第45回薬剤耐性菌研究会 プログラム・抄録集 平成28年10月21日(金) ・22日(土) 広島県廿日市 安芸グランドホテル 会場案内図(安芸グランドホテル) 〒739-0412 広島県廿日市市宮島口西 1-1-17 ・JR 宮島口駅よりタクシーで約 3 分 ・山陽自動車道廿日市 IC より約 10 分 ホテル HP より ホテルが無料シャトルバスを運行しています。 (状況に応じてピストン輸送も有) http://www.akigh.co.jp/access/index.html 行き JR 宮島口駅→ホテル ①11:40 ②12:10 ③12:40 ④13:10(30 分おき) 帰り ホテル→JR 宮島口駅 ①11:30 ②12:00 ③12:30 ④13:00(30 分おき) シャトルバス乗り場 JR宮島⼝発便利⽤の場合、⼭陽本線 JR 宮島⼝駅前ロータリーよりご乗⾞ください。 ホテル発便利⽤の場合、ホテル正⾯⽞関よりご乗⾞ください。 ホテル HP より ご 案 内 1. 参加受付 受付は 10 月 21 日(金)12:00 より4F コンベンションホール 珊瑚 にて行い ます。 2. 宿泊/参加費 17,000 円(内訳:年会費 1,000 円、研究会参加費 8,000 円、宿泊費 8,000 円) (個室希望の方は別途 5,000 円) 3. 口演発表 •一般演題の口演時間は 10 分程度とし、質疑応答を含めて 15 分です。 •1 演題あたりスライド 12 枚程度でお願いします。 •発表はマイクロソフトパワーポイントでお願いします。 •液晶プロジェクターの入力端子は Dsub-15 ピンのみです。必要な場合はア ダプターをご持参下さい。USB メモリ等で発表データをお持ちの方は、発 表用 PC(windows8.1, PowerPoint2013)を使用して頂くこともできます。 Macintosh をご利用の方はご自身の PC 本体をご持参下さい。 •発表に際し、COI やスポンサーシップ等につきましては、先生方ご自身で 対応願います。 •特別講演をされる Nordmann 先生が初日も参加される可能性がありますの で、可能であれば「スライドを英語にする」あるいは「英語のスライドを 何枚か入れる」ようにして頂ければ幸いです。もちろん必須ではありませ んし、可能な範囲で結構です。 4. ICD 教育講演参加受講証明書について 本研究会は ICD 協議会の教育講演会として認定されており、ICD 認定更新 点数 2 点を取得できます。参加受講証明書の必要な方は受付時にお申し出 下さい。 第 45 回薬剤耐性菌研究会プログラム 平成 28 年 10 月 21 日(金) 12:55~18:30 12:55~13:00 開会の挨拶 荒川 宜親(名古屋大学) 一般演題:発表 12 分、討論 3 分 13:00~ 座長:松井真理(国立感染症研究所) ESBL 市販食肉における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生 Escherichia coli の検出 と分子生物学的解析 ○大崎裕介 1, 齋藤さとみ 1, 小坂駿介 1, 鈴木匡弘 2, 長野由紀子 3, 長野則之 1, 荒川宜親 3 (1 信州大学大学院 医学系研究科, 2 愛知県衛生研究所 生物学部・細菌研究室, 3 名古屋大学大学院 医学系研究科) 国産豚腸内容物から分離された CTX-M-型基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生 大腸菌の分子疫学解析 ○法月千尋 1, 川村久美子 1, 林謙吾 1, 和知野純一 2, 鈴木匡弘 3, 荒川宜親 2 (1 名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻, 2 名古屋大学大学院医学系研 究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学, 3 愛知県衛生研究所 生物学部) 国内のペットにおける大腸菌 B2-O25-ST131 CTX-M 型基質特異性拡張型β-ラクタマ ーゼ産生大腸菌の拡散 ○林謙吾 1, 川村久美子 1, 法月千尋 1, 玉井清子 2, 荒川宜親 3 (1 名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻, 2(株)ミロクメディカルラボ ラトリー, 3 名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学) 医療関連感染由来 Serratia marcescens が保有する blaTEM-61 のプロモーター領域の 多様性 ○堀内綾華 1,2, 大塚彩香 2, 長野由紀子 3, 荒川宜親 3, 長野則之 1 (1 信州大学大学院 医学系研究科, 2 長野県立こども病院 臨床検査科, 3 名古屋大 学大学院 医学系研究科) -1- 14:00~ 座長:八木哲也(名古屋大学) Acinetobacter & GBS Acinetobacter 属菌用 POT 法における A. pittii マーカー陰性 A. pittii の検討 ○鈴木匡弘 1,2, 荒川宜親 2 (1 愛知県衛生研究所, 2 名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌 制御学) アシネトバクター属菌に拡散している巨大な薬剤耐性プラスミドの解析 ○鈴木仁人 1, 松井真理 1, 鈴木里和 1, 瀬川孝耶 1, 矢原耕史 1, 鹿山鎭男 2, 菅井 基行 2, 柴山恵吾 1 (1 国立感染症研究所 細菌第二部, 2 広島大学大学院医歯薬保健学研究科 細菌学研 究室) Acinetobacter baumannii の種内多数ゲノム比較による水平伝達に由来しカルバペ ネム耐性株に広く保存された細胞表面接着因子の遺伝子の発見 ○矢原耕史, 鈴木仁人, 川上小夜子, 柴山恵吾 (国立感染症研究所 細菌第二部) 14:45~ 座長:木村幸司(名古屋大学) MRSA & MDRP ベトナムの医療施設で分離された多剤耐性緑膿菌の分子疫学解析 ○多田達哉, 秋山徹, 島田佳世, 切替照雄 (独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所 感染症制御研究部) POT 法及びクローン簡易同定法による MRSA クローンの変遷調査 ○白鳥浩美, 鈴木匡弘, 青木美耶子, 田中佑三世, 山田和弘, 松本昌門 (愛知県衛生研究所 生物学部細菌研究室) MRSA 臨床分離株の遺伝子型シフトに関する調査研究 ○小坂駿介 1,2,大崎裕介 1,2,齋藤さとみ 1,2,前山佳彦 1,2,長野則之 1,2,佐藤智 明 2,長沢光章 2,長野由紀子 2,玉井清子 2,鈴木匡弘 2,谷本弘一 2,奥住捷子 2, 富田治芳 2,柴山恵吾 2,荒川宜親 2 (1 信州大学大学院 医学系研究科,2 薬剤耐性菌研究会プロジェクト) -2- 〜〜〜〜〜coffee break 15:35~15:45 〜〜〜〜〜 15:45~ 座長:鹿山鎭男(広島大学) 耐性機構(1) ベータラクタム系薬低感受性 B 群レンサ球菌(Group B Streptococcus with reduced β-lactam susceptibility, GBS-RBS)の最近の話題 〇木村幸司 1, 長野則之 2, 坂野弘嗣 1, 諸井博明 1, Megan E. Reid1, 山田涼子 1, 鈴木健史 1, 神谷知都世 1, 森本真紀子 1, 関友望 1, 谷口莉奈 1, 宮崎朗 1, 金万 春 1, 和知野純一 1, 荒川宜親 1 (1 名古屋大学 大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学, 2 信州大学 大学院医学系研究科 医療生命科学) 大腸菌臨床分離株におけるフルオロキノロン系抗菌薬耐性とチゲサイクリン耐性 との関連性 ○佐藤豊孝 1,鈴木裕樹 1,山本聡 1,小笠原徳子 1,白石宗 1,品川雅明 2,高橋聡 3, 田 村豊 4, 横田伸一1 (1 札幌医大・医学部・微生物学, 2 札幌医大・附属病院検査部, 3 札幌医大・医学 部・感染制御・臨床検査医学, 4 酪農大・獣医・食品衛生学) 緑膿菌のカルバペネム耐性に対するリスクファクターと OprD タンパクの役割 ○平林亜希 1,2, 八木哲也 1,2 (1 名古屋大学大学院医学系研究科臨床感染統御学, 2 名古屋大学医学部附属病院中 央感染制御部) 16:30~ 座長:鈴木仁人(国立感染症研究所) 耐性機構(2) タゾバクタム/ピペラシリン耐性大腸菌の耐性機構の解析 ○鈴木裕樹 1,佐藤豊孝 1,山本聡 1,小笠原徳子 1,白石宗 1,品川雅明 2,高橋聡 2,3, 横 田伸一1 (札幌医大・1 医学部・微生物学, 2 附属病院検査部, 3 医学部・感染制御・臨床検 査医学) -3- 嫌気環境における大腸菌のホスホマイシン輸送体発現と抗菌活性増大メカニズム の解析 倉林久美子 1, 谷本弘一 3, 富田治芳 2,3, ○平川秀忠 1 (1 群馬大学 先端科学研究指導者育成ユニット, 2 群馬大学大学院 細菌学、3 同研究科附属 医学系研究科 薬剤耐性菌実験施設) 耐性菌異物排出ポンプの構造解析と新規阻害剤開発 ◯山崎聖司 1, 中島良介 2, 櫻井啓介 2, 林克彦 2, 井上雄太 3, 樋口雄介 3, 加藤修 雄 3, 山口明人 2, 西野 邦彦 1 (1 大阪大学・産業科学研究所・生体分子制御科学研究分野, 2 大阪大学・産業科学 研究所・生体防御学研究分野, 3 大阪大学・産業科学研究所・医薬品化学研究分 野) 17:15~ 座長:長野則之(信州大学) 検査方法(1) 新規なカルバペネマーゼ鑑別ディスクセットの有用性評価 ○大崎裕介 1,久保亮一 2,Jonathan Hobson3,Mya Davies3,齋藤さとみ 1,小坂 駿介 1,小穴こず枝 1,長野由紀子 4,長野則之 1 (1 信州大学大学院 医学系研究科,2 関東化学株式会社 試薬技術部, 3Mast Group Ltd.,4 名古屋大学大学院 医学系研究科) Reevaluation of Isoniazid MICs for Mycobacterium Tuberculosis by Wellpack Media S for The Testing Results by BrothMIC MTB-Ⅰ Method ○Hiroko Yoshida, Kenichi Onohara, Tomomi Tazawa, Chika Matsui, Yoshitaka Tamura (Osaka Prefectural Medical Center for Respiratory and Allergic Diseases, Osaka Prefectural Hospital Organization) MSSA 高菌量接種による Inoculum effect の出現 ○佐伯理知 1, 品川雅明 1, 八鍬佑貴 1, 韮澤慎也 1, 佐藤勇樹 1, 淺沼康一 1,高橋 聡 1,2 (1 札幌医科大学附属病院 検査部, 2 札幌医科大学医学部 感染制御・臨床検査医 学講座) -4- LAMP 法によるβ-lactamase 遺伝子(GES)検出 ―緑膿菌臨床分離株への応用― ○高野 智圭, 関 みつ子, 早川 智 (日本大学医学部 病態病理学系微生物学分野) 感染対策 感染対策の地域連携支援システム(RICSS)の開発と将来 ○藤本修平 1, 八木哲也 2, 飯沼由嗣 3, 村木優一 4, 石黒信久 5, 田辺正樹 4, 筒井 敦子 6, 矢原耕史 6, 大島利夫 1, 八束眞一 7, 静野健一 8, 荻野毅史 9, 遠藤敏尚 10 , 畑中公基 6,11, 太田浩敏 12, 土屋麻由美 12, 丹羽隆 12, 荒川宜親 2, 村上啓雄 12, 柴山恵吾 6 (1 東海大学, 2 名古屋大学, 3 金沢医科大学, 4 三重大学, 5 北海道大学, 6 国立感染 症研究所, 7 日高病院, 8 千葉市立海浜病院, 9 済生会川口病院 , 病院, 11 公立岩瀬病院, 12 岐阜大学) -5- 10 仙台オープン 2 日目 平成 28 年 10 月 22 日(土) 9:00~12:20 座長:菅井 基行(広島大学) 9:00~10:00 特別講演 1 Emerging Resistance to Polymyxins in Enterobacteriaceae Patrice Nordmann (University of Fribourg, Switzerland) 10:00~10:30 特別講演 2 What's new on mcr-1 ? Yohei Doi (University of Pittsburgh School of Medicine, USA) -6- 一般演題:発表 12 分、討論 3 分 10:30~ コリスチン耐性 日本における大腸菌のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mcr-1)保有状況とヒト 医療に与える影響 ○福田昭 1, 佐藤豊孝 2, 鈴木裕樹 2, 臼井優 1, 浅井鉄夫 3, 横田伸一 2, 田村豊 1 (1 酪農大 獣医・食品衛生, 2 札医大 医・微生物, 3 岐阜大院連獣) 本邦で分離された mcr-1 陽性大腸菌 ST457 の全ゲノム解析に基づく伝播経路の推定 ○島綾香 1, 関塚剛史 2, 山下明史 2, 加藤健吾 2, 黒田誠 2, 川西路子 3, 木島まゆ み 3, 松井真理 1, 林美智子 1, 柴山恵吾 1, 鈴木里和 1 (1 国立感染症研究所細菌第二部, 2 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センタ ー, 3 農林水産省動物医薬品検査所) 〜〜〜〜〜coffee break 11:00~11:15 〜〜〜〜〜 11:15~ 座長:鈴木匡弘(愛知県衛生研究所) 検査方法(2) POT キット大腸菌用を用いた分子疫学解析 ○品川雅明 1, 佐伯理知 1, 佐藤豊孝 2, 八鍬佑貴 1, 韮澤慎也 1, 佐藤勇樹 1, 淺沼 康一 1,高橋聡 1,3 (1 札幌医科大学附属病院 検査部, 2 札幌医科大学医学部 微生物学講座, 3 札幌医 科大学医学部 感染制御・臨床検査医学講座) Drug Susceptibility Testing Microfluidic device (DSTM)法を用いた MRSA の迅 速検出法 ○松本佳巳 1,2, 渡邉文章 2, 御子柴孝晃 2, 西野邦彦 1 (1 大阪大学産業科学研究所, 2 株式会社フコク マイクロ TAS 事業ユニット) -7- Staphylococcus aureus を対象とした DSTM 法による迅速薬剤感受性試験法の検討 ○八鍬佑貴 1, 品川雅明 1, 佐伯理知 1, 田中真輝人 1, 佐藤勇樹 1, 小林 亮 1, 韮 澤慎也 1, 淺沼康一 1, 高橋 聡 1,2 (1 札幌医科大学附属病院 検査部, 2 札幌医科大学 医学部 感染制御・臨床検査医 学講座) Drug Susceptibility Testing Microfluidic device (DSTM)を用いた ESBL の迅速 検査法の検討 ○小川美保 1, 坂田竜二 1, 市村禎宏 1, 霜島正浩 1, 渡邉文章 2, 御子柴孝晃 2, 松 本佳巳 2,3 (1(株)ビー・エム・エル総合研究所, 2(株)フコク プ, 3 大阪大学産業科学研究所) 12:15~12:20 閉会の挨拶 -8- マイクロ TAS 開発グルー 10 月 22 日(土)9:00~ 特別講演 1 抄 録 Emerging Resistance to Polymyxins in Enterobacteriaceae Patrice Nordmann (University of Fribourg, Switzerland) Prof. Patrice Nordmann (b.12/02/60, French citizen) is Chair of Microbiology, Dept of Medicine, and Head of the Emerging Antibiotic Resistance Unit and of the Foreign Research Unit INSERM (Paris, France) at the University of Fribourg (Switzerland) and Associate Chief at the Institute of Microbiology, Universtiy hospital Center and University of Lausanne, Switzerland. He owns MD and PhD degrees from the University of Paris in Microbiology and Infectious Diseases. He has been the Chief of the Dept of Medical Microbiology (hospital Bicêtre, Paris) and Professor of Microbiology at the South-Paris University from 1994 to 2013. He is co-author of more than 652 peer-reviewed publications (h factor=112). His research focuses on the emerging antibiotic resistance traits in gram negative bacteria from fundamental genetics to biochemistry and clinical applications. His latest research topics are carbapenemases and acquired resistance to polmyxins. He has been the recipient of several international awards including the European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases Excellence award (2013) and the American Society for Microbiology ICAAC award in antimicrobial research (2013 and the Thomson Reuters ISI Awards in 2015 and in 2016 that classified him in the 1% most cited scientific papers covering all scientific fields. Emerging Resistance to Polymyxins in Enterobacteriaceae Prof. P. Nordmann, Switzerland Polymyxins are old antibiotics of the 1950’s that recently regain a significant interest as a consequence of increasing infections due to multidrug-resistant (MDR) gram negative bacteria. Colistin and polymyxin B are used as now last-resort antibiotics in many areas in the world. They are natural antibiotics produced by Bacillus poly- myxa sub-species colistinus. They interact with the lipid A moiety of the lipopolysaccharides (LPS) of gram-negative bacteria. While the exact mechanisms conferring resistance to polymyxins in Enterobacteriaceae remain to be determined, it is known that the chromosome-encoded mechanisms involves covalent additions of both phosphoethanolamine and 4- deoxyaminoarabinose residues to the LPS, leading to a more positively charged LPS that reduces the affinity of positively charged polymyxin molecules. Very recently, a plasmidencoded resistance mechanism was identified in Enterobacteriaceae (mostly from Escherichia coli) from animal and humans isolates first from China, and then worldwide. MCR-1 is a phosphoethanolamine transferase that modifies the LPS moiety. Strains harboring MCR-1 and carbapenemases have been now reported as well as a variant of MCR-1, MCR-2. The MCR-1 gene may be located onto a diversity of plasmids within a so-called cassette that may be an additional vector of its dissemination. The MCR-1 is a zinc-dependent metallo-enzyme as are the metallo-carbapenemases of Ambler group B (NDM, IMP, VIM..). We have identified very recently the natural reservoir of MCR-like genes that is Moraxellaceae. The emergence of MCR-1 (or it recent identification) worldwide may lead to reconsider the heavy use of polymyxins in veterinary medicine worldwide. Susceptibility testing is challenging with polymyxins, the gold standard remaining the broth dilution technique that is time consuming (24h) and difficult to handle. Therefore, we have developed a rapid diagnostic test that is rapid (<2h), sensitive and specific. It industrial development has conducted already to a diagnostic test, Rapid Polymyxin NP test that is now available on the European market. In addition we have also settled a screening culture medium, SuperPolymyxin medium, that can detect any polymyxin-resistant gram negative bacteria. Use of the Rapid Polmyxin NP test and the SuperPolymyin may contribute to a better antibiotic stewardship for treating infections due to multidrug-resistant bacteria and to the prevention of their spread in nosocomial settings . -11- 10 月 22 日(土)10:00~ 特別講演 2 抄 録 What's new on mcr-1 ? Yohei Doi (University of Pittsburgh School of Medicine, USA) YOHEI DOI, MD, PhD EDUCATION, TRAINING AND APPOINTMENTS 04/92-03/98 Nagoya University School of Medicine, Nagoya, Japan 04/98-03/00 Medical Resident, Anjo Kosei Hospital, Aichi, Japan 04/00-06/03 Research Fellow, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo, Japan 07/03-06/05 Medical Resident, St. Luke’s-Roosevelt Hospital Center, New York, New York 07/05-06/08 Infectious Diseases Fellow, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania 07/08Assistant Professor of Medicine, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania 02/16Associate Professor of Medicine, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania Director, Center for Innovative Antimicrobial Therapy, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania CERTIFICATION AND LICENSURE 05/98 National Medical Board License, Japan 11/06 Diplomate in Internal Medicine, American Board of Internal Medicine 02/08 Medical Physician and Surgeon License, Pennsylvania 12/08 Diplomate in Infectious Diseases, American Board of Internal Medicine MEMBERSHIPS IN PROFESSIONAL AND SCIENTIFIC SOCIETIES 2000American Society for Microbiology 2003-2013 American College of Physicians 2005Infectious Diseases Society of America HONORS 2006 2006 2007 2008 2015 Recipient, 2006 Pfizer Global Fellowship in Clinical Disease, Infectious Diseases Society of America Education and Research Foundation and National Foundation for Infectious Diseases Joint Research Award Fellow Representative, Division of Infectious Diseases, University of Pittsburgh Medical Center Recipient, George McCracken ID Fellows Travel Grant, 47th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy, American Society for Microbiology Recipient, ECCMID Travel Grant, 18th European Congress of Clinical Microbiology and Infectious Diseases, European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases Honoree, Honors Convocation, University of Pittsburgh PUBLICATIONS 110 research articles 16 as the first author 41 as the senior author 34 research letters and editorials 6 as the first author 19 as the last author 11 review articles 3 position papers 4 book chapters MENTORING 33 trainees What’s new on mcr‐1? mcr‐1 was identified and reported as the first plasmid‐mediated colistin resistance gene in E. coli from pigs and humans in southern China in the fall of 2015. Since then, we have witnessed an unprecedented knowledge surge, with over 150 papers published on this topic in less than a year. It is now clear that i) mcr‐1 had been around for decades in China, ii) it has spread worldwide more recently, and iii) the gene is much more concentrated in Enterobacteriaceae inhabiting food‐producing animals than humans. mcr‐1 can be found in otherwise antimicrobial susceptible strains, and sometimes in ESBL‐producing strains as well. However, co‐production of NDM‐group carbapenemase has been reported on several occasions. mcr‐1 and blaNDM are usually on separate plasmids in these instances, but the first plasmid co‐ harboring the two genes was just reported, raising concerns over accelerated co‐transfer of these two significant resistance genes. mcr‐1‐harboring, colistin‐resistant Enterobacteriacae (mostly E. coli) have been identified in all continents, with a notable exception of Australia. In the United States, the first human case was reported earlier in 2016, and a total of 4 human cases have been confirmed since. Two of them were patients with urinary tract infection but without recent travel history, and one case was in a patient with traveler’s diarrhea after returning from the Caribbean. A thorough contact tracing and perirectal swab screening was conducted for the first U.S. case by the public health authorities. No transmission was identified among her close contacts and the patient no longer has positive perirectal culture. In the process of screening of mcr‐1, a substantial number of mcr‐1‐negative, colistin‐ resistant E. coli strains have been identified. While most of them likely carry chromosomal mutations that overexpress the pmrCAB or pmrF operons, it is also possible that they carry plasmid‐mediated genes other than mcr‐1. One such gene, mcr‐2, was reported recently, and it is likely that the number of these genes will grow. Most studies on mcr‐1 have focused so far on description of this gene in new countries or regions and genetic analysis of the plasmids carrying it. The current knowledge gaps surrounding mcr‐1 include, among others, the origin of mcr‐1, mechanisms and functional consequences of the MCR‐1 protein, and actual impact on human and health. In terms of policy making, curbing the use of colistin in food animal production is clearly warranted, which will require an internationally coordinated, multifaceted approach. Yohei Doi Division of Infectious Diseases University of Pittsburgh School of Medicine -15- 一 般 演 題 抄 録 集 市販食肉における基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生 Escherichia coli の検出と 分子生物学的解析 大崎裕介 1,齋藤さとみ 1,小坂駿介 1,鈴木匡弘 2,長野由紀子 3,長野則之 1,荒川宜親 3 1 信州大学大学院 医学系研究科, 2 愛知県衛生研究所 生物学部・細菌研究室, 3 名古屋大学大学院 医学系研究科 【目的】ESBL 産生 Escherichia coli のヒト腸管内保菌の増加の一因に食肉を介した耐性菌の 循環が示唆されている。 本研究では食肉から検出された ESBL 産生 E. coli の解析を実施した。 【材料と方法】2015 年 8 月~2016 年 6 月に収集した種々の部位の市販鶏肉 150 検体及び豚 肉 50 検体を対象に 10g の試料を BGLB 培地 100ml にて増菌後 CTX 添加 McConkey 寒天培 地にて培養した。培地に発育した3コロニーについてクラブラン酸による酵素阻害試験実施 後,陽性コロニーを対象に MALDI-TOF MS による菌種の同定及び ESBL 遺伝子の PCR ス クリーニングを行った。同一遺伝子型株を除き,ESBL 遺伝子の塩基配列解析,プラスミド 型別,MLST を実施した。 【結果及び考察】ESBL 産生 E. coli の検出頻度は豚肉では 0/50 検体 (0%)であり,国内で検 出頻度が低いという報告と一致していた。これに対して鶏肉では 59/150 検体 (39.3%)と高率 に検出された。鶏肉 59 検体由来 67 株の主な保有遺伝子は blaCTX-M-14 が 17 株 (25.4%), blaCTX-M-2 が16 株 (23.9%), blaSHV-12 が11 株 (16.4%), blaCTX-M-55 が10 株 (14.9%)であった (FIG)。 プラスミドの型別では IncF group (FIB, F)が多くを占めた。解析株の多くは CC10 に属してい たが ST は多様であった。 ただし, blaCTX-M-14 保有株では ST162 が 17 株中 8 株 (47.1%), blaSHV-12 保有株では ST38 が 11 株中 6 株 (54.5%)と特徴的であった。また,blaCTX-M-55 保有株に認め られた ST1485 は,国内では健常者糞便由来の blaCTX-M-15 保有株で報告されている。 臨床分離株においては CTX-M-15 および CTX-M-14 産生株が多く検出されている。本研究 で鶏肉から分離した株では CTX-M-14 産生株が最も多く検出された。また,CTX-M-15 産生 株は検出されなかったが,1 アミノ酸違い (A80V)の CTX-M-55 産生株が高頻度に検出され た。この CTX-M-55 は中国をはじめ アジアで市中感染症由来 E. coli の産 生する ESBL として CTX-M-14 に次 CTX-M-3 1.5% CTX-M-65 4.5% いで検出され,食用動物からヒトへ TEM-176 1.5% CTX-M-1 11.9% CTX-M-14 25.4% CTX-M-55 14.9% の伝播も示唆されている。また,IncF group プラスミドが優位であり,ヒト SHV-12 16.4% 臨床由来株と共通のST も多いことか ら,鶏肉とヒトの間でのプラスミド CTX-M-2 23.9% ESBL産生E. coli 67株の保有遺伝子 や耐性菌の循環が示唆された。 (研究協力者: 信州大学医学部 保健学科 4 年 林航,谷口唯) -19- 国産豚腸内容物から分離された CTX-M-型 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生大腸菌の分子疫学解析 法月千尋 1、川村久美子 1、林謙吾 1、和知野純一 2、鈴木匡弘 3、荒川宜親 2 1 名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻、2 名古屋大学大学院医学系研究科 分子病 原細菌学/耐性菌制御学、3 愛知県衛生研究所 生物学部 【目的】Extended-spectrum -lactamase (ESBL) 産生大腸菌の拡散が大きな社会問題とな っており、その原因の一つとして家畜からの伝播が考えられている。本研究では国産豚を対 象に糞便中における ESBL 産生大腸菌の保菌率を調査し、得られた菌株の分子疫学的特徴を ヒト由来の臨床分離株と比較することで家畜とヒトとの間での ESBL 産生大腸菌の伝播につ いて考察することを目的とする。 【材料と方法】2015 年 6 月から 2016 年 3 月までの 10 か月間に愛知県内の 30 農場で飼育さ れた豚の糞便 345 検体を使用した。ESBL 産生大腸菌の分離については、糞便検体 1 白金耳 分を cefotaxime (CTX) 1µg/ml を含む MacConkey 培地に接種し、発育した 5 コロニーにつ いて VITEK MS による菌名同定および ESBL 確認試験を行なった。さらに ESBL 産生大腸 菌と確認された菌株については、ESBL 関連遺伝子を決定したのち、大腸菌 POT 法や Multi Locus Sequence Typing (MLST)解析によるクローンの解析、血清型 O25b、系統発生群、 plasmid replicon type の決定ならびに 12 薬剤を対象とした薬剤感受性試験を実施した。 【結果と考察】国産豚の糞便 345 検体のうち、16 検体 (4.6%)から重複を除く 22 株の ESBL 産生大腸菌が得られた。これら菌株の ESBL 関連遺伝子はすべて CTX-M-型であり、その遺 伝子型は CTX-M group1 に属する CTX-M-15 が 12 株、CTX-M-55 が 6 株、CTX-M-3 が 2 株、また CTX-M group9 に属する CTX-M-14 が 2 株であった。MLST 解析の結果、ST117、 ST1706、ST38、ST10、ST354、ST4684、ST155、ST164、ST744 の 9 種類が得られ、そ のうち blaCTX-M-55 を保有する ST117 が 6 株であった。今回、plasmid replicon type が判明し た菌株は 10 株(45.5%)で、IncN が 6 株、IncF が 3 株、IncI1 が 1 株であった。系統発生 群は A(4 株)、B1(7 株)、D(3 株)、F(8 株)で、ヒト由来株で問題となっている系統発生群 B2 や血清型 O25b は 1 株も認められなかった。ESBL 産生大腸菌 22 株のアミノグリコシド系抗 菌薬への感受性は維持されていたが、テトラサイクリン系薬には 72.7%、クロラムフェニコ ールには 50.0%が耐性を示した。さらに、国内では家畜への使用が許可されていないセフタ ジジムにも 86.4%と高い耐性率を示した。今回、国産豚から分離された ESBL 産生大腸菌は CTX-M group1 に属する CTX-M-15 や CTX-M-55 が優位であり、MLST、系統発生群および plasmid replicon type もヒト臨床分離株のそれらとはかなり異なっていた。これらの結果か ら、現状では豚の ESBL 産生大腸菌そのものがヒトの ESBL 産生大腸菌の直接的な起源とな っている可能性は低いことが示唆された。今後はインテグロンやトランスポゾンなど可動遺 伝子の関連性について解析を継続する計画である。 -20- 国内のペットにおける大腸菌 B2-O25-ST131 CTX-M 型基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生大腸菌の拡散 林謙吾 1、川村久美子 1、法月千尋 1、玉井清子 2、荒川宜親 3 1 名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻、2(株)ミロクメディカルラボラトリー、 3 名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学 【背景・目的】2000 年代以降、CTX-M 型 extended-spectrum β-lactamase (ESBL)産生による第 3 世代セファロスポリンへの耐性化は急速に進んでおり、とくに CTX-M-15 型、系統発生群 B2、 血清型 O25、sequence type 131 (ST131)に属する大腸菌クローンが世界的に蔓延している。現在、 ESBL 産生大腸菌は家畜、食肉、ペット、河川などの環境からも分離されており、ヨーロッパ の国々ではペットとヒトとの間での B2-O25-ST131 CTX-M-15 産生大腸菌クローンの伝播が確 認されている。近年、わが国においても臨床材料からの B2-O25-ST131 CTX-M-15 産生大腸菌 の分離率が上昇してきており、家畜やペットからの伝播が危惧されている。特にペットはヒト に身近な存在となってきており、その関与の可能性は大きいと予想されるが、ペット由来株に 関する調査・研究は未だ進んでいない。そこで、本研究では有病ペット由来株における ESBL 産生大腸菌の検出率を検討するとともに、それらの分子疫学的解析を行い、ヒトとペット間で の ESBL 産生大腸菌の伝播の可能性について考察することを目的とする。 【材料・方法】菌株は 2015 年 9 月から 11 月の間に(株)ミロクメディカルラボラトリーに提出 された有病 犬・猫由来大腸菌 178 株を対象とした。VITEK 2 System における薬剤感受性試験の 結果、広域セファロスポリンに耐性を示した大腸菌に対し、セフォタキシム, セフタジジムお よびクラブラン酸を用いた確認試験を行い、ESBL 産生性が確認された菌株については、PCR とシークエンスによる ESBL 関連遺伝子型別、plasmid replicon type、系統発生群、O 抗原の血 清型別(O25)、multilocus sequence typing の決定ならびに CLSI(M100-S25)に準拠した寒天平板希 釈法による薬剤感受性試験を実施した。 【結果・考察】178 株の大腸菌のうち 42 株が ESBL 産生株であり、CTX-M 型が 41 株、SHV-12 が 1 株であった。主な遺伝子型は CTX-M-14 (26.8%)、CTX-M-15 (24.4%)、CTX-M-27 (19.5%)、 CTX-M55 (19.5%)と group-1 と-9 がほぼ同数であった。41 株中、electroporation による形質転換 体が得られたのは 31 株で、その主な plasmid replicon type は IncF group (n=14, 33.3%)と IncI1-Iγ (n=11, 26.2%)であった。MLST 解析では ST131、ST38、ST10 など 16 種類の ST が得られ、15 株 (35.7%)が ST131 に属していた。この 15 株の系統発生群はすべて B2 であり、O 抗原の血清 型は O25 であった。薬剤感受性試験ではセフォタキシムとシプロフロキサシンに耐性を示す株 が 88%以上を占めるとともに、セフタジジム、ゲンタマイシン、カナマイシン、テトラサイク リン、トリメトプリム/サルファメソキサゾールに対しても多剤耐性を示す傾向にあった。本研 究により、世界的流行株である B2-O25-ST131 CTX-M 産生大腸菌がすでに日本のペット間で蔓 延していることが明らかとなった。加えて、ESBL 関連遺伝子型別、plasmid replicon type、系 統発生群、MLST ならびに薬剤感受性傾向がヒト由来株のそれらと類似していることから、ヒ トとペット間において薬剤耐性菌の伝播が起こっている可能性が示唆された。今後は獣医科領 域においても ESBL 産生大腸菌の動向を更に注意深く監視する必要があると考える。 -21- 医療関連感染由来 Serratia marcescens が保有する blaTEM-61 のプロモーター領域の多様性 堀内綾華 1,2,大塚彩香 2,長野由紀子 3,荒川宜親 3,長野則之 1 1 信州大学大学院 医学系研究科, 2 長野県立こども病院 臨床検査科 3 名古屋大学大学院 医学系研究科 【目的】TEM-61 ESBL (別名 CAZ-hi)は TEM-11 (別名 CAZ-lo)の活性中心近傍の E240K の置換により CAZ 分解性を高めているが,われわれは TEM-61 ESBL 産 生 Serratia marcesens の医療関連感染について既に報告した。興味深いことに blaTEM-61 構造遺伝子上流のプロモーター領域に多様性が見出されたことから,本 報ではその役割について解明を試みた。 【材料と方法】同一医療機関で 1 年間に確認された 20 事例に由来する 20 株 (呼 吸器系材料由来 15 株,泌尿器系材料由来 4 株,膿由来 1 株)を対象とした。PFGE 型別,プラスミドの PCR Inc 型別及びサザンブロット解析,blaTEM-61 上流の塩基 配列解析を行った。なお,DNA ポリメラーゼの slippage の可能性を否定するた め配列解析には複数の DNA ポリメラーゼと primers を使用した。また,CAZ に よる誘導の有無の条件下で blaTEM-61 の相対発現量をインターカレーター法で測 定した。 【結果及び考察】PFGE 型別で 20 株は遺伝的関連性のある 2 グループに大別さ れた。被検株すべてが約 44 kbp のプラスミドを保有していたが Inc 型別は不能 であった。blaTEM-61 の上流には blaTEM で報告されている strong promoter pair の Pa と Pb が存在し,その下流に 15 塩基(5’-ATGTCATGATAATAA-3’)を 1 単位とす る既存の配列が重複して見られた。すなわち 6 株で 2 単位, 12 株で 3 単位, 2 株 で 4 単位と株によりその単位数に 2~4 までの多様性が認められた。この重複配 列は slippage に起因するものではないと考えられる。また,同一 PFGE 型を示す 株間でも重複の単位数は異なっていた。これらの重複配列の違いが blaTEM-61 の 発現に及ぼす影響を解析した結果, CAZ の誘導の有無による発現量の差は認め られなかった。しかしながら,単位数の違いにより発現量に有意差が認められ (P<0.001), 2 単位4 単位3 単位の順で高発現であった。 TEM-61 ESBL 産生菌による医療関連感染の報告は本事例が初めてである。さ らにはこれまでに報告のないプロモーター領域内の 15 塩基の重複配列と ESBL 遺伝子の発現との関連性が示唆されたことは興味深い。われわれは重複配列と blaTEM-61 の発現との関連性に着目したが,この 15 塩基は細菌のゲノム上に多く 存在し,且つ薬剤耐性遺伝子やトランスポゼース遺伝子の近傍や ORF 中に多く 分布している。このことから,これらの遺伝子の挿入や再配列に重要な役割を 果たしている可能性も考えられる。 -22- Acinetobacter 属菌用 POT 法における A. pittii マーカー陰性 A. pittii の検討 鈴木匡弘 1、2、荒川宜親 2 1 愛知県衛生研究所、2 名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学 【目的】Acinetobacter 属菌用 POT キットでは、Acinetobacter baumannii の国際流行ク ローンの同定、菌株識別に加え、A. calcoaceticus – baumannii complex における種の同定 も可能としている。しかし、A. pittii のマーカーは感度が悪く、rpoB 配列などから A. pittii と同定された分離株の中に、マーカー陰性となる株が散見される。そこで、マーカー陰性 となる A. pittii の系統を明らかにし、マーカー改良のための基礎データを得ることを目的 とした。 【方法】インターネット上の 60 株の A. pittii ゲノムデータ、及び独自に MiSeq で解析し た 7 株のマーカー陰性臨床分離 A. pittii の全ゲノムデータを用いた。PHEA-2 株をリファ レンス配列とし、一塩基多型(SNP)を抽出し、系統樹を作成した。また、A. baumannii、 A.nosocomialis、A.calcoaceticus、A.seifertii の各ゲノムデータも加え、ゲノムを構成する ORF パターンによる系統ネットワーク解析を行い、各菌種間の近縁関係の解析も試みた。 【結果及び考察】インターネットデータベース上の 60 株の A. pittii のうち、7 株(12%) からはマーカー配列が見つからず、マーカー陰性になると推定された。SNP による系統樹 解析では A. pittii マーカー配列陽性の株は大きなクラスターを形成し、互いに近縁である とみられた。一方、マーカー陰性株の 86%(12/14)は主要なクラスターには分類されず、 マーカー陰性株間の距離も遠い傾向にあった。 系統ネットワーク解析による菌種間の比較では、 A. pittii とされる菌株の中に A. calcoaceticus との中間的な位置に来るものがあり、種の境界が不明瞭であった。 A. pittii は多様性が高く、A. calcoaceticus との類似性も高いことから、単純に全ての分 離株をカバーするマーカーの作成は困難と考えられた。マーカー陰性 A. pittii の POT 法に おける取り扱いについては、慎重に検討する必要がある。 -23- アシネトバクター属菌に拡散している巨⼤な薬剤耐性プラスミドの解析 ○鈴⽊ 仁⼈ 1)、松井 真理 1)、鈴⽊ ⾥和 1)、瀬川 孝耶 1)、⽮原 耕史 1)、⿅⼭ 鎭男 2) 、菅井 基⾏ 2)、柴⼭ 恵吾 1) 1) 国⽴感染症研究所 細菌第⼆部 2) 広島⼤学⼤学院医⻭薬保健学研究科 細菌学研究室 病原微⽣物の薬剤耐性が国際的な問題となっている状況下、耐性菌の遺伝学的性状 を詳細に研究していくことは極めて重要である。本研究では、我が国の地理的に異な る医療機関にて、独⽴して分離されたアシネトバクター属菌 5 株で、共通して検出さ れた TMB (Tripoli metallo-β-lactamase) 型メタロ-β-ラクタマーゼ (MBL) 遺伝⼦ の伝播機構を明らかにすることを⽬的として、以下の解析を⾏った。 2009 年から 2014 年の間に、それぞれ臨床分離された TMB-1 陽性 Acinetobacter baumannii A1 株、TMB-1 陽性 Acinetobacter calcoaceticus MS5320 株、TMB-2 陽 性 Acinetobacter pittii MRY12-0142 株 、 TMB-2 陽 性 Acinetobacter genomospecies 14BJ MRY12-0226 株、および TMB-2 陽性 Acinetobacter nosocomialis MRY14-0245 株について、それぞれパイロシークエンサーである MiSeq/HiSeq システム (Illumina 社)、および⼀分⼦リアルタイム DNA シークエン サーである PacBio RSII (Pacific Biosciences 社) による DNA 配列の解読を⾏った。 また、モバイル型の⼀分⼦リアルタイム DNA シークエンサーである MinION MkIB (Oxford Nanopore Technologies 社) を⽤いた解析も併せて検討した。 TMB 型 MBL 遺伝⼦は、各々の菌株が有する約 300 kb の巨⼤なプラスミド上に存 在した。これらのプラスミドでは、分配に関わる遺伝⼦群、伝達性に関わる IV 型分 泌機構遺伝⼦群、2 個のプロファージ領域を含む約 200 kb の配列が⾼度に保存され ており、共通の起源を由来とすることが考えられた。TMB 型 MBL 遺伝⼦は、クラス 1 インテグロン (Int1) 内にコードされ、その Int1 領域はプロファージ領域内に存在 した。そのため、TMB 型 MBL 遺伝⼦は、モバイルエレメントを介して伝達性プラス ミドに組み込まれ、アシネトバクター属菌に拡散している可能性が⽰唆された。 -24- Acinetobacter baumannii の種内多数ゲノム比較による 水平伝達に由来しカルバペネム耐性株に広く保存された 細胞表面接着因子の遺伝子の発見 〇矢原耕史、鈴木仁人、川上小夜子、柴山恵吾 国立感染症研究所 細菌第二部 Acinetobacter baumannii は広範な環境条件下で生息可能であり、そのカルバペネム耐性の 進行が国際的な脅威となっている。そのメカニズムについては、内在性 blaOXA-51 カルバペネマ ーゼ遺伝子の上流へ IS(ISAba1)が挿入されることによるその遺伝子発現の亢進、およびその 他の OXA 型カルバペネマーゼ遺伝子 (最も高頻度なのは blaOXA-23 で、その他に blaOXA-24 や blaOXA-58) の獲得、が知られている。ただし、最近まで、薬剤感受性試験結果の付与された大規模なゲノ ムの塩基配列データは存在せず、これらのメカニズムで A. baumannii のカルバペネム耐性の何 割を説明できるのか、あるいは他にカルバペネム耐性に関係するメカニズムが存在するのかど うか、は未解明であった。 2016 年 6 月に入って初めて、Acinetobacter のカルバペネム感性 110 株・耐性 122 株のゲノ ムの塩基配列データを用いた研究が行われ(Davis et al, Scientific Reports)、PATRIC デー タベースへの登録が行われた。この先行研究は、ゲノムデータを情報学・統計学的に処理し、 ある株がカルバペネム耐性かどうかをゲノムデータから自動判別することを目的とした研究で あった。 しかし、既知のカルバペネム耐性機構を有する株を耐性と判別するのは容易なはずであり、 むしろ、このデータセットの中に既知のカルバペネム耐性機構を有する株が何割存在するのか を確認した上で、それらを除外したデータセットを用いて、カルバペネム耐性に関係する新た なメカニズムを探ることの方が重要だと考えられる。そこで本研究では、このデータセットの 耐性株のうち約半分が ISAba1 または blaOXA-23 を有することを確認した上で、それらを持たない 耐性株と感性株 61 株ずつを選び、耐性株と感性株の集団間でゲノム配列を比較し、耐性株集団 に有意に高頻度に存在する遺伝多型を検出するという、ゲノムワイド関連解析を行った。ゲノ ムワイド関連解析は、集団レベルのゲノムデータ解析の王道であり、ヒトゲノム分野では既に 膨大な論文が出版されている。一方、クローナル増殖する病原細菌では、各個体が独立ではな く、むしろ sequence type に象徴される強い集団構造が存在し、それを補正した上で遺伝多型 と表現型の関連を統計的に検定する必要がある。また、病原細菌のゲノムはヒトゲノムより多 様性に富んでおり、SNP に限らないあらゆる遺伝多型を漏れなく解析対象とする必要がある。 これらの問題を解決する方法論として、2016 年に入って発表された方法(bugwas パッケージと して実装。Earle et al (2016), Nature Microbiology)を用いて、本研究の解析を行った。 その結果、感性株集団に比べて耐性株集団に 70%以上の高頻度で存在する遺伝多型で、感性 1 株および耐性 4 株の完全長ゲノム配列によっても検証された遺伝多型が、細胞表面接着因子ド メインをコードする領域に見つかった。これを有する遺伝子は約 9.3kb で、周辺の遺伝子より 明らかに長く、塩基組成に偏りが見られ、A. baumannii の祖先で獲得された外来遺伝子だと推 定された。この接着因子は、ホスト細胞への接着の促進やバイオフィルムを介した耐性への寄 与等によって、耐性株の適応度を上昇させている可能性が考えられた。一方、61 株のカルバペ ネム耐性そのものは、内在性 blaOXA-51 の発現が何らかの機構(広く保存されている訳ではない) で亢進したための可能性が考えられるが、その検証には、遺伝子発現を吟味した更なる研究が 必要である。 -25- ベトナムの医療施設で分離された多剤耐性緑膿菌の分子疫学解析 多田達哉、秋山徹、島田佳世、切替照雄 独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所 感染症制御研究部 【背景】 ベトナムの医療機関では多剤耐性菌の蔓延が危惧されているが、その実態を 把握していないのが現状である。本研究では、ベトナム・ハノイにあるバクマ イ病院との研究協力を通じて、ベトナム医療施設の術後感染の原因となる多剤 耐性緑膿菌の分離、同定、薬剤耐性プロファイルの作成を行うと共に、薬剤耐 性因子を同定することで、ベトナム医療施設における多剤耐緑膿菌による院内 感染の実態を調査することを目的とした。 【方法】 2013~2014 年にベトナム・ハノイのバクマイ病院で分離された多剤耐性緑膿 菌 40 株を解析に用いた。薬剤感受性試験を実施し、次世代シーケンサ全ゲノ ム解析を行った。次世代シーケンサで得られたデータから薬剤耐性因子の決定、 MLST および SNP コンカテマーを用いた分子系統解析を実施した。 【結果および考察】 多剤耐性緑膿菌 40 株の内、12 株(30%)がイミペネムに、15 株(37.5%)がメ ロペネムに、20 株(50%)がアミカシンに高度耐性(MICs ≥512mg/L)を示した。 MLST 解析の結果、15 株が世界で流行しているハイリスククローン ST235 であ った。ST235 に属する 15 株の内、12 株は IMP-26 産生株、残りの 3 株は新規 IMP バリアント IMP-51 産生株であった。ST235 株はすべてアミノグリコシド 修飾酵素 AAC(6’)-Ib 産生していた。ST235 以外に属する 25 株の内、10 株が IMP-15 産生株、13 株が高度アミノグリコシド耐性を付与する 16S rRNA メチ ラーゼ RmtB 産生株であった。 IMP-26 および IMP-15 の各種β-ラクタマム剤に対する酵素活性を測定した ところ、IMP-26 はカルバペネムに対する活性が高いことが明らかとなった。 以上のことから、ベトナムの医療施設ではカルバペネム分解活性の高い IMP-26 を産生する多剤耐性 ST235 緑膿菌が広がっている可能性が示唆された。 -26- POT 法及びクローン簡易同定法による MRSA クローンの変遷調査 白鳥浩美、鈴木匡弘、青木美耶子、田中佑三世、山田和弘、松本昌門 愛知県衛生研究所 生物学部細菌研究室 [目的] メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)は院内で分離される耐性菌の中で、分離 頻度が最も高く、また市中感染としても問題となっており、感染管理が欠かせない病原菌 である。従来、ST5、SCCmec type II(NY/Japan クローン)のいわゆる院内感染型 MRSA が多数を占めているとされたが、近年、世界的に SCCmec type IV 保有株に代表される市 中感染型 MRSA の分離頻度が増加しているという報告もある。そこで分離される MRSA クローンの変遷を調査する目的で、PCR-based ORF typing 法(POT 法)を行うとともに、 POT 法のみでは十分ではないクローン鑑別精度を向上させるため、genomic islet や毒素遺 伝子等を検出するマルチプレックス PCR 反応系(optional 12-plex PCR)を構築し、調査 を行った。 [方法] genomic islet を構成する 5 個の遺伝子、 SCCmec type を決定する 3 個の遺伝子及 び 4 個の毒素遺伝子(eta、etb、PVL、TSST-1 遺伝子)の計 12 遺伝子を検出する 12-plex PCR 反応系を設計し、optional 12-plex PCR とした。optional 12-plex PCR 及び Cica Geneus Staph POT KIT(関東化学)を用いて、2011 年 4 月から 2015 年 12 月に1つの医 療施設で分離された MRSA 2339 株を調査した。 clonal complex(CC)は、 得られた genomic islet のパターンから推定した。 [結果および考察] 今回調査した 2339 株のうち、NY/Japan クローンは 1632 株(70%)、 NY/Japan クローン以外は 707 株(30%)であった。NY/Japan クローン以外の MRSA の割合は 2011 年の 16%(88/544)から 2015 年の 49%(199/410)へと増加していた。 NY/Japan クローン以外の SCCmec type は、Ⅰが 16 株(1%)、Ⅱb が 9 株(0.4%)、Ⅱ ut が 24 株(1%)、Ⅳが 620 株(27%)、Ⅴが 18 株(1%)、不明が 20 株(1%)であった。 SCCmec type IV 保有クローンと推定された分離株としては POT 法の POT1 の値が 106 と なる株が 586 株と最も多く、推定される CC としては CC1 が 134 株(23%)、CC8 が 450 株(77%)であった。また、CC8、SCCmec type IV の MRSA のうち 167 株(37%)は toxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)を保有していた。1 病院のデータではあるが、 NY/Japan クローンが減少し、SCCmec type IV の分離株が増加していることが裏付けられ た。 -27- MRSA 臨床分離株の遺伝子型シフトに関する調査研究 小坂駿介 1,2,大崎裕介 1,2,斎藤さとみ 1,2,前山佳彦 1,2,長野則之 1,2,佐藤智明 2,長 沢光章 2,長野由紀子 2,玉井清子 2,鈴木匡弘 2,谷本弘一 2,奥住捷子 2,富田治芳 2, 柴山恵吾 2,荒川宜親 2 1 信州大学大学院 医学系研究科,2 薬剤耐性菌研究会プロジェクト 【目的】近年 MRSA 臨床分離株の検出頻度が減少傾向にあるが,その要因については 不明である (FIG. 1)。本プロジェクトでは国内の医療機関で MRSA が蔓延し始めた 1980 年代,流行期にある 2004 年及び減少期にある 2016 年の臨床分離株の遺伝子型を 解析し,近年の MRSA 検出頻度の減少事象との関連性を探索した。 【材料と方法】1980 年代に国立大学病院より収集した 84 株,2004 年及び 2016 年に全 国の医療機関より収集した各々84株及び179株の種々材料由来MRSAを対象とした。 遺伝子型別には POT 法を用い,さらに clonal complex (CC)推定と SCCmec 同定のため の補完として各々5 遺伝子及び 3 遺伝子, さらには 4 毒素遺伝子の検出を multiplex PCR にて行った。 【結果及び考察】クローン推定用の POT1 値は 1980 年代の株で 93 が 42% (35/84 株) と優位を占め,110 (19%),100 (12%)及び 106 (8%)の値がこれに次いでいた。また,東 日本由来株では93が70%であるのに対して西日本由来株では93及び110が各々26%, 次いで 100 (15%),106 (11%)となり流行クローンの明確な地理的差異がみられた。2004 年の株では 93 が 85% (71/84 株)と顕著に増加し,106 は検出されなかった。この 93 の 株は東日本由来株では 90%で西日本由来株の 79%に比較し多かった。一方,2016 年の 株では 93 が 40% (72/179 株)と顕著に減少したのに対して,2004 年には認められなか った 106 が 38% (68/179 株)の割合で確認されたことが注目される。東日本由来株では 106 が 41%,93 が 37%であるのに対し,西日本由来株は 93 が 46%,106 が 31%と異 なる分布を示していた (FIG. 2)。1980 年代,2004 年は 93 の株の殆どは CC5,SCCmecII の NY/Japan クローンで TSST-1 遺伝子保有株であった。また,106 の株の殆どは CC1, SCCmecIV と同定され,TSST-1 や PVL 遺伝子保有株も含まれていた。一方,2016 年 の場合も 93 や 106 の株の多くは過去株と同様の特性を有していたが,他のクローンも 含まれる可能性がある (解析中)。 なお, 1980 年代の西日本に由来する110 の株はCC30, SCCmecIV と同定され,多くが PVL 産生株であった。高病原性 CA-MRSA クローン の USA300 と推定される 106-77-113 (CC8,SCCmecIV,PVL 産生)が 2016 年の東日本 由来株 2 株 (血液及び膿由来)で確認された。 本研究の結果から, 1980 年代に優位であった 93 の株は 2004 年には著増したが, 2016 年に著減したのに対して 2004 年に認められなかった 106 の株が出現,増加してきたこ とが MRSA の検出頻度の減少事象に関連している可能性がある。また,93 の株が東 日本で蔓延し,西日本に拡散した可能性も考えられる。 (研究協力者: 信州大学医学部 保健学科 4 年 小出将太,佐々木陽祐) -28- 20.0 17.4 17.1 16.4 16.1 15.2 分離患者数 (%) 15.0 10.5 14.1 S. aureus 10.0 9.4 10.0 5.0 14.6 7.0 7.0 6.9 2008 2009 2010 8.8 MRSA 8.1 7.5 MSSA 6.9 7.3 7.2 7.2 7.2 2011 2012 2013 2014 0.0 年 FIG. 1 国内における MRSA 分離率の推移 1980 年代 84 株 2016 年 179 株 2004 年 84 株 77 5% 全 国 93, 40% 93, 42% 106, 8% 100, 12% 106, 38% 93 84% 110, 19% 80 5% 110, 7% 東日本 100, 7% 106, 41% 67, 7% 93, 70% 93 90% 93, 37% 93, 26% 西日本 70, 3% 93, 46% 106, 11% 100, 15% 110, 26% 106, 31% FIG. 2 地域別,年代別の MRSA POT1 値の分布 -29- ベータラクタム系薬低感受性 B 群レンサ球菌(Group B Streptococcus with reduced β-lactam susceptibility, GBS-RBS)の最近の話題 〇木村幸司 1、長野則之 2、坂野弘嗣 1、諸井博明 1、Megan E. Reid1、山田涼子 1、鈴木健史 1、神谷知都世 1、森本真紀子 1、関友望 1、谷口莉奈 1、宮崎朗 1、 金万春 1、和知野純一 1、荒川宜親 1 1 名古屋大学 2 信州大学 大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学 大学院医学系研究科 医療生命科学 2008 年にペニシリン低感受性 B 群レンサ球菌(Group B streptococci with reduced penicillin susceptibility, PRGBS)を発表(K. Kimura et al. Antimicrob. Agents Chemother. 2008, N. Nagano et al. Antimicrob. Agents Chemother. 2008)以来、日本のみならず、アメリカ、カナダからも類似の株が報告されてい る。我々は、PRGBS のディスク拡散法の開発(K. Kimura et al. J. Clin. Microbiol. 2009)、PRGBS 選択培地の開発(C. Kamiya et al. Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 2015)、 MRSA 選択培地で PRGBS を検出できること(S. Fukigai, M. Morimoto et al. Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 2016)、PRGBS は同時にマクロ ライド、フルオロキノロン非感性である割合が多いこと(K. Kimura et al. J. Antimicrob. Chemother. 2013)、多剤耐性 PRGBS の院内感染事例(N. Nagano et al. J. Antimicrob. Chemother. 2012)、多剤耐性 PRGBS の分離率(T. Seki et al. J. Antimicrob. Chemother. 2015)、小型で非溶血性コロニーを形成する多剤耐性 PRGBS の解析(H. Banno et al. J. Clin. Microbiol. 2014)、PRGBS の分子疫学 解析(K. Kimura et al. J. Antimicrob. Chemother. 2011)などを報告してきた。 近年では、ペニシリンに感性ではあるが、セフチブテン MIC が高い株が分離 されており(N. Nagano et al. J. Clin. Microbiol. 2014)、PRGBS とまとめて、 ベータラクタム系薬低感受性 B 群レンサ球菌(Group B Streptococcus with reduced β-lactam susceptibility, GBS-RBS)と呼ぶようにしている。 本日は、我々が考案した GBS-RBS の分類(K. Kimura, N. Nagano, Y. Arakawa. J. Antimicrob. Chemother. 2015)を含め、GBS-RBS に関する最新の情報を発表する。 -30- 大腸菌臨床分離株における フルオロキノロン系抗菌薬耐性 とチゲサイクリン耐性との関連性 ○佐藤 豊孝 1、鈴木 裕樹 1、山本 聡 1、小笠原 徳子 1、白石 宗 1、 品川 雅明 2、高橋 聡 3、田村 豊 4、横田 伸一1 1 札幌医大・医学部・微生物学、2 札幌医大・附属病院検査部、 3 札幌医大・医学部・感染制御・臨床検査医学、4 酪農大・獣医・食品衛生学 <背 景> チゲサイクリン(TGC)は、他に選択肢のない多剤耐性菌に使用される重要な抗菌薬として位 置づけられている。大腸菌では 99%以上が TGC に感受性であり TGC 耐性株の報告は現状ではほと んどない。一方、フルオロキノロン (FQ)系抗菌薬は泌尿器領域を中心に臨床現場での使用頻度が 高い抗菌薬であり、FQ 耐性大腸菌の増加が問題視されている。特に高頻度に CTX-M 型などのβラクタマーゼを保有する FQ 耐性クローン「O25b:H4-ST131」は世界中の臨床現場で報告されてい る。本研究では、大腸菌臨床分離株における FQ 耐性と TGC 感受性低下との関与を評価した。 <方 法> TGC 投与歴のない入院または外来患者から分離した大腸菌臨床分離株を FQ 感受性株(277 株)と FQ 耐性株(194 株)の 2 群に分け、以下の解析を行った。 1) TGC に対する最小発育阻止濃度(MIC)の測定。 2) TGC 非感受性株の血清型および sequence type の決定。 3) Efflux pump 遺伝子(acrA, acrB)の発現量の測定(RT-PCR)。 4) 菌体内 TGC 濃度の測定。 5) acrAB 遺伝子欠損株における TGC 感受性の評価。 6) FQ 存在下での培養における TGC 感受性変化の測定。 <結 果> 1) TGC MIC50 は、FQ 耐性株群で 0.5g/mL 、FQ 感受性株群で 0.25g/mL であった。 FQ 耐性株 194 株中 5 株(2.6%)は TGC 非感受性(TGC MIC, 2〜16 g/mL)であった。 一方、供試した FQ 感受性株はすべて TGC に感受性を示した(TGC MIC, ≦1 g/mL)。 2) 5 株中 4 株の TGC 非感受性株は、O25b:H4-ST131 であった。 3) TGC 非感受性株の acrA および acrB の発現量は TGC 感受性株より有意に高く、これ らの発現量と TGC MIC に正の相関(acrA, r2=0.753; acrB, r2=0.543)が認められた。 4) TGC 非感受性株の菌体内 TGC 濃度も TGC 感受性株より有意に低く、TGC MIC との 間に負の相関が認められた(r2=0.815)。 5) TGC 非感受性株の acrAB を欠損させると、TGC 感受性は非感受性(TGC MIC, 2〜16 g/mL)から感受性(TGC MIC, 0.125〜0.25 g/mL)に変化した。 6) TGC 感受性株を FQ 存在下で培養を続けると、TGC 耐性(TGC MIC= 4 g/mL)を獲 得した変異株が出現し、これらの acrAB 発現量は上昇していた。 <考察> 本研究により、FQ 耐性大腸菌の一部に AcrAB の過剰発現により TGC 感受性が低下した菌 株集団が存在することを明らかにした。さらに FQ 存在下の培養で acrAB の発現量が増加した TGC 耐性変異株が出現したことから、大腸菌は TGC の曝露がなくとも FQ 曝露により TGC 感受性の低 下が誘導されることを明らかとした。TGC 非感受性株の多くが、世界規模で拡大している FQ 耐性 クローン O25b:H4-ST131 であったことからも、FQ 耐性大腸菌における TGC 感受性の動向に注視 する必要である。 -31- 緑膿菌のカルバペネム耐性に対するリスクファクターと OprD タンパクの役割 ○平林亜希 1),2) 八木哲也 1),2) 1) 名古屋大学大学院医学系研究科臨床感染統御学 2) 名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部 【背景・目的】 緑膿菌のカルバペネム系抗菌薬(CARBs)への耐性化には膜タンパク OprD の欠損が関与 することが報告されている。臨床株ではイミペネム(IPM)やメロペネム(MEPM)の MIC 値が 4 ㎍/mL や 8 ㎍/mL といった intermediate や低レベル resistant の株がみられ, こ れらを含めた臨床株の MIC 値上昇の機序や臨床的リスク因子についての詳細は明らか にされていない。本研究では当院で検出された緑膿菌の CARBs の MIC 値の上昇における 機序や臨床的リスク因子を明らかにする。 【対象・方法】 2012 年 4 月 1 日から 2013 年 3 月 31 日までの間に 274 症例(758 検体)の緑膿菌が検出 された。複数回緑膿菌が検出された症例毎にそれぞれの菌株の MIC 値をモニターし, 時 間的経過で CARBs の MIC 値が 4 倍以上の上昇がみられた症例のリスク因子を多変量解析 を用いて解析した。またこれらの症例の菌株を PFGE を用いて解析し, 遺伝子的に相同 性のある菌株の中で MIC 値の上昇が見られた前後で 1 組ずつ抽出した。これら 19 組の 菌株について Western blot(WB)法, sequence 法, quantitative real-time PCR (qPCR) 法を用いて OprD タンパクの発現と遺伝子解析を行った。 【結果】 27 症例で CARBs の 4 倍以上の MIC 値の上昇がみられ, CARBs の使用歴(OR, 2.799; 95% CI, 1.088–7.200; p=0.033)と人工呼吸器あるいは気管切開(OR, 2.648; 95% CI, 1.051– 6.671; p=0.039)がリスク因子であった。27 症例中, 19 症例が MIC 値上昇前後の菌株で PFGE 上同一の遺伝子型を持っていた。19 組の菌株の解析では, IPM の MIC 値が 8 ㎍/mL を超えた 12 菌株で OprD の発現は著明に減衰し欠損傾向を認めた。IPM の MIC 値が 8 ㎍ /mL 以下の 7 菌株中, 6 菌株で OprD の WB 法での発現の軽度の減衰がみられ, qPCR 法で も mRNA の減衰を認めた。IPM の MIC 値が 8 ㎍/mL を超えた 12 菌株中 11 菌株で oprD 遺 伝子の変異がみられたが, 残り 1 菌株と IPM の MIC 値が 8 ㎍/mL 以下の 7 菌株では MIC 値上昇前後で oprD 遺伝子の変異はみられなかった。 【結語・考察】 緑膿菌の臨床分離株において, IPM の MIC 値が 8 ㎍/mL を超えると oprD 遺伝子の変異 に伴う OprD タンパクの欠損が, 8 ㎍/mL 以下の場合には oprD 遺伝子の変異を伴わない OprD タンパクの減衰傾向があることが明らかとなった。こうした IPM の MIC 値の上昇 の臨床的意義についても考察する。 -32- タゾバクタム/ピペラシリン耐性大腸菌の耐性機構の解析 ○鈴木裕樹 1、佐藤豊孝 1、山本聡 1、小笠原徳子 1、白石宗 1、 品川雅明 2、高橋聡 2, 3、横田伸一1 札幌医大・1 医学部・微生物学、2 附属病院検査部、3 医学部・感染制御・臨床検査医学 [背景] ピペラシリン (PIP) は緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に対して抗菌活性を示すペニシリ ン系抗菌薬である。近年では基質特異性拡張型β-lactamase (ESBL) 産生腸内細菌科細菌などの 出現により、PIP 耐性株が増加している。これに対して PIP にβ-lactamase 阻害剤であるタゾバ クタム (TAZ) を配合した TAZ/PIP (TZP) が重症細菌感染症の第一選択のひとつとして使用され、 現在のところ大腸菌には 98%以上の感受性を示す。しかし、今後 TZP 耐性の増加が危惧される。 現在 2%程度の頻度で見られる稀な TZP 耐性大腸菌の耐性機構については明らかにされていない。 本研究では、大腸菌臨床分離株の TZP 耐性を調査し、TZP 耐性株の耐性機構を検討した。 [方法] 2008-2009 および 2015 年に分離された大腸菌臨床分離株について、①TZP 感受性試験、 ②RT-PCR によるβ-lactamase 遺伝子, 排出ポンプをコードする遺伝子 acrAB の発現量の測定、③ ペーパーディスク法による PIP 分解能の測定、④β-lactamase 遺伝子, acrAB の欠損株を作製し、 それらの TZP 感受性試験を行った。 [結果] 大腸菌臨床分離株 513 株から TZP に耐性を示す株を 5 株認めた。TZP 感受性株と比較し て TZP 耐性株に特有のβ-lactamase は認められなかった。そこで、TZP 耐性株と同じβ-lactamase を有する TZP 感受性株を選択して group I~IV に分類し、解析を行った。Group I は TEM-1 と CTX-M-2、group II は TEM-1、group III は TEM-1 と CTX-M-14、group IV は CTX-M-14 のβ-lactamase をそれぞれ有する。Group I の TZP 耐性株は感受性株に比較して CTX-M-2 遺伝子発現量と PIP 分解能が高く、かつ acrAB の発現量が高かった。Group II, III の TZP 耐性株は TEM-1 遺伝子発 現量と PIP 分解能が高く、かつ acrAB の発現量が高かった。また、group I~III の TZP 耐性株の acrAB 欠損株を作製し、TAZ の PIP 感受性増強効果を同じ group の TZP 感受性株と比較した。 TZP 耐性株では TAZ による PIP 感受性増強効果が減弱しているのに対して、それらの acrAB 欠 損株では TZP 感受性株と同様の増強効果を示した。Group IV に関してはβ-lactamase 遺伝子, acrAB の発現量ともに耐性株と感受性株で差が見られなかったため、さらなる解析が必要である。 [考察] TZP 耐性株 5 株中 4 株で、高いβ-lactamase の発現量と PIP の分解能に加えて、排出ポ ンプをコードする遺伝子 acrAB の高い発現量を認めた。PIP 耐性で TZP 感受性の株はβ-lactamase 遺伝子を保有しているが、β-lactamase の発現量が高くても acrAB の発現量が低い株、および acrAB の発現量は高いがβ-lactamase の発現量の低い株が認められた。以上の結果から、TZP 耐 性獲得にはβ-lactamase の過剰発現に加えて、多剤耐性に関わる排出ポンプ AcrAB の過剰発現の 共存が必要であることが示唆された。AcrAB は TAZ を菌体外に排出することでβ-lactamase 阻 害効果を減弱させていると考えられた。 -33- 嫌気環境における大腸菌のホスホマイシン輸送体発現と 抗菌活性増大メカニズムの解析 倉林久美子 1、谷本弘一 3、富田治芳 2,3、○平川秀忠 1 1 群馬大学 2 群馬大学大学院 先端科学研究指導者育成ユニット, 医学系研究科細菌学、3 同研究科附属 薬剤耐性菌実験施設 [目的] ホスホマイシンは、病原性大腸菌などによって惹き起こされる尿路・腸 管感染症の治療薬として古くから用いられてきた。本抗菌薬は、アミノグリコ シドやキノロンなどと異なり、嫌気環境においてより強い活性を示す。例えば、 大腸菌の感染部位である膀胱・腸管上皮細胞、あるいはバイオフィルムを形成 した菌の周辺は微好気・嫌気環境であるため、本抗菌薬の有用性が期待されて いる。私たちは、大腸菌に着目し、嫌気環境における FOM 抗菌活性増大機構に 興味を持っている。これまでに、嫌気環境では FOM 取り込み輸送体(GlpT, UhpT)の発現が亢進していることを明らかにしてきた。今回私たちは、嫌気環 境における GlpT/UhpT 発現増大機構についてより詳細に理解することを目指 した。 [方法] in-frame deletion 法により大腸菌の遺伝子を欠失させ、各欠損株の FOM に対する感受性度を寒天平板希釈法もしくは、生存率試験により評価を行った。 GlpT/UhpT の発現レベルの定量は、プロモーター活性測定法により行った。 [結果] 好気培養時では、GlpT/UhpT の発現が、転写制御因子 CRP と UhpA に よって誘導されることが知られている。上記の遺伝子欠損株を作製し、嫌気培 養時における FOM 感受性度と GlpT/UhpT の発現レベルを調べたところ、親株 と比べて FOM に対する MIC が 16~64 倍増加し、GlpT/UhpT の発現レベルは 検出限界の下限レベルにまで低下した。CRP の活性はそのリガンドである cAMP の量に依存しているが、嫌気培養時においては好気培養時と比べて細胞 内 cAMP の量が 2~3 倍に増大していることも確認した。一方、嫌気環境下での み機能する転写制御因子 FNR の遺伝子欠損株では、親株と比べて MIC が 4 倍 増加、GlpT/UhpT の発現レベルは 1/2~1/4 程度の低下にとどまった。 [考察] CRP と UhpA は GlpT/UhpT 発現における主要な因子であり、嫌気環境 では CRP の活性が増大しており、その結果 GlpT/UhpT の発現が好気環境より 促進されているものと考えられる。さらに、嫌気環境下では上記の因子に加え て、FNR が相加的に GlpT/UhpT 発現をさらに押し上げることで FOM 感受性 が高まることが明らかとなった。 -34- 耐性菌異物排出ポンプの構造解析と新規阻害剤開発 ◯山崎聖司 1)、中島良介 2)、 櫻井啓介 2)、林克彦 2)、井上雄太 3)、 樋口雄介 3)、加藤修雄 3)、山口明人 2)、西野邦彦 1) 大阪大学・産業科学研究所・生体分子制御科学研究分野 大阪大学・産業科学研究所・生体防御学研究分野 2) 大阪大学・産業科学研究所・医薬品化学研究分野 3) 1) 【目的】近年、様々な抗菌薬に対して耐性を示す多剤耐性菌が出現し、臨床現場で深刻な 問題となっている。その主原因として、菌体内から菌体外へ多様な化合物(抗菌薬を含む) を排出する異物排出ポンプが特に注目されているが、未だに臨床的に有効な阻害剤は開発 されていない。研究用阻害剤ABI-PPは、大腸菌ポンプAcrB・緑膿菌ポンプMexBを阻害でき るが、多剤耐性緑膿菌のもう1つの有力な原因である緑膿菌ポンプMexYを全く阻害できず、 多剤耐性緑膿菌感染症の治療薬にはならなかった。2011年、発表者は、薬剤は排出ポンプ の基質輸送経路上の近位ポケットと遠位ポケットを順に通過して菌体外へ排出されるとい う、蠕動機構を解明した(Nature 480, 565-569, 2011)。阻害剤開発に向けた次のステップと して、本研究では、ABI-PPの阻害メカニズムを解析し、ABI-PPがMexYに効かない原因を調 べた。さらに、得られた構造情報を利用して新規阻害剤の探索・合成を行い、世界初とな る多剤耐性菌感染症治療薬の開発を目指した。 【結果】ポンプとABI-PPとの共結晶解析の結果、遠位ポケット内部に阻害剤結合ピットの 存在が示された。ABI-PPはポンプで全く排出されなかったため、阻害剤ピットに強く結合 することで、排出ポンプの蠕動機構を抑制していることが示された。また、AcrB・MexBの 阻害剤ピットにあるPhe (F)が、MexYの同位置ではTrp (W) に置き換わっており、その大き な側鎖による立体障害でABI-PPが結合できなくなっていると考えられた。実際に、 AcrB_F178W変異体はABI-PPの阻害を受けなくなり、MexY_W177F変異体は逆に阻害される ようになった結果は、この推定を裏付けるものであった(Nature 500, 102-106, 2013)。続 いて、得られた構造情報をもとに、MexY阻害剤ピットのTrp (W)による立体障害を回避でき る形の化合物を、大学や企業の有する創薬ライブラリーから探索、および一からの新規合 成を行った。その結果、実際にMexB・MexY両ポンプを阻害できる新規化合物が複数見つ かり、臨床分離多剤耐性緑膿菌株への効果も確認することができた。現在、一部の化合物 については、製薬会社との共同開発を進めている。 【考察】以上より、ABI-PPへの感受性は、阻害剤ピットにおけるわずかな立体障害で決ま ることが示された。この立体障害を回避できる誘導体を設計することで、AcrB・MexBのみ ならず、MexYをも含めた広域ポンプ阻害剤の開発が可能となった。ポンプ阻害剤には抗菌 作用がなく、新たに耐性菌が出現する可能性は非常に低いと考えられており、耐性菌克服 の切り札として期待されている。実用化に成功すれば、耐性菌の蔓延で治療に使えなくな っていた多くの抗菌薬が再び使用可能となり、感染症治療の幅が飛躍的に広がると考えて いる。今後も研究・開発を続け、耐性菌感染症の早期克服を目指したい。 -35- 新規なカルバペネマーゼ鑑別ディスクセットの有用性評価 大崎裕介 1,久保亮一 2,Jonathan Hobson3,Mya Davies3,齋藤さとみ 1, 小坂駿介 1,小穴こず枝 1,長野由紀子 4,長野則之 1 1 信州大学大学院 医学系研究科,2 関東化学株式会社 試薬技術部 3 Mast Group Ltd.,4 名古屋大学大学院 医学系研究科 【目的】カルバペネマーゼの鑑別にはEUCASTのガイドラインに準拠したMEPM を基質とし,種々の阻害剤を添加したカルバペネマーゼ鑑別ディスク(関東化学) が汎用されている。今回カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE)の検出感 度の向上とOXA-48型カルバペネマーゼの鑑別のため基質をFRPMとし,新たに temocillinに阻害剤を加えた検出系としてMAST Carba Plusが構築された。今回そ の有用性を評価することを目的として検討を行なった。 【材料と方法】CPE18株 (IMP-6 MBL産生3株,NDM型産生7株,KPC型産生2株, OXA-48型カルバペネマーゼ産生5株,OXA-181+NDM-1産生1株)及びカルバペネ ム耐性non-CPEを解析対象とした。 【結果及び考察】OXA-48型産生CPE5株ではdisc A (6 mm径)との比較でdisc B (MBL阻害剤2種を含有),disc C (KPC阻害剤含有),disc D (AmpC阻害剤含有) の 阻止円差が≦4 mmで,且つdisc E (temocillin+MBL阻害剤2種を含有)の阻止円径 が≦11 mmで,他のCPEとの鑑別が可能であった。また,OXA-181+NDM-1産生 CPEではdisc Bとdisc Aの阻止円差が5 mmで,disc Eは阻止円を形成せず,2種の カルバペネマーゼ産生性の推定が可能であった。NDM型やIMP型のMBLやKPC 型も4種のdiscの組み合わせで各々特徴的なphenotypeを示し,鑑別可能と考えら れた。プラスミド性AmpCのDHA-1産生+porin loss 株ではdisc Cとdisc Aとの阻止 円差は3 mmであったが,disc Dとdisc Aとの阻止円差が11 mmとなりAmpC産生株 の判定が可能であった。なお,pAmpC非産生でカルバペネム耐性non-CPEの Klebsiella pneumoniae BAA1706株の場合,disc A~Dで阻止円が認められず判定不 能となるため,CIM法などの他のカルバペネマーゼ検出法との併用が必要と考え られる。 カルバペネマーゼ鑑別ディスクではOXA-48型が鑑別できないことやMEPM のMICが低値のCPEの場合,阻止円径の差が小さくカルバペネマーゼの鑑別が難 しいこともある。これに対して本報のCarba PlusではOXA-48やOXA-181+NDM-1 の鑑別が可能であった。しかしながら,感度の向上を図るため基質としてFRPM を用いていることから,non-CPEの場合,株によっては判定不能となることに注 意が必要である。 -36- Reevaluation of Isoniazid MICs for Mycobacterium Tuberculosis by Wellpack Media S for The Testing Results by BrothMIC MTB-Ⅰ Method Osaka Prefectural Medical Center for Respiratory and Allergic Diseases, Osaka Prefectural Hospital Organization ○Hiroko Yoshida, Kenichi Onohara, Tomomi Tazawa, Chika Matsui, Yoshitaka Tamura Background: As a rapid screening susceptibility test, we examined thesusceptibilities of Mycobacterium tuberculosis (MTB) strains using the BrothMIC MTB-1 method (BrothMIC, Kyokuto Pharmaceutical Industrial). We confirmed the results obtained using the Wellpack Media S (Wellpack, Japan BCG lab) . Objectives: We examined isoniazid (INH) MICs by BrothMIC of MTB isolated at our institution between 2004 and 2014. Furthermore, MTB strains determined to be without susceptibility to INH and rifampicin (RFP) by BrothMIC were reevaluated with Wellpack. Methods: A total of 3749 MTB strains were tested for their susceptibilities to INH by BrothMIC.INH concentration (INH-C) prepared directly in the medium were ≦0.03, 0.06, 0.125, 0.25, 0.5, 1, 2, 4,8, 16, 32 and ≧32μg/ml. The following categories of the susceptibility test were defined:, ≦0.5, 1 and ≧2μg/mlwere defined as susceptible,intermediate and resistant. Result:Of the 3749 MTB strains,3470(92.5%) were categorized susceptible (≦0.03/0.06/0.125/0.25/0.5μg/ml: N = 4/431/2851/109/75),54 (1.4%) were categorized intermediate in 225(6.1%) were categorized resistant (2/4/8/16/32/≧32μg/ml : N = 36/55/80/20/2/32) according to INH-C were determined by BrothMIC. Of 54 intermediate strains, 26 (48.1%) were identified as susceptible and 28(51.9%) were identified resistant by WellPack. Of 158 strains determined to be resistant by Wellpack, 10 strains were identified as susceptible by BrothMIC, one strains had a MIC of 0.25 μg/ml and 9 had a MIC of 0.5μg/ml. Conclusion: MTB strains without susceptible INH and RFP by BrothMIC should be reevaluated using Wellpack. Tel:072-957-2121(3256) E-mail:yoshidahi@opho.jp -37- MSSA 高菌量接種による Inoculum effect の出現 ○佐伯理知 1), 品川雅明 1), 八鍬佑貴 1), 韮澤慎也 1), 佐藤勇樹 1), 淺沼康一 1), 高橋聡 1)2) 1) 札幌医科大学附属病院 検査部 2) 札幌医科大学 医学部 感染制御・臨床検査医学講座 【背景および目的】 Inoculum effect は、薬剤感受性試験で高菌量接種すると、MIC が優位に上昇 する現象である。Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA) 感 染症における CEZ 治療失敗の原因のひとつとして、CEZ inoculum effect (CIE) の存在が報告されている。いくつかの研究で、CIE と blaZ 遺伝子型の関連性が 指摘されているものの、詳細に関しては不明な点が少なくない。今回、当院の 血液培養から分離された MSSA を用い、接種菌量による MIC 変化を解析した。さ らに、PCG・CTX・CTRX・CFPM・IPM・MEPM・SBT/ABPC においても同様の検討を行 った。 【材料および方法】 血液培養から分離された MSSA 52 株を用いた。薬剤感受性試験は、 “ドライプ 5 レート栄研” (栄研化学)に標準菌量 (SI: 2-8×10 CFU/mL)および 高菌量 (HI: 2-8×107 CFU/mL)を接種し、微量液体希釈法で MIC を測定した。HI におけ る MIC が SI における MIC と比較して 2 管以上上昇し、かつ判定が感性から耐性 に変化したものを Inoculum effect と判定した。 【結果】 52 株すべてで、SI における CEZ の MIC が≦1µg/mL であったのに対し、21 株 (40.4%)は HI における MIC が 2 管以上高値を示した。そのうち、3 株 (5.8%)で CIE がみられた。blaZ 遺伝子は、38 株 (73.1%)が保有し、遺伝子型別を行った 結果、A 型 12 株 (31.6%)、 B 型 13 株 (34.2%)、 C 型 12 株 (31.6%)、 D 型 1 株 (2.6%)であった。CIE の 3 株はいずれも A 型であった。CTX・CTRX・IPM・MEPM では、blaZ 遺伝子の有無にかかわらず、SI および HI における MIC の変化は 1 管以内であった。SBT/ABPC では、16 株 (30.8%)で Inoculum effect がみられた。 いずれも blaZ 遺伝子を保有し、A 型が 4 株 (25.0%)、B 型が 3 株(18.8%)、C 型 が 9 株 (56.3%)存在した。 【結語】 血液培養から分離された MSSA の 5.8%で CIE が確認され、いずれも blaZ 遺伝 子 A 型を保有していた。CIE 陽性株においても、CTX・ CTRX・ IPM・ MEPM の MIC は菌量による変化はみられず、安定した抗菌活性が確認された。 -38- LAMP 法によるβ-lactamase 遺伝子(GES)検出 高野 智圭,関 日本大学医学部 みつ子,早川 ―緑膿菌臨床分離株への応用― 智 病態病理学系微生物学分野 【目的】GES (Guiana extended-spectrum) 型β-lactamase 遺伝子は 2004 年に本邦やギリシャで分離 され、近年ではカルバペネム分解能を有する GES-5 などの出現が問題となっている。これらは緑膿菌や 肺炎桿菌から検出されているが、致命的な経過をたどることも稀ではなく、迅速な診断が重要である。 今回我々は GES 遺伝子を検出する LAMP 法を開発したため報告する。 【方法】独自に開発した LAMP 検出法を用い、GES を含む 7 つのβ-lactamase 遺伝子それぞれを有す る基準株(肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、およびアシネトバクターを含む)における感度と特異性を評価し た。次に本法を用い、2003 年から 2012 年の間に世界中の様々な地理的環境 (アジア、中南米および欧 州)から分離・収集され、次世代シークエンサーによりその特徴が明らかにされた緑膿菌株計 47 株 (AstraZeneca より供与 1))を用い臨床的評価を行った。LAMP 法で検出した結果は、従来法である PCR 法の結果と比較した。 【成績】基準株を用いた評価では、LAMP 法は最小検出感度 10 コピーまでの感度を示し、従来法である PCR 法の結果とほぼ同等であった。緑膿菌の臨床分離株を用いた評価でも、PCR 法の結果と同様、次世 代シークエンサーによる遺伝子型との一致を認めた。 【結論】我々は LAMP 法によって GES 型β-lactamase 遺伝子を検出した。 我々の検討した菌株で、 LAMP 法は PCR 法と同等の感度と特異性を認めた。今後、実際の抗菌薬感受性との相関を検討する必要がある が、LAMP 法は PCR 法に比べ簡便であり、緑膿菌が産生するβ-lactamase 遺伝子を検索する有用なツ ールとなる可能性が示唆された。 共同研究者 Kim DW, Hanyang Univ., Korea; Gardner H, AstraZeneca R&D Boston, USA; Kilgore PE, Wayne State Univ., USA 参考文献 1) Kos VN, et. al. The Resistome of Pseudomonas aeruginosa in Relationship to Phenotypic Susceptibility. Antimicrob. Agents Chemother. 59 (1): 427-436, 2015. -39- 「感染対策の地域連携支援システム(RICSS)の開発と将来」 藤本修平1), 八木哲也2), 飯沼由嗣3), 村木優一4), 石黒信久5), 田辺正樹4), 筒井敦子6), 矢原耕史6), 大島利 夫1), 八束眞一7), 静野健一8), 荻野毅史9), 遠藤敏尚 10), 畑中公基6) 11), 太田浩敏 12), 土屋麻由美 12), 丹羽隆 12), 荒川宜親2), 村上啓雄 12), 柴山恵吾6) 1)東海大学, 2)名古屋大学, 3)金沢医科大学, 4)三重大学, 5)北海道大学, 6)国立感染症研究所, 7)日高 病院, 8)千葉市立海浜病院, 9)済生会川口病院 , 10)仙台オープン病院, 11)公立岩瀬病院, 12)岐阜大学 耐性菌による感染症は、有効な抗菌薬を失うために難治化する。血管、尿道などへ のカテーテル挿入、気管内挿管などの医療行為は、生理的な感染防御機構を傷害し、 易感染患者を生む。易感染患者は、健康な人が発症することの無い弱毒菌(非病原 菌)によって日和見感染症を発症するが、これらの弱毒菌は患者の近くに存在する常 在菌、環境菌である。常在菌、環境菌は、起因菌にならないかぎり免疫によって排除 されることがなく、一時的に感染する強毒菌(病原菌)と異なり、抗菌薬が多用される医 療環境に長時間存在するため、強毒菌よりも遙かに強く耐性菌に対する選択圧を受 ける。一方、このような操作を伴う医療行為は、患者と医療従事者の接触を伴うため、 適切な手技が採られないと、個体内で選択された耐性菌を別の個体に拡げる。さらに、 耐性菌の拡散した先の個体で、抗菌薬による選択圧が耐性菌の定着を助長する。し たがって、耐性菌による院内感染症制御には、抗菌薬による選択圧の制御と菌の院 内拡散を制御する院内感染対策が必要である。 以前より、感染対策の地域連携の重要性、有用性は明らかにされていたが、平成 24 年度より地域連携に対して診療報酬加算が行われるようになり、全国の医療機関で 広く実施されるようになった。実施内容は、それぞれの地域によって異なるが、厚労 省が示している要件にあるデータに限っても、複数施設でのデータの比較を行うため には、データ収集、集計、還元に相当の負担が掛かり、そのために、十分なデータの 比較を行っていない地域が多い。 この問題を解決し、さらに、感染対策の実施状況とそのアウトカムに関する全国統計 情報の取得を可能にする「感染対策の地域連携支援システム(Regional Infection Control Support System; RICSS)」の開発について報告する。 本システムは、ICT ミーティング、ラウンドの状況、擦式アルコール手指消毒薬の使用 量など菌の院内拡散制御に関する項目、血液培養の実施状況など感染症診療の適 正化、抗菌薬適正使用に対する監視、介入、抗菌薬使用量など選択圧制御に関する 項目と、耐性菌の分離状況などアウトカムに関する情報を収集する。すべての項目 の手入力も可能であるが、JANIS、JACS(抗菌薬使用状況調査システム:三重大学 村木)のデータ利用による入力の省力化も図っている。 本システムは、自由なグループ化機能を備えており、加算にもとづく連携として登録し た医療機関は、地域内、あるいは、地域を越えた全国の施設と自由にグループを作 ることができ、加算にもとづく連携とともにそのグループ内でのデータ比較もできるよ うになる。診療報酬加算に基づく地域連携を効率化するとともに標準化したデータの 収集、還元により、地域差の軽減に役立つこと、地域にまれな属性を持つ医療機関 が全国の同様の医療機関との比較の機会を持つことなども期待できる。将来的に、 自由なグループ化機能を活用し、JANIS、JACS の情報を含む AMR 対策/院内感染 対策情報の還元ツールとしても利用できるように考えている。 -40- 日本における大腸菌のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mcr-1)保有状況とヒト医療に与 える影響 ○福田 昭 1、佐藤 豊孝 2、鈴木 裕樹 2、臼井 優 1、浅井 鉄夫 3、横田 伸一 2、田村 豊 1 1 酪農大 獣医・食品衛生、2 札医大 医・微生物、3 岐阜大院連獣 【目的】 2015 年 11 月に中国でプラスミド性コリスチン(CL)耐性遺伝子(mcr-1)が報告され、その後、 日本を含む世界各国で存在が確認された。現在、CL は、ヒト医療において多剤耐性グラム 陰性感染症菌に対する最終選択薬として使用されている。一方、獣医療においては、飼料 添加物や抗菌剤として長年使用されており、ヒト医療への影響が懸念されている。そこで、 日本における大腸菌の mcr-1 保有状況を調査した。また、CL を用いた治療への影響を明ら かにするため、多剤耐性グラム陰性菌への接合伝達試験を行った。 【材料・方法】 2008-2015 年に分離された大腸菌 1384 株(離乳後下痢症豚:600 株、成豚:42 株、和牛:38 株、 乳牛:65 株、ハエ:125 株、ヒト:514 株)を用い、mcr-1 遺伝子の検出と CL の薬剤感受性試 験を行った。mcr-1 保有株を用い、実験室保存株大腸菌とヒト由来緑膿菌・Acinetobacter baumannii への接合伝達試験(broth/filter mating)を行い、mcr-1 伝達株の CL 感受性を測 定した。 【結果】 1384 株中 2012-2013 年に分離された 174 株(離乳後下痢症豚:171 株、成豚:1 株、和牛:1 株、 ハエ:1 株)から mcr-1 が検出されたが、ヒト由来株からは検出されなかった。mcr-1 保有株 では、CL の MIC は 4μg/ml 以上を示した。Broth mating により大腸菌へ 10-3~-5 の頻度で mcr-1 が伝達し、CL の MIC は 3-4 管上昇した。Broth mating に加え、filter mating を行 ったが、多剤耐性株を含む緑膿菌・A. baumannii への mcr-1 の伝達は確認されなかった。 【考察】 日本全国で分離された家畜由来大腸菌から mcr-1 が検出された。mcr-1 は CL に対する感受 性を低下させるが、現在多剤耐性化が問題となっている緑膿菌と A. baumannii への伝達は 確認されず、ヒト医療への影響は少ないと考えられる。 -41- 本邦で分離された mcr-1 陽性大腸菌 ST457 の全ゲノム解析に基づく伝播経路の推定 島綾香 1、関塚剛史 2、山下明史 2、加藤健吾 2、黒田誠 2、川西路子 3、木島まゆみ 3、松井真理 1、林 美智子 1、柴山恵吾 1、鈴木里和 1 1 国立感染症研究所細菌第二部、2 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター、3 農林水産省動 物医薬品検査所 【背景】 カルバペネム耐性グラム陰性桿菌に対する治療薬としてコリスチンが再注目されている が、昨年、中国のグループより初めてのプラスミド性のコリスチン耐性遺伝子 mcr-1 が報告された。 その後、mcr-1 は世界中の家畜、食肉、人由来の腸内細菌科細菌で見つかっている。本邦では、牛の 治療にコリスチンが承認されていないにも関わらず、乳房炎の乳牛から mcr-1 陽性大腸菌が分離さ れた。本研究ではコリスチン非存在下で mcr-1 陽性大腸菌がどのように伝播維持されたかを検討し た。 【方法】 本邦で分離された mcr-1 陽性大腸菌(乳房炎の乳牛由来株 5 株、健常豚由来株 2 株)に ついて解析を行った。染色体 DNA とプラスミド DNA の全ゲノム解析に加え、Multilocus Sequence Typing と Single Nucleotide Variant(SNV)解析を行った。 【結果・考察】 全ての株が mcr-1 を有する IncI2 プラスミドを保有しており、このプラスミドは中 国から報告された豚由来大腸菌が保有する pHNSHP45 と極めて類似していた。乳牛由来の 5 株はカ ルバペネムに感性であったが、コリスチンの他、アミノグリコシドや広域セファロスポリン、フル オロキノロンに耐性であった。この薬剤感受性パターンは乳牛やその他の家畜由来の大腸菌よりも むしろ人由来の大腸菌の薬剤感受性パターンと類似していた。乳牛由来の 5 株はすべて人における 世界的な薬剤耐性クローンである可能性が指摘される ST457 であり、SNV 解析からは、5 株は同一 株から派生した可能性が示唆された。一方、豚由来の 2 株はそれぞれ異なる ST であり、薬剤感受性 パターンやプラスミドプロファイルは豚等の家畜由来の大腸菌に似た特徴を有していた。 本邦において、海外からの乳牛生体の輸入はほとんどない。また、mcr-1 陽性株が分離された農場や その近隣では鶏や豚等他の家畜は飼育されていない。一方、農業従事者の海外渡航や、アジアの国々 からの農業研修生を受け入れは恒常的になされている。以上より乳牛由来の mcr-1 陽性大腸菌は家 畜を介して持ち込まれた可能性よりも、人により農場に持ち込まれた可能性があると示唆された。 【結論】 mcr-1 は主に家畜由来株で見つかっているが、その伝播には国境を超えた人の移動が果た す役割も大きいと考えられた。また、乳牛由来の mcr-1 陽性株はコリスチンの他にも複数の抗菌薬 に耐性を示し、コリスチンの選択圧がなくても伝播維持されていた。このことから、mcr-1 の拡散を 防ぐにはコリスチンの適正使用だけでは不十分であり、コリスチン以外の抗菌薬の適正使用も同時 に行う必要があると考えられた。人と家畜において薬剤耐性菌の拡散を防ぐには、世界的規模で One Health に基づくすべての抗菌薬の適正使用、削減をすることが重要であると考えられた。 -42- POT キット大腸菌用を用いた分子疫学解析 ○品川雅明 1), 佐伯理知 1), 佐藤 豊孝 2) ,八鍬佑貴 1), 韮澤慎也 1), 佐藤勇樹 1), 淺沼康一 1), 高橋聡 1)3) 1) 札幌医科大学附属病院 検査部 2) 札幌医科大学 医学部 微生物学講座 3)札幌医科大学 医学部 感染制御・臨床検査医学講座 【背景および目的】 大腸菌は、医療機関の湿潤した環境やヒトの腸管内などに存在し、様々な外因 性、内因性の感染症を引き起こす原因菌として知られている。また、最近では ESBL (extended-spectrum β-lactamase)や CRE (carbapenem -resistant enterobacteriaceae)などの多剤耐性化の問題があり、院内感染の原因菌として 監視の強化が求められている。現在、院内感染対策における分子疫学解析には、 操作が簡便、かつ迅速性に優れていることから、多くの施設がシカジーニアス 分子疫学解析 POT キット(POT 法:関東化学)を利用している。これまで POT 法 で解析可能な菌種は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌とアシネトバクター属菌であっ たが、新たに、大腸菌用が開発された。本試薬は、大腸菌の菌株識別に加え、 主要な ESBL の型別も可能である。そこで、当院の臨床分離株を対象とし、遺伝 子型の調査および ESBL の型別を行った。 【対象および方法】 対象は、2015 年 2 月から 5 月に臨床材料から分離された大腸菌 126 株 (泌尿器 系材料 61 株、呼吸器系材料 24 株、血液 11 株、その他 30 株)とした。同定お よび薬剤感受性試験はマイクロスキャン Neg EN Combo 1J (Beckman Coulter)、 ESBL 確認試験はディスク法 (栄研化学)を用いた。POT 法は、シカジーニアス DNA 抽出液 (関東化学)で DNA 抽出を行い、POT 法大腸菌用を用いて解析した。 【結果】 大腸菌 126 株のうち、薬剤感受性試験および確認試験にて ESBL 産生菌と判定 されたのは 20 株 (15.9%)であった。POT 法にて解析を行った結果、126 株の大 腸菌は、86 種類の遺伝子型に識別され、そのうち単独例は 63 種類、複数例は 23 種類であった。複数例で最も多かったのは 20-0-2 型で 6 株、次いで 16-16-2 型、20-2-2 型と 49-5-83 型がそれぞれ 4 株であった。また、表現型で ESBL 産生 菌と判定された 20 株のうち、CTX-M-1 group が 5 株 (25%)、CTX-M-9 group が 15 株 (75%)であった。CTX-M-2 group は 1 例もなかった。 【結語】 POT 法大腸菌用は、泳動後のバンドをもとに菌株を数値化することで、菌株間 の比較を容易にしている。また、同時に ESBL の型別も可能としているため院内 感染対策に有用性の高い検査法と考えられた。 -43- Drug Susceptibility Testing Microfluidic device (DSTM)法を用いた MRSA の迅速検出法 ○松本佳巳 1)2)、渡邉文章 2)、御子柴孝晃 2)、西野邦彦 1) 1)大阪大学産業科学研究所、2)株式会社フコク マイクロ TAS 事業ユニット 【目的】 マイクロ流路チップと顕微鏡による迅速感受性測定法の実用化を検討しているが、 緑膿菌の感受性評価、大腸菌等の ESBL・MBL 産生菌検出法に続き、新たにブドウ球菌の メチシリン耐性を迅速に検出する方法を試みた。 【材料および方法】㈱ビー・エム・エルより分与を受けた MSSA と MRSA 各 10 株、MRSE 2 株を含む S. epidermidis 13 株を用いた。ソフトリソグラフィーにより作成したチップは、 菌液注入口を共有する 1 組 4 本のマイクロ流路が 5 ユニット、スライドガラス上に並んだ 構造をしており、4 本の流路を顕微鏡で一視野にまとめて観察することができる。これら の流路に MPIPC、CFX、CEZ、PCG、CLDM を 3 濃度ずつ固定して用いた。一夜培養コロ ニーを MH-broth に懸濁した OD 約 0.07 の菌液を 10μL ずつ各ユニットに注入し、37℃湿 潤条件にて培養後、 位相差顕微鏡下で 4 本の流路を観察し、 菌の感受性の有無を判断した。 【結果】S. aureus の増殖は、MRSA が MSSA より遅く、さらに S. epidermidis は、増殖が遅 い傾向にあったが、3 時間後には用いた全株の感受性判定が可能であった。菌数の比較だ けでは感受性を判断することが難しい場合も多々あったが、MRSA や MRSE は、β-lactam 薬 4 剤に耐性を示し、高濃度においても菌の増殖を示す集落の形成が見られた。一方、感 受性株では、集落形成が抑制された。感受性株の MIC よりも高い濃度を用いることで、感 受性株と耐性株の差が顕著となり、顕微鏡下での識別が容易となった。いずれの薬剤の感 受性の有無も同様の基準で判定できたが、接種菌量が高いことから、CLSI 法で測定した MIC より高くなる傾向が見られた。 【考察】顕微鏡による感受性判定は、目立った形態変化が見られないブドウ球菌において も、主として集落形成の有無を指標にすることで判定が可能であり、耐性株と感受性株を 識別するのに最適な濃度を設定することで、 迅速法として有用であると考えられた。 また、 緑膿菌用に作成したソフトウェアを用いて、ブドウ球菌の画像解析を試みたが、集落の計 測が可能であったことから、判定基準を変更するだけでブドウ球菌の自動判定も可能にな ることが確認できた。 -44- Staphylococcus aureus を対象とした DSTM 法による 迅速薬剤感受性試験法の検討 札幌医科大学附属病院 検査部 1),札幌医科大学 医学部 感染制御・臨床検査医学講座2) ○八鍬佑貴 1),品川雅明 1),佐伯理知 1) ,田中真輝人 1),佐藤勇樹 1),小林 亮 1), 韮澤慎也 1),淺沼康一 1),高橋 聡 1),2) 【はじめに】微生物検査における同定検査は、質量分析や遺伝子検査が導入され、迅速化が図 られつつある。一方、薬剤感受性試験は、現在も微量液体希釈法が主流であり、結果報告に時 間を要するのが現状である。しかし、近年では、様々な耐性菌が出現しているため、薬剤感受 性試験の迅速な対応が望まれている。最近、大阪大学産業科学研究所は、薬剤感受性試験の迅 速化を目的とし「DSTM (Drug Susceptibility Testing Microfluidic device) 法」を新たに開発 した。本法は、顕微鏡下で判定することで、3 時間で結果報告を可能にしている。そこで、今 回我々は、 Staphylococcus aureus を対象とし、DSTM 法を用いた迅速薬剤感受性試験法の性 能評価を行ったので報告する。 【 対 象 お よ び 方 法 】 当 院 で 分 離 ・ 同 定 さ れ た S. aureus 55 株 と 標 準 菌 株 4 株 ( S. aureus ATCC25923、ATCC29213、ATCC43300、および NCTC13552)を対象とした。比較対照には、 MicroScan Pos MIC 3.3J (Beckman Coulter)を用い、微量液体希釈法による MIC を測定し、 CLSI の基準で感受性を判定した。DSTM 法は、1 組 4 本のマイクロ流路が 5 組、スライドガ ラス上に並んでいる。すなわち、1 組は1薬剤分であり Control と 3 濃度が固定されている。 今回、使用した DSTM には、MPIPC (1, 2, 4μg/mL および 8, 16, 32μg/mL )と CFX (2, 4, 8 μg/mL および 16, 32, 64μg/mL)を固定したものを用いた。操作方法は、①血液寒天培地上に 発育したコロニーを用い、ミュラー・ヒントンブロスにて OD 0.03 の菌液を調製、②調製した 菌液を各流路に 10μL ずつ注入し、37℃ 高湿度にて 3 時間培養、③培養後、顕微鏡下で画像 を撮影、④撮影した画像は、大阪大学産業科学研究所で解析し、感受性を判定した。 【結果】 S. aureus ATCC29213 および ATCC43300 を対象とし DSTM 法で 5 回連続測定し、 再現性を調べた結果、MPIPC、CFX ともに MIC が±1 濃度差内であり、成績は良好だった。 つぎに、微量液体希釈法で測定し、CLSI の基準で感受性を調べたところ、MPIPC に対し耐性 と判定されたのは、59 株中 17 株 (28.8%)、CFX は 18 株 (30.5%)であった。一方、DSTM 法 は、全ての株を 3 時間で判定することが可能であった。また、CLSI のブレイクポイントを用 い判定した結果、耐性と判定されたのは MPIPC が 43 株(72.9%)、CFX が 31 株 (52.5%)であ り、微量液体希釈法と一致しなかった株は、いずれも Major error であった。そこで、両薬剤 のブレイクポイントをそれぞれ 1 濃度ずつ上げて、改めて感受性を判定した。すなわち、感性 ブレイクポイントを MPIPC は≦4μg/mL、CFX は≦8μg/mL にしたところ、微量液体希釈法 を比較対照とする MPIPC の Major error は 1 株(1.7% )であり、さらに CFX では、両者間の 判定が完全一致し、成績が改善された。 【結語】S. aureus を対象とした DSTM 法は、3 時間で薬剤感受性を判定することが可能であ り、日常検査に有用であると考えられた。 【謝辞】本研究にあたり、ご協力下さいました大阪大学産業科学研究所の松本佳巳先生に深謝 いたします。 -45- Drug Susceptibility Testing Microfluidic device (DSTM)法を用いた ESBL の迅速検査法の検討 小川美保 1)、坂田竜二 1)、市村禎宏 1)、霜島正浩 1)、渡邉文章 2)、御子柴孝晃 2)、松本佳巳 2),3) 1)(株)ビー・エム・エル総合研究所、2)(株)フコク マイクロ TAS 開発グループ、 3)大阪大学産業科学研究所 【目的】耐性菌の増加が著しい今日、抗菌薬の適正使用を促進する為には、起炎菌の同定に加 え感受性測定の迅速化が求められている。特に耐性菌の判定結果は、その後の治療にも影響す ることが考えられ、臨床に迅速に結果を返すことが求められている。そこで今回、ESBL 産生菌お よび CRE の検出について、新規デバイス DSTM と顕微鏡を用いる迅速法を、ダブルディスク法に よる鑑別試験および薬剤感受性による耐性菌判定試験と比較検討したので報告する。 【方法】ダブルディスク法で ESBL が検出された臨床分離の、E. coli 20 株、K. pneumoniae 20 株 および P. mirabilis 20 株を用いた。さらに、MEPM の感受性結果により CRE と判定された E. coli 10 株と K. pneumoniae 8 株を用いた。DSTM は 1 組 4 本の流路に抗菌薬 CPDX、CAZ、AZT、CMZ および MEPM 単独と CVA または TAZ を併用して固定したチップを用いた。なお、MEPM と CMZ には EDTA を 2 濃度併用した。MHB に懸濁した菌液(MacF≒0.25)を注入した後、37℃高湿度 状態で培養し、2~3 時間後に顕微鏡下でコントロールと比較、菌数や形態の変化による感受性 の有無を指標に、阻害剤の効果の有無から ESBL および MBL の産生性を目視判定した。 【結果】DSTM 法では、CPDX の ESBL 検出感度が最も優れ、E. coli 20 株および K. pneumoniae 20 株全ての株で陽性と判定された。AmpC の産生が疑われる株はみられなかった。P. mirabilis 20 株では、2 株が 2 時間での形態変化が顕著でなかったため、判定が困難であったが、3 時間で は全ての株において ESBL と判定することができた。CRE と判定された E. coli 10 株と K. pneumoniae 8 株においては、全ての株において MBL が検出された。これらの株は、同時に ESBL を産生しており、E. coli では、AZT で 10 株中 9 株が ESBL と判定できたが、K. pneumoniae では、1 株のみであった。また、MBLtype は 18 株中 17 株が IMP-1 group であった。1 株はクイ ックチェイサーで陽性が確認されたので、その他の IMPtype の MBL と判断した。 【考察】これらのグラム陰性菌は、β-lactam 薬により顕著な形態変化を示すことから、位相差顕微 鏡下で容易にβ-lactam 薬感受性を目視判定することができる。既存法との一致率も優れ、 DSTM 法では 2~3hで簡単に ESBL や MBL を検出することができ、AmpC の産生性も推定するこ とが可能であり、迅速検査として有用と考えられた。 -46- MEMO MEMO http://yakutai.dept.med.gunma-u.ac.jp/society/index.html
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