ファストファッション「ZARA」の製品設計・製造 序論

ファストファッション「ZARA」の製品設計・製造
“The product design and manufacture of fast fashion 「ZARA」
序論
Introduction “
(キーワード:ファストファッション、ヒヤリング/フィールド調査、商品属性、商品企画、リバースエンジニアリング)
(KEY WORDS : Fast Fashion,Hearing/Field Survey ,
○宮武恵子(共立女子大学)
Product Category, Product Planning , Reverse Engineering)
○研究協力者 佐野希美子(日東紡績)
1.問題提起
デザインがファストファッション・ブランドから提案され
ファストファッションとは、2009 年の流行語大賞を受賞
るという不可思議なことが現実として起こっている。この
し、ファッションに興味のあまりない方も知っている単語
現象について、低価格の模倣品にファッション消費者は喜
である。この呼び方が一般的に広まったのは 2008 年 9 月
ぶが、明らかに他のブランドの知的財産権を侵害している
13 日、銀座 7 丁目中央通りに 4 層 1400 平方メートルの大
。独特のオリジナルデザインの欠如がファストファッショ
型店を開店した「H&M」の日本初出店の頃からと言われて
ン・ブランドを制約する最大の障害となっているとも言わ
いる。ファストファッションの言葉の定義は、手軽に、気
れている
3)
。
楽に、安く、日常的に着ることができる衣料品のことであ
ファストファッションの強みは「低価格でトレンドをく
る。ハンバーガーチェーンや牛丼チェーンのようなファー
み取った商品設計にあり、素材力、パターンや縫製は、プ
ストフードのような服という意味でファストファッショ
レタポルテ・ブランドの概念と反して粗雑」である。具体
1)
。
的には「縫製始末の工程を少なくしたり、ミシン目が粗か
「ZARA(スペイン))「H&M(スウェーデン))「TOPSHOP(
ったり少々の難にはこだわらない。見た目重視」なのであ
ンと呼ばれるようになった
イギリス)」「Foever21(USA)」などが代表ブランドとして
る。
あげられる。これらブランドは、世界各国で世界中の消費
者をターゲットとして展開されている。ファストファッシ
2.研究目的
ョンの強みは 3 つある。第一に、トレンド性の高いファッ
これらの背景を受けて、本研究の最終目的は、ファスト
ションを独自で企画開発し生産していること。第二に、多
ファッションの製品設計・製造の実態を明らかにすること
品種を低価格で提供していること。第三に、マーケットの
である。今回の発表では、序論として「ZARA」を基点に「H&M
動向に対応して、短いリードタイムで店頭に送り込むオペ
」との対比を含め、商品企画の分析及び、両ブランドの試
レーションを確立していること。加えて、ヨーロッパのコ
料をリバースして設計過程を推論する。また 2012 年 2 月
レクションのランウェイ(ファッションショー)に登場す
末から 3 月初めにかけて行ったソウル・上海各市場のファ
るハイ・ファッション並のトレンドをいち早く商品企画に
ストファッション分析のための試料について報告する。今
取り入れ、しかも誰もが気軽に買えるボリューム価格帯で
後の研究の方向性を示していくことを目的とする。
商品化を行い、素早くマーケットに送り出すことを強みに
し、それをビジネス・モデルとしているファッション業態
である。特に、「ZARA」はハイ・ファッションの廉価版を
志向し、そのコンセプトは最新ファッションを安く、早く
顧客に提供していると言われている
2)
。
3.研究方法
研究方法として、4 段階で分析をしていく。第一に文献
調査また先行研究から「ZARA」の実態を調査する
4) 5) 6)
。第二に、ヒヤリング調査を行う。ヒヤリング調査は、「
ファストファッションを論じる上でトレンド情報収集
ZARA」大阪・梅田店/東京・新宿店/ソウル店の販売スタッ
力に関して優秀なデザイナー達がいることが伝えられて
フ、大手ファッション小売業を展開する企画統括担当者、
いる。ファストファッションのデザイナーにとって情報収
「FOREVER 21」「C&A」商品を縫製している上海/虹口
集力が不可欠な条件である。情報収集は、プレタポルテ・
(Hong Kou)の縫製工場で行う。第三にフィールド調査を実
コレクションでも行える。半年先のトレンドを発表してい
施する。2011 年 6 月 14 日から 1 週間に 1 回~2 回間隔で
るので、情報収集した時点で、その要素を入れた商材を作
新宿「ZARA」店。2012 年 1 月 7 日~1 週間に 1 回~2 回間
りこめば半年待たなくともトレンドを反映した商品がで
隔で新宿「H&M」店。2012 年の 2 月末から 3 月初めにかけ
きるということになる。クリエイティブの発想及び発表を
て、ソウルと上海で調査を実地した。ソウルでは明洞(ミ
したのがラグジュアリー・ブランドであるのに、基のブラ
ョンドン)と新沙(シンサ)、上海では長寧店
ンドの商品が市場に出る前または同時期に、低価格で似た
(Cang Ning dian チャンディディ 龍之夢)、准海路
連絡先(共立女子大学 〒101-8437, 東京都千代田区一ツ橋 2-2-1, 03-3237-2496, 03-3237-2496, kmiyatake@kyouritsu-wu.ac.jp)
(Hiai Hai Lu ワイファイルー 路面店)、虹口( Hong Kow ホ
の試料に関しては、リバースを実地して、各国においての
ンコウ 龍之夢)にて、「ZARA」「H&M」を含めるファストフ
ファストファッションの実態、製品設計・製造の特徴等に
ァッション店舗と、ソウル及び上海市場で支持されている
ついて研究を深めていきたい。また、縫製工場でのヒヤリ
店舗を調査していく。第四に「ZARA」と「H&M」商品のリ
ング調査の資料を精査して、ファストファッションの製品
バースエンジニアリングを行う。「ZARA」については、ほ
設計の実態についての考察をしていきたい。
ぼ同デザイン、同素材の商品で、価格と生産地が異なる商
品を分析する。スペイン生産の価格 9990 円の商品とイン
ドネシア生産の価格 8990 円商品である。また、「ZARA」の
ジャケットの製品設計工程と比較する意味で、「H&M」のジ
ャケット 2 点を分析する。こちらは、デザイン、素材、価
格、生産地等の条件は異なっている。
4.研究結果と今後の研究の方向性
結果については、4 点あげることができる。
第一に商品の属性と商品企画・構成の推移についてであ
図 1 「ZARA」新宿店
る。「ZARA」の商品の属性は大分類としては 2 分類、小分
フィールド調査(事例)
類として 4 分類できる。それぞれの属性に応じて、商品設
計・製造の主なる目的と特徴が明確化されていることが推
スペイン産
測できる。
インドネシア産
第二に商品企画・構成の展開方法である。商品展開の推
移については、フィールド調査を綿密にすることにより理
解することが出来る。対比するために実地した「H&M」の
結果と比較すると、それぞれの商品構成の基盤と提案の仕
方が異なっている実態が明らかになる。
第三にデザイン展開についてである。コレクション・デ
ザイナーの作品をアイディア基点として、店舗展開される
同時期又は前に商品を提供している。トレンドを反映した
売れ筋のデザインやディテールを発見した際には徹底し
図 2 「ZARA」リバースエンジニアンリング(事例)
てその情報を反映している実態が明確になった。
第四にリバースエンジニアリングの結果である。「ZARA
」のリバースの結果において、異なる生産地で展開してい
参考・引用文献
1)
る意味及び完成製品の違いから推測分析ができている。今
後の発表で詳細を報告していきたい。さらに「H&M」のリ
川嶋幸太郎「ファストファッション戦争」産経新聞出版
2009 年 12 月 24 日、12 頁
2)
宮武恵子「ファッション・マルチチャネルシステムへの
バースと対比した分析結果についても合わせて報告して
進化過程に関する考察/ファッション SCM 論を基盤にし
いきたい。
て」宝塚造形芸術大学大学院
今後の研究の方向性としては、今回実地したソウル、上
海にて行ったフィールド調査、ヒヤリング調査、目的別に
3)
入手した製品試料を基に、ファストファッションの製品設
2006 年 3
中日経済情報週刊
http://j.peopledaily.com.cn/weekly/20100605/jinde
計及び製造について分析を進めていきたいと考えている。
「ZARA」のデザイン部門は、コマーシャル・チームと称さ
博士学位論文
月
x.html
4)
れ、約 300 名とされている。商品属性、企画、テーマ等チ
「Journal of Fashion Marketing and Management」Vol.13
No2,2009
ームとしてのフローを推論していくつもりである。フロー
5)
「サプライ・チェーン・フォーラム」誌 2003 年第 2 号
を基盤に企画発想の方法、素材調達、生産地決定の時期や
6)
「世界中を虜にする企業 ZARA のマーケティング&ブラ
依頼方法についても分析していきたいと考えている。一部
ンド戦略」2010 年 11 月