112号 - 宮城教育大学附属図書館

ISSN 1348−1525
宮城教育大学附属図書館ニュース
112号
2007. 7. 10 発行
私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
◎図書館からのインフォメーション
企画展「歴史のなかの教科書:日本のものづくりをささえた理科」開催のお知らせ ・・・ 2
教科書を寄贈してください!
! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
常設展示「家庭科教科書をさかのぼる∼現在から戦前まで∼」 ・・・・・・・・・・・・ 3
ホームページを活用しよう!「ホームページ紹介part. 4」
・・・・・・・・・・・・・・・ 4
◎特集記事 私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
・“ロー”からスタートしよう ・・・・・・・・・・・・・・・・・竹内 洋・・・・ 6
・遅筆堂文庫から学んだこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・遠藤 仁・・・・ 7
・大学で学ぶということ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田端 輝彦・・・・ 8
・学生の皆さんへ:特集「私は図書館をこう活用した」について ・・笠間 賢二・・・・ 9
◎学生の読書室∼私が選ぶこの一冊∼(第7回) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
◎新任教員からひとこと「私と図書館」
図書館での出会い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田谷 久雄・・・・ 12
図書室が怖かった ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・久保 順也・・・・ 13
研究室貸出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・永井 伸幸・・・・ 14
◎図書館利用Q&A∼図書館をもっと活用するために∼ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
◎表紙の解説 クローンで増える植物―ユキノシタ― ・・・・・・・・佐藤 秀二・・・・ 16
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
図書館からのインフォメーション
図書館からのインフォメーション
■ 企画展「歴史のなかの教科書∼日本のものづくりをささえた理科∼」開催のお知らせ
毎年夏に開催している展示企画ですが、平成19年度は
「歴史のなかの教科書∼日本のものづくりをささえた理科∼」
を開催します。
明治時代から現在までの理科の教科書の他、学校で使って
いた理科教材などを展示します。
また企画展開催にともない、記念講演会を開催します。2
部構成となっており、片方のみの参加もできます。皆様のご
来場をお待ちしております。
<展示企画>
●期間 7月30日(月)∼8月7日(火)
(土日も開館します)
●時間 午前10時∼午後4時30分
●場所 宮城教育大学附属図書館 多目的閲覧室
<記念講演会>
8月4日(土)
●第1部 午後1時∼
理科学生実験棟 理科共用実験室
「教科書の変遷と理科のものづくり」
講師:永田 英治(宮城教育大学教授)
池山 剛(宮城教育大学教授)
猿渡 英之(宮城教育大学准教授)
●第2部 午後2時40分∼
情報処理センター 情報教育第2演習室
「湯川秀樹のめざしたもの」
講師:安江 正治(宮城教育大学教授)
教科書を寄贈して下さい!!
自分が子どもの頃、使っていた教科書が家のすみっこに眠っていませんか?
宮城教育大学附属図書館では、教科書を大切に保管して、教育者の卵さんから一般の方々ま
での利用に供しています。ただ残念なことに、揃っていない時代のものがあります。
本図書館では、教科書の寄贈を皆さまにお願い致しております。
◎ 一番不足しているのは、昭和30年代の文部省検定済教科書です。
それ以前の明治まで遡る昔の教科書も不足しています。
◎ 保管するスペースに限りがあるため、ご寄贈いただいた教科書の取扱については、本図書
館にご一任頂くことをお願い致します。
ご協力頂ける方は、ご郵送頂く前に下記にご連絡ください。お待ち申し上げております。
連絡先:宮城教育大学附属図書館 電話 022−214−3348(午前9時から17時)
FAX 022−214−3351(時間にかかわらず)
E-mail mokuroku.seiri@staff.miyakyo-u.ac.jp(時間にかかわらず)
2
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
図書館からのインフォメーション
図書館からのインフォメーション
■ 常設展示 「家庭科教科書をさかのぼる∼現在から戦前まで∼」
図書館の2階、階段をのぼったフロアーで、
家庭科教育講座の中屋先生のご協力をいただ
き、家庭科教科書のあゆみについて、常設展
示をしています。
家庭科が小学校から高等学校までの普通教
科となったのは新しく、1994年のことです。
この時点、更には現在からさかのぼって、4
期に分けて展示替えをしています。第1期は
「現在の家庭科」でした。グラビア満載で、
版も大きくなったきらびやかな家庭科教科書
が紹介されました。第2期は「性によって異
なる家庭科履修の時代」です。国際婦人年の
取り組みや、国内での男女共修家庭科への道
を開いたプロセスを実物の教科書を通して感
じることができました。第3期は「家庭科ゆ
りかごの時代」です。対日占領をしたアメリ
カ合衆国・民間情報教育局(CIE)が、新
しい家庭科で何を教えようとしたのか、女子教科として君臨してきた「裁縫」と「家事」を日
本の関係者はどうやって残そうとしたのかを中屋先生の解説を通して教えて頂きます。第4期
は「戦前の家事・裁縫科(家庭科)」です。図書館にある貴重本である「禁帯出」の資料に光が
当たる予定です。戦後教育史を肌で感じることができます。是非ご覧ください。
過去の展示資料については、図書館ホームページで見ることができます。
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こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
図書館からのインフォメーション
図書館からのインフォメーション
■ ホームページを活用しよう! ホームページ紹介
(part.4)
・電子ジャーナルを使ってみよう!
1.電子ジャーナルは、雑誌などの目次(index)
や抄録(abstract)、さらに本文までを、パソ
コンの画面で読むことのできるものです。
2.図書館ホームページから、ページの右、情報
検索「◆電子ジャーナル」からアクセスできま
す。
3.次のようなページが開きますので、ページ上
部のロゴを
クリックするか、電
子ジャーナル・タイトルリスト をクリックし
て下さい。
電子ジャーナルタイトルリストは、宮城教育
大学から利用できる欧文電子ジャーナルの雑誌
タイトル一覧です。読みたい雑誌名がわかって
いるとき、または、希望の雑誌が電子ジャーナ
ルリストに含まれているかを探す時に便利で
す。
4.試しに The journal
AtoZから、上部の誌
名索引で「J」をクリッ
ク、次に「JO」をクリ
ックします。
of mathematical behavior を探してみましょう。
5.現れた一覧を、ページ
を追って探していくと、
数ページ後に、目的の雑
誌名が見つかりました。
6.雑誌名の下の青字部分
が収録データベースで
す。この部分をクリック
すると、次のようなペー
ジが開きます。
4
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
図書館からのインフォメーション
図書館からのインフォメーション
7.あとは、巻号、ページなどから
希望の論文を探します。
8.巻や論文の左脇の ■のアイコ
ンの時は全文を見ることができ、
□のアイコンの時はindexや
abstractのみ見ることができま
す。
9.読みたい論文タイトルの下部にある「Full Text + Links︱PDF(114K)
」 などをクリッ
クすると本文ページが開きます。下図は、PDF を開いた例です。この文書を印刷したり、自
分のパソコンに保存し
たりすることもできま
す。
<注意>
一度にたくさんの論文
をダウンロードしたり、
ダウンロードしたデータ
を他人に送ったりするこ
とは、著作権法上認めら
れておりません。また、
このようなことをする
と、宮教大からの利用が
できなくなりますので、
くれぐれもご注意ください。
*そのほか、利用する上でご不明な点や電子ジャーナルについての詳しいことは、
カウンター(022−214−3350)にお尋ねください。
5
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
特集記事:私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
“ロー”からスタートしよう
竹 内 洋
図書館との関わりということだが、私の場
い日々が続いた。またページのストックもで
合、大学に入ってまず有名な本を読んでみよ
きるから(一日に666ページ読めば、翌日は
うということで最初に実存哲学者サルトルの
「フリー」というわけだ)
、今度は進化(退化)
『存在と無』に挑戦してみた。しかし、何し
のコースを逆戻りすることにもなっていっ
ろ難しくてひと月かかっても50ページと進
た。私はそうやって図書館に舞い戻った。そ
まないうえ、内容も全く理解できない。それ
して、今度はいきなりサルトルだなどと大上
でしょげていたのだが、そんな私に大教室の
段に構えないで、簡単で面白そうなものから
教壇から先生がさらに追い打ちを掛けるよう
手をつけていった。
今なら、例えば、金の星社のシリーズ『日
に次のように言ったのである。
本の文学』などは小学校高学年向けだが内容
「君たち、大学生なら一か月に
1万ページ読まなきゃダメだよ。
」
高度な「解説」がついていて素晴らしいもの
だ。そして、そういうものが、実は、より進
んだ読書への優れたガイドにもなっているの
一か月に1万ページ。一日に333と3分の
である。図書館に行き、開架の書棚を眺めて
1ページだ。これには同輩たちも驚いたよう
みよう。専門的なものの間に入門的なものが
だったが、何しろ先生を尊敬していたから、
ちゃんと混ざっていることに気づくはずだ。
同輩たちとその日から取り組んだ。ただ、そ
「入門的なものから→専門的なものへ。」こ
れは「読む」というよりもただひたすらペー
の考え方で書架の間を散策してみよう。私は
ジを「稼ぐ」というようなものだったが…。
1950∼80年代に日本の知的な人々によって
しかも、サルトルのようなもので一日300
書かれたものを勧める。この年代の書き手に
ページも稼ぐのは難しい(それだと『存在と
は非常に優れた人が多いのである。私が手に
無』など一週間で「上がり」ということにな
取ったものの中には例えば今西錦司他の『人
ってしまう)。だから、読むものも、分厚い
類の誕生』(河出文庫版『世界の歴史』に入
理論書ではなく岩波新書のようなものへ、そ
っている)がある。それは「私たちはどこか
してエッセイや小説のようなものへとすぐに
ら来てどこに行くのか」という問いに答えよ
進化(退化というべきかも知れないが)して
うとするひとつの真摯な営みの書であった。
いった。いや、正直言うと、それでも一日
それを読んだとき、私は何か学問の扉を開け
300ページは苦しい。だから、実際には、そ
たような気がしたのである。
れは雑誌になり、週刊誌になり、やがて漫画
この感覚は初めてクルマを動かしたときの
も漫画本ということで仲間入りとなったので
感覚や、初めてスキーのボーゲンができたと
ある。
きの感覚に似ているかも知れない。
「おおっ、
恋』も貸本屋で借りて読んだし、週刊誌など
動いた!」「おおっ、曲がった!」というあ
............
の新しい世界が開けたような感覚だ。こうし
もバカにしたものではないが、そういうもの
て、ローからセカンドにシフトしていく。2
のいいところは短い時間に何百ページも読め
年の夏休みごろがサード、3年に上がる頃に
ることだ。お陰で同級生同士モノ知りになり、
はトップ・ギアというわけだ。
そうやって『ガラスの仮面』も『スワンの
(社会科教育講座)
あれを読んだこれも読んだと話題に事欠かな
6
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
特集記事:私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
遅筆堂文庫から学んだこと
遠 藤 仁
ってかかったものをすべて片端から読破した
とでも言うべき勢いが感じられた。徹底的に
調べ、よく考え、ひとつの原稿をものにする
ためには、相応の(財力と)エネルギーを要
するのだということが、今でも頭に焼き付い
ている。
書庫のひんやりした空気のなか、ずらりと
並んだ書籍の背表紙を眺めていると、時に時
間が止まったような錯覚にとらわれることが
ある。研究書のなかには、その研究者が生涯
をかけて取り組んだ著作も少なからずある。
学生時代に、先生が「本を探すのも勉強のう
ち」としきりに仰っていたことを思い出す。
今はインターネットが普及し、労せずして情
報を収集することも可能だが、その情報が、
ほんとうに信頼するに足るものなのか疑って
みたことはあるだろうか。昔から「タダほど
高いものはない」とか、「タダほど怖いもの
はない」などと言われてきたが、昨今は、さ
しずめ「ただほど嬉しいものはない」とでも
言ったところだろう。間もなくさまざまな科
目でレポート課題が出され、担当の先生から
安易にWeb検索によるデータを使用しない
ようにご注意があるはずである。誰が、何に
もとづいて作成したか分からないデータな
ど、全く学術的な価値をもたないからである。
大学で自由に学べる時間というものは、今と
なっては実に貴重な時間だったと思うし、こ
の上ない贅沢だとも思う。皆さんには、まと
まった時間のある時に、ぜひ図書館に足を運
び、漫然と背表紙を眺めてみることをお勧め
したい。気になった書籍は、目次を開き、後
書きなども読んでみれば、先人たちの営みに
接してみることができるだろう。本学の蔵書
の特色のひとつでもある児童書や絵本を開
き、自分の“子ども”時代に思いを馳せるの
もいいだろう。書籍の扉を開けば、そこには
固有の世界が広がっており、新たな出逢いが
あるかもしれない。
(初等教育教員養成課程子ども文化コース)
山形県東置賜郡川西町に、井上ひさし氏が
町に寄贈した書籍や生原稿を蔵する「遅筆堂
文庫」がある。開館当初は7万冊ほどだった
と記憶しているが、今でも毎月書籍が送られ
てきて、蔵書数は13万冊にも及ぶのだとい
う。個人の蔵書とはとても思えない規模であ
った。
開館当時、私は、隣接する米沢市の短大に
勤務していたこともあって、覘いてみたこと
がある。井上ひさし氏の自筆原稿が、万年筆
の太字で、しかもやや丸文字がかった個性的
な字で綴られていたことを今でも鮮明に記憶
している。蔵書はあらゆる分野にわたってお
り、いずれの書にも付箋や書き込みが多数見
られた。すべての書籍に目を通していたとい
う事実のみならず、作家が原稿を一本書くの
に、どれだけの労力と時間をかけているのか
を実感しないわけにはいかなかった。私の専
門に近いところで言えば、東北の一寒村が政
府に愛想を尽かし、「吉里吉里国」として独
立を宣言、これに反発する政府との攻防を描
いた『吉里吉里人』は、いわゆる「ズーズー
弁」の会話文をルビによって効果的に表記す
るなど、目新しい工夫がなされていた。また、
明治初期に全国統一話しことばの制定を命じ
られた文部省の下級吏員、南郷清之輔の苦闘
をコミカルに描いた『国語元年』にも、当時
の状況をよく調べたものだと随分感心させら
れた。この作品は、後にドラマ化され、
NHKで放映された。これらの作品は、楽し
みながら改めて日本語を振り返ってみる契機
ともなるだろう。
井上氏の文体は、軽妙ながら言語感覚は鋭
く、日本語に関するエッセイも多い。遅筆堂
文庫には、日本語・方言関係の専門書も多数
収められており、氏の日本語に対する造詣の
深さを窺い知ることができる。蔵書のなかに
は、その道の専門家でなければ理解が難しい
ものも含まれていた。井上氏の蔵書を概観す
るに、本を選んで買うというよりは、網を打
7
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
特集記事:私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
大学で学ぶということ
田 端 輝 彦
輩や同級生の発言内容が少しではあるがわか
るようになってきた。あるいは、その議論に
参加できるようになってきた。こうなると少
し面白くなってきた。自分の知識量が増え、
基本的文献を読む方法がわかってくると、指
導教官のコメントがある程度予想できるよう
にもなってくる。毎回の予習は、自分の読解
力が試されているような錯覚に陥るようにな
ってきた。こんな生活を2年間続けているう
ちに、少しずつ、数学教育の勉強の仕方がわ
かってきたように思う。
勉強の仕方はそれぞれの専門で異なる。少
なくとも数学科にいた頃は、講義のわからな
いところを解消する目的で図書館を利用して
いたが、どちらかと言えば、講義ノートの論
理を追うことに多くの時間をかけていた。卒
業研究でも一冊のテキストをどれだけ深く読
めるかが課題であり、類似の文献を読むこと
はあまりなかったと思う。数学教育専攻にな
ってからは、図書館なしの生活は考えられな
かった。基本的な文献や古典的名著、あるい
は類似の専門書がすぐに手に取ることができ
るばかりでなく、各種の用語辞典や百科事典
がそろう図書館は知的宝庫であったからであ
る。
一方で数学と数学教育の勉強で共通するこ
とは、わからないことがあったとき、良書と
言われる古典をじっくり読むとよいというこ
とである。さらには、行間を読むといった表
現の読解力が重要なことも、両者の勉強の仕
方には共通しているように思う。
このような話を長々と書いたのは、私の講
義で宮教大生に求めている勉強とは、まさに
このようなものだからである。書物と格闘し
ながら勉強してみると、大学の講義は10倍
は面白い。テキストを中心としつつも、類似
の書物や辞書、あるいは名著と呼ばれる古典
を図書館で探し出し、いにしえの賢人と対話
するつもりの勉強をぜひ、お試しあれ。
(数学教育講座)
大学では数学を専攻していた。筆者の受け
た講義とは、まさに教授の独演会であり、講
義中はひたすら黒板を写し、家に帰ってもう
一度その論理を追うことが勉強であった。テ
キストは指定されていたとしてもその通りに
進まないことが多く、予習しようにも数学の
専門書を1人で読むことができなかったこと
もあって、したことはなかったと思う。
勉強の仕方が一変したのは、卒業研究のゼ
ミナールに参加するようになってからであ
る。英語で書かれた数学の専門書を1人で読
むことは、当初は大変な作業であった。レポ
ーターの役割は、どこまでわかったか、どこ
からがわからないのかを明確にすることであ
ると教えられていたが、どこがわからないの
かがわからない。証明の道筋は追えたとして
も、なんか気持ち悪いという状況でゼミに臨
むことが多かった。卒研メンバーの共通の目
標が数学の専門書を1人で読めるようになる
ことであったので、後期にはゼミを週に2回
にしていただき、ともかく数学漬けの日々を
送った。卒業間際には、数学的に考えながら
厳密に論理を追う、数学の専門書の読み方が
ある程度は理解できたように記憶している。
大学院では数学教育の専攻となり、講義は
全てゼミナール、それが週5回となった。日
本の歴史や思想史は日本語であるが、数学や
数学教育の学問的体系の内容はほとんどが英
語であった。日本語と英語の文献講読を比較
して思うことは、わかるかわからないかは言
語の問題ではなく、その意味する概念がわか
らないからわからないことが多い。仕方がな
いので、教育学辞典や哲学辞典で調べる。あ
るいはより基本的な文献を探して読む。学習
指導要領やその解説、数学教育についての大
家の文献は知っていることが前提で進められ
ているが、悲しいかなその教養が自分にはな
い。レポーターの当番の日は当然として、毎
日寝る間も惜しんで予習してゼミに臨んだ。
するとどうだろう、雲の上の人であった先
8
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
特集記事:私は図書館をこう活用した∼大学での“勉強法”∼
学生の皆さんへ:特集「私は図書館をこう活用した」について
笠 間 賢 二
今回の特集は、「私は図書館をこう活用し
用しようとすれば、それに伴うさまざまな条
た∼大学での“勉強法”∼」というテーマで、
件を大学側が整えなければならないのです
本学の3人の先生方に寄稿していただきまし
が、基本的原則はこういうことなのです。だ
た。
とすると、そのためにもっとも整えられた環
このテーマを設定したのにはいくつか理由
境を提供できるのが図書館だということにな
があります。そのひとつは、大学教育の充実
ります。単位制度の実質化→大学教育の充実
のために図書館が果たすべき役割がきわめて
のために図書館を活用すべきであるというの
大きくなってきているという、昨今の動向で
は、こういうことをさしています。
す。現在、大学(高等教育)改革が強力に推
とはいっても、図書館をどう活用すればよ
し進められていることは皆さんご存知のとお
いのか、戸惑う人もいるはずです。学校には
りですが、その課題のひとつとして「単位制
小学校のときから図書館がありながら、それ
度の実質化」ということが強調されています。
を有効に活用する教育方法を採用してこなか
それはおおよそつぎのようなことをさしてい
ったという、日本の近代学校教育の「ツケ」
われています。
もあるはずです。そこで、大学教育の充実の
ために図書館サイドからできることとして、
現在のわが国の大学制度は、単位制度を基本とし
ており、1単位は、教室等での授業時間と準備学習
や復習の時間をあわせて標準45時間の学修を要す
先生方に図書館活用の体験談を語ってもら
い、それに示範効果を期待しようというのが、
る教育内容をもって構成されている。しかし、実際
今回の特集のねらいです。いまは、目の前に
には、様々な原因により、授業時間以外の学習時間
が大学によって様々であるとの指摘や1回あたりの
聳え立っているかのようにみえる先生方も、
授業内容の密度が大学の授業としては薄いものがあ
るのではないかとの懸念がある。このような実態を
現在の水準に辿りつくまでにはかなりの苦労
改善するための種々の取組を総括して単位制度の実
と努力の積み重ねがあったはずであり、その
質化のための取組と言う(文部科学省・中央教育審
議会大学分科会資料、2004年12月15日)
。
ことを自分史風に語っていただこうというこ
本学でも、平成19年度の『履修のしおり』
でなく、先生方の研究の仕方や、授業での工
とです。もちろん、図書館とのかかわりだけ
で、単位制を「授業時間」と「学習時間」と
夫を語っていただくことも大歓迎ということ
に分けて平明に説明し、とりわけ「学習時間」
で、執筆をお願いしました。
(「授業外の学習」)を促す記述を設けるよう
いうまでもなく、図書館は文化資源の宝庫
になりました(5頁)。つまり、趣旨はこう
であり、そこを起点にすれば、皆さんをもっ
いうことです。15回の授業を欠かさず受講
と広くもっと深い世界へと誘ってくれる入り
しても、それで2単位を満たす学修をしたと
口にもなるはずです。図書館では、そうした
いうことではなく、授業の前後に予習や復習
機会と情報を提供すべく、あなた方を待って
の「授業外の学習」を行わなければ、2単位
います。それを利用しない手はありません。
とは認めないということです。より具体的に
これを機会に、「授業外の学習」に励み、も
いえば、講義形式の90分の授業では、その
っと図書館に足を運んでくれることを強く期
2倍の時間を「授業外の学習」に充てなけれ
待します。
(附属図書館運営委員会委員:学校教育講座)
ばならないということになります。もちろん、
この法令(大学設置基準)の定めを厳密に適
9
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第7回
学生の読書室
∼私
が選ぶこの一冊 ∼
∼私が選ぶこの一冊
ことのできない、身にこびりついた不安を抱え、
矛盾に慣れ切った自分がいる。側にいたい、そ
の腕の中にいたいのに、支えを失ってまっさら
な矛盾のない世界へと飛び込む勇気がない。醜
い自分を見せられない相手より、無関心に目を
背けていてくれる相手。骨の浮き出た早希のか
らだは、穢れのない愛を受け入れることができ
ない。食べ物を受け付けないのと同じように。
愛も食べ物も、口に入れては噛み砕き、吐き出
していく。自分の意思とは無関係に、きれいな
ものを汚物へと変える行為に没頭する早希の姿
は、矛盾した現代の若者そのものに思えるので
ある。
『ハイドラ』
(金原ひとみ 著、新潮社、2007年)
国際文化専攻4年:佐 藤 千 鶴
「淫」と「純」、二つの欲望を抱えた主人公を
描く金原ひとみの世界。そこには、確かな自分
の世界を持つ冷徹な男と、子犬のように純粋で
まっすぐな男が存在する。女は前者にのめり込
み、後者を恐れる。
まっすぐな瞳、うそのないことば、無条件に
愛されること、そうした矛盾のないものが怖い。
自分のせいで簡単に傷つけ、壊してしまうこと
ができるから。愛し愛されるだけでは拭い去る
『くらやみの速さはどれくらい』
『子どもを喰う世界』
(エリザベス・ムーン 著、小尾美佐 訳、
早川書房、2004年)
(ピーター・リーライト 著、晶文社、1995年)
学校教育専攻4年:鈴 木 直 美
障害児教育専修2年:奥 まり子
『子どもを喰う世界』のなかには、日本では
考えられないような、世界の子どもたちの児童
労働の様子が書かれています。子どもたちの一
日の労働時間の長さや、どう考えても低すぎる
労働賃金。「ひどい」という言葉では表わしき
れない悲惨な労働環境です。子どもたちが心身
共に傷つけられている状況が、目の前につきつ
けられてくるようで、心が痛みます。
このような子どもたちの状況を知って「かわ
いそう」と思う人がいるかもしれません。ある
いは、「どうしようもない」、「しかたがない」
と思う人もいるでしょう。どちらも多くの人が
感じる気持ちでしょうが、これらの言葉で片づ
けてしまうのでなく、知ることを出発点にしな
ければと思います。みなさんもまずこの本を読
んで、知ることから始めてみませんか?
くらやみの速さはどれくらい。
こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?
このタイトルは、著者が、自閉症である息子か
ら実際に質問された内容からつけられていま
す。彼は、「光よりも暗闇のほうが速いはずだ
よ。だって最初に暗闇があるんだから。」と言
ったそうです。
学部の時から障害児教育を学んでいる私は、
様々な障害のあるたくさんの子どもと出会い、
係わってきました。自閉症といわれる子もいま
す。良い意味で、彼らには独特の世界観がある
ように思います。もしもその世界を覗くことが
できたら…そう思わない時はありませんでし
た。そんな時に出会ったのがこの本です。作品
自体はフィクションですが、ひとつひとつのエ
ピソードが非常に多くのことを物語ってくれま
す。まだ多くの誤解を受ける障害ではあるもの
の、この1冊の本をきっかけに、自閉症といわ
れる人たちの持つ世界観の一部分を知ってもら
えたら嬉しく思います。
10
こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
であると思っている。しかし、純粋な子どもか
らみれば、その中に子どもの心を捉えるものは
何一つない。ここには次のような一文がある。
「心で見ないと物事はよく見えない。肝心なこ
とは目に見えないということだ」これは目の前
にある現実をそのまま受け止めるのではなく、
心でみて、本当に大切なものが何かを考えよと
示唆していると感じた。
大人になっても、子どもの感覚を的確に、素
早く理解することが出来る人はどれくらいいる
だろう。子どもたちに“大切なこと”を伝えな
ければならない大人が、子どもより曇った目を
していてはいけないと心から思わされる一冊で
ある。
『新訳 星の王子さま(Le Petit Prince)
』
(アントワーヌ・ド・サン=テグジュベリ 作、
倉橋由美子 訳、宝島社、2005年)
数学教育専修1年:庄 司 貞 夫
子どもの感覚は鋭く豊かである。なぜか、本
を読み進めると、子どもは純粋で固定的な観念
がないからであろうと思われる。大人になるに
つれて、なにも考えず素直にものをみることは、
確かにできにくくなる。その例として6人の大
人たちが登場してくる。その大人たちは、思い
込んだら最後といわんばかりに執拗な固定観念
に縛られていて、それぞれのものが大事なこと
『いのちの教科書』
『そのときは彼によろしく』
(金森俊朗 著、角川書店、2003年)
(市川拓司 著、小学館、2004年)
学校教育専攻4年:村 松 芳 恵
数学教育専攻4年:田 齋 佑 紀
本著は、石川県で小学校教師をしている金森
先生が書いたものである。私がこの本と出会っ
たきっかけは、大学の授業である。金森先生の
実践をおさめたNHKのテレビ番組とともにこ
の本の存在を知った。
先生の行う「命の授業」は、様々な角度から
「命」に触れている。それを子どもたちが受け
止め、考える。「命」を粗末にする子どもたち
が増えている昨今では、このような教えはとて
も大切なものであろう。今後教育に携わってい
こうとする人も、そうでない人も、「命」につ
いて考え、また教えていかなければならない。
その手がかりのひとつとして、この本に書いて
ある実践を読んでみるのもよいのではないだろ
うか。金森先生の、「命」に対する真剣さ、そ
して子どもたちへの愛情が伝わってくる実践が
たくさん書かれている。そう簡単にできるもの
ではないが、心に残るものがあると思う。
この話は、幼なじみの3人が再会するのです
が、思わぬ形となってしまう、そんな3人の心
理を巧みに描いた話です。映画になったのでご
存知の方も多いかと思います。
人は別れを惜しみ、再会を喜びます。ただし、
再会の仕方によっては必ずしも喜ばしいものと
は限りません。自分にとってうれしい再会でも、
相手にとってはそうでないことも。
この話の主人公は、別れを告げるヒロインに
「ずっと待ち続ける」と決意を伝えます。それ
が彼女にとって喜ばしいことではないのです。
自分の気持ちと相手の気持ち、両方を考える
と、パンクしそうになります。でも、片方しか
考えなかったら、なんとも乗り心地は悪いもの
となってしまいます。
空気とか感情は目に見えない。見えないのに
どうして僕らはこんなにも気にするのか。それ
は心に訴えかけてくるからなのでしょうね。
この本を読んで一度確認してみてはいかがで
すか、みなさんの心の空気圧。
ここは学生の皆さんが最近読んだ本、印象が強か
った本、お勧めの本などについて自由に選んでいた
だき紹介してもらうコーナーです。図書のみとし、
雑誌は除外しています。
たくさんの原稿が集まりました。ありがとうござ
いました。
いただいた原稿を編集委員会で選定し掲載させて
頂きました。
今後もこの企画を継続していきますので、皆さん
からの投稿をお待ちしています。
ここに紹介する本は図書館入り口の書架に「学生
の読書室」として配架しています。
【原稿大募集】
次号発行は3月の予定です。
名前、所属、学年、連絡先と、紹介する本の書名、
著者名、出版社を記入の上、400字以内で、図書館
カウンターにフロッピーディスクで、または下記ア
ドレスへお送り下さい。
尚、「こもれび」の記事は図書館のホームページ
でも公開されます。
mokuroku.seiri@staff.miyakyo-u.ac.jp
図書館に所蔵していない図書については、学生希
望図書として図書館に購入希望を出していただくこ
とも出来ます。
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こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
新任教員からひとこと:『私と図書館』
図書館での出会い
数学教育講座
田 谷 久 雄
小学生時分には本よりキャッチボールが好
きる場所となった。絶版になった書籍もここ
きだった私であるが、なぜか時々区立図書館
なら手にすることができる。偉大な数学者の
には出かけていた。学校の図書館へ行くのは
論文も手の届くところに置いてある。
ガリ勉君のすることで格好悪いと思っていた
私の専門は数学である。時として数学は紙
こともあるが、読んでいた本はたいてい推理
と鉛筆さえあればできると言う人がいる。今
小説だったということもあるかも知れない。
の時代ならこれに計算機も加えるのかも知れ
それでも思索に耽るということに出会った。
ない。しかし、数学研究の実態はそうではな
これは瞑想するほどの知的準備がない段階
い。長い歴史を持つ数学の中で自分のアイデ
で、物語をたよりに自分の世界に浸るという
アだけで新しい成果を出そうということは、
新鮮な体験だった。
幼子が自分一人で考えて算数の教科書を作る
中学生になると生活習慣も変わり、随分と
ようなものである。数学の研究で大切なこと
勉強に時間を割くようになった。しかし、そ
は前人の素晴らしいアイデアを如何に吸収す
れに伴って図書館にはあまり足を運ばなくな
るかである。そのためにはアイデアの宝庫で
ったと思う。学校の図書館に行くのはガリ勉
ある数学の専門誌は欠かせない。数学に限ら
君と思っていたが、いざ自分で勉強を始める
ず、本を読むことで自分の知らない世界を学
と学習の場所は図書館である必要はなかった
ぶことができるわけだが、こと数学に関して
わけだ。ある種の受験勉強というものは題材
は、前人の研究の足跡を辿り、そのアイデア
を探して勉強するのではなく、すでに準備さ
と出会い、自分のものにすることが特に重要
れたものを学習するのだから、気が散らない
である。如何に突発的な優れたアイデアも、
環境さえあればどこでも良かったのだ。むし
それが理路整然と説明できなければ数学とし
ろわかった時に「ヨッシャ」と呟いたり、時
ての価値は認められないし、今ある定理は古
に逆立ちをして頭に血を上らせたりと、多少
くから続く証明の続きとして得られた一つの
の奇行ができる場所の方が心地よかった。
経過的結果に過ぎないのだから。
高校では大学の系属校に進んだためか、受
最近は電子化の影響で図書館との付き合い
験勉強に縛られない生活ができた。図書館に
方も変わってきたが、雑誌代の値上げや大学
は教材のない学習課題に取り組むために出か
予算削減の影響で貴重な雑誌の購入が儘なら
けたほか、少し賢そうな大人がいるところで
なくなっている。図書との出会いは、いろい
その雰囲気を味わいたいという想いで大きな
ろな人達の知識との出会いである。目先の損
公立図書館にも足を運んだ。定期券も持って
得で知的資源が減ってしまう現状は、大学を
いたので電車に乗って都立図書館にも出かけ
大学でなくしてしまう危険性をもつ。院生時
た。図書館での調べ物はなぜか文学や歴史も
代に読んだコーツさんとワイルズさんの共著
のが多かったが、数学を勉強に来ていた女の
論文は、短いながらその巧みな手法に感動的
子に数学を教えるという幸運にも出会った。
な出会いを感じたものである(このワイルズ
これも一つの図書館での出会いである。
さんが後にフェルマーの大定理を解決する)
。
どうか今後も新たな出会いが見つかる図書館
大学生になると図書館との付き合いは一変
であって欲しいと切に願う。
する。これまでの公立図書館にはない専門書
が揃っている大学の図書館が唯一調べ物ので
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こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
新任教員からひとこと:『私と図書館』
図書室が怖かった
学校教育講座
久 保 順 也
図書室で過ごす生徒と関わることがたびたび
小学生の私にとって、図書室はちょっと怖
あった。彼ら/彼女らは他の生徒よりも遅め
い場所だった。
私の通った小学校は古い木造校舎で、図書
に登校して図書室で勉強したり本を読んで過
室は2階西側にあったのだが、午後になると
ごし、他の生徒に会わないようにして給食前
陽が入らず薄暗くなる。図書室独特の古い紙
に下校する。教室と家との間の中間領域が図
のにおいからは、時の流れが止まっているか
書室(または保健室)なのであった。校内に
のように想像され、一方で貸し出し記録には
あるけれど「学校」的ではない場所を彼ら/
何年も前の人たちの名前が連ねてあるのを見
彼女らは居場所として選んで毎日登校してい
ると、なんだか長い歴史の中に自分がいるよ
た。私はそこで一緒に本を読んだり話をした
うな気がした。江戸川乱歩の少年探偵団シリ
り、(あまり大きな声では言えないが)キャ
ーズや怪盗ルパンの単行本が置かれていて、
ッチボールをしたり、何もせずにただボーッ
表紙のおどろおどろしい絵はなんとも薄気味
と過ごしたりしていた。やはり図書室には、
悪かった。昼休みは子どもたちでにぎわう図
教室とは違う時間の流れがあった。多くの生
書室だが、授業中は誰もおらず静まりかえっ
徒にとっての非日常的な時空間は、一部の生
ていた。
徒にとっては安全な場となっているのだっ
た。
ある日の社会科の時間、私は先生から、図
書室に行って資料を持ってくるよう頼まれ
図書室はただ本があるだけの部屋、という
た。私は一人で図書室に行かなければならな
わけではないのだと思う。そこで過ごす者に
かった。使命感をもって教室を出たが、だん
いろいろな影響を与える部屋である。誰もい
だんと不安になってきた。図書室には誰もい
ないはずの図書室だが、やはりそこには何か
ないが、何かがいるような気がした。古い木
がいるのかもしれない。図書室にある無数の
造校舎の薄暗い図書室には、何かがいてもお
蔵書にはそれぞれ筆者がおり、さらに多くの
かしくない、と思える雰囲気があった。私は
読者がいて、それぞれの人生の痕跡が残され
図書室の木戸を開けて中をうかがい、サッと
てある。小学生の私は、薄暗い図書室に得体
資料を取って小走りに教室に戻った。追いか
の知れないものの存在を感じたのだが、書物
けてくるかもしれない。でも後ろは見たくな
から漏れ出す様々な人々の存在感に圧倒され
い。もちろん何も追いかけては来ず、任務は
てしまったのかもしれない。しかし一方で、
無事終了した。思えば当時の私にとって、授
図書室に「別室登校」する生徒たちは、むし
業を抜け出して一人で校舎内を歩くのは非日
ろ先人たちの存在感の中で守られ、その懐で
常的体験であり、誰もいない図書室は非日常
成長しているようであった。図書室で過ごす
的空間であった。些細な出来事だが、私にと
こととはつまり図書を通して先人と対峙する
っては肝試しのような不思議な体験であった
ことであり、それを経て子どもたちは外の現
ため、今でもよく覚えている。
実社会との対峙が可能になっていくのかもし
その後私は、大学で臨床心理学を学び、不
れない。小学生の私はまだ未熟で、先人と対
登校の児童生徒と実際に関わり合う機会を持
峙できるほど成長していなかったので図書室
つようになった。相談員やスクールカウンセ
から逃げ出してしまったのだろう。
それとも、単なる恐がりだったのかな。
ラーとして中学校に行って、教室に入れずに
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こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
新任教員からひとこと:『私と図書館』
研 究 室 貸 出
特別支援教育講座
永 井 伸 幸
織の教員では、所在地はよく知らないわ、顔
学生時代、先生方の研究室を訪問するたび
に膨大な蔵書に圧倒された。それがどういう
も名前も全く知らないわでお手上げだった。
内容の文献なのかは全く分からなかったが。
直接交渉という手もあるかもしれないが、そ
やがて学年が上がるにつれ、出入りする研究
こまでの度胸は私には無い。あきらめて別の
室も絞られ、それにつれて研究室に滞在する
資料を探したものだった。今となってみれば、
時間が長くなった。その頃になると専門領域
図書館に相談に行ったら何かいい手があった
の知識も増え、研究室の蔵書を見ると「あの
のかもと思うのだが。
先生の本だ」
、「あの分野の本だ」ということ
やがて私もそのようなシステムを利用でき
が理解でき、改めて大学教員というものは本
る身分となったが、これまでに「研究室貸出」
を読まねばならないし、本代にかなりの経費
を使ったことは無い。大きな理由は、流動性
をつぎ込まねばならないものなのだと思った
の高い身分だったので、必要な資料は自分で
ものだった。そのうち、図書館のシールが貼
持っていけるようにしておきたかったことで
られた本が、常に本棚の同じ位置にあり、し
ある。
かもシールが貼られているのは、洋書の十数
そしてこの春から本学で教育と研究に携わ
冊のシリーズだったり、分厚いハンドブック
ることになった。まずはとにかく授業を、と
だったり、いかにも高そうな本に多いことに
私なりにがんばっているところであるが、さ
気付いた。期限がきて一度図書館に持って行
っそく図書館がらみで困ったことが生じてし
って更新するのも大変だし、第一そんな姿を
まった。ある日、図書館の蔵書をざっと確認
見たことがないと不思議に思い、質問してみ
し、学生にテーマを渡して調べてくるよう指
たところ、「教員特別貸出」という制度があ
示し、「必要な資料は図書館にあるから」と
るのだとの回答であった。本学では「研究室
伝えた。しかし、改めて調べてみると、当然
貸出」といわれている、研究費等の経費で購
あると思っていた資料がなかったり、古かっ
入した本が教員に対して貸し出され、実質そ
たり、研究室貸出だったりで、必要な資料が
の大学にいる間ずっと手元に置いておけると
十分でないことが分かったのである。しかた
いうシステムである。このシステムのありが
なく、手持ちの資料を人数分用意し、学生に
たみを実感するようになったのは、卒業研究
配付した。学生達は自分で見つけた資料と合
に取り組むようになった大学4年生から大学
わせていいレポートをしてくれたが、この状
院生の頃である。序論をまとめるのに、実験
態を放置しておくと、「そんなことは図書館
方法、データの分析方法を調べるのに、考察
で調べてきなさい」に対して「本が無いから
の資料にと、必要な専門書が研究室に備わっ
無理」で返されておしまいである。ではどう
ているので非常に便利であった。
するか。図書館の所蔵数を増やすしかない。
一方で、このシステムに振り回された面も
そのためには図書館費で購入をお願いすると
ある。必要な資料をOPACで調べると、探し
ともに、私が資料を選んで自分の経費で購入
ていたものが検索に引っ掛かってくる。ラッ
し、研究室に置かずに図書館に置く必要があ
キーとばかりに詳細情報を見ると、「教員特
る。
ということで、「研究室貸出」実行は、ま
別貸出中」の文字が。所有者が自分の知って
だまだ先のこととなりそうだ。
いる教員ならお願いに伺うところだが、他組
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こもれび【宮城教育大学附属図書館ニュース】112号
Q&A
図書館利用
∼図書館をもっと活用するために∼
Q1. 図書館利用証はいつまでも使えますか?
A1. 在学期間中は使えます。卒業すると「学外者」となりますので、最初の利用の際に住所な
ど証明できる物を持参の上、改めて利用申請登録を行ってください。
Q2. 本を返そうと思ったら図書館の閉館日でした。どうしたらいいですか?
A2. 図書館入り口に「ブックポスト」がありますので、そちらに返却してくださ
い。
休館日は図書館ホームページの「図書館カレンダー」をご覧ください。
Q3. 借りた本の返却を忘れていました。罰則がつきますか?
A3. 返却期限を大幅に過ぎると罰則が付き、「貸出停止」となります。
次の方が予約で待っている資料もありますので、至急お返しください。
Q4. 借りた図書の貸出期間を延長したい時は、どうしたらいいですか?
A4. 返却期限内であれば貸出期間を延長することができます。お手数ですが、自動貸出機(通
称:ABC)かカウンターで手続してください。ただし、返却期限を過ぎた資料・次の方の
予約が入っている資料・既に2回貸出期間を延長した資料は貸出期間の延長はできません。
Q5. 図書館で借りた資料を無くしてしまった(破損した場合も
含む)のですが、どうしたらいいですか?
A5. カウンターにその旨をお申し出ください。
ご本人の過失による紛失・破損の場合は同一の資料を弁償
していただきます。同一の資料が手に入らない場合はカウ
ンターにご相談ください。
Q6. 読みたい図書は、どう探したらいいですか?
A6. 図書館内に5台の蔵書検索=通称:OPAC(オーパッ
ク)用パソコンがあります。
使用方法は、カウンタースタッフにお聞きください。
自宅からでもこのOPACにアクセスできます。図書館
ホームページの「蔵書検索」→「学内蔵書検索
(OPAC)」をクリックしてください。
Q7. 読みたい図書が、図書館に無い時はあきらめるしかないですか?
A7. カウンター前の「購入希望資料申込書」に記入し、所定のボックスに入れてください。担
当者が選定し、購入します。また、他大学図書館に貸借を申し込むこともできます。カウ
ンターにご相談ください。
Q8. パソコンの持ち込みはできますか?
A8. 可能です。
Q9. 持ち込んだパソコンでインターネット接続できますか?
A9. 図書館内には、無線LAN対応の場所が多くあります。(有線LANを使用する場所もありま
す。)
但し、利用するためのIDとパスワードが必要ですので、カウンターに申し出てください。
Q10. インターネットを使用できるパソコンはありますか?
A10. カウンター前に、11台あります。内9台は情報処理センターで取得し
たIDとパスワードが必要です。
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Q11. CDやDVD、ビデオを見ることはできますか? 自分のものを持って行ってもいいの?
A11. 図書館2階のAVブース(10台)で見ることができますので、カウン
ターでヘッドホンを借りてください。自分のCDやDVD、ビデオを持
ち込んでもO. K. です。
Q12. レポートを書くため文献を探したいのですが、どこから探せばいいですか?
A12. 図書館ホームページの「情報検索」→学術情報リンク集の「論文記
事を探す」・「新聞記事を探す」・「その他の情報を探す」などを
クリックすると、論文や新聞記事を検索できるデータベースの一覧
があります。各ツールの詳しい使用方法については、カウンターに
お聞きください。図書館では皆様の調べもののお手伝いをしていま
す。どうぞお気軽にカウンターにご相談ください。
Q13. コピー(複写)はできますか?
A13. コイン式のコピー機が3台あります。内、1台はカラーコピーもできま
す。白黒は1枚10円、カラーコピーは1枚50円となっています。両替は
カウンターに申し出てください。
表紙の解説
クローンで増える植物
―ユキノシタ―
学務主幹付教務企画専門職
佐 藤 秀 二
表紙の花は「ユキノシタ」と言います。花期は6月∼7月上旬で、湿った半日陰の岩場に生え、ご覧
のように可愛い花を咲かせます。しかし、この植物には雄しべ、雌しべもあり、虫も来るのですが、な
ぜか種子を付けません。では、どのようにして子孫を残すのかというと、根元から花を咲かせる茎のほ
かに、ランナー(走出枝、匍匐枝)という赤い枝を四方に伸ばし、節が地面に着くと、そこから根が出
て成長し増えていきます。言ってみれば自分のクローンを次々に作り、繁殖していくわけです。
ユキノシタは、和名で「雪の下」と書き、白い花弁を雪に見立てたとか、冬でも雪の
下で葉が枯れずに残っていることから名付けられたと言われています。また、中国では
「虎耳草」と言い、模様のある葉を虎の耳に見立てたとのことで、日・中双方とも、な
かなか味のあるネーミングですね。
さて、このユキノシタですが、人間にとって有用な植物で、昔は皮膚のできものに、
葉を焼いて柔らかくして貼ったり、葉の絞り汁を塗るなど、薬用植物として重宝されま
した。このため、寺社の石垣や民家の井戸のそばに植えられているのをよく見かけまし
た。私は、このような特性から、人間がユキノシタの繁殖に一役買ったのではないかと
考えています。
(写真は葉とランナー)
そうしゅつし
こ
ほ ふく し
じ そう
編集委員 附属図書館運営委員会委員 藤田 博(英語教育講座)
編集
後記
笠間 賢二(学校教育講座)
4人の先生から、これまで歩んでこられたエピソードを交えて、図書館をより有効に活用す
べきとのご意見を、それぞれの角度からご執筆頂きました。学生の皆さんにその主旨が伝わり、
授業の前と後に足繁く図書館に通って頂けたら嬉しい限りです。多目的閲覧室も、自由に勉強
のできるスペースとなりました。暑い夏も冷房が効いていますのでご利用下さい。
(Y. S.)
編集・発行:宮城教育大学附属図書館 〒980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉149 平成19年7月10日発行
附属図書館オフィシャルサイトURL http://www.lib.miyakyo-u.ac.jp/