005)といった健康状態も離職に関連する要因と報 師の過酷な労働状況も明らかとなってきており(日 告されている.健康に関連し,米国では病院管理部 看協,2009) ,家庭と仕事の両立支援を含め,労働 門が看護師の presenteeism に注目している(Pilette, 環境の整備による離職対策が求められている. 2005). 近 年, 産 業 保 健 で は, 欠 勤 し て い る 状 態 現在,看護師確保対策の観点から新卒看護師の離 「absenteeism」の対義語として,出勤しているが心 職は特に注目され,リアリティショックや教育の問 身の不調のために労働遂行能力が低下している状態 題などに対し,病院ごとの取り組みのみならず,新 をさす「presenteeism」の概念が用いられている(山 人臨床研修等の努力義務化が 2010 年 4 月より開始 下 , 荒木田,2006).代替者の得にくい医療職,教育 されるなど政策的にも対応がすすめられている.今 職では体調不良時に適切な休養を取得することがで 後看護師不足を解消し質,量ともに看護師を確保し きず,presenteeism に陥りやすいといわれているが ていくためには,確保した新卒看護師が若手の時期 (Aronsson et al., 2000),特に看護師は複雑な仕事や を経てさらに職業を継続できることが重要である. 家庭の問題のために自己の健康をケアする時間がと 看護師の不足,離職率の高さは世界的に共通の問 れず presenteeism が高いと考えられている(Pilette, 題 で あ り(WHO,2006),2002 年 よ り 欧 州 10 カ 国 2005).慢性的な人員不足の中で交代勤務を行う本 の 看 護 師 を 対 象 に 離 職 に 関 連 す る Nurses Early 邦の看護師においても,不調を自覚しても予定外の Exit-Study(Hasselhorn et al., 2005) や 米 国 に て 休暇をとることができない.健康問題により生じた 1980 年代より看護師の定着率の高い病院に注目して 労働遂行能力の低下と離職の関連についても検討す 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 18 2011/09/08 19:17:09 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 ることが重要である.本研究では,これまでに先行 先における退職の有無を調査した.ここで調査した退 研究で報告されている組織要因,個人要因に加えて 職は,所属していた病院の退職であり,看護師を継続 健康問題とそれに起因する労働遂行能力の低下を退 したか,看護職から離れたかは確認していない. 調査手順はまず,便宜的抽出法にて,関西・東海・ 職の要因として検討することとした. 以上より,本研究の目的は,看護師経験 5 年未満 関東圏の 200 床以上の病院より 25 箇所の病院を抽 の看護師の 1 年以内の退職の有無を予測する要因を 出した.次に,25 病院より協力の同意を得た 12 病 個人要因,組織要因,健康関連要因から検討するこ 院に勤務する看護師の中から,2007 年 9 月時点で看 とにより,若手看護師の退職予防について示唆を得 護師経験 5 年未満の看護師を対象とし,質問紙を ることである. 2244 部配布した.回収は郵送法と留め置き法の併用 にて行った.12 病院の特徴は,設置主体では自治体 が 5 箇所と最も多く,次いで独立行政法人が 4 箇所 であり,その他は,社会福祉法人,医療法人,社会 Ⅱ. 方法 保険関係団体であった.9 病院が調査開始の 2007 年 1. 研究デザインと調査手順 9 月時点で一般入院基本料 1 の届出をしていた.なお, 集団的自記式質問紙調査とした.本研究における若 調査の流れと分析対象者の選出は図 1 に示した. 手看護師を看護師経験 5 年未満の者と操作的に定義 し,調査対象を病院に勤務する 5 年未満の看護師とし 2. 概念枠組みと質問項目 た.2007 年 9 月に以下の手順にて質問紙調査を行い, 先行研究の看護師の退職に関連すると思われる要 1 年後の 2008 年 9 月時点では同対象者について勤務 因を抽出し,図 2 のように個人要因,組織要因,健 初回 2007 年9月 調査票配布 2244 名 回答なし 814 名 回収率63.7 % 回答あり 1430 名 除外(男性など ) 73 名 2回目 2008 年9月 調査対象者 1307 名 不調なし 79 名 9月時点での離職の有無を把握 1307 名 (分析対象者) (WIS, WOS, absenteeism では対象外) 離職群 182 名 (階層的ロジスティック回帰分析の対象者) 継続群 1125 名 不調あり 1228 名 図 1. 調査の流れと対象者の選出 個人要因 ・看護業務上の自律性 ・看護師のコミュニケーションスキル ・自尊感情 組織要因 ・人的環境:話しやすい雰囲気、師長の理解など ・物的環境:物品、休憩空間など ・勤務状況:夜勤、給料など ・職場役割:プリセプター・勤務帯リーダーの経験 退職 健康関連要因:SPSJ ・心身の不調:PHC ・労働遂行能力の低下:WIS 図 2. 概念枠組み 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 19 19 2011/09/08 19:17:10 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 康関連要因が退職に影響すると考え,質問項目を 3 要因から構成した. 個人要因は,看護業務上の自律性,看護師のコミュ ニケーションスキル,自尊感情から構成した. 健康関連要因は心身の不調とそれによって引き 起こされる労働遂行能力の低下を位置づけた.測 定には Stanford Presenteeism Scale 日本語版(以 看護業務上の自律性は菊池らの「看護師の自律性 下,SPSJ)を使用した.SPS の版権はアメリカの 測 定 尺 度 」47 項 目( 菊 池, 原 田,1997; 堀,2001) Merck & Co. Inc とスタンフォード大学が所有し を参考に原版作成者の許可を得て 14 項目を抽出し ている.日 本 語 版 の 信 頼 性・ 妥 当 性 に つ い て は た.菊池らは,看護職の職務上の自律性を,専門技 女 性 を 対 象 に 検 証 さ れ て い る(Y a m a s h i t a & 術に裏付けられた自主的・主体的な判断と適切な看 Arakida, 2008).SPS は 過 去 4 週 間 を 想 起 し て 回 護実践という,看護活動における専門的な能力の発 答する質問紙である.構成は以下の 4 パートから 揮であるとして認知,判断,実践の 3 領域の能力を 成る. 5 件法で測定した.本研究では共通性,因子寄与率 • 労働遂行能力に影響をした不調:Primary Health の高さ,下位尺度の構成を考慮して「私は,治療が Condition(以下,PHC)を特定するパート.複 患者に及ぼす心理的影響を予測することができる 数の不調の選択肢の中から該当するすべての不調 (認知)」「私は多くの情報から必要な看護を選択で を複数回答で選択し,その中から最も労働遂行に きる(判断) 」「私は,緊急時にも落ち着いて看護を 影響した不調,すなわち PHC を一つ特定するこ 行うことができる(実践)」のような質問項目を用 とを求めた.なお,本調査は看護師を対象とした いた. 調査であり,女性が大多数を占める,平均年齢が 看護師のコミュニケーションスキルは,6-Dimension 低い,という特徴のある集団であるため,心身の Scale of Nursing Performance の日本語・改良版(松 不調に関する選択肢では,原版の心疾患や糖尿病 山ら,1997)から,日本語版作成者の許可を得て, は除き,月経困難など女性特有の不調等を加えた. 下位尺度の一つである対人関係 / コミュニケーショ なお,Presenteeism は不調に起因する労働遂行 ン 8 項目を用いた. 「患者自身の決定や希望をケア 能力の低下であり,不調がないと回答した者は以 に取り入れる」「医療チームメンバーと良い関係を 下 の Work Impairment Score,Work Output 築こうとする」のような質問項目を含む 8 項目 4 件 Score,absenteeism の測定に関しては対象外と 法の尺度を構成した. なる. 自尊感情については,ローゼンバーグの尺度,クー • PHC に よ る 労 働 遂 行 能 力 を 妨 げ た 程 度:Work パースミスの尺度,ジャニスとフィールドの尺度な Impairment Score(以下,WIS)を測定するパート. どがあるが,それらの先行研究結果(遠藤ら,1992; 5 件 法 10 項 目 か ら 構 成 さ れ, こ れ を 合 計 し Arakida et al., 2004; Hirokane & Arakida, 2008; (range:10-50 点),0-100%に換算したものが WIS Shimizu et al., 2004)を検討し,若手看護師が回答 である.労働遂行能力の低下は WIS の測定にて把 しやすい質問として「自分には,良いところがたく 握する.WIS の得点が高いほど労働遂行能力の低 さんあると思っている」「時々,自分が全く役立た 下の程度が大きいことを表す. ずだと感じる」「私は,少なくとも他の人と同じく • PHC を自覚しながらも発揮できた労働遂行能力の らい値打ちのある人間だと思う」「私は,何をして 程度:Work Output Score(以下,WOS)を把握 もうまくできない人間であると思う」という 4 項目 するパート.0-100%の Visual Analog Scale1 項目 を 4 件法で構成した. にて問う.WOS の得点が高いほど,発揮できた労 組織要因は,人的環境,物的環境,勤務状況,職 場役割から構成した.人的環境は「話しやすい雰囲 働遂行能力が大きいことを表す. • PHC による休業時間:absenteeism を把握するパー 気がある」「師長の理解がある」など 9 項目 4 件法, ト.過去 4 週間における PHC による失われた労働 物的環境は「物品の十分さ」「休憩空間の十分さ」 時間を問う. など 5 項目 4 件法, 勤務状況は「夜勤の多さ」 「給料」 など 6 項目,職場役割は「プリセプターの経験」「勤 20 務帯リーダーの経験」の 2 項目であった. 基本属性は性別,年齢,看護師経験年数,同居 家族の有無,婚姻の有無,子どもの有無を尋ねた. 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 20 2011/09/08 19:17:10 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 3. 分析方法 Ⅲ. 結果 経験年数別に,1 年以内に退職した群と退職しな かった群の 2 群の傾向を比較するため,個人要因, 1. 分析対象者の属性 組織要因,健康関連要因の平均値の差の比較,回答 回収数は 1430 部(回収率 63.7%)であった.男性 傾向の差の比較を行った.次に,2008 年の 2 回目調 50 名,経験年数が対象外であった 73 名を除外した 査時における退職の有無を予測する要因を検討する 1307 名を分析対象とした.退職理由には性差がある ため,初回調査における個人要因,組織要因,健康 と考えられ,男性が少数であったことから,今回の 関連要因を説明変数とする階層的ロジスティック回 分析対象から男性は除外することとした.分析対象 帰分析を行った.各要因を投入する段階ごとの説明 者 1307 名中,1 年以内の退職者(以下,退職群)は 率の差によって,各要因の影響力を比較することを 182 名(13.9%) ,勤続者(以下,継続群)は 1125 名 意図した.分析は統計ソフト SPSS16J for Windows であった.分析対象者全体の年齢の平均と標準偏差 を用い有意水準は 5%とした. は 24.5 ± 3.1 歳, 看 護 師 と し て の 経 験 期 間 は 平 均 経験年数別の分け方は,看護師は類似の科で 1-2 27.3 ± 17.0 ヶ月(約 2 年 3 ヶ月)であった.退職群 年程度勤務することで一人前,3-5 年程度で中堅と は年齢が有意に高く,婚姻している者が多い傾向で なる,とするベナーの理論を参考に,1-2 年目(2 年 あった(表1).経験年数が長くなるほど退職者の 未満)と 3-5 年目(2 年以上 5 年未満)に分けて分 割合は高くなる傾向であった(表1).また,WIS 析した.新人を教育するプリセプターの役割をとる は不調を回答していない 79 名は分析対象外となる のは 3 年目からが多く(日看協,2004),職場での ため,WIS の記述統計や WIS を投入した階層的ロ 役割の変化も考慮した. ジスティック回帰分析の分析対象は 1228 名(1-2 年 目 569 名,3-5 年目 659 名)であった.除外とした 79 名の年齢は平均 25.5 ± 4.0 歳であり,それ以外の 4. 倫理的配慮 対象者の追跡にはダミーコードを用い,対象者と 1228 名の 24.5 ± 3.0 歳と比較し有意に高かったが, ダミーコードの割り振りはデータ分析に携わらない 経験年数,婚姻・子どもの有無,退職の有無では差 研究協力者が行ったため,匿名でデータ処理を行う はなかった. ことが可能であった.個人情報の利用目的や情報の 扱い方については,質問紙に同封した説明書に記載 し,質問紙の回答をもって同意を得た.大阪大学医 2. 各要因における退職群と継続群の比較 経験年数 1-2 年目,3-5 年目の 2 群の個人要因と健 康関連要因(表2),組織要因(表3)の記述統計 学部保健学倫理委員会の承認を得て行った. を退職群と継続群の 2 群間で比較した. 個人要因の各尺度について,信頼係数は看護業務 表 1. 基本属性 総数 N=1307 離職群 n=182 継続群 n=1125 p 24.6(3.1) 25.2(3.0) 24.5(3.1) 0.00* 総数 N=603 1-2年目 離職群 継続群 n=57 n=546 p 総数 N=704 3-5年目 離職群 継続群 n=125 n=579 p 基本属性 年齢a) 経験月数 a) 婚姻あり b) 子どもあり * 27.3(17.0) 32.2(16.3) 26.5(17.0) 0.00 104(8.0) b) 55(4.2) 経験年数別の1年以内離職割合 24(13.2) 80(7.1) 0.01* 22(3.6) 6(10.5) 16(2.9) 11(6.1) 44(3.9) 0.23 3(5.4) 53(94.6) 0.14 17(2.8) 0.01* 82(11.6) 18(14.4) 64(11.1) 0.07 38(5.4) 8(6.4) 30(5.2) 0.14 b) 1年目 328(100.0) 27(8.2) 301(91.8) 2年目 275(100.0) 30(10.9) 245(89.1) 3年目 250(100.0) 41(16.4) 209(83.6) 4年目 237(100.0) 43(18.1) 194(81.9) 5年目 217(100.0) 41(18.9) 176(81.1) 0.00* a) 平均値(標準偏差), t検定, b) n(%), χ2検定 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 21 21 2011/09/08 19:17:10 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 表 2. 個人要因,健康関連要因の退職群と継続群の比較 離職意向a) 個人要因 看護業務上の自律性a) コミュニケーションスキルa) 自尊感情a) 健康関連要因 少なくとも一つ以上の不調あり 不調数b) 5個以下 6個以上 不調の種類b) 肩こり、腰痛 足のだるさ うつ、不安感、イライラ 胃腸障害 頭痛 月経障害、更年期障害 眼精疲労 不眠傾向 皮膚のかゆみ、アトピー アレルギー 風邪症状 貧血 その他 総数 N=603 14.7(5.6) 1-2年目 離職群 継続群 n=57 n=546 18.7(4.8) 14.3(5.5) p 0.00* 総数 N=704 14.9(5.1) 3-5年目 離職群 継続群 n=125 n=579 16.7(4.9) 14.5(5.1) p 0.00* 39.9(7.0) 23.0(3.3) 9.2(1.9) 39.1(7.6) 22.1(3.3) 9.1(1.8) 40.0(6.9) 23.1(3.3) 9.3(2.0) 0.36 0.04* 0.53 45.1(6.1) 23.9(2.8) 10.0(1.9) 45.1(6.1) 23.7(3.1) 10.1(1.9) 45.1(6.2) 24.0(2.7) 10.0(1.8) 0.94 0.44 0.94 569(94.4) 56(98.2) 513(94.0) 0.09 659(93.6) 118(94.4) 541(94.7) 0.83 385(63.8) 218(36.2) 24(42.1) 33(57.9) 361(66.1) 185(33.9) 0.00* 473(67.2) 231(32.8) 84(67.2) 41(32.8) 389(67.2) 190(32.8) 1.00 1.00 438(72.6) 399(66.2) 343(56.9) 292(48.4) 236(39.1) 221(36.7) 177(29.4) 166(27.5) 159(26.4) 134(22.2) 114(18.9) 80(13.3) 96(15.9) 46(80.7) 41(71.9) 37(64.9) 36(63.2) 31(54.4) 29(50.9) 25(43.9) 19(33.3) 16(28.1) 10(17.5) 17(29.8) 13(22.8) 11(19.3) 離職群 n=56 51.5(17.2) 63.1(16.8) 392(71.8) 358(65.6) 306(56.0) 256(46.9) 205(37.5) 192(35.2) 125(22.9) 147(26.9) 143(26.2) 124(22.7) 97(17.8) 67(12.3) 85(15.6) 継続群 n=513 42.1(15.9) 71.4(15.7) 0.15 0.37 0.20 0.02* 0.01* 0.02* 0.01* 0.28 0.75 0.50 0.03* 0.04* 0.28 p 502(71.3) 448(63.6) 348(49.4) 306(43.5) 272(38.6) 243(34.5) 186(26.4) 185(26.3) 191(27.1) 140(19.9) 119(16.9) 79(11.2) 100(14.2) 414(71.5) 363(62.7) 283(48.9) 250(43.2) 225(38.9) 197(34.0) 154(26.6) 150(25.9) 157(27.1) 110(19.0) 92(15.9) 64(11.1) 87(15.0) 継続群 n=541 38.1(15.6) 72.8(14.9) 0.66 0.41 0.69 0.84 0.76 0.68 0.82 0.73 1.00 0.27 0.15 0.76 0.21 p N=659 38.7(16.0) 72.5(15.1) 88(70.4) 85(68.0) 65(52.0) 56(44.8) 47(37.6) 46(36.8) 32(25.6) 35(28.0) 34(27.2) 30(24.0) 27(21.6) 15(12.0) 13(10.4) 離職群 n=118 41.5(17.5) 71.0(16.1) 543(88.1) 34(5.5) 15(2.4) 15(2.4) 9(1.5) 99(86.8) 9(7.9) 3(2.6) 3(2.6) 0(0.0) 444(88.4) 25(5.0) 12(2.4) 12(2.4) 9(1.8) N=569 43.0(16.2) WISa) WOSa) 70.6(16.0) absenteeism b) 0時間 462(88.3) 39(75.0) 4時間以下 22(4.2) 4(7.7) 5-8時間 11(2.1) 2(3.8) 9-24時間 15(2.9) 5(9.6) 25時間以上 13(2.5) 2(3.8) a) 平均値(標準偏差), t検定, b)n(%), χ2検定 423(89.8) 18(3.8) 9(1.9) 10(2.1) 11(2.3) 0.00* 0.00* 0.01* 0.04* 0.28 0.47 上の自律性 : α= 0.889,看護師のコミュニケーショ れの疾患についても胃腸障害や頭痛など 6 つの不調 ンスキル : α= 0.817 であり,自尊感情は因子分析の で退職群の有訴数が多かった.3-5 年目では不調数 結果,一因子構造をとり,α= 0.723 であった.個 や各不調の有訴数,休業時間に差はなかった.労働 人要因は 1-2 年目では退職群より継続群においてコ 遂行能力の低下の大きさを表す WIS の平均値はどち ミュニケーションスキルが高かった. らの経験年数においても,継続群よりも退職群のほ 組織要因では,退職群のほうが継続群よりも「な し」 「不十分」などのネガティブな回答傾向が多かっ , うが有意に高かった.また 3-5 年目の退職群と 1-2 年目の継続群の WIS は同程度の点数であった. た.話し合う場は 1-2 年目,3-5 年目のどちらにおい ても有意な関係性があり,いずれも継続群で「いつ もある」「ときどきある」と回答するものの割合が 22 3. 階層的ロジスティック回帰分析 2 回目調査時点の退職の有無を従属変数とする階 高い傾向がみられた.1-2 年目では話しやすい雰囲気, 層的ロジステッィク回帰分析を 1-2 年目,3-5 年目で 勤務帯リーダーの働き,職場教育において,3-5 年 それぞれ行った.各要因の投入前後の決定係数の差 目では師長の理解,学習意欲,知識伝達,医師との を 比 較 す る と, 組 織 要 因 の 投 入 時 に お い て, 良好な関係,夜勤においても有意差がみられた.退 Nagelkerke R 二乗の値が一番増加した.1-2 年目に 職群と継続群で割合に差はなかったが,3-5 年目の おいて基本属性投入時には退職と婚姻の有無に有意 68.8%がプリセプター,81.2%が勤務帯リーダーを経 な関係性がみられ,組織要因投入時には婚姻は消失 験していた. し職場教育に有意な関係性をみとめた(表4).さ 健康関連要因では,対象者の 94%が何らかの不調 らに健康関連要因を投入すると最終的には WIS の を有すると回答していた.1-2 年目においては退職 みが退職と有意な関係性がみられた(表4).3-5 年 群のほうが継続群よりも不調数が多く,またそれぞ 目では組織要因投入時に話し合う場,医師との良好 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 22 2011/09/08 19:17:11 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 表 3. 組織要因の退職群と継続群の比較 総数 N=603 組織要因 人的環境 話しやすい雰囲気 いつもある ときどきある あまりない まったくない 話し合う場 いつもある ときどきある あまりない まったくない 師長の理解 いつもある ときどきある あまりない まったくない 勤務帯リーダーの働き いつもある ときどきある あまりない まったくない 助け合い いつもある ときどきある あまりない まったくない 役割達成意識 いつもある ときどきある あまりない まったくない 学習意欲 いつもある ときどきある あまりない まったくない 知識伝達 いつもある ときどきある あまりない まったくない 医師との良好な関係 いつもある ときどきある あまりない まったくない 物的環境 物品 十分である まあ十分である やや不十分である 不十分である 設備 十分である まあ十分である やや不十分である 不十分である 空間 十分である まあ十分である やや不十分である 不十分である 休憩場所 十分である まあ十分である やや不十分である 不十分である 職場教育 十分である まあ十分である やや不十分である 不十分である 勤務状況 夜勤 少ない やや少ない ふつう やや多い 多い 超過勤務 少ない やや少ない ふつう やや多い 多い 給料a) 多い ふつう 少ない 年休消化率a)b) 0-30% 30-50% 50-80% 80-100% 不明 勤務融通a) 利きやすい 場合による 利きにくい 勤務形態a)c) 3交代 2交代 日勤のみ 夜勤のみ その他 職場役割a)b) プリセプター経験 勤務帯リーダー経験 1-2年目 離職群 n=57 継続群 n=546 145(24.1) 354(58.8) 83(13.8) 20(3.3) 7(12.3) 32(56.1) 10(17.5) 8(14.0) 138(25.3) 322(59.1) 73(13.4) 12(2.2) 193(32.1) 314(52.2) 86(14.3) 9(1.5) 9(15.8) 30(52.6) 15(26.3) 3(5.3) 184(33.8) 284(52.1) 71(13.0) 6(1.1) 147(24.5) 294(48.9) 126(21.0) 34(5.7) 14(24.6) 20(35.1) 13(22.8) 10(17.5) 133(24.4) 274(50.4) 113(20.8) 24(4.4) 199(33.3) 341(57.1) 54(9.0) 3(0.5) 11(19.6) 38(67.9) 7(12.5) 0(0.0) 188(34.8) 303(56.0) 47(8.7) 3(0.6) 251(41.8) 298(49.6) 47(7.8) 5(0.8) 19(33.3) 28(49.1) 9(15.8) 1(1.8) 232(42.6) 270(49.6) 38(7.0) 4(0.7) 270(44.9) 295(49.1) 35(5.8) 1(0.2) 22(38.6) 31(54.4) 4(7.0) 0(0.0) 248(45.6) 264(48.5) 31(5.7) 1(0.2) 192(31.9) 356(59.1) 53(8.8) 1(0.2) 18(31.6) 30(52.6) 9(15.8) 0(0.0) 174(31.9) 326(59.8) 44(8.1) 1(0.2) 166(27.6) 319(53.0) 112(18.6) 5(0.8) 13(22.8) 32(56.1) 11(19.3) 1(1.8) 153(28.1) 287(52.7) 101(18.5) 4(0.7) 211(35.0) 340(56.5) 46(7.6) 5(0.8) 19(33.3) 31(54.4) 5(8.8) 2(3.5) 192(35.2) 309(56.7) 41(7.5) 3(0.6) 105(17.5) 277(46.2) 183(30.6) 34(5.7) 9(15.8) 21(36.8) 22(38.6) 5(8.8) 96(17.7) 256(47.2) 161(29.7) 29(5.4) 83(13.9) 257(42.9) 214(35.7) 4587.5) 7(12.3) 20(35.1) 25(43.9) 5(8.8) 76(14.0) 237(43.7) 189(34.9) 40(7.4) 72(12.0) 213(35.5) 215(35.8) 100(16.7) 5(8.8) 14(24.6) 27(47.4) 11(19.3) 67(12.3) 199(36.6) 188(34.6) 89(16.4) 137(23.0) 178(29.9) 177(29.7) 104(17.4) 8(14.5) 14(25.5) 21(38.2) 12(21.8) 129(23.8) 164(30.3) 156(28.8) 92(17.0) 158(26.3) 259(43.2) 134(22.3) 49(8.2) 7(12.3) 22(38.6) 16(28.1) 12(21.1) 151(27.8) 237(43.6) 118(21.7) 37(6.8) 18(3.3) 48(8.7) 351(63.5) 109(19.7) 27(4.9) 4(8.2) 5(10.2) 26(53.1) 13(26.5) 1(2.0) 14(2.8) 43(8.5) 325(64.5) 96(19.0) 26(5.2) 16(3.0) 9(1.7) 132(25.1) 164(31.2) 205(39.0) 1(2.0) 0(0.0) 10(19.6) 17(33.3) 23(45.1) 4(0.7) 199(33.4) 392(65.9) p 総数 N=704 3-5年目 離職群 n=125 継続群 n=579 p 233(33.2) 393(56.0) 68(9.7) 8(1.1) 32(25.6) 78(62.4) 15(12.0) 0(0.0) 201(34.8) 315(54.6) 53(9.2) 8(1.4) 240(34.2) 352(50.2) 100(14.3) 9(1.3) 36(29.0) 57(46.0) 27(21.8) 4(3.2) 204(35.4) 295(51.1) 73(12.7) 5(0.9) 156(22.3) 326(46.6) 162(23.1) 56(8.0) 22(17.9) 51(41.5) 33(26.8) 17(13.8) 134(23.2) 275(47.7) 129(22.4) 39(6.8) 142(20.3) 475(68.0) 76(10.9) 6(0.9) 22(17.7) 84(67.7) 14(11.3) 4(3.2) 120(20.9) 391(68.0) 62(10.8) 2(0.3) 228(32.5) 410(58.5) 56(8.0) 7(1.0) 36(29.0) 73(58.9) 13(10.5) 2(1.6) 192(33.3) 337(58.4) 43(7.5) 5(0.9) 198(28.3) 433(61.9) 64(9.2) 4(0.6) 35(28.2) 359(62.4) 14(11.3) 3(0.5) 163(28.3) 359(62.4) 50(8.7) 3(0.5) 108(15.5) 472(67.6) 112(16.0) 6(0.9) 10(8.1) 83(67.5) 28(22.8) 2(1.6) 98(17.0) 389(67.7) 84(14.6) 4(0.7) 110(15.8) 366(52.4) 210(30.1) 12(1.7) 15(12.3) 58(47.5) 46(37.7) 3(2.5) 95(16.5) 308(53.5) 164(28.5) 9(1.6) 178(25.4) 412(58.8) 105(15.0) 6(0.9) 31(25.0) 55(44.4) 36(29.0) 2(1.6) 147(25.5) 357(61.9) 69(12.0) 4(0.7) 106(15.2) 291(41.7) 244(35.0) 57(8.2) 18(14.6) 50(40.7) 46(37.4) 9(7.3) 88(15.3) 241(41.9) 198(34.4) 48(8.3) 72(10.3) 239(34.1) 280(40.0) 109(15.6) 11(8.9) 48(38.7) 50(40.3) 15(12.1) 61(10.6) 191(33.2) 230(39.9) 94(16.3) 75(10.7) 188(26.9) 261(37.3) 175(25.0) 12(9.7) 35(28.2) 47(37.9) 30(24.2) 63(11.0) 153(26.6) 214(37.2) 145(25.2) 145(20.9) 193(27.8) 207(29.8) 149(21.5) 22(18.0) 30(24.6) 39(32.0) 31(25.4) 123(21.5) 163(28.5) 168(29.4) 118(20.6) 123(17.6) 287(41.1) 203(29.1) 85(12.2) 15(12.2) 52(42.3) 40(32.5) 16(13.0) 108(18.8) 235(40.9) 163(28.3) 69(12.0) 0.70 10(1.6) 29(4.6) 368(58.7) 161(25.7) 59(9.4) 1(0.9) 3(2.7) 58(52.7) 36(32.7) 12(10.9) 9(1.7) 26(5.0) 310(60.0) 125(24.2) 47(9.1) 0.03 * 15(3.2) 9(1.9) 122(25.7) 147(30.9) 182(38.3) 0.18 38(6.2) 26(4.3) 150(24.6) 192(31.5) 204(33.4) 10(9.0) 6(5.4) 28(25.2) 33(29.7) 34(30.6) 28(5.6) 20(4.0) 122(24.4) 159(31.9) 170(34.1) 0.22 0(0.0) 16(28.1) 41(71.9) 4(0.7) 183(34.0) 351(65.2) 0.52 0(0.0) 146(20.9) 553(79.1) 0(0.0) 26(21.0) 98(79.0) 0(0.0) 120(20.9) 455(79.1) 0.98 79(30.2) 46(17.6) 54(20.6) 38(14.5) 45(17.2) 9(30.0) 3(10.0) 8(26.7) 5(16.7) 5(16.7) 70(30.2) 43(18.5) 46(19.8) 33(14.2) 40(17.2) 221(34.1) 172(26.5) 92(14.2) 63(9.7) 101(15.6) 34(30.1) 33(29.2) 12(10.6) 18(15.9) 16(14.2) 187(34.9) 139(25.9) 80(14.9) 45(8.4) 85(15.9) 67(11.3) 371(62.7) 154(26.0) 7(12.5) 33(58.9) 16(28.6) 60(11.2) 338(63.1) 138(25.7) 73(10.5) 426(61.6) 198(28.4) 15(12.0) 74(59.2) 36(28.8) 58(10.1) 352(61.5) 162(28.3) 494(81.9) 72(11.9) 16(2.7) 0(0.0) 21(3.5) 43(75.4) 6(10.5) 6(10.5) 0(0.0) 2(3.5) 451(82.6) 66(12.1) 10(1.8) 0(0.0) 19(3.5) 528(75.1) 104(14.8) 25(3.6) 0(0.0) 46(6.5) 96(76.8) 13(10.4) 9(7.2) 0(0.0) 7(5.6) 432(74.7) 91(15.7) 16(2.8) 0(0.0) 39(6.7) 11(4.0) 135(22.6) 2(6.7) 15(26.3) 9(3.6) 120(22.2) 484(68.8) 566(81.2) 86(68.8) 98(79.0) 398(68.7) 468(81.7) 0.01 * 0.00 * 0.06 0.03 * 0.05 0.32 0.44 0.43 0.51 0.11 0.19 0.06 0.05 0.00 * 0.61 0.83 0.03 0.42 0.51 0.07 0.01 * 0.01 * 0.22 0.20 0.66 0.00 * 0.03 * 0.01 * 0.79 0.41 0.95 0.13 0.15 0.06 0.80 0.21 0.99 0.69 n(%), *:p<0.05, Mann-whitney検定, a)χ2検定, b)1年目は除く, c)その他は除いて検定 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 23 23 2011/09/08 19:17:11 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 表 4. 経験年数 1-2 年目の看護師における退職の予測要因 n=569 Exp Exp(B)の 95.0% (B) 信頼区間 下限 基本属性 婚姻 子ども 個人要因 自律性 コミュニケーションスキル 自尊感情 組織要因 話しやすい雰囲気 話し合う場 師長の理解 勤務帯リーダーの働き 助け合い 役割達成意識 学習意欲 知識伝達 医師との良好な関係 物品 設備 空間 休憩場所 職場教育 夜勤認識 超過勤務認識 給料 勤務融通 交代勤務a) 健康関連要因 HC個数 花粉症、鼻炎 皮膚のかゆみ、アトピー 風邪症状 うつ、不安感、イライラ 不眠傾向 頭痛 胃腸障害 月経随伴症状、更年期 貧血 眼精疲労 肩こり、腰痛 足のだるさ WIS 離職意向 離職意向 定数 Nagelkerke R 2 乗 Exp Exp(B)の 95.0% (B) 信頼区間 p 上限 5.79 1.50 22.32 0.77 0.11 5.63 0.10 0.01 0.80 0.00 * 下限 上限 5.34 0.82 1.37 0.11 20.86 5.91 0.02 0.84 1.00 0.89 0.98 0.95 0.80 0.82 1.05 1.00 1.16 0.94 0.06 0.80 1.58 0.033 階層的ロジスティック回帰分析, 従属変数;離職群=1,継続群=0, Exp Exp(B)の 95.0% (B) 信頼区間 p 0.72 0.058 * p 下限 上限 2.57 2.58 0.53 0.25 12.54 26.28 0.24 0.42 0.99 0.95 1.01 0.93 0.84 0.83 1.04 1.07 1.22 0.81 1.40 1.87 0.45 2.35 0.32 2.51 0.73 1.60 0.66 1.34 0.58 1.29 0.44 0.90 0.71 0.83 1.64 0.41 0.29 0.52 0.84 0.11 0.63 0.06 0.71 0.28 0.48 0.25 0.49 0.25 0.56 0.20 0.41 0.30 0.36 0.71 0.12 2.24 3.78 4.17 1.78 8.75 1.76 8.89 1.89 5.32 1.74 3.67 1.34 2.97 0.99 1.99 1.72 1.91 3.82 1.42 0.78 Exp Exp(B)の 95.0% (B) 信頼区間 Exp Exp(B)の95.0% (B) 信頼区間 p 上限 4.01 2.59 0.69 0.24 23.17 28.33 0.12 0.44 3.18 2.46 0.45 22.20 0.24 0.16 38.28 0.52 0.65 0.39 0.95 0.99 0.94 1.09 0.93 0.82 0.88 1.05 1.07 1.36 0.72 0.34 0.41 1.00 0.96 1.19 0.94 0.83 0.94 0.68 0.51 0.13 0.26 0.20 0.19 0.15 0.52 0.44 0.40 0.57 0.20 0.55 0.05 0.80 0.45 0.67 0.25 0.16 0.77 1.08 1.71 0.40 2.35 0.29 2.58 0.78 1.06 0.72 1.35 0.54 1.27 0.48 1.02 0.81 0.89 2.18 0.36 0.25 0.37 0.71 0.09 0.56 0.05 0.66 0.28 0.28 0.27 0.46 0.22 0.50 0.20 0.44 0.32 0.36 0.86 0.10 2.31 3.15 4.12 1.73 9.82 1.67 10.09 2.15 4.02 1.96 4.01 1.34 3.20 1.14 2.38 2.05 2.18 5.53 1.33 0.64 0.89 0.23 0.22 0.24 0.17 0.17 0.63 0.93 0.52 0.59 0.18 0.61 0.10 0.96 0.66 0.80 0.10 0.13 0.51 1.16 1.57 0.45 3.02 0.18 2.71 0.77 1.60 0.66 1.28 0.48 1.58 0.64 1.09 1.05 0.59 2.65 0.45 0.16 1.67 0.27 0.39 3.46 0.78 0.60 4.10 0.36 0.09 2.15 0.32 0.72 12.63 0.13 0.03 1.17 0.07 0.66 11.15 0.17 0.26 2.28 0.63 0.40 6.47 0.51 0.23 1.94 0.45 0.41 3.96 0.67 0.18 1.27 0.14 0.57 4.37 0.38 0.26 1.58 0.33 0.44 2.70 0.85 0.39 2.84 0.92 0.22 1.55 0.28 1.00 7.04 0.05 0.12 1.74 0.25 0.82 0.66 0.88 0.94 0.68 0.74 1.34 1.64 1.31 2.30 1.91 0.96 1.53 1.03 0.21 0.26 0.34 0.34 0.27 0.30 0.57 0.69 0.58 0.85 0.81 0.37 0.53 1.00 3.23 1.71 2.30 2.55 1.72 1.85 3.15 3.90 2.96 6.27 4.47 2.49 4.37 1.07 0.78 0.39 0.80 0.90 0.42 0.52 0.51 0.27 0.51 0.10 0.14 0.94 0.43 0.03 1.22 0.73 0.70 0.97 0.41 0.54 1.02 1.49 1.26 1.86 1.78 0.83 1.60 1.01 0.29 0.27 0.25 0.34 0.15 0.21 0.42 0.59 0.52 0.65 0.72 0.30 0.53 0.97 5.15 1.96 1.95 2.75 1.10 1.41 2.49 3.76 3.05 5.32 4.41 2.30 4.88 1.04 0.79 0.53 0.50 0.96 0.08 0.21 0.97 0.39 0.62 0.25 0.22 0.72 0.41 0.77 1.29 0.00 1.14 1.45 0.00 0.00 0.87 0.03 0.163 下限 p 下限 0.12 0.247 * 上限 1.06 1.10 1.49 0.96 0.52 0.15 * 0.342 a)二交代勤務=1 な関係,設備,超過勤務が退職と有意な関係性がみ と対策について考察した.本研究は,3 年間の縦断 られ,健康関連要因の投入後もすべて残り,この 4 調査の初回と 2 回目のデータにあたり,今後,職場 つの変数が最終的な説明変数となった(表5).最 環境や家庭の状況などの経年的変化について縦断的 終的な説明率は 1-2 年目のほうが 3-5 年目よりも高 データの分析を予定している.研究の実施可能性を かった. 考慮し,比較的入手しやすい標本を作為的に抽出す ここで 3-5 年目において有意な変数となった設備 る便宜的抽出法を用いたため,一般化には限界があ について,筋骨格系の障害と関連がないか確認する る.しかし,本邦では経験年数 3 から 5 年程度の看 ため設備,腰痛,退職の変数間でクロス集計をして 護師について,対象が 10 以上の病院にわたり,対 χ 2 検定を実施したところ,有意な関係性がみられ 象者数が 1000 を超える規模での縦断的調査報告は なかった.また超過勤務について,婚姻,職場役割, ない.本研究では経験年数が上がるごとに退職率は 不調の有無との関連を確認するため,同様に検定を 高くなっていた.日看協の調査における離職率の算 行ったが,有意な関係はみられなかった. 出方法とは異なるため数値を直接比較することはで きないが,新卒看護師だけでなく,経験年数 5 年未 満の若手の時期も離職率が高いことを示唆し,退職 Ⅳ. 考察 に関連する要因を明らかにした貴重な資料といえ る.また,看護師の presenteeism の測定を行い,労 24 関西・東海・関東圏の 12 病院に勤務する看護師 働遂行能力の低下と退職の関連は本邦でこれまでに 経験 5 年未満の看護師 2244 名に対し,縦断的自記 報告がなく,若手看護師の退職予防策を検討する上 式質問紙調査を行い,経験年数別に退職の予測要因 で有意義といえる. 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 24 2011/09/08 19:17:11 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 表 5. 経験年数 3-5 年目の看護師における退職の予測要因 n=659 Exp Exp(B)の95.0% 信頼区間 (B) 基本属性 婚姻 子ども 個人要因 自律性 コミュニケーションスキル 自尊感情 組織要因 話しやすい雰囲気 話し合う場 師長の理解 勤務帯リーダーの働き 助け合い 役割達成意識 学習意欲 知識伝達 医師との良好な関係 物品 設備 空間 休憩場所 職場教育 夜勤認識 超過勤務認識 給料 勤務融通 交代勤務a) プリセプター経験 勤務帯リーダー経験 健康関連要因 HC個数 花粉症、鼻炎 皮膚のかゆみ、アトピー 風邪症状 うつ、不安感、イライラ 不眠傾向 頭痛 胃腸障害 月経随伴症状、更年期 貧血 眼精疲労 肩こり、腰痛 足のだるさ WIS 離職意向 離職意向 定数 Nagelkerke R 2 乗 1.36 0.84 下限 上限 0.62 0.22 2.97 3.20 0.20 p 0.44 0.80 0.00 Exp (B) Exp(B)の95.0% 信頼区間 p 下限 上限 1.36 0.85 0.62 0.22 2.97 3.27 0.45 0.82 0.99 0.97 1.02 0.95 0.88 0.89 1.04 1.07 1.17 0.75 0.55 0.77 0.46 0.002 0.52 0.004 Exp (B) Exp(B)の95.0% 信頼区間 下限 上限 1.36 0.88 0.58 0.21 3.21 3.60 0.48 0.86 0.99 1.01 1.00 0.95 0.91 0.87 1.04 1.12 1.16 0.82 0.89 0.97 0.56 2.29 1.51 0.72 1.09 0.83 1.30 1.16 2.85 0.63 2.12 0.78 0.78 1.39 0.75 1.94 1.11 1.31 0.48 1.33 0.78 0.23 1.14 0.82 0.33 0.42 0.32 0.63 0.64 1.45 0.33 1.05 0.41 0.44 0.79 0.43 1.11 0.56 0.73 0.21 0.73 0.39 1.38 4.62 2.78 1.58 2.85 2.15 2.69 2.09 5.59 1.21 4.31 1.48 1.38 2.44 1.29 3.37 2.21 2.35 1.10 2.42 1.58 0.21 0.02 0.18 0.41 0.86 0.69 0.47 0.62 0.00 0.16 0.04 0.45 0.39 0.25 0.30 0.02 0.76 0.36 0.08 0.35 0.49 0.09 0.09 0.131 Exp (B) p Exp(B)の95.0% 信頼区間 下限 上限 1.22 0.94 0.51 0.22 2.91 3.95 0.65 0.93 0.99 1.01 1.05 0.95 0.90 0.89 1.04 1.13 1.23 0.81 0.86 0.59 0.54 2.27 1.42 0.75 0.98 0.91 1.28 1.11 * 2.99 0.61 * 2.33 0.72 0.82 1.51 0.76 * 1.96 1.05 1.32 0.47 1.28 0.81 0.21 1.10 0.76 0.33 0.36 0.34 0.61 0.60 1.48 0.31 1.11 0.37 0.45 0.84 0.43 1.10 0.52 0.73 0.20 0.69 0.39 1.39 4.68 2.67 1.68 2.69 2.45 2.72 2.05 6.01 1.20 4.91 1.39 1.50 2.72 1.34 3.48 2.11 2.40 1.10 2.36 1.68 0.20 0.03 0.27 0.48 0.97 0.85 0.51 0.73 0.00 0.15 0.03 0.33 0.52 0.17 0.34 0.02 0.89 0.36 0.08 0.43 0.57 0.72 1.15 1.11 1.80 1.05 0.93 0.99 1.31 1.36 0.86 0.74 1.06 0.88 1.02 0.27 0.58 0.60 0.91 0.57 0.48 0.54 0.73 0.77 0.37 0.38 0.59 0.45 1.00 1.92 2.30 2.08 3.58 1.94 1.81 1.83 2.34 2.42 1.99 1.45 1.92 1.72 1.04 * 0.02 0.162 Exp (B) p Exp(B)の95.0% 信頼区間 p 下限 上限 1.17 1.02 0.48 0.24 2.82 4.40 0.73 0.98 1.00 0.99 1.07 0.95 0.89 0.91 1.05 1.11 1.26 0.85 0.93 0.42 0.45 2.32 1.31 0.71 1.09 0.95 1.22 1.06 * 2.71 0.56 * 2.43 0.72 0.87 1.69 0.82 * 2.08 0.94 1.47 0.46 1.27 0.78 0.17 1.12 0.70 0.31 0.39 0.35 0.57 0.57 1.34 0.28 1.14 0.37 0.48 0.93 0.46 1.16 0.46 0.80 0.20 0.68 0.37 1.17 4.83 2.48 1.59 3.03 2.58 2.60 1.97 5.51 1.11 5.17 1.40 1.61 3.08 1.45 3.74 1.92 2.68 1.09 2.39 1.65 0.10 0.02 0.40 0.40 0.86 0.92 0.61 0.86 0.01 0.10 0.02 0.34 0.67 0.09 0.49 0.01 0.87 0.21 0.08 0.45 0.52 0.52 0.69 0.73 0.09 0.88 0.84 0.99 0.37 0.29 0.73 0.39 0.85 0.71 0.08 0.65 1.11 1.24 1.97 0.93 0.92 1.00 1.33 1.36 0.87 0.75 1.12 0.87 1.01 0.24 0.56 0.66 0.98 0.50 0.47 0.54 0.73 0.76 0.37 0.38 0.61 0.44 0.99 1.77 2.22 2.33 3.96 1.75 1.81 1.86 2.40 2.43 2.04 1.47 2.05 1.72 1.03 0.40 0.76 0.51 0.06 0.83 0.81 1.00 0.35 0.29 0.75 0.40 0.71 0.68 0.44 1.10 0.01 1.03 1.18 0.02 0.01 * 0.00 * * * * * 0.185 階層的ロジスティック回帰分析, 従属変数;離職群=1,継続群=0 a)二交代勤務=1 1. 退職の予測要因 この 4 項目についての考察を以下に述べた. 階層的ロジスティック回帰分析では,1-2 年目と 3-5 年目において話し合う場や医師との関係といっ 3-5 年目で共通して有意に関連があった変数はなかっ た他職種との連携やチームワークに関係する人的要 た.以下に,経験年数別に退職と関連が見られた変 因の項目が退職の予測因子として有意な変数となっ 数について考察を述べた. たことについては, 多くがプリセプターや勤務帯リー 1-2 年目では,WIS が退職に影響する要因となっ ダーを経験しており,役割や視野が拡大したために た.退職群に不調の有訴者が多かったことから,心 重要な要因となっているためと考えられる.そのた 身の不調から労働遂行能力の低下により退職が生じ め,役割や立場に応じた実践力を導いてくれる教育 ていることが示唆された.特に,胃腸障害や頭痛な が重要であり,クリニカルラダーの活用が有効であ どが退職群に多いことから緊張感やストレスの高さ る(小島,野地,2005) .また,職種や経験年数を超 が伺える.新卒看護師の辞めたい理由の調査では, えて対等に話し合える場を設けるなどチーム医療メ 入職後 3 ヶ月,6 ヶ月では仕事の失敗や人間関係で ンバーの相互理解の推進が重要であるといえる. あるが,1 年後は過酷な勤務を挙げる者が多かった 超過勤務に関しては,超過勤務が少ない者が退職 (水田ら,2004).1-2 年目では仕事に不慣れであり しているという結果であった.超過勤務が少ないと 身体的疲労を感じるようになるといえる. いうことは,職場の役割を任されておらず意欲のな 3-5 年目では組織要因の影響が大きく,話し合う い人,婚姻や体調不良などのために超過勤務を実施 場がない,医師との良好な関係がない,設備が不十 していない理由がある人が退職に至っているためと 分,超過勤務が少ないことも退職と関連があった. 推測されたが,3-5 年目ではリーダー役割,婚姻, 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 25 25 2011/09/08 19:17:12 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 不調の有無と超過勤務には関係がなかった.縦断調 や話し合う場がないと回答する傾向が見られた.退 査における選択バイアスが一因となっている可能性 職した者は,職場でコミュニケーションを十分にと が考えられた.つまり,1-2 年で既に就労の維持が れていないと考えられ,コミュニケーションを円滑 困難な健康状態不良者が集団から除かれ,比較的健 にする支援は必要である.本研究結果は,新卒看護 康な集団が継続していることによる選択バイアスで 師の離職予防へのソーシャルサポートの重要性 あるヘルシーワーカー効果(青山,2005)のために, (Suzuki et al., 2006; Tominaga & Miki, 2010) を 報 3-5 年目の継続群にいる影響と考えられた.その中 告した先行研究を支持する結果であったといえる. でもさらに超過勤務を多く実施しても働き続けられ また,健康面では,対象者の 94%が心身の不調を るような労働者の存在による影響が考えられた.し 自覚しながらもほとんどが欠勤していなかった.ま かし本調査の超過勤務は実際の時間ではなく自覚的 た,本研究の WIS は先行研究(Collins et al., 2005; な多さの程度を尋ねたため,さらなる今後の検討が 和田ら,2007)と比較して高いことより看護師の労 必要である. 働遂行能力の低下の程度が大きいことが示唆され 設備に関しては,設備が不十分と回答した者が退 た.特に退職群では WIS が高くなっており,労働遂 職しているという結果であった.「腰痛予防対策指 行能力の低下をきたしていたことが推測される.看 針」において看護師のように腰痛対策が必要な職業 護師の労働遂行能力低下は判断力の低下,注意力の では,作業環境管理すなわち設備の充実も重要とさ 低下などにより患者の命に直結する問題につながり れるため(中央労働災害防止協会 , 2010),設備と腰 うる.日看協の調査(2004)によると,新卒看護職 痛と退職の変数間でクロス集計をしてカイ二乗検定 員の仕事を続けていく上での悩みの上位には「医療 を実施したところ,本研究においては有意な関係性 事故を起こさないか不安である」「ヒヤリハットレ がみられなかった. ポートを書いた」が挙げられており,若年層では医 超過勤務,設備について先行研究では,超過勤務 が腰痛など筋骨格系の障害を引き起こすという報告 2010). (Caruso & Waters, 2008)や看護ケアにおける設備 一方,3-5 年目の退職群と 1-2 年目の継続群の WIS を十分に活用していないために筋骨格系の障害を予 が同程度の点数であり,1-2 年目の継続群の労働遂 防できず離職にいたるという報告(Fochsen et al., 行能力は 3-5 年目でさらに低下することはないが, 2006)があったため,適切な労働時間の管理や設備 3-5 年目での継続群では WIS が低下する傾向,つま の整備などを行うことは慢性疲労,筋骨格系の障害 り労働遂行能力が改善する傾向がみられた.中堅看 のみならず退職の予防に有効といえる. 護師の実践能力は新人より高くなるが,実力と期待 3-5 年目では,1-2 年目と比較してモデルの説明率 される役割との葛藤や仕事と私生活との葛藤など が低かった.この理由としては,結婚は離職理由の 様々な葛藤を課題として持っているという(小山田, 上位であり(日看協,2005),3-5 年目には婚姻者の 2009).中堅看護師の定義のほとんどに経験 5 年目 割合も高くなっていることより,結婚や出産など生 が含まれているといわれるが(小山田,2009) ,中 活の変化を契機とした予期せぬ退職が起きる可能性 堅もしくは中堅期に入ろうとする時期である 3-5 年 があると考えられた.職場での責任や家庭があるが 目では,葛藤や問題に直面していく中で労働に支障 ゆえの経済的な理由などからすぐに退職には結びつ を出さないようなスキルを身につけてきていること かないという報告もあり(Lynn & Redman, 2005), が推測された.例えば不調の対処には不調を予測し, 退職への要因が本調査項目以外にも多様になるため 早期の治療や私生活での休養の確保などの労働遂行 と考えられた. 能力を落とさない工夫が考えられる.また,1-2 年 次に,退職の予測要因として有意な関係とはなら 目の退職群は心身の不調数や各疾患の有訴率が高 なかったが,退職群と継続群の比較において特徴の かったが,3-5 年目では退職群と継続群の間で不調数, みられた内容を以下に述べた. 有訴率に有意差はなかったことも考慮すると,ヘル 1-2 年目の退職群の特徴として,表 2,表 3 よりコ ミュニケーションスキルが低く,話しやすい雰囲気 26 療 事 故 へ の 不 安 を 持 つ 者 の 割 合 が 高 い( 日 看 協, シーワーカー効果(青山,2005)も一因であると考 えられた. 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 26 2011/09/08 19:17:12 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 2. 退職予防策への示唆 本研究の限界として,本研究の退職には現職場か 日看協では今後の離職防止の柱として, 「新卒看 らの退職と看護師からの離職の 2 つを含んでいる点 護職員の教育研修体制の整備充実」「ワークライフ がある.退職には向学心からの進学や発展的な転職 バランスの推進」 「労働条件の改善」を挙げている(日 が含まれるため必ずしも問題ではない.しかしその 看協, 2010).WIS が 1-2 年目の退職の予測要因となっ 両者を分けなかったのは,退職者に理由を確認する た,退職群に心身の不調が多く WIS が高かった,と 手段を持たなかったことに加えて,本対象の経験 5 いう本研究結果から,これに加えて若手看護師が職 年未満における退職は病院組織にとってはキャリア 業継続するためには組織的な心身の健康管理が有効 開発中の人材を失うことであり,個人にとっては一 であると考える.特に不調を持っていても休暇を取 定の経験を認められる以前であり損失となる可能性 得していないという本研究の結果から,必要時には があると考えられたため,どちらも問題があるとし 休暇・休息をとることができるような人員体制を取 たからであった. ることが望ましい.病気休業がとれずに出勤した場 合でも,その日の配置や受け持ち人数に融通を利か せて,体力をセーブして働けるような配慮が重要で Ⅴ. 結論 ある.しかし,上司や同僚に体調不良を申告するた めには,健康管理上のシステムとよいコミュニケー 1. 経験年数 5 年未満の看護師では経験年数が高くな ションといった職場風土が必要と考えられた.特に るほど 1 年以内に退職する割合が高くなっていた. 1-2 年目では,心身の不調による労働遂行能力の低 2. 1-2 年目では退職群で心身の不調の自覚症状が有 下が退職に影響しており,新卒看護師では蓄積疲労 意に多く,また心身の不調による労働遂行能力の低 が離職意向を高めるという報告(Tominaga & Miki, 下が 1 年以内の退職の予測要因であったことより健 2010)もあるため,健康管理は退職予防に重要であ 康管理と労働遂行能力の低下に注意して見守ること る.労働遂行能力の低下による仕事のミスがないよ が重要である. う見守ることも重要である. 3. 3‒ 5 年目では話し合う場,医師との良好な関係, 健康管理以外にも,特に 3-5 年目においては労働 設備,超過勤務が退職の予測要因として有意となり, 時間の管理や設備の整備といった作業管理,作業環 役割や立場の変化に応じた教育やチーム医療メン 境管理も疲労や筋骨格系の障害などを予防するため バーの相互理解,労働時間の管理,作業環境管理が 有効と考えられた.三木(2002)は病院でストレス 重要である. 対策が進まない理由の一つに,医療従事者自身が医 4. 退職群では継続群に比べて不調に伴う労働遂行能 療専門職として自身の健康に関しては各人が対処す 力の低下が認められたことより,組織的な労働安全 べきという認識があることを指摘している.その意 衛生管理の実施,特に健康管理が重要であると考え 識を変え,職員の健康は労働安全衛生管理の観点か られた. ら組織的な取り組みにより守るものだという認識を 看護師自身が持つことが看護職員の定着を高めると 考えられた. さらに若手看護師は労働遂行能力の低下のために 謝辞:本研究の実施にあたりまして,調査にご協力い ただきました病院の看護部の方々,質問紙にご回答いた だきました看護師の方々に厚く御礼申し上げます. 仕事のミス等を起こしやすくなっているということ なお,本研究は労働リサーチセンター「健康状態の労 に注意して支援する必要があり,ゆとりを持って看 働 生 産 性 へ の 影 響 測 定 尺 度 − 日 本 語 版 Stanford 護に臨める環境を整えていくということが重要とい Presenteeism Scale −の標準化に関する研究」の援助を える.特に新卒看護師は,看護基礎教育終了時点で 得て実施した.また,本調査の初年度のデータの一部を の能力と就職してから求められる能力の差が大きい 用いて横断的分析を行った研究を日本看護科学会誌 30 といわれているため(日看協,2004),卒後教育の 巻 1 号に報告した. 充実の重要性が再確認された. 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 KangoGakkai.indb 27 27 2011/09/08 19:17:12 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 ■引用文献 Aiken LH., Clarke SP., Sloane DM. et al. 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