日本バイオロギング研究会会報 日本バイオロギング研究会会報 No. 98 発行日 2014 年 9 月 26 日 発行所 日本バイオロギング研究会(会長 荒井修亮) 発行人 三谷曜子 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 〒040-0051 北海道函館市弁天町 20 番 5 号 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーション 函館臨海実験所(生態系変動解析分野) (函館市国際水産・海洋総合研究センター内 219 号室) tel: 0138-85-6558 fax: 0138-85-6625 E-mail biolog@bre.soc.i.kyoto-u.ac.jp 会費納入先:みずほ銀行出町支店 日本バイオロギング研究会 普通口座 2464557 もくじ 研究室紹介 同志社大学生命医科学部 医情報学科 生体情報研究 飛龍 志津子 2 野外調査報告 ウミガラスですか?いえハシブトガラスです。すいません。 竹田 努(宇都宮大学農学部機能形態) 3 学会報告 菊地デイル万次郎(総合研究大学院大学) 4 お知らせ 「ジュゴンの上手なつかまえ方」市川光太郎著 岩波書店 4 第 10 回バイオロギング研究会シンポジウム@函館 5 新着情報 『頭に衛星発信器を装着し,放獣した後のトド』 -1- (撮影:三谷曜子) 研究室紹介 同志社大学生命医科学部 医情報学科 生体情報研究室 飛龍志津子 私たちの研究室では,超音波を使ってセンシングをす る“コウモリ”を観測対象として,彼らのセンシング行動の 研究をしています.元来,コウモリの研究は,ヒトにも通ず る聴覚機構を解明する優れたモデル動物として,神経科 学分野を中心に発展してきました.しかし,コウモリの超 音波センシング行動には,工学分野にも大いに役立つ, ユニークな工夫や設計思想(こう書くと,すでにコウモリが “装置”のようですが)が秘められています.そこで私たち は,工学を基軸に,コウモリの行動を高度に測り,効率的 なセンシングに必要な要素は何か,ということをコウモリか ら学びたいと考えています. コウモリは飛行しながら超音波を出します.そこで計測 方法としては,コウモリに小型のテレメトリマイクロホンを搭 載し,実験室内で様々な課題を行わせて,コウモリが出 す超音波(パルス)や,またコウモリに届くエコーを計測し ています.また室内実験では見られないような,動物本 来のダイナミックなパフォーマンスを調べるには,やはり野 外での野生コウモリを対象とした実験も必要です.大規 模なマイクロホンアレイを野外に設置することで,野生コウ モリの飛行軌跡や,また彼らが出す超音波の方向計測 から,獲物を探索する際のコウモリの“視線”の動きもわ かるようになってきました(by 藤岡慧明助手).最近では, これらの行動データに対して数理モデルを用いた分析を 行い,空間センシングを行う際の彼らの“意思決定のプロ セス”の解明にも取り組んでいます(by 合原一究研究員). さらに,工学応用に向けた小さな一歩として,コウモリアル ゴリズムを搭載した自立走行車による工学的検証も始め たところです(by D2 山田恭史) バイオロギング研究会に参加させていただいてまだ日 も浅い同志社チームですが,「動物の行動計測から,彼 らの意思を知りたい!」という同じ思いで,バイオロギング 研究会の皆さんが様々な動物に対してとても精力的に研 究を進めておられることを知り,自分達の居場所をやっと 見つけたような気持ちでいます. 現在,総勢20名を超える大所帯の研究室ですが,私 自身は昨年の11月に第2子を出産し,現在育児休暇を 頂いております(このニュースレターが出るころには,職場 に復帰しています).指導教員が不在という状況で,大学 内で飼育しているコウモリの世話から,そして後輩のお世 話までを,この1年間,研究室のみんなが本当によく切り 盛りしてくれました.感謝の気持ちでいっぱいです. ぜひ,かわいらしいコウモリを見に,同志社にいらしてく ださい.お待ちしています! Battery Microphone 受信装置(耳) 送信装置(口) 目(退化) 10 mm pulse echoes コウモリに搭載可能な小型テレメトリマイクロホン (上)と,計測した音声の例(下).写真,音声とも に対象はアブラコウモリ. 15m 22m microphone capture 5 long IPI 0 bat track sonar sounds -5 20 -5 研究室の HP http://www1.doshisha.ac.jp/~bioinfo/index.html Y 15 0 Z X 10 5 [m] 5 10 15 0 大規模マイクロホンアレイ(上)を用いて計測した, コウモリの飛行軌跡(下). -2- 野外調査報告 ウミガラスですか?いえハシブトガラスです。すいません。 竹田 努(宇都宮大学農学部機能形態) カラスの研究者は「日曜研究者」や「夏休みの自由研究の 小学生」を含めると歴史的にも相当いるのですが、研究成果 は意外なほど蓄積されていません。特に日本人にはありきたり に見えるハシブトガラスなどは、世界的にみるとアジアのごく一 部にいるだけの希少な種にも関わらず、「都会のカラス」という 別称がつく程度にしか認識されていませんでした。そういう私も パートタイマー研究員で、安月給にしかめっ面をする妻を尻目 にカラスを追いかけています。 私は元々人獣共通感染症などのウイルス学者ですので、カ ラスには長らくお世話になっておりました。1999 年北米東部で 大流行し始めたウエストナイルウイルスの感染マップを作成す る際もアメリカガラスの死体からウイルスを分離して調査を遂 行しました。カラスはその知能の高さからしばしば「空飛ぶ猿」 と呼ばれることがあるそうなのですが、感染症を研究していた 私からするとあれは「空飛ぶドブネズミ」。スカベンジャーとして の役割を果たしながら、ヒトの生活を利用しているスズメ目です から、何を持ち込んでくるのか冷や冷やします。鳥インフルエン ザはもとより、口蹄疫など私たちの生活の脅威になりうるので はないかと考えています。そこで私たちは 2011 年から今に至 るまで、GPS データロガー(i-gotU GT-120)を使って追跡し続け ています。 一方の飯田市は日本アルプスに挟まれた谷あいの地域になり ます。動きが地理的に制限される場所としてその行動の違い を見出そうとしています。カラスは地理的な造形を記憶するよ うで、中央アルプスの峰を往路復路とも同じコースで越えて、 谷から谷へと移動している様子が今のところ観察されています。 私たちのほかの研究でも一度覚えたことを 1 年以上完璧に覚 えているという結果が出ていますが、そこにおいしくて安全な餌 が絡めば、忘れるわけはないのでしょう。 図 2. 関東平野のハシブトガラス 図 3. 飯田のハシブトガラス 図 1. アメリカガラスからのウイルス分離 ハシブトガラスをどのように再捕獲してロガーを回収している のですかと必ず聞かれますが、私には正直、本当のところはわ かりません。私たちは捕獲罠として箱罠(メールボックストラッ プ)を使っています。罠の中にはオトリのカラスと豪華な餌(レス トランなどの生ごみ)が入っています。そして一度捕獲されたカ ラスは、必要以上に記憶力が在るが故か、その箱罠を「餌場」 と認識してしまうようなのです。散々ヒトに触られて、袋に入れ られたり、採血されたりするにも関わらず、少なくとも 6 割は再 捕獲されるのです。野生動物の意地はないのでしょうか。 私たちはこのような追跡を、ホームの栃木県真岡市だけで なく長野県飯田市でも行っています。栃木県真岡市周辺は関 東平野の北辺にあたる場所で、南側に広く平野が広がります。 -3- では、地理的に特徴がある場所として海沿いはどうなのでし ょうか。海のカラスはどのように動くのか?これが今の私たちの 研究テーマとなっています。沿岸地域は海鳥が多く、その餌 は競合します。また、群れている海鳥の鳴き声はカラスが遠 方のカラスに合図を出す際に発する声をマスキングしてしまう はずです。悪条件の環境にもかかわらず、それは私が学生時 代に過ごした函館の街でもイワシの頭を咥えて飛んでいました。 では、どんな工夫をしているのか。現在、東京大学大気海洋 研究所の佐藤克文教授に絶大なるご協力をいただいて共同 作業の中、岩手県大槌町でカラスの捕獲を試みています。な かなかうまくいかないのですが。 ところで、私たちの研究室が主に主宰して、20014 年 11 月 1 日(土曜)10 時より宇都宮大学峯キャンパス大学会館二階で カラスシンポジウムを開催します。私は、世話人兼企画担当 兼要旨集編集などなど色々担当している発起人です。参加 費は基本無料です(懇親会が千円です)。お時間がありました らお越しください。このシンポジウムに参加するとカラス研究の すべてをご紹介できると思いますので、カラスのことを知りたい 方は是非ご参加ください。 シンポジウム HP http://agri.mine.utsunomiya-u.ac.jp/about/crowsympo/index.h tm 図 4. 佐藤教授のご尽力により大槌町におけるカラス捕獲罠建設 学会報告 26th International Ornithological Congress(国際鳥学会) 参加報告 菊地デイル万次郎(総合研究大学院大学) 4 年に1度開催される鳥研究者のための国際学会 26th International Ornithological Congress(IOC)が東京・立教 大学で開催されました(8月18日~8月24日)。IOC を一 言で表現するなら、“ドデカイ鳥の学会”でした(※鳥がドデ カイわけではありません)。学会の要旨集が898ページに 達すると言えば、規模の大きさが伝わるでしょうか。研究分 野も、生態学、生理学、形態学・・、古生物学まで幅広いう えに、世界中の鳥類を対象としていたため、濃厚な学会に 感じました。 規模の大きな国際学会は、全体を見通せないことに難し さを感じますが、その反面、多くのビッグネームの話を直接 聞ける点は魅力です。IOC も同様に、Julia Clarke、Kyle Elliott や Daniel Ksepka の発表を聞けたことに喜びを感じま した。彼ら(他のビッグネームを含め)の共通点として、エン ターテイナーだと思いました。研究内容だけではなく発表そ のものが鮮やかで、迫力を感じました。 IOC 全体を通して感じたことは、鳥類の研究にバイオロギ ングが一般的な手法として定着していることでした。特にジ オロケータや GPS を使った発表は多かったように思います。 会場に出展している業者も次々にロガーの新製品を開発し ているようで、小型化、長時間記録化や低価格化が進ん でいる印象を受けました。 また、IOC に先立って、北大の綿貫豊教授とテキサス大 の Julia Clarke 教授のコラボレーションで、ワークショップ(8 月16-17日)も函館で開催されました。化石、系統進化、 形態、運動といった多岐にわたる分野から、海鳥・水鳥の 水中空中での形態的・行動的適応を探る会でした。函館 の大沼プリンスホテルで、研究成果やアイディアを発表し、 親密な議論をすることができました。 お知らせ 「ジュゴンの上手なつかまえ方」市川光太郎著 岩波書店 市川光太郎(京都大学) これまでのジュゴン鳴音研究を一般向けにまとめた書籍を 8 月末に出すことができました。 タイ国、オーストラリア、スーダンとジュゴンを求めて訪れた 国々におけるフィールド滞在記を中心に、鳴音についてわかっ ていることはほぼ全て記載してあります。昨今話題の沖縄のジ ュゴンについても調査結果を紹介しました。 各章のタイトルは次の通りです。 1 人魚のハナウタ!? 2 鳴き声を聴きに行く!――タイ編 3 ジュゴンに飛び乗る!――オーストラリア編 -4- 4 修業を終えて,アフリカへ!――スーダン編 5 ジュゴンの上手な守り方 価格は税抜 1300 円。著者割だと 1000 円です。岩波書店の Web ページでは「立ち読み」もできます。 もし気が向かれましたらお手にとってご一読いただけると幸 甚に存じます。 第 10 回バイオロギング研究会シンポジウム@函館 ・懇親会 会場の変更 10/10 (金)のシンポジウム懇親会の会場が,函館ビヤホール から「はこだてビール」に変更になりました.参加予定の方はお 間違えのないよう,よろしくお願いいたします(図 1,4 参照). ・非会員の参加費無料 以前により周知しておりますが,非会員の方の参加費が無 料となりました.皆様お誘い合わせの上,是非ご参加くださ い. また,シンポジウムに際しての会場案内図などを以下に掲載し ましたので,ご参照ください. 図 2. シンポジウム会場入り口 図 1. 函館市内略図 図 3. 会場内 -5- 新着情報 図 4. 懇親会会場周辺図 編集後記 秋の空は変わりやすいと古くから言われていますが,今秋の 北海道はまさに変わりやすいグズグズした天気が続きました. 札幌などを中心に局地的な大雨が降った日は,石狩川や豊 平川が溢れかけ,多くの方が避難する事態にまでなりました. 後々調べてみれば,数 10 年に 1 度あるかどうかの降水量だっ たそうで,偶然別の河川の調査に手伝いに出ていた自分も 「濁流がこないか」と内心ビクビクしていました.調査地がどこで あれ,天気を味方につけるかどうかのウェイトはかなり大きいと 改めて思いました.安全あっての研究ですので,こうしたことに は常に気をつけねばなりません.北海道ですとその前にヒグマ やマムシのご機嫌も伺わないといけませんが… 9 月上旬から一転して,最近は過ごしやすい秋晴れがつづ いており,ようやく食欲の秋やスポーツの秋を満喫する日々を 迎えています.北大水産学部のキャンパスでも,バーベキュ ーやソフトボール大会などが催され,我々の研究室も積極的 に楽しんでいます.普段それぞれのフィールドに出てしまうと研 究室のメンバーで集まれることも少ないので,こうして食事やス ポーツなどに皆で臨める機会は大切にしています.ちなみに 来週も朝から試合です!M 谷先生の強打に期待!【MT】 ゼニガタアザラシの調査が一段落し,今度は練習船うしお 丸に乗って道東,知床半島へ。沿岸実習を履修している学部 3 年生 5 名,研究室の学生 5 名とともに目視調査や CTD 観 測を行いました.この時期の函館〜 道東〜 知床の沿岸域にはネ ズミイルカ,カマイルカ,イシイルカ,コビレゴンドウ,ツチクジラ, ミンククジラ,ザトウクジラ,シャチ,マッコウクジラがいます.今 回の調査は比較的天候も良く,コビレゴンドウ以外は見ることが できました.帰る途中が大荒れの天気で,これは目視も無理 だ,と中止していたところ,「さっきゴンドウがいたぞ」と,ブリッジ の船員さんから・・・.あー,見ていればこの時期の鯨種コンプ リートだったのに・・・(涙).さて,表紙の写真は衛星発信器を 頭に着けたトドです.トドは漢字で「海馬」.そう,天高く馬肥ゆ る秋,ということで,食べ物のおいしい秋ですね.北海道はサ ケやスルメイカ,ホッケなどの美味しい季節です.シンポジウム で函館に来られた際は,ぜひ堪能してください.それではシン ポジウムでお会いしましょう! 【YM】 -6- S・K 会費納入のお願い(お早目の納入を!) ■会費の納入状況は、お届けした封筒に印刷されて います。振込先は、本会報の表紙をご覧ください。正会 員5000円、学生会員(ポスドク含む)1000円です。 ■住所・所属変更される会員の方はお早めに事務局 メール:biolog@bre.soc.i.kyoto-u.ac.jp までお知らせく ださい。
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