地球外天体の 地球外天体の衝突による 衝突による環境変動 による環境変動 筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生命共存科学専攻 環境病理学分野 丸岡 照幸 〒305-8592 茨城県つくば市天王台 1-1-1 Tel./Fax. 029-853-4241 E-mail: maruoka@ies.life.tsukuba.ac.jp はじめに 地球表層物質に枯渇しているイリジウムの濃縮をもとに、Alvarez et al. (1980)は白亜紀-第三紀(K-T)境界における生 物大量絶滅の原因として地球外天体の衝突を提案した。この研究以降、精力的に K-T 境界に関する研究が進められ、 K-T 境界に対応する地層に隕石衝突の証拠が多く見つかるようになった。これらの研究によって現在では Alvarez らの仮 説は一般的に認められるようになっている。このように隕石衝突と生物大量絶滅の関わりは明らかになってきたが、生物 大量絶滅の直接の原因は隕石衝突ではなく、隕石衝突により起きた環境変動のはずである。しかし、この環境変動に関 しては今もって明確な答えがないのが現状である。特にここ数年のコンピュータシミュレーション等の発達により、隕石衝 突直後の様子を正確に模することが可能になりつつあり、80-90 年代に提案された大量絶滅の直接要因について再考を 余儀なくされている(丸岡、2005)。本稿ではこれまでに提案されている隕石衝突後に予想される環境変動を挙げて、それ らが大量絶滅の直接原因となりえるのかを議論する。 隕石衝突後に何が起こったのか? 有孔虫の炭酸塩殻の炭素同位体比は、その炭酸塩が生成された場における二酸化炭素の炭素同位体比を反映して いる。海洋表層では光合成によって有機物が生成されるが、この反応には同位体比の分別を伴う。生成される有機物の 13 12 13 12 13 12 C/ C はもとの CO2 の C/ C に比べて低いので、残った CO2 は C/ C が高くなる。生成された有機物は沈降し、表層 から分離される。このようにして光合成が活発になればなるほど、表層に残った CO2 の 鉱 て、表層有孔虫起源の炭酸塩 産 ど生物生 層で 13 、 急激 下 量が高く 12 C/ C が 13 物の 13 産 12 C/ C が低いほど生物生 に低 産 指標 12 C/ C は光合成による生物生 量の ン 下 ンの活動の低 基盤 により、それを 13 12 ができる。 C/ C が高いほ う 量は低くなる。これまでの研究によって ち植 プラ クト 物 12 C/ C は高くなっていく。したがっ 使事 世 中 産 下 として することから、K-T 境界において光合成による生物生 る。このような光合成すなわ 13 界 量が低 の K-T 境界に対応する したことが明らかになってい ダメ とする生物すべてが 下 量絶滅につながったと考えられている。したがって、隕石衝突後の環境変動は光合成を低 受 停止 せ ージを け、大 (場合によっては )さ るものでなければならない。 候補 K-T 境界における環境変動の 下 引 光合成の低 を き起こすような環境変動として、(1) 太陽光遮断 太陽 遮断 破砕 下 引 長期間浮遊 ゲット 破砕 結 づ ゲット ス S S 放出 唆 エアロゾル 続時間 陽 遮蔽 続 十 短期間 間 硫 性雨 太陽 遮蔽 困難 光 の要因として、(1) 光合成の低 を のター 物質を起源とする 衝突のター ( O2 or 論 O3)が を されるので、 光を 物がどれ けた。 の の存 の するのは に け 光が 成されるかを見 酸塩 は、 が O2 が である。 性雨 変化、(3) 酸 が挙げられている。 が挙げられている。いずれの場合に される を 要がある。大きな 子は 物に たすことになる。 ope (2002)は 1 m 以 もり、そのような 子が 光を 分 O2、 O3 ど 層であった。衝突に伴い、その地層から は として地表に 酸 らの 要であるが、O よ、 かに する量は 硫 鉱 富む堆積 硫黄 ガス 硫 エアロゾル 形 太陽 遮蔽 ガス S S ち ガス種 放出 依 S 必 hn ガス 主 S 戻 硫 エアロゾル 分量の 酸酸 温度 、(3) 子がそのような されたと考えられている。そのような けるためには、 、(2) 酸 にわたって になった地層は炭酸塩- されている。 光の 、(2) することのできる 1 m 以 存在しなかったと 光 ダスト 硫 エアロゾル 煤 せ 程度 太陽 遮蔽 必 粒 速や 落下 µ 下 粒 役割 果 P µ 下 だ 形 積 粒 太陽 十 遮蔽 物 き起こすためには数年 するので、 太陽 遮断 を として 成し、 されるのかに o et al. (2004)によれば ったようである。したがって、 光を 酸 は 含むガ 性 示 程度太 放出 を する可能 が 存する。数年 として O3 として によって数年にわたり 煤 山火事 気 加熱 全 規 は隕石衝突による大 ば の は起こったが、 性 成されていない可能 山火事 で起きた 地球 B h 覆 十 によってもたらされると提案されているが、 elc er et al. (2003)によれ 示 模ではなかったことが がある。 全 されている。したがって、 微粒 したがって、K-T 境界直後の隕石衝突で生成された 太陽 子により 地球を うような 煤 分量の は生 程度遮蔽 光を数年 ろ した明確な証拠は今のとこ 存在しない。 温度変化 温度 太陽 遮断 太陽 遮断 温度 下 度上昇 上 述 核戦争 冬」 ぞ 「 冬」 寒冷 「 秋」程度 言 P , 上 述 ゲット 硫 放出 温室効果 気温 上昇 温性 爬 類 両 類 免 温度 K-T 境界直後の起きたとされる が挙げられている。 の にな 光の 光の については で でも 化が起こらず、 衝突の はずの変 の 酸性雨 上 述 戻 でも 虫 、 生 M nd aruoka a の存 に 酸 (2) は が として も ピ 子に酸で したような ること( その酸の をどのように地球化学的 紹介 新 P 組 2002 指標 導入 を 弱 い 酸酸 , う酸 として地表に 積 の量を見 も 使 組 戻 閾値 “ d”; 少 陸水 性 陸 風 速度 意味 P ng , 陸水堆積岩 硫 硫 オ 増加 意味 陸水 性雨 影響 実際 評価 成が 戻 っても生物 している。したがって、 pits が見つかること( reisi において 酸イ ンが の が 、海洋においては、酸 っても、1 年あたりの酸の量は現在 成が らない 、 critical loa なくとも において、隕石衝突後の酸 で が高くなったことを 化 er et al. 2002)、(3) したことを する)、 に している)、などが にありえるのか 化 に できていない。また、 ることができるのかは明確になっていない。 読み取 指標 立 必 し、環境を に CO2 の変化に 硫 性雨 ろ 性雨 ierazzo et al. 2003)を 86 r/ r が高くなること(大 として 気 で の変動は大きくなかったと予想されている。 結 したように、隕石衝突後にどのような環境変動が起こったのかに関しては明確な たな地球化学的な 参考文献 87 光の 温度 したという考えがある。しかし、 成されたと考えられている。これが の化学 etc e aruoka et al. の証拠と考えられる。一 本稿で (10 年 る量( 高いことを おける酸 後も い が れない。K-T 境界層において、(1) 物の濃縮が見 が Koeberl (2003)は K-T 境界における隕石衝突により起きたであ されると生物に による 酸塩からなる地層であり、隕石衝突より大 硫 エアロゾル 形 -3 -2 -1 10 k m )に比べて 2 の CO2 による われている( ierazzo et al. 2003)。 れていることから 性雨 続期間 最 長 推定値 ; 陸水 付加 影響 出 陸水 6 × g y 桁程度 示 雨 影響 免 S S ス ネル粒 溶解 跡” h d ” 出せ M , ; 陸水 性雨 方 効果 指標 読み取 った。この酸 温室効果 温 太陽 遮断「核 最近 、(2) が起こると 80 年代には考えられていた。しかし、 で などが絶滅から の低 後におこると予想されている になったのは炭酸塩- べたように隕石衝突後には ったはずである。 (0. -2) べた。 であると べたように隕石衝突のター されたと考えられている。この CO2 による の による らえて、K-T 境界における隕石衝突後に 衝突の はそれほどの が 変化には(1) る を確 する 論がない。したがって、今 要がある。 Alvarez L. 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