1 東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌 7月号(第54号)2015. 7 IMCB Institute of Molecular and Cellular Biosciences University of Tokyo The University of Tokyo 研究分野紹介(ゲノム再生研究分野)��������� 1~3 目 次 分生研研究倫理セミナー����������������� 18 豊島近教授 紫綬褒章受章��������������� 4 平成26年度 分子細胞生物学研究所 技術職員研修 開催報告� 19 受賞者紹介���������������������� 4 平成26年度 医学部・医科研・分生研 合同技術発表会を終えて� 20 Welcome to IMCB ����������������� 5~6 研究室名物行事(生体有機化学研究分野)��������� 21 転出のご挨拶(森本晃弘、米倉慎一郎、植田清実)����� 7 ドクターへの道(松村厚佑)��������������� 22 着任のご挨拶(小林武彦、川崎善博、作野剛士、伊藤暢、伊澤大介、 留学生手記(TAKAHASHI TOMIO SAMUEL)������� 23 赤松由布子、佐々木真理子、阿部崇志、飯田哲史、 海外ウォッチング(船戸洸佑)�������������� 24 伊藤桜子、木戸丈友、金智慧、加藤貴彦) � 8~12 お店探訪������������������������ 25 訃報������������������������� 13 知ってネット���������������������� 25 おめでとう!大学院博士・修士課程修了者����� 14~15 編集後記������������������������ 25 次代のホープ達�������������������� 16 研究最前線(染色体動態研究分野、神経生物学研究分野、 平成26年度 分生研セミナー一覧 ������������ 17 ゲノム情報解析研究分野、 放射光連携研究機構) � 26~27 平成26年度 プレスリリース一覧 ������������ 18 研究紹介(佐々木真理子、牧野吉倫)����������� 28 研究分野紹介 ゲノム再生研究分野 ゲノム再生研究分野 教授 小林武彦 はじめましてゲノム再生研究分野です。 この4月に国立遺伝学研究所から異動してきた7名と、こちらに来て新たに加わった2名の計9名で新しい 研究室をスタートしました。内3名は元気な大学院生(M1、M2、D3)ですので、少人数ながらもわいわいやっ ています。 まだ環境の激変に順応できていません 我々が3月まで所属していた国立遺伝研(三島市)は、富士山と伊豆半島の中間に位置し、時折野生のサル が山から下りて来る風光明媚なのどかな所でした。もちろんスタバはありません。ラボのメンバーは徒歩か自 家用車での通学、出勤です。そんな我々が急に都会の真ん中に来たわけで、若いメンバーはともかく、私は3ヶ 月が経過した現在でも、いまだに順応できていません。どこにいっても人が多いのには、ほんとうに驚かされ ます。人が多いと逆に関係は希薄になると言いますが、それは本当のようです。地下鉄の中など、皆さんの表 情が完全に消えていますね。沢山の人が暮らす都会での「ヒトの環境適応」なのでしょうか。私はまだ慣れて いませんのでキョロキョロしています。 ゲノム再生の分子機構 突然研究の話にはいります。30億年以上前に地球上に最初に登場した細胞は、もちろん進化により姿かたち はずいぶん変わりましたが、現在も我々を含めた地球上のすべての生物の身体の中で脈々と生き続けていま す。その長い生命の連鎖の中で、多くの細胞は老化し死んでしまいますが、生殖細胞や幹細胞といった、新し い細胞を生み出す細胞の一部は死ぬことはなく、次世代へ命を繋いでいきます。その継承の過程において最も 2 重要なことは、ゲノムが壊れないように、複製しバトンタッチしていくことです。ゲノムは「情報」なので実 際にはDNAが受け継がれていきます。しかし残念なことにDNAは紫外線や酸、ある種の化学物質に対して脆 弱です。また糸状の構造のため物理的な力にも弱いです。さらにDNA合成は〜10-9の頻度でエラー(間違い) がおこります。この頻度は生物を進化させるためには高すぎず低すぎず、妥当な値かも知れませんが、個体の 一生で考えると特に寿命の長い生物ではそれだけ変異が貯まるわけで、つらいです。実際に最近のゲノムの解 析技術の進歩により加齢と共に変異やゲノムの改変が徐々に蓄積し、細胞(組織)の機能低下やがん化の原因 となっていることが徐々に明らかになってきています。もちろん細胞にはDNAの「修復」機構がありますが、 実際にはそれでは追いつかない、「再生」が必要なレベルのDNAの傷が起こっています。 個体を構成するほとんどの細胞は分化した細胞で、それらの多くは老化して死んで新しい細胞に取って代わ られるので、変異はそれほど大問題ではないのかも知れません。しかし新しい細胞を生み出す幹細胞や生殖細 胞での変異は大問題です。これらの細胞では変異の蓄積をどのように回避しゲノムを再生させ、次世代へ健全 なゲノムを継承しているのでしょうか?この解明を目指し、我々は日夜研究に励んでいます。 反復配列の横綱、リボゾームRNA遺伝子 ゲノムと一口に言っても実はその安定性は部位によってかなり異なります。我々の研究室ではゲノム中でも 特に安定性が低い「反復配列」に注目しゲノ ムの再生機能の研究を行っています。 反復配列の中にもいろいろあって、ゲノ ムの最大領域を占めているのはリボゾーム RNA遺伝子(rDNA)と呼ばれる反復遺伝子 群です。rDNAは酵母ではゲノムの約10%、 ヒトでは約0.5%の領域を占める最大派閥で す。やはり巨大反復配列としてゲノム中で最 も不安定な領域となっており、コピー数の変 動が頻繁に見られます。非常に興味深いのは 酵母でリボゾームRNA遺伝子の安定性を人 為的に低下させると寿命が短縮し、逆に向上 させると寿命は延長します。おそらくリボ ゾームRNA遺伝子のような不安定で大きな 領域が、 ゲノム全体の安定性を左右し「さあ、 ゲノムが壊れ始めてきたのでそろそろ増殖を やめましょう」という「老化シグナル」の最 大の発生源になっていると考えています(図 1) 。この「老化シグナル」の実体解明も我々 の目標の1つです。 図1 rDNAは老化シグナルの発生源 リボゾームRNA遺伝子は巨大反復遺伝子群を染色体上に形成して います。その繰り返し構造ゆえに、異常なDNAの高次構造やリピー ト間の組換え、複製ストレスを起こしやすく、また外部からのDNA損 傷刺激(放射線、化学物質など)にも弱く、極めて「脆弱な領域」と なっています。そのためrDNAはゲノム中で「最初に壊れる領域」と して老化やチェックポイント制御シグナルの発生源となっています。 細胞老化と若返りの分子機構 多くの細胞がゲノムの傷の蓄積により老化して死んでいく中で、幹細 胞のような一生を通して生き続ける、あまり老化しない細胞もあります。 これらの細胞では、リボゾームRNA遺伝子のような脆弱な領域を安定に 維持するための特別なシステムが必要となります。出芽酵母を例にご紹 介しますと、酵母の母細胞は2時間に一回分裂し娘細胞を生み出します。 芽がでてそれが大きくなっていくので出芽(図2)と呼ばれます。1つ の母細胞は分裂(出芽)の度に老化し約20回分裂すると増殖を停止し死 んでしまいます。興味深いのは、母細胞の分裂回数(年齢)に関係なく 生まれてくる娘細胞はリセットされて(0才にもどって)また約20回分 裂する能力を回復します(図3)。つまり若返るわけです。これはヒトの 赤ちゃんの寿命が出生時の母親の年齢に影響されないのと同じです。さ 図2 出芽酵母の分裂(出芽の様子) 母細胞(左下)から娘細胞(右上) が生まれる瞬間。この1回の分裂で母 細胞の年齢がリセットされた0才の娘 細胞が生まれます。母細胞の白い輪は 娘細胞を生んだ痕(出芽痕) 。細胞の 直径は約5マイクロメートル。 3 図3 生命の連続性の維持機構 酵母の母細胞は分裂の度に老化してやがて死んでしまいますが、娘細胞は逆に分裂の度 に若返り、永遠に生き続けます。同様の「若返り」現象が動物細胞の幹細胞や生殖細胞で も起こっており、生命の連続性が維持されています。 てそれでは、若返り時にゲノムは一体どうなっているのでしょうか。分裂直後の母と娘細胞をそれぞれ集めて リボゾームRNA遺伝子の安定性を調べたところ、予想通り娘細胞でその不安定性が回復していました。つま り良好なゲノムを子孫に受け渡すシステムが存在するわけです。我々はこの死なない細胞での「ゲノムの再生」 現象が、生命の連続性を支える「鍵」と考えています。 幹細胞・酵母の娘細胞のように分裂して若返る細胞、かたや分化細胞・酵母の母細胞のように老化して死ん でいく細胞、この2つのタイプの細胞の分化は1回の細胞分裂で起こります。これら2種の細胞を生み出す分 子機構をなんとしても解明したいと思っています。 ご指導の程、何卒よろしくお願いいたします。 4 豊島近教授 紫綬褒章受章 このたび、豊島近教授が本年春の紫綬褒章を受章されました。膜蛋白質の 構造生物学研究に長年取り組み、特に、現代生物学の重要な分野の一つであ る能動輸送機構の解明に多大な貢献をした功績が評価されたものです。 細胞の内外でナトリウムや、カリウム、カルシウムといったイオンの濃度 は大きく異なっており、その濃度の違いを、生体はエネルギー源や信号とし て利用したりします。信号として特に重要なイオンはナトリウムとカルシウ ムです。イオンは濃度勾配に従って自然にチャネル蛋白質を通って信号とな りますが、元の状態に戻すためには濃度の薄い方から濃い方へイオンを汲み あげなければなりません。この役割を果たすのが、イオンポンプと呼ばれる 膜蛋白質群で、生命活動に極めて重要なものです。蛋白質は立体構造を変化 させ機能を果たすわけですから、その作動機構の解明には立体構造の決定が 必須です。先生は困難なことで知られる膜蛋白質の結晶化において常識に囚 われない独自技術を開発し、2000年に世界で初めてカルシウムポンプ蛋白質の原子構造決定に成功しました。 さらには、輸送サイクル中のほぼすべての中間体の結晶構造を決定し、ポンプ蛋白質の作動機構を原子レベ ルで解明しました。また、より複雑で、生物学的・医学的により重要ともいえるナトリウムポンプにも取り 組み、ここでも、「ナトリウムポンプは、カリウムより低い親和性しか持たないのに何故ナトリウムのみを厳 密に選別し、 しかも高速に運搬できるのか」という長年の謎に明快な答えを与えました。このように、先生は「ど うしてそういう構造でなければならないか」という本質的な問いに常に答えようと努力されています。豊島 先生はこれらの先駆的な業績により、平成17年に名誉ある米国科学アカデミー外国人会員に選出され、19年 に米国生物物理学会National Lecturer賞、22年に朝日賞、23年に山崎貞一賞を受賞されました。この度のご 受章をお喜び申し上げるとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。(小川 治夫) 受賞者紹介 受 賞 者 名:髙井 弘基(分子情報研究分野/博士3年(受賞当時) ) 賞 名:農学生命科学研究科 研究科長賞 受 賞 日:平成27年3月24日 受賞課題名:5-Hydroxymethylcytosine Plays a Critical Role in Glioblastomagenesis as an Epigenetic and Epitranscriptomic Regulator 受 賞 者 名:梶田 大資(生体有機化学研究分野/博士1年) 賞 名:平成26年度笹川科学研究奨励賞 受 賞 日:平成27年4月13日 受賞課題名:含ケイ素ジフェニルメタン型化合物の医薬化学への展開 5 〈Welcome to IMCB〉 -新人紹介- 染色体動態研究分野 伊澤 大介 助教 常盤 祐貴 理学系研究科 修士1年 大星 友希 技術補佐員 分子情報研究分野 林 あかね 理学系研究科 修士1年 渡部 幸和 理学系研究科 修士1年 中村 次郎 理学系研究科 修士1年 写真:左から 大星、常盤、伊澤 発生・再生研究分野 寺澤 夏実 理学系研究科 修士1年 山田みなみ 理学系研究科 修士1年 大山 裕棋 理学系研究科 修士1年 太田 誠広 理学系研究科 修士1年 写真:左から 中村・林・渡部 RNA機能研究分野 永沼 政広 先導的研究教育プログラム 助教 牛丸 陽介 新領域創成科学研究科 修士1年 写真:左から 寺澤、山田、大山、太田 写真:左から 牛丸、永沼 生体有機化学研究分野 雨宮 聖花 薬学系研究科 修士1年 千葉 幸介 薬学系研究科 修士1年 豊田 洋介 薬学系研究科 修士1年 吉岡 広大 薬学系研究科 修士1年 写真:左から 千葉、豊田、吉岡、雨宮 6 計算分子機能研究分野 心循環器再生研究分野 Jacob Ben Swadling 特任研究員 Hisham Mohammed Mohammed Dokainish 特任研究員 Tran Phuoc Duy 新領域創成科学研究科 博士1年 高木 瞭 新領域創成科学研究科 修士1年 佐藤 千夏 新領域創成科学研究科 修士1年 林田 直子 特任研究員 陳 欣蔚 理学系研究科 博士1年 中釜 悠 医学系研究科 博士1年 戸羽あす美 理学系研究科 修士1年 水上 薫 新領域創成科学研究科 修士1年 宮澤明日香 理学系研究科 修士1年 写真:左から Hisham、Tran、Jacob、佐藤 ゲノム再生研究分野 小林 武彦 教授 飯田 哲史 助教 赤松由布子 助教 佐々木真理子 助教 若月 剛 特定短時間職員 鈴木 雄 特定短時間職員 鵜之沢英理 理学系研究科 博士3年 高木 写真:後列左から 林田・陳・宮澤・中釜 前列左から 水上・戸羽 ゲノム情報解析研究分野 NGUYEN AHN SAO 農学生命科学研究科 大学院外国人研究生 種田 けい 学術支援専門職員 若崎真奈美 派遣社員 飯田 写真:左から SAO、種田、若崎 赤松 写真:後列 左から 小林、鈴木、若月 前列 左から 佐々木、鵜之沢 病態発生制御研究分野・分子機能形態研究分野 放射光連携研究機構 菊岡 里美 新領域創成科学研究科 博士2年 山口 幸佑 特任研究員 土屋 一郎 北里大学 中井 一貴 北里大学 尾勝 圭 日本学術振興会特別研究員 写真:左から 土屋、山口、中井、菊岡 7 転出のご挨拶 先導的研究教育プログラム 助教 森本晃弘 分生研では、染色体動態研究分野、渡邊研究室で、ポスドク、助教として4年間お世話にな りました。東日本大震災直後の着任で不安もあったのですが、実際に来てみると、良いサイエ ンスをしたいという熱い思いを持った先生方や同僚に囲まれて、充実した時間を過ごすことが できました。4年間という限られた時間ではありましたが、非常に恵まれた環境の中で研究を させていただきました。力不足で至らぬことも多かったのですが、常に叱咤激励をいただいた 渡邊先生、渡邊研究室の皆様には心から感謝しております。今年の4月からは縁あって、民間 企業で研究に携わらせて頂けることになりました。 これまでの研究分野とは大きく異なりま すが、分生研で学んだこと、経験したことを少しでも生かすことができるよう、頑張っていき たいと思います。在任中は分生研に貢献することができませんでしたが、その分しっかりと働 いて社会に貢献していきたいと思います。最後になりましたが、渡邊先生をはじめ、分生研諸 研究室の皆様、分生研事務の皆様には本当にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げますとともに、皆様 の益々のご活躍・ご発展を祈念して、転出の挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました。 創造的研究教育プログラム 助教 米倉慎一郎 2015年4月より、岡山大学自然科学研究科 生体超分子構造研究室の特別契約職員・助教に 着任いたしました。 分生研の皆様にはポスドク時から6年間お世話になりました。この間、豊島先生をはじめと する先生方や同僚、事務の方々などに恵まれすばらしい環境で研究生活を送ることが出来まし た。この場を借りてお礼申し上げます。 分生研では膜蛋白質を題材とした生化学と結晶構造解析をおもに研究させていただきました。 特に結晶構造解析は、ほぼ経験のない段階からでしたが様々な視点から広く学ぶことが出来 ました。 着任いたしました研究室においても膜蛋白質の結晶構造解析を精力的に行っており、分生研 での経験を活かし研究を進めてゆきたいと考えております。 最後にお世話になりました分生研の皆様に心より感謝申し上げますと共に、皆様の益々のご活躍をお祈り申し上げ ます。 事務長 植田清実 分子細胞生物学研究所では、平成25年4月1日から2年間お世話になりました。この度平成 27年4月1日付けにて白金台にあります医科学研究所へ異動いたしました。 平成25年7月の分生研ニュースをみますと、 「教員の皆様が研究・教育に専念できるよう、 できる限り支援していきたいと思っています。 」と挨拶させていただいておりますが、私の任 期の多くの時間は、特別案件対応に割かれてしまい、十分な支援ができなかったのではと反省 しています。ただ当該案件により、秋山所長をはじめ諸先生方、職員の皆様方、そして事務部 の皆様と一致団結して対応に取り組むことが出来、非常に充実した楽しい2年間でした。 医科研も分生研と近い研究分野もあるかと思いますので、分生研での経験を活かし、事務部 としてしっかり研究者のサポートをしていきたいと思っています。このように思えるように なったのも分生研での皆様の暖かいご支援とご協力によるものと感謝しております。有り難う ございました。卒業までの時間が近づいていますが、新勤務地でもう一頑張りしようと思っています。 たまには弥生地区に顔を出したいと思いますので、その際には知らんぷりしないでお声がけいただけると幸いです。 最後に、分生研の研究教育活動の更なる発展と皆様方のご活躍ご健康を心からお祈り申し上げます。 8 着任のご挨拶 ゲノム再生研究分野 教授 小林武彦 4月1日にゲノム再生研究分野に着任いたしました小林武彦です。 どうぞよろしくお願いいたします。 九州大学で学位を取って以来、岡崎基礎生物学研究所、米国ロッシュ分子生物学研究所、 NIH、国立遺伝学研究所とずっと研究所勤務が続いており、25年ぶりの大学復帰でワクワクし ています。それに加えて分生研という刺激満載の研究環境下で、また新たなプロジェクトを展 開出来ることは、まさに研究者冥利に尽きます。このチャンスを生かして有益な発見ができる よう最大限の努力をいたします。研究内容につきましては本号の「研究分野紹介」に詳しく書 かせて頂いておりますが、最終的な目標は、 「ゲノムの研究からヒトをどこまで理解できるか、 そしてこれからヒトはどこに行くのか」を予測することです。自分の短い人生で、非常に長い 時間をかけて完成した「ヒト」のことが、どこまで理解できるのか判りませんが挑戦していき たいと思っています。 基礎生物学研究所ではバレーボールを、国立遺伝学研究所ではフットサルを学生と一緒にやっていて、いつもボコ ボコにされていました。気楽に誘ってください。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 癌幹細胞制御研究分野 准教授 川崎善博 2015年1月1日付けで癌幹細胞制御研究分野准教授を拝命いたしました川崎善博と申します。 大変光栄であると同時に、職責の重さを痛感し身の引き締まる思いが致しております。大学院 修士課程で秋山教授の研究室に配属となって以来19年間、秋山教授をはじめ数多くの先生方や 学生の方々に支えられながら研究を続けることが出来ていることに心から感謝しております。 私は、現在まで一貫して「大腸癌発症機構の解明」をテーマとした研究に従事してまいりま した。腫瘍は多種多様な癌化機序を持っているため、様々な切り口からアプローチする研究や 解析が必要不可欠であると考えています。従来の技術に頼っているだけでなく、新たな手法を 積極的に取り入れ、 細胞癌化機構の理解に新たな局面を開くことを目指したいと考えています。 分生研や生命科学の発展に少しでも貢献できるように努めてまいりますので、今後とも一層の ご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。 染色体動態研究分野 准教授 作野剛士 2015年2月1日付けで染色体動態研究分野にて准教授を拝命しました作野剛士と申します。 ポスドクからお世話になっております渡邊嘉典教授のもとで引き続き研究を行う機会をいただ きましたこと、心より感謝申し上げます。 我々ヒトを含め有性生殖を採用した生物が次世代を残すためには、精子や卵といった生殖細 胞の形成が不可欠です。 これら生殖細胞は減数分裂という特別なプロセスを経て作られますが、 その過程で通常の体細細胞と比べ染色体数が半分になります。ではどうやって正確に染色体を 半減させ生殖細胞にパッケージするのか?私はその不思議なメカニズムに魅了され、減数分裂 期における染色体分配の研究を行ってきました。減数分裂の過程で生じる染色体分配のミスは 加齢と共に増加し、それに伴い早期流産やダウン症といった先天性疾患の発生頻度も上昇する ことが知られています。今後はこれらの問題に対しても将来何らかの形で役立つことを意識し ながら研究に取り組みつつ、渡邊研メンバーを色々な側面からサポートできればと考えています。 最後になりましたが、これまでお世話になった先生方や事務の皆様にはこの場をお借りしてお礼申し上げます。研 究室および研究所の発展に貢献できるよう微力ながら尽力いたしますので、今後もどうかご指導ご鞭撻のほどよろし くお願いいたします。 9 発生・再生研究分野 准教授 伊藤 暢 このたび、発生・再生研究分野(宮島篤教授)の准教授に昇任いたしました伊藤暢(いとう とおる)と申します。2003年9月にポスドクとして宮島研究室に参画して以来、早10年以上に 亘って分生研に在籍しております。この間の宮島教授、秋山所長はじめ分生研の諸先生方から のご指導と、研究室内外の多くの方々からのご支援・ご協力のおかげにより、今日にまで至っ ております。改めまして、心より感謝申し上げます。とりわけ、日頃の研究活動をサポートし ていただいている事務部の方々、動物実験施設を管理していただいている方々には、この場を 借りて厚く御礼申し上げます。 現在は、 「肝臓の障害と再生のメカニズムの解明」をテーマに研究を行っております。肝臓は、 哺乳類の臓器としては例外的にきわめて高い再生能力を示すことが知られています。ギリシャ 神話には、人間に火を与えたためにゼウスの怒りをかったプロメテウスが山頂に磔にされ、生 きながらにして大鷲に肝臓を啄まれる、そして高い再生能力がために肝臓は夜毎に再生し、また啄まれる、これが半 永久的に繰り返される拷問を受ける、という印象深いエピソードがあるほどです(私自身が、夜な夜な自らの肝臓を 痛めつけるという行為をなかなか止められないのは、何かそのような歴史が我々のDNAの中に記憶として刻まれてい るせいなのかと思います) 。このような、肝臓のもつ高い再生能力の秘密を解き明かすと共に、臓器あるいは組織の 再生を司る基本原理の理解を目指したいと考え、研究に取り組んでいます。肝臓は、残念ながら基礎研究の分野では マイナーな研究対象とされていますが、その面白さを少しでも多くの方に伝えられるように、そして斬新な研究成果 を発信していくことで分生研の発展にも貢献できるよう、精一杯努めていきたいと考えております。今後ともご指導 ご鞭撻のほど、どうぞ宜しくお願い申し上げます。 創造的研究教育プログラム 助教 伊澤大介 2月1日付けで染色体動態研究分野(渡邊嘉典教授)に創造的研究教育プログラム助教とし て着任致しました伊澤大介と申します。よろしくお願い申し上げます。 これまで「分裂」をキーワードに研究者としてのキャリアを歩んできました。2001年から 2006年の間、大学院生として東京大学理学系研究科生物化学専攻の山本正幸教授の指導の元、 分裂酵母を用いて減数分裂の研究を行いました。 その時、細胞分裂に必須なユビキチンラーゲー スAPC/C複合体の減数分裂特異的な制御機構を発見しました。学位取得後の2006年から8年 半に渡り、ポスドクとしてイギリスのケンブリッジ大学コードン研究所のJonathon Pines研究 室に留学し、分裂酵母から生物を変えヒト培養細胞を用いて体細胞分裂の研究を始めました。 細胞の生死に直結する重要なシグナル経路である紡錘体チェックポイントはAPC/C複合体の 活性制御を通して染色体分配の時期を決定しており、ポスドク時代の研究は、その分子機構の 解明を目指し、その機構について新たな概念を発見しました。さらに留学中には同研究所のJon Gurdon博士がノーベ ル賞を受賞され、自身の研究以外でも様々な面で刺激のある留学でした。 今年から渡邊嘉典教授の元で染色体分配装置の研究を行うこととなりました。10年以上前に山本研究室で当時助教 授として研究されていた渡邊教授と同じ部屋で研究していましたが、さらにパワーアップされた先生の元、刺激ある 研究生活を既に送っています。これから皆様のご指導とご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます ゲノム再生研究分野 助教 赤松由布子 2015年4月1日よりゲノム再生研究分野(小林武彦教授)の助教に着任いたしました、赤松 由布子と申します。これまでは、 静岡県三島市にある国立遺伝学研究所・細胞遺伝研究部門(小 林武彦教授)に所属しておりました。今回、小林研究室の移転に伴って、一緒に分生研に移っ てまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。 私は、大学院とポスドクの期間を通して、細胞のゲノムDNAが安定に維持されるメカニズ ムに興味を持ち、特にDNA二重鎖切断を修復する組換え修復機構に関与する新規遺伝子の同 定と解析を、分裂酵母や哺乳動物細胞で行ってきました。小林研究室に所属してからは、哺乳 動物細胞を用いて、ゲノムに大規模なリピート配列を形成しているリボソームRNA遺伝子に 着目した研究を開始しております。ゲノム安定性という観点では、酵母においてリボソーム RNA遺伝子は活発に研究されていますが、哺乳動物細胞ではまだまだ未知の領域です。思う ように実験が進まずに四苦八苦の日々ですが、何とか研究を発展させていけるように、頑張っていく所存です。 分生研の皆さまには、4月からの研究室の立ち上げに際して機器をお借りしたり分からないことを教えていただい たり既に多くのご支援を頂き、深く感謝しております。私はまだまだ未熟で至らない点が多々あると思いますが、今 後もご指導ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。 10 ゲノム再生研究分野 助教 佐々木真理子 2015年4月1日付けで、ゲノム再生研究分野に助教として着任致しました、佐々木真理子 と申します。私は、米国ニューヨークにあるMemorial Sloan-Kettering Cancer CenterのScott Keeney教授のもとで博士号を取得しました。その後3年間、小林武彦教授(当時、国立遺伝 学研究所)のご指導のもと日本学術振興会特別研究員として研究を行いました。この度、小林 先生が赴任されるのに伴い、私も分生研で研究をさせて頂けることになりました。 私は、ゲノム情報を正確に娘細胞に引き継ぐために細胞が獲得した、ゲノム安定性維持機構 に非常に興味を持っています。その中でも、非常に危険なDNA損傷であるDNA二本鎖切断の 修復機構の解明に貢献できればと思っています。博士研究では、出芽酵母において減数分裂期 に生じるDNA二本鎖切断部位のゲノムワイドな同定を行ないました。本研究室では、体細胞 分裂期にシフトしDNA複製阻害の結果生じる二本鎖切断修復機構の解明に取り組んでいます (研究紹介に詳細を載せています) 。これまで、ヒト等の高等生物で起こる現象を解明するため、真核単細胞生物の出 芽酵母を用いて、出芽酵母だからこそできる研究を行なってきたと思っています。そして将来的に、本研究で得られ た知見を高等生物に応用することができればと思っています。さらに、二本鎖切断修復異常は癌や多種多様の疾患の 発症に結びつくことから、その原因を明らかにする手がかりが得られることを期待しています。 分生研では幅広い分野の研究が行われており、いろいろ勉強させていただくことができるのを楽しみにしておりま す。まだ移動してきて間もないので、いろいろご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、ご指導ご鞭撻のほどよ ろしくお願い致します。 先導的研究教育プログラム 助教 阿部崇志 4月より神経生物学研究分野の助教に着任した阿部崇志です。簡単にですが自己紹介させて いただきます。学部時代、私は東北大で魚類胚の多能性に関する課題に取組んでおり発生学会 に参加したのですが、 分生研と多羽田研を知ったのはこの頃になります。当時の多羽田研はショ ウジョウバエ視覚系の発生をテーマとしており、共焦点顕微鏡によって撮影された神経組織の 精巧さに驚き、神経発生という分野に興味を持ちました。そして、脳のような神経回路がどう やってできるのか自分も観察してみたいという、今思うととても漠然としたかつ単純な動機の もとに、生物化学専攻へ進学し、分生研と多羽田研のお世話になることとなりました。博士 課程では、細胞骨格制御因子Sickieが、嗅覚記憶形成に重要なキノコ体神経において非古典的 Rac−Cofilin経路を介し軸索伸長を制御することを明らかにし、昨年学位を取得しました。現 在は、神経発生から脳機能の研究へと軸足を移し、記憶形成におけるキノコ体の役割を回路・ 細胞レベルで明らかにすることを目指しています。スタッフや学生と共同で、匂い刺激へのキノコ体神経の応答を2 光子顕微鏡と蛍光インジケータを用いたライブイメージングによって解析しています。記憶形成を担う神経可塑性の 原理に迫るための足がかりとなるような仕事を残せるよう、鋭意努力していく所存です。最後になりますが、第一線 の研究者が集い、充実した設備・環境が整った分生研で、引き続き研究に携わる機会をいただけたことに感謝いたし ます。まだまだ未熟ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。 先導的研究教育プログラム 助教 飯田哲史 2015年4月1日付けで、エピゲノム疾患研究センター・ゲノム再生研究分野(小林武彦教授 研究室)の先導的研究教育プログラム助教として着任致しました、飯田哲史と申します。よろ しくお願い申し上げます。 私は、総合研究大学院大学・生命科学研究科(国立遺伝学研究所、荒木弘之教授)にて学位 取得後、ポスドクとして理化学研究所CDB(中山潤一 チームリーダー:現 名古屋市立大学 教授)とハーバード大学(Danesh Moazed教授)にて分裂酵母における短鎖RNAを介したヘ テロクロマチン形成機構の研究を行ってきました。2008年の留学からの帰国を期に、小林武 彦教授の研究室(前所属:国立遺伝学研究所細胞遺伝研究部門)に加わり、出芽酵母を用い てゲノム安定性維持についての研究に取り組んで現在に至ります。小林研究室は、ゲノム安定 性維持と細胞老化の関連性に注目し、ゲノム内で最も不安定とされるリボゾームRNA遺伝子 (rDNA)リピート領域を中心に研究を行っています。小林先生の独創的で興味深いアイデアから多くの刺激を受け研 究をすすめる中で、私は通常の細胞周期でも起こる内因性のゲノム損傷という一見地味な現象を捉えるべく、高速シー クエンサーを用いた内因性のゲノム損傷の検出・定量法開発を中心に研究を行っています。 このたび、分生研というすばらしい環境で研究する機会を頂き身が引き締まる思いです。不慣れな点も多く、ご迷 惑をおかけすることが多々あろうかと思いますが、どうかご指導頂けますようお願い申し上げます。 11 先導的研究教育プログラム 助教 伊藤桜子 2015年4月1日付けで、蛋白質複合体解析研究分野にて先導的研究教育プログラムの助教と して採用して頂きました伊藤桜子と申します。私は東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 の横山茂之研究室において、RNA修飾酵素の反応機構についての構造解析で学位を取得しま した。博士課程在籍中には、結婚を機に1年半休学して、Harvard Medical Schoolで技術員と して勤務しました。復学して学位を取得した後、横山研でのポスドクを経て、2010年9月より 放射光連携研究機構(兼当分野)の特任助教として、細胞内輸送を制御する膜タンパク質につ いて研究してきました。分生研に来てあっという間に4年半が過ぎてしまったこの折、先導的 研究教育プログラムの助教として研究する機会を頂き、身の引き締まる思いです。現在は、細 胞内輸送に関わる他の因子や、神経細胞におけるRNAの制御因子などの研究も行っています。 私は、学生時代から今に至るまでずっと立体構造解析を専門に研究しています。立体構造解 明の瞬間や、立体構造から明らかになる分子機構には毎度興奮させられます。数多くの生体分子の立体構造が解明さ れているとは言え、真核生物の高次機能を担っている複雑なシステムについてはまだ多くの部分が未解明です。今後 は、分生研の素晴らしい先生方のお力添えを頂き、真核生物の精巧な生体システムの解明に少しでも近づくような研 究を進めていきたいです。今後ともどうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。 先導的研究教育プログラム 助教 木戸丈友 4月より、発生・再生研究分野で先導的教育研究プログラム助教に着任しました木戸丈友と 申します。私は3月まで4年間、宮島篤教授ご指導のもとポスドク、特任助教として、分生研 で研究する機会を与えていただいております。宮島研は、肝臓の発生過程、肝障害からの再生 機序そして様々な肝疾患の発症メカニズムに焦点をあて研究を行っています。私はこのような 基礎研究の知見を、いかに応用研究へと発展させるか、さらにそこから、新しい研究のシーズ を発見することで生命現象の一端を解明していきたいと考えております。 分生研は、研究環境はもちろんのこと、幅広い分野においてその世界をリードされている先 生方やいつも丁寧でプロフェッショナルなサポートを提供して頂いている事務職、技術職の 方々から構成されるすばらしい研究所だと思います。このような環境で仕事をさせて頂くこと に感謝するとともに、今後は、分生研の発展に少しでも貢献出来るように努力していく所存で す。引き続き、ご指導ご鞭撻の程どうぞよろしくお願い申し上げます。 先導的研究教育プログラム 助教 金 智慧 2015月4月1日付けで、染色体動態研究分野(渡邊研究室)に助教として着任致しました金 智慧と申します。私は博士1年から現研究室に入室し、今年で研究室生活の6年目を迎えま す。ソウル大学大学院修士課程在学中に哺乳動物の卵細胞を使った実験をおこなっていた経験 から、減数分裂の分子メカニズムを研究したいと思うようになり、分生研渡邊研究室にお世話 になることを決めました。その後の5年半の間の大学院生活では、分子生物学の基本や基礎研 究の面白さなど、本当に多くのことを学ぶ機会をいただき大変感謝しております。 研究内容としては、本研究室で同定されていたマウス減数分裂期特異的に動原体に局在する 新規タンパク質であるMEIKINの機能解析を行いました。その結果、このタンパク質に欠損を もつマウスの生殖細胞では、減数第1分裂の染色体分配の過程で異常が発生して、正常な染色 体数をもつ卵子および精子の産生が起きないことが判明しました。そして今年にこの成果を論 文にまとめることが出来ました。 本年度からも研究を志した頃の気持ちを忘れずに、研究を進めていく過程で自分自身も成長できるよう努力を重ね ていきたいと思います。分生研の皆さまには、これまでにさまざまな面でご迷惑をおかけし、また多くのことを教え ていただきました。どうか今後も変わらぬご指導をいただけますようお願いいたします。 12 事務長 加藤貴彦 植田前事務長の後任として着任いたしました加藤貴彦と申します。 岩手県二戸(にのへ)市という田舎町の出身です。二戸市は東北地方の北国であり、夏が短 く、旧盆が過ぎる頃には涼しくなり始めます。冬の積雪量はそれほどでもありませんが、2月 の最低気温は氷点下10度以下になることもあります。近隣では八戸市が比較的有名ですが、こ のあたりは一戸町から始まり、二戸市、三戸町、……と馬蹄形に廻り、一戸から九戸まである 旧南部藩の一地域です。よく東北地方の人は粘り強いと言いますが、私の場合、近年の都会生 活に順応し(?) 、臨機応変になってしまったようです。 東北出身ということもあり、最初は東北大学に採用していただきました。その後、創設期の 放送大学を経て、東京大学の医学部附属病院、庶務部(当時)、研究協力部(当時)等で勤務 させていただき、前職は法務課長を務めました。これまで法務関係の勤務経験が多く通算で10 年近くになります。法務課では皆様ご案内のとおり、学内規則の制定・改正や裁判への対応等を行っており、近頃で はコンプライアンスに関する業務の割合が増加しております。 4月から分生研でお世話になっておりますが、私は、部局での経験が少なく、研究所の勤務は初めてとなります。 これまでの業務と異なり少し戸惑うこともありますが、分生研のガイダンス、研究倫理セミナー等に参加させていた だき、教職員の皆さんの熱心さや学生の方々の熱意を感じ、仕事に対する意識が高揚しております。もとより微力で はありますが、私も分生研の一助となるべく務めていきたいと強く思念しておりますので、今後とも、どうぞよろし くお願いいたします。 13 訃 報 丸尾文治 名誉教授 本学名誉教授 丸尾文治先生 は本年1月5日にご逝去 されました。享年98歳でした。 先生は、昭和15年3月東京帝国大学農学部農芸化学科 を卒業、昭和16年3月同学科生物化学教室副手、昭和21 年6月同助手に任ぜられ、昭和25年3月東京大学農学部 助教授、昭和28年応用微生物研究所創設にともない同研 究所に配置換、昭和31年8月より昭和33年6月までアメ リカペンシルバニア州立大学に留学された後、昭和33年 8月同教授に昇進し、昭和53年4月定年に至るまで、応 用微生物研究所第5研究部(酵素)主任ならびに大学院 農学系および理学系(および旧制化学系および生物系、 以下同じ)研究科担当教官として学術研究に従事し、教 育指導に当たられました。この間、応用微生物研究所長 および東京大学評議員(昭和45年11月より翌8月) 、大 学院理学系および農学系研究科委員会委員、理学系生物 化学課程主任、東京大学放射性同位元素委員会委員、総 合研究資料館運営委員会委員、改革委員会(教官)委員 等を歴任し、学内行政に尽力されました。また、九州大 学農学部をはじめ多くの他大学の大学院および学部の講 師を併任し、東京大学外の教育にも貢献されました。昭 和53年東京大学定年退職後は同学名誉教授の称号を授与 され、ひきつづき日本大学農獣医学部農芸化学科教授、 同学部次長を歴任されました。昭和63年より平成7年に は埼玉第一高等学校(現開智高等学校)の校長も努めら れています。この間日本の生化学、分子生物学、農芸化 学など生命科学の中枢分野の重鎮として研究、教育に多 くの貢献をされたことは広く認められています。 研究面の業績では、微生物の酵素に関する分子生物学 および遺伝学的な先駆的な研究によって学界に大きな寄 与をなし、バイオテクノロジーの基礎をなす遺伝子工学 のパイオニアとして日本のみならず国際的にも高い評価 を受けています。とくに枯草菌の菌体外酵素の生成およ びその遺伝的制御の機構について重要な知見を蓄積する とともに、α-アミラーゼの産生量を制御する7種の遺 伝子を見出し、それらを細胞内で組み合わせることによ り数千倍の高生産性を実現されました。この研究はバイ オサイエンスの基礎的研究としてその独創性が内外に高 く評価されました。これらの業績に対して昭和51年には 日本農芸化学鈴木賞が授与されましたが、これらの基礎 的研究は応用面においてもバイオテクノロジーによる有 用物質生産への指標を与えたものとしてその先駆的業績 に対して注目されたものです。これらの研究の他にでん ぷんの生成及び分解に関する一連の酵素化学的研究、細 菌の細胞質膜標品によるβ-ガラクトシダーゼの誘導合 成の解析などの優れた業績があります。さらに、特筆す べきは生体に普遍的で必須なりん脂質、ホスファチジル グリセロールの発見です。ホスファチジルグリセロール の生物体における役割は長く推測の域を出ませんでした が分子生物学の急速な発展によって細胞内における中心 的情報伝達反応であるシグナル・トランスダクションの 機構が明らかになるにつれ本発見の重要性について認識 が新たになりました。これらの先駆的・独創的研究の他 にまた、放射性同位元素の生化学研究への応用について、 わが国で指導的な役割を果たされました。 一方、学外にあっては、日本生化学学会会長をはじめ、 日本農芸化学会、日本アイソトープ協会、日本植物生理 学会など諸学協会の役・委員、学術審議会専門委員、日 本学術会議生化学研究連絡委員会委員、諸国際会議組織 委員会委員などを歴任し、学会の振興に貢献されました。 以上のように、長年に亘り多くの優れた研究業績を挙 げられ、同時に我が国及び世界で活躍する新しい生命科 学、バイオサイエンスの第一線級の指導的研究者を多数 育成、輩出せしめたことはあまねく認められていること で特筆に値します。このように広く我が国の学界、教育 界の指導者としてその発展に寄与されており、その功績 はまことに顕著なものがあり、平成2年には勲三等旭日 中綬章を授与されました。 そのすばらしいご功績を偲びつつ、ここに謹んで先生 のご冥福をお祈り申し上げます。 14 おめでとう!大学院博士・修士課程修了者 平成26年度をもって大学院博士課程及び修士課程を修了された方々と論文タイトルは以下のとおりです。 長い間の研究活動の結実、おめでとうございます。 染色体動態研究分野 博士課程 金 智慧 農学生命科学研究科 「Novel protein MEIKIN regulates meiosis I specific kinetochore function in mouse」 (新規タンパク質MEIKINは マウスの減数第一分裂特異的な動原体の機能を制御する) 修士課程 川村 美雪 理学系研究科 「ICSネットワークを制御する分子機構の解析」 分子情報研究分野 博士課程 杉政 宏信 理学系研究科 「大腸癌細胞の造腫瘍性における長鎖非コードRNA UPAT の役割」 発生・再生研究分野 博士課程 尾見 歩惟 理学系研究科 「IL-15によるLy6ChighNK細胞の再活性化」 (Ly6Chigh natural killer cells can be reactivated by IL-15) 谷貝 知樹 理学系研究科 「肝線維化と再生におけるSemaphorin 3Eの役割」 (Role of Semaphorin 3E in liver fibrosis and regeneration) 佐藤 郁 新領域創成科学研究科 「オンコスタチンMによる骨髄造血環境の制御機構の解明」 金子 洸太 理学系研究科 「胆管系三次元組織構造の適応的リモデリング」 (Adaptive remodeling of the biliary architecture) 平岡 巧士 理学系研究科 「癌幹細胞の造腫瘍性に関わる因子の探索とその機能解析」 修士課程 岡田 甫 理学系研究科 「転写因子Krüppel-like factor 5を軸とした細胆管反応制御メ カニズムの解析」 宮本 昌弥 理学系研究科 「大腸癌の腫瘍形成能に関わるノンコーディングRNAの探索 及び機能解析」 松井 理司 理学系研究科 「Biliary Tree Stem/Progenitor Cell(BTSC)の単離・同定 法と評価系の構築」 髙井 弘基 農学生命科学研究科 「5-Hydroxymethylcytosine Plays a Critical Role in Glioblastomagenesis as an Epigenetic and Epitranscriptomic Regulator」 小髙 晃弘 新領域創成科学研究科 「ヒトiPS細胞から膵島への分化誘導系の改良」 土屋 光 農学生命科学研究科 「質量分析計を用いたユビキチンシグナルの網羅的解析」 修士課程 里 智博 理学系研究科 「5hmC認識タンパク質CHTOPの膠芽腫における機能解析」 林 里奈 理学系研究科 「大腸がんにおけるSSRP1の発現制御機構及び細胞増殖抑制 への関与について」 宮澤 亜衣 農学生命科学研究科 「RNA結合タンパク質D8による代謝・細胞老化制御機構の解 析」 小宮 美文 理学系研究科 「Wnt/c-Mycによる新たな大腸癌発症機構の解明 」 礒瀬 翔 理学系研究科 「大腸がんの造腫瘍性に関わる新規non-coding RNAの機能解 析」 アグリウシュ ボロトベク 理学系研究科 「p53のがん抑制機能に関与するアセチル化サイトの解析」 真家 進吾 新領域創成科学研究科 「肝幹/前駆細胞の分化・増殖を制御するメカニズムの解明」 生体有機化学研究分野 修士課程 小針 孝夫 薬学系研究科 「マルチテンプレート手法による胆汁鬱滞性疾患治療薬を指 向したリガンド創製」 平松 道晶 薬学系研究科 「分子構造の曲線化による生理活性物質の溶解度向上」 福田 寛充 薬学系研究科 「Niemann-Pick病C型 治 療 を 指 向 し た 非 ス テ ロ イ ド 型 pharmacological chaperoneの創製研究」 RNA機能研究分野 修士課程 大籠 健司 新領域創成科学研究科 「ゼブラフィッシュにおける母性mRNA分解のスイッチ機 構」 Baeg Kyungmin 新領域創成科学研究科 「 植 物 の 小 分 子RNA増 幅 に 関 わ るRNA依 存 的RNAポ リ メ ラーゼの機能解析」 15 膜蛋白質解析研究分野(豊島研究室) 修士課程 内山 智哉 農学生命科学研究科 「低濃度Ca2+存在下で形成されるCa2+-ATPase結晶の構造解 析」 心循環器再生研究分野 修士課程 坂内 千夏 理学系研究科 「心臓前駆細胞抗原Flk1+心筋の局在とその特異な機能」 森下 環 理学系研究科 「性特異的miR-139の心筋における分子機構解析」 ゲノム情報解析研究分野 修士課程 石橋 舞 農学生命科学研究科 「ゲノムワイド解析によるコヒーシンアセチル化酵素の染色 体上動態の理解」 16 次代のホープ達 ◆ 分生研卒業生進路紹介 ◆ 平成26年度に博士課程及び修士課程をご卒業された方々の進路をご紹介します。(同一研究科進学を除く) 染色体動態研究分野 生体有機化学研究分野 博士卒 修士卒 進 寛明(理学系研究科) :中外製薬株式会社 小針 孝夫(薬学系研究科):日本生命保険相互会社 平松 道晶(薬学系研究科) :独立行政法人 医薬品医 療機器総合機構 分子情報研究分野 福田 寛充(薬学系研究科):株式会社コンシスト 博士卒 杉政 宏信(理学系研究科) :佐藤製薬株式会社 平岡 巧士(理学系研究科) :デンカ生研株式会社 膜蛋白質解析研究分野(豊島研究室) 宮本 昌弥(理学系研究科) :第一三共株式会社 修士卒 髙井 弘基(農学生命科学研究科) :日本学術振興会特 内山 智哉(農学生命科学研究科):株式会社資生堂 別研究員PD(ハーバード大学留学) 土屋 光(農学生命科学研究科) :東京都医学総合研 究所研究員 心循環器再生研究分野 修士卒 修士卒 坂内 千夏(理学系研究科):シミック株式会社 里 智博(理学系研究科) :タタコンサルタンシーサー 森下 環(理学系研究科):アサヒビール株式会社 ビシズ株式会社 林 里奈(理学系研究科) :株式会社常陽銀行 宮澤 亜衣(農学生命科学研究科) :株式会社ナチュラ ルキッチン 小宮 美文(理学系研究科) :GCAサヴィアン株式会社 礒瀬 翔(理学系研究科) :大和証券株式会社 発生・再生研究分野 博士卒 尾見 歩惟(理学系研究科) :東京理科大学生命医科学 研究所 助教 谷貝 知樹(理学系研究科) :National Cancer Institute, National Institutes of Health, USA 佐藤 郁(新領域創成科学研究科) :分生研 特任研究 員(9月よりPDとしてThe Rebecca & John Moores Cancer Center, UCSD 予定) 金子 洸太(理学系研究科) :分生研 特任研究員(9 月よりPDとしてDepartment of Pathology, UCSD 予定) 修士卒 小髙 晃弘(新領域創成科学研究科) :株式会社日立メ ディコ 真家 進吾(新領域創成科学研究科) :株式会社SRD 17 平成26年度 分生研セミナー一覧 平成26年5月16日 講師:横山 明彦 准教授 京都大学 医学研究科 メディカルイノベーションセンター 演題:MLL fusionが白血病を引き起こす分子メカニズム 平成26年6月20日 講師:高橋 秀尚 博士 北海道大学 大学院医学研究科 医学専攻 role for Human Mediator Subunit Med26 in Transcription 演題:A Elongation 平成26年6月20日 講師:Ali Shilatifard, PhD Investigator, Stowers Institute for Medical Research 演題:Enhancer Malfunction in Cancer 平成26年7月28日 講師:堀田 秋津 博士 京 都大学 iPS細胞研究所 初期化機構研究部門 主任研究員 演題:ゲノム編集技術を用いたiPS細胞での遺伝子治療 平成26年7月30日 講師:Prof. Hironori Funabiki The Rockefeller University, New York, USA 演題:Dissecting the roles of nucleosomes during mitosis 平成26年8月26日 講師:神谷 之康 博士 ATR脳情報研究所 神経情報学研究室 室長 演題:脳から心を読む技術‒脳情報デコーディング 平成26年9月5日 講師:宮川 剛 博士 藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 システム医科学研 究部門 教授 演題:遺伝子・脳・行動:遺伝子改変マウスを用いた研究 平成26年9月9日 講師:Gen-Sheng Feng, Ph.D. Professor, Pathology and Biology, UC San Diego 演題:Shp2, Bile Acid Signaling and Liver Cancer 平成26年9月18日 講師:吉田 松生 博士 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門 教授 演題:マウス精子形成を支える幹細胞の究明 平成26年9月24日 講師:Kyoko Yokomori, Ph.D. Professor, Dept. Biological Chemistry, School of Medicine, Univ. California, Irvine 演題:Cohesin and its loading factor NIPBL: chromatin regulation and human disease 平成26年10月1日 講師:戎家 美紀 博士 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 再構成 生物学研究ユニット ユニットリーダー JSTさきがけ 研究員(兼任) 演題:細胞間に非対称性を生みだすしくみの再構成 平成26年10月15日 講師:Markus Grompe, M.D. Professor of Departments of Pediatrics and Molecular and Medical Genetics, Oregon Health & Sciences University 演題:The amazing hepatocyte: Master of disguise and adaptation 平成26年11月7日 講師:Dr. Daisuke Izawa Gurdon Institute, University of Cambridge, Cambridge, UK 演題:T he Mitotic Checkpoint Complex inhibits second Cdc20 to discriminate Anaphase Wait Signal 平成26年11月14日 講師:Fumiko Esashi, Ph.D. Wellcome Trust Senior Research Fellow Sir William Dunn School of Pathology, University of Oxford 演題:The Rad51 recombinase: how, when, where does it act? 平成26年11月17日 講師:柳谷 朗子 博士 マギル大学、生化学講座、モントリオール、カナダ 演題:膵 β細胞におけるグルコース応答性インスリン生合成の翻 訳制御の解析 平成26年11月20日 講師:平本 正輝 博士 C line Lab, Department of Molecular and Cellular Neuroscience, The Scripps Research Institute, La Jolla, CA 演題:Temporo-Spatial transformation in visual map plasticity: 入力依存的なマップ形成における空間情報の暗号化 平成26年11月21日 講師:Dr. Neil Hunter D epartment of Microbiology and Molecular Genetics, Howard Hughes Medical Institute, University of California, Davis, U.S.A. 演題:L ocal and Global Regulation of Meiotic Prophase by PostTranslational Protein Modification 平成26年11月28日 講師:麻生 能功 博士 Rubin Lab, Janelia Research Campus 演題:E nsemble of mushroom body output neurons encode the valence and guide memory-based action selection 平成26年12月3日 講師:Mark Behlke MD, PhD Chief Scientific Officer, Integrated DNA Technologies, Inc. 演題:S ynthetic nucleic acid products for use in the most advanced molecular biology applications. 平成26年12月11日 講師:大久保 和央 ジェノスタッフ株式会社 技術開発部 演題:組織染色と問題点と応用 平成26年12 月18日 講師:Masashi Narita, MD. PhD. Group Leader, Cancer Research UK Cambridge Institute, University of Cambridge 演題:Gene regulation in cellular senescence 平成27年1月9日 講師:三戸 芳子 博士、FACMG ワシントン大学(セントルイス)医学部 病理免疫学科アシスタント・プロフェッサー 細胞遺伝学・分子病理学診断室アソシエイト・ディレクター 演題:ゲノム医療の時代の遺伝子診断 平成27年2月5日 講師:Dr. Steven Hayward School of Computing Sciences, University of East Anglia, Norwich, UK 演題:Tools for interacting with biomolecules using a haptic device 平成27年2月13日 講師:Shintaro Iwasaki Ph.D. Department of Molecular and Cell Biology, University of California, Berkeley, USA 演題:R ocaglamide A converts RNA helicase eIF4A into a sequence-specific translational repressor 18 平成26年度 プレスリリース一覧 平成26年9月26日 発表者:計算分子機能研究分野 准教授 北尾 彰朗 他 「生理的に重要なイオンを運ぶ通り道TRPV4の新 発表タイトル: たな制御機構を解明~脂質膜とタンパク質が相互 作用、病気の解明や創薬に期待~」 平成26年1月9日 発表者:染色体動態研究分野 講師 作野 剛士(当時)、教授 渡邊 嘉典 「生殖細胞での遺伝子組換えのメカニズムの一端を 発表タイトル: 解明」 平成26年10月3日 発表者:RNA機能研究分野 教授 泊 幸秀 「microRNAがタンパク質合成を抑制するしくみを 発表タイトル: 解明」 平成26年2月17日 発表者:蛋白質複合体解析研究分野(放射光連携研究機構) 准教授 深井 周也、助教 佐藤 裕介 「癌抑制タンパク質がポリユビキチン鎖を切断する 発表タイトル: メカニズム」 平成26年10月3日 発表者:分子情報研究分野 教授 秋山 徹、博士3年 高井 弘基(当時) 「最悪性脳腫瘍細胞が腫瘍をつくる仕組みを解明」 発表タイトル: 平成26年12月25日 発表者:染色体動態研究分野 教授 渡邊 嘉典 発表タイトル: 「生殖細胞の染色体分配様式をつくりだす要のタン パク質を発見 ~酵母からヒトまで保存されていることが判明~」 平成26年3月3日 発表者:ゲノム情報解析研究分野 助教 泉 幸佑、教授 白髭 克彦 発表タイトル: 「肥満と低身長が特徴の新たな希少遺伝病を発見 AFF4遺伝子が発育・体重増加をコントロール」 平成26年3月31日 教授 泊 幸秀 他 発表者:RNA機能研究分野 助教 佐々木 浩、 「RNAiの謎に1分子観察で迫る 複合体「RISC」 発表タイトル: がつくられる過程を分子レベルで解明」 分生研研究倫理セミナー 平成27年1月8日(木)と平成27年6月8日(月)に分生研研究倫理セミナーをそれぞれ下記のとおり行いました。 ○平成27年1月8日(木) 平成26年度第3回分生研研究倫理セミナー ゲノム情報解析研究分野 白髭克彦教授 ・「捏造と精神の荒廃」 ・「研究不正の防止は、適切なデータの取得から」 東京工業大学大学院生命理工学研究科 木村宏教授 ・「Research Integrityを考える」 国立遺伝学研究所微生物遺伝研究部門 荒木弘之教授 ・「顕微鏡画像の取扱いについて」 オリンパス株式会社/ TOBIC 幸村心元様・丸山俊弘様 ○平成27年6月8日(月) 平成27年度第1回分生研研究倫理セミナー 〈セミナー〉 ・「研究倫理について考える―STAP騒動から学んだこと―」 ゲノム再生研究分野 小林武彦教授 ・「研究のこころがけ―研究不正を疑われないために―」 RNA機能研究分野 岩川弘宙助教 ・「確率:数字の捉え方」 ゲノム情報解析研究分野 泉幸佑助教 ・「IMAGEPROCESSINGFORSCIENTIFICPUBLICATION」 分子機能形態研究分野 寺井健太特任助教 〈研究交流会〉 各研究室の学生やポスドク等によるポスター発表(フラッシュトーク1分を含む)を実施 19 平成26年度 分子細胞生物学研究所 技術職員研修 開催報告 神経生物学研究分野 前山 有子 画像が変化するのかを実際に体験することができま した。また、補正を行う上での注意点や微弱な蛍光 平成26年12月16日(火) 、東京大学分子細胞生物 観察、多色イメージングにおけるクロストークの除 学研究所―オリンパス―バイオイメージングセン 去、超広視野撮影、タイムラプス撮影など、多岐に ター(TOBIC) (生命科学総合研究棟303号室)に わたる詳細な説明をしていただきました。それぞれ お い て、 平 成26年 度 分 生 研 技 術 職 員 研 修 と し て の目的にあった機器・レンズを選ぶことで、これま 「TOBIC講習会」が開催されました。 での作業を軽減化し、より美しい写真を撮ることが TOBICは、オリンパスと分子細胞生物学研究所 できるとわかり、今後の業務において非常に意義の によって共同利用されているセンターです。TOBIC ある研修となりました。 では、トレーニングを受け、管理委員会規程に準じ 本研修の開催にあたり、講義・実習を快く引き受 た使用料を支払うことで最新機器を使用することが けていただきました、元TOBIC担当の梶田結衣氏、 出来ることから、2014年7月1日に開所して以来、 オリンパス(株)幸村心元氏と丸山俊弘氏に、この場 分生研の多くの研究室で利用されてきました。 をお借りして深くお礼を申し上げます。 技術職員もTOBICの最新機器を知ることで、技 術支援や資質の向上を図りたいと考え、平成26年度 の技術職員研修として、その概要説明と顕微鏡の原 理、操作方法について学ぶこととなりました。 前半の講義では、TOBIC設置機器と特徴を、特 に共焦点レーザ顕微鏡FV1200とライブセルタイム ラプスシステムIX83に関してお話しいただきまし た。また機器の使用にあたり、その流れと注意につ いて説明していただきました。 後半の実習では、普段取り扱っているサンプルを 持ち寄り、顕微鏡観察を行いました。顕微鏡やレン ズを変えたり、補正をしたりすることでどのくらい 20 平成26年度 医学部・医科学研究所・分子細胞生物学研究所 合同技術発表会を終えて 膜蛋白質解析研究分野 杖田 淳子 展を実際の画像・動画を交えてご講義頂きました。 特に動画は、生きた微生物の小器官を染色なしに細 平成27年3月12日(木)、分子細胞生物学研究所 胞骨格中を何かが運搬される様子まで高精細に捉え 本館1階102会議室において平成26年度「医学部・ られていることに驚き、「名人芸が無くともここま 医科学研究所・分子細胞生物学研究所合同技術発表 で撮れる時代」とのお言葉を実感しました。 会」が行なわれました。昨年度より3部局で開催し 当日は24名の教職員・学生の皆様のご参加を頂 ている本会は、技術職員が日頃の業務を広報し、相 き、普段は接点のない研究所の様子を知ることが出 互交流を図ることを目的としており、今年度は各部 来る良い機会となりました。貴重なご質問、ご意見 局から2名ずつ発表しました。 を頂き、技術職員一同それらを生かし、更なる技術 発表内容は、学術研究の成果や研鑽のため参加し 力向上に努めたいと思います。 た技術研修に加え、動物実験施設の運営や一般見学 開催にあたり多大なご協力を頂いた秋山徹分生研 者への対応業務の報告など多岐に渡りました。研究 所長、多羽田哲也分生研副所長および白髭克彦分生 や研修の内容は高度で最先端なテーマが多く、iPS 研技術部長と、全ての参加者の皆様に深い感謝の意 細胞や危険ドラッグに関するものなど分野違いで を述べると共に、今回の発表会のご報告と致します。 あっても話題としてはよく知っていて、実際に携 わっている人から論文等には出てこない苦労などが 聞けると、興味深いものがありました。また、医学 部の動物実験施設では動物種・個体数共にかなりの 数を、それぞれに飼養や繁殖までも工夫しながら行 なっている様子がよく分かり、教室系技術職員の立 場としては、日頃は担当の方に頼りきりの業務内容 を垣間見ることが出来、今後機会があった場合に大 いに役立つと思います。 今回は、特別講演として分生研・神経生物学研究 分野 教授 多羽田哲也先生をお招きし、ご専門の脳 神経研究と絡めながら顕微鏡の歴史と周辺技術の発 21 研究室名物行事 生体有機化学研究分野 谷内出友美 この度、分生研ニュース 研究室名物行事に執筆 音頭で始まり、弾む会話と美味しいお酒で久々の再 するという貴重な機会を頂き誠にありがとうござい 会を楽しみました。途中、栄転された松本洋太郎先 ます。私自身、この研究室名物行事に執筆するのは 生(現 東北大学講師)、三澤隆史先生(現 国立 2度目になります。10年程前に一度執筆させて頂い 衛生研究所研究員)の退任のご挨拶および藤井晋也 た時は、毎年恒例の研究室旅行(函館編)について 先生、山口卓男先生の新任のご挨拶も頂戴しました。 書かせて頂きました。今回依頼を受けた際、瞬間的 会の最後に、めでたく還暦を迎えられた橋本教授か には当研究室特有の行事が思いつかず、今回も恒例 ら生体有機の歴史を含む有り難いお話を頂戴したの の研究室旅行もしくはここ何年か継続して毎冬に ですが、その際、岩崎成夫教授退官前の同窓会を『8 行っている有志の野沢温泉スキー旅行について書か 研の会』、その後の同窓会を『生体有機の会』と名 せて頂こうかと思いました。しかし、良いアイデア 付けることが正式に発表され、初代会長(世話役) を頂き、名物行事として当研究分野の同窓会であり に各々小林久芳先生および私が選出されました。こ ます『8研の会』を紹介することに致しました。 の日は久々の再会ということで話し(飲み!?)足 生体有機化学研究分野は、応用微生物学研究所 りなかったのか、出席した多くの卒業生達が研究室 第8研究部に端を発します。初代教授に、フグ毒と に戻り、宴は夜遅くまで続きました。ちなみに、橋 して知られるテトロドトキシンを単離し、化学構造 本教授への還暦祝いは、卒業生により画かれた先生 を決定したことで有名となった津田恭介先生が就 の似顔絵とサリドマイドの構造式入りのおちょこで 任、第2代目教授 奥田重信先生、第3代目教授 (写真をご参照下さい)、これは記念品として出席者 岩崎成夫先生と続き、現在の橋本祐一先生は第4代 全員にも配られ、みんなの一生の宝物となることと 目の教授になります。昭和30年に津田先生が初代教 思います。このおちょこにご興味のある方は、ぜひ 授に就任以来、約60年の歴史があり、卒業生は300 生体有機までお越し下さい! 名を超します。新旧卒業生が交流を深める場として 今回は名物行事として当研究分野の同窓会をご紹 『8研の会』と呼ばれる同窓会があり、定期的に開 介致しました。私も卒業生の笑顔をいつまでも見た 催されております。出席者は日本各地からご参集下 いので、集まりた さるのですが、会によってはアメリカなど海外で活 いと願う人がいる 躍している卒業生がご参加下さることもあります。 限り卒業生の一人 ここ最近は○○先生を偲ぶ会、○○先生退職記念の であり世話人の一 会などの名目で開催されておりました。 人としてこの会の 本日は、今年初めに開催された『8研の会〜若手 存続に貢献する所 の会〜』の様子を紹介させて頂きます。今回の会 存です。 は、橋本祐一先生の還暦のお祝いおよび歴代准 教授を囲む会として開催されました。ここに掲 載されている写真がその時の集合写真なのです が、当日は歴代准教授として袖岡幹子先生(現 理研主任研究員) 、長澤和夫先生(現 農工大教 授) 、宮地弘幸先生(現 岡山大教授)がご出席 され、この他日本全国から70名程の卒業生およ び現役生が集いました。宴は袖岡先生の乾杯の 22 ドクターへの道 松村 厚佑 分子情報研究分野 博士課程3年 私が博士過程進学をぼんやりと頭の片隅で考え始 生でした。秋山先生の器の大きさと、秋山研究室の めたのは大学入学後だったと思います。きっかけは 方々の優しさにより博士課程へと進学することがで 研究者への憧れでした。当時、試行錯誤を繰り返し きたわけですから、人生何が起こるかわからないと て実験し、新たな発見をするという研究サクセスス いうことを痛感しています。しかし、研究室が変わっ トーリーが面白く、研究者の人生を書いた本を沢山 たことでがんの研究に携わることになり、未知の生 読んでいました。特に、分野にこだわりは無く、物 命現象の塊のような病気と向き合って研究する機会 理学者や化学者の本も読みました。本を読むうちに を得られて良かったと今では思います。 形成された研究者への憧れは、自分も憧れる研究者 さて、いざ研究に携わってみてですが、自ら考え のように自らの手で実験し、未知のことを明らかに 試行錯誤しながら実験を積み重ねていくことは楽し したいという気持ちに変わっていきました。修士の い反面、思うようにいかないことも多く苦しいとい 大学院試験を受ける前には、そのまま博士過程へ進 うのが感想です。研究の厳しさを知るにつれて、憧 学することに対して全く違和感を感じなくなってい れの研究者達が持っていたであろうと思われる科学 たように思います。 への執念がどれほど大きなものだったかということ また、沢山の研究分野の中から、なぜ生命科学の を感じます。研究における新しい楽しみの発見もあ 道を志したかというと、自分自身はヒトであり単純 りました。それは、論文や学会と通して目の覚める に生命現象を理解することに興味があったからとい ような面白い他の人の研究を読んだり、聞いたりす うことと、学問の進歩が病気の治療へ応用出来ると ることです。世界中の誰もまだ知らない現象を自分 いう点に魅力を感じたからです。とりわけ、分子生 の手で明らかに出来るということも研究者としての 物学が病気の原因をエレガントに説明出来ること 楽しみですが、普段自分が疑問に思っていることを、 や、試験管内で再現した生化学反応を用いて様々な 独創性溢れるアイディアを使って明らかにした研究 生理現象が引き起される原因を突き止めることが出 を聞くことが出来るということも研究生活の醍醐味 来るということに深く感動を覚えました。 であるように思います。 こうした気持ちを抱え分生研に来てドクターへの 時間が経つのは早く、ついこの間分生研に来たと 道をスタートさせました。しかし、青天の霹靂。詳 思っていたら博士過程3年になっていました。光陰 しいことはここでは書けませんが、なんと私が所属 が矢の如く胸に突き刺さりそうです。残された時間 していた研究室が修士一年の時に突如消滅したので を大切にして後悔しないように研究を頑張っていき した。出鼻を挫かれ途方にくれている私に蜘蛛の糸 たいと思います。 の如く救いの手を差し伸べてくださったのが秋山先 23 留学生手記 放射光連携研究機構 特任研究員 TAKAHASHI はじめまして、深井研のTakahashi Tomioと申し ます。私はフランスの出身で、博士号はパリで取得 しました。その後ポスドク研究員としてイギリスに おりましたが、2012年4月に、イギリスから東京に 来ました。父が日本人なので日本のことはすでに 知っていましたが、引越しのときは大変でした。フ ランスの食べ物は買えなかったし、不動産屋は外国 人が嫌いなようでしたし、日本語は全然わかりませ んでしたから、フランスに帰りたいと思いました。 でも少しずつですが、日本に住み慣れてきました。 日本の食べ物を楽しんでいますし、いい住まいが見 つかりましたし、……でも日本語はあまり上達しま せんでした。 今は日本がとても好きです。地下鉄はいつも時間 通り来るし、食べ物はおいしいし、日本人は穏やか です。私はフランスではおしゃべりでしたが(妻に “いつもうるさい”と言われていました)、日本人 とあまりしゃべることができません。日本人とは距 離があると感じて、私の日本語が悪いからかと最初 はちょっとさびしかったです。しかし今は同僚と話 して楽しい時があります。東大の学生とはサッカー TOMIO SAMUEL をしますし、時々日本人と日本語で話します。あま りわかりませんけど楽しいです。 私の目から見ると日本人はまったく違う人たちで す。納豆を食べられるとか、コスプレが好きとか、 ……どこでも寝られるとか。フランスにも時々電車 で寝ている人がいますが、日本では半分以上の人が 座った直後に寝ます。ある日、立ったまま寝ている 人を見ました。すごいバランスでした。仕事の時も 会社員は昼寝をします。フランスにもセミナー中に 時々寝ている研究員がいますが、日本の研究員は素 晴らしいです。フランスの研究員は寝ているとき、 頭が横か前に落ちます。腕は骨なしになっています。 よだれも出てきます。日本の研究員は寝ているとき、 頭がまっすぐです。体全部で「ちゃんと聞いていま す」と言っていそうです。時々寝ているのに起きて いるように見えることもあります。「毛利 小五郎」 (名探偵コナンの漫画に出てくる)のような眠り方 は、ぜひ習得したいものです。私は、漢字の勉強に もなるので、日本でセミナーに出ているときには寝 ません。でもヨーロッパに帰ったあとは、「毛利小 五郎」の眠り方のテクニックを使いたいです。 研究室のメンバーと(一番左が筆者) 24 海外ウォッチング スローンケタリング記念がんセンター 船戸洸佑 (元分子情報) みなさん、こんにちは。私は分生研では秋山研に 所属しており、6年間ほどお世話になりました。そ の後2011年からアメリカ、ニューヨークのスロー ンケタリング記念がんセンターに留学しています。 ニューヨークでの生活や研究環境については、同期 の山岸が前号(分生研ニュース第53号、2015年1月) に書いていると思うので、今回は少し違った視点か ら書いてみたいと思います。 現在留学しているスローンケタリング記念がんセ ンターは、 全米でも一二を争うがん専門病院であり、 併設されている研究所と併せて、基礎から臨床まで の幅広い研究が行われています。少しだけ歴史を紐 解くと、当センターの起源は1884年、アメリカで最 初のがん専門病院として開設されたニューヨークが ん病院に遡ります。東京大学の設立が1877年なので、 ほぼ同じ長さの歴史を持つことになります。その後、 GM社の社長であったアルフレッド・スローンさん と技術者であったチャールズ・ケタリングさんから の多額な寄付により、研究所の設立を含む大幅な拡 張が行われました。その際、病院名もスローンケタ リング記念がんセンターに変更され、そのまま今日 に至ります。 このようにアメリカでは、貢献のあった人の名前 が大学名や研究所名になっていることがよくあり ます。例を挙げるとロックフェラー大学やスタン フォード大学、カーネギーメロン大学も人名が元に なっています。実はこの「人名」、アメリカでは、 大学名や研究所名に限らず至る所で目にします。例 えば、建物や部屋の名前。私が働いている建物は 「ロックフェラー研究棟」ですが、お隣のロックフェ ラー大学ではなく、スローンケタリングのビルです (紛らわしいのでよく間違われます)。東大でも最近 は、小柴ホールや福武ホール、武田先端知ビルなど、 徐々に増えてきた気もします。ただ、ホールの椅子 1つ1つに寄付をした人の名前が刻まれているの は、アメリカならではかもしれません。他には、講 義の名前、賞の名前、更には教授の肩書きに至るま で、アメリカは個人名で溢れています。 これは、アメリカでは社会への貢献が推奨されて おり、かつ、それを(多少おおげさに)賞賛する文 化が根付いていることと関係があるかと思います。 もちろん、財産の寄付も大切な社会貢献です。実際 にアメリカでは、疾患の治療や研究をサポートする 団体に多額の寄付金が集まっており、それぞれの疾 患に特化した研究費助成が数多く行われています。 また、ピンクリボンやエイズウォークに代表される ようなチャリティーイベントも日常的に行われてい ます。 このようなプライベートファンドからの研 究費は、NIHからの研究費が削減傾向にある今日で は、研究費を獲得する上で非常に重要な存在になっ ています。 アメリカでの研究は、コアファシリティーなどを 活用することによって効率的に進めることができま すが、その分多くの研究費が必要になります。一方、 実験技術に関しては、日本の研究室の方が優れてい ると感じることが多いです。それぞれの研究もイン ディペンデントに行われることが多く、研究室内で 体系的に教育・指導する態勢が整っていることは稀 です。それを考えると、秋山研で6年間にわたり実 験の基礎を学んだことは研究を遂行する上で非常に 重要で、今海外に来てその有り難みを改めて実感し ています。 最後になりましたが、分生研で過ごした日々を思 い返すと、研究はもちろんのこと、ソフトボール大 会や野球部などの課外活動もいい思い出になってい ます。ただ、昼休みになると必ずタバコ片手に農学 部グラウンドに来ていた大橋幸男監督の姿をもう見 ることができないのは残念です。この場をお借りし て、ご冥福をお祈り致します。 25 ◦お 店 探 訪◦ 清水 昭和の香り漂う食事処 新棟414部屋 高橋・柴田・根岸 ごはん・お味噌汁・つけもの。腰を据えてしっかり食べたい時はこのお店が一番で しょう。農学部正門を出て増田屋の前を通過し、一本目の細い路地を左折した三軒目。 一瞬、店を通り過ぎそうになるも青いひさしと「お食事処」ののれんが頼り。狭いカ ウンターを抜けると小上がりになった意外と広い座敷があります。メニューは揚げ物 や焼き物、海鮮やスタミナ系など約25種類と、お手頃価格の日替わり定食が3種類。 おすすめをお教えしたいところですが、想像と違う主菜が運ばれてくることもある清 水ですから、是非ご自身でお気に入りを見つけてみてください。昼のピーク時でも さっと注文してさっとありつける、そんな回転の速さも、目まぐるしく実験に追われ る私たちにとっては嬉しいポイントです。営業は21時までですので夕食にもどうぞ。 東大に毎日通うからこそ観光客が行かないようなお店をおさえておきたい、そんな玄 人好みの食事処です。気取らない家庭の味を楽しみたい方は是非。 【昼】11:30 ~ 14:00【夜】17:00 ~ 21:00 【定休日】日曜・祝日(写真:日替わりメンチカツ定食) (メニュー一部) 並とんかつ定食 730円 鳥から揚げ定食 750円 焼き魚定食 730円 並チキンかつ定食 730円 豚肉中華風定食 800円 魚フライ定食 730円 かつ煮定食 800円 まぐろ刺身定食 850円 かつ丼定食 800円 まぐろ丼定食 750円 他 ○平成27年3月31日付 〈退 職〉森本 晃弘 助教(先導的研究教育プログラム) 米倉慎一郎 助教(創造的研究教育プログラム) 教職員の異動等について 以下のとおり異動等がありましたのでお知らせします。 ○平成27年1月1日付 〈昇 任〉川崎 善博 准教授(癌幹細胞制御研究分野) :癌幹細胞制御研究分野 講師 より ○平成27年2月1日付 〈昇 任〉作野 剛士 准教授(染色体動態研究分野) :染色体動態研究分野 講師 より 〈採 用〉伊澤 大介 助教(創造的研究教育プログラム) ○平成27年2月16日付 〈死亡退職〉大橋 幸男 技術職員(分子情報研究分野) ○平成27年3月16日付 〈採 用〉風間 優理 財務会計チーム一般職員 ○平成27年4月1日付 〈昇 任〉伊藤 暢 准教授(発生・再生研究分野) :発生・再生研究分野 講師 より 〈採 用〉小林 武彦 教授(ゲノム再生研究分野) 赤松由布子 助教(ゲノム再生研究分野) 佐々木真理子助教(ゲノム再生研究分野) 阿部 崇志 助教(先導的研究教育プログラム) 飯田 哲史 助教(先導的研究教育プログラム) 伊藤 桜子 助教(先導的研究教育プログラム) 木戸 丈友 助教(先導的研究教育プログラム) 金 智慧 助教(先導的研究教育プログラム) 黒元 絵梨 総務チーム一般職員 〈異 動〉植田 清実 事務長 :医科学研究所事務部長へ 加藤 貴彦 事務長 :総合企画部法務課長より 和栗 正幸 財務会計チーム係長 :工学系研究科へ 高橋 元 財務会計チーム係長 :財務部より 編 集 後 記 最近、眼の疲れを感じることが多くなってきました。以前と比べ て、パソコンのモニターを見続けることが多くなったこと、冷暖房 などの空調により研究室内が乾燥しがちであることが原因だと思い ます。こまめに眼を休ませることを心がけるようになりました。 (癌幹細胞制御研究分野 川崎善博) 2015_7月号ということでこの分生研ニュースが出る事は7月 に入っている事と思います。早いもので2015年も半分が過ぎる計 算となります。一年一年があっという間に過ぎていくなぁと感じて いる今日この頃です。。。 (ゲノム情報解析分野 森) 分生研そして編集委員も2年目となりました。今回も予定どおり 無事発行できそうで安堵しております。これもご多忙中にも関わら ず原稿作成にご協力いただきました皆様のおかげと感謝しておりま す。今後ともよろしくお願いいたします。 (事務部 渡邉清美) 分生研ニュース第54号 2015年7月号 発行 東京大学分子細胞生物学研究所 編集 分生研ニュース編集委員会(小川治夫、川崎善博、榎本豊、 森由起、谷内出友美、渡邉清美) お問い合わせ先 編集委員長 小川治夫 電話 03-5841-7813 電子メール imcbnews@iam.u-tokyo.ac.jp 26 減数分裂の染色体分配の司令塔タンパク 質MEIKINを発見 Nature , 517, 466-471(2015) 保証する役割があることを明らかにした。また、マウスと酵 母を使った解析から、生殖細胞において染色体を分配する仕 組みが、ヒトを含めた多くの生き物において共通である(保 存されている)ことを示した。本成果は、生物学において未 解明であった大問題を解いたのみならず、それがヒトの不妊 あるいはダウン症の原因解明に大きく寄与すると期待される。 両親の遺伝情報が子供へと伝わる背景には、両親のそれぞ れの生殖細胞(精子や卵子)で染色体が正確に半分に分けら れ、精子が卵子に受精すると、分けられた染色体が再び合わ さるという現象がある。ヒトでは、この染色体を半分にする 過程(減数分裂)に異常をきたすことが、ダウン症や不妊の 原因であると考えられている。しかし、ヒトを含む哺乳動物 では、減数分裂の染色体分配を制御する司令塔因子が同定さ れていなかった。 本研究では、マウスを用いた研究により、生殖細胞のみに 出現する染色体タンパク質マイキン(MEIKIN)を発見し、 減数分裂の司令塔因子であることを証明した。マイキンは、 減数第一分裂の染色体の動原体に特異的に局在することによ り、染色体が分配される方向を制御していること、さらにそ のときにシュゴシンを制御してセントロメアの接着の維持を マイキン欠損マウスの生殖細胞の染色体の動原体において、 減数分裂前期の未成熟な分離が見られる。これは、動原体の 一方向性制御の欠損を意味する。 金智慧、石黒啓一郎、渡邊嘉典(染色体動態研究分野) 非古典的Rac-Cofilin伝達経路によるactin 骨格制御を介したショウジョウバエキノコ 体神経の軸索伸長調節におけるSickie遺 伝子の機能 とを示した。さらに、sickie 変異体下でCofilinの機能亢進を 誘導すると表現型が緩和すること、Cofilin抑制因子LIMKの 強制発現の表現型がSickieの強制発現により抑制できるが、 Cofilin活性化因子Slingshotの変異体下では抑制できないこ と、Pak非依存的RacまたはSlingshotのLIMK強制発現の抑 制作用がsickie 変異体下では十分に発揮されないことが明ら Abe, T., Yamazaki, D., Murakami, S., Hiroi, M., Nitta, Y., Maeyama, Y., and Tabata, T. Sickie, a human NAV2 homolog., regulates F-actinmediated axonal growth in Drosophila mushroom body かになった。 以上の結果から、Sickieは非古典的Rac経路を介し、SshCofilin経路依存的なF-actinの再編成に関わることで神経軸索 伸長を制御するモデルを提唱する。 neurons via the non-canonical Rac-Cofilin pathway. Development, 141, 4716-4728, 2014. Rac-Cofilin経路は細胞骨格の再編成を制 御し、神経軸索の形成に必須の役割を果た す。古典的には、RacはRac-Pak-LIMK 経 路のスイッチとして機能し、Cofilinに対し 抑制的に機能することで、actin骨格再構 成を介した軸索伸長を抑制することが知ら れている。本研究では、ヒトNAV2のホモ ログであるSickieが、ショウジョウバエキ ノコ体の神経軸索伸長を細胞自律的に正に 制御し、その制御は非古典的Rac-Cofilin経 路を介していることを示唆する結果を得 た。Sickieはキノコ体神経軸索に発現し、 sickie やRac-Cofilin 経路の各種変異体の神 経軸索では、F-actinとリン酸化(不活性 型)Cofilinの発現レベルが変化しているこ Sickie変異の軸索伸長異常と非古典的Rac-Cofilin経路におけるSickieの役割 27 コヒーシンと稀少疾患と転写伸長反応 AFF4、CDK9、活性化型RNAPolIIと複合体を形成し、転写 Izumi K, Nakato R, Zhang Z, Edmondson AC, Noon S, 転写伸長反応のコヒーシンによる詳細な制御機構については Dulik MC, Rajagopalan R, Venditti CP, Gripp K, Samanich 今後の課題となりましたが、コヒーシンが直接的に転写伸長 J, Zackai EH, Deardorff MA, Clark D, Allen JL, Dorsett 反応に寄与していることを分子実態として示したことは転写 D, Misulovin Z, Komata M, Bando M, Kaur M, Katou Y, Shirahige K*, Krantz ID*.(*Shared Corresponding Authors) 制御の新たな側面に切り込む大きな成果です。 の伸長反応の活性化に寄与していることも突き止めました。 Nat Genet. 2015 47(4): 338-44. ゲノム情報分野から本年、発表した、コヒーシン病に類似 した稀少疾患の分子病態解析の論文を紹介します。この仕事 は泉助教が筆頭著者の仕事で、フィラデルフィアこども病院 のクランツ博士との共同研究論文です。クランツ博士と泉助 教は米国にて稀少疾患CHOP症候群を発見しました。CHOP 症候群はコヒーシン病であるCdLSと臨床的にも、転写プロ ファイルという観点からも似通っていることから我々と共 同研究がスタートしました。泉助教らはこの疾患がAFF4遺 伝子の機能獲得型変異により発症することを明らかにしま し た。AFF4タ ン パ ク はSEC(Super Elongation Complex) のサブユニットとして、転写の伸長反応を活性化する役割 を担っています。患者細胞では通常は速やかに分解される AFF4タンパクが、変異により分解されず大量に細胞中に 存在しており、転写伸長反応が部分的に亢進していると考 えられました。同時に、コヒーシンのあるタイプのものが 脱ユビキチン化酵素CYLDによるユビキチン 鎖切断機構の解明 佐藤裕介・後藤栄治・柴田佑里・久保田裕二・山形敦史・ 伊藤桜子・窪田恵子・井上純一郎・武川睦寛・徳永文稔・ 深井周也(放射光連携研究機構) Nat Struct Mol Biol. 22(3), 222-229(2015) ユビキチン(Ub)はC末端で標的タンパク質のLysと結合 することによりタンパク質の機能を様々に制御する。また、 結合したUbのN末端MetやLysのアミノ基にさらにUbのC末 端が付加することにより形成されるポリUb鎖は、どの残基 を用いて形成したかによりその構造と機能は異なる。 例えば、 TNFαなどの炎症性サイトカインによる刺激によりMet1結 合型Ub鎖(M1鎖)とLys63結合型Ub鎖(K63鎖)が形成さ れ、この2種類のUb鎖はJNKシグナル伝達経路やNF-κBシ グナル伝達経路の活性化シグナルとして働く。癌抑制タンパ 転写伸長因子としてのコヒーシン (Nature Genet. 2015) ク質CYLDはUSPファミリーに属する脱Ub化酵素で、M1鎖 とK63鎖を特異的に切断することでこれらのシグナル伝達経 路の過剰な活性化を抑制し腫瘍や細胞の癌化を防ぐ。 しかし、 CYLDがどのように構造の異なる2つのUb鎖を特異的に認 識しているのかは明らかになっていなかった。我々はCYLD のM1鎖およびK63鎖特異的切断のメカニズムを解明するた め、CYLDとM1鎖 と の 複 合 体、 お よ び、CYLDとK63鎖 と の複合体の結晶構造を決定した。その結果、CYLDは2つの Ubを同時に認識することによりUb鎖を識別している事が明 らかとなった。特に興味深いことに、CYLDには柔軟なβシー トが存在するが、この領域はUb鎖特異性を持たない他の多 くのUSPファミリーには存在しない。このβシートがM1鎖と K63鎖の構造の違いに対応して動くことで、CYLDは2種類 のUb鎖を切断する事がわかった。 本成果は、ポリUb鎖によりひき起こされる免疫応答や炎 症反応、腫瘍の形成、細胞の癌化の原因を解明する今後の研 究の基盤となると期待される。 28 出芽酵母rDNAをモデル領域として複製阻害 によるDSB修復機構を解く ゲノム再生研究分野 助教 佐々木真理子 DNA二 本 鎖 切 断(DNA doublestrand break, DSB)は、修復されな ければ細胞死に繋がる危険なDNA 損 傷 で あ る。 さ ら に、DSB修 復 異 常は、DNA配 列の重 複、欠失、染 色体転座等のゲノム再編成を誘導 し、癌や多くの疾患の原因となる。 体細胞分裂期において、DSBは主に DNA複製装置の進行阻害の結果生 じると考えられている。しかし、複製阻害に伴うDSBを高頻 度に且つ特定部位で誘導する実験系がないため、どの様な分 子機構でDSBが修復されるのか、またどのようにゲノム再編 成が抑制されるのかなど、十分に理解されていない。 我々は、出芽酵母のリボソームRNA遺伝子(rDNA)が、 複製時のDSB修復機構を明らかにできる格好のモデル領域と 期待している(図参照)。この領域には約100‒200個のrDNA 配列が連なっている。複製期には20%程度のコピーで、Fob1 タンパク質が結合した複製阻害点において複製阻害が起き 精子幹細胞の発生過程におけるエピジェネ ティクス因子の機能解明 病態発生制御分野 特任助教 牧野吉倫 当研究室では、マウス生殖細胞の エピジェネティクスについて研究し ています。私は、精子幹細胞を用い て、精子を供給し続ける元となる細 胞の転写制御を明らかにすることを 目的に実験を行っています。具体的 には、ヒストンアセチル化酵素であ るMyst4の精子幹細胞における機能 について解析しています。精子幹細 胞の初代培養系(Aoshima K, et al. PLoS One. 2013, 8 (10) ) において、Myst4のノックダウンはCyclin D1の発現の減少 およびG1 arrestを引き起こすことが分かりました。一方、 RNA-sequencing法やRT-qPCR法によって精子幹細胞マー カーを調べましたが変化は見られず、むしろ精子幹細胞の分 化マーカーであるStra8や、減数分裂に必要なRec8の発現が 減少していました。これらのことから、Myst4は精子幹細胞 の自己複製能ではなく、細胞増殖と分化に必要なのではない かと予想し、現在解析をすすめています。 また、精子幹細胞を用いて実験するにつれて、そもそも、 その発生過程があまり解明されていないことに気付きました。 初期の生殖細胞である始原生殖細胞や成体の精子幹細胞につ いては様々な研究がなされていますが、始原生殖細胞から精 子幹細胞への移行期間(E13.5-P3.5)に見られるgonocyteに る。 その結果DSBが生じうるが、 その修復機構は明らかになっ ていない。さらに、rDNAの様なリピート領域ではコピーの 重複や欠失などの再編成が起きやすい。そのため、rDNAの 複製阻害点では複製阻害が高頻度に起きDSBが生じるだけで なく、その修復異常はコピー数変化という形で解析できる。 このrDNAにおけるDSB修復機構を解明するため、私の研 究ではまず、rDNAで生じるDSBを定量的に解析する実験系の 確立を目指した。細胞周期の同調、タイムコース実験、ゲノム DNA調製、サザンブロットの条件などに工夫を凝らした結果、 DSBのみならず進行阻害を受けた複製中間体を同時に検出し、 その量や経時変化 を定量的に解析で きる系を立ち上げ る こ と が で き た。 今後、様々な遺伝 子変異体において DSB解析を行うこ とによって、複製 阻害時のDSB修復 機構の詳細を明ら かにしていきたい。 出芽酵母rDNAでは、Fob1タンパク質による 複製阻害が高頻度で起こり、DSBが生じる ついては研究が進んでいません。そもそも始原生殖細胞や精 子幹細胞といった訳語があるのに対して、gonocyteには対応 する訳語すらありません。そこで、gonocyteから精子幹細胞 への分化過程を調べるべく、生後1-5日齢の生殖細胞を単 離し、単一細胞RNA-seq法を用いて、個々の細胞の遺伝子発 現を網羅的に調べました。意外なことに、一部の生殖細胞で は体細胞でしか発現していないはずの遺伝子が発現していま した(図) 。現在、この細胞集団特異的な表面マーカーを用 いて細胞を単離し、その性質について、幹細胞の性質を持つ のか、あるいは分化した細胞なのか、調べています。この研 究を通じて、gonocyteから精子幹細胞への分化過程を明らか にし、さらには、エピジェネティック因子との関連性につい ても調べていきたいと考えています。 図.生 後1-5日齢の生殖細胞における遺伝子発現プロファイルの主成分解析
© Copyright 2024 Paperzz