社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE. 低光損失および高信頼性を備えた 大規模光スイッチネットワークの設計手法 佐藤 丈博† 芦沢 國正† 徳橋 和将† 大木 英司†† 石井 大介† 岡本 聡† 山中 直明† † 慶應義塾大学理工学部情報工学科 〒 223–8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3–14–1 †† 電気通信大学情報理工学部情報・通信工学科 〒 182–8585 東京都調布市調布ヶ丘 1–5–1 E-mail: †t-sato@yamanaka.ics.keio.ac.jp あらまし 現在のインターネットの消費電力を大幅に削減する手法として,1 台の大容量ルータと数千から数万のユー ザを 1 ホップで接続する光アグリゲーションネットワークが提案されている.本研究では,多段に接続した 2x2PLZT 光スイッチを用い,ツリー型トポロジとリング型トポロジの特徴を組み合わせることにより,低光損失および高信頼 性を満足する全光アグリゲーションネットワークを構築する手法について検討を行った. キーワード 光アグリゲーション,全光ネットワーク,光スイッチ,光損失,信頼性 A Design Method of Large Scale Optical Switching Network with Low Optical Loss and High Reliability Takehiro SATO† , Kunitaka ASHIZAWA† , Kazumasa TOKUHASHI† , Daisuke ISHII† , Satoru OKAMOTO† , Eiji OKI†† , and Naoaki YAMANAKA† † Department of Information and Computer Science, Faculty of Science and Technology, Keio University 3-14-1 Hiyoshi, Kohoku, Yokohama, Kanagawa, 223-8522 Japan †† Department of Information and Communication Engineering, Faculty of Informatics and Engineering, The University of Electro-Communications 1-5-1 Chofugaoka, Chofu, Tokyo, 182-8585 Japan E-mail: †t-sato@yamanaka.ics.keio.ac.jp Abstract An optical aggregation network, which connects an giant router and thousands of users in one hop, has proposed to reduce the power consumption of today’s Internet greatly. This paper shows a design method of an all-optical aggregation network using 2x2 PLZT optical switches. The proposed architecture achieves both low optical loss and high reliability by combining the features of tree topology and ring topology. Key words optical aggregation, all-optical network, optical switch, optical loss, reliability 1. ま え が き 在のインターネットは全体としてメッシュ型のトポロジを有す るため,データセントリックには本質的に不向きである. 近年,インターネットの普及にともなうトラヒック量の増 現在のインターネットにおける諸問題を解決可能な新世代 加およびネットワークの大容量化により,ネットワーク機器 ネットワークとして,サービスクラウド型光アグリゲーション の省電力化が課題となっている.全世界におけるネットワー ネットワークが提案されている [3].図 1 に光アグリゲーション ク関連機器の消費電力は年率 12%以上で増加しており,2020 ネットワークのアーキテクチャを示す.光アグリゲーションネッ 年には 970 億ワットに達すると予想されている [1].また,イ トワークでは,現在のインターネットを構成する多数のルータ ンターネットのトラヒックの主流は Peer-to-Peer (P2P) から を 1 台の大容量ルータに集約し,AWG (Arrayed Waveguide Client-to-Data-center (C2D) に移行しつつあり,2009 年には Grating) および光スイッチ等のデバイスを用いて,数千から数 C2D のトラヒックが全体の 52%を占めている [2].しかし,現 万のユーザをトランスペアレントな光伝送により 1 ホップで接 —1— ᐜ㔞䝹䞊䝍 LT LT : Line Terminal 䝃䞊䝡䝇䜽䝷䜴䝗 ᐜ㔞䝹䞊䝍 䝃䞊䝡䝇䝃䞊䝞 1䝩䝑䝥 2x2ග䝇䜲䝑䝏 AWG䠈 ග䝇䜲䝑䝏➼ ග䜰䜾䝸䝀䞊䝅䝵䞁 䝛䝑䝖䝽䞊䜽 䈈 䈈 䈈 䈈 䈈 䈈 䈈 䝴䞊䝄 LT 図 1 光アグリゲーションネットワークのアーキテクチャ 㟁ᴟP P : On P : Off 㟁ᴟQ Q : Off Q : On (a) ᵓ㐀 (b) Cross䝰䞊䝗䛾ືస (c) Bar䝰䞊䝗䛾ືస 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011 1213 1415 䝴䞊䝄Ꮿෆ⨨ 図3 ᑟἼ㊰ ツリー型トポロジ (収容ユーザ数 N = 16) ᐜ㔞䝹䞊䝍 LT(0) LT(1) 図 2 PLZT 光スイッチの内部構造および動作 続する.試算によると,ルータの集約により,現在のインター ネットの消費電力を最大で 1/1000 まで削減可能である.本ネッ トワークはツリー型の論理トポロジを有するが,実運用におい ては低光損失性や耐障害性を備えた物理トポロジが必須となる. LT(0) 本研究では,10ns 以下の超高速方路切り替えを達成する PLZT (Plomb Lanthanum Zirconate Titanate) 光スイッチ [4] を使用 LT(1) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 䝴䞊䝄Ꮿෆ⨨ 10 11 12 13 14 15 した,低光損失および高信頼性を備える全光アグリゲーション 図 4 2 重化ツリー型トポロジ (収容ユーザ数 N = 16) ネットワークの設計手法について検討を行った.図 2 に PLZT 光スイッチの内部構造および動作を示す.PLZT 光スイッチは を示す.ツリー型トポロジは PON (Passive Optical Network) 2x2 を基本とするマッハツェンダ型光スイッチであり,電極に などのアクセスネットワークにおいて用いられる.ツリーが 2 電圧を印加することにより所望の方路へ光信号をスイッチング 分木の場合,各パラメータの値は以下の式で算出される. する.2x2 光スイッチをアレイ状に接続し同期制御することに より大規模な光スイッチを構築可能である.本研究では,光ア グリゲーションネットワークのトポロジ自体の特性に着目し, max Ui = 1 − (1 − u)⌈log2 N ⌉ (1) max Li = ⌈log2 N ⌉l (2) i i S = N −1 2x2 光スイッチの配置問題としてネットワークアーキテクチャ の検討を行った. 2. 基本トポロジの特性 (3) u は 2x2 光スイッチ単体の unavailability,l は 2x2 光スイッチ 単体の挿入損失である. また,PON における信頼性向上手法として,ネットワーク 本章では提案に先立ち,現在のネットワークにおいて用いら れているツリー型トポロジおよびリング型トポロジを,2x2 光 スイッチを用いて構築した場合の特性について述べる.各トポ ロジについて,以下の 3 つのパラメータに着目し評価を行う. の全 2 重化が ITU-T G.983 において type C として勧告され ている [5].本勧告にしたがいツリー型トポロジに 2 重化を適用 した場合を図 4 に示す.各パラメータの値は以下の式で算出さ れる. • ユーザ i(i = 0, 1, 2, . . . , N − 1) の unavailability Ui • 大容量ルータ‐ユーザ i 間における光損失 Li max Ui = (1 − (1 − u)⌈log2 N ⌉ )2 (4) • N ユーザの収容に必要とする 2x2 光スイッチ数 S max Li = ⌈log2 N ⌉l (5) S = 2(N − 1) (6) i i Ui は 2x2 光スイッチの故障によりユーザ i が大容量ルータ と通信不可能となる時間の割合であり,1 から availability(可 用性)を減じた値に等しい.Ui および Li の値はユーザによっ て異なるため,ワーストケースである maxi Ui および maxi Li を基準に評価を行う.なお本研究では,大容量ルータ,ユーザ 宅内装置および 2x2 光スイッチ間を接続する光ファイバによる Ui および Li への影響は無視した. 2. 1 トポロジの分析 2. 1. 1 ツリー型トポロジ 図 3 に,2x2 光スイッチを用いて構築したツリー型トポロジ 2. 1. 2 リング型トポロジ 図 5 に,2x2 光スイッチを用いて構築したリング型トポロジ を示す.リング型トポロジは ROADM (Reconfigurable Opti- cal Add/Drop Multiplexer) リングや SONET (Synchronous Optical Network) リングなどのメトロエリアネットワークにお いて用いられる.各パラメータの値は以下の式で算出される. N−1 ⌉ 2 max Ui = u+(1−u)(1−(1−u)⌈ N−1 ⌋ 2 )(1−(1−u)⌊ ) (7) i max Li = N l (8) i —2— LT(0) ᐜ㔞䝹䞊䝍 LT(1) 0 15 1 14 LT(0) LT(1) 2 3 図5 4 5 6 7 8 9 䝴䞊䝄Ꮿෆ⨨ 10 11 12 13 リング型トポロジ (収容ユーザ数 N = 16) S = N (9) maxi Ui はリングの中間地点,すなわちユーザ ユーザ数 N が偶数の場合)あるいは N 2 N −1 (N 2 − 1, 図6 N (収容 2 基本トポロジにおける maxi Ui の比較 - が奇数の場合) - の unavailability である.また,maxi Li は,大容量ルータに隣 - 接するユーザが,大容量ルータの反対側の LT (Line Terminal) - から信号を受信する場合の光損失である. - 2. 2 トポロジの比較 2. 1 で述べたトポロジについて,収容ユーザ数 N に対する unavailability のワーストケース maxi Ui ,光損失のワースト ケース maxi Li および 2x2 光スイッチ数 S の値を,それぞれ 図 7 基本トポロジにおける maxi Li の比較 図 6 から図 8 に示す.2x2 光スイッチ単体の unavailability は u = 10−6 ,2x2 光スイッチ単体の挿入損失は l = −1(dB) と仮 定した. 図 6 より,収容ユーザ数 N が十分に小さい場合,リング型ト ポロジがツリー型トポロジと比較して unavailability のワース トケース maxi Ui が低くなる.これは,リング型トポロジでは リング上において障害が発生した場合に反対回りの経路を用い て通信を継続可能であるためである.ただし,N が大きい場合 は,大容量ルータ‐ユーザ間における経由光スイッチ数の増加 図 8 基本トポロジにおける S の比較 により,ツリー型トポロジがリング型トポロジを逆転する.ま た,2 重化ツリー型トポロジでは,大容量ルータ‐各ユーザ間 に独立した 2 経路が存在するため,maxi Ui を大幅に削減可能 である.しかし,図 8 に示すように,N ユーザの収容に必要な max Ui < = U (i = 0, 1, 2, . . . , N − 1) i (10) max Li < = L (i = 0, 1, 2, . . . , N − 1) i (11) 2x2 光スイッチ数 S が 2 倍となり,敷設および運用コストの増 U は unavailability の保証値であり,事業者が SLA (Service 大が予想される. Level Agreement) にしたがい独自に設定する.また,L は大 図 7 より,光損失のワーストケース maxi Li ではツリー型ト ポロジがリング型トポロジと比較して優れている.これは,大 容量ルータ‐ユーザ間における経由光スイッチ数が,リング型 トポロジでは収容ユーザ数 N にしたがって増加するのに対し, 容量ルータ‐ユーザ宅内装置間で許容されるロスバジェットで ある. 本制約条件の下で, N ユーザの収容に必要とする 2x2 光ス イッチ数 S を最小化することを目的関数とする. ツリー型トポロジではツリーの段数 ⌈log2 N ⌉ にしたがって増 3. 2 提案アーキテクチャ 加するためである. 図 9 に本設計手法における提案アーキテクチャを示す.本提 以上をふまえ,次章では 2x2 光スイッチを用いて小規模なリ 案では,2x2 光スイッチを用いて小規模なリングをツリー状に ングをツリー状に組み合わせることにより,低光損失と高信頼 接続する.ツリー型トポロジの導入により大容量ルータ‐ユー 性を同時に達成する光アグリゲーションネットワークの設計手 ザ間における経由光スイッチ数を削減し,規定のロスバジェッ 法を提案する. ト以内で多数のユーザの収容を可能とする.また,2x2 光ス 3. 設計手法の提案 イッチのすべてのポートを利用して,各ユーザに対し同一のス 3. 1 制約条件および目的関数 重化ツリー型トポロジと比較して 2x2 光スイッチ数 S を削減 イッチを共有しない独立した 2 経路を設置することにより,2 本提案では,unavailability のワーストケース maxi Ui およ しつつ,unavailability のワーストケース maxi Ui の抑制を図 び光損失のワーストケース maxi Li について,以下の制約条件 る.図 9 中には,例として大容量ルータ‐ユーザ 2 間の 2 経路 を設定する. を点線で示している. —3— ղ LT(0) ᐜ㔞䝹䞊䝍 LT(1) ճ ռ’ ս’ N=210 ไ⣙᮲௳( =10-6) ձ տ’ շ վ’ ո’ ճ’ ջ մ’ ’ ն մ ձ’ ղ’ յ շ’ ո պ յ’ ն’ չ ռ չ’ տ ջ’ վ ս պ’ ղղ’ LT(0) ’ձձ’ LT(1) 0 ճճ’ մմ’ յյ’ նն’ շշ’ ոո’ չչ’ պպ’ ջջ’ ռռ’ սս’ վվ’ տտ’ 図 10 提案アーキテクチャにおける maxi Ui の比較 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 䝴䞊䝄Ꮿෆ⨨ 10 11 12 13 14 N=210 15 - 図 9 提案アーキテクチャ(収容ユーザ数 N = 16,リング段数 M = 2) - 3. 3 光アグリゲーションネットワークの設計例 - 本節では,提案アーキテクチャによる光アグリゲーション - ไ⣙᮲௳( =-29) ネットワークの具体的な設計例を示す.本設計例では WDM (Wavelength Division Multiplexing) を用いた光アグリゲー ションネットワークを想定し,1 波長あたりの収容ユーザ数を 図 11 提案アーキテクチャにおける maxi Li の比較 N = 210 と仮定した.2x2 光スイッチ単体の unavailability は u = 10−6 ,2x2 光スイッチ単体の挿入損失は l = −1(dB) と N=210 仮定した.unavailability の保証値は U = 10−6 に設定した. また,ロスバジェットは IEEE802.3av 10GE-PON (10Gigabit Ethernet-PON) [6] を参考に, L = −29(dB) に設定した. 2㔜䝒䝸䞊( =2046) 最初に,M = 1, 2, 3, . . . , ⌈log2 N ⌉ を満たす各 M に対して, M 段のリングからなるネットワークを作成する.1 段目および 最下段を除く各段のリングは,2x2 光スイッチを用いて 1 個の 親リングおよび (2 のべき乗) 個の子リングと接続する.ただし, 図 12 1 段目のリングは (2 のべき乗+1) 個の子リングと接続する.最 提案アーキテクチャにおける S の比較 下段のリングは (2 のべき乗 x2) 台のユーザ宅内装置と接続す ユーザあたり 2 経路の確保により,低光損失および高信頼性を る.ただし,図 9 中に×印で示したポートは,接続したユーザ 達成しながら多数のユーザを収容可能であることを示した. に対し同一のスイッチを共有しない独立した 2 経路を提供する ことが不可能となるため,使用しない.各段における 2x2 光ス イッチ数は,その差が最小になるように設定する. リング段数 M に対する unavailability のワーストケース maxi Ui ,光損失のワーストケース maxi Li および 2x2 光ス イッチ数 S の値を,それぞれ図 10 から図 12 に示す. 図 10 より,本設計例ではすべてのリング段数 M において unavailability に関する制約条件 maxi Ui < = U を満たしてい < 10 において光損失に関する制約条 M る.図 11 より,4 < = = 件 maxi Li < = 10 の =M < = L を満たしている.したがって,4 < 範囲で最も 2x2 光スイッチ数 S の小さい M = 4 のネットワー クを選択する.本設計例では,2 重化ツリー型トポロジと比較 して光スイッチ数を 28%削減する. 4. む す び 本研究では,2x2PLZT 光スイッチを用いた光アグリゲーショ ンネットワークの設計手法として,小規模なリングをツリー状 謝 辞 本研究は,科研費 22500068(C) の助成を受けたものである. 文 献 [1] M. Pickavet, et al, “Worldwide Energy Needs for ICT: the RISE of Power-Aware Networking,” IEEE ANTS 2008, Bombay, India, December 2008. [2] D. McPherson, “ATLAS Internet Observatory,” ISOC Researchers, IETF76, Hiroshima, Japan, November 2009. [3] H. Takeshita, et al, “High-energy Efficient Layer-3 Network Architecture based on Solitary Universal Cloud Router and Optical Aggregation Network,” COIN 2010, TuC1-2, pp. 138-140, Jeju, Korea, July 2010. [4] K. Nashimoto, “PLZT Waveguide Devices for High Speed Switching and Filtering,” OFC/NFOEC 2008, OThE4, San Diego, USA, April 2008. [5] ITU-T Recommendation G.983.1, “Broadband optical access systems based on Passive Optical Networks (PON),” January 2005. [6] IEEE Standard 802.3av, “Part 3: Carrier Sense Multiple Access withCollision Detection (CSMA/CD) Access Methodand Physical Layer Specifications,” October 2009. に多段接続する方式を提案した.大容量ルータ‐ユーザ間の経 由光スイッチ数の削減,および 2x2 光スイッチを活かした各 —4—
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