この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で ご確認ください。 嵐を乗り切る CEO バークレイズ、 ノキアなどの危機克服 著者:ケン・ファバロ、パーオラ・カールソン、 ゲイリー・L・ニールソン 監訳:井上 貴之 真のリーダーシップとは、危機のときにこそ発揮される。よく 向かい、克服し、逆にチャンスに変えていくべきかについて、 言われることではあるが、では、その真のリーダーシップとは 実 例を交えて解き明かすことを試 みた。そ れは、どのような どのようなものなのか。本 稿においては、企 業に訪れるであ 嵐にも立ち向かい 、新 大 陸 へ の 航 海を成 功させた船 長たち ろうさまざまな危機に対し、 リーダーたるCEO がいかに立ち にも重なる、強い意志を貫く姿であった。 (井上貴之) ど ん な 企 業 に も 遅 か れ 早 か れ 何ら か の 危 機 が 訪 れる 。 危 機 は 非 常にゆっくり進 行 するた め 、企 業 は 茹 でガエ ル の 危 機 は あらゆる形 で 襲ってくるの で 、特 効 薬となる処 方 箋 ように、自分たちが死に至りつつ あることに気づかないこと は存在しない。一つには、会社のビジネスモデルや現行業務 がある。一 方 、2011 年にタイで起きた洪 水によって、ハード に悪影響を及ぼす危機、たとえば、ライバルの画期的新技術 ディスク生 産が停 止したときのように、突 如として壊 滅 的 な や 労 働 力シフト、コスト構 造 変 化 、あるいは周 辺 他 領 域から 被害を与える危機もある。 の新しい競合の市場参入など。また、米国医療市場において そ れがどのような 危 機 で あ れ、乗り切る責 任 が 一 番 重 い 医 療 費 負 担 適 正 化 法から始まった構 造 的 変 化 のような規 制 のは最 高 経 営 責 任 者( CEO )である。CEO は原 因と経 緯を の 大 変 動に起 因する危 機もある。さらに、景 気 下 降 、特 異 な ひも解き、影響を正しく評価し、対応策を速やかに立案・実行 地 政 学 的 事 象・自 然 災 害 、突 発 的 な ス キャンダ ル の 露 見と し、必要な変化を持続させなければならない。CEO が危機と いった 社 内 の 予 期 せ ぬ 出 来 事 など、ある特 定 事 象を原 因と いう名の嵐の中で身を呈して導こうとしなければ、全社の苦 する危機もある。 しみは続き、最悪の場合には完全に消滅してしまうだろう。 これらの 危 機 は 、そ の 発 生 期 間によってもさまざまな 形 本 稿 では 、C E O に関 するブ ー ズ・アンド・カンパニ ー 独 自 を も つ 。1 9 7 0 年 代 の 日 本 自 動 車 業 界 の 台 頭 は 最 終 的 に の 調 査 を 一 部 参 考 にしな がら 、多くの C E O が 危 機 の 際 に 米 英 の 自 動 車メーカー に 大 き な 打 撃 を 与 えた が 、こうした 有 能 な 船 長 、す な わ ち 危 機 を 乗り切 るだ け で なく、そ れを 4 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 特集 ◎ CEO とリーダーシップ ケン・ファバロ (ken.favaro@booz.com) パーオラ・カールソン (per-ola.karlsson@booz.com) ゲイリー・L・ニールソン (gary.neilson@booz.com) 井上 貴之(いのうえ・たかゆき) (takayuki.inoue@booz.com) ブーズ・アンド・カンパニー ニューヨーク・ ブーズ・アンド・カンパニー ストックホル ブーズ・アンド・カンパニー シカゴ・オフィ オフィスのシニア・ヴァイス・プレジデント。 ム・オフィスのシニア・ヴァイス・プレジデン スのシニア・ヴァイス・プレジデント。オペ ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィスの プリンシパル。主たるテーマとしては、業 ブーズ・アンド・カンパニーの企業戦略と ト。 欧州・中東のクライアントに対し、組 レーティングモデルと組織変革を専門と 務変革、ITトランスフォーメーション、全社 ファイナンス分野におけるリーダー。 織、変革、リーダーシップに関するコンサ する。 組織変革、PMI、新規事業戦略支援など。 保険プラクティスおよびオペレーション ルティングを手がける。 プラクティスのコアメンバー。 強 みに変えられる船 長になるためにとる行 動につ いて考 察 事態について考え、リスクの性質と蓋然性に応じたレベルの する。そ れに際し、我 々は 、多 数 の 企 業 で 危 機を乗り切った 備えを定めながら、準備を整えることはできる。それは、天災 C E O を直 接 観 察し、この 問 題を深く理 解して いる 2 人 の 人 についても例外ではない。たとえば、1900 年以降、日本では大 物 へ のインタビューを行った。アントニ ー・ジェンキンスは、 きな被害を与えた地震が 75 回以上記録されている。もしも、 2012 年夏に発 覚した LIB OR(ロンドン銀 行間 取引金利)の 東日本大 震災に際し、東北地方のサプライヤーのネットワー 不 正 操 作 を 巡 るスキャンダ ルに 対 処 するた め 、バ ークレイ クに地震が及ぼす影響をトヨタが予測し、それに備えること ズ PLC の CEO を引き継いだ。クレイトン・M・クリステンセン が できたとしたならば、サプライチェーンの頑強 性はより確 教 授 は『 イノベ ーションのジレンマ 』 ( 翔 泳 社 、1 9 9 7 年 )で かなものであっただろう。多くの会社でも同じように、長年に 危 機 のダイナミクスを初めて図 式 化した。クリステンセン教 わたって築き上げてきて、今では当たり前のように考えている 授は、人 的 影 響を含 む 危 機 のさまざまな 局 面を、新 著『 イノ 強みが危機に対して脆弱になっているのではないだろうか。 ベ ーション・オブ・ライフ 』 (ジェー ムズ・ア ルワー ス、カレン・ 今日では、あらゆる企業がリスクを評価し、それに取り組む ディロンとの共著、翔泳社、2012 年)において探っている。 ためのプロセスを採用しており、多くの企業は、本当の意味で CEO が危機の中で企業の船長として優れた働きをするた 危機を生じる出来事に対しても、日常的に管理されているリ めには、3 つの面でリーダーシップをとらなければならない。 スクと同じようなアプローチを採用している。各種のリスク 第 一は「 予 測と準 備 」である。CEO は、危 機 の 可 能 性を予 測 に確 率と起こりうる損 失 額を与えて分析 モデルを構 築した し、顕在化した際に必要な能力を備える手段を講じておかな 後、発生の可能性と損失の可能性に応じて、それぞれのリスク ければならない。第二は「計画と対応」である。危機を生じる への準備策を計画するのである。しかし、最近起きたいくつか ような出来事が起きたとき、リーダーは適切な戦略と計画を の出来事がこのアプローチの限界を浮き彫りにした。ほとん 練らなければならない 。商 品・サ ービスを絞りこむ、大がかり どありえないような出来事が実際に起きており、それらを予測 な 業 務 改 革を実 施する、会 社 の 構 造を再 編する、合 併・買 収 しなかった、あるいは想像すらしなかったために破壊的な結果 に着手する、新しいイノベーションの波を起こす、あるいは経 が生じることもありうる。 営 陣を一 新させるなどが考えられる。最 後は「 実 行と維 持 」 さらなる限 界は、リスクモデル自体 の中に存 在しており、 で ある。C E O は対 応を実 行に移し、会 社が最 終 目 標に到 達 問題の鍵はデータの性質そのものの中にあるとクレイトン・ できるまで、絶え間なく取り組みを続けなければならない。 クリステンセンは指 摘する。「過去のデータしかないのに、 どうして未来が理解できるのか。未来を探るのは理論の役目 予測と準備 ではないか」。クリステンセンはさらに次のように述べてい る。 「 ほとんどの会社のトップは、あらゆる階層の社員から出 どの業界のどの企業にとっても、危機を乗り切るための第 される率直な意見に触れる機会がない。将来の危機に備えて 一段階は、危機を予測し、実際に危機が起きる前にその兆候 計 画を立てる際にはこれらの見 解が必 要であるにもかかわ を知る術を身につけることである。すべてを予測することは らず。データには重さがあり、組 織の中で下から上へは上が 不可能 だ が、会 社にとってとくに 衝 撃 が大 き いと 思 わ れる らず、上から下に下りようとする。こうして問題に関する情報 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 5 *本稿には、ブーズ・アンド・カンパニー シニア・ヴァイス・プレジデントのアラン・ ジェムズ、シニア・マネジャーのジョスリ ン・シンプソン、 strategy+business 誌の 寄稿編集者エドワード・H・ベイカーも参 画した。 は底のほうに沈んでしまい、上級管理職の視界や耳に入らな ビス業 界全体が、2008 ∼ 09 年の危機に続いて起きた信頼 くなる」 の失墜の中で進むべき道を模 索していた。さらに、そこにグ クリステンセンによれば、CEO がこうした制約を埋め合わ ローバリゼーションの反転、規制の強化、マクロ経済の悪化 せるには、上手な質問を投げかけることを学ぶしかない。 「現 という悪条件が加わり、どの銀行にとっても経 験したことが 状についてのデータに目を向ける代わりに、私は将来の問題 ない困難な状況だった。 を捉えるための質問に注意を払い続ける。たとえば、 『 どのラ ジェン キン ス が 14 万人の 行 員 に 向 け て ま ず はっきりさ イバル企業が自分を脅かしているのか。逆に自社はどの企業 せたのは、短 期的思考と目の前の利益 優 先 の 姿 勢( LIBOR を脅かそうとしているのだろうか』といったものだ」 スキャンダル や、証 券 化ビジネスにお ける 強 引な 課 税 回 避 このような問いかけをし、企業全体の思考を監督すること の一因)はもはや許されないということだった(バークレイ は CEO にしかできない。各部門レベルのトップたちは、会社 ズは 2013 年 2 月にストラクチャード・キャピタル・マーケッ 全体に対する長 期的な脅威について深く考えるよりも、自分 ツ 部 門 の 廃 止を 発 表した )。ジェン キンス は、70 を 超 える の 組 織 の 事 業目的に向 けて進 むことを重 視しが ち であ る。 バー クレイズのビ ジ ネス ユ ニット を 戦 略 面 から 再 検 討し、 CEO は、古い経営方 式がもはや不適切であることを認めな 「 TRANSFORM」 ( Turnaround 〔 体制の立て直し〕、Return がらも、従来のリスクの測定方法を用い、その取り組みを自 〔適正水準の業績の達成〕、Sustain Acceptable Numbers ら積極的にリードしていかなければならない。 For ward Momentum〔成長の維持〕)と呼ばれる銀行全体 の戦略を立案し、新たな方向性を示した。 計画と対応 ジェンキンスは次のように話す。 「 この 組 織は 地 殻 変 動と も言えるような経 験をした結果、耳を傾ける姿 勢ができた。 起こりうる危機を実際の脅威として認識した時こそ、計画 行員は環境が根底から変化したことと、我々がそれに対して を立 案し、第一次 対応 策を開始する時である。 警 鐘はいず 対応しなけ れば ならないことを 理 解した。もはや 短 期 的 収 れかの形で打ち鳴らされる。すなわち、この会社は起こりう 益のみを重視するわけにはいかなくなった。我々がサービス る危 機に対して脆 弱なので先を見 越して大改 革を行う必 要 を提 供するステークホルダーのことを、より幅広く考える必 があるとトップが気づくか、それとも何かの出来事がきっか 要がある。その点で、今目の前にある危機は変革を促す私に けで危機が発生し、会社がそれに対して直ちに対応しなけれ とって助けになった」 ばならないとトップが考えるかである。 また、 「謙虚な態 度でステークホルダーと接し、耳を傾け、 CEO は 時に予期 せぬ 突 然 の 危 機 へ の 対応 策 を立 て な け 明確なプランを立てなければならない。また、必ずしも自分 れば ならないことが あ る。2012 年 半 ばに LIBOR 不正 操 作 と同意 見でない相手にも進 んで話をする必要がある」。ジェ スキャンダルが発覚したとき、当時英国第 2 位の銀行、バーク ンキンスは、正しい道筋を見出すにあたって、すべてのステー レイズの会長と CEO が辞任し、アントニー・ジェンキンスが クホルダーを 参加させる必要性を強 調する。LIBOR スキャ CEO 職を引き継いだ。経営陣も行員も、マスコミ報 道 での ンダルへの対応にあたり、ジェンキンスは行員だけでなく、政 バークレイズの描かれ方に心を痛めていた。同時に金融サー 治家、メディア、消費者団体、監督機関とも話し合いをもった。 6 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 特集 ◎ CEO とリーダーシップ ほとんどの会社のトップは、 あらゆる階層の社員から出される率直な意見に触れる機会がない。 将来の危機に備えて計画を立てる際には これらの見解が必要であるにもかかわらず。 2 月の新戦略発 表の翌日、ジェンキンスはステークホルダー ラットフォームの上に立っているようなもの」と表現した。 を集めて朝食会を主催した。 当時、携帯電話業界では、アイフォンを始めとするスマート ジェンキンスい わく、非 常に大きな 危 機 の 間に大 会 社を フォン が 台 頭していた が、ノキアはこれに対 抗 する 術 が 率いるための教訓はシンプルである。それは、明確な目的と なかった。エロップのメモにはこう書かれていた。 「 我々は 説 得力のある理由づけを持ち、目的 達 成に向けて実現可能 これまでより速く、力強く、積極的に前進しなければならな で確実な計画を立案し、たゆまず着実にそれを追求すること い。社 員には 2 つの選 択 肢がある。深さ 100メートルの凍 だという。今のところそれが 功を奏しており、新戦略発 表の るように冷たい海に飛び込むか、それとも焼け死ぬかだ」。 翌日、バークレイズの株価は 9% 上昇した。 この社内メモは論議を呼んだ。ノキアをあまりに短い時間 破 壊 的 な 影 響 を 及 ぼ す出 来 事 へ の 対 応 を 計 画 するとき であまりに大きな変化へと押しやろうとしていると感じた は、CEO は次のいくつかの原則を念頭に置くべきである。 者もいたからである。しかし、その過 激さこそがポイント だった。それは、会社が何事も恐れることなく厳しい競争 1. 対応の 策 定と実 行において CEO は 唯 一 のプレイヤーで に立ち向かうという明確な意思表示だった。 あり、かつ責任 者である また、CEO は同時に、会社が未来志向であることを明確 CEO は直 面する 状 況 および 対応 の 結 果に対して 直 接 にし、過去 の活動を白紙にする一種の恩 赦を宣言 すべき 責任を負わなければならない。 である。過去の決定や措置は、その時点では妥当だったか また、あらゆる危機・局面において変革のペースを決める もしれないが、状況が変化したときはそれらも変えなけれ 責任は CEO にある。時には近道をすることや、行動・決定・ ばならない。 透明性を強要することも必要になる。最初の速やかな対応 の後、意 思決 定者は危機の長 期的な影 響に対処すること 3. CEO は説得力のある形で経営陣を再構成しなければなら になるため、事の進み方は多少緩やかになるかもしれない ない が、会社は推進力を維持すべきである。 CEO は、変革への参画機会を与え、抵抗する者を排除 しなければならない。そして、そのプロセスは、去る者を 2. 人の慣性を打破していくことが不可欠である 含 め た す べ て の 者 に 敬 意 を 払うやり方 で 計 画 さ れね ば とくに大 組 織には自己 満 足と自己保 存が 働き、変 化を ならない。ノキアの CEO 、ステファン・エロップは、経 営 嫌う性 質がある。CEO はシンプルだが説得力のあるメッ 層をほぼそのまま続投させたが、 「チャレンジャー・マイン セージを探し、状況を解き明かし、これまでの成功した方法 ドセット」と呼ばれるイニシアチブを立ち上げた。自分が ではもはやうまくいかず、ゲームの本質が変わったことを、 どれだけうまく適 応 できるかを 示 す 機 会 をエグゼクティ 社内外に示さなければならない。 ブに与えるというものである。適 応できな い 者は他 社に 2010 年にノキア・コーポレーションの CEOに就任した時、 移ったほうがよいことは明らかだった。もちろんトップマネ ステファン・エロップはある社内メモを書いている。その中 ジメントの 交 代 は 慎 重に行 わなければならな い が、目に で、彼はノキアの置かれている状況を「燃えさかる石油プ 見える変化が、状況の深刻さに対する社員の意 識を劇 的 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 7 に高めることもある。 織である。このような特命組織型の取り組みにより、変革の 内容とスピードに併せた形で組織を再構築したのである。 4. 少人数の上級意思決定者のチームを選任し、対応をリード ジェンキンスは 組 織 の 変 革につ い て 次 のように話して い させることが肝要となる る。 「 つまり、今やっていることにい つも納 得しな いことだ。 逆説的ではあるが、計画した変革の重要性が高いほど、 次に目 指 すことは 何 か。物 事には つ ねに次 の 段 階 が ある。 素早く実行する必要がある。少人 数のトップリーダーで構 すなわち、つねに挑 戦し、決して満 足しない 組 織をつくるこ 成されるチームのほうが大勢のグループより敏捷に作戦行 とだ」 動を取ることが可能である。 文化の変革 実行と維持 危機に対応して大企業の文化を本当の意味で変革すること は、組織の再設計以上に大変かもしれないが、それでもなお 危 機 へ の 対 処として 変 革を成し遂 げるためには、組 織 構 文化の変革は重要である。 造と文 化 のレベ ルにお いて、変 革を受け入 れられる素 地が 売 上 の 低 迷と資 金 繰りの 悪 化に直 面したある大 手自動 車 整っていることが必須であり、その確認と準備を進めること メーカーの場合、経営トップは新戦略と新経営モデルの両方 もまた、CEO の責任である。それらが不十分なために、変革 を打ち出したところで、文化変革の必要性に直面した。テン を成し遂げられず、問題が未解決のまま、危機を先送りする ポが遅く、官 僚 的 な 企 業 文 化であり、CEO は、行 動 の 変 革 こととなる企業が非常に多くなっているのが現実である。 を通じて文 化 改 革を推し進め、スピード、進 んでリスクを負 う姿 勢、説 明 責 任 の 強 化 を 文 化として 定 着 さ せ て いった。 組織の再設計 CEO は行動の変革を促すため、月単位、年単位ではなく、日 多くの 場 合、危 機 へ の 対 応 は、焦 点を絞り迅 速に動 ける 単位、週単位で決定を下すよう経営陣に要求することからス よう戦 略との 整 合 性 の 高 い 組 織 構 造 へ のシフトを必 要とす タートした。彼らは変 革プログラムを発 表 せず、ただ新しい る。新しい 組 織は、たとえ長 年 のコミュニケーションまたは 行動の仕方を自分たちで実践し、さらに、組織の垣根を越え 統 制 の パターンに反 するとしても、社 員 が社 内 の 境 界を超 て、あらゆる層 の 社 員と肩ひじを張らずに交 流するようにし えて十分に協力できるような構造でなければならない。 た。その結果、会社がどのように動いているのかが以前より こうした 再 設 計 の 一 例 が、訪 問 看 護 サ ービスを行う米 国 ずっとはっきり見えるようになり、会社はこのプロセスを通じ のアメディシス社である。アメディシスは、旧 来 の 保 険 会 社 て生まれた提案を素早く確実に実践していった。 頼 み のビジネ スモ デ ル が 行 き 詰 まり、変 革 を 推し進 め た。 アントニー・ジェンキンスはバークレイズで「 go-to bank 保 険 支 払 いではなく、成 果 報 酬 型 の 新しいアプローチを試 (選ばれる銀行)」というビジョンを考案し、TRANSFORM 験的に実施するため、アメディシスの CEO のビル・ボーンは プログラムで そ れを実 行に移した。 「リーダ ーシップが 文 化 「海賊船」を立ち上げた。海賊船は、顧客向けにより幅広い を牽 引し、文 化が組 織 の 成 果を牽 引 する。組 織は人が何を ケアを試供するために設けられた、母船から切り離された組 言うかではなく、人がどう行動するかを見る。だから、自分が 8 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 特集 ◎ CEO とリーダーシップ 危機の中で会社を正しく導くCEOにとって、 それに成功したときこそが栄光の瞬間となるだろう。 真 剣に粘り強く取り組まな い 限り実 行 はできな い。自 分 が 正しいと信ずることを実行し、自分のプランについて外野が とやかく言う声に惑 わされな いことだ 」。ジェンキンスはこ ( "Ca pta i ns i n D i s r u pti o n, " by Ken Fava ro, Per-Ol a Karlsson, and Gar y L. Neilson, strategy+business, Issue71 Summer 2013.) う話している。 栄光の瞬間 大 不 況 に よって 、事 実 上 、全 世 界 の す べ て の 企 業 の C E O が 、深 刻 な 影 響 を も たらす 危 機 の 苦 み を 味 わうこと になった 。困 難 を 上 手に切り抜 け 、会 社 を そ れまで 以 上に 強くした C E O も い れば 、な んとか 乗り切っただけ の C E O も いる。また 、傷 口 を 広 げて いくの を 傍 観して いるだけ の CEOもいた。 危 機 は 必 ず 訪 れるが、そ れは 同 時 にチャンスで も ある。 大きな 危 機 の 中を生き抜 い た 企 業 はますます 強 さを増し、 次 の 危 機を予 測してそ れに備える能 力が高まっているはず である。クレイトン・クリステンセンが指摘するように、その ような考え方をすることは難しい。リーダーはつねに自己満 足に誘惑されるものだからである。クリステンセンは次のよ うに 述 べ て い る。 「 私 を 含 め て ほ ぼ 全 員 が 、あ るい は そ の 後継者が的を射た問いかけをすることをやめてしまう。たと えばインテルの前 CEO アンディ・グローブは危機の概念を じつによく捉えていた。彼の有名な言葉『 偏執狂だけが生き 延 びる 』 は 、危 機に対してどう予 測し対 応 するかにつ い て 述べた言葉だ」 危機の中で会社を正しく導く CEO にとって、それに成功し たときこそが栄 光 の 瞬 間となるだろう。もしあなたが CEO なら、それは危 機がこっそり与えてくれたチャンスなのであ る。あなたの会社に次に起きる危機は、あなたがリーダーと してどう評価され、記憶されるかを決定する出来事になるか もしれない。 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 2 4 2 0 1 3 S u m m e r 9
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