研究集会 MPM2012 数学と現象:Mathematics and Phenomena in Miyazaki 2012 報告集 2012 年 11 月 16 日(金)∼11 月 17 日(土) (於:宮崎大学木花キャンパス) 研 究 集 会 「数学と現象: Mathematics and Phenomena in Miyazaki 2012」 日時:平成24年11月16日(金)~11月17日(土) 場所:宮崎大学工学部 B棟2階B210教室 案内:http://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/math/mpm/ 報告集 はじめに 2003 年から毎年開催してきました研究集会「PDEs and Phenomena in Miyazaki (PPM)」を 今年度から名称を「Mathematics and Phenomena in Miyazaki (MPM)」へと変更いたしました。 このことは、工学部の数学スタッフが増えたこと、偏微分方程式に限ることなくより広い分野へ の我々の関心の高まりによるものです。皆様から親しまれてきました名前を変更することには一 抹のさみしさもありますが、新しい1歩を踏み出す気持ちで頑張っていきたいと思います。 今回は研究集会のキーワードの1つを数理生物学とし、実験・モデル・理論的解析の幅広い分 野の方7名に講演と実験をお願いいたしました。今回も特別実験講座を設け、明治大学の末松 J. 信彦先生に実演講師をお願いいたしました。肉眼では見ることはできませんが光合成微生物が必 死に鞭毛を動かし、光に反応して運動することによる様々な空間パターンを観察することができ ました。また、数理生物学に関する講演の他にも、シュレディンガー方程式の理論解析、銀河の 力学構造に関わる自己重力多体系の非線形現象についての講演があり、活発な議論と意見交換が 行われました。宮崎大学工学部の学生及び一般の方も含め多数の参加者があり、世話人として喜 ばしく思っています。今後ともこのような研究集会を開催していきますので、皆様のご協力をよ ろしくお願いいたします。また、講演者、参加者、そして関係者の皆様に感謝いたします。 最後に、この研究集会の運営にあたり工学部学部長裁量経費の援助がありましたことをご報告 し、感謝の意をここに表します。 研究集会の報告集を WEB 上に公開しています。ご参考にしていただけると幸いです。 (http://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/math/mpm/) 2013年1月 世話人を代表して 辻川 亨 目次 1. 中岡 慎治(理化学研究所) 造血幹細胞の増殖・分化ダイナミクス – レビューと最近の展開 – . . . . . . . . . . . . 1–14 2. 眞崎 聡(広島大学) 非線形シュレディンガー方程式の最小非散乱解について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15–27 3. 郷田 直輝(国立天文台) 自己重力多体系の非線形現象と力学構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28–34 4. MPM2012 特別実験講座 末松 J. 信彦(明治大学) 微生物の集団が形成する秩序パターン ∼ 生物対流の実験と数理 ∼ . . . . . . . . . .35–40 5. 柴田 達夫(理化学研究所) 走化性細胞における1細胞の自己組織化を 実験、統計解析、理論モデル化から解明する . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41–48 6. 岩渕 司(中央大学) Ill-posedness for the nonlinear Schrödinger equations in one and two space dimensions . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49–56 7. 瀬野 裕美(東北大学) 生物個体群サイズ制御のパラドックス:数理モデルからの示唆 . . . . . . . . . . . . . . 57–70 * 過去のプログラム(PPM2003 ∼ PPM2011) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 71–88 研究集会 「数学と現象: Mathematics and Phenomena in Miyazaki 2012 (略称:MPM2012)」 日時: 2012 年 11 月 16 日(金)∼ 11 月 17 日(土) 会場: 宮崎大学工学部 B 棟 2 階 B210 教室 案内: http://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/math/mpm/ プログラム 11 月 16 日(金) 午後の部 14:00-14:55 中岡 慎治(理化学研究所) 「免疫応答ダイナミクスの数理研究 – 皮膚炎の統合的理解に向けて –」 15:15-16:10 眞崎 聡(広島大学) 「非線形シュレディンガー方程式の最小非散乱解について」 16:30-17:25 郷田 直輝(国立天文台) 「自己重力多体系の非線形現象と力学構造」 11 月 17 日(土) 午前の部 ≪ MPM2012 特別実験講座 ≫ 10:15-12:15 末松 J. 信彦(明治大学) 「微生物の集団が形成する秩序パターン ∼ 生物対流の実験と数理 ∼」 注 宮交バス「橘通り 3 丁目→宮崎大学(木花キャンパス)」の土曜日の朝の時刻表: 8:21 → 8:54,8:41 → 9:18,9:11 → 9:52,9:21 → 9:54,9:41 → 10:18(遅刻!) 午後の部 14:00-14:55 柴田 達夫(理化学研究所) 「走化性細胞における1細胞の自己組織化を 実験、統計解析、理論モデル化から解明する」 15:15-16:10 岩渕 司(中央大学) 「Ill-posedness for the nonlinear Schrödinger equations in one and two space dimensions」 16:30-17:25 瀬野 裕美(東北大学) 「生物個体群サイズ制御のパラドックス:数理モデルからの示唆」 本研究集会は,科学研究費補助金 課題番号 研究種目 研究代表者 24540216 20540181 22540231 23740099 23840041 基盤 C 基盤 C 基盤 C 若手 B 研ス支援 飯田雅人 北 直泰 大塚浩史 梅原守道 今 隆助 課題名 反応拡散系の漸近解構築への理論的アプローチ 非線形シュレディンガー方程式の特異性解析 平衡点渦系の平均場と点渦系の関連の探求 連続体近似による天文現象のモデル化と数学解析 Lotka-Volterra 方程式を用いた構造化生態系モデルの数理的研究 および平成 24 年度宮崎大学工学部長裁量経費 申請代表者 辻川 亨 プロジェクト名 「実験科学と理論の融合を目指した」偏微分方程式と現象に関する研究集会 の援助を受けています. 世話人: 連絡先: 辻川 亨,飯田 雅人,北 直泰,大塚 浩史,梅原 守道,今 隆助(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部工学基礎教育センター E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 作成日:2012.11.07 1 造血幹細胞の増殖・分化ダイナミクス – レビューと最近の展開 – 中岡慎治 (Shinji Nakaoka) 理化学研究所アレルギー免疫総合研究センター免疫数理モデリング (YCI) ラボ RIKEN Research Center for Allergy and Immunology, Laboratory for Mathematical Modeling of Immune System 概要 造血幹細胞は, 自己複製と細胞分化によって組織を構成する細胞を生み出すことので きる体性幹細胞の一種である. 造血幹細胞は治療や再生医療の目的で幅広く応用され ているが, その基礎となる造血幹細胞の増殖と分化のプロセスを理解する基礎研究が 不可欠ある. Michael C. Mackey を中心にしたグループは, 造血幹細胞の増殖ダイナ ミクスや周期性好中球減少症の発症メカニズムを理解するための理論研究を先駆けて 行ってきた. 本稿では, 筆者のこれまでの幹細胞に関する数理研究を紹介すると同時に, Mackey らによる一連の研究を中心に造血系細胞に対する数理モデル研究のレビュー を行う. これまでの Mackey らによる一連の数理モデルは, 時間遅れをもつ微分方程 式系を中心として, 様々なタイプの方程式系を用いて定式化されてきた. しかしなが ら, いずれも根本的に異なる思想から作られたものではなく, 多くのモデルは関連して いる. 本稿では, 筆者による最新の研究成果の紹介に加えて先行研究のレビューを総 説としてまとめることで, 専門外の読者に入門となる情報を提供するのが狙いである. Key words: 造血幹細胞; G0 モデル; 好中球減少症; レビュー; 1 はじめに 造血幹細胞は, 自己複製と細胞分化によって組織を構成する細胞を生み出すことのでき る体性幹細胞の一種である. 赤血球や生体防御機構を担う免疫細胞で構成される白血球は, 造血幹細胞から機能的に分化して成熟することで生成される. 造血幹細胞は今現在, 慢性 骨髄性白血病など血液性腫瘍の治療に応用されている. 腫瘍を化学療法および放射線療法 にて除去したのち, ドナーから提供された造血幹細胞を移植して造血能力を再生させる治 療法は, 造血幹細胞移植と呼ばれている. 造血幹細胞移植は血液腫瘍への治療のみならず, 重篤な血液性疾患に対する治療法としても幅広く応用されており, 再生医療の中でも最も 早く実用化が進んでいるものの一つである. このような応用用途の広い造血幹細胞を用い た再生医療は, 各方面で研究が行われている. たとえば, 造血幹細胞を効率良く増殖させる ための細胞培養シートの開発が組織工学の分野で進められている. 血球細胞の恒常性維持 機構の理解や疾患への治療を目指すためには, 造血幹細胞の増殖と分化のプロセスを理解 する取り組みが重要である. 造血幹細胞の増殖と分化のダイナミクスを理解するため, これまでに細胞増殖と分化を 記述した個体群数理モデルが数多く提案され, 数理解析やシミュレーションが行われてき た. 数ある数理モデル研究のなかでも, Michael C. Mackey を中心にしたグループは, 造血 幹細胞の増殖ダイナミクスのみならず, 周期性好中球減少症といった先天性免疫不全症候 群が発症するための基本的メカニズムに言及した理論研究を先駆けて行っている. 筆者も 独立に, 造血幹細胞移植において移入した造血幹細胞が生着するかどうかの理論的考察を 1 2 はじめ, 表皮における幹細胞の自己複製および分化過程を記述した数理モデルを構築して 研究を行っている. 研究を進める以前の段階では, Mackey らによる先行研究はじめ既存の 理論研究を精力的にサーベイした. 先行研究の目的や用いられている研究手法は多岐に渡 るため, それらを本稿のみで紹介するのは不可能である. そこで本稿では, とりわけ数理モ デル構築に用いられている手法の性質に注目し, 横断的に既存研究を分類した. まず次節 では数理モデル構築に用いられている手法の紹介を行う. 続く節では, 造血幹細胞の自己 複製による増殖過程を記述した数理モデルの紹介を行なう. その発展系として, 4 節では周 期性好中球減少症でみられる顆粒球の周期振動現象を説明するために構築された数理モデ ルについて概説し, 個体群の周期振動が生み出される基本的メカニズムと周期性の検定に 用いられている手法の紹介を行なう. 5 節では, 筆者が進めている研究の概要を述べる. 2 様々な定式化方法 本節では, 血液細胞のダイナミクスに対する数理モデル研究の分類を行う. 先行のレビュー 記事 [25, 7, 21] に関連研究が詳しくまとめられているので, それらをベースに [25, 7, 21] にも載せられていない研究も補完して先行研究をレビューする1 . 先行研究の分類に関して は, 数理モデル構築に用いられている手法, すなわち方程式のタイプに基いて分類した. 分 類の前に, どのモデルにも共通する項目について触れておく必要がある. 造血幹細胞から の分化2 を考える際, 分化過程で前駆体は分裂を繰り返しながら機能的に異なる性質をもっ た組織細胞へと変化していく. このような機能的に不均一で成熟していく細胞個体群のダ イナミクスを記述するための数学的フレームワークとして, 生理的な個体差を考慮した個 体群モデル (physiologically structured population model; PSPM) に対する理論が存在す る. 次小節では, PSPM の概要を紹介する. 2.1 生理的な個体差を考慮した個体群モデル 近年, 細胞内で起こる様々な遺伝子発現を定量的, リアルタイムに測定できる実験技術が 発達し, 遺伝子発現ネットワークと細胞機能の関連性をシステムとして明らかにする研究 が行われるようになった. 細胞の分化・成熟過程は, 細胞内の遺伝子発現状態の複雑な制御 によって規定されている. 複雑な遺伝子制御ネットワークを組み込んで詳細な細胞内の反 応を定式化するのも一つだが, 実用的かつ定量的な取り扱いをする上では, どうしてもシン プルな状況を扱うよう制限される場合も多い. 本来は複雑な内部状態の変化で決まる細胞 の分化や成熟を近似してシンプルに扱うためのひとつの方法は, 細胞の成熟過程を表現し ている量に注目して, その時間発展を追跡する方法である. たとえば, 年齢など時間変化す る個体の内部状態 (や測度) に着目し, その分布 (年齢分布) の時間発展を追跡する方法が 1 これまでの Mackey らによる研究の数学的側面は, [21] に詳しくまとめられている. レビュー記事 [21] はかなり数学寄りのレビューであるが, 過去の数理研究を集約してくれているので辞書としても利用できる. [7] は臨床的側面と数理的側面がバランスよく記述されていて, 全体像を把握しやすいようになっている. [25] はより臨床面に対する記述が多く, 数理モデル研究がどのように関わっているかを把握する上でわかりやすい. 2 本来細胞分化とは特定の遺伝子発現とそれを制御するクロマチン修飾・DNA メチル化などのエピジェネ ティックな変化が伴う過程である. 近年では, 分化を制御する遺伝子やそれを制御する転写因子に関する知見 が蓄積しており, 遺伝子制御ネットワークのダイナミクスに対する理解も進んでいる. 細胞の分化成熟を年齢 ではなく転写因子の遺伝子発現やエピジェネティックな変化を指標とすることで, 細胞の分化成熟過程をより 正確に描写することが可能になってきている. 2 3 取られる. すなわち, 個体の状態変化や出生死亡に影響する環境要因を含めて, 個体それぞ れの履歴も考慮した上で集団のダイナミクスを記述した数理モデルを構築するのがひとつ の方法である. 年齢や体サイズといった生理的な個体差を考慮した個体群モデル (PSPM) とその理論は, Hans Metz や Odo Diekmann らによって理論基盤が整備されてきた [36]. PSPM に対する理論は, 歴史的には偏微分方程式で記述された年齢構造をもつ個体群モデ ルを中心に発展・整備されてきた. 近年では, 偏微分方程式と同等な記述方法だが生物個 体の性質の不連続な変化 (昆虫の場合は変態など) も組み込んで表現できるフレームワーク として, ディレイ方程式 (delay equation) による定式化も用いられている3 . ディレイ方程 式に対する数学的基礎理論は, とりわけ Odo Diekmann や Mats Gyllenberg らによって 精力的に研究が進められてきた [17, 14, 15]. 今現在では, 解の一意性や非線型性の取り扱 い, 周期振動を引き起こす Hopf 分岐など分岐解析の為の理論体系が既に確立されている. 2.2 常微分方程式系を用いた研究 造血幹細胞から赤血球, 白血球, 血小板や顆粒球のコロニーが形成されるまでには, 数日 かかる. この成熟のプロセスを何らかの方法で記述する必要がある. 分化成熟の過程は必ず しも連続的に追跡する必要はなく, 分化成熟の途中段階をいくつかの離散ステージ (もしく はコンパートメント) に分割し, それぞれのステージに存在する細胞個体数を 1 つの変数に よって表現することで, ステージ構造をもつ方程式系を得ることができる. ステージ構造は, たとえば幼虫から成体へと変態する昆虫などの個体群ダイナミクスを記述する場合には自 然な方法であるが, 成熟段階を便宜的に離散化するアイディアは多くの場合有効に機能する ため, 幅広く利用されている. ステージ構造の導入は, 後述の時間遅れや年齢構造をもつ微 分方程式による定式化でもみられる. 常微分方程式系によって数理モデルを定式化した場合, シミュレーションも含めた数理解析は時間遅れを持つ系と比べて容易である4 . したがって, 常微分方程式系による定式化は多く存在する (たとえば [45, 46, 47, 20, 49, 48, 50, 51, 18] など). 2.3 時間遅れをもつ方程式による定式化 細胞分裂もしくは分化成熟に要する期間を時間遅れとして取り扱うことで, 造血幹細胞の ダイナミクスを記述した数理モデルは時間遅れをもつ微分方程式系 (dde; delay differential equation) によって定式化できる. 一般に, 時間遅れは 3 つのタイプに分類できる. 一つ は定数の時間遅れ (discrete もしくは point delay) と呼ばれ, もっとも広く用いられてい 3 ディレイ方程式は, 第二種 Volterra 積分方程式の一つである再生方程式 (renewal equation) と時間遅れ をもつ微分方程式をカップルさせた系として定義する. 再生方程式では, 一般に変数を個体数ではなく個体群 出生率 (population birth rate) を用いて定義する. たとえば年齢分布を考えた場合, 分布に単位時間あたり 出生する確率をかけて年齢について積分したものが個体群の出生率に対応する. 再生方程式の右辺は, 生存確 率や分裂の発生確率を用いて記述されている. 一方, (偏) 微分方程式は右辺が細胞増殖の速度を表すため, 右 辺は各コンパートメント (世代) への移入 (inflow) および移出 (outflow) という視点から解釈するのが自然で ある. 4 時間遅れをもつ方程式や年齢構造をもつ微分方程式は考える空間が無限次元であるため, 関数解析をはじ めとした発展的な数学理論を理解する必要がある. また, 常微分方程式と比べて数値計算を実行するための汎 用的なソフトウェアも少ないため, シミュレーションの実行も多少のプログラミングの素養を必要とする. こ のような理由から, これらモデリング手法は応用を念頭に数理モデル研究を活用している研究者からは利用が 敬遠されがちである. 3 4 るタイプの時間遅れである. どの細胞も等しくある一定期間を経て分化成熟が完成する場 合に利用される. もし分化成熟に要する期間が広がりをもつ場合や細胞によって異なる場 合, その時間分布を考慮しなければならない. このような時間遅れは, 分布型の時間遅れ (distributed delay) と呼ばれる5 . たとえば, 好中球の分化成熟には G-CSF など成長因子 が影響するため, 分化成熟に要する期間は骨髄や組織など局所環境の影響を受けて変動し 得る. このように, 外部からの影響によって時間遅れが変化する場合, 変動型の時間遅れ (variable delay) と呼ぶ6 . 先行研究で提案されてきた数理モデルは定数 [31, 3, 6, 10, 8, 4], 分布型 [29, 27], 変動型の時間遅れ [22] のいずれかに分類される. 2.4 偏微分方程式による定式化 たとえば加齢がある個体の内部状態の変化を記述するのに重要な過程であれば, その個体 群のダイナミクスは個体数ではなく, 年齢分布の時間発展によって特徴付けられる. 1年経て ば年齢は1歳増加するため, 加齢はもっとも単純かつ基本的な成熟過程である. 細胞の分化成 熟は必ずしも加齢によって特徴づけられるわけではないが, 加齢を分化成熟の指標とみなす ことで, 細胞の分化成熟を考慮した数理モデルを構築できる. 年齢構造をもつ個体群モデル によって造血幹細胞の増殖ダイナミクスを記述したものとして [41, 42, 33, 44, 1, 39, 53, 43] がある. 偏微分方程式で記述された数理モデルは, 特殊な条件の下で時間遅れをもつ微分 方程式系へと帰着できる場合がある [5, 35, 19, 2]. 3 造血幹細胞の増殖モデル Mackey らの数理モデル研究の中で, とりわけ集中的に考察・利用されている G0 モデ ルを紹介する. 3.1 G0 モデル G0 とは細胞周期における休止期 (quiescence) にあたる相を表したものである. 造血幹 細胞は通常 G0 期に滞在しており, 刺激を受けると細胞分裂を開始することを前提として いる. G0 モデルは自己複製を考慮した造血幹細胞のダイナミクスを記述する数理モデル として, Mackey によって 1978 年に発表された [31]. 変数 S(t) を時刻 t で休止期に存在 する造血幹細胞の個体数とする. [31] で提案された G0 モデルは, 以下の時間遅れをもつ 微分方程式によって与えられる: d S(t) = −dS S(t) − β(S(t))S(t) + 2e−γS τS β(S(t − τS ))S(t − τS ) dt 5 (3.1) 定数の時間遅れも分布型の時間遅れの一つである. 全ての細胞が等しく同じ期間を経て分化成熟するとい うことは, 確率的な解釈をすれば, その分布関数が1点に集中した Dirac の δ 関数に他ならない. point delay という表現は, 分布が点であることを意味している. ただし, Dirac の δ 関数は分布 (distribution) ではなく 測度 (measure) として取り扱わなければならない. 6 変動型の時間遅れは数理生物学の分野のみならず, 数学的対象としても精力的に研究されてきた. 外部か らの影響がある変数で与えられたとき, 時間遅れはその変数に依存することから, 数学的には state dependent delay (ssd) と呼ばれている. Mallet-Paret や Walther 等の一連の精力的な数学的研究から, ssd をもつ微分 方程式系では, 緩和振動 (relaxation oscillation) と呼ばれるタイプの振動が出ることが知られている. 4 5 ここで dS は細胞の死亡率を表す. β(S) は幹細胞一つあたりの密度依存型の活性化率で, 細胞周期の静止期から分裂期に遷移する速度を表す. [31] において, β(S) は S に関して 単調減少であることが仮定されている. すなわち, 細胞周期において静止状態の幹細胞数 が少なくなると, 自己複製によって増殖する機構を暗黙のうちに仮定している. τS を細胞 分裂に要する時間とする. G0 モデルでは, 有限期間で終了する分裂期を時間遅れによって 表現するのが特徴である. 細胞周期の分裂期に存在する造血幹細胞の個体数を表す方程式 は (3.1) は従属して決まるので, 解の定性的性質を調べる目的のみであれば, (3.1) のみを 考えればよい. 今回, 分裂期にある造血幹細胞に対する方程式の記載は省略する. 第三項に 現れる 2e−γS τS β(S(t − τS ))S(t − τS ) は, 分裂期に遷移した幹細胞の中で生き延びたもの が時間 τS 経過後に娘細胞を2つ生成して再び静止期に戻る状況を表す. 3.2 派生研究 G0 モデル (3.1) は時間遅れをもつ微分方程式であるが, 年齢構造をもつ偏微分方程式か ら (3.1) を導出できる. 実際, [2] では幹細胞の分裂にかかる時間が休止期にある幹細胞の 個体数に依存すると仮定し, 偏微分方程式から変動型の時間遅れをもつ微分方程式系を導 出している7 . その他, 赤血球の分化を考慮した場合において, G0 モデルは erythropoietin (EPO) の濃度変化のダイナミクスを陽的に組み込んだ数理モデルへと改良されている [3]. G0 モデルは, 緩和振動8 (relaxation oscillation) や周期の長い振動といった特徴的な周期 解をもつことが知られている. [24] では, 特異摂動法を用いて G0 モデルが緩和振動する 解をもつことを示している. [40, 32] では, 慢性骨髄性白血病のデータに見られるような特 に周期の長い振動を対象に数理解析を行っている. [40, 32] ではそれぞれ, 周期解の存在を 数学的に証明している. 造血系細胞の分化を考慮した数理モデルを構築する場合, 加齢を分化成熟の指標とみなす ことで, 年齢構造をもつ微分方程式によって記述できる. 細胞内のホルモン濃度変化を成熟過 程とみなした数理モデルが Mackey らによって提案されており, 加齢成熟 (age-maturation) モデルと呼ばれている. Rey and Mackey [41, 42] によって提案された数理モデルでは, 幹 細胞から赤血球へと分化する過程を対象とし, 加齢を指標とした細胞分化過程に加えて赤血 球内のヘモグロビン濃度が変化する状況を考察している. その後, [33, 5, 13, 35, 34, 1, 19] によって加齢成熟モデルが改良もしくは詳しく数理解析されている. [41, 42, 13] ではシ ミュレーションを中心に加齢成熟モデルのダイナミクスを考察しており, 残りの論文では 数理解析に力点が置かれている. [35] は [5] を改良したものであり, いずれの論文において も偏微分方程式によって定式化された加齢成熟モデルを, 変動型の時間遅れをもつ微分方 程式系に帰着させている. [34] では, 加齢成熟モデルの自明な解 (個体数 0 の平衡点) に対 して, 平衡点が大域安定であることを解析的に証明している. 7 ある栄養が造血幹細胞の分裂の律速になっていることを仮定しているが, その実態には言及せず, また幹 細胞の分裂にかかる時間が休止期にある幹細胞の個体数に依存すると仮定する根拠も示していない. 生物学的 仮定の説明には乏しいが, 数理解析はしっかりとしている. 8 緩和振動は振り子の運動を表す古典力学モデルである Van der Pol 方程式系にみられる. Van der Pol 方 程式系は slow-fast 系の代表的な例として知られており, のこぎり型の周期振動を解としてもつ. のこぎりの 背の部分は速いダイナミクスを表しており, 解は瞬時に変化する. 一方でのこぎりの腹の部分は遅いダイナミ クスを表しており, 解がゆっくりと変化する. 緩和 (relaxation) の意味は, fast 系から slow 系へとダイナミ クスのスピードが和らぐことに由来すると考えられる. 次節で考察する周期性好中球減少症の場合も緩和振 動が出現するとの報告があるが [24], 緩和振動様の周期が観察された場合, ダイナミクスが速い系と遅い系に よって特徴付けられる可能性を示している. 5 6 4 周期性好中球減少症に関する数理モデル研究 好中球 (neutrophil) は白血球の約 60% を占める自然免疫系の細胞で, しばしばパトロー ル隊とも呼ばれる. 好中球は顆粒球の一種類として骨髄の造血幹細胞から分化・成熟して末 梢血に登場する. 好中球は通常, 体内に侵入してきたバクテリアや真菌類を貪食して排除す る働きを担っているため, もし放射線照射後などに好中球が減少した場合, バクテリアに対 する感染の感受性が増すため注意が必要となる. 先天的に好中球数が減少してしまう疾患 を, 先天性好中球減少症 (congenital neutropenia) と呼ぶ. 先天性好中球減少症は大きく2 つに分類されている. 重症先天性好中球減少症 (severe congenital neutropenia) は, 好中球 の少ない状態が恒常的に続く疾患である. 一方, 周期性好中球減少症 (cyclic neutropenia) は, ヒトの場合末梢血における好中球数が約 21 日周期で振動する疾患である [30]. 幹細胞から赤血球や顆粒球の分化を記述する上で, G0 モデルをベースに改良した数理 モデルが数多く提案されている. 中でも, 周期性好中球減少症に対する数理研究が精力的 に行われている. 本稿では, 2003 年に Bernard らによる周期性好中球減少症に関する数 理研究 [6] で取り扱われた数理モデルを紹介する. 以後の Mackey らの好中球減少症に対 する数理研究は, [6] における数理モデルを拡張, 改良したがほとんどである. 変数 S(t) を時刻 t における造血幹細胞の細胞数, N (t) を末梢血中に存在する好中球の 細胞数とする. [6] で提案された数理モデルは ⎧ d ⎪ ⎨ S(t) = 2e−γS τS K(S(t − τS ))S(t − τS ) − [F (N (t)) + K(S(t))]S(t), dt ⎪ ⎩ d N (t) = AF (N (t − τ ))S(t − τ ) − d N (t). N N N dt (4.1) ここで, γS および dN はそれぞれ幹細胞, 好中球の消失率を表す. 消失とはアポトーシス による細胞死のみならず, たとえば組織から血中への移動による観測系からの移出も考慮 に入れている. A は増幅比率 (amplification ratio) で, 好中球へと分化する過程で前駆細 胞の分裂を介した増殖によって末梢血中の好中球がどれだけ増えたかを表す量である. 関 数 F は好中球への分化速度, K は G0 期にいる幹細胞が分裂期に移行する速度を表す. 好 中球への分化や幹細胞の自己複製は, ネガティブフィードバックにより制御されていると 仮定する. すなわち, 好中球数が減少すれば細胞分化が促進され, 幹細胞の数が減少すれ ば自己複製によって幹細胞の個体数が維持される機構が存在することを暗に仮定にしてい る. ネガティブフィードバックを表す関数 F および K の具体型は, それぞれ F (N ) = f0 θ1n k0 θ2s , K(S) = s + Nn θ2 + S s θ1n (4.2) によって与えられる. 過去の論文において, 式 (4.2) の関数型は実験・臨床データをよく フィットするものとして経験的に与えられたが, 機械論的な解釈も可能である. 実際, G-CSF やその他のサイトカインがレセプターに結合する状況を表現した生化学反応式を準定常状 態近似 (QSSA; quasi-steady state approximation) することによって, (4.2) の関数型を導 出できる [6]. なお, f0 − F (N ) および k0 − K(S) の関数型は Hill 関数と同じである9 . 数 学的には, 周期振動の存在は Hopf 分岐による周期解の出現によって特徴づけられる. 次 小節以降では, 周期振動が生み出される機構および臨床データが周期性を示すかどうかを 9 F や K は inhibitory Hill function と呼ばれることもある. 6 7 検定した研究のいくつかを紹介する. 最後に, 生命現象に関する数理研究において広く言 及されている個体群の周期振動現象を紹介し, 周期振動を生み出す基本的なメカニズムに 関して考察する. 4.1 周期振動発生メカニズムに関する仮説といくつかの研究 周期振動を示す血液疾患がどのようにして生じるかどうかについて, これまでに 2 つの 仮説が検証されてきた. 一つは, ある程度分化が進んだ末梢の部分で制御機構が破綻する ことで周期振動が生じるとする説で, 数理モデル研究では主に [45, 46, 47] や [18] におい て支持されてきた. 一方, 好中球が血小板や赤芽球 (reticulocyte) といった他の血液細胞 系列と同じ周期で振動している臨床データも存在することから, 周期振動発生のメカニズ ムは分化系列それぞれにおける制御機構の破綻によるものではなく, むしろ幹細胞も含め た制御機構の破綻に依るものと考えるのが自然だという説である. これは主に Mackey ら の研究グループによって強く支持されてきた. 仮説を正当化するするために, Mackey ら の一連の論文において, 数理モデルを用いた検証が行われている [29, 27]. 基本的なアイ ディアは以下の通りである. 幹細胞を除いた前駆体以降の細胞増殖・分化のダイナミクス を一般的な分布型の時間遅れをもつ微分方程式によって記述し, 平衡点の安定性を確認す る. もし幹細胞を除いたフィードバック機構が不安定化しなければ周期振動は出現しない ので, 周期性好中球減少症にみられる周期振動は幹細胞も含めた制御機構の破綻であると 結論づけられるという流れである. 実際, [29] では系の平衡点の局所安定性 (線型化した 方程式系) を確認しており, [27] では系の平衡点の大域的安定性を数学的に確認している. これら数学的な証明から, Schmitz らの研究 [45, 46, 47] を否定している10 ([25] も参照). ただし, 2003 年の Bernard [6] の論文以降, これまでの主張を若干修正し, 好中球への分 化系列において好中球の死亡率が上昇することにより制御機構が破綻し, それが幹細胞の 自己複製機構も不安定化させることで振動が発生するという仮説を提唱している. その他 [11, 10, 53] では, 1980–90 年代の Mackey らの一連の研究をまとめ, 造血幹細胞と好中球 以外にも血小板や赤血球の個体群ダイナミクスも考慮した包括的な数理モデルを構築・解 析している. [12] は [11] で提案された数理モデルを詳しく分岐解析したもので, Hopf 分岐 によって周期解が現れること, 複数の周期解が双安定で存在することを明らかにしている. 4.2 周期性の検定 時系列データが等間隔で得られている場合, Fourier 変換を行ってスペクトルを解析す ることで, その時系列データが周期性をもつかどうかをチェックできる. ところが, 実際に 得られる時系列データは等間隔でない場合が多いため, Fourier 変換をそのまま利用する ことができない. 等間隔でない時系列データであっても, それが周期かどうかを統計的に 検定する手法が確立されており, 考案者の名前をとって Lomb periodogram と呼ばれてい る. 時系列データが周期性をもたないという帰無仮説を元に Fourier 変換によってスペク 10 実験や臨床データを上手く説明するという理由で分布型の時間遅れの kernel を γ 分布に固定してあるパ ラメーター領域を対象にしているが, 異なる仮定の下で振動が出現する可能性を否定できたわけではない. 後 述する ELANE 欠損との関連など, 分子レベルとの対応が検討されたわけではないので, Mackey らの仮説で 良いかどうかを結論づけるためにはさらなる詳しい考察が必要である. 7 8 トル解析を行い, 計算によって求まった p 値によって仮説を棄却するかどうかを検定する ことで, 時系列データが周期性をもつかどうかを判断する. Mackey らのグループは, 振動する様々な血液疾患の臨床データに対して Lomb periodogram を適用することで周期性を確認している. [23] では, 周期振動を示す慢性骨髄 性白血病の臨床データを解析した結果, いくつかの例で周期性を示すことを確認している. [28] では, コリー犬でみられる周期性好中球減少症に対して, Lomb periodogram を用い て周期性の検定を行なっている. [26] では, ヒトの好中球減少症に関する臨床データに見 られる周期性および成長因子である G-CSF 投与前後における臨床データの周期性につい て検証している. [9] では, 周期性好中球減少症の中でも, とりわけ鋭いピークをもった臨 床データの周期性を検証している. [52, 4] では, 振動する血小板の臨床データに対して周 期性を検証している. 4.3 個体群の周期振動に関するその他の研究 これまでの生態学を含む生物学諸分野で数理モデルを活用した研究においても, 周期的 な個体数振動 (population cycle) に関する研究が数多く存在する. 生態学の分野では, ミ ジンコ (Daphnia) の個体数振動について古くから研究がなされてきていた. ミジンコ個体 群の場合, 1 つのメカニズムとして資源 (algae) の利用によって周期振動が引き起こされ ることが明らかになっている. まず, ミジンコによる摂取によって環境中に存在する資源 が減少すると, 結果的に個体の出生率低下や死亡率上昇を引き起こし, その結果としてミ ジンコの個体数が減少する. ミジンコの個体数が減少すれば, 今度は資源の消費も抑えら れるので資源量が回復し, 結果的にミジンコの個体数も増加につながるという一連のサイ クルが成立する. 周期と時間遅れの関係に注目することで, 個体群振動発生のメカニズム は更に細かく特徴付けることができる [16]. 体内時計の場合, ある mRNA によって作られたタンパク質が時間遅れを伴って mRNA の発現を抑制する仕組みが周期振動を生み出す基本的なメカニズムであると考えられてい る. 感染症の場合, はしかの周期的流行は時間遅れを伴った免疫消失によって引き起こさ れる可能性が示唆されている11 . これらの例から示唆される事柄として, 周期振動が発生 するためには時間遅れを伴ったフィードバック (系の個体数の流れ (flow) がサイクル状に なっていること) が必要であり, 数学的な定式化の詳細に依存するものではないことが経験 的にしられている. 実際, 時間遅れ系ではなく常微分方程式系であっても周期振動が出現 する例はいくつも存在する. Mackey らによって構築された一連の数理モデルも, 時間遅れ をもつネガティブフィードバックを有したシステムであるため, あるパラメーターの条件 下では周期振動が発生すると理解して良い. Mackey らによる数理研究によれば, 好中球の アポトーシス率が上昇することで周期振動が発生するシナリオが提示されているが, この ような死亡率上昇による個体数振動の発生は, ミジンコ個体群の場合でも同様に観察され ている [16]. 11 免疫を消失することによって再び感受性をもつことになるので, サイクルが形成されることになる. 8 9 5 最近の動向 – 筆者の研究 – ここでは, 筆者が取り組んでいる幹細胞の増殖・分化ダイナミクスの数理研究について 簡単に紹介させていただく. 5.1 対称・非対称分裂を考慮した幹細胞増殖モデル Mackey らのグループをはじめ, 既存研究では幹細胞の分裂に関する対称・非対称分裂の 仕組みを陽に考慮していない. 筆者は, 幹細胞の基本的性質である自己複製と分化が対称・ 非対称分裂を介して行われるという生物学的事実に基づき, それを陽に表現した幹細胞の 増殖・分化ダイナミクスを記述した数理モデルを構築した. 構築した数理モデルをベース に, 数理疫学や人口学, 生態学の分野で発展した基本再生産数に関する理論と生物種が絶滅 せずに存続することを数学的に保証するパーシステンス理論を用いて, 移植した造血幹細 胞が生着するかどうかの理論条件を導出した [37]. 筆者らの構築した数理モデルは, 幹細 胞の増殖や分化に影響する成長因子の濃度依存的な影響も陽に取りこんでいる. また, あ る特別な近似を行なうことで G0 モデルに帰着させることができる. 5.2 幹細胞増殖モデルに適用可能な確率シミュレーション手法 筆者は論文 [38] で, PSPM に適用可能な確率シミュレーション手法を開発した. 細胞内シ グナル伝達過程におけるタンパク質の相互作用や修飾状態の変化を追跡するため, Poisson 過程に対する確率シミュレーションがしばしば用いられる. Poisson 過程のシミュレーショ ン技法として著名な Gillespie のアルゴリズムと呼ばれる手法が幅広く活用されているが, 細胞の成熟や分化過程では一般に加齢による死亡率の上昇など個体の履歴を考慮する必要 があるため, Gillespie のアルゴリズムは直接適用できないことがある. 筆者の開発したアルゴリズムは Gillespie アルゴリズムを一般化したものであり, Poisson 過程に従う計数過程のみならず, 加齢による死亡率の上昇を考慮した計数過程 (BellmanHallis 過程) など, 様々な生命現象に特有な確率過程に対してシミュレーションを実施でき る. たとえば, 筆者が開発した確率シミュレーションのアルゴリズムを適用することで, 再 生方程式系に対応する計数過程もシミュレーションできる. 開発した確率シミュレーショ ン技法は, 個体の振る舞いを方程式によって記述するのではなく, 直接個体の状態の時間変 化を追跡する方法であるため, 社会学やその他複雑系物理の分野でしばしば用いられてい る個体ベースモデルとも解釈できる. 具体例として, 筆者は [38] において表皮幹細胞から 分化して生じる表皮細胞によって構成される表皮の構造をシミュレーションによって再現 する研究へと応用している. 6 まとめ 最後に, 造血幹細胞の増殖・分化を記述した数理モデルで用いられてきた各種定式化に ついて, 筆者の独断的な見地からメリットとデメリットをまとめて紹介する. また, Mackey らによって精力的に進められてきた造血幹細胞に関する数理モデル研究の現状も踏まえて, 今後進めていくべき研究に関して筆者の展望を述べさせて頂く. 9 10 6.1 常微分方程式を用いた定式化に対する考察 常微分方程式は個体群数理モデルの記述様式として幅広く用いられている方法論であり, 数値解析や分岐解析を行うためのソフトウェアやアルゴリズムが数多く利用できる. 分化 成熟に要する期間が指数 (一般に Gamma) 分布に従う場合, linear chain trick と呼ばれる 手法によって, 時間遅れをもつ微分方程式や偏微分方程式は, 常微分方程式系に帰着させる ことができる. 分化成熟に要する期間が指数分布と仮定できるということは, 有限個体数 の集団における細胞の成熟を考えた場合, 系で単位時間あたりに成熟する細胞数が Poisson 分布に従うことを意味している. Poisson 過程は無記憶性をもつ計数過程であり, 一般の点 過程と比べて取り扱いが容易であるため幅広く利用されている. ただし, 細胞の成熟過程 が Poisson 過程であると仮定するのが適切かどうかは別問題である. また, ステージ構造 をもつ常微分方程式系で数理モデルを構築した場合, 導入するステージの数に応じて推定 すべきパラメーターの数も増えてしまうという問題が生じる. これは, とりわけ定量的な 数理モデルを構築する上では憂慮すべき問題で, 時間遅れの導入によって変数やパラメー ターの数を減らすアイディアが有効に機能することもある. 6.2 偏微分方程式を用いた定式化に対する考察 偏微分方程式は, 常微分方程式を含む一般的な定式化手法であり, 各種数理モデルを特 別な場合として導出できる. また, 基本再生産数など重要な概念を導出する理論体系が整 備されている. 一方で, 年齢構造をもつ個体群モデルも含めて一般に双曲型偏微分方程式 は数値計算による取り扱いが難しく, その他, 解析的取り扱いや人口学的確率性の導入, 偏 微分方程式のパラメーター推定に関する理論の適用など, 現実的要請に応じた活用は技術 的に困難な点もあって, 応用で求められる要求をクリアするには多くの研究者にとって敷 居が高いという現実的な問題が存在する. 6.3 ディレイ方程式を用いた定式化に対する考察 ディレイ方程式系は多状態を 1 つの系列として表現できるため, コンパートメント化さ れた複数の状態変数を 1 変数の 再生方程式で記述することも可能である. この性質は, と りわけ実験によって詳細なデータが得られないが, 個体間の均一性の仮定を置くのが現実 的でない現象を定式化する際に適している. 一方, 計算機を活用した手法の開発は未発達 である. まず第一に, 実験データの解析を念頭に入れたディレイ方程式の応用において, シ ミュレーションによる数値計算は重要であるが, 現段階ではその近似計算手法が開発され ているもののユーザーがすぐに利用できる段階にはない. また, 分岐解析を含めた応用ツー ルを開発することも必要である. 5 節で示した筆者らの確率シミュレーション手法は, ディ レイ方程式で記述した個体群ダイナミクスに対応する確率過程に対してシミュレーション を実行する際に用いることができる. 今後の発展次第では, ディレイ方程式の抱える実用 上の問題点も少しずつ解消されると展望している. 10 11 6.4 造血幹細胞の数理モデル研究に関する考察 造血幹細胞の増殖・分化ダイナミクスについては, 既に様々な数理モデルが提案されて いる. とりわけ好中球減少症のような疾患については, 周期振動などダイナミクスの定性 的性質の理解やその治療法に対する提言など, 色々な角度から数理研究が応用されている. Mackey らが提案してきた数々の数理モデルは, 現象をシンプルに表現するために多くの 仮定がおかれている. したがって, Mackey らの数理モデルが他の研究と比べて必ずしも優 れているということにはならない. ただし, Mackey らの一連の研究は臨床データとの比較 も含めて数理モデルを様々な角度から解析し, 生物学的な結論を導く上でも詳細な検討を 加えている. 単に過去の論文として整理しておくのではなく, その研究に対する首尾一貫 性を知ってしておくことも有益である. これまでの数理モデル研究のおかげで, 造血幹細胞の増殖・分化や周期性好中球減少症 といった疾患についてダイナミクスを定性的に理解することはできるが, それらは直接応 答を予測する数理モデルとしては利用できないのが現状である. 造血幹細胞は in vitro/in vivo による実験が難しいので, 実験との対応がしっかりととられておらず, 経時的に骨髄 内に存在する造血幹細胞の分化をどのように計測するかなど, 数理研究以外の課題も含め て研究が未成熟な部分も大きい. 観測可能ないくつかの分化系列の情報から, 幹細胞の動 態を推定するような数理研究が必要であると考えられる. 今後取り組んでいくべき研究の方向性を明らかにする意味も込めて, 最後にまだあまり 進んでいない研究の方向性について議論する. たとえば先天性好中球減少症に関しては, ヒトの場合原因遺伝子 ELANE が特定されている [30]. 好中球のエラスターゼをコードす る ELANE における遺伝子異常が疾患を引き起こすことが知られるようになったが, この ような原因遺伝子の影響を組み込んで好中球減少症を数理モデルで取り扱った論文はない. 唯一, [18] らの研究では ELANE 異常を数理モデル上で表現しようとしている. ELANE の異常が顆粒球に分化する途中段階で成熟を阻害するという仮説やある実験事実を元に, 数理モデルのあるパラメーターの値を変化させているが, この論文は多くの点で恣意的な 仮定が多く, 臨床事実に数理モデルの結果を都合よく解釈させている感が否めない. Mackey らのグループでは, 顆粒球分化段階の前駆体でアポトーシス率が上昇すること で周期性好中球減少症が発生することを理論的に提案しているが, 実際に確証ある根拠が 得られているわけではなく, 分子レベルの研究との関連性は明らかではない. 治療や動物 モデル生成のためには, 分子レベルでの変化が集団レベルでの変化としてどのように観察 されるかを明らかにする必要がある. Mackey らのこれまでの研究は, 周期振動生成のメカ ニズムを俯瞰的に捉える上で非常に有効である一方, アポトーシス率が治療や薬剤の導入 によってどう変化するかについては何も明らかにしていない. [8] では G-CSF の薬物動態 も考慮した数理モデルを構築している等, 最新の研究ではミクロとマクロをつなぐ研究も 出始めているが, まだほとんど手がつけられていないのが現状だと考えられる. 今後の数 理モデル研究において, 臨床および実験と密接にリンクして応答を予測できるような数理 モデルの開発を目指す研究が, 応用を根ざした異分野融合研究として重要性を増すものと 考えられる. 11 12 参考文献 [1] M. Adimy and F. Crauste. Global stability of a partial differential equation with distributed delay due to cellular replication. Nonlinear Analysis, 54, pp.1469 – 1491, (2003). [2] M. Adimy, F. Crauste, M. L. Hbid, and R. Qesmi. Stability and Hopf Bifurcation for a Cell Population Model with State-Dependent Delay. SIAM Journal on Applied Mathematics, 70, pp.1611–1633, (2010). [3] M. Adimy, F. Crauste, and S. Ruan. 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A 207 2 ! 2 " _ 2 JYXYVI [SVOW # @ 207 _ 28 自己重力多体系での非線形現象と力学構造 郷田 直輝(国立天文台 JASMINE 検討室) E-mail: naoteru.gouda@nao.ac.jp 1.はじめに 宇宙には広大なスケールに渡って様々 なタイプの天体が存在し、階層構造を形 成していることが分かっている 1) (図 1)。 これらの天体の形成過程や力学構造等を 解明することが宇宙物理学の大きな課題 の 1 つである。小さいスケールからみて いくと、恒星と惑星、(恒星が約 1000 億程 度集まった)銀河、その銀河の集団である 銀河団、さらに銀河団が複数個連なった 超銀河団が存在する。超銀河団と銀河が ほとんど無いボイド(空洞)をあわせて 泡のようにみえる構造は宇宙の大構造と 呼ばれ、数億光年程度のサイズとなる。 なお、星から宇宙の大構造に至るまで、 図 1:宇宙の階層構造。 恒星と惑星のシステム からはじまり、宇宙の大構造に至るまで広大なス ケールにわたって、様々なサイズの天体構造が 宇宙には存在している。 密度にして約 44 桁も広がりがある。では 何故、密度がオーダーでかなり異なる構 造ができるのであろうか。その理由を一 言でいえば、天体構造を形成する源が重 力であり、そしてその重力が実際的に長 距離力であるためである。短距離力では、 その力の到達距離に見合った領域範囲で 決まる密度しかもつことができないが、 重力の場合は、質量を増やせばどこまで も力が及び大きなサイズの構造を作り、 図 2:宇宙の階層構造と自己重力多体系の物理。 それに見合った様々な密度をとること ができるのである。このように重力が宇 宙の構造形成を解明する大きな鍵とな る。 さて、宇宙での構造形成問題をはじめ、 宇宙物理学の様々な問題を解き明かす ために、既存の物理学を応用することが 必要であり、それが今までも多くの天体 現象の解明に役立ってきた。では、宇宙 物理学は既存の物理学を単に応用する だけかといえばそうではない。逆に宇宙 物理学での問題が新しい物理学を芽生 えさせる可能性がある。地上の実験室系 では見られない現象が宇宙では起こるか 図 3:自己重力多体系の概念と力学構造。 らである。例えば、自己重力多体系での 物理があげられる(図 2)。自己重力多体系とは、その系を構成する各々の“粒子”(星 などの天体)が、お互いの重力(万有引力)だけで運動しつつ、系が束縛されている場 29 合の系である(図 3)。自己重力多体系は、後述するように地上の実験室系では見られ ない興味深い緩和過程や力学構造をもたらす。特に本稿では、自己重力多体系の緩和過 程、(準)平衡状態などの物理的特徴について、短距離力の系との違いを中心に記述す る 2)。 2.自己重力多体系の力学構造 自己重力多体系の身近な例は、太陽系である。ニュートン力学では 2 体だけの場合の 万有引力による運動は、解析的に解ける(ケプラー運動)。しかし、実際の太陽系は、 惑星を複数個含み、厳密には 2 体ではなく、多体系である。3 体からなる系の運動の研 究が行われたが、ほとんどの場合で非常に複雑な運動を描くことが分かってきた。まさ にカオス研究につながるものである。ただ、太陽系の場合は、太陽の質量に比べて惑星 の質量は非常に小さいので、惑星の運動は、太陽とその惑星の 2 体問題として解いた場 合で良い近似となる。ただ、ラプラスやポアンカレの研究によると、その太陽系でさえ、 厳密には非常に複雑な振る舞いをすることが分かってきた 3)。惑星の楕円軌道も実際に は他の惑星からの重力を受けて微小ではあるが複雑に変化していく。また、非常に高い 確率で太陽系は、壊れない、つまり力学的にほぼ安定であるが、壊れる可能性はゼロで はない。厳密には完全に安定かどうか分からない、ということが分かってきた 3)。 以上のように太陽系でさえ、複雑な振る舞いをする。質量が等価な 3 体であれば、カ オス軌道にもなり複雑な運動をする。では、星が約 1000 億個も集まった(さらに、ダ ークマターも存在する)銀河では、星は一体どのような軌道を描き、そして全体として どのような力学状態になっているのだろうか?また、どのような緩和過程を経てそのよ うな力学状態に至ったのであろうか? 3.銀河と力学構造 銀河の力学構造がどの ようになっているのか、 実は我々が住む天の川銀 河でさえ、詳細にはまだ 分かっていない。いくつ かのモデルの提唱や N 図 4:円盤銀河。中心付近の明るい 体計算による数値シミ ふくらみがある構造はバルジと 呼ばれている。 ュレーションの解析は 多く行われているが、現 図 5:天の川銀河。観測にもと づく想像図 図 6:天の川銀河の構造とサイズ。 実の力学構造はまだ知られていない。ただ、 銀河は楕円銀河や渦巻き銀河(図 4、5) といったいくつかのタイプがあるが、タイ プ毎に(個々の銀河が生まれた時期は異な っていても現在は)共通の物理的特徴(星 図 7: 楕円銀河やバルジなどの 3 軸不等楕円体構造 を構成する星やダークマターの規則的な軌道 候補。 30 の分布など)がある 4)。従って、理由はまだ分からないが、銀河はなんらかの緩和過程 を受けて、完全な定常状態ではないにしても、ある種の準定常状態になっていると考え られる。しかも観測によると楕円銀河の構造、そして渦巻き銀河の中心にあるバルジ構 造(図 4~6)は、3 軸不等楕円体構造であり、主に規則的な軌道(図 7)で構成されている可 能性が高い。3 体でさえカオスになるのに多数の星やさらにはダークマターまで存在す る銀河で軌道は本当に規則的なのだろうか? このように、どのような緩和過程を経て、 どのような力学状態に落ち着くのかが大きな課題となっている。 4.1 次元シート多体系の緩和過程とカオス的遍歴 筆者等は現実の銀河といった 3 次元系ではなく、1 次元シート多体系とよばれる、無 限に広がった一様なシートが複数枚存在し、シート面に垂直な方向のみ 1 次元的に運動 する系を最初のステップとして解析した 2、 5) (図 8)。この系を先ず考えたのは高精度 での数値実験が可能であること、位相空間がコンパクトであるので取り扱いやすいこと、 そして自己重力という長距離力の系の物理的特徴は研究することができるからである。 数値解析の結果、シート系は以下のよう な非常に複雑な進化をすることが分かっ た(図 9) 。 (1) 力学的時間スケール Tc で力学平衡 (ビ リアル平衡)になる。 (2) 時刻 t~NTc(N は、シート数)で、系は エネルギー等分配が成立し、系は“準平 衡状態(QE)”になる。 (3) t~104NTc で系のグローバルなエネルギ ー分布関数は変化し、 “遷移状態(TS)”と 名付けた新たな状態に移行する。 (4) 再度、準平衡状態に戻るが、以前の準 図8:1 次元重力シート多体系。 平衡状態とは厳密には異なる様態となる。 さらに、次は別の遷移状態に変化する。このような状態の遷移を繰り返していくが、同 じ状態にはならない。 (5) t~106NTc で、長時間平均をとるとミクロカノニカル分布に一致する。つまり、エル ゴード性が成立する。 上記の状態遷移に関しては、ある遷移状態に滞在している時間の分布は、時間の-2 乗に 比例していることが分かった。また、ある準平衡状態に滞在している時間の分布もベキ 分布であるが、指数が異なり-0.5 乗となる。このようにベキ分布になるというのが重要 図 9: 1 次元重力シート多体系の“緩和”に至る複雑 なプロセス。 図 10:(2N 次元)位相空間中での軌道(系全体の状 態の進化をあらわす)の概念図. 31 な特徴である。実は、このような状態の遷移と滞在時間のベキ分布というのは、“安定 カオス” 6)とよばれる状態と共通の特徴である。 このような特徴が現れるのは、2N 次元位相空間で、系をある状態に留めおく、 “バ リア”(トーラスのようなもの)が存在し、系があるバリア内にあるときは、ある状態 をとり、時間が経つと、違うバリア領域に移り渡って違う状態をとっていくと推測され る(図 10)2)。このバリアのサイズがもしフラクタル分布をしていれば、滞在時間がベ キ分布をすることが理解できる。また、エルゴード性が成立する時間スケールは、バリ アの中でもっとも大きなサイズで決まるのかもしれない。 なお、この遷移過程は、他の系でも見られるカオス的遍歴 7)と共通点が多い。カオス 的遍歴では、秩序状態と乱れた状態がお互いに入れ替わりつつ遷移が継続して起こるも のであるが、この遷移が起こる原因は、系の中に乱雑性を引き起こす“局所的な力”と、 系の規則化を促す“平均場”の両方が含まれ、その 2 つの力が均衡していることによる。 1 次元シート系では、実はシート数 N を増やすとリアプノフ指数の値がゼロに近づき、 カオス性が薄れることが分かっている 2, 5)。つまり、N を大きくすると平均重力場が支 配的になるからである。しかし、有限の N では、シート数の離散性による平均場から のずれが、乱雑を引き起こす源であり、平均場との均衡が複雑な遷移をもたらすと考え られる。 さて、N を大きくするとカオス性が薄れていくのは、現実の 3 次元系でも同様と考え られる。つまり、N が大きくなるとカオスの原因となる、近くの星同士の重力散乱の効 果に比べて、多数の星による平均重力場の効 果が大きくなるからである。従って、現在の 楕円銀河やバルジが規則的な軌道(図 7)で 構成されている、もしくは、安定カオスのよ うに、厳密にはカオスだが、長時間にわたり 近似的に規則的な軌道とみなせる軌道でほと んど構成されていると考えるのがもっともら しいと思われる。 5. 新しい統計力学の構築に向けて 1 次元シート系では、数値解析により、複雑 な遷移現象を経て、非常に長時間後にエルゴ ード性が成立すること、シート数を増やすと カオス性が薄れ、緩和時間が長くなること、 また、エルゴード性が成立後も状態は遷移を 続けることが分かってきた。これらの特徴は、 地上で見られる気体といった短距離力が支配 する系とは全く異なる。気体では、分子数が 増えれば増えるほど、早く緩和し、ミクロカ ノニカル分布に近づくのみである。そのため、 短距離力の系では緩和後の巨視的状態が予測 可能となり統計力学が勝利をおさめた。しか し、重力といった長距離系の場合は、単純で はない。ただ、長距離力系といえども、古典 ハミルトン系であり、ハミルトニアンにすべ ての情報が含まれているはずである。何か長 距離力の緩和過程と(準)平衡状態に関して予 測はできないのであろうか?いわば、長距離 図 11 :集団運動の規則性と新しい統計力学の 必要性 32 力系の統計力学と呼ぶのがふさわしい新しい物理学の構築が必要だと思われる。それに は位相空間の幾何学的、測度論的議論が鍵になると考えている(図 11)。なお、長距離 力系は重力系以外でも非中性プラズマやビーム物理学の分野においても関連している。 これらの系は、ボルツマン方程式+ポアソン方程式という系の進化を司る方程式も共通 する。そのため、現象に関しても共通点がみられる場合もあり、現象の統一的理解が可 能かもしれない。さらに、非線形集団運動、カオス、長距離力系の統計力学に関する基 礎科学の発展につながるかもしれない。また、これらは当然、数学とも密着し(数学の “言葉”が必要)、数学との協力は必要不可欠である。分野を超えた相互協力を是非期 待したい。 6.JASMINE(赤外線位置天文観測衛星)計画で探る天の川銀河の力学構造 自己重力多体系の力学構造の今後の発展 としては、理論(カオス、複雑系なども)、実 験(数値シミュレーション)の進展も必要 であるが、自然科学である以上、現実の系 がどのようになっているかを知ることも重 要である。その系として近未来に詳細かつ 精密に分かる可能性があるのが、唯一、我々 が住む天の川銀河である。力学構造を知る ためには、星の 3 次元分布と運動情報が必 要となるが、その測定を行う天文学の一分 野が位置天文学である。位置天文学は、星 (恒星)の天球面上の位置とその時間変化 図 13 :年周視差により星までの距離がわかる。 図 12: 位置天文学について。 図 14 :固有運動に距離をかけると星の接線速度が 求まる。視線速度は別の観測によって求ま る。 の測定を行う(図 12)。するべきことは単純であるが、星の動きはごくわずかであり、 その動きを精度良く測定するためには、観測の工夫、精密測定できる観測装置の開発・ 製作、データ解析方法の工夫など様々な研究開発を要する。星の動きを知ることによっ て、星までの距離を三角測量によって直接的に測定できる(図 13) 。さらに、天球上の 星の直線運動(固有運動)により、星独自が重力の影響によって動いている運動速度を知 ることができる(図 14)。このように、星の 3 次元的位置と運動が分かれば、その背景 にある重力場の情報が推測できる。すると、その重力場をつくりあげている全重力物質 の位相空間分布や軌道情報までが推測できる。見えている星の寄与を除けば、“見えて 33 いない”暗い星やダークマターの位相空間分布までもが推測できるのである(図 15)。 日本では、筆者を中心に赤外線位置天文観測衛星(JASMINE)計画 1)、8)を推進しているこ とを詳細な説明は割愛するが付記しておく(図 16~20) 。 図 15 :星の 3 次元立体地図と 3 次元速 度の情報により、“見えない”物 資の位相空間分布、軌道までも が推定できる。 図 17: JASMINE 計画シリーズで観測サーベイする 領域(天の川銀河を上から見た図)。 図 16: JASMINE 計画シリーズ 図 18: 2014 年打ち上げ予定の 超小型衛星 Nano-JASMINE のイラ スト。 図 19:完成した Nano-JASMINE 衛 星の打ち上げ実機。 図 20:小型 JASMINE 衛星のイラスト。 参考文献 1) 郷田直輝:「天の川銀河の地図をえがく」 、 旬報社、 2009. 郷田直輝:「ダークマターとは何か」、 PHP サイエンス・ワールド新書、 2012. 2) 郷田直輝:重力多体系での自己組織化、J.Plasma Fusion Res, 87, pp.441-448, 2011. 郷田直輝:「自己重力多体系の物理」、 数理科学、2000 年 3 月号. 3) 丹羽敏雄:「数学は世界を解明できるか」 、 中公新書、1999. 4) 谷口義明・岡村定矩・祖父江義明編:シリーズ現代の天文学「銀河 I」 、 日本評論社、2007. 5) T.Tsuchiya, T.Konishi and N.Gouda, Physical Review E, 50, 2607, 1994. T.Tsuchiya, N.Gouda and T.Konishi, Physical Review E, 53, 2210, 1996. 34 T.Tsuchiya, N.Gouda and T.Konishi, Astronomy and Space Science, 257, 319, 1997. 6) 相沢洋二・原山卓久: 「カオスを視る」、 別冊・数理科学、1998 年 10 月号. 7) 金子邦彦・津田一郎:「複雑系のカオス的シナリオ」、朝倉書店、1996. 8) JASMINE 計画:http://www.jasmine-galaxy.org/index-j.html 35 J. [1] [2] [3] [3] 100 m 100 m/s [4] 36 [5] Fig. 1 Fig. 2 (Fig. 2) (Fig. 3) Fig. 1 Fig. 2 37 (a) (b) Fig. 3 (c) (a) (b) [6] Navier-Stokes Boussinesq 0 0 t u , , (c) 38 . , , . R Rayleigh [6] 4 . S. Childress [6] h Navier-Stokes (Fig. 4) Navier-Stokes h d Fig. 4 39 0 0 n t , 0 j, . Rayleigh RBC N 0v RBC gd 3 . D N0 v g d D N0 RBC N0 N0 N0 d RBC d D RBC D 40 OHP REFERENCES [1] M. Matsushita et al., J. Phys. Soc. Jpn. 78, 074005 (2009). [2] J. J. Tyson et al., Physica D 34, 193 (1989). [3] S. Childress et al., J. Fluid Mech. 69, 591-613 (1975). [4] B. Diehn et al., J. Protozool. 22, 492 (1975); B. Diehn, Science 181, 1009 (1973). [5] N. J. Suematsu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 064003 (2011). [6] M. G. Velarde et al., Rev. Mod. Phys. 49, 581 (1977). 41 走化性細胞における1細胞の自己組織化を実験、統計解析、 理論モデル化から解明する 柴田達夫 理化学研究所・発生再生科学総合研究センター フィジカルバイオロジー研 究ユニット はじめに 数十ミクロンの細胞のひとつが外部の化学物質の濃度勾配を感知し、それに対して方 向性のある運動を示す性質を走化性と呼び、そのような化学物質を誘引物質と呼ぶ。真 核細胞の走化性運動は血球細胞、免疫細胞や神経細胞など、多くの細胞で観察され、環 境探索や形態形成、免疫反応などで重要な働きを担う。バクテリアなどの原核細胞と真 核細胞では走化性の原理は大きく異なっており、真核細胞においては、哺乳類細胞や単 細胞真核生物である細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum において、詳しく調べられ てきた。細胞性粘菌と白血球細胞では走化性の分子メカニズムが良く保存されており、 比較すると実験の容易な細胞性粘菌の研究を通じて、そのメカニズムの理解が進んでい る。細胞性粘菌において、走化性のシグナル伝達系は、7 回膜貫通型受容体、受容体と 結合する 3 量体 G 蛋白質をシグナル受容の入り口として、その下流に複数の並列的な経 路が知られている。 真核細胞の走化性シグナル伝達系 三量体 G タンパク質の下流のシグナル伝達系のなかで、イノシトールリン脂質代謝系 の経路は最もよく調べられており、また、主要な役割を果たしている。イノシトールリ ン脂質は細胞膜を構成するリン脂質の一種で、膜の細胞側のイノシトール環へ付加され るリン脂質の数と位置によって異なる生理活性を持つ(1)。走化性には、ホスファチジル イノシトール(4,5)二リン酸 (以下 PIP2)とホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸 (以下 PIP3)が重要な役割を担っており、細胞性粘菌の誘引物質である環状 AMP (cAMP) の濃度が上昇すると、リン酸化酵素である PI3 キナーゼが PIP2 から PIP3 を産生し、 一過的な PIP3 濃度の上昇が観察される。PIP3 の脱リン酸化酵素である PTEN は PIP3 から PIP2 を産生することで、PIP3 のレベルを保っている(図 1)。一方、cAMP の勾 配中では、濃度の高い側の細胞膜に PI3 キナーゼが、それ以外の細胞膜に PTEN が分布 1 42 し、細胞の前方で PIP3 のレベルが上昇する、と考えられている(2)。PIP3 の局所的な増 加がアクチンの重合を促し、細胞膜を伸長させ仮足形成を促す。これが細胞を前に動か す原動力になる。 cAMP PI(4,5)P2 cAMP受容体 Gα Gβ Gγ PI(3,4,5)P3 Ras PI3K P PTEN P アクチン P P P G蛋白質 図1 細胞性粘菌の走化性シグナル伝達系。cAMP 受容体は 3 量体 G 蛋白質と共役し、下流に シグナルを伝える。走化性シグナル伝達系の主要な要素であるイノシトールリン脂質代 謝系では、PI3 キナーゼが PI(4,5)P2 から PI(3,4,5)P3 を産生するリン酸化酵素として、 PTEN がその逆に PI(3,4,5)P3 から PI(4,5)P2 を産生する脱リン酸化酵素として働いて いる。cAMP の刺激によって PI3 キナーゼの活性が上昇し、PI(3,4,5)P3 のレベルが上昇、 それがアクチンの合成を促進する。PI3 キナーゼはアクチンと親和性を持つので、アク チンを介してフィードバック回路が形成されている、と考えられている。 勾配の認識 細胞性粘菌の1細胞は、cAMP の濃度勾配に対して方向性のある運動をつくりだすた めに前後の濃度差を検出し増幅し、その情報にもとづいて運動装置を働かせる必要があ る。2,30μmの細胞長に対して 1-5%の濃度勾配があれば、平均濃度が 10pM から 1mM までの極めて広い範囲で走化性は実現される。走化性の精度が最大値を示すのは cAMP が数 10nM のときで、レセプターの発現量とリガンドとの親和力を考慮すると、 このときひとつの細胞の細胞膜上に結合している cAMP 分子の個数は 16000 個程度で前 後の差は 100 個程度(2%の勾配)になる。1nM のとき、走化性の精度は最大値の半分 程度で、このとき、ひとつの細胞の cAMP の結合数は 300 個、前後差は10以下となる (2%の勾配)。この微小な前後差が、細胞が検出するべき走化性シグナルである(3)。こ のシグナルが細胞内で情報処理された結果、濃度の高い側で仮足伸張の頻度が上がり方 向性のある運動が実現するのだろう。 シグナル伝達系と自発的な細胞運動 誘引物質である cAMP の勾配は走化性運動を誘導する。しかし、細胞運動自体には勾 配が必要ないばかりか、細胞外部に cAMP も必要ない。そのような外部に刺激のない状 2 43 況においても、細胞は運動をしている。細胞の運動に特定の方向性はないが、仮足自身 がでたらめというわけではない。それぞれの仮足は形成の後、伸張と収縮を経て消える。 運動を継続するためにはこのプロセスが細胞の各所で繰り返される必要がある。仮足の 形態や伸張する時間などが cAMP の濃度や勾配の大きさに影響されるとしても、アクチ ン重合などによって支えられる基本的な仮足の動態は、勾配や cAMP の有無には大きく 依存しないと考えてよさそうである。さらに、誘引物質の影響のない状況において、仮 足の形成が止まることなく続いていくことは、細胞内の何かが、ある場所に、あるタイ ミングで仮足を形成することを決めていることを示唆している。特に、三量体 G 蛋白質 の遺伝子破壊株は走化性を示さないが、ランダムな運動自体には異常がないことも(4)、 細胞運動を誘引物質が誘導しているわけではないこと、また、三量体 G 蛋白質よりも下 流のシグナル伝達系が、この自発的な運動に関与していることを示唆している。細胞外 部の情報に依存しないこのような、仮足形成のための自発的なシグナルはどのようにし て生成されるのだろうか。 イノシトールリン脂質代謝反応の自発的局在形成 上述のように、誘引物質 cAMP の勾配下で濃度の高い側に局在し、アクチンの重合を 誘導して、細胞膜の伸長を促す因子としては、これまでのところ PIP3 が良く知られて いる。それでは、誘引物質である cAMP が細胞外にない状況において、PIP3 は細胞膜 上でどのように分布しているのだろうか。そこで、細胞性粘菌において、PIP3 と PTEN の膜上での分布の動態を蛍光顕微観察法によって同時に観察した(5)。細胞性粘菌は自ら cAMP を分泌することが知られているが、cAMP を産生するアデニル酸シクラーゼの働 きを抑制するためにカフェインを加えて、cAMP の合成を抑制し、細胞が自ら分泌する cAMP に反応する影響を排除してある。また、形態変化やアクチン骨格系がイノシトー ルリン脂質代謝反応に及ぼす影響を排除するために、アクチン重合阻害剤を加えた。そ の結果、細胞は球状になり運動性を失うので、複雑な形状の境界条件や境界の時間変化 の影響を取り除くことができる。図2A,B に示したように、そのような単純化した状況 においても、PIP3 は細胞膜上で自発的に局在を形成することがわかった。さらに、その 局在は時間的に定常ではなく、膜上を進行しており、進行方向はある程度の時間、維持 されることがわかった。 膜上のある位置における PIP3 と PTEN の強度のそれぞれの時間変化 I(t)に対して、 自己相関関数 C(t) = (I(t) − µ ) ⋅ (I(0) − µ ) σ2 を調べた。ただし、 µ と σ はそれぞれ蛍光強度の平均値と標準偏差である。その結果、 3 44 だいたい 200 秒程度の周期で時間変化していることが分かった(図2C)。また、PIP3 と PTEN の強度の相互相関関数 CPIP3⋅PTEN (t) = (I PIP3 (0) − µPIP3 ) ⋅ (I PTEN (t) − µPTEN ) 2 2 σ PIP3 σ PTEN を調べた。図2D に示したように、時間遅れのないとき(t=0)、相互相関関数 CPIP3⋅PTEN (t) は負の値を示していることから、PIP3 と PTEN は排他的に膜に分布していることがわ かる。さらに、相互相関関数を注意深く見ると、極小値を示すのは t=0 ではなく、t=10 秒程度であることがわかる。すなわち、PIP3 が極大値を示す時間と、PTEN が極小値 を示す時間には 10 秒程度のずれがあって、PIP3 が極大値を示してから 10 秒程度遅れ て PTEN が極小値を示す、ということを表わしている。PIP3 は PTEN の基質であるか ら順序が直感とは逆になっているように見える。このことは、PIP3 から PTEN へフィ ードバックのあることを示唆するのかもしれないが、もちろん、他の可能性も考えられ るから、これだけから結論づけられない。この相関時間のズレから、図2E のように、 縦軸に PTEN の強度、横軸に PIP3 の強度ではられる 2 次元の相空間中を考えれば、軌 道はこの相空間中を平均して時計回りにまわっていることがわかる。平均的な軌道は 2 次元相空間中にどのように描かれるのだろうか。方法の詳細はここでは割愛するが、解 析の結果、得られた平均的な軌道は、図2F に示す、三日月型の上を時計回りにまわる ものであった。相互相関関数の結果から軌道が相空間中を時計回りにまわっていること、 また、PTEN と PIP3 の強度が排他的(反比例的)であることが分かっていたので、解 析の結果には納得がいく。実際、三日月の上と下のブランチはそれぞれ反比例の関数で 良く表現できる。外部の刺激に依存することなく、膜上の PTEN や PIP3 の分布の一様 性が自発的に破れ、局在分布を作り出すメカニズムは何であろうか。 4 45 B 0:00 0:25 0:50 1:15 1:40 2:05 2:30 2:55 3:20 3:45 4:10 4:35 Time (min) A Angle (π) 00 20 PHAkt/PKB-EGFP 200 Time (s) 400 PTEN Cross-correlation 0 PIP3 150 1200 800 700 60 800 800 400 150 300 Time (s) 400 0 G 40 500 20 0s 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 PH Direction of wave propagation 1200 back 1100 1000 900 front 800 700 600 500 0 900 front (a.u.) 800 700 back 600 500 1 2 PTEN (a.u.) PHAkt/PKB(a.u.) F 900 0 Time (s) PH Akt/PKB (a.u.) -0.5 -150 PTEN(a.u.) C(t) C(t) PTEN-TMR 0 D 0.5 PTEN (a.u.) 2 0.5 -0.5 0 600 1 E Autocorrelation 1 0 10 30 C Angle (π) 2 1 400 Angle (π) 図2 イノシトールリン脂質代謝系の自己組織化現象 A PIP3 の局在パタンの時間変化 B PTEN および PIP3 の強度の時空間プロット(キモグラフ) 右が PTEN で左が PIP3 C PTEN および PIP3 の強度の自己相関関数。D PTEN および PIP3 の強度の相互相関関 数。E 相互相関関数から推定される平均軌道の回転方向。F 再構成された PTEN と PIP3 の相空間中の軌道 G PTEN と PIP3 の平均空間分布 A PtdIns(4,5)P2 PtdIns(3,4,5)P3 plasma membrane positive regulation PI3K PI P P P P PTEN positive effect P cytosol negative regulation PH domain PTEN C 30 60 40 400 300 200 100 0 Angle (π) 0 1 2 0 30 20 PTEN PTEN (molecules/µm2) T=176 s PtdIns(3,4,5)P3 B 10 100 200 Time (s) 20 20 0s 10 100 200 300 400 PtdIns(3,4,5)P3 (molecules/µm2) 図3 数理モデルによる、イノシトールリン脂質代謝系の自己組織化現象の解明 A 数理モデル に用いた反応の模式図 B 確率的なシミュレーションによって得られた時系列を、実験 と同じ方法を用いて解析した結果。C 確率的なシミュレーションによって得られた時空 間ダイナミクスのキモグラフ 5 46 自発的局在形成を数理モデルによって検証する 観察された現象を説明するために必要な反応は、いま私たちが知っている反応で十分 なのか、それともそれでは不十分なのかを確かめる手段として、既知の情報に基づいて 現象を再現する数理モデルを構築することは、有効な手段のひとつである。しかし、観 察された現象にそっくりな振る舞いを作り出す数理モデルは無数に作ることができるか もしれないから、大いに注意が必要である。ただ単に、グラフのパタンにのみ注目する のではなく、多面的に実験と数理モデルの結果を突き合わせる必要がある。ここでは、 単に進行波というパタンだけではなく、時間相関関数や位相空間中の解の持つべき軌道 などを実験データから抽出して、それを数理モデルが満たすべき拘束条件とする。一方 で、数理モデルが前提とする情報の詳細が必ずしも正しくなかったとしても、背後にあ る数理的な構造は、観察結果のエッセンスを抽出している可能性もある。その場合、数 理モデルは大いに真実に迫る働きをしている、と考えることができるだろう。 私たちは観察結果に基づいて数理モデルを構築した。私たちが直接観察したのは PIP3 と PTEN の強度である。また、PIP3 は PI3 キナーゼによって PIP2 から作り出される が、私たちの別の観察結果から PI3 キナーゼは膜上にほぼ一様に分布していることが分 かっている。そこで、細胞膜上の PIP3 と PIP2 の濃度に関する反応拡散系を考えた。 PIP3 と PIP2 の膜上での拡散に加えて、次の反応を考える(図3A)。 ⎯k⎯ → PIP2 VPTEN [ PTEN ] [ PIP3] K PTEN +[ PIP3] ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⎯⎯⎯⎯⎯⎯ → PIP2 PIP3← ⎯ [ PIP2 ] VPI3K K PI3K +[ PIP2 ] PIP2 [ PIP2] PIP2 ⎯λ⎯⎯⎯ → [PIP3] PIP3 ⎯λ⎯⎯⎯ → PIP3 観察された PTEN の強度変化は PTEN が細胞膜と細胞質を行き来していることによる。 PTEN は PIP2 への結合ドメインを持つことから、PTEN の膜への結合速度は PIP2 の 濃度に依存すると考えられる。また、上で述べたように、実験データの解析結果から、 PTEN と PIP3 の強度の間には反比例の関係があった。そこで、PIP3 は PTEN の膜へ の局在を負に調節していると仮定した。膜上の各位置において PTEN の細胞膜への結合 解離反応を次のように考える Vass [ PTEN cytosol ] K PIP3 [ PIP2 ] K PIP3 +[ PIP3] K PIP2 +[ PIP2 ] ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ → PTEN membrane PTEN cytosol ← ⎯ λPTEN [PTEN ] ここでのポイントは、PTEN の膜への結合速度は PIP2 の濃度とともに増加し、また、 PIP3 の濃度とともに減少する、としたところである。モデルでは、PTEN は PIP2 や PIP3 に比べると大きい分子で、細胞膜上の拡散はそれらにくらべると無視できるほど小 6 47 さいと仮定した。また、細胞質中の拡散は細胞膜上に比べてずっと速いので、ここでは 簡単のために、細胞質中の PTEN の濃度は空間的に一様であるとする。すると、細胞質 中の PTEN の濃度は次の式で与えられる。 [PTEN cytosol ] = [PTEN] − χ[ PTEN membrane ] ただし、[PTEN]は細胞中の全 PTEN 濃度で、[ PTEN membrane ] は細胞膜上の PTEN 濃度 の平均値で、その前の係数 χ は膜濃度を細胞質濃度に変換する係数である。この式によ って、モデルには大域結合(global coupling)の効果が導入される。細胞質は、拡散係数 の小さい細胞膜上の各位置におけるシグナル反応を結びつける、情報のハイウェイの役 割を果たしているということができるかもしれない。 この反応拡散系モデルの確率的シミュレーションを行った。その結果を図3BC に示 す。シミュレーションの結果得られた時系列に、実験データとおなじ解析を行うと、実 際の細胞と同様に三日月型の上を時計回りにまわる軌道が得られた。対応する反応拡散 方程式を調べると、PTEN や PIP3 の一様分布はウェーブ分岐によって不安定化し、数 値計算によって、実際の実験と同様の進行波やスタンディングウェーブが確かめられた。 また、パラメータによっては、一様分布は安定に存在できるが、ノイズや非一様な刺激 によって局在ドメインを形成するようないわゆる興奮系の特徴を持ち得ることが分かっ た。これ以上のイノシトールリン脂質代謝系における自己組織化反応の数理的な構造の 詳細と実験との対応については文献(6)に記述がある。 参考文献 1. Di Paolo, G., and P. De Camilli. 2006. Phosphoinositides in cell regulation and membrane dynamics. Nature. 443: 651–657. 2. Swaney, K.F., C.H. Huang, and P.N. Devreotes. 2010. Eukaryotic chemotaxis: a network of signaling pathways controls motility, directional sensing, and polarity. Annu Rev Biophys. 39: 265–289. 3. Ueda, M., and T. Shibata. 2007. Stochastic signal processing and transduction in chemotactic response of eukaryotic cells. Biophysical Journal. 93: 11–20. 4. Manahan, C.L., P.A. Iglesias, Y. Long, and P.N. Devreotes. 2004. Chemoattractant signaling in dictyostelium discoideum. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 20: 223–253. 7 48 5. Arai, Y., T. Shibata, S. Matsuoka, M.J. Sato, T. Yanagida, et al. 2010. Self-organization of the phosphatidylinositol lipids signaling system for random cell migration. Proc Natl Acad Sci U S A. 107: 12399–12404. 6. Shibata, T., M. Nishikawa, S. Matsuoka, and M. Ueda. 2012. Modeling the self-organized phosphatidylinositol lipid signaling system in chemotactic cells using quantitative image analysis. J Cell Sci. 125: 5138–5150. 7. 柴田達夫、上田昌宏「細胞における情報処理の確率性と自発的対称性の破れ」(2011) 「生命科学の新しい潮流 理論生物学」 共立出版 編集 望月敦史、p.97-115 8 49 Ill-posedness for the nonlinear Schrödinger equations in one and two space dimensions 岩渕 司 (中央大学) 小川卓克氏 (東北大学) との共同研究 (NLS) u = u2 ⌘ ✏u(0) = ⇧ ⌘ ⇣i tu + for t for x R, x Rn , Rn , ただし, n = 1, 2. 目的 : 解の初期値に対する連続依存性の破綻 既存の結果: Ginibre-Velo (1979), Y. Tsutsumi (1987), T. Kato (1989), Cazenave-Weissler (1990) i tu + u = |u|p 1u, ⇧ 1 < p ⇧ 1 + 4/(n H s(Rn) (s ⌃ 0), 2s) ならば, 時間局所解について適切性 (一意存在と初期値連続依存性). 50 ⇣u⇣H s := (1 + | · |)sF [u](·) L2 尺度不変性が成立する関数空間: p=1+ 4 2s n ⌦↵ s = 2 n 2 1 p , n 2 (p = 2). 2 u⇥(t, x) := ⇥2u(⇥2t, ⇥x), ⇣u⇥(0)⇣Ḣ sc = ⇣u(0)⇣Ḣ sc sc = ⇥ ⇤ s ⌃ 0 のとき, s ⌃ sc ならば H s(Rn) において (NLS) の時間 局所適切性が得られる. s < 0 ? • n = 2 の場合, sc = (4 次元以上では解決済.) 1. Bejenaru-Silva (2008), Kishimoto (2009) ⇧ H s(R2), s > 1 ならば (NLS) は時間局所適切. 定理 1. n = 2, s ⇧ 1 とする. 初期値の列 {⇧N } で ⇧N 時刻の列 {TN } で TN 0 in H s(R2) (N 0 (N ), ), (NLS) の解の列 {uN } で uN (0) = ⇧N を満たすものが存在し, 注意. uN ⇣uN (TN )⇣H s (N ). C([0, TN ), L2(R2)), TN は解の最大存在時刻, TN < TN . 51 ⇧ 3 ⌅ n 2 . • n = 1 の場合, sc = = 2 2 Bejenaru-Tao (2006), Kishimoto (2009) ⇧ H s(R), s ⌃ s< 注意. 2 < q ⇧ 1 ならば (NLS) は時間局所適切. 1 ならば非適切. とすると H 1+⌥(R) H 1 (R ) B2,q1(R) H 1 ⌥(R). Besov 空間: ⇣u⇣B 1 2,q := ⇣F [u]⇣L2(|⇤|⇧1) + ただし, Aj = {⇤ ⌃ ✓ ⇥ 2 j=1 j ⇣F [u]⇣ R | 2j 1 ⇧ |⇤| ⇧ 2j }. 定理 2. n = 1, s = 1, 2 < q ⇧ 初期値の列 {⇧N } で ⇧N 時刻の列 {TN } で TN . 0 in B2,q1(R) (N 0 (N ), (NLS) の解の列 {uN } で uN (0) = ⇧N を満たす列が存在し, ⇣uN (TN )⇣B 注意. s = 1 > L2(Aj ) ⇤q ⌥ 1 q 1 2,q 3 = sc . 2 (N ). ), , 52 • n = 1, 2 の違い. ⌃j : 定義関数, ⌃j (⇤) ⌅ 1 if 2j 1 ⇧ |⇤| ⇧ 2j . F [⇧] = 2( s n )j 2 ⌃j H s(Rn). (注意. ⇣⇧⇣H s は j に依存しない. ) ⇧ を初期値とする (NLS) の解 u : eit u(t) = ⇠ ⌫ ⇧⇡ i bounded in H s ◆ t i(t ⌅ ) 0 e u(⌅ )2d⌅ ⌥ (1 + |⇤|)s = ◆ ⇠ R Hs ⇧(⇤ n ⌥ 2( s = 0 u(⌅ ) 2d⌅. ⇠ ⌫ ⇡ e ⌥ ei⌅ 近似 u = e2it(⇤ )⇧( ) 2(⇤ ⌫ n )j ( s 2 2 )· 1 )· ⇧ d n )j 2 2 2j 2nj = 2( 2s 2)j ⌥ (1 + |⇤|)s = ⇥ ◆ t i(t ⌅ ) ⇡ ⇥ 2( 2s 2)j L2(|⇤|⇧2j ) n ⇤ 1 + 2(s+ 2 )j 2( 2s 2)j ⌥C = ⌃ ⌥ ( s+ n 2)j ( 2s 2)j ⌥ 2 ,2 . = C max 2 j とし発散するためには s< n 1 または s < 2 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⇣ 3 2 2=⌘ 1 ⌘ ⌘ ⌘ ✏ 1 2 n = 1, n = 2, n = 3. L2 53 ただし n = 2, s = 1 の場合, ◆ t i(t ⌅ ) 0 u(⌅ )2d⌅ e ⌥ (1 + |⇤|) 1 = H 1 L2(|⇤|⇧2j ) ⇥ 2{ 2·( 1) 2}j ⌥ {log 2j } 12 = (j ). 注意. (1) 斉次空間 Ḣ 1(R) でも非適切. |⇤| 1 L2(|⇤|⇧2j ) = (2) 熱方程式 u = u2 でも同じ結果が得られる. tu H s(R2) (s ⇧ . 1), B2,q1(R) (2 < q ⇧ ) において非適切. et 2 e t|⇤| Schrödoinger 方程式 eit 2 e it|⇤| 熱方程式 時間積分について e2it(⇤ 2i(⇤ )· 1 )· . • H s (R ) (s < 54 1) における非適切性の証明. 解の漸近展開 : u = U0 + ⌥U1 + ⌥2U2 + · · · . U0 = 0 とし, (i t + )u = u2 より ⌥: (i t + )U1 = 0 ⌥2 : (i t + )U2 = U12 ⌥k : (i t + )Uk = ✓ k1+k2=k Uk1 Uk2 {Uk [⇧]}k=1 を次で定義する. U1[⇧] := eit ⇧, Uk := ✓ i k1+k2=k ◆ t i(t ⌅ ) 0 Uk1 (⌅ )Uk2 (⌅ )d⌅ e for k ⌃ 2. ⇤ Bejenaru-Tao の方法. ⇧(⇤) 周波数 N , N 漸近展開のパラメータ ⌥ = u N C([0, 1], H 1(R)). N + ⌥⇠ 2U2⌫ + · · ⇡· u = ⌥U ⇠ ⌫ 1⇡ 0 0 (背理法) in H s(R) 注意. 初期値は H 1(R) において小さい. 時間区間は [0, 1] で固定. 1 , N 55 • 今回の方法. ⇧(⇤) N log N 周波数 N , 漸近展開のパラメータ ⌥ = u N C([0, TN ], M2,1(R)). 1 , N log N N + ⌥⇠ 2⌫U2⇡ + ⌥⇠ 3U3⌫ + · · ⇡· u = ⌥U ⇠ ⌫ 1⇡ 0 0 in H s(R) 0 注意. 初期値は H 1(R) において大きい. 時間区間は [0, TN ] で小さく, TN = N 2. • ✓ Uk [⇧] の 0 へ収束. k⌃3 H s(R) において, ⇣⇧N ⇣H s = CN sN log N Modulation 空間 M2,1(R): ⇣u⇣M2,1 := 注意. M2,1(R) 補題. L2(R) ✏ L (R). ✓ ⌦ Z 0 (N ), ⇣F [u]⇣L2([⌦,⌦+1)). ⇣f g⇣M2,1 ⇧ C0⇣f ⇣M2,1 ⇣g⇣M2,1 . M2,1(R) において, ⇣U1[⇧N ]⇣M2,1 = ⇣⇧N ⇣M2,1 = CN log N, ⇣U2[⇧N ]⇣M2,1 ⇧ ◆ t 0 ⇣U12⇣M2,1 d⌅ ⇧ C0t sup ⇣U1⇣2 M2,1 ⇧ C0 ⌅ (0,t) C 2t(N log N )2. 56 Claim. ⇣Uk [⇧]⇣M2,1 ⇧ C0k 1C k tk 1(N log N )k . (⇥) 帰納法を用いる. k ⌃ 3 に対して ⇣Uk [⇧]⇣M2,1 ⇧ C0 ⇧ C0 ✓ k1+k2=k ✓ 0 1 C0 1 log N )k1 (N ⇧ C0k 1C k (k = ⇣Uk1 ⇣M2,1 ⇣Uk2 ⇣M2,1 d⌅ k k1+k2=k ⇥ (N ◆ t 1)⌦ C0k 1C k tk 1(N k C k1 C 0 2 log N )k2 t ⌅k 1 1 k ↵ 1 C k2 ◆ t 0 ⌅ k1+k2 2d⌅ (N log N )k 0 k log N ) . t = N 2 とすると tk 1(N log N )k = N 2(k 1)(N log N )k = N k+2(log N )k ⌘ ⇣(log N )2 以上から, u = ✓ k=1 ⇣u⇣H s ⌃ ⇣U2⇣H s ⌃ =⌘ ✏N 1(log N )3 H s(R) より Uk , M2,1(R) ⇣U1⇣H s C(log N )2 CN sN ✓ k⌃3 (k = 2, に発散), (k = 3, 0 に収束). ⇣Uk ⇣M2,1 log N ✓ k⌃3 (N ). C k N k+2(log N )k 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 研究集会「PDEs and Phenomena in Miyazaki 2003」 日時: 2003 年 10 月 31 日(金)∼ 11 月 2 日(日) 会場: 宮崎大学工学部総合研究棟2階プレゼンテーション室 (D204) 案内: http://www.phys.miyazaki-u.ac.jp/math-l/shige/ppm/ppm2003.html プログラム 10 月 31 日(金) 午後の部 14:30-15:20 黒木場正城(福岡大理) 「Maximal attractor and inertial sets for Eguchi-Oki-Matsumura equation」 15:40-16:30 三沢正史(熊大理) 「定平均曲率曲面の時間発展に対する初期値境界値問題」 16:40-17:30 村川秀樹・中木達幸(九大数理) 「ある移動境界問題の特異極限を用いた数値解法」 11 月 1 日(土) 午前の部 10:00-10:50 竹内慎吾(工学院大) 「空間非一様な飽和値をもつ退化楕円型方程式の解の形状」 11:00-11:50 石毛和弘(名大多元数理) 「Neumann 条件下における semilinear heat equation の爆発問題について」 72 午後の部 13:30-14:20 石渡通徳(早大理工) 「Asymptotic behavior of some global solutions for nonlinear parabolic problems with critical Sobolev nonlinearity」 14:30-15:20 水町徹(横浜市大理) 「Instability of nonradial bound states for 2D nonlinear Schrödinger equation」 15:40-16:30 飯島健太郎(茨城大理工) 「Laplace 方程式の Cauchy 問題 および逆向き熱伝導問題の任意多点差分法を用いた数値解法」 16:40-17:30 櫻井建成(宇部高専) 「反応拡散モデルの情報処理への応用」 11 月 2 日(日) 午前の部 10:00-10:50 坂上貴之(北大理) 「極渦のある球面での渦層の運動」 11:00-11:50 長山雅晴(京大数研) 「反応拡散場での粒子運動の数理モデルについて」 12:00-12:50 大崎浩一(宇部高専) 「反応・拡散・移流方程式系に対するアトラクター」 本研究集会は、以下の科学研究費補助金(基盤 C(2):辻川、仙葉、壁谷/若手 B:矢崎) 課題番号 研究代表者 課題名 15540128 辻川 亨 15540176 仙葉 隆 15540211 壁谷喜継 15740073 矢崎成俊 の援助を受けています。 移流項を含む反応拡散方程式による集合パターンの漸近解析 単純化された走化性方程式系の爆発解の挙動と爆発点に関する研究 非線形楕円型微分方程式における大域的分岐・不完全分岐の解明 界面運動、結晶成長モデル、及び自由境界問題の数理解析 世話人: 連絡先: 辻川 亨、仙葉 隆、壁谷喜継、矢崎成俊(宮崎大学工学部) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 73 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2004 (略称:PPM2004)」 日時: 2004 年 11 月 19 日(金)∼ 11 月 21 日(日) 会場: 宮崎大学工学部総合研究棟2階プレゼンテーション室 (D204) 案内: http://www.phys.miyazaki-u.ac.jp/math-l/shige/ppm/ppm2004.html プログラム 11 月 19 日(金) 午後の部 14:30-15:20 満島 正浩(東京大学大学院・数理科学研究科) 「反応拡散方程式系に現れる時間周期解」 15:40-16:30 丸野 健一(九州大学大学院・数理学研究院) 「いろいろな物理系における非線形局在モードについて」 16:40-17:30 和田 健志(熊本大学・工学部) 「Limit problem for the Maxwell-Schrödinger system」 11 月 20 日(土) 午前の部 10:00-10:50 笠井 博則(福島大学・教育学部) 「実演!! 金平糖の実験とその生成過程のモデリングに向けて」 11:00-11:50 ・大中 幸三郎(大阪大学・工学部) 大江 貴司(岡山理科大学・総合情報学部) 「Laplace 方程式の Cauchy 問題に対する代用電荷法の適用と数値積分への応用」 74 午後の部 13:30-14:20 平岡 裕章(大阪大学大学院・基礎工学研究科) 「無限次元力学系における位相計算理論」 14:30-15:20 谷内 靖(信州大学・理学部) 「On the solvability of the Boussinesq equations with non-decaying initial data」 15:40-16:30 菱田 俊明(新潟大学・工学部) 「Lq estimates for the Stokes equations around a rotating body」 16:40-17:30 小池 茂昭(埼玉大学・理学部) 「ペロンの方法 –revisited–」 11 月 21 日(日) 午前の部 10:00-10:50 高坂 良史(室蘭工業大学・工学部) 「表面拡散流方程式による3相境界運動の定常解の線形安定性について」 11:00-11:50 井古田 亮(九州大学大学院・数理学研究院) 「不変領域を持つ反応拡散系における擾乱の伝播速度の有界性について」 12:00-12:50 梶木屋 龍治(長崎総合科学大学・工学部) 「Symmetric mountain pass lemma and sublinear elliptic equations」 本研究集会は、以下の科学研究費補助金(基盤 C(2):辻川、仙葉、壁谷/若手 B:北、矢崎) 課題番号 研究代表者 課題名 15540128 辻川 亨 15540176 仙葉 隆 15540211 壁谷喜継 16740079 北 直泰 15740073 矢崎成俊 の援助を受けています。 移流項を含む反応拡散方程式による集合パターンの漸近解析 単純化された走化性方程式系の爆発解の挙動と爆発点に関する研究 非線形楕円型微分方程式における大域的分岐・不完全分岐の解明 非線形シュレーディンガー方程式の初期値問題における解の漸近挙動 界面運動、結晶成長モデル、及び自由境界問題の数理解析 世話人: 連絡先: 辻川 亨、仙葉 隆、壁谷喜継、北 直泰、矢崎成俊(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 75 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2005 (略称:PPM2005)」 日時: 2005 年 11 月 18 日(金)∼ 11 月 19 日(土) 会場: 宮崎大学工学部総合研究棟2階プレゼンテーション室 (D204) 案内: http://www.phys.miyazaki-u.ac.jp/math-l/shige/ppm/ppm2005.html プログラム 11 月 18 日(金) 午後の部 14:30-15:20 中原 明生(日本大学) 「ペーストへの記憶の刷り込みと乾燥破壊の制御」 15:40-16:30 中根 和昭(大阪電気通信大学) 「剥離現象に対するモデリングとその数理解析」 16:40-17:30 野々村 真規子(広島大学) 「ソフトマテリアルにみられる秩序構造について」 11 月 19 日(土) 午前の部 10:00-10:50 友枝 謙二(大阪工業大学) 「吸収と拡散の相互作用による浸透領域の分離、融合、再分離現象について」 11:00-11:50 中島 主恵(東京海洋大学) 「競争係数無限大の競争系の界面の形成について」 76 午後の部 13:30-14:20 宮本 安人(北海道大学) 「2 次元円盤領域上の活性・抑制系の定常解が 不安定になるための一般的な判定法について」 14:30-15:20 小林 孝行(佐賀大学) 「Navier-Stokes-Poisson 方程式の弱解について」 15:40-16:30 宮崎 倫子(静岡大学) 「Delayed Feedback 制御による周期解の安定化問題に関する解析について」 16:40-17:30 愛木 豊彦(岐阜大学) 「バネの方程式と自由境界問題」 本研究集会は、以下の科学研究費補助金(基盤 C(2):辻川、仙葉/若手 B:北、矢崎) 課題番号 研究代表者 17540125 15540176 16740079 17740063 辻川 亨 仙葉 隆 北 直泰 矢崎成俊 課題名 反応拡散方程式の縮約系とそれに関する漸近解析 単純化された走化性方程式系の爆発解の挙動と爆発点に関する研究 非線形シュレーディンガー方程式の初期値問題における解の漸近挙動 界面運動、生物モデルの数理解析、及び泡の運動、結晶成長のモデル構築 の援助を受けています。 世話人: 連絡先: 辻川 亨、仙葉 隆、北 直泰、矢崎成俊(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 77 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2006 (略称:PPM2006)」 日時: 2006 年 11 月 17 日(金)∼ 11 月 18 日(土) 会場: 宮崎大学工学部総合研究棟 2 階プレゼンテーション室 (D204) 案内: http://www.miyazaki-u.ac.jp/˜yazaki/research/ppm/ppm2006.html プログラム 11 月 17 日(金) 午後の部 14:30-15:20 内藤 雄基(神戸大学) 「Sobolev 臨界指数放物型方程式の解の爆発」 15:40-16:30 野原 勉(武蔵工業大学) ・有本 彰雄(武蔵工業大学) 「高次摂動項を持った非線形 Schrödinger 方程式の定性的・定量的解析」 16:40-17:30 宮崎 倫子(静岡大学) 「常微分方程式の解の漸近挙動における時間遅れの影響について」 11 月 18 日(土) 午前の部 10:00-10:50 高橋 太(大阪市立大学) 「p-調和関数の特異集合の p-容量は消失する」 11:00-11:50 関口 昌由(木更津工業高等専門学校) 「三体問題の近況報告」 78 午後の部 13:30-14:20 上山 大信(明治大学) 「ある化学反応沈澱系におけるパターン形成: モデリングおよびシミュレーション」 14:30-15:20 佐藤 友彦(大阪大学) 「2 次元有界領域における平均場方程式の解の漸近的非退化性」 15:40-16:30 斎藤 宣一(富山大学) 「走化性放物型系に対する有限要素近似」 16:40-17:30 福本 康秀(九州大学) 「Kelvin-Benjamine の変分原理と渦輪の運動速度」 本研究集会は、以下の科学研究費補助金(基盤 C(2):辻川、仙葉/若手 B:大塚、北、矢崎) 課題番号 研究代表者 17540125 18540189 16740103 16740079 17740063 辻川 亨 仙葉 隆 大塚浩史 北 直泰 矢崎成俊 課題名 反応拡散方程式の縮約系とそれに関わる漸近解析 高次元領域における走化性方程式系の爆発解の挙動に関する研究 非線形偏微分方程式の双対構造と補償されたコンパクト性 非線形シュレーディンガー方程式の初期値問題における解の漸近挙動 界面運動、生物モデルの数理解析、及び泡の運動、結晶成長のモデル構築 の援助を受けています。 世話人: 連絡先: 辻川 亨、仙葉 隆、大塚浩史、北 直泰、矢崎成俊(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 79 4()W ERH 4LIRSQIRE MR 1M]E^EOM 441 ( LXXT[[[QM]E^EOMYEGNT SLXWYOEVIWIEVGLTTQTTQLXQP 7GLYFEVX 80 ' 8SLVY 8WYNMOE[E )QEMP XYNMOE[E$GGQM]E^EOMYEGNT 8)0 *%< 81 4()W ERH 4LIRSQIRE MR 1M]E^EOM 441 ( LXXT[[[QM]E^EOMYEGNTbQEXLVIWIEVGLTTQTTQLXQP £ 441 ¤ 82 ' 8SLVY 8WYNMOE[E )QEMP XYNMOE[E$GGQM]E^EOMYEGNT 8)0 *%< 83 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2009 (略称:PPM2009)」 日時: 2009 年 11 月 20 日(金)∼ 11 月 21 日(土) 会場: 宮崎大学工学部 B 棟 2 階 B209 教室(20 日) 宮崎大学工学部総合研究棟 2 階プレゼンテーション室(D204)(21 日) 案内: http://www.miyazaki-u.ac.jp/˜math/research/ppm/ppm2009/ プログラム 11 月 21 日(金) 午後の部 14:00-15:00 小野寺 有紹(東北大学) 「複素解析学的手法による Hele-Shaw 流の漸近挙動」 15:15-16:15 大塚 岳(明治大学) 「スパイラル成長の数理モデルと結晶表面の成長について」 16:30-17:30 小川 卓克(東北大学) 「Asymptotic behavier of solution of drift-diffusion system of degenerate type」 11 月 21 日(土) 午前の部 ≪ PPM2009 特別実験講座 ≫ 10:15-12:15 山口 智彦(産総研) 「渦巻く化学反応:Belousov-Zhabotinsky 反応の数理」 84 午後の部 14:00-15:00 荻原 俊子(城西大) 「多安定型反応拡散方程式におけるフロントの相互作用」 15:15-16:15 西畑 伸也(東京工業大) 「熱伝導圧縮性粘性流体の半空間上の定常解について」 16:50-18:00 四ツ谷 晶二(龍谷大) 「Cahn-Hilliard 方程式の定常解の大域的分岐構造と関連する話題」 本研究集会は、以下の科学研究費補助金(基盤 C:辻川、飯田、北、大塚、若手 B:矢崎) 課題番号 研究代表者 20540122 20540200 20540181 19540222 21740079 辻川 亨 飯田雅人 北 直泰 大塚浩史 矢崎成俊 課題名 反応拡散方程式の大域的解構造と縮約系についての研究 界面を追跡しやすい反応拡散系の構築 非線形シュレディンガー方程式の特異性解析 リュービルシステムに現れる集中現象と渦点の衝突に関する研究 移動境界の数値的追跡法、そして界面運動の数理解析に関する研究 の援助を受けています。 世話人: 連絡先: 辻川 亨、飯田雅人、北 直泰、大塚浩史、矢崎成俊(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 85 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2010(略称:PPM2010)」 協賛 科学研究費補助金・基盤研究 (S) 「非線形非平衡反応拡散系理論の確立: Mathematical Theory of Nonlinear-Non-equilibrium Reaction-Diffusion Systems (略称:NNRDS)」 日時: 2010 年 11 月 20 日(土)∼ 11 月 21 日(日) 会場: 宮崎大学工学部 B 棟 2 階 B209 教室 ポスターセッション兼休憩室 B210 教室 案内: http://www.miyazaki-u.ac.jp/˜math/ppm/ プログラム 11 月 20 日(土) 午後の部 14:00-14:55 三村 昌泰(明治大学・基盤研究 (S) 代表) 「微小重力環境でのすす燃焼のモデル支援解析」 15:15-16:10 中山まどか(東北大学) 「Marciniak によるヒドラ頭部再生モデルの単調定常解の集合の構造」 16:30-17:25 吉村 和之(NTT コミュニケーション科学基礎研究所) 「1 次元非線形格子における Discrete Breather の存在と安定性」 86 11 月 21 日(日) 午前の部 ≪ ポスターセッション(明治大学)≫ 9:00-10:30 佐合 洋彰「OV モデルによる交通流の研究」 澁谷 幸樹「バクテリアの運動」 田中 吉太郎「ひまわりの葉序形成」 増井 翼「人の避難時に生じるアーチ構造解析」 ≪ PPM2010 特別実験講座 ≫ 10:45-12:15 伊達 章(宮崎大学) 「メトロノームの同期現象 +」 午後の部 14:00-14:55 八柳 祐一(静岡大学) 「絶対温度が負となる点渦系に関する力学的考察 ∼専用計算機を用いたダイレクトシミュレーション結果,および解析的結果∼」 15:15-16:10 柳沢 卓(奈良女子大学) 「多重連結領域における定常 Navier-Stokes 方程式の境界値問題」 16:30-17:25 井口 達雄(慶応大学) 「A mathematical analysis of tsunami generation in shallow water due to seabed deformation」 本研究集会は,以下の科学研究費補助金(基盤 (S):三村;基盤 (C):辻川,飯田,北,大塚,伊達;若手 (B):矢崎)の援助を受けています. 課題番号 研究代表者 18104002 20540122 20540200 20540181 22540231 22500206 21740079 三村昌泰 辻川 亨 飯田雅人 北 直泰 大塚浩史 伊達 章 矢崎成俊 世話人: 連絡先: 課題名 非線形非平衡反応拡散系理論の確立 反応拡散方程式の大域的解構造と縮約系についての研究 界面を追跡しやすい反応拡散系の構築 非線形シュレディンガー方程式の特異性解析 平衡点渦系の平均場と点渦系の関連の探求 高次元データに対する事後確率分布構造の解析 移動境界の数値的追跡法,そして界面運動の数理解析に関する研究 辻川 亨,飯田雅人,北 直泰,大塚浩史,矢崎成俊(宮崎大学) 上山大信(明治大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 87 研究集会 「偏微分方程式と現象: PDEs and Phenomena in Miyazaki 2011 (略称:PPM2011)」 日時: 2011 年 11 月 18 日(金)∼ 11 月 19 日(土) 会場: 宮崎大学工学部 B 棟 2 階 B209 教室 案内: http://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/math/ppm/ppm2011/ プログラム 11 月 18 日(金) 午後の部 14:00-14:55 菅徹(東北大学) 「円環領域における Liouville-Gel’fand 方程式の解の分岐構造」 15:15-16:10 赤堀公史(静岡大学) 「エネルギー臨界冪を持つ非線形シュレディンガー方程式に対する 基底状態の存在性と散乱・爆発問題」 16:30-17:25 俣野博(東京大学) 「3 次元細胞電気生理学モデルの時間大域解」 11 月 19 日(土) 午前の部 ≪ PPM2011 特別実験講座 ≫ 10:15-12:15 山崎義弘(早稲田大学) 「粘着テープをはがすということ –界面運動と非線形ダイナミクス–」 注 宮交バス「橘通り 3 丁目→宮崎大学(木花キャンパス)」の土曜日の朝の時刻表: 8:21 → 8:54,8:41 → 9:18,9:11 → 9:52,9:21 → 9:54,9:41 → 10:18(遅刻!) 88 午後の部 14:00-14:55 奥田孝志(気象大学校) 「3 重臨界点を持つ反応拡散系に現れる振動パターン」 15:15-16:10 大枝和浩(早稲田大学) 「被食者のための protection zone が存在する被食者-捕食者モデルについて」 16:30-17:25 太田隆夫(京都大学) 「興奮性反応拡散系における局在ドメインのさまざまな自己推進運動」 本研究集会は,以下の科学研究費補助金(基盤 C:北,大塚,矢崎) 課題番号 研究代表者 20540181 22540231 23540150 北 直泰 大塚浩史 矢崎成俊 課題名 非線形シュレディンガー方程式の特異性解析 平衡点渦系の平均場と点渦系の関連の探求 移動境界問題の統一的な数値解法の確立 および平成 23 年度宮崎大学工学部長裁量経費 所管コード 申請代表者 13010302 飯田雅人 プロジェクト名 偏微分方程式と現象に関する研究集会, 及び応用物理学特別講義への最先端トピックスの提供 の援助を受けています. 世話人: 連絡先: 辻川 亨,飯田雅人,北 直泰,大塚浩史,矢崎成俊(宮崎大学) 辻川 亨 (Tohru Tsujikawa) 〒 889-2192 宮崎市学園木花台西 1-1 宮崎大学工学部材料物理工学科 E-mail:tujikawa@cc.miyazaki-u.ac.jp TEL:0985-58-7381 / 0985-58-7288(事務室)& FAX:0985-58-7289 研究集会 ÅÈž¼½¾ 報告集 年 月 日発行 編集: 研究集会 世話人 世話人: 辻川 亨,飯田雅人,大塚浩史,北 直泰,梅原守道,今 隆助(宮崎大学) 連絡先: 辻川 亨 〒 宮崎市学園木花台西 宮崎大学工学部工学基礎教育センター : : / (事務室) : !":
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