日本教育実践学会第 2 回研究大会 1999 年 11 月 14 日 於 兵庫教育大学 教師教育を促進する大学の遠隔教育プログラムの充実と ワイカト大学との提携 ○成田 滋 長瀬久明 藤田継道 兵庫教育大学 naritas@ceser.hyogo-u.ac.jp hisac@ceser.hyogo-u.ac.jp tpfujita@edu.hyogo-u.ac.jp Hyogo University of Teacher Education 要旨 兵庫教育大学との正式な大学間交流を希望しているニューランド・ワイカト大学のオンラインによる遠隔教育 カリキュラムを紹介する。この遠隔教育は教師教育に特化しているという特徴がある。両大学での教師教育に おける遠隔教育に関するプログラム開発などでの共同研究への展望を報告する。 I. はじめに 大学審議会は1997年に夜間大学院を含む通信制大学院 の創設を打ち出した(文部省、1997)。これは生涯学習に対 する関心の高まりや、技術革新の加速化などを背景に、高 度な専門知識を持つ人材の養成機関としての大学院に対 する期待が、社会人を中心にいっそう高まっていること を反映している。 以上のような展望にたち 1999 年 3 月に本研究者らは、 「播但地区における現職教員の夜間・週末遠隔出張授業へ のニーズに関する調査」(成田 , 古川 , 長瀬 , 別惣 , 原田 , 1999)の報告書を発表した。これによると、教育課程審議 会の答申にある「休業制度コース」が 16% で最も関心が 高く、次いで「長期在学コース」、 「1 年制大学院」が人気 がある。 「通信制大学院」や「週末大学院」への期待も10% 弱であることが判明した。さらに、大学院で学びたい理 由については、専門知識の習得、現代的課題の学習、資 格の取得などに最も関心があることが判明した。以上の 結果は、専門知識の習得、現代的課題の学習、資格の取 得が大学院での学びを希望する主たる理由となっている ことを物語る。 これまでのような学生をキャンパスに集めるという形 態にとどまらず、学びの場や教材を個人や学校や職場に 届ける遠隔学習という形態が、大学の重要なサービスの 一つとして認識されつつある。高速の通信回線の普及や デジタル技術の発展は、こうした遠隔での学びを提供す ることにいっそう拍車をかけてゆくと考えられる。 筆者らは、本年8月に兵庫教育大学に正式な大学間交流 を申し込んでいるニュージーランドのワイカト大学を訪 問し、オンラインによる遠隔教育のカリキュラムやその 運営について調べる機会があった。その内容は、兵庫教 育大学の教師教育カリキュラムの拡大に示唆を与えるも のなのでそれを報告する。 大学は 8 つの学部からなり、学生数は約 11,000 名である。 教育学部は次のような8つの学科からなっている。すわな ち、芸術教育、早期教育、学際教育、余暇教育、多言語 教育、教科教育、職業教育、健康教育である。 教育学部には「Online Teaching and Staff Professional Development」という部門があり、遠隔学習プログラムを 実施している。この部門は、文字通りプログラムを担当 する教官の支援も行っている。このプログラムは今年で3 年目を迎え、1999年度では約1,600名の人々が登録してい る。教育学部がこのプログラムを担当する理由の一つに、 教員免許を受講生がそれぞれの生活の場でも取得できる ようにというワイカト州政府の方針による。 なお、ワイカト大学と兵庫教育大学は、現在大学間交 流を締結するために協議している。交流の主たる内容は、 教師教育における共同研究やオンラインによる遠隔教育 カリキュラムの共同開発と利用、学生の相互交流などで ある。 (1) 遠隔教育プログラム 現在のところ、オンライン学習プログラムのは教育学 部が担当している。1999 年度は 50 科目あまりであった。 科目数は、教官の陣容とコンピュータサーバーの容量に もよる。教官の一人、Ms Nola Campbell 講師が担当する 科目「Mixed Media Programme」でいえば、1997 1998 1999 年の 3 年では、それぞれ54,65,65 名となっている。この科 目は、教職に関する科目の一つである(University of Waikato, 1999)。 Mixed Media Programmeを含めてその他の科目は、2000 年の1月に始まる。現時点では履修届はまだ受け付けして いない。Mixed Media Programme は、夏期講座の一つであ り、実施期間がきわめて短い。ただ、定員は60 名であり、 この受講生数がアシスタントとで指導できる限界だと考 えられる。 (2) 科目数と授業料 II. ワイカト大学の遠隔教育プログラム ワイカト大学は 1965 年に創立された綜合大学である。 2000 年度に開講される科目は、入門科目が 17、普通科 目が 14、同じく普通科目が 15、そして専門科目が14 の合 計 60 科目である。オンラインの受講者の授業料は、通学 生が支払う教職に関する科目の単位当たりの授業料と同 じとなる。 (3) アシスタント この科目には、図書館の情報処理担当者(information coarch)、あるいは学部所属の助手、あるいは非常勤の チューターが配置される。 (4) 受講生の内訳 これまでの実績によれば受講生は、今後教員になろう とする者と現職教員の両方である。基本的には、開かれ た大学の一講座となっている。受講生は、ニュージーラ ンド全国にまたがる。 (5) 費用対効果について オンラインの遠隔教育プログラムについは、その内容 の質を維持するには費用がかかる。既存の大学における プログラムと同じような費用が必要である。ここ3ヵ年の オンライン学習プログラムの費用に関していえば、さら に追加の予算を必要とする状況にある。一方で、予算は 減額される傾向にあるが、大学関係者やスタッフの間で は、オンラインの遠隔教育プログラムをいっそう拡充し なければならないという点では一致している。 (6) オンライン科目にかかわる課題と解決方法 科目を充実するための最大の課題は、教官の指導に関 わる時間の不足と負担の大きさである。こうしたオンラ イン学習プログラムの課題は、どの教科についてもいえ るが、いまだに黎明期にある共通の課題であると指摘で きる。大学は、受講生に対して資金的な援助もしている。 これによって受講生は学習に必要な通信機器のついたコ ンピュータなどを購入できる。 教育実習は、受講生自らが近くの学校で9週間にわた る実地教育を体験する。実習の評価は、実習校の指導教 官から大学に通知される。 (7) 受講生からの評価 職業を有する受講生の場合は、組織だった学びや内発 的な学びの動機が高いことが判明している。こうした受 講生はオンライン学習プログラムによって単位を取得す るのが多い。このプログラムは、受講生がいつでもどこ でも学べるという点で、カリキュラム編成上で柔軟な性 格を有している。 (8) 科目の例 「学校における遠隔教育とオンライン学習」--Distance Education and Online Learning in School Classrooms この科目は、教職に関する科目の一つで学校教育で必 要となる遠隔指導のスキルを身につける内容である。授 業はすべてインターネット上で行い、その進め方は同期 したネットワーク上でのフォーラムと呼ばれる掲示板を 使い、学習上の討論をしたり、そのログをデータベース 化し、討議に参加できない受講生が参照するというもの である。 オンラインでの討議には、自己紹介や関連文献情報を 利用するオンライン図書館の説明と使い方、個人研究課 題の討議、教官提起の課題についての討議、Q&A、受講 生のホームページの説明と内容に関する討議などからな る。これの討議には、受講生はあらかじめ決められた日 時にネットワークに接続して参加する。 学習評定は、オンライン上での討議の参加が 35%、オ ンライン上での学習記録の提出が 35%、そして電子的レ ポートかテープによるレポートが 30% となっている。 III. まとめ 現在、地理的、あるいは時間的な制約から,大学院レ ベルの学習を希望しながらも,学ぶことが困難な人々は 少なくない。現職の教員の専修免許状取得を例にとれば、 通信制の大学院の要望や,学部レベルの通信教育を受講 している学生の進学の希望などのニーズがある。このよ うに、より専門性の高い学習を希望する人々の学習ニー ズに適切に応えていくためには、既存の「通い」という 形態の大学院の他に、通信制による教育の機会を提供す ることが考えられる。 今日のデジタル通信技術の進展によって,現在の大学 院で行われている教員の授業や研究指導を学生が自宅で 受けることができるようになる可能性もある。このよう に,将来的には,あらゆる学生が,地理的,時間的制約 を超えて通学制の大学院で行われる内容に劣らない教育 研究に参加でき,通学制と通信制の境界がなくなるよう な状況が生まれるものと期待される。 引用文献 文部省(1997). 通信制の大学院について(答申). 成田 滋, 古川雅文, 長瀬久明, 別惣淳二, 原田幸俊(1999) . 播但地区における現職教員の夜間・週末遠隔出張授業へ のニーズに関する調査 , 兵庫教育大学 . University of Waikato (1999). GRADUATE PROSPECTUS. 参考資料 通信制の大学院について(答申) http://www.monbu.go.jp/singi/daigaku/00000157/ 播但地区における現職教員の夜間・週末遠隔出張授業へ のニーズに関する調査 http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/naritas/president98/ survey.htm (注) 本研究にあたっては、ワイカト大学教育学部の講師である Ms. Nola Campbell 氏にご協力をいただいた。 Ms. Nola Campbell <ngc@waikato.ac.nz>
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