「すざく」によるAXP 1E 1841

「すざく」によるAXP 1E 1841-045の広帯域スペクトル観測
森井幹雄1 (mmorii@rikkyo.ac.jp)
北本俊二1,
概要
柴崎徳明1, 武井大1, 河合誠之2, 有元誠2, 上野優2, 寺田幸功3, 幸村孝由4, 山内茂雄5
1: 立教大学, 2: 東京工業大学, 3: 理化学研究所, 4: 工学院大学, 5: 岩手大学
Anomalous X-ray pulsars (AXPs) は、超強磁場を持つ中性子星「マグネター」であると考えられている。その磁場強度は通常の中性子星の100倍くら
いに達する、10の14乗から15乗ガウス程度であると見積もられている[1,2,3]。これほどの磁場(宇宙最強!)になると、場の量子論的効果(QED効果)が
電磁波の放射に影響すると考えられおり、マグネターは基礎物理の実験場として興味深い天体である。従来のX線天文台(あすか衛星、Chandra衛星、
XMM-Newton衛星)は、約0.5keVから10 keV 程度のエネルギー範囲のスペクトル観測が可能であった。 AXPのエネルギースペクトルをこれらの天文
台で観測すると、熱い中性子星の表面からの放射と考えられる黒体放射成分(温度約0.4keV)とベキ関数(power-law ; F = E –α )の重ね合わせでよく
表現できた。 ただし、ベキ関数の指数は通常のX線天体と比較すると大きめの値であった(photon index ~ 2-4)。したがって、常識的に考えて、10 keV以
上のエネルギー領域を観測したところで何も見つからないと誰もが考えていた。ところが、2004年、 Kuiper et al. [4,5]は、10keV以上のエネルギー領
域の観測で、10 keV以下とは明らかに異なるスペクトル形状を持つ硬X線を発見した(ヨーロッパの衛星Integralによる成果)。 ちょうどそのころ、これまで
にない広帯域のX線スペクトル(0.2∼600 keV)の観測ができる日本のX線衛星「すざく」の観測が始まった。
我々のグループは硬X線領域でもっとも明るい AXP 1E 1841-045を観測した。 マグネターの中では初めての観測である。硬X線の放射機構として理論モ
デルがいろいろ提案されている(熱制動放射モデル[6]、シンクロトロン放射モデル[6]、逆コンプトン散乱モデル、QED効果による非線形な電磁波のショッ
クモデル[7])。 我々の観測では、熱制動放射モデルが尤もらしいことが分かってきた。
1E 1841-045
RXTE で取得したスペクトル。 (Kuiper et al. 2004)[4]
Chandra 衛星で取得したスペクトル。 黒
体放射(BB)+ベキ関数(POW)でよく表
現できる。 (Morii et al. 2003)[8]
Chandra 衛星で撮像した、バラの花のような形状を
した超新星残骸Kes 73。
Persistent component:
phton index = 1.47 +/ - 0.05
中心に魅惑の天体 AXP 1E 1841-045 がいる。
約4分角
pulsed component:
phton index = 0.94 +/- 0.16
すざくの観測結果[10]
理論モデルの検証
我々は、AXP 1E1841-045 と、 Kes 73 を、AO-1の
ターゲットとして観測した。(2006年4月19-22日)
• 逆コンプトン散乱:
Detector
property
Energy (keV)
mode
Time resolution
Net exposure
XIS0,1,2,3
HXD/PIN
HXD/GSO
Imaging (HPD = 2’ )
Non-imaging
Non-imaging
0.4(0.2) – 12.0
10 – 70
40 – 600
1/8 win
1 sec
61 or 31 usec
61 or 31 usec
97 ks
58 ks
Not used
マグネターの磁気圏に高エネルギー電子のコロナが存在し、マ
グネター表面から放射されるX線光子をたたきあげる。スペクトル
の近似モデルとして、NPEXがあり、このモデルでよく合うことが分
かった。パルス位相毎に温度(kT)が変化するので、コンプトン散乱
のyパラメータも変化し、power-law のベキbeta も変化すると考え
るのが自然である。しかし、解析結果では変化しない。我々の解析
結果を説明するためにはパラメータのfine tuning が必要である。
スペクトル解析の結果
• 熱制動放射:
MODEL
nH (x 1022) cm-2
kT (keV)
RBB (km) @ 7kpc
Photon index
BB + POW
2.70 +- 0.01
0.370 +- 0.006
8.4 +- 0.3
2.24 +- 0.04
1616.7 / 902 = 1.79
BB + BB + POW
2.84 +- 0.01
0.15
4.9 +- 0.2 (TOO HIGH)
89 +- 4 (TOO LARGE)
0.041 +- 0.002 (TOO SMALL)
3.30 +- 0.03
1354.6 / 900 = 1.51
BB + POW + POW
2.87 +- 0.02
0.54 +- 0.02
2.5 +- 0.3
5.0 +- 0.3 (TOO LARGE ?)
1.6 +- 0.1
1312.7 / 900 = 1.46
Folding Energy (keV)
Photon index
(alpha)
Photon index
(-beta)
58 +- 1
3.54 +- 0.04
0.92 +- 0.06
/ dof
磁力線に沿った方向に電子・陽電子が加速され、マグネター表
面に衝突し、制動放射を出す。Thompson & Beloborodov (200
5)[6]の計算では、100 keV 付近にスペクトルの折れ曲がりが期
待される。折れ曲がり以下のスペクトルのベキは約1で、我々の解
析結果は、むしろこのモデルを支持しているのかもしれない。実際、
硬X線放射を熱制動放射のスペクトルでフィットするとよく合うこと
が分かった。
• シンクロトロン
MODEL
NPEX
2.82 +- 0.01
1352.2 / 901 = 1.50
Thompson & Beloborodov (2005)[6]の計算では、1MeV付
近にスペクトルの折れ曲がりが期待できる。ベキ指数は、放射元
の電子の分布で決まるので、予測は難しい。
• QED効果[7]:
NPEXモデルでフィットした結果
逆コンプトン散乱のスペクトルを近似するモデルとして、
NPEXがある[9]。
NPEX = ( An E – alpha + Ap E + beta ) * exp ( - E / kT)
興味深いのは、パルス位相
毎のスペクトル解析の結果
である。
マグネター表面から出たfast mode の波が、QEDの効果に
より非線形な伝播をする。マグネターの磁気圏でショックを形成し、
電子陽電子プラズマとしてエネルギー解放を行う。この電子陽電
子プラズマから、シンクロトロン放射が出る。ベキ指数は、0.5 程度
と予測され、1MeVくらいに、ベキの折れ曲がりがあると予想され
ている。
このモデルでよく合うことが分かった。
kTは有意に変動。
alpha は一定。
beta は約1で一
定。
[1] Thompson, C. & Duncan, R. C. (1996), ApJ, 473, 322
[2] Woods, P.M. & Thompson, C. (2004), astro-ph/0406133
[3] Mereghetti, S. et al. (2002), astro-ph/0205122
[4]Kuiper, L., Hermsen, W., & Mendez, M. (2004), ApJ, 613,
1173
[5] Kuiper, L. et al. (2006), ApJ, 645, 556
[6]Thompson, C. & Beloborodov, A. M. (2005),ApJ, 634,565
[7]Heyl, J.S. & Hernquist, L. (2005), MNRAS, 362 , 777
[8] Morii, et al. (2003), PASJ, 55, L45
[9] Makishima, K. et al. (1999), ApJ, 525, 978
[10] Morii, M. et al. (2007), Proc. of “40 years of pulsars”,
Canada