スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 一流男子ソフトボール打者のソフトボール打撃と野球打撃の比較 Comparison between softball batting and baseball batting performed by an elite male softball player 樋口貴俊 1) ,大嶋匠 2) ,彼末一之 3) Takatoshi Higuchi 1) , Takumi Ohshima 2) , Kazuyuki Kanosue 3) 1) 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 2) 3) 1) 早稲田大学スポーツ科学部 早稲田大学スポーツ科学学術院 Graduate School of Sport Sciences, Waseda University 2) 3) School of Sport Sciences, Waseda University Faculty of Sport Sciences, Waseda University キーワード:バッティング,競技転向,ベースボール型種目 Key words: batting, switching sports, baseball-type sports 抄 録 本研究では一流ソフトボール選手 A の野球とソフトボールでの打撃特性を報告し,異種競技へのスム ーズな移 行 を実 現 させるための有 用 な知 見 や情 報 を発 見 することを目 的 とした.ソフトボール及 び野 球 で用いるボール及びバットを用い,地上 0.8m の高さに設置したボールを各 30 球打ち,両競技での打撃 パフォーマンスの測 定 を行 った.その結 果 ,スイング速 度 はソフトボール用 バットを用 いた場 合 の方 が大 きかった(野球打撃:35.9 ± 0.6 m/s vs. ソフトボール打撃:39.3 ± 0.9 m/s).インパクト時のボール中 心からバット芯までの距離は野球打撃の方が短く(野球打撃:18 mm vs. ソフトボール打撃:29 mm),イ ンパクト位置の再現性(標準偏差の小ささで評価)も野球用バットの方が高かった(野球打撃: 9 mm vs. ソフトボール打撃:15 mm).また,インパクト時のバットの長軸の傾きを示す Tilt Angle は野球打撃の方が 有意に大きかった(野球打撃:-22.8 ± 0.8º vs. ソフトボール打撃:-21.2 ± 1.0º)が,インパクト前 5 ミリ 秒間のバット先端の軌道を示す Horizontal Angle は 2 つの打撃で有意な差は認められなかった(野球打 撃:2.0 ± 1.2º vs. ソフトボール打撃:1.5 ± 1.4º).投球を打つという事に関しては 2 つの競技は共通し ているが,バットの形 状 及 び慣 性 モーメントが異 なり,それがパフォーマンスに影 響 する事 が本 研 究 から 示唆される.この 2 つの競技間での転向を考えるアスリートは投手に合わせた打撃準備動作や投球飛翔 軌道への対応ばかりではなく,道具が変わることによる打撃特性の変化も認識しなければならない. スポーツ科 学 研 究 , 10, 26-33, 2013 年 , 受 付 日 :2012 年 7 月 13 日 , 受 理 日 :2013 年 2 月 2 日 連 絡 先 :樋 口 貴 俊 早 稲 田 大 学 大 学 院 スポーツ科 学 研 究 科 〒359-1192 埼 玉 県 所 沢 市 三 ヶ島 2-579-15 Tel & Fax: 04-2947-6826 e-mail: t-higuchi@fuji.waseda.jp 26 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 Ⅰ. 緒言 ートするためのエビデンスはほとんどない.たしか 人々にはどのスポーツを行うかを自由に選択で に競技転向のパターンは幾通りも存在し,選手の きる権 利 があるが,個 人 の身 体 特 性 や能 力 や生 競 技 転 向 をサポートするための普 遍 化 された科 活 環 境 ,所 属 可 能 なチームやリーグの有 無 によ 学 的 知 見 を見 出 すのは非 常 に困 難 である.しか っては本 人 が希 望 するスポーツを希 望 する場 所 し,各 選 手 の競 技 転 向 の試 みをケーススタディと やレベルで行 えない場 合 がある.特 に,好 結 果 を して蓄 積 することは,将 来 類 似 の転 向 を行 おうと 求 められ続 けるトップレベルの競 技 者 においては, するアスリートに情 報 を提 供 するという点 で大 きな 体 力 的 ・技 術 的 限 界 に直 面 し,別 の競 技 への転 意義を有 する.このような視点 から,本 研究では, 向を試みる者もいれば,オリンピック選手やプロ選 異 種 競 技 へのスムーズな移 行 を実 現 させるため 手 になるために競 技 転 向 を試 みる者 もいる.しか の有 用 な知 見 や情 報 を提 供 することを目 的 とし, し,野 球 とソフトボールのように似 通 ったスポーツ 当 時 日 本 のスポーツ史 上 初 めて男 子 ソフトボー でありながら,競 技 転 向 者 があまりいない例 もある. ルからプロ野球へ転向を目指していた選手 A の 野球 とソフトボールは共 にベースボール型 競 技 に 打 撃 特 性 について報 告 する.実 際 の打 撃 では, 分 類 され,投 手 の投 じたボールを打 者 がバットで 投 球 の飛 翔 軌 道 やタイミングの取 り方 が大 きく異 打 ち,走 者 を本 塁 まで進 めることによって得 た点 なる.そこで本 研 究 ではソフトボールと野 球 の道 数 を競 う競 技 である.打 つ,投 げる,走 るといった 具 の違 いが打 撃 パフォーマンスに及 ぼす影 響 を 要 素 や攻 守 のルールにおいては類似 した点 が多 検 討 するためにティー上 に設 置 された静 止 状 態 いが,使 用 するボール,投 手 の動 作 やルールに のボールを打つ課題を実施した. おいては違いがある.打撃 においては投 球 をバッ トの芯 と呼 ばれるバット先 端 からグリップエンド方 Ⅱ. 方法 向へおよそ 152 mm の箇所で正面衝突させた時, 1. 被験者と課題 打球速度は最大となる(Adair, 2002).しかし,野 選手 A(大 学男 子ソフトボール部所 属,捕手 , 球 とソフトボールは道 具 や投 球 飛 翔 軌 道 が異 な 身長 1.80 m,体重 95 kg,右投げ左打ち)には事 るため,一 方 の競 技 において適 切 なバットスイン 前 に測 定 内容 の説 明 を行 い,参 加の同 意 を得た. グでも,もう一 方 の競 技 においては適 切 ではない 測 定 としてバッティングティー(ミズノ製 )に設 置 さ 可能 性がある.しかし,ソフトボール打 撃と野球 打 れた硬式野球ボール(直径:約 74 mm,質量:約 撃 を比 較 した研 究 は本 筆 者 らが知 る限 りでは未 145.3 g,ミズノ製 )もしくは硬 式 ソフトボール(直 だない.両 方 の競 技 における一 流 打 者 の特 徴 を 径:約 97 mm,質量:約 187.8 g,ミズノ製)を 5 球 把 握 することは各 競 技 における打 撃 の特 徴 と競 ずつ交互に合計 60 球(野球打撃 30 球及びソフ 技転 向した打者 が考 慮 すべき要 因 の解 明につな トボール打撃 30 球)打たせた.ティーに設置され がるかもしれない. たボール中心の位置は地上 0.8 m とした.バット スポーツ科 学 において,スポーツ選 手 の競 技 は硬 式 野 球 ボールを打 つ際 には木 製 の硬 式 野 力 向 上 を目 的 とした研 究 は今 日 まで数 多 く行 わ 球 用 バット(ミズノ製 ),ソフトボールを打 つ際 には れてきた.しかし,その多 くはある一つの競技にお 金 属 製 (アルミニウム合 金 )の硬 式 ソフトボール用 いて競 技 経 験 者 がその競 技 でのパフォーマンス バット(ディマリニ製)を使用した.2 つのバットの特 を高 めるための研 究 であり,他 の競 技 を行 ってき 徴を表1に示す.設置されたボールに対する打者 た者にその競技への転 向の成功を科学的にサポ の立ち位置は選手 A が試し打ちを行い,最も打 27 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 ち易 いと感 じた位 置 で固 定 し,毎 試 行 同 じ位 置 にセット間 の休 憩 を必 要 とすれば休 憩 時 間 を延 に後 ろ足 を置 くように指 示 した.疲 労 によるパフォ 長した.なお選手 A には,本番の試行に入る前に ーマンスの変化を防ぐために 2 分間の休憩を 1 セ 本 番 と同 様 に打 撃 を全 力 で行 えるようになるまで ット(5 試 行 )の後 に与 え,各 試 行 間 のインターバ 十分にウォームアップを行わせた. ルは 15 秒間に設定した.また選手 A がそれ以上 表 1.野 球 バットとソフトボールバットの特 徴 2. 分析方法 ーカーを貼 付 し,解 析 の際 のバット位 置 の指 標 と 2 台 の 高 速 度 カ メ ラ ( 図 1A , camra1 お よ び した.Adair (2002) によると,バット先 端 から 152 camera2,Fastec Imaging 社製 Trouble Shooter, mm の位 置 でボールとバットが衝 突した際 に打球 撮 影 速 度 : 1000 フ レ ー ム 毎 秒 , 露 光 時 間 : 飛 距 離 が 最 大 に な る . ま た , Cross (1998) や 1/10000 秒)を同期 し,インパクト前 後約 0.1 秒 Crisco et al (2001) はバット先端の 1 次振動モー のボールおよびバットの様 子 を撮 影 した.1 台 ドの節と 2 次振動モードの節の間(バット先端から ( camera1 ) は ホ ー ム ベ ー ス か ら 投 球 方 向 に 対 し 102 mm ~ 178 mm)で,ボールが当たった時に 垂直に,もう 1 台(camera2)は捕手側 6 m に設置 振 動 が比 較 的 小 さい 部 分 を有 効 打 撃 部 位 と 定 した.ホームベースの先端を Global 座標系 XYZ 義している.本研究では,2 つのバットでのインパ の原点とした(図 1B).バットのグリップ付近(バッ クト位置を比較するためにバット先端から 150 mm ト先端から 450 mm の位置)には反射テープを巻 の位 置 をバットの芯 と定 義 し,インパクト位 置 の目 き,バットのヘッド先 端 には白 色 テープと反 射 マ 安として用いた. 図 1. カメラ位 置 (A)と Global 座 標 系 (B) 2 台の高速度ビデオカメラから得た打撃中のバ ソフト Frame Dias Ⅳ (DKH 社製) を用いデジタ ットのヘッド,グリップ,ボールの変 位 を動 作 解 析 イズした(図 2).全 60 試行で算出したバット先端 28 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 からグリップ付近のマーカーの距離は 453 ± 0.4 ームとし,インパクト前の 4 フレームとインパクトフレ mm で,実測値(450 mm)との誤差は 1%以下で ームをデジタイズ区 間 とした.スイング速 度 は各 フ あった.映 像 上 でバットに接 触 したボールが最 初 レ ー ム 間 の バ ッ ト 先 端 の 移 動 速 度 ( Global-XYZ に動いたコマの 1 つ前のフレームをインパクトフレ 軸方向の合成速度)の平均値とした. 図 2. camera1 の取 得 映 像 におけるインパクトまでの 5 フレームのデジタイズ点 の軌 跡 とインパクトフレーム インパクト位 置 の分 析 では,インパクトフレーム 向成分を分析した.スイング軌道の特徴と再現性 におけるボール中心とバット芯の位置関係につい の指 標 として,インパクト時 における,Global-XZ て検 討 した.バット芯 を原 点 とし,バットのグリップ 平面上に投影されたバットと X global 軸のなす角度 エンドからヘッドの先端部分を通過する軸(X bat 軸) (Tilt Angle)(図 3)と Global-YZ 平面上に投影さ および X bat 軸と直行し,上向きで Z global 軸と平行 れたバットヘッド先端部分の第 1 デジタイズフレー な軸(Z bat 軸)で構成される Bat-XZ 平面にボール ムから第 5 デジタイズフレームにおける位置を結 中 心 座 標 を投 影 した.バット芯 からボール中 心 ま んだ線と Y global 軸のなす角度(Horizontal Angle) での距離およびその X bat 軸方向成分と Z bat 軸方 (図 4)を用いた. 図 3. Tile Angle の定 義 29 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 図 4. Horizontal Angle の定 義 3. 統計処理 のボール中心とバット芯の距離(野球打撃:18 ± 野球打撃試行とソフトボール打撃試行各 30 球 9 mm vs. ソフトボール打撃: 29 ± 15 mm)(図 におけるバットスイング速 度 ,インパクトフレームに 6),インパクト時 のボールとバット芯 のバット上 の おけるバットの芯 からボール中 心 までの距 離 及 び 長軸方向の位置(野球打撃:-5 ± 16 mm vs. ソ その X bat 軸方向の距離と Z bat 軸方向の距離,Tilt フトボール打撃: -26 ± 18 mm)(図 6),インパク Angle,Horizontal Angle の値を平均値 ± 標準 ト時 のボールとバット芯 のバット上 の短 軸 方 向 の 偏 差 で示 した.野 球 打 撃 とソフトボール打 撃 にお 位置(野球打撃:10 ± 7 mm vs. ソフトボール打 ける各指標の有意差を対応のある t 検定を用い, 撃 : 3 ± 10 mm)(図 6),インパクト時 の Tilt Bonferroni 補 正 の有 意 水 準 (p<0.008)で検 討 し Angle(野球打撃:-22.8 ± 0.8° vs. ソフトボー た. ル打撃: -21.2 ± 1.0°)(図 7)において有意差 が 認 め ら れ た ( p<0.001 ) . イ ン パ ク ト 時 の Horizontal Angle(野球打撃:2.0 ± 1.2° vs. ソ Ⅲ. 結果 フトボール打撃: 1.5 ± 1.4°)(図 8)では有意 野 球 打 撃 及 びソフトボール打 撃 の結 果 ,スイン 差は認められなかった. グ速度(野球打撃:35.9 ± 0.6 m/s vs. ソフトボ ール打撃:39.3 ± 0.9 m/s)(図 5),インパクト時 図 5. スイング速 度 の比 較 *** p<0.001 30 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 図 6. 野 球 打 撃 30 試 行 のインパクト位 置 ( 及 びソフトボール 30 試 行 のインパクト位 置 ( 図 7. Tilt Angle の比 較 *** p<0.001 ) と平 均 位 置 ( ) と平 均 位 置 ( ) ) 図 8. Horizontal Angle の比 較 Ⅳ. 考察 ラフト指 名 を受 け,野 球 選 手 としてのキャリアを積 ソフトボールから野 球 へ転 向 しようとしていた選 んでいくことになった.今後 もソフトボール用 バット 手 A では,ソフトボール用バットを用いたティー打 でのスイング速 度 を観 察 していくことによって,ソ 撃時のスイング速度(39.3 ± 0.9 m/s)の方が野 フトボール用 バットを振らなくなったことの影響(デ 球 用 バットを用 いたティー打 撃 時 のスイング速 度 ィトレーニング)や,野 球 用 バットを振 ることによる (35.9 ± 0.6 m/s)よりも大きい事が明らかになっ ソフトボール用バットでのスイングへの影響(クロス た.これは,野 球 用 バットにおけるグリップエンドま トレーニング)を検証できる可能性がある. 選手 A の打撃正確性に関して興味深かったの わりの慣性モーメントの方が大きかった(表 1)ため であると考 えられる.しかし,本 測 定 を行 った当 時 , は,野球打撃 30 試行のインパクト平均位置がソ 選手 A はまだ野球転向に向けてのトレーニングを フトボール打撃 30 試 行 のインパクト平 均 位 置 に 行 っておらず,技 術 的 に未 発 達 であったことも野 比べてバットの先端方向へ約 20 mm シフトしてい 球 用 バットを用 いたスイング速 度 が小 さかった原 た点 で ある . これは 使 用 したバッ トの 長 さの 違 い 因かもしれない.しかし,Tabuchi et al. (2007)が (ソフトボール打撃用バット:860 mm,野球打撃用 測定した大学野球選手 8 名のスイング速度は約 バット:840 mm)が影 響 したと考 えられる.瞬 時 に 33m/s で,選手 A の野球打撃でのスイング速度 行 われる打 撃 動 作 は,感 覚 情 報 がフィードバック はすでにこれらの大 学 野 球 選 手 よりも優 れていた. されないオープンループ制 御により行われる 選手 A は本実験実施後,プロ野球の球団からド (Tresilian, 2004).もし,選手 A がバットの長さの 31 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 違いを考慮せずに野球打撃とソフトボール打撃を 用 バットよりもグリップエンドまわりの慣 性 モーメン 同 じ距 離 感 で行 っていれば,今 回 のようなインパ トが大 きかったため,スイング中 にバット先 端 を地 クト位 置 のズレが生 じる可 能 性 はある.本 研 究 で 面へ傾ける力が大きく働き,Tilt Angle が負の方 はバットの芯 をバット先 端 から 150 mm (Adair, 向 へ増 加 したと考 えられる.また,野 球 打 撃 時 に 2002)と定義した.しかし,本測定で用いた 2 種類 おいて Tilt Angle がソフトボール打撃時に比べよ のバットは材 質 ,形 状 ,全 長 などが異 なるため, り大 きく傾 いたため,短 軸 方 向 における平 均 イン 「芯」の位置がどちらもバット先端から 150 mm であ パクト位置(図 6)がソフトボール打撃時に比べ上 ったとは考 えにくく,必ずしも打 者はその位 置でイ 方 へシフトした可 能 性 も本 研 究 では示 唆 された. ンパクトしなければ良 い打 球 を打 てないわけでは もし,バットの Tilt Angle が選手 A の打撃におい ない.ボールが当たった時の振動 が比較的小さく て重 要 な要 因 であるとすれば,野 球 打 撃 で思 うよ 速 い打 球 を打 ち返 すことのできる部 位 (バット先 うな打 撃 パフォーマンスができていない場 合 はバ 端から 102 mm ~ 178 mm)を有効な打撃部位 ットの Tilt Angle を修正することがパフォーマンス (Cross 1998; Crisco et al., 2001)とするのであれ 向上に有効であるかもしれない.このような道具の ば,選手 A のインパクト平均位置はいずれの打撃 違 いによるパフォーマンスへの影 響 を数 値 化 し比 においてもそのような部位に位置していたことにな 較 することは,転 向 前 の競 技 での感 覚 に転 向 競 る(野球打撃:バット先端から 155 mm,ソフトボー 技 でのパフォーマンスを近 づけさせたり,違 いが ル打撃:バット先端から 176 mm).そこで選手 A あることを踏 まえた上 での動 作 習 得 などに有 効 で はバットの種類に応じてインパクト位置を修正する あると考えられる. 打 撃 の再 現 性 を示 すインパクト位 置 の標 準 偏 必要を感じなかったと考えられる. 世 界 大 会 での大 学 野 球 選 手 の打 撃 を調 査 し 差 は野 球 打 撃 のほうが小 さかった(バット長 軸 方 た森 下 ら(2012)の報 告 によると,センター方 向 へ 向:野球打撃 = ± 16 mm vs. ソフトボール打 の打撃時のスイング角度(Horizontal Angle)はほ 撃 = ± 18 mm,バット短 軸 方 向 :野 球 打 撃 = ぼ水 平 (レベルスイング)であった.本 測 定 におけ ± 7 mm vs. ソフトボール打撃 = ± 10 mm).こ る 選 手 A の Horizontal Angle ( 野 球 打 撃 ≒ の結 果 の理 由 として,ソフトボール打 撃 は金 属 製 2.0°,ソフトボール打 撃 ≒ 1.5°)も,ほぼ水 平 バットであったのに対し,野球打撃は木製バットで (レベルスイング)であったことから,選手 A は野球 行 われたという点 が考 えられる.金 属 バットは強 く 転向に向けて Horizontal Angle を大幅に変更す ボールを弾き返すことができるバットで,長軸方 向 る必 要 はないかもしれない.また,インパクト時 の の有効打撃部位が木製よりも広い(Smith, 2001). Global-XZ 平面上に投影したバットの傾きを表す それ故 に木 製 バットでは感 知 することのできた微 Tilt Angle に 関 し て は , 野 球 打 撃 の 際 の Tilt 細 なインパクト位 置 のズレを金 属 バットでは感 知 Angle(22.8 ± 0.8°)の方がソフトボール打撃の できなかった可 能 性 が考 えられる.しかし,当 時 , 際 の Tilt Angle ( 21.2 ± 1.0° ) よ り も 森 下 ら 野 球 打 撃 のトレーニングを行 っていなかった選 手 (2012)が報 告 した大 学 野 球 選 手 のバットの傾 斜 A でも正確な野球打撃ができていたことから,ソフ 角度(Tilt Angle)(27.8 ± 6.9º)に近い値を示し トボール打 撃 と野 球 打 撃 には大 きな違 いは無 い た. Tilt Angle が野球打撃において有意に大き 可能性が示唆された. な傾 きを示 したことに関 しては,バットの重 さの違 本研究で得られたデータは選手 A にすぐにフィ いが考 えられる.野 球 用 バットの方 がソフトボール ードバックされた.本研究で明らかとなった選手 A 32 スポーツ科学研究, 10, 26-33, 2013 年 のバット速度やスイングの特徴は選手 A が感覚的 metal baseball bats. Medicine and Science in に抱 いていた野 球 とソフトボールの打 撃 の違 いを Sports and Exercise, 34(10), 1675-1684) 数量的にあらわしたものであり,選手 A 自身は大 ・ Cross R. (1998). The sweet spot of a baseball 変 参 考 になると述 べていた.バットの長 さ・重 さが bat. American Journal of Physics. 66(9), 異 なり,それがパフォーマンスに影 響 する事 が本 771-779. ・ 森下義 隆,那須大 毅,神事努 ,平 野裕一 研究から示唆された.この 2 つの競技間での転向 を考 えるアスリートは投 手に合 わせた打 撃 準 備 動 (2012):広 角 に長 打 を放 つためのバットの動 き. 作 や投 球 飛 翔 軌 道 への対 応 ばかりではなく,道 バイオメカニクス研究 16(1):52-59. ・ Smith LV. (2001). Evaluating baseball bat 具 が変 わることによる打 撃 特 性 の変 化 も認 識 しな performance. ければならない. Sports Engineering. 4, 205-214. ・ Tabuchi N, Matsuo T, Hashizume K. (2007). Ⅴ. 参考文献 Bat ・ Adair RK. The physics of baseball. 3rd ed. speed, trajectory, 2002: 121-130. stationary ball. Sports Biomechanics, 6(1), LH. (2002). Batting Performance of wood and 33 hitting for collegiate 17-30. batters timing New York, NY: HarperCollins Publishers; ・ Crisco JJ, Greenwald RM, Blume JD, Penna baseball and a
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