KALS 大学院入試対策講座 受講生の皆様 心理系チュートリアル通信 番外編③ 大学院入試に役立つ本 ニキリンコ ・藤家寛子 著 『自閉っ子、こういう風にできてます!』 岩永 竜一郎・ニキリンコ ・藤家寛子 著 『続 自閉っ子、こういう風にできてます! ―自立のための身体づくり』 いずれも花風社 自閉症スペクトラムの当事者による自伝として、以前のチュートリアルでも 「わたし研究」を取り上げたことがあ りますが、今回の「自閉っ子、こういう風にできてます!」シリーズも、当事者による世界の見え方、経験の仕方につ いて語ったものです。特に「自閉っ子、こういう風にできてます!」は自閉症スペクトラムについての理解を促進する 一助となった非常に評価の高い本です。 「自閉っ子、こういう風にできてます!」では、編集者と自閉症スペクトラム(この本では「自閉っ子」と呼んでい ます)で翻訳家のニキ・リンコさん、そして同じく「自閉っ子」で作家の藤家寛子さんの鼎談という形で、 「自閉っ子」 の世界の見方や経験の仕方について語られています。それに続く「続 自閉っ子、こういう風にできてます!―自立の ための身体づくり」では、作業療法士の岩永 竜一郎さんを講師に招き、自閉症スペクトラムの身体づくりについて具 体的なエピソードを交えながら解説しています。 この本で特に強調されているのは、 「自閉っ子」の感覚過敏や身体感覚の不統合についてです。 例えば、藤家さんは「雨が痛い」そうで、雨粒が皮膚に当たるととても痛くて、雨の日は外出したくないそうです。 水が皮膚に当たるのが痛いためシャワーも苦手で、小学生の頃はプールの時のシャワーが耐えられなかったと言ってい ます(その他、水が痛いために料理もできないしお風呂も苦手とのことです) 。 健常者でも雨が当たると皮膚に圧力がかかるという感覚はありますが、 「痛み」を感じるほどではありません。この ような感覚はまさに「自閉っ子」当事者に聞いてみないと想像もできない世界です。また、健常者の場合、感覚は時間 経過とともに慣れが生じるものですが、 「自閉っ子」の場合は感覚の慣れが発生しづらく、ずっとその感覚が気になり、 そのために過剰に筋肉が緊張した状態が続き、その結果肉体的な疲労にもつながります。 身体感覚の不統合については、 「コタツに入ると足がなくなる」というエピソードを紹介しています。健常者は、コ タツに入っていて足が見えない状態になっていても足がコタツの下にあることを理解していますし、 「見えない足」で も自由に動かすことができます。しかし「自閉っ子」の場合、見えないものを意識するのが難しく、コタツに入って見 えなくなってしまった足がどこにあるのか、そして足があることさえ分からなくなってしまうそうです(もちろん、す べての「自閉っ子」が経験しているわけではなく、その症状には個人差があります) 。 心理学領域では、自閉症スペクトラムのコミュニケーションの障害などが注目されることが多いですが、感覚過敏や 身体感覚の不統合についてはあまり大きく扱われることはありません。しかし、自閉症スペクトラムの人たちの社会不 適応を阻んでいるのは、実はこういった感覚過敏や身体感覚の不統合が根底にあると考えられます。 自閉症スペクトラムの人たちのよりよい社会適応のためにも、こういった知識は心理臨床の現場はもちろん、教育現 場や広く一般にも浸透することが重要であり、こういった「自閉っ子」の特徴を適切に社会に啓蒙することが、今後の 臨床心理士、特にスクールカウンセラーの役割の1つではないかと思います。 名駅校:舘有紀子先生
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