近赤外分光法および Aquaphotomics を用いた乳牛の

近赤外分光法および Aquaphotomics を用いた乳牛の発情診断
竹村豪 1、G. バザール 1、生田健太郎 2、山口悦司 2、*R. ツェンコヴァ 1
1
神戸大学農学研究科、2 兵庫県立農林水産技術総合センター
Cow’s estrus diagnostics by Near Infrared Spectroscopy and Aquaphotomics
Go Takemura1, G. Bazar1, Kentarou Ikuta2 and Etsuji Yamaguchi2, *R. Tsenkova1
1
Kobe University and 2Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture, Forestry and Fisheries,
E-mail: rtsen@kobe-u.ac.jp
1.目的
変動が大きく、牛 1 の午後の( Pre ) - ( Post )を除い
今日、乳牛の繁殖成績は低下し続けており、酪農業で
て全て有意な相関が得られ、( E ) - ( Pre )、( E ) -
損害を生んでいる[1]。繁殖には発情診断が重要である
( Post )では常に 1100-1800 nm よりも高い相関が得ら
が、酪農業の経営体系の制限などにより診断が困難に
れた( Figure2-b )。なお、牛 1 は発情予定期間の直前
なっている[1]。また、今日利用されている発情診断手
に乳房炎であると診断されており、他個体と結果が異
法は環境の影響を大きく受けたり時間や費用がかかっ
なったことの原因の一つであると考えられる。
てしまう[1]。従って、本研究では新たな発情診断手法
4. 結論
として迅速、簡便な近赤外分光法と、近年 Tsenkova に
乳牛は発情時に生乳や血清において特に水の第一倍音
よって提唱された Aquaphotomics とよばれる概念に着
領域で特異的なスペクトルパターンを示すことが分か
目した[2]。Aquaphotomics とは、生体内の分子の変化
り、近赤外分光法および Aquaphotomics による乳牛の
と水分子との相互作用を観察するものであり、多水系
発情診断の可能性が示された。
への応用が可能である。先行研究としてジャイアント
診断の可能性を検討した[3]。
2.方法
供試個体にはホルモン製剤によって発情同期した淡路
農業技術センターのホルスタイン牛 3 頭を用いた。試
0
Subtracted spectra (-)
どが挙げられる。本研究では乳牛の体液を用いた発情
料は生乳と血清であり、生乳は発情予定期間を中間に0.6
0.4
0.6
含む 31 日間毎日、午前と午後に合乳を採取した。
血清0.2
0.4
-0.4
-0.8
1300
-0.4
-0.6
により光路長 1 mm で 400-2500 nm の近赤外スペクト
-0.4
ルを測定した。牛乳と血清はそれぞれ 40-0.6℃、30 ℃で 1300
-0.8
-0.8
1300
1 試料につきそれぞれ 3 本、6 本のスペクトルを得た。
1400
主に 1100-1800 nm と 1300-1600 nm を用い、スペクト
ルを発情前( Pre )、発情( E )、発情後( Post )の組に
1
分けた。解析は個体毎に、さらに午前と午後に分けて
0.8
1
0.6
行った。Pre、E、Post の組に含まれるスペクトルを平
0.8
0.4
0.6
0.2
均し、組毎に平滑化と 2 次微分を適用した。その後、
0.4
1600
1400
1500 (E)-(Pre) 1600
Wavelength
(nm)
(E)-(Post)
(E)-(Pre)
0
-0.2
-0.2
1500
b
-0.2
に採取した。次に、近赤外分光器 XDS ( Metrohm 社 -0.4
)
1400
0.06
0.03
0
0.6
-0.03
0.4
-0.06
0.2
1300
0
0.2
も同様に発情予定期間を中間に含む 8 日間毎日、午前
0
a
0.4
パンダの尿を用いた Aquaphotomics による発情診断な
(E)-(Pre)
(E)-(Post)
(E)-(Post)
(Pre)-(Post)
Figure 1. Examples
of subtracted
spectra.
-0.8
(Pre)-(Post)
1300
1400
1500
1600
-0.6
(Pre)-(Post)
(a: Cow2 am
milk, b: Cow2 serum). E: Estrus, Pre: Pre-estrus, Post:
1400
1500
1600
Post-estrus.
1600
1500
1
0.8
10.6
0.80.4
0.2
0.6 0
0.4
0.2
0
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
a
(E)-(Pre)
b
(E)-(Pre)
(E)-(Pre)
(E)-(Post)
(E)-(Post)
(Pre)-(Post)
0.2 Post ) - ( Post )
( E ) - ( Post )、( E ) - ( Post )、(
(E)-(Post)
(Pre)-(Post)
Figure 2. Absolute
values of
R between milk and serum.
の 3 種類の差スペクトルを算出した。また、組毎に生
(Pre)-(Post)
( a: 1100-1800
nm, b: 1300-1600 nm ). Rs are significant
乳と血清の差スペクトルの相関係数 R を計算し、t 検
except for Cow1_pm ( Pre ) - ( Post ) in b.
定により有意水準 1 %で R の有意性を検定した。
参考文献
3. 結果と考察
1) M. Saint-Dizier and S. Chastant-Maillard, Reprod Dom
生乳、血清共に牛 1 の午前を除き、E と Pre、E と Post
Anim 47, 1056-1061 (2012)
とのスペクトルの間に大きな差が見られ、Pre と Post
2) R. Tsenkova, J. Near Ifrared Spectrosc. 17, 303-314
の差は小さかった( 例: Figure 1 )。また、生乳と血清
(2009)
の差スペクトルの間には、1100-1800 nm の全ての組で
3) K. Kinoshita, M. Miyazaki, H. Morita, M. Vassileva, C.
有意な相関が得られた( Figure2-a )。さらに水の第一倍
Tang, D. Li, O. Ishikawa, H. Kusunoki and R. Tsenkova,
音領域である 1300-1600 nm の範囲ではスペクトルの
Sci. rep. 2, 856; DOI:10.1038/srep00856 (2012)
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