ISSN 1348-7531 第12号 〔通巻第56号〕 平成21年3月 特別支援教育 ほっかいどう Journal of Special Needs Education in HOKKAIDO 特集 特別支援教育に求められる専門性 −指導力を高める− 北海道立特別支援教育センター 特別支援教育ほっかいどう 目次 巻頭言 第12号 〔通巻第56号〕 「気づき」から始まる丁寧な教育 北海道立特別支援教育センター所長 百 井 悦 子 1 特集:特別支援教育に求められる専門性 −指導力を高める− 特別寄稿 特別支援教育の推進について 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課課長補佐 齋 藤 憲一郎 2 提 言 特別支援学校の指導力の向上のために 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所企画部総括研究員 田 中 良 広 4 実 践 1 個別の指導計画を生かした保育の実際 伊達市立さくら幼稚園長 仲 島 輝 夫 6 実 践 2 小学校における特別支援学級の実践−言葉の力をいかに付けるか− 厚沢部町立厚沢部小学校教諭 安 里 朗 8 実 践 3 中学校における通常の学級の実践−個別の指導計画の活用− 小樽市立菁園中学校教諭 川 尻 祥 子 10 実 践 4 総合的な教育支援体制を模索する−最良の支援を目指して− 北海道八雲高等学校養護教諭 小 林 久美子 12 実 践 5 視覚障害教育の専門的な指導の充実を図るための取組 北海道札幌盲学校教諭 山 本 正 路 14 実 践 6 集団の中で学び合える指導法について−聾学校における「複式授業」について− 北海道室蘭聾学校教諭 吉 田 卓 郎 16 実 践 7 一人一人の教育課題に適切に対応する指導を目指して −個別のねらいに応じた指導場面別の指導について− 北海道札幌養護学校教諭 郡 司 竜 平 18 実 践 8 子どもが楽しめる学習の実現−ティームティーチングの観点から− 北海道手稲養護学校教諭 杉 本 茂 20 実 践 9 様々な病状・特性の子どもたちへの個に応じた支援に向けて 北海道札幌市立山の手養護学校教諭 千 葉 道 代 22 リレー連載 新たな課題への対応1 小・中学校における特別支援教育への理解と対応の充実に向けた総合的研究 −特別支援教育への理解と充実に向けた小・中学校の取組に関する状況調査より− 北海道七飯養護学校おしま学園分校教諭 佐 藤 実華子 24 新たな課題への対応2 今を生きる、そしてこれからを生きるすべての人たちへ 北海道白樺高等養護学校教諭 鈴 木 香代子 25 適切な指導・支援を求めて 神経筋疾患生徒の可能性を広げる大学と連携した取組 北海道八雲養護学校教諭 土 屋 和 彦 26 青年期の支援 障がい児者の地域生活を支える仕組みを学生と創る 北海道医療大学看護福祉学部教授 横 井 寿 之 28 併設機関との連携 北海道立心身障害者総合相談所との連携 北 海 道 立 心 身 障 害 者 総 合 相 談 所 理 療 専 門 員 玉 重 詠 子 30 北海道立特別支援教育センター情緒障害教育室長 柏 木 拓 也 インフォメーション 特別支援教育スーパーバイザーとして 各市町の特別支援教育の充実に向けた取組 北海道教育庁渡島教育局生涯学習課義務教育指導班指導主事 中 川 正 規 32 ◆ 巻頭言 ◆ 巻 頭 言 「気づき」から始まる丁寧な教育 北海道立特別支援教育センター所長 百 井 悦 子 特別支援教育体制づくりが始まってから、「気づき」という言葉が目につくようになりました。特 に通常の学級に在籍している発達障害児への適切な支援を行うためには、幼児児童生徒の困り感に 「気づく」ことが何より大事であることが広く浸透してきたように思われます。成人してから何らか の違和感を感じて受診し、発達障害という診断を受けた方々の思いを聞いたり、書かれているものを 読んだりすると、本人も、保護者も多くの苦労を重ねていることが分かり、早期からの「気づき」に よる理解と適切な支援がいかに大切であるかが伝わってきます。 そもそも特殊教育と言われていた時代から、特別支援教育での「気づき」は指導者として不可欠な ものでした。従来行われてきた障害種別の教育においても、それぞれの障害ゆえに社会や周りからの 刺激を受け止めて反応したり意思表示することが難しいことが多いため、指導者の「気づき」によっ て実態把握がなされ、指導課題を明確にしていくプロセスが大切にされてきました。特別支援教育で の「気づき」には、表情面、行動面、発達面、機能面、学習面等の「気づき」があり、それぞれに、 子どものよさの「気づき」と気掛かりな「気づき」の二面性があります。特別支援学校におけるその 究極の姿は、重度・重複障害児の訪問教育指導です。対象児の状態に合わせた感覚刺激を駆使したか かわりや教材等を用意し、その刺激に対する反応を「読み取る」ことを通して対象児の「心のひだ」 を理解しようとする教育は、正に究極の「気づき」の教育です。 通常の教育では、言葉によるコミュニケーションが中心であるがゆえに、ノンバーバルな表出に対 し注目されにくかったと思われます。そのため、今日、多用されている「気づき」という言葉が、通 常の教育の場に特別支援教育を導入する上で、ガイド役として重要な役割を担っているのではないで しょうか。 「気づき」は幼児児童生徒の理解のみならず、指導内容や指導方法を考える上においても重要です。 12月上旬に、当センターのカレンダー展の開催に向け、某小学校特別支援学級の児童たちが力を合わ せて制作した力作のカレンダーに添えて、センター職員への感謝状が届けられました。感謝状の内容 には「・・・わたしたちの学級の活動のためにありがとうございました。・・・」とあり、先生が、カレン ダー展への出展を子どもたちの学習への動機付けとして活用し、その感謝状も子どもたち自身の手で ワープロを操作して作成したものと思われました。この先生の「気づき」による学習内容等が、一層、 子どもたちの学習意欲と成就感を高めるものになったであろうことが想像できます。 平成20年3月に告示された小(中)学校の新学習指導要領の総則において、「障害のある児童(生 徒)などについては、特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ、例えば指導についての計画又は 家庭や医療、福祉等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成することなどに より、個々の児童(生徒)の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行 うこと。・・・」と記載されています。幼児児童生徒の立場に立った「気づき」から把握された課題に 対する具体的な指導内容や指導方法の計画立案と指導によって、その子のよさの「気づき」につなが る丁寧な教育の推進が求められています。 教師の「気づき」を支えるのは、幼児児童生徒の障害や発達、指導にかかわる専門的な事項の理解 と新しい情報の吸収であり、より質の高い「気づき」にレベルアップするための絶え間ない研究と修 養です。「気づき」力の高い教師ほど、自分は何をすべきかに気づいているはずです。すべての教育 の場において、この古くて新しい「気づき」を大切にし、教師個人の「気づき」から教師集団の「気 づき」に広がってほしいものです。 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 1 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 特 別 寄 稿 特別支援教育の推進について 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 課長補佐 齋 藤 憲一郎 はじめに 特別支援教育は、一人一人の教育的なニーズに対応した教育や支援を行うという理念の下、学 校教育法の改正により平成19年度から新たな制度としてスタートしました。また、教育における 憲法とも言える教育基本法においても、障害のある者が十分な教育を受けられるよう必要な支援 を講じることが規定されたほか、特別支援教育の推進は、「教育振興基本計画」(平成20年7月閣 議決定)や「障害者基本計画」(平成14年2月)、同計画を受けた「重点施策実施5か年計画」 (平成19年12月障害者施策推進本部決定)等にもうたわれているところです。 1 教育課程の改訂について このような動きの中で、昨年3月には幼稚園や小・中学校の学習指導要領等が改訂されました。 特別支援教育に関しては、特別支援学校のセンター的機能を活用し、「個別の指導計画」や「個 別の教育支援計画」を作成すること等により、個々の子どもの障害の状態に応じた指導を計画的、 組織的に行うこと等が求められています。 さらに、特別支援学校の学習指導要領については本年度中の改訂を行うべく昨年12月に改訂案 を公表したところですが、幼稚園から高等学校の教育課程の基準に準じた改善を図るとともに、 特別支援学校の特性に則し、①障害の重度・重複化、多様化への対応、②一人一人の実態に応じ た指導の充実、③自立と社会参加に向けた職業教育の充実、④交流及び共同学習の推進、などの 観点から改善を図ることとしています。 2 教員の専門性の向上について さて、特別支援教育のスタートに伴い、特別支援学校には小・中学校からの要請に応じて必要 な助言又は援助を行う(センター的機能)ことが規定されました。また、障害の重度・重複化、 多様化に適切に対応するため特別支援学校教員の専門性が一層求められています。 平成19年度の特別支援学校教諭免許状及び自立教科等免許状の保有率は、あわせて68.3%でし た。年々増加傾向にはありますが、各都道府県により差が見られるところであり、各都道府県指 定都市教育委員会におかれては、免許状保有率に関する具体的な数値目標の設定、現職教員等の 免許法認定講習等への積極的な参加の促進、域内の大学や近隣の都道府県と連携した認定講習等 の開催など、免許状取得率の向上に向けた一層の取組をお願いします。 また、文部科学省が実施する、発達障害を含む多様な障害に対応する適切な指導及び支援の在 り方、関係機関や地域の学校との連携の在り方等について専門的な研修を実施する「特別支援学 2 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 ◆ 特集:特別寄稿 ◆ 校教員専門性向上事業」のほか、(独)国立特別支援教育総合研究所が実施する各種の指導者養 成研修、教育委員会等が主催する研修等への積極的な参加や、学校における外部専門家の活用、 校内研修の充実等により、特別支援教育に関する専門性の向上に努めていただきますようお願い します。 なお、(独)国立特別支援教育総合研究所は、我が国の特別支援教育のナショナルセンターで すが、本年度は発達障害のある子どもの教育の推進・充実に向けて、発達障害にかかわる教員や 保護者をはじめとする関係者への支援を図り、さらに広く国民の理解を得るため、研究所のHP 上に「発達障害教育情報センター」を開設したところであり、Webサイト等による情報提供や 理解啓発、調査研究活動を行っています(http://icedd.nise.go.jp/blog/)。このほか特別支援教 育に関するメールマガジンを配信していますので、是非多くの先生方に御活用いただきたいと思 います。 また、先の学校教育法改正においては、特別支援学校のみならず通常の学校においても、LD やADHDを含む障害のある児童生徒等に対して適切に教育を行うことが規定されたところで す。特別支援学校や特別支援学級の教員のみならず、すべての教員が、先に述べた取組のほか、 来年度から始まる免許状更新講習など様々な方法を通じて、特別支援教育についての理解を深め ることが求められています。 3 校長のリーダーシップ 各学校で特別支援教育を推進する上で大きな役割を果たすのは特別支援教育コーディネーター であり、現在、99.5%の公立小・中学校において指名され、それぞれの学校で御尽力いただいて いるところですが、特別支援教育を推進するためには校長のリーダーシップが欠かせないところ です。平成19年4月の文部科学省通知「特別支援教育の推進について」においても、「校長(園 長を含む。以下同じ。)は、特別支援教育実施の責任者として、自らが特別支援教育や障害に関 する認識を深めるとともに、リーダーシップを発揮しつつ、次に述べる体制の整備等を行い、組 織として十分に機能するよう教職員を指導することが重要である。また、校長は、特別支援教育 に関する学校経営が特別な支援を必要とする幼児児童生徒の将来に大きな影響を及ぼすことを深 く自覚し、常に認識を新たにして取り組んでいくことが重要である。」としています。是非、校 長先生におかれては、特別支援教育の推進に関してリーダーシップを発揮していただきますよう お願いします。 おわりに 特別支援教育がスタートして2年弱。関係する方々、何より現場の先生方の御努力により、着 実に特別支援教育が学校現場に浸透する一方、まだまだ課題も山積みしています。文部科学省と しては、引き続き特別支援教育の推進に向けて尽力をしていく所存ですので、北海道教育委員会 をはじめ、関係各位の御理解と御協力をお願いします。 なお、文部科学省HP「特別支援教育」には、先に述べた「特別支援教育の推進について(通 知)」をはじめ、特別支援教育に関する各種情報を掲載しておりますので、是非御覧ください。 (http://www.mext.go.jp/a_menu/01_m.htm) 〔齋藤憲一郎(さいとう けんいちろう)平成20年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 3 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 提 言 特別支援学校の指導力の向上のために 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 企画部総括研究員 田 中 良 広 はじめに 学校教育法等の一部改正(平成19年4月施 行)により、これまで盲学校・聾学校・養護 学校ごとに分けられていた教員の免許状が、 特別支援学校教員免許状に一本化されまし た。これは、まさに平成19年度から本格実施 が始まった特別支援教育の理念を踏まえた対 応と言えます。つまり、これからの特別支援 学校には、これまで以上に様々な障害のある 幼児児童生徒が在籍することが予想され、一 人一人の子どもたちのニーズに応じた教育が 求められているからです。本稿では、当研究 所が実施している指導力の向上に関する特別 支援教育専門研修(以下「専門研修」と言う。) の概要を紹介するとともに、特別支援教育に 携わる教員として求められる指導力について 述べてみたいと思います。 1 国立特別支援教育総合研究所 が実施している 特別支援教育専門研修の概要 当研究所では、障害のある幼児児童生徒の 教育を担当する教職員に対し、専門的知識及 び技術を深めさせるなど必要な研修を行い、 その指導力の一層の向上を図り、今後の都道 府県等における指導者としての資質を高める ことを目的として、専門研修を実施していま す。平成21年度には、表に示した日程で第一 期∼第三期までの専門研修が予定されており ます。 本専門研修は、従前より実施されてきた障 害ごとの短期研修の内容を、より一層、今後 の特別支援教育の推進に資するよう、本年度 から大幅に内容等を変更しております。具体 的には障害種別の専門的な知識、技能を高め るための専門講義や演習のほかに、第一期∼ 第三期を通して同一内容で実施する共通講義 の枠を可能な限り多く設定しております。ま た、知的障害・肢体不自由・病弱教育コース においては、各専修プログラムのほかに重点 選択プログラムとして、①知的発達の遅れを 伴う自閉症、②重度・重複障害、③情報手段 活用の3つのプログラムを研修参加者のニー ズに応じて選択できるよう工夫を図っており ます。さらに、情緒障害・言語障害・発達障 害教育コースについては、その参加対象を通 常の学校等において特別支援教育に携わって いる教員としており、より実際の指導に即し たプログラムとなっております。 表 平成21年度に実施予定の特別支援教育専門研修 4 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 ◆ 特集:提言 ◆ 2 求められる実践に 裏打ちされた指導の専門性 数年前にアメリカ合衆国のユタ州にあるナ ショナル・アビリティ・センターという施設 を訪れたことがあります。この施設は障害者 とその家族などが様々なスポーツを通して、 自信を深めたり自己肯定感を高めたりするこ とによって、社会のあらゆる場面への積極的 な参加を促すことを目的として設立されまし た。実施されている具体的なプログラムは乗 馬やロッククライミング、スキー、車いすラ グビーなど十数種目に上ります。そして、こ れらのスポーツを楽しんでいるのは老若男女 を問わず様々な障害のある人たちでした。 施設内を見学しながら、ふと私の頭をよぎ ったことがありました。それは、様々な障害 のある人たちに様々なスポーツを教えるイン ストラクターとはどのような資格を持ち、ど こでそのような専門的な知識や技能を身に付 けたのだろうかということでした。もちろん、 種目別に担当するインストラクターは決めら れているとは思いましたが、仮に乗馬を教え るとしても、視覚障害のある人もいれば、肢 体不自由のある人、あるいは自閉的な傾向の ある人など、様々な対応が求められると考え られたからです。 そこで、案内をしてくれた担当者に質問を したところ、実にあっけない答えが返ってき ました。「特別な資格は必要ありません。こ こで働いているインストラクターの大多数 は、始めにボランティアとして活動していて、 その後にインストラクターとして働くように なった人たちです。」と言うのです。つまり、 それぞれの障害の特性やその対応について、 専門的な講習を受けたり大学等の専門機関で 学んだりしている訳ではないと言うのです。 実際に様々な障害のある人たちと接する中 で、それぞれの障害の特性を知り、そのよう な人たちへの配慮や対応の仕方を身に付けて いったということなのです。 私は、その時にこれが本当の意味での実践 力であり、実践に裏打ちされた指導の専門性 なのだと確信し、まさに目からうろこが落ち るような思いでした。 上述したように、当研究所をはじめとして 各都道府県においても指導力向上のための 様々な研修が実施されておりますが、私たち が肝に銘じておかなければならないことは、 本当の意味での指導の専門性とは、実際に子 どもたちとのかかわりを通して体得していく ものであるということです。 3 「授業」へ立ち返る必要性 実際に子どもたちとのかかわりを通して体 得するとは、何を指しているのでしょうか。 それは、取りも直さず日々行っている授業の 一つ一つをいかに大切にするかということに ほかなりません。1時間の授業にいかに真剣 に向き合うかということです。例えば、ティ ームティーチングは特別支援学校において非 常に多く行われている授業形態の一つです。 それは障害のある子どもたちにとって非常に 手厚く効果的な指導となる反面、活動のねら いや各担当者の役割が曖昧になってしまうと いう危険をはらんでいるのも事実です。また、 遊びの指導や日常生活の指導などは、ともす れば、授業という時間の区切りを意識せずに 実施されることも起こりがちです。しかし、 それぞれの学習活動にはそのねらいや教師の 役割、評価の観点などが定められているはず です。授業形態や指導内容のいかんにかかわ らず、今一度「1時間の授業を大切にするこ と」の意義を再確認したいものです。 おわりに 昨今、特別支援学校においては、それぞれ の障害に特化した指導の専門性が失われつつ あると言われています。このような状況を打 開するためには、上述した授業改善のほかに、 自立活動の指導の充実が必要になります。ま た、それに伴う環境の整備という視点も大切 になります。例えば、教材教具の保管や活用 方法、指導記録の引継ぎ方法を工夫すること 等です。さらに、指導の専門性を担保すると いう意味では、研修方法、そして人事異動の 在り方などを見直す必要があるかもしれませ ん。 しかし、まず私たちがなすべきは、日々の 授業に対してどれほど事前の準備をしている か、教材研究をしているかなどを問い直すこ とだと考えます。 〔田中良広(たなか よしひろ)平成20年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 5 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 実 践 個別の指導計画を生かした 保育の実際 1 伊達市立さくら幼稚園 園長 仲 島 輝 夫 Aさんの個別の指導計画(1学期) はじめに 平成20年12月現在、本園の在籍園児数は、 3歳児22名、4歳児28名、5歳児36名です。 このうち、今年度4月に入園した、障害のあ る園児は3歳児2名、4歳児3名です。 入園に当たっての親子面談では、伊達市教 育委員会の担当者、伊達市特別支援教育コー ディネーター、本園の職員が出席し、心身の 発達の様子や入園後の保護者の願いなどをお 聞きしました。また、教育委員会には、障害 のある子どもを主として担当する補助教員 (臨時職員)の配置を要望し、4名の加配を 受けました。 一人一人の子どもの特性を理解して、その 子に合った援助を考えながら、どの子どもも 楽しい幼稚園生活が送れるように、全職員で 「連携・共同」して保育に取り組んでいます。 1 個別の指導計画を 作成するに当たって まず、伊達市特別支援教育コーディネータ ーから、個別の指導計画の作成に当たっての 助言をいただきました。そして、親子面談や 関係機関からの資料(保護者の同意を得て) などをもとに、担任と補助教員で①年間指導 計画の作成、②短期の個別の指導計画の作成、 ③全体会という流れで進めました。 個別の指導計画は、“作りやすい、見やす い、使いやすい”ことを前提に、実践してい く中で、必要に応じて修正を加えるなど、よ り子どもの実態に沿った内容になるよう話合 いを重ねていくことにしました。 2 保育の実際 ○ 3歳児Aさん〈自閉症〉 【事例 トイレットトレーニング】 Aさんは、視覚面からの理解を得意として いたので、トイレなどの写真を見せることか ら始めました。最初のころは全く興味を示さ 6 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 ず、トイレに入っても、「出ない」とすぐズ ボンを上げていました。トイレでは隣にいる 子どもの様子を見るよう、働きかけたりして いるうちに、少しずつ長く便器に向かうよう になりましが、成功しないまま夏休みに入り ました。 2学期が始まってすぐ、園と家で布パンツ を使用することにしました。パンツの感触が 変わったせいか、尿が少ししか出なかったり、 間隔が安定しないこともありました。でも、 ぬれたことへの意識や排尿の感覚が育ってき たようで、パンツがぬれると「出た」と言葉 で伝えられるようになりました。 布パンツの使用から4週間目のころ、遊び の途中で落ち着きのない様子が見られたの で、「おしっこ?」と声をかけてトイレに誘 ◆ 特集:実践1 ◆ うとスムーズにトイレに入り、初めて一人で 排尿することができました。大いに褒めると 本人もとてもうれしそうに満足した様子でし た。それ以来、一度も失敗はなく、今では全 体に対する指示だけでほかの子どもたちと一 緒にトイレに行っています。 しかし、家のトイレでは排尿することがで きなかったので、園のトイレの写真を見せる などトイレを意識させる練習をしたところ、 園での成功から2週間目に家のトイレでも排 尿することができました。これらの経験が自 信となり、その後は、抵抗なくいろいろな場 所のトイレも使えるようになりました。 ○ 4歳児Bさん〈ダウン症〉 【事例 生活への適応】 Bさんは、4月に他園から転入してきまし た。幼稚園生活の経験があるため、本園での 生活にもスムーズに入れました。 周りの子どもたちがよくお世話をしてくれ ました。笑顔で話しかけられたりすると、手 足を動かしてうれしさを表現していました。 また、自分から友達とかかわりをもとうとす るので、かかわりを深めて友達と遊ぶ楽しさ を知らせるために、保育者が一緒に遊びまし た。 パズルが大好きで、最初は簡単なものに取 り組んでいましたが、友達の様子を見て、少 しずつ難しいものに挑戦しました。また、模 倣が上手で、運動会や発表会の遊戯などで、 保育者や友達をまねて自分なりの表現をして いました。 言葉は不明りょうでしたが、耳元でゆっく りと話すと、“おはよう”は「はよー」、“お かわり”は「わりー」など語尾が言えるよう になりました。しかし、言葉で気持ちを表現 できないため、物を投げたり、友達を押した りすることがあります。このようなとき、 「いけないよ」と周りの子どもたちにも伝え させたところ、「これはやってはいけないこ となんだ」という意識が本人に芽生え、投げ たり押したりすることは少なくなってきまし た。 幼稚園生活に慣れるに従い、徐々に依存心 が見られるようになってきました。周りの子 どもたちが手を貸そうとする場面もあります が、「自分でできるから見ていてあげようね」 と言葉をかけ、自立を促しています。周りに 子どもたちがいないときには、自分で行おう とするようになりました。 Bさんの個別の指導計画(2学期) “友達と遊ぶようになってほしい、自分でで きることが増えてほしい、言葉で気持ちを伝 えるようになってほしい”、これらの保護者 の願いを大切にしながら、子ども同士のかか わりが一層深まるよう保育に当たっていきた いと考えています。 おわりに 障害のある子どもの支援には、職員間の連 携が最も大切だと考えます。そのため、2か 月に一回程度、個別の指導計画をもとにした 全体会を開き、今後の保育の在り方などにつ いて話し合っています。 また、保護者の願いや思いを共有できるよ う、定期的に保護者と話合いをもっていま す。 今後、個別の指導計画の見直し、さらに小 学校での支援につなげる個別の教育支援計画 の作成などの課題に取り組む必要があると考 えています。 〔仲島輝夫(なかじま てるお)平成20年1月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 7 特 集 実 践 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 小学校における特別支援学級の実践 −言葉の力をいかに付けるか− 厚沢部町立厚沢部小学校 【澤田 卓 校長】 2 教諭 安 里 朗 はじめに 厚沢部小学校は、檜山南部の農村地帯に位 置する単式の学校で、全校児童137名が在籍 し、職員16名が配置されています。学級数は 各学年1クラスの6学級(1クラス平均20人 前後)と特別支援学級が2学級(知的1、言 語1)あります。校区内には、渡島と檜山を 結ぶ大動脈の国道227号線が通り、役場や商 店街があり、管内では中∼大規模校に属しま す。 1 S君が入学 小学校への入学に当たって、就学指導委員 会でS君の言語能力の遅れが指摘され、言語 障害の特別支援学級を新たに設置することに なりました。S君は、ほかの1年生20人とと もに厚沢部小学校へ入学しました。入学後、 S君には次のような様子が見られました。 S君の様子① 8 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 2 実践の方向性 家庭訪問が終わった5月の上旬に、家庭で の様子や保護者の願いを聞き、個別の指導計 画を作成しました。長期の目標として、次の ∏∼∫の3点を設定しました。 (1)毎日の散歩で体力つくりと睡眠・食生活 の改善をする S君は朝起きるの が遅く、機嫌が悪い Web版では、写真を 掲載していません。 ため、保護者は学校 に遅刻しないことを 優先させて、日常の 基本的な生活習慣が 定着していませんで した。また、身体が 太鼓山の散歩 弱く、すぐに風邪を 引いて保育園を休むことが多かった上に、極 度の偏食と小食であり、体力のなさが心配さ れました。 そこで、体力つくりと併せて、睡眠や食生 活の改善を図り、健康な身体つくりを行うた めに、毎日の散歩に取り組むことにしました。 幸い本校にはすぐ裏手に標高100mほどの太 鼓山があり、1周30分程度のハイキングコー スがあります。森林浴気分で、季節の変化も はっきり感じることができます。また、時々 通学路を歩いて登下校の練習もすることにし ◆ 特集:実践2 ◆ ました。雨天時は、校舎内ランニングのほか、 大玉転がし、トレーラー付き三輪車、トラン ポリンなどを準備し、散歩共々、少し汗をか く程度の負荷で始めることにしました。 (2)様々な経験を積んで自信につなげる 給食では食べず 嫌いが多かったり、 校区内の身近なこ Web版では、写真を とを知らなかった 掲載していません。 りするS君の様子 から、経験不足に よる自信のなさが 感じられました。 函館体験学習で そこで、様々な体 験的な学習に取り組み、自信を付けて積極的 に活動することが大切と考えました。 S君は、集団活動や体験的な学習には意欲 的で、檜山南部3町の特別支援学級の子ども たちとの合同学習(年4回)、厚沢部町内の 特別支援学級の合同学習(年4回)に参加で きました。さらに、本校の知的障害の特別支 援学級と合同のお花見、お料理会、函館体験 学習などの学習にも取り組んでみました。 これらの学習で、準備や発表する力を身に 付けたり、自分の役目を果たしたり、終了後 に楽しかったことを振り返り、作文を書いた りする活動を行いました。 (3)言葉を理解する力を高める 図形や平仮名の弁 別はできていて、難 しい文字でなければ Web版では、写真を 模写もできました。 掲載していません。 しかし、聞き慣れな い言葉を私が言うと 聞き返すことが多 く、言葉の理解に課 題がありました。そ 1年生4月ごろの国語 こで、国語は、「運 筆」、「書字」、「言葉・お話」の分野に分けて 学習を進めました。「運筆」では、目と手の 協応の力を高めるために迷路遊びをしまし た。「書字」では、いろいろな平仮名をマッ チングしながら文字を区別する力を付けた り、自分の名前を書く練習をしました。「言 葉・お話」では、語い数が少ないので絵カー ドで物の名前を覚えたり、紙芝居を読んでス トーリーの楽しさを学んだりしました。 算数は、1年生の通常の学級の単元に準じ て、スモールステップで時間をかけて学習す るようにしました。単元が終わったり、目標 を達成できたときには、修了証書や認定書を 渡して、励みになるようにしました。 3 成果と課題 S君を担任して3年が経とうとしていま す。基本的な生活習慣は、保護者の温かい理 解と協力を得てほぼ定着しました。生活のリ ズムが整うにつれ、担任の誘いに対して「や ってみるか」と前向きな姿勢で受け止めて、 チャレンジすることが多くなりました。 S君の様子② S君の指導では、基本的な生活習慣を定着 させることで生活の基盤が安定し、見通しを もって生活できるようになりました。さらに、 経験を積ませることで視野が広がり、実際に 触れさせることで事物が分かり、人に伝えた い気持ちが高まることで言葉の力が付いてき たようです。 今後は、「なぜそうするのか」ということ の理解や、善悪の判断、相手の気持ちを想像 しながらどう自分の行動に結びつけていくか が課題と考えています。 〔安里 朗(やすざと あきら)平成15年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 9 特 集 実 践 3 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 中学校における通常の学級の実践 −個別の指導計画の活用− 小樽市立菁園中学校 【渡辺 常彦 校長】 教諭 川 尻 祥 子 はじめに 本校は全校生徒313名、通常の学級が10学 級、特別支援学級が5学級、そして通級指導 教室がある中規模校です。特別支援学級の在 籍生徒は17名、通級による指導を受けている 生徒は9名(自校4名、他校5名)います。 その他に、支援を必要とする生徒が個別に支 援を受けたり、授業の中で配慮を受けていま す。 本稿では、校内支援委員会の機能、通常の 学級に在籍している生徒への支援、個別の指 導計画の活用など、学校体制の取組と課題に ついて述べます。 1 校内支援委員会の機能 (1)実態を把握するための機能 本校では、特別な配慮を必要とする生徒の 実態把握のための話合いを、毎月、校内支援 委員会で実施しています。生徒理解のための 会議は年度当初に行われますが、その他に毎 月の校内支援委員会で話題に上げることによ り、年度途中でも気になる生徒を把握するこ とができます。 (2)効果的な支援方法を共有するための機能 校内支援の対象となる生徒については、毎 月、職員会議の中で話をします。会議を通し て、生徒が感じている困難な状況、支援の具 体的な方法、生徒がどのように変わってきて いるかを全教職員で共有することができま す。この会議は、先生方の支援の具体的方法 (ノウハウ)を研修する機会でもあります。 研修を通して全職員が障害への理解を深め、 一人一人の特性に応じた支援ができます。 2 通常の学級の生徒への支援 本校には、特別支援学級に在籍する生徒や 通級による指導を受けている生徒のほかに、 通常の学級に在籍している困り感のある生徒 10 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 や支援が必要と思われる生徒がいます。この ような生徒に対しても、通級による指導の担 当者や担当者以外の多くの先生方が、障害の 状態等に応じて、個別又は少人数での支援を 行っています。 (1)目標 ・自尊感情をはぐくみ、指導の効果を通常の 学級での生活や日常の生活へ般化する。 ・基礎学力の定着、授業の補完等を行い、学 習の遅れを改善する。 ・それぞれの障害の特性に応じ、学習上、行 動上、対人関係上の困難さの改善を図る。 (2)支援の実際 【事例】 「アスペルガー症候群のある生徒への支援」 ○研修 ・会議の中で支援の方法について話し合う。 ・外部講師を招いてアスペルガー症候群の特 性について、研修したり、児童相談所の担 当者に対象生徒に関する話を聞く。 ○生徒への支援 ・ソーシャルスキルトレーニングを行う。 ・二次的障害を最小限にするため、カウンセ リング的な対応を行う。 3 個別の指導計画の活用 本校では支援対象の生徒について、個別の 指導計画を作成しています。 指導計画は、実態把握表(表1)で本人や 保護者の願い、諸検査の結果、関係している 機関からの情報、学習面や対人関係について アセスメントを行い、実態の分析と指導の方 向性を記入しています。 実態の分析と指導の方向性が決まったら、 課題の中から取り組む順番や優先順位を決め ます。目標は1年間の長期目標(表2)とそ れを実現するために細分化された学期ごとの 短期目標(表3)の2種類を立てています。 短期目標については目標とともに「具体的な ◆ 特集:実践3 ◆ 手立て」についても記入しています。目標を 評価する際には、生徒の変容とともに手立て の有効性についても検討し、来学期の目標や 指導の手立てを改めて見直すことに役立てて います。 また、特別支援学級の生徒については、個 別の指導計画と個別の教育支援計画とが関連 するように作成しています。 表3 短期目標 表1 実態把握表 表2 長期目標 個別の指導計画を作成するためには、その 生徒を取り巻く複数の担当者で話し合い、異 なる視点から生徒を把握し、様々な支援策を 考える必要があります。しかし、現在は十分 に話し合う時間がもてないため、通級による 指導の担当者が中心となり、学級担任や教科 担任から情報を得て作成しています。 個別の指導計画は、通級による指導を進め る上では非常に役に立っていますが、通常の 学級の中で活用するためには、様式の簡略化 などの見直しを行い、使いやすいものにして いくことが今後の課題と考えています。 おわりに 本校は、特別な支援を必要とする生徒の指 導に対して熱心な先生が多く、授業中の配慮 (板書の工夫や言葉かけの仕方など)、放課後 支援、障害の理解や対応に関する研修など、 全職員が協力し、共通理解を図っています。 しかしながら、個別の指導計画の活用、保 護者へのコンサルテーション、個別の指導や 支援をする時間の確保など、課題も多く残さ れています。現在の取組をもとにして、生徒 一人一人のニーズに応じた支援が行われるこ とを目指していきたいと考えています。 〔川尻祥子(かわじり しょうこ)平成14年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 11 特 集 実 践 4 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 総合的な教育支援体制を模索する −最良の支援を目指して− 北海道八雲高等学校 【西崎 毅 校長】 養護教諭 小 林 久美子 はじめに 本校では、生徒の教育活動を支援するため の教職員の支援体制が分掌・学年・教科単位 で確立され、日常的な実践がされています。 本稿では、特別な教育的支援を要する生徒 に対する取組について記述します。 (2)検査の活用 支援の必要な生徒のつまずきや困難さは、 障害の特性に起因するものだけではなく、生 徒の育ってきた過程や環境も包含されていま す。生徒を深く理解するためには、専門家が 行った客観的な検査結果も資料としています (表1)。 表1 実施した検査と担当した機関 1 特別支援教育体制 (3)アセスメント 検査の結果を保護者から受け取る際には、 個人情報保護のための必要書類として、「申 出書」 「同意書」 「委任状」の提出を受けます。 検査結果の解釈については、多くの専門家か ら助言を受け、特別支援教育委員会が支援内 容の参考にしています。「保護者からの申出」 「実態把握(生徒情報共有資料)」「検査結果」 を整合して、校内で支援が必要な生徒を決定 するとともに、支援内容を明らかにします。 2 教育的支援の内容と方法 (1)気づき(実態把握) 年度の初めに、「生徒情報共有資料(学年 作成)」が職員会議で配付され、生徒の心身 両面について配慮すべき事項を全職員で確認 します。特別支援教育委員会では、それらの 生徒の中から特別な支援を必要とする生徒に ついて、さらに学年と協議します。 12 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 〔助言を受けている専門機関等〕 ・医療機関 ・北海道教育大学釧路校 ・渡島教育局 ・道教委スクールカウンセラー ・北海道立特別支援教育センター ・北海道発達障害者支援センター ・おしま地域療育センター ・北海道函館児童相談所 ・特別支援学校(主に2校) ・ハローワーク ◆ 特集:実践4 ◆ (4)個別の教育支援計画の作成 ①フェイスシートの作成 本校では、個別支援シート(表2)を作 成し、支援に当たっていますが、その基礎 資料として、担任と特別支援教育コーディ ネーターが生徒や保護者と面談をして、フ ェイスシートを作成しています。妊娠・出 産・発育の様子、療育や教育の様子、医療 にかかわる特記事項などについて記載しま す。(既成のシートを使用) ②個別支援シート 事前の面談で、保護者から困り感や学校へ の要望を聞きとり、作成後は承認を受けます。 表2 個別支援シート(記入例) (5)支援実行、評価は前・後期で Plan→Do→Seeの視点で、障害の特性に合 った適切な対応を進めることで、生徒の心理 的安定を図るとともに、困難の改善と克服を 促すよう心がけています。何より配慮してい る点は二次的障害(不登校など)の予防で す。 (6)学年対応の支援計画 校内の特別支援教育委員会によるアセスメ ントの結果、個別支援シートを作成して対応 する必要がないと判断した生徒の場合には、 学年で対応します。そして、学年で作成した 計画に添って支援が行われます(表3)。 表3 学年の支援計画(抜粋) おわりに 本校においては、本年度全教職員で教育的 支援を進めた結果、後期には1名の生徒につ いて特別に支援を行う必要がなくなりまし た。 高校生期の支援では、障害の特性に配慮し た支援とともに、ソーシャルスキルの指導や 就労支援など、自立と社会参加に向けた進路 支援体制の充実が課題になると考えます。本 校では、刻々と変化する生徒に最良の対応を するために、保護者や前述の10の専門機関と 適宜連絡を取っています。 発達障害の生徒を未来につなげていくため には、校種間連携(乳幼児期から学校卒業ま で)も急がれるところかと考えます。 〔小林久美子(こばやし くみこ)平成18年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 13 特 集 実 践 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 視覚障害教育の専門的な 指導の充実を図るための取組 5 北海道札幌盲学校 【笹森 香代子 校長】 教諭 山 本 正 路 はじめに 視覚障害教育の指導力を向上させるためには、専門的な知識や指導技術を得る場と、それを実 践し、改善できる場が大切です。専門的な知識や指導技術は、過去の研究や文献から多くのこと を学ぶことができ、実践や改善は盲学校の教育活動すべての営みの中で行われるものです。 本稿では、視覚障害教育の専門性の確保と、校内研究で行っている「職員の特性を生かした研 修」「授業参観」「施設設備の整備と活用」の取組について紹介します。 1 視覚障害教育の専門性の確保 表1 視覚障害に関する知識・技能の一覧(一部抜粋) 視覚障害教育の専門性の具体的な項目について、 「視覚障害に関する知識・技能の一覧(一部抜粋)」 (表1)によると、27の中領域、139の小領域、862 項目と数多くの知識や技能が必要とされていること が分かります。 幼児児童生徒数の減少などで、様々な領域の知識や 技能を学ぶ機会が少なくなり、一人で広範囲な専門性 を身に付けることは難しくなってきています。そのた め、視覚障害教育の専門性を確保していくために、前 記のような知識や技能の内容をしっかりと押さえ、不 足している領域については、必要に応じて補っていく ことが大切です。例えば、普通文字使用者の読材料の 最適文字サイズはどのように決めたらよいのか、点字 使用者の板書とノート整理はどのように指導したらよ いかなどは、自校以外の学校や機関も含めて、調べた り聞いたりして補う必要があります。 2 校内研究の取組 本校では、「専門性の継承と発展」「職員組織の活 性化」をねらい、平成18年度より3か年計画で「こ れからの盲学校としての専門性の充実」というテー マで次のような校内研究を行っています。 (1)職員の専門性を生かした研修 研修希望の多かった「点字」 「弱視レンズ」 「歩行」の3分野で、 専門的な知識や技術をもっている 教員を中心に、研修指導グループ を作りました。各グループの体制 は、経験年数などのバランスを考 慮し、3名としました。 研修会の内容の検討や講師を順 番に担当することを通して、専門 的な知識や指導技術をグループご とで継承することを試みました。 話を聞くだけではなく教える立場 になることで、グループごとの取 14 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 表2 研修記録(抜粋) ◆ 特集:実践5 ◆ 組を深めることができました。表2のような 研修記録を作成・掲示することで、研修内容 の振り返りやほかのグループの様子を知るこ ともできました。 平成20年度は、グループごとに研修内容を まとめて、問題集(表3)を作成しています。 これは、校内研修の時間を有効に活用するた めに、各教員が段階的な専門性(知識)を測 り、知ることや自学自習ができるものです。 問題は、①盲学校に赴任して児童生徒にかか わる上で必ず覚えること、②その分野の指導 担当になった時点で覚えておく必要があるこ と、③その分野の指導担当を1年以上経験し ている場合に知っておきたいことの3段階の 内容で作成し、解答と簡単な解説、詳しく知 りたい場合の参考図書と掲載ページをまとめ ています。 表3 問題集(抜粋) (2)授業参観 書籍等に掲載していないような授業の中で のちょっとした工夫は、実際の授業でなけれ ば学ぶことができません。そこで、授業での 工夫を伝え合うために、教員が互いの授業を 見る「授業参観」を行いました。各自の専門 性の向上を図り、日常の指導に生かせるよう に、個々の教員が自分で選んだ授業を参観す るようにしました。 表4 授業参観記録用紙(抜粋) 授業参観では、表4のように簡略化した記 録用紙を使用しました。参観者の感想に授業 者がコメントを加え、記録用紙をやり取りす ることで授業を振り返ることができ、互いに 学びを深めることができました。また、記録 を掲示することで、ほかの教員が参観したい 授業を選択する際の参考にすることや授業の 工夫について話し合うきっかけを作ることが できました。参観する時間を一斉に確保する ことは難しいですが、研究授業とは違った授 業の参観は、授業者も参観者も気楽に学び合 える場になっています。 (3)施設設備の整備と活用 校内研修会や授業参観は、気づきや振り返 りなど、専門性を向上させるきっかけを作る、 よい機会になっていると考えています。それ を踏まえて専門性を発展させるためには、 個々の教員が書籍や文献、その他の情報から より深く学ぶことが大切になってきます。 今は校内LANの普及もあり、日常的にイ ンターネットを介して、多くの情報や資料を 活用しています。しかし、本校にある多くの 視覚障害教育に関係する貴重な資料は、どこ にどのようにあるのかが知られていないた め、日常的に活用される機会は余りありませ んでした。そこで、研修指導グループ以外の 教員で、校内にある資料を①研究論文・紀要、 ②書籍・Web、③教材・教具、④補助具・ 日用生活用具、⑤教材作成機器の5分野で整 理し、活用しやすいデータベース化に向けた 取組を行っています。それぞれの担当者は、 整理に携わることで、どのような資料がある のかをより詳しく知ることができました。検 索しやすいようにデータベース化し、過去の 研究や実践など、学問的な視点で取り組んで いる情報を、身近に活用することができれば、 日常の指導がより専門的に充実していくと考 えています。 おわりに 今回紹介した取組は多くの学校で行われて いる内容ですが、視覚障害教育の専門性は、 過去の成果に学ぶことが多いため、校内の人 的・物的資源の活用を図ることで、様々な専 門性の向上や発展が望めます。 互いに授業を参観したり、指導方法やそれ らに関する知識・技能が日常的に話されるよ うな学校内の雰囲気を作ることが、専門的な 指導をより充実していくためには必要である と考えています。 【参考文献・引用文献】 ・視覚障害教育実践研究会編(1995)視覚障 害教育情報ガイド.コレール社. 〔山本正路(やまもと まさみち)平成12年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 15 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 実 践 6 集団の中で学び合える指導法について −聾学校における「複式授業」について− 北海道室蘭聾学校 【神田 英治 校長】 教諭 吉 田 卓 郎 はじめに 1 指導の実際 本校は、胆振・日高地域における、聴覚障 害のある幼児、児童生徒に対する教育を行う 特別支援学校です。全校幼児、児童生徒数は 16名で、そのうち寄宿舎には8名が入舎し、 また、施設入所は4名です。 現在、小学部では、8名の児童が学んでい ます(表1)。以前は、児童の発達段階や障 害の状態から、一対一の個別指導を行ってい ましたが、平成18年度からは、児童自身が主 体的に学び、自ら課題を解決していくことを 目的に、「複式授業」に取り組んでいます (表2)。聾学校における「複式授業」という のは、全国的にも珍しい取組であり、少人数 で学び合うことのよさについて実践・研究し ています。本稿では、小学部の実践について 紹介します。 学習集団の編成に当たり、実施している 「複式授業」と「個別指導」の特徴を次のよ うに整理し、単元の指導計画や授業場面で活 用しています。 【複式授業】 集団化を図ることにより、友達を意識し、 お互いを認め合いながら学び合うことができ る(図1)。 【個別指導】 個に応じたきめ細やかな指導を行うことが できる。その反面、児童が受け身になりやす く、自ら考え、問題を解決していく姿勢に課 題が残る(図2)。 複式授業 教科等の学習 朝の会や行事等 表1 学級編制について 子 教 子 子 教 子 教 図1 「複式授業」 表2 指導体制について 個別指導 教科等の学習 子 子 朝の会や行事等 教 教 子 教 教 個に応じた指導 →過干渉になりがち 教 集団の学び合い 話合い活動 図2 「個別指導」 16 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 子 ◆ 特集:実践6 ◆ 小学部においては、「複式授業」を通して、 話合いの場面を設定したり、児童が互いに学 び合う環境を設定したりすることで、友達の 発言を聞き、行動を見て、考えたり感じたり しながら学習しています。また、うまく答え られないときに、友達の言い方をまねるなど して発言することもできるようになってきま した。また、自主的に学習に取り組む姿勢や、 自分の力で考えて問題を解決する力も高まっ てきています(図3)。 あ、そうか、 わかったよ。 ありがとう 子 教 自主的に学習に取り組む姿勢 の向上を目指します。 すごいな、がんばってるな、 よし、ぼくもがんばるぞ! 教 今後の課題を以下にまとめました。 これはね、 こうやって するんだよ。 子 子 3 課題(抜粋) 子 自主的に学習に取り組む姿勢の向上を 目指します。 図3 「複式授業」の成果 2 成果(抜粋) これまでの成果を以下にまとめました。 おわりに これまで「複式授業」の様々な形態に挑戦 し、その取組から「複式授業」の目的や方法、 指導の在り方について、少しずつ方向性を見 いだしてきました。児童は、児童同士で褒め られたり、認められたり、時には注意された りすることを繰り返す中で、自ら学習に取り 組む意欲を高め、多くのことを吸収し、獲得 してきています。 また、同じ空間で学習する児童の存在はと ても大きく、互いに刺激を受けながら進んで 学習に取り組む姿を見ることができました。 このような学習を継続することで、児童が主 体的に学ぶ力を高めることができると考えま す。 今後も、聾学校における「複式授業」につ いて実践を積み、よりよい授業づくりを行っ ていきたいと考えています。 〔吉田卓郎(よしだ たくろう)平成18年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 17 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 実 践 一人一人の教育課題に 適切に対応する指導を目指して −個別のねらいに応じた指導場面別の指導について− 7 北海道札幌養護学校【塩見 啓一 校長】 教諭 郡 司 竜 平 はじめに 本校には、小学部68名、中学部77名、高等 部70名、訪問部36名の児童生徒が在籍してい ます。また、今年度は知的障害教育における 中心的な役割を担う学校として指定を受け、 「中心校としてさらに専門性を高めるととも に、その研究や実践の成果を他校に普及す る。」「全道域を視野に入れたセンター的機能 を発揮するため、ほかの特別支援学校や幼稚 園、小学校、中学校、高等学校に対し、専門 的な指導に関する情報提供等の一層の充実を 図る。」という目的を達成するために、様々 な取組を行っています。 本稿では、専門的な指導の充実を図るため の、児童一人一人のねらいに応じた指導につ いて、小学部の実践例を通して紹介します。 日常場面指導法は、日常生活の中の適切な 機会をとらえ、その場面を利用して指導を行 うというものです。小集団場面指導法は、た だ集団を構成すればよいのではなく、個々の ねらいに応じて構成しなければなりません。 そこには他者のモデリングなど、複数で行う ことによるねらいも含まれます。個別場面指 導法は、個別の課題学習を基本として断続的 に学習を積み重ねる指導です(図1)。 場面別の指導 本学級では、児童が学校生活における様々 な場面で、適切な学習を繰り返しながら1日 を過ごすことができるようにしています。ま た、自閉症の児童が多いため、表1に示され ていることも大切にしています。自閉症の児 童の指導を考える上では、「自閉を伴う知的 障害」として指導するのではなく、「知的発 達の遅れを伴う自閉症」として知的障害とは 異なる指導内容・方法を検討する必要がある と考えています。そのため、自閉症の指導に 効果的であると考えられる、「指導場面別指 導法」を取り入れながら指導しています。 表1 自閉症の指導内容・方法を考えるために 図1 特別支援学校における指導形態 (1)日常場面指導法 児童の多くはスクールバスで登校した際、 玄関の献立表で給食の献立を確認します。本 学級の児童も献立表に関心をもっていたの で、これを活用した指導に取り組むことにし ました。献立名を一つずつ数えることから始 め、1対1対応で指を折って数える指導を行 いました。繰り返しの指導により、一人で正 確に数えることができるようになりました。 現在は、献立名を一人で数えて報告すること をねらいとしています。初期段階では、1∼ 6個の献立名を数えることをねらいました。 この学習の様子を見た栄養教諭が、献立表を 工夫して、数える対象を 増やしてくれたので、さ らに数の概念が広がりつ つあります。 メニューの確認 18 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 ◆ 特集:実践7 ◆ (2)小集団場面指導法 ア 一斉指導から個人別のグループ学習へ 本学級では、朝の会を次の内容で構成し、 児童一人一人のねらいに応じたグループの学 習ととらえて指導しています(表2)。 表2 朝の会の内容 元気確認の様子 「2 元気確認」は、返事をして、元気カ ードをはる学習です。①返事をする、②一人 で移動する、③毎日の自分の体調を把握する、 ④決められた場所を注視してカードをはるな どの活動を、児童のねらいに応じて組み合わ せて指導しています。 「3 日にち確認」では、月日や曜日、天 気を理解することを最終目標に、数字に興味 をもつこと、いろいろな形の型はめをするこ と、色を理解することができるように、教材 を工夫しながら指導しています。 「5 絵本の読み聞かせ」では、今後、児 童一人一人のねらいに一層応じるために、エ プロンシアターやパネルシアター、絵本の動 作化なども取り入れたいと考えています。 イ 効果的に学習を進める はさみやファスナーの使い方は、個別の学 習で繰り返し学習する必要がありますが、学 習の機会は限られています。そこで、他校の 実践を参考に、掃除を頑張ったときなどに、 ごほうびを封筒に入れて渡し、はさみでジグ ザグや曲線、直線を切って開けるようにしま した。これにより、ごほうびを取り出すこと を楽しみにしながら、はさみを使う機会を増 やすことができました。同様に、お楽しみ会 のプレゼントをファスナー付きの袋に入れる ことで、楽しみながらファスナーを開けるこ とができました。指導を効果的に進めるため には、繰り返し学習する機会を増やす必要が あると考えています。 (3)個別場面指導法 個別の課題学習では、個別の指導計画のね らいに応じて、個別とグループの学習を組み 合わせています(表3)。 1学期は、各学級で個別の学習を行い、学 年で成果と課題を見直しました。2学期から は、学年単位で児童一人一人のねらいを考慮 したグループを編成し、指導しています。 グループ1で学習してい る「すごろく」は、児童が お互いをモデルとしながら 相互に高め合う様子が見え ました。すごろくの課題は、 「 買 物 ( お 金 )」「 り ん ご 個別の課題学習 (数への興味、数の多少)」 「おつかい(指示理解)」などがあります。同 じ課題で4名が学習していますが、硬貨の種 類を変えたり、指定された数のりんごを持っ てきたり、りんごの多少を比べたりして、各 児童のねらいに応じた学習内容を設定してい ます。理解が不十分な場合は、すぐに個別の 学習を行い、理解を深めることができるよう にしています。 表3 ねらいに沿った編成の工夫「やってみよう」 個別の学習で習得した知識や技能などをグ ループの学習で発揮することで、周りの児童 のモデルとなるとともに、周りの児童から認め られたり、褒められたりすることで本人のセル フエスティームを高める効果も期待できます。 おわりに 現在は、インターネットなどを通じて、多 くの優れた実践を知ることができます。実践 例に学びながら、児童一人一人のねらいに応 じた小グループの学習を柔軟かつ多様に構成 することが、現在の教育の鍵になると考えま す。個別の学習を積み重ねることはもちろん 大切ですが、1対1で指導できる場面は限ら れています。個別の課題を解決するための小 グループの学習を、いかに構成するかが重要 なポイントであると考えています。 【参考文献・引用文献】 ・国立特別支援教育総合研究所(2008)自閉症 教育実践マスターブック.ジアース教育新社. ・齊藤宇開(2008)北海道星置養護学校開校 30周年記念公開研究会記念講演資料. ・国立特別支援教育総合研究所(2006)重 度・重複障害児における共同注意関連行動 と目標設定及び学習評価のための学習到達 度チェックリストの開発. ・国立特別支援教育総合研究所(2006)生活 単元学習を実践する教師のためのガイドブ ック∼「これまで」、そして「これから」∼. 〔郡司竜平(ぐんじ りゅうへい)平成20年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 19 特 集 実 践 8 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 子どもが楽しめる学習の実現 −ティームティーチングの観点から− 北海道手稲養護学校【秋山 春雄 校長】 教諭 杉 本 茂 はじめに 本校では、平成19、20年度の2か年、 「多様 な学習特性をとらえ、支援を工夫した授業つ くり∼一人一人の学びを支える環境つくり、 指導の在り方を探りながら∼」を研究主題と して校内研究に取り組みました。本稿では、 図工・美術研究グループ(以下「本研究グルー プ」と言う。)の今年度の取組を報告します。 1 本校の現状と課題 本校に在籍する幼児児童生徒は、併設する 北海道立子ども総合医療・療育センターに手 術や訓練、治療を目的として入院しています。 入退院に伴い、年間を通して短期間での転入 転出が繰り返されることから、本校では在籍 者が一定しません。さらに通常の学級から転 入し小・中学校に準じた教育課程を履修する 児童生徒が多いことから、学部や学年等の違 いだけではなく、教育課程とそれに伴う指導 内容・方法が多様です。 本校の授業は、ティームティーチング(以 下「TT」と言う。)で行われることが多くな っています。TTを行うことの利点は、複数 の教師が協力しながら指導することにより、 児童生徒を多角的に把握することが可能とな ること、個々の教師の専門性や特性を生かす ことができ創造的な授業を展開できること、 さらに、学習グループを編成することができ、 児童生徒個々の能力や特性に応じた指導が可 能となることなどです。一方、TTが十分に 機能しない場合の問題点としては、サブティ ーチャー(以下「ST」と言う。)の活動が児 童生徒の補助や管理だけに終始してしまうこ となどが挙げられます。また、教師間で指導 方針に違いがある場合や、事前の打合せの時 間がとれない場合には、指導の効果が十分に あがらないことが考えられます。 現在、本校で行われているTTによる授業 実践を振り返ったとき、利点を生かした指導 も行われていますが、上記のような問題点も 見られました。その理由としては、 ①児童生徒数の変化により、指導者が学期の 途中から変わることが少なくないこと。 20 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 ②指導者が固定されている場合においても事 前の打合せがもたれていないこと。 などが考えられました。 そこで、本研究グループでは、今年度の研究 テーマを「子どもが楽しめる学習の実現∼テ ィームティーチングの観点から∼」と設定し、 TTの授業について再考することとしました。 2 研究の目的 特別支援教育は、これまでの特殊教育が培 ってきた専門性の継承と発展の上に成立する ものであり、専門家や関係者とのつながりが 一層求められています。また、日々の授業実 践においては教師間のつながりが重要である と考えています。したがって、TTによる授 業実践を検証し、授業改善に取り組むことは、 特別支援教育を推進していく上で極めて重要 であると考えました。 表1 TT授業評価票(抜粋) ◆ 特集:実践8 ◆ そこで今年度は、文献や先行研究からTT の基本的な考え方を明らかにするとともに、 授業の改善点を検討することを目的に、姉崎 (1999)をもとに作成した授業評価票(表1) を活用して、TTによる授業を評価し、次の 授業設計に生かしていくことにしました。 3 研究の方法 今年度の全校授業研究で公開した中学部の 美術の授業を取り上げ、参加した教員による 授業評価を実施しました。 (1)対象 生徒:中学部3年普通学級4名(脳原性疾患) 指導者:MT(授業の進行を主に行う)1名 S T(授業の進行をサポートする) 2名 (2)題材名 Myカップを作ろう(陶芸) (3)題材のねらい 板つくりの技法を理解し、用と美を兼ね備 えたMyカップを制作できる。 (4)本時のねらい 生徒:楽しみながら、意欲的に制作するこ とができる。 教師:チームとして、子どもの学習効果が あがるようなかかわりができる。 表2 指導案(抜粋) (5)手続 参観者は事前に指導案(表2)に目を通し て授業を参観し、TT授業評価票(表1)を活用 して評価します。また、参観者全員と授業者 で授業改善の視点から授業を検討しました。 4 結果と考察 この授業の指導上の工夫及び配慮事項は、 主に以下の4点です。造形的思考力や観察力 などを養うと同時に、対象をよりよくとらえる ために、制作するときの姿勢にも配慮しました。 ①自分の考えを整理するため、作りたいデザ インや形を言語化する。 ②作品を離れた位置から見せることで、全体 像を確認させる。 ③粘土を自分の正面に置いて制作する。 ④車いすの生徒は浅く腰掛け、両足を床に着 けて制作する。 TT授業評価票については、回収数が少な かったため、量的評価については分析するこ とができませんでした。以下に質的評価の結 果について考察します。 まず、今回の4名の生徒に3名の指導者が 指導する形態については、参観者の評価が分 かれました。生徒の実態や題材から適切との 評価もありましたが、「子どもたちが指示待 ちに見えた。」「補助具の活用や工夫があれば よかった。」など、生徒の主体的な活動が少なか ったと感じている参観者が多かったことが読み 取れました。これは、指導者の人数やかかわ り方に課題があったといえます。今後、授業の ねらいや子どもへのかかわり方などについて再度 検討していく必要があると思います。また、 授業者が授業の中で気づきにくいことを、参 観者に適切に指摘してもらえるようなTT授 業評価票の様式の検討も必要と考えました。 授業者の連携については、全員が中学部の所 属であり、一人は対象生徒の学級担任であった ことから、生徒の実態等については容易に確認 し合うことができました。しかしながら、授業の 展開までも共有し合うためには、指導案の様式 や記述内容の再検討が必要であったと考えます。 姉崎(1999)は、TT授業評価票を使うメ リットの一つとして、評価する視点が明確に なり、話合いのポイントも焦点化されやすい と指摘しています。本校においても、授業に ついての話合いを活発化させるために、生徒 の実態や指導内容・方法を共通理解するため の工夫が必要であると考えました。授業改善 に向けて課題はありますが、本研究は肢体不 自由教育の授業つくりを考える上で重要なテ ーマであると考えます。 【参考文献・引用文献】 ・姉崎弘(1999)障害児教育におけるティーム・ ティーチングの授業評価方法に関する研究. 日本教育心理学会総会発表論文集, (41),751. 〔杉本 茂(すぎもと しげる)平成19年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 21 特 集 特別支援教育に求められる専門性−指導力を高める− 実 践 様々な病状・特性の子どもたちへの 個に応じた支援に向けて 9 北海道札幌市立山の手養護学校【坂田 義成 校長】 教諭 千 葉 道 代 はじめに 本校は、国立病院機構西札幌病院と隣接す る、病弱のある児童生徒を教育する特別支援 学校です。近年の在籍児童生徒は、広汎性発 達障害、肢体不自由(進行性筋疾患等)、知的 障害など、障害が重度化、多様化しています。本 稿では、こうした子どもたちの多様な教育的 ニーズに対応するための取組を紹介します。 1 病弱児に対する 「個に応じた支援」のために 本校には、西札幌病院にて入院や通院によ る加療が認められた子どもたちが、随時転入 してきます。私が担任している学級は、集団 生活で心理的な配慮を要する児童、発達の遅 れや偏りがある児童、注意集中に課題のある 児童などが共に学んでいます。札幌市小学校 教育課程編成の手引に基づき、通常の学級に 準じた指導内容と、特別支援学級の指導内容 を参考にしながら学級経営をしています。一 人一人の障害の特性やニーズは異なります が、他者とのかかわりを意図的に設け、集団 の中の一員としての力を育てるように努めて います。個々の子どものニーズに的確に対応 するために、以下の点に留意して、関係機関 等と連携しています。 (1)迅速な連携 主治医・看護師・心理士などの医療スタッ フをはじめ、札幌市自閉症・発達障害者支援 センター、大学その他研究団体、市内特別支 援学級担任等と連携し、児童の実態に関連す る情報の収集や相談を早期に行います。文献 では得にくい、一人一人の児童の心理的な状 態と体調との関連など、早い段階で必要な情 報をまとめ、学部の教員間で共有します。 (2)計画的・効果的な連携 支援開始後、各機関からの情報を更に精査 し、個に応じた支援の手立てに生かしていき ます。児童の変化していく病状や様子に適切 22 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 に対応できるよう、あらかじめ主治医や心理 士等との面談の時期や回数を決めておき、計 画的に支援内容の見直しをします。また、定 期的に連携先の研修会に参加するなどして、 支援内容の相談や情報交流を行い、連携を深 めるようにしています。 訪問や面談前には、保護者や学部の教員に 支援の目的と内容を知らせるようにしていま す。協議の結果は個別の教育支援計画等に確 実に記録し、連携を持続していきます。 2 学級での支援の様子 表は私が担任している学級の、12月2週の 指導予定表です。各時間の上段は、発達の遅 れや偏り、注意集中に課題のある児童に対す る内容、下段は集団生活で心理的な配慮を要 する児童に対する内容です。 発達等に課題のある児童については、教室 内をオルガンやテレビ台で仕切りをつけるな ど、できる範囲で物理的に構造化し、学習時 間を短いモジュール(1コマ15分程度)に分 けています。自立課題に取り組む時間や休息 を入れることで、ほかの児童がいても落ち着 いて学習に取り組めるようになってきました。 心理的に配慮を要する児童については、自 分の意見や感想などを話すことに困難さが見ら れ、傷ついた自尊心の回復が急務でした。しか し、何事にも積極的に取り組んでいるほかの児 童に刺激されて、次第に自己開示ができるよう になりました。毎 朝、互いの日記を 読んで質問をし合 います。音楽、書 写、図工、体育、総 合的な学習、学活で は、個別に目標を 設定して学習して 写真1 図工「クリスマス飾り」 います(写真1) 。 かかわりの中で、相手の答えを待ったり、意思 を言葉で伝えたりするようになるなど、一人一人 に合った言い方や話しかけるタイミングを考える ことができるようになってきています。 ◆ 特集:実践9 ◆ 表 指導予定表 解放を図りたい という児童の、 両方のニーズを 満たすための工 夫です。 例えば体育館 での「山の手野 写真2 自立活動 球」では、児童 「だるまさんがころんだ」 と話し合い、運 動制限の大きいグループは教師と一緒に バットを持って良いなどの特別なルール を作り、全員が満足感を得られるように しています。訓練室での「じゃんけんす ごろく」「いろはかるた」などでは、実 態に応じ、無理のない範囲で個別のコミ ュニケーション課題に沿った支援を行っ ています。 4 転出・卒業後を 見据えての支援 3 学部での支援の様子 ここでは週2回(1回20分)行う、学部全 員での自立活動の取組を紹介します。児童を、 運動制限の程度や、社会性の発達等を考慮し、 主に運動的要素の活動と主にゲーム的要素の 活動の2つのグループ(表の「自立(学部 ①・②)」)に分けています。活動場所は体育 館と訓練室です。 工夫している点は、活動場所や種目を週交 代とし、運動の内容をグループの実態に合わ せ、全員が同じ種目をできるようにしたこと です。車いすの使用等で運動制限が大きくて も、「だるまさんがころんだ」(写真2)や 「ピンポン球ホッケー」など、体育館でみん なと同じ種目をしたいという児童と、制限は ほぼなく、大きく体を動かすことで気持ちの 病弱のある子どもたちも、発達段階に 応じて勤労に関する学習活動は必要と考 えます。そこで、学校でのなわとびと机 ふき(表の「つくえ・なわ」)と家庭で 決めたお手伝いを行うたびに、1日5円 分のシールをチャレンジカレンダーにた めています(写真3)。120円分たまった ら、病棟の自販機で飲物を購入し、全員 で乾杯をしています。この活動で、児童 は成功体験を 積み重ね、保 護者は家庭で のお手伝いの 様子から子ど もの成長の実 感がもてるも のと考えてい 写真3 「チャレンジカレンダー」 ます。 おわりに 転出・卒業後の生活について、保護者のニ ーズも多様化してきています。長い治療や療 育に添い続ける苦労や、我が子に抱く将来像 も様々です。担当者には、保護者とともに支 援の在り方を検討していく際の、受容、共感 的な聴き方や話し方も求められています。今 後も専門性の向上に努め、より適切な支援を 行えるようにしていきたいと考えています。 〔千葉道代(ちば みちよ)平成11年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 23 リレー連載 新たな課題への対応1 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 平成19年度研究研修報告 小・中学校における特別支援教育への理解と対応の充実に向けた総合的研究 −特別支援教育への理解と充実に向けた小・中学校の取組に関する状況調査より− 北海道七飯養護学校おしま学園分校〔外山 正一 校長〕 教諭 佐 藤 実華子 はじめに 平成19年4月より小・中学校において特別支援教育が本格的に実施されたことで、各学校において は様々な取組がなされています。また、特別支援学校においても地域のセンター的機能の役割を果た すべく小・中学校等と連携をしています。 本稿では、特別支援教育の充実に向け、小・中学校の連携機関の一つである特別支援学校の今後の センター的機能について、国立特別支援教育総合研究所の研究研修員として参画したプロジェクト研 究の成果から、一部抜粋して述べます。 1 目的と方法 特別支援学校のセンター的機能について、小・中学校のニーズを把握することで、今後のセンター 的機能の整理・構築の際に必要な視点が得られると考えました。 そこで、全国の小・中学校約34,000校の中から無作為抽出を行い、それぞれ1,000校を対象に質問紙 による調査を実施しました。 ※調査全体は第1調査[基本情報等に関すること]、第2調査[外部機関との連携に関すること]、第 3調査[特別支援教育コーディネーターに関すること]の3つの調査を行いましたが、本稿では第 2調査の一部についてのみ述べています。 2 調査の内容 保護者との相談 (1)関連機関と行った連携について (2)特別支援学校(盲・聾・養護学校) との連携について (センター的機能の活用状況/内容ごと の活用状況/内容ごとの今後の必要性) (3)教育委員会からの指導・支援について 3 結果とまとめ 保護者との相談 教材の提供 教材の提供 研修会や講演会の講師 研修会や講演会の講師 他機関への支援の橋渡し 他機関への支援の橋渡し 個別の教育支援計画の策定についての相談・助言 個別の教育支援計画の策定についての相談・助言 個別の指導計画の作成についての相談・助言 個別の指導計画の作成についての相談・助言 子どもの支援体制について相談・助言 子どもの支援体制について相談・助言 特別支援学校の通級指導 特別支援学校の通級指導 子どもへの直接指導 子どもへの直接指導 進路や就労についての相談・支援 進路や就労についての相談・支援 進学や転学についての相談・支援 進学や転学についての相談・支援 子どもの指導・支援についての相談・支援 子どもの指導・支援についての相談・支援 回収総数は、小学校で610校(61%)、 中学校で605校(60.5%)でした。 センター的機能の活用状況については、 図1 図2 「よく活用する」「時々活用する」と回答 センター的機能の内容ごとの活用状況(小学校)(%)N=248 センター的機能の内容ごとの活用状況(中学校)(%)N=226 したのは、小学校で全体の約41%、中学 校で全体の約37%でした。さらに、現在 の内容ごとの活用状況(図1、図2)と 今後の必要性(図3、図4)とを比較分 析してみると、小・中学校がセンター的 機能に求めていることの一つとして、「積 極的な情報の収集、整理、発信基地とし ての特別支援学校の存在」ということが 見えてきました。 このように小・中学校のニーズをとら え、センター的機能の整理と再構築を行 うことが、地域のセンター的機能として の充実を図り、小・中学校等の特別支援 図3 図4 センター的機能に関する今後の必要性(小学校) (%)N=610 センター的機能に関する今後の必要性(中学校) (%)N=605 教育の理解と対応の充実につながると考 〔佐藤実華子(さとう みかこ)平成14年4月より現職〕 えます。 子どもの実態把握 よく活用する 時々活用する あまり活用しない 子どもの実態把握 活用しない その他 よく活用する 教材の提供 教材の提供 研修会や講演会の講師 研修会や講演会の講師 他機関への支援の橋渡し 他機関への支援の橋渡し 個別の教育支援計画の策定についての相談・助言 個別の教育支援計画の策定についての相談・助言 個別の指導計画の作成についての相談・助言 個別の指導計画の作成についての相談・助言 子どもの支援体制について相談・助言 子どもの支援体制について相談・助言 特別支援学校の通級指導 特別支援学校の通級指導 子どもへの直接指導 子どもへの直接指導 進路や就労についての相談・支援 進路や就労についての相談・支援 進学や転学についての相談・支援 進学や転学についての相談・支援 子どもの指導・支援についての相談・支援 子どもの指導・支援についての相談・支援 子どもの実態把握 子どもの実態把握 必要である 2009.3 あまり活用しない やや必要である あまり必要でない 活用しない その他 必要でない その他 保護者との相談 保護者との相談 24 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 時々活用する 必要でない その他 必要である やや必要である あまり必要でない ◆ リレー連載:新たな課題への対応 ◆ リレー連載 新たな課題への対応2 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 平成20年度専門研修報告 今を生きる、そしてこれからを生きるすべての人たちへ 北海道白樺高等養護学校〔水石 裕一 校長〕 教諭 鈴 木 香代子 はじめに 平成18年度以降、発達障害に関する様々な診断名と指導法等が、特別支援教育の名のもとに語られ ています。私は、「発達障害の特性は、その人の一部を理解することにはなるけれど、その人のすべ てを理解することにはならないだろう」という思いをもち続けてきました。特別支援教育は、インク ルーシブの名の通り、特定した子どものための教育ではありません。21世紀を生きるすべての人の 「生き方」に対する、これまでのとらえ直しと、今後の方向性へ向けての明るい一石ととらえてよい と考えました。本稿では、昨今の教育現場の状況と、私が全国66名の方々と2か月間の短期研修を通 して、情報交換をしたり「国立特別支援教育総合研究所」の講義から学んだことについて報告をします。 1 今後の教育現場に求められること ①「困らせている子」は「困っている子」とい う視点に立つこと。 ②厳しさだけでは、人は変わらないということ。 ③障害は「分けるため」ではなく、「支援が必 要」という枠組みでとらえること。 ④「何をしたか」で判断せずに「どういう気持 ちでそれを行ったのか」に着目すること。 ⑤「自立」とは「一人でできることではなく、必要 な時に必要な支援を求めること」と考えること。 ④学校内なら担任だけでなく、学年担当や管理 職、事務職なども巻き込んで、関心をもって くれる多くの人と情報の交換をすること。 ⑤情報を得たものが自律的に変化・行動してこ そ「連携」が強まるという視点に立つこと。 2 保護者との連携 ①「モンスターペアレンツ」という呼び名をつ けることは、保護者との距離を置き、つなが りを放棄しているという視点に立つこと。 ②「みんなでつながる(連携・協働)教育」と いう理念のもと、保護者が歩んできた「親と しての歴史」を共感的に受け止め、共に成長 を考えるという姿勢をもつこと。 ③比較するのは「ほかの子ども」ではなく「以 前の我が子」であることを伝えること。 おわりに ≪国立特別支援教育総合研究所で学んだ特別支 援教育のキーワード≫ 3 ネットワーク・ケア 「連携」は、近ごろの発達障害者の支援のキ ーワードになっていますが、横断的な支援を意 味していることが多いように思います。しかし、 子どもの発達には、時間の流れに沿った支援も 重要ではないでしょうか。「家族」は家庭内の 「横の連携」を生涯保持していかざるを得ませ ん。「学校教育」は、一貫性があるように見え て実は、コマ切れです。 ①情報を共有化し、とぎれないよう保ち続ける こと。 ②名医とか達人の先生だけに一対一でつながら ないこと。 ③一対多の関係の構築を目指すこと。 2か月間の研修で、全国に志を共にする仲間 ができました。この出会いを大切にしながら、 これからもネットワークを広げていきたいです。 また、チームワークを大切にしながら、様々な 情報をキャッチし、フットワークよく実践する 中で、様々なことを学んでいきたいと思います。 【参考文献・引用文献】 ・国立特別支援教育総合研究所.平成20年度特 別支援教育専門研修発達障害教育専修プログ ラム認定講習資料. 〔鈴木香代子(すずき かよこ)平成10年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 25 適切な指導・ 支援を求めて リレー連載 神経筋疾患生徒の 可能性を広げる 大学と連携した取組 北海道八雲養護学校 〔岡元 賢 校長〕 教諭 土 屋 和 彦 はじめに 本校は、国立病院機構八雲病院(以下「八雲 病院」と言う。)に併設している病弱のある児 童生徒を教育する特別支援学校です。児童生徒 は31名おり、そのうち約60%が神経筋疾患(主 に筋ジストロフィー)です。神経筋疾患の児童 生徒は、全身の筋肉が衰えるため運動機能が低 下し、喪失体験が多い傾向にあります。以前は、 児童生徒が高等部卒業後の将来をイメージでき ず、積極的に活動できないこともありました。 しかし、近年の医療の進歩やICF(国際生 活機能分類)の概念のもと、様々な支援技術 (AT:アシスティブ・テクノロジー)の浸透 により神経筋疾患の児童生徒の活動も様々に広 がってきています。 本校は、八雲病院との協働関係を通して、児 童生徒の自尊感情を高めつつ、自主的に活動で きる環境を設定し、一人一人が自らの夢や目標 に向かって挑戦できるような実践を目指してい ます。本稿では、高等部の生徒が行っている東 京大学と千歳科学技術大学との連携を紹介しま す。 1 東京大学先端科学 技術センターとの連携 神経筋疾患の児童生徒は、病気の進行により 早い段階から一人一人にあった支援機器を利用 しています。本校の児童生徒が支援技術を学習 することは、生活の質(QOL)の向上だけで なく、学習した支援技術の知識で、自らの可能 性を広げることにもつながります。 このような意義を踏まえ、東京大学先端科学 技術センターの中邑賢龍教授の協力を得て、平 26 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 成18年度より高 等部の総合的な 学習の時間で、 支援技術の学習 を始めました。 平成18、19年 度は、中邑教授 が来校し、支援 技術の考え方や 東京大学中邑教授の支援技術講習会 実際の支援機器 の説明、障害のある当事者が意見を発信するこ との重要性について講義を行いました。 平成20年の3月には、中邑教授が作成・管理 している「こころWeb(障害者のパソコン、 IT機器利用を支援するサイト)」の支援機器 データベース管理の仕事に、協力者として参加 できることにな りました。受講 した卒業生や生 徒に募集を行 い、面接を経て 5名(在校生1 名を含む)が協 力者となりまし 東京大学中邑教授の支援技術講習会 た。 現在、毎週一回、東京大学先端科学技術セン ターと「Skype(インターネット電話サー ビス)」を活用した会議を行っています。会議 では、モニターを通して最先端の話題や新しい 支援機器を学び、「こころWeb」の支援機器 分類の仕事について打合せをしています。在校 生にとってこの学 習は「ビジネス基 礎」(専門教育に 関する各教科・科 目「商業」)の授 業として実施して おり、単位認定を 行っています。 Skypeを使用した会議の様子 この活動を通し て、生徒は、障害のある当事者だからこそ発信 できるニーズやアイディアがあることを実感し ました。今では、それを世の中の支援技術を必 要とする障害のある人や高齢者に還元していき たいと考えるようになっています。実際に中邑 教授の講義を受けた卒業生の中には、支援機器 のモニターとして意見を述べ、謝礼をもらう方 も出てきました。 ◆ リレー連載:適切な指導・支援を求めて ◆ 「病気のため できない」と考 えては何もでき ません。疾患の 当事者として、 自分たちだから こそできる活動 があります。そ の活動を自ら考 Skypeを使用した会議の様子 え、学び、自分 の力量を高めていくことを通して、社会と交わ り貢献していってほしいと思います。 モニターを行った卒業生にとって、東京大学 先端科学技術センターとの連携から学んだこと は、卒業後の活動を充実させるだけでなく、自 分自身が社会に貢献できることを実感すること につながり、一社会人としての自尊感情をも高 める結果となりました。 今後も、支援技術を活用する当事者の立場を 最大限に活用し、社会に貢献できるよう支援し ていきたいと思います。 2 千歳科学技術大学との連携 本校の児童生徒は、病気の進行に伴い腕の可 動域が狭くなり、筆記が難しくなるため、普段 の学習でもパソコンを活用することが多くあり ます。 平成18年6月28日に千歳科学技術大学と高大 連携の協定を結び、eラーニング(インターネ ットを活用した教育形態)の学習ができるよう になりました。千歳科学技術大学のeラーニン グは、パソコンを通して、自分のペースで学習 できます。開設されている科目も多く、日々の 授業や病院での学習に活用されています。卒業 後に通信制の大学を選択する生徒も多く、通信 の教育を受ける上でもeラーニングで学ぶ経験 は役に立つと考えます。 また、このeラーニングがきっかけで大学に 興味をもった生徒が、千歳科学技術大学で夏休 みに行われた、「情報プロジェクト」体験プロ グラム2008に参 加しました。 4日間の日程 で大学へ行き、 大学院生や学生 からWebペー ジで利用されて いるソフト(F 「情報プロジェクト」体験プログラム2008 LASH)の活用方法を学び、簡単なゲームを 作成することができました。 これらの経験を経て、現在、高等部1年の3 名が千歳科学技術大学の科目等履修生として学 んでいます。これは千歳科学技術大学で実際に 行われている講義内容が基本となっており、課 題を提出すれば、大学の単位として認められま す。今後、本校としても、学校外における学修 の単位としての認定を検討しています。 当初は自ら学ぶという視点で行ったeラーニ ングですが、大学への興味関心も芽生え、進路 への意識が向上 しました。生徒 の学習の機会を 広げるために、 今後も様々な形 でeラーニング を活用したいと 考えています。 「情報プロジェクト」体験プログラム2008 おわりに 本校の児童生徒の活動を考える時、必要不可 欠なのが八雲病院との協働です。児童生徒の情 報を共有し、同じ目的に向かって働く関係が、 児童生徒にとって医療的な面も配慮された質の 高い環境設定や支援につながります。 東京大学との連携では、八雲病院の作業療法 士(OT)の協力のもと、日常的に支援技術に 関する学習会が開かれ、卒業生だけではなく、 在校生の関心も高まるような支援が行われてい ます。千歳科学技術大学との連携では、病院内 のインターネットの環境の整備や「情報プロジ ェクト」の参加に対し、院長をはじめ様々な職 員の支援を受けて活動することができました。 また、八雲病院との協働関係を築くだけでな く、学校自体も大きく変わりました。学習時間 の見直しや校務分掌の再編、教育課程の改善を 行いました。現在では、大学進学を目指す生徒 もおり、卒業後の選択肢が拡大しています。 八雲養護学校の児童生徒には、自分の可能性 を信じ、夢を語り、実現に向けた努力をしてほ しいと思います。私たちはその夢の実現のため に、あらゆる支援を病院や大学とともに行い、 一人一人の可能性を開花させたいと考えていま す。 〔土屋和彦(つちや かずひこ)平成15年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 27 青年期の支援 リレー連載 障がい児者の地域生活を 支える仕組みを学生と創る 北海道医療大学看護福祉学部 教授 横 井 寿 之 はじめに 私が医療大の教員として赴任したのは、今か ら10年前のことです。教員となって私は、程な くそれが医療大の学生の特徴かどうかは分かり ませんが、福祉を学び、それを職業とすること に自信のない学生が多いことを知りました。そ れは、経験不足による漠然とした不安であった のかもしれません。また、「自分のこともでき ないのに、人の援助をする」という仕事ができ るだろうかという、福祉を学ぶ学生のだれもが もつ当然の疑問でした。「人を介護する」とか 「困難を抱えている人を援助する」といった福 祉の現場は、決して楽な仕事ではなく、仕事の 割に給与面で恵まれているともいえません。し かし、そうであったとしても、福祉の現場は人 材を必要としています。自信のない学生を、ど うしたらよき援助者にすることができるか。こ のことが私にとって、最も重要なことに思えま した。 福祉は実践がすべてです。学生が自信をもつ ためには、自分が人の力になれるという体験を 通して、感じていくのが最も現実的な方法だと いうのが、私の経験からの実感でした。そこで、 学生たちとボランティア活動に取り組むことに しました。 平成13年までは、障がい者施設でのボランテ ィア活動が中心でした。その中で特筆すべき取 組がありました。有珠山の噴火で被災した伊達 地方の知的障がい者を札幌に招待して慰労する という事業を、札幌の障がい者事業所が主催し 28 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 たときのことです。医療大の学生80名が参加し、 2か月にわたってこの活動を支えたことは高く 評価されました。 この経験から学生たちのボランティア活動は 一気に勢いがつき、多様な活動に参加し、また 組織的な活動を展開するようになりました。 1 空き店舗を利用した 「医療大ボランティアセンター」の設立 学生のボランティア活動が本格的になってき たことから、当別町内に活動の拠点が必要にな りました。当別町に助成をお願いしたところ、 即決で3年間の家賃助成をしてくれました。そ こで、空き店舗を改修し、平成14年5月、学生 のボランティアセンターを発足させました。こ のボランティアセンターを「当別町青少年活動 センターゆうゆう24」(以下「ゆうゆう24」と 言う。)と名付け、以後、学生たちの活動の拠 点となりました。 図 当別町青少年活動センター概念図 ◆ リレー連載:青年期の支援 ◆ 2 学生ボランティアの登録 北海道医療大学は薬学・歯学・看護福祉学部 の医療系の大学です。学生数は2,500名を数え ます。毎年1年生に「ゆうゆう24」のボランテ ィア登録を呼びかけますが、平成18年度は、登 録した学生の数は420名になりました。ボラン ティア登録した学生には、「ゆうゆう24」から 様々なボランティア活動の案内がメール等で配 信されます。 表 当別町「ゆうゆう24」学生ボランティア数(平成18年度) 3 障がい児を預かるサービス (レスパイトサービス)の創出 学生のボランティア活動の最初の課題として 私たちが取り組んだのは、障がい児の一時預か りのサービス(レスパイトサービス)でした。 当別町には学齢の障がい児が40名、学齢前の幼 児が20名で合計60名がいました。しかし、子ど もたちの在宅支援のサービスが当時何もなかっ たことから、私たちはこのサービスを始めるこ とにしました。障がい児がいることで、家族 (主に母親)は少しも休まることができないば かりか、社会的な活動もできないという状況に あります。 このサービスを開始した当初、保護者には子 どもたちを学生に預けることの不安が大きく、 簡単には信頼してもらえませんでした。平成14 年度の年間利用児童数はわずか46名でしたが、 平成17年度にはのべ4,600名を越えるほどの利 用実績となりました。学生たちのボランティア として始まったサービスが、障がい児をもつ家 族にとって、必要なサービスとなりました。 4 オープンカレッジの取組 知的障がい者は特別支援学校を卒業した後、 就労するにしても福祉施設を利用するにして も、教育という場、若しくは「学ぶ」という機 会が極めて少なくなります。そこで、知的障が い者に医療大学を開放し、教員や支援者によっ て「学びの場」を提供しようと始めたのがオー プンカレッジです。 平成14年に1回目を開催し、以後年間4回開 催してきました。1回の開催で約50名の知的障 がい者が参加します。平成19年度までに通算22 回を数え、参加した知的障がい者の人数は 1,500名にも及びます。学生はこの事業の運営 と知的障がい者の学習サポーターとして、ボラ ンティアで参加します。その人数はのべ2,000 名を越えています。参加者は医療大学で学ぶと いうことと学生たちと交流することを楽しみに しています。 こうした活動が知的障がい者の地域生活を支 える力になることを願って、学生たちと取り組 んでいます。 おわりに ∼「ゆうゆう24」の多様な福祉活動の取組 平成14年から学生のボランティア活動として 始まった「ゆうゆう24」は、今ではNPO法人 の認可も得て、その活動は多様な広がりを見せ ています。当別町では国の児童ディサービス事 業を受託し、現在は江別市や夕張市でも事業を 展開しています。 当別町では子育て支援の事業である「当別町 ファミリーサポートシステムセンター」や「障 がい者総合相談支援センター」の事業も受託し ています。様々な取組の中でも、小・中学校で の「福祉教育」は重要な活動と考えています。 当別町社会福祉協議会との連携で、「福祉祭り」 などの協働の事業も展開しています。「ゆうゆ う24」という事業所と学生たちの活動は、当別 町の地域福祉の推進に大きな役割を果たしてい るといえます。 〔横井寿之(よこい としゆき)平成11年4月より現職〕 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 29 併設機関との連携 表 初回評価と再評価の結果 ( は初回評価) リレー連載 北海道立心身障害者 総合相談所との連携 北海道立心身障害者総合相談所 〔渡部 正行 所長〕 理療専門員 玉 重 詠 子 北海道立特別支援教育センター 情緒障害教育室 【連携指導の実際】 室長 柏 木 拓 也 はじめに 北海道立特別支援教育センター(以下「セン ター」と言う。)は、併設する北海道立心身障 害者総合相談所(以下「総合相」と言う。)及 び北海道中央児童相談所と、ケースに応じて、 それぞれと連絡をとりながら相談を進めていま す。その中でも、総合相の言語聴覚士(以下 「ST」と言う。)とは巡回教育相談を含め数多 くの教育相談で連携をしています。STに連携 を依頼するのは、「主訴が言語発達に関する場 合」、「知的発達と言語発達の対応性を確認する 場合」、 「言語訓練の適応の有無を確認する場合」 などです。そして、教育相談の中で言語訓練の 必要性があると判断された場合は、定期的な連 携指導も行っています。本稿では、センターと 総合相の連携相談の実際について報告します。 1 連携指導事例 【対象児の概要】 【相談の経緯】 幼稚園の入園申込みの際に、幼稚園より「発 達上の課題が見られる」ことを指摘され、生活 年齢が4歳3か月(以下「CA4:3」と言う。) のときに、当センターに教育相談の申込みがあ りました。 30 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 初回評価の結果で全体的な発達の遅れが認め られ(表)、課題態度の非良好さが見られまし た。本児の全体的な発達を促す上で、言語理解 面の向上が必要と考え、総合相のSTに言語発 達訓練を伴う連携指導を依頼しました。 連携指導の期間は、「通常、幼児の言語発達 は就学前に完了する」との観点に基づき、初回 評価終了時(CA4:5)から就学(CA6:7) までとしました。 訓練頻度は、文法発達段階によって判断し、 語順を手掛かりとして可逆文を理解する発達段 階(「可逆文(語順)」4:2レベル)到達まで は、2週間に1回の来所でした。「可逆文(語 順)」到達後は、家庭での学習習慣が安定した こと、次の課題が助詞を手掛かりとして可逆文 を理解する発達段階(「可逆文(助詞)」5:11 レベル)であり家庭での学習が中心となること で、月に1回の来所としました。1回の連携指 導は、3つの場面で構成されており、全体で2 時間となっています。 言語は毎日の積み重ねの中で発達していくこ とから、STの定期的な言語訓練のみよりも、 保護者による毎日の言語学習を併用すること で、効率よく言語発達が加速していくと考えま す。本連携指導でも同様の考え方で言語訓練を 行っています。言語訓練の具体的計画はSTが ◆ リレー連載:併設機関との連携 ◆ 立て、保護者(主に母親)に家庭学習課題を渡 します。次回来所時に、STにより課題ができ ているかどうかの確認がされます。課題が達成 されていれば、次の家庭学習課題に進み、でき ていなければ、学習内容と方法についてSTと 保護者が検討します。 言語訓練場面 (図)は、毎回セ ンター所員(2人) が同席し、STが 中心となって行い ます。本児の隣に は保護者が座り、 本児への励ましと ともに、家庭での 課題の提示方法に 図 言語訓練場面 ついて要領を得て もらいました。 言語訓練終了後は、センター所員が本児との 遊びを通して、行動観察やコミュニケーション の指導などを行います。本児にとって自由遊び は、言語訓練の報酬価の意味合いがあり、担当 者との遊びを楽しみに来所する様子が見られま した。 本児が年長となり、言語課題の克服そのもの が報酬価の意味合いをもつようになったことか ら、自由遊びは半年ごとの再評価時に、会話の 記録をとることを目的として実施することにし ました。自由遊びの様子は、VTRで撮影し、 STが会話の分析を行いました。 保護者との面談場面は、センター所員とST が担当します。保護者から本児の日常の様子等 を聞き、家庭学習課題についてSTが説明しま す。センター所員は全体的な発達や幼稚園での 活動等についての助言や、小学校入学に向けて の情報提供を行います。 言語訓練の効果の定期的評価(表)は、半年 ごとの<S−S法>言語発達遅滞検査、絵画語 い発達検査(経時的比較検討のためPVT−R への変更は行いませんでした)により行いまし た。また、言語発達の改善に伴う知的発達の様 子を把握するために、田中ビネー知能検査Ⅴを 用いて知的発達の評価を定期的に行いました。 知的発達と語い発達の評価はセンター所員が担 当し、文法発達の評価はSTが担当しました。 2 連携指導の成果 初回評価時の発達の様子から、本児の6歳時 点での全体的な発達は3歳代と推測されました が、言語訓練後の結果は5歳相当となり(表)、 連携指導の効果を認めました。言語理解の向上 に伴い、自由遊び場面での発話量が増加し、会 話のやり取りも長くなりました。構音について の自然な改善も見られています。また、言語訓 練を経験することで課題に臨む態度が改善し、 課題への意欲と集中力が培われました。これら の成果は以下に述べる要素により達成されたも のと考えます。 ①半年ごとの再評価を重ねることで、連携指導 の担当者間に緊張感が生まれたこと。 ②半年ごとの再評価を重ね、頻繁に打合せを行 うことでセンター所員と総合相STが本児の 発達について常に共通の課題意識をもてたこ と。 ③言語訓練場面と保護者との面談場面に、セン ター所員と総合相STが常に同席すること で、本児と保護者に対して一貫性のある対応 がとれたこと。 ④保護者へ一貫性のある対応ができたことによ り、保護者も連携指導の一員として、本児に 効果的にかかわりをとってくれたこと。 ⑤保護者(主に母親)が言語課題の内容をよく 理解し、なおかつ子どもの様子をよく観察し ながら、その都度の言語課題を家庭で成し遂 げてくれたこと。 ⑥センター所員が常に緊張感のある言語訓練場 面に同席したことで、本児の発達の状態や課 題、保護者の心情を踏まえることができ、そ のことで本児と保護者への励ましを行えたこ と。 今後は、この成果を小学校生活に生かしてい けるよう、定期的な継続相談と小学校へのコン サルテーション等を予定しています。 3 連携での留意点 ①連携する機関同士がお互いに「相手は何がで きるのか」を知り、「自分は何ができるか」 を相手に伝えること。そして、お互いの専門 性を尊重すること。 ②対象事例に対して常に共通の認識をもち、そ れを踏まえた具体的目標をもつこと。 ③設定した具体的目標に沿った再評価を定期的 に行うとともに、質の高い連携がなされてい るかを常に互いに確認すること。 ④指導後の再評価によって子どもに変化が見ら れない場合は、対象となる子どもの問題では なく、指導担当者の方針策定や指導方法が適 当でなかったと考え、連携の在り方を振り返 ること。 連携指導の適応があると判断して始めた指導 であるならば、双方の指導によって子どもの発 達ないしは状態が改善されてこそ指導の効果が あったものと考えられます。連携指導の状態を 客観的に確認できる連携パートナーであり得る ことが、連携の質を高めることにつながるので はないかと感じています。 〔 〕 玉重詠子(たましげ えいこ)平成6年4月より現職 柏木拓也(かしわぎ たくや)平成20年4月より現職 特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3■ 31 ◆ インフォメーション ◆ 特別支援教育スーパーバイザーとして 「各市町の特別支援教育の充実に向けた取組」 北海道教育庁渡島教育局 【吉田 一昭 局長】 生涯学習課義務教育指導班 指導主事 中 川 正 規 はじめに 3 理解啓発資料の発行 渡島教育局では、文部科学省の「発達障害 等支援・特別支援教育総合推進事業」におけ る巡回相談や学生支援員の活用による支援を 積極的に進めるとともに、管内における特別 支援教育に関する理解啓発を図るために「特 別支援教育だより」を発行しています。 1 巡回相談の実施 平成18年度より特別支援教育だより「一人 一人を見つめて」を発行しています。 発達障害のある子どもへの支援の例や個別 の指導計画の作成例、特別支援学級の教育課 程の内容、保健福祉関係の情報などについて、 管内の公立幼稚園・小学校・中学校、高等学 校や、私立学校、各市町保健福祉部局(保健 師)へ提供しています。 渡島教育局管内専門家チームによる巡回相 談は、管内の私立を含む幼稚園、小学校、中 学校、高等学校及び保育所を対象として進め ており、年々相談件数が増加し、とりわけ今 年度は、幼稚園や保育所など、就学前の幼児 についての相談が多くなっています。 相談当日は、保護者の同意を得て、子ども の状況の観察や心理検査を実施するととも に、保護者との相談は、可能な限り保健師等 の関係者を含めて行っています。 また、専門家チームで話し合った望ましい 支援の在り方について、相談員が学校を訪問 し、保護者や学校に対して説明を行うように しています。 2 学生支援員の活用 特別な教育的支援が必要な子どもが在籍す る各学校の要請に基づき、管内の大学・短期 大学から学生支援員を派遣しています。 次の表のように、各学校の子どもの状況に 応じた支援を行っています。 表 学校等における学生の主な支援内容 図 特別支援教育だより おわりに 今後は、管内における課題の解決を図るた め、子どもの具体的な支援に結び付けるため の個別の指導計画や個別の教育支援計画の作 成、各市町における特別支援連携協議会の設 置に向けた支援を充実するとともに、檜山教 育局と連携を図りながら、道南地域における 特別支援教育推進体制の充実に向けた取組を 進める必要があると考えています。 〔中川正規(なかがわ まさのり)平成19年4月より現職〕 32 ■特別支援教育ほっかいどうNo12 2009.3 「特別支援学校−学校紹介展−」 「特別支援学校高等部作品・製品展示会」 北海道今金高等養護学校「ドライフラワーなど」 北海道札幌市立豊明高等養護学校 「七 輪」 「平成21年自作カレンダー展」 今年度も展示会等に、多くの御応募をいただき、大変ありがとうございました。各展示会 等の様子は、当センターのWebページで紹介しております。ぜひ、御覧ください。 編 集 後 記 前号では、チームによる専門性として、協働、協力体制によるアプローチについて取り 上げました。今号では、組織としてはもちろん、個人としての教員の専門性の向上を図る という視点も加えました。そのためには、各障害教育の専門的知識、確かな指導技術等に もとづき、研究・研修と実践が一体化した授業力・指導力の向上を図る必要があります。 そこで、専門性向上のための取組、アセスメントや個別の指導計画を生かした授業実践、 各障害種ごとの専門的な指導の充実を図るための取組等について、文部科学省特別支援教 育課齋藤課長補佐より御寄稿いただいたほか、国立特別支援教育総合研究所の田中総括研 究員、道内の各学校等の皆様から玉稿をいただきました。厚く御礼申し上げます。 特別支援教育ほっかいどう第12号(通巻第56号) 発行:平成21年3月 編 集:北海道立特別支援教育センター 〒064−0944 北海道札幌市中央区円山西町2丁目1番1号 電 話 011-612-6211(代表) FAX 011-612-6213 E-mail tokucen@hokkaido-c.ed.jp URL http://www.tokucen.hokkaido-c.ed.jp 発行者:北海道立特別支援教育センター 所長 百井悦子 特別支援教育 ほっかいどう 第12号 平成21年3月
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