第27号

2009 年 第 27 号(10/01)
URL http://izumi-math.jp/sanae/
E-mail dzq99247@nn.em-net.ne.jp
【第 1 回】360°
教員室で先生の向かいに座っている E 先生。あるとき「何故 360°なんだろうな」と突然質問された。
多分何かふと気になったのであろう。先生も忙しかったのであるが,調べてみることにした。ちょうど
1 年生は三角関数で度数法と弧度法について学習している所だったのも理由だ。調べてみると次のこと
がわかった。
古くから,1 年は 360 日で概算されて来ていて,古代文明のメソポタミア文明では 30 日×12 周,マ
ヤ文明が 20 日×18 周で概算していたようである。現在では 1 年は太陽暦では 365 日,太陰暦や太陰太
陽暦では 354 日または 355 日となっている。
古代においては,太陽や月の運行は日常生活と非常に深い関係があって,歴は月の運行に基づいてつ
くられていた。あるいは,月の満ち欠けを主とし,太陽の運行を考え合わせて作られた歴もある。
月は,約 30 日の周期で満ち欠けするので,これで 1 年 = 365 日を割ると 12 という数字が出てくる。
何日か余るわけだが,これはあとでまとめて閏月(うるうづき)を作ることで処理する。ここで 12 と
いう一つの数が出てくる。月が 12 回満ち欠けする間,すなわち 360 日で地球は太陽の周りを一周する
というところから、円 = 360 度と決められたようです。
360 は約数を 24 個持ちます。これは 720 以下の自然数では最も多くの約数を持つ数の一つなのです。
そのため 360 は正多角形の内角の和を出すのも容易になる数となり,とても便利だったといえます。
【第 1 回】1001
数の中には不思議な数や魅力的な数が多数存在します。そんな数をいくつか取り上げていきたいと思
います。
最初の数は「1001」です。1001 と聞いて,掲示板の終了告知文を思いうかべ
る人は相当なおたくだと思います。ここは数学の世界なので,もっと数学的に
考えましょう。
今,ある 3 ケタの数を思い浮かべて下さい。例えば「312」(先生の誕生日で
す)。これに 1001 をかけてみます。
312×1001 = 312312
どうです? 312 が 2 回続きましたね。右の掛け算の図でもわかるように,ど
んな数でも成り立ちます。数「1001」は 3 ケタの数を上位に 3 ケタずらしてコ
ピーする不思議な働きを持っているのです。実は,同様な事が 10001,100001,…に対しても言えます。
また,コピー数と 1 を並べて作られる数(レピュニット数)をかけると,1 だけで構成される美しい
数のピラミッドを作ることができます。
x
12
123
1234
12345
y
101
1001
10001
100001
xy
1212
123123
12341234
1234512345
また 1001 は 1000 より 1 だけ多い数字ですが,インドでは 11,101,1001 のように 10,100,1000
にそれぞれ 1 を加えた数を吉祥数といい,完成された 1000 などの数に 1 を加えることは,完成を超越
した数,すなわち無限数と扱われ,寺院への寄付金や祝いの席での祝儀などの祭礼の際にはこういった
吉祥数で支払う風習があるようです。
数字 1001 のように,逆から読んでもまったく同じ数字になる数を回文数といいます。1001 は 1 桁の
数を除くと 100 番目の回文数で,4 桁で 1 番小さな回文数になります。
10012 = 1002001,
10013 = 1003003001 ,
10014 = 1004006004001
もまた回文数です。回文数はシェヘラザード数とも呼ばれます。もちろん、「千一夜物語」のヒロイン,
シェヘラザード姫の名前をとったわけですが、アラビアンナイトがなぜ 1001 夜なのか,ここにも数字
1001 のミステリーが潜んでいるといえます。
【第 1 回】現代物理学で考える「ドラえもんその後」①
藤子不二夫のマンガ「ドラえもん」の中には指数的変化の恐ろしさを教えてくれる「バイバインの巻」
というのがあります。そのあらすじは次のようなものです。
一度でいいから栗まんじゅうを腹一杯食べたいのび太は,ドラえもんに相談す
る。ドラえもんは困った顔をしながらも,ポケットから「バイバイン」という薬
を取り出して「絶対に食べ残さない」という約束で,栗まんじゅうにふりかける。
この薬は 5 分ごとに個数が 2 倍に増えていくという不思議な薬であった。最初は
喜んで食べていたのび太もついに食べきれなくなり,のび太の家は栗まんじゅう
で一杯になってしまう。これに驚いたドラえもんは,栗まんじゅうを風呂敷に包
みロケットにくくりつけて宇宙の彼方へ飛ばしてしまう・・・。
マンガはここで終わっていますが,その後の栗まんじゅうはどうなってしまうかを数学を使って考え
てみましょう。その後の宇宙にとんでもない事が起こってしまうのです。
宇宙の体積が有限だとして,栗まんじゅうが宇宙を埋めつくすまでの時間 t を計算してみましょう。
栗まんじゅう 1 個の体積を v = 100cm3 ,宇宙を半径 R = 100 億光年の球と仮定します。栗まんじゅうの
個数は, 1, 2, 4, 8, " , 2n , " と指数的変化をするので,栗まんじゅうの全体積 V (n) は
V ( n) = 2 n v
となります。n はとびとびの値を取りますが,連続的変数に拡張すれ
ば V (n) を指数関数とみることができます。ちょうど n 回目の分裂が
起こった時に,栗まんじゅうの体積と宇宙の体積が等しくなったとす
ると,
4
⋅ π R3 = 2n v
3
という式が得られます。v と R はわかっており,上の式から n の値が
わかるので,埋めつくすまでの時間 t は
t = 5n 分
と求まります。光速度を 3.0 × 1010 cm/s とすると半径 R は
R = 1010 × 365 × 24 × 602 × 3.0 × 1010 = 9.46 × 1027 cm
ですから,宇宙の体積は 3.54 × 1084 cm3 となります。したがって,この値を 2n × 102 cm3 とおくと
2n = 3.54 × 1082
が得られます。これから n を求めるために,両辺の常用対数をとると,次の式になります。
n log10 2 = log10 3.54 + 82
対数表から, log10 2 = 0.3010 , log10 3.54 = 0.5490 がわかるので,これからおよそ n = 274 となることがわ
かります。したがって埋めつくすまでのおよその時間は
t = 5 × 274 分 = 22.8 時間
となることがわかります。予想に反して,なんと 1 日で宇宙は栗まんじゅうで一杯になってしまうので
す。さて「埋めつくされた後の宇宙」はどうなるのでしょう? その話しは次回へ。