画像変換技術 - レーザー学会

(社)レーザー学会第 339 回研究会
「画像変換技術」開催報告
第 339 回レーザー学会研究会「画像変換技術」は,映像情報メディア学会(ヒューマンインフォメー
ション研究会,情報ディスプレイ研究会)
・SID 日本支部・電子情報通信学会・電気学会との共催で,機
械振興会館(東京都港区芝公園 3-5-8)に於いて 2005 年 10 月 5 日(水)10:30 より開催された.講演
件数は 9 件で参加は 36 名であった.
まずは,招待講演として「放送用マスターモニターを前提としたLCDとCRTのARIBでの主観
評価実験」というタイトルで TBS の清水氏より講演がなされた.ARIB(アライブ,電波産業界のこと)
において平面ディスプレイ タスクグループが設立され,放送用マスターモニターとして LCD を使用す
るための要求条件を設定する試みがなされている.本講演は一般向けの OCB(Optical Compensated Bend)
方式液晶テレビについて行った主観評価の結果についての報告であった.標準とされる CRT モニターと
LCD モニターでの 22 種類の画像を 36 人の映像専門家で感応比較評価した.その結果,LCD は CRT と同
等かやや劣る画質であり,LCD では動解像度が低いこと,暗部で若干浮き上がる映像になること,比較
的解像感があって動きがある映像で劣ること,等が結果として現れた.これらを元にした LCD の性能要
求も報告され,Y レベル 940 入力で 100∼250 カンデラ,視野角±45 度,階調性 10bit 以上,色再現と
ガンマ特性は ITU 勧告 709 準拠,解像度 1920x1080(HV フルスペック)
,低遅延(信号入力と画像表示
の遅延)の低減などが提言された.会場からは要求性能に関するメーカーからのコメントなどもあり議
論が展開された.
続いて,
「動きぼやけの主観評価結果と MPRT 測定結果の相関」として,三菱電機(株)先端技術総合
研究所入出力技術部の染谷氏から報告がなされた.LCD の動きぼやけを測定する MPRT という手法と,人
が知覚する「ぼやけ」との整合性を主観評価実験で検証していた.MPRT(Moving Picture Response Time)
では CCD カメラによる画面上の移動するエッジのトレース測定を行う.そこで,白黒のエッジパターン
を水平にスクロールする際に LCD では感じるぼやけを,CRT 上のぼやけたエッジの水平スクロールとの
感応比較で一致させることで測定し,MRT 測定結果と比較した.その結果,両者に於いて非常に良好な
相関性を示すことを確認できた旨が報告された.
午後最初の講演の「広色域ディスプレイの動向」は,三菱電機(株)先端技術総合研究所入出力技術
部の杉浦氏による招待講演で,従来の色空間をより拡張し,印刷工程に適用可能な広色域ディスプレイ
への同企業に於ける取り組みについて広色域 CRT, 広色域 CCFL 方式 LCD モニター, LED バックライト LCD
モニター, 多原色モニターの開発事例についてレビューされた.広色域 CRT は CIE 色度表に於ける面積
比が 135%まで広くなり,AdobeRGB 規格に準拠している.LED バックライト LCD モニターでは RGB の LED
を使うことでサブピークを BR 領域で押さえ,色混合を回避し色域を拡張に成功している.さらに LED
バックライトは白色色度点を調整可能であり,カラートラッキング性能についても CCFL バックライト
に比べて優れている.本ディスプレイを用いた,従来の色領域では再現できない色を含む画像と印刷物
の比較結果などについても紹介がなされた.
続いて,同じグループから,「6原色LEDバックライト液晶モニタの開発」の題目で染谷氏の講演
が行われた.波長の若干異なる 2 組の RGB-LED の 6 原色を利用する.2 組 RGB の LED は同時点灯時の白
色点輝度と色度をそろえており,CIE 色度表において,若干異なる領域をカバーできる様に設計されて
おり,交互に点灯させることで色領域を広げることが可能となる. 実際にモニターを試作し,色空間
を測定した結果,高輝度のシアンなどをよくカバーしており,米国オフセット印刷の標準色表 SWOP の
95.58%をカバーすることが示された(前述の 3 色 LED バックライト LCD で 80.52%, 従来の sRGB で 52.67%).
輝度が暗いことやフリッカーノイズが観測されるなど課題も提示され,今後の改良について取り組んで
いる旨が報告された.
興からは「変調機能を統合した半導体レーザー用 QPM-SHG デバイス」という題名で,二つの位相変調
部を集積した新しい変調型 PPMgLN 導波デバイスの設計および基礎実験に関する報告がなされた.擬似
位相整合 SHG デバイスの出力を高速変調するため,位相変調を組み合わせることで SHG から基本波に光
のパワーを逆流させて SHG 出力を変調することを可能にする.さらに 2 つの位相変調部を用いることで
SHG 光の位相関係ベクトルにおいて 3 角形を構成する様に位相関係を電気的に設定できるため,出力の
消光比が電気的に改善できる特徴を持つ.発表では基礎実験による実証や改良点などが提示された.
神奈川工科大学工学研究科の山口氏からは,「多方向撮像による三次元情報の抽出精度向上の検討」
という題名で,人工衛星から高分解能カメラによる多方向撮像計測を行い,若干角度の違う多方向撮影
の 2 次元画像から 3 次元情報を抽出・解析する手法に関する考察と,精度向上について検討した結果が
報告された.4 つの異なる撮像角の画像から 3 次元情報を抽出するため,2 つずつの画像を組み合わせ
た 6 つの 3 次元情報解析結果を比較し,異常データを除去しながら積算することで結果を得た.検討で
は計算機シミュレーションで作成した擬似画像を用い,さらに画像に加算性雑音と乗算性雑音を付加し
て処理を行っていた.その結果,S/N 比 40dB 未満では本手法が有効であることを示すことができた.逆
に 40dB 以上では 2 画像のみの情報抽出がうまく作用した.
「両眼立体視における接近運動の知覚特性に関する研究」は電気通信大学大学院情報システム学研究
科の王氏からの講演で,奥行き運動を裸眼で知覚する際の特性の評価実験を行った結果について報告さ
れた.偏光を利用した立体画像を利用して被験者に向かうターゲットをノイズとともに表示し,そのコ
ースと視認性を調査した.その結果,接近運動の視認性は平面運動のそれより低く,特に両目の中間に
向かうターゲットの視認性が低くなった.後者の結果は単眼視では問題ないことから,両目の網膜像の
移動量ベクトル和が小さいと視認性がおちるのではないかとの仮説が提示された.
「表示サイズに適応した都市景観再現手法の提案」は,三菱電機(株)情報技術総合研究所表示シ
ステム技術部の菅沼氏の講演で,モバイルの歩行者ナビゲーション画像の表示技術手法についての提案
がなされた.低解像度の画面に適応して,描画対象とするポリゴンを選択的に抽出して都市景観を表示
するアルゴリズムを開発しており,スカイラインによる建物群の作成・ポリゴンの重要度の算出を通し
て,表示するポリゴンを選択することで,表示サイズに応じた簡易表示を可能とする.実験でも小さな
サイズでは表示対象が削減されるが,スカイラインをほとんど崩さずに画質を維持できることが示され
た.
「画像修復アルゴリズムを用いたカメラの手振れ補正とその考察」では,三菱電機(株)先端技術
総合研究所映像処理基盤技術部映像ネットワークグループの藤山氏が講演し,デジタルカメラに於ける
撮像画像の手ぶれ補正の研究として,画像修復アルゴリズムを用いた信号処理による手法について報告
された.本手法は一切の手ぶれ補正のための機構を必要とせず,手ぶれの移動情報のみを用いてぶれた
画像を信号処理で修復する.フーリエ変換とぶれを示すインパルス応答関数を用いるが,画像の境界に
於ける問題やフーリエ変換の利用による画像の周期性にまつわるモデル化誤差などが従来の手法には
あることが提示された.研究ではこれを修復するためにぶれた画像をあらかじめ補正する手法が提案さ
れ,数値実験結果が示された.
研究会は活発に議論が交わされ非常に盛況であった.また,研究会の準備や当日進行については電子
情報通信学会幹事陶山史朗氏と,映像情報メディア学会監事染屋 潤氏,情報ディスプレイ研究会の栗
田氏に大変お世話になった.この場を借りてお礼を申し述べたい.
(担当委員:九州大学システム情報科学研究院 興 雄司)
本研究会資料の購入先: 映像情報メディア学会 TEL 03-3432-4677 E-mail: gyoji@ite.or.jp