大阪市立科学館研究報告 24, 97 - 98 (2014) プラネタリウム投影プログラム 「宇宙のトップスター―太陽の 100 万倍明るい星―」制作報告 江 越 航 * 概 要 当館では 2013 年 9 月 から 11 月 にかけて、「宇 宙のトップスター―太陽 の 100 万倍明るい星―」という タイトルでプラネタリウム番 組 を投 影 した。この番 組 は、宇 宙 に存 在 する想 像 を絶 する明 るさの星 を紹 介 するもので、巨 大 分 子 雲 の中 で形 成 された大 質 量 星 を扱 った内 容 である 。本 稿 では番 組 制 作 に当 たっ てのコンセプト、製 作 した番 組 の内 容 について報告する。 1.はじめに 夜 空 に輝 く多 くの星 の正 体 は、実 は太 陽 と同 じもの である。太 陽の正 体 は熱 く燃 えさかるガスの塊 で、その 個ぶんものエネルギーを放 つ星がある。それは巨 大 分 子雲の中で形成された大質量星である。 大 質 量 星 は雲 に埋 もれていること、寿 命 が短 いこと 表面の温度は 6000 度にもなる。しかしこの太 陽自体も、 から、観 測 が 難 しい。 しかし見 えなくても 、非 常 に 明 る 宇宙ではありふれた星にすぎない。 い星は確かに存在 している。大 質 量星 は星と星との間 最近の研究によれば、宇 宙 には太 陽の 100 万倍も である星 間 空 間 に膨 大な影 響を与え、見 えないものを 明 るい星 が存 在 することが分 かってきた。こうした不 思 見 る最 先 端 の天 文 学 でも精 力 的 に研 究 されている分 議 な星 を紹 介 しつつ、その発 見 に至 る最 新 の天 文 学 野 である。 の概 念を紹 介 することを目 的 に、今 回 のプラネタリウム 番組を制作した。 以 下 において番 組 制 作 に当 たってのコンセプト、お 夜 空 には直 接 は見えなくても、宇 宙 の成り立 ちに大 きな影 響 を及 ぼす星 があるということを、番 組 を通 して 伝えることとする。 よび制作した番組の内 容について報 告する。 3.番組の構成 2.番組コンセプト 夜 空 には いろいろな明 るさ の 星 があ る 。星 の 明 るさ が違う原因として、第 一に距 離の違 いがあげられる。近 くにある星は明るく見え、遠くにある星は暗く見える。 しかしながら、遠 くにあるのに明 るく見 える星 というも 番 組 の構 成 は、次 のように主 に 5つのパートに分 け て作成 した。以下に、各パートの内容を示す。 なお「夏 の大 三 角 」および「トップスター」のパートの プログラミングは、飯山学芸員に依頼した。 ○イントロ のもある。これはつまり、夜 空 には同 じように見 えても、 宇宙には太陽の 100 万倍もの明るい星があることを 強烈に輝く星が存 在 するということである。例えば、はく 紹 介 するにあたり、まず比 較 対 象 として太 陽 がどれほ ちょう座のデネブは1等 星 と明 るい星 だが、距 離はおよ ど明るい星か紹介する。 そ 1500 光 年 で、他の星に比 べて遙かに遠くにある。デ 地球から太陽に向かう全天周動画の後、 ネブは太 陽 の6万 倍 もの明 るさで輝 いていて、星 の中 ESA/Hubble のイメージ動画による太陽のクローズアッ でも最大級に明るい星 である。 プで演出する。 でも、中にはもっととてつもなく明るく、太 陽 の 100 万 さらに太 陽 観 測 衛 星 「ひので」が観 測 した黒 点 周 囲 の噴 出 現 象 、巨 大 なフレア、X線 望 遠 鏡 による太 陽 全 * 大 阪 市 立 科 学 館 企 画 広 報 グループ e-mail:egoshi@sci-museum.jp 面 像 を 出 して、実 際 の 太 陽 がいか に 活 発 に 活 動 して いるかを紹介する。 江越 航 ○夏の大三角 投 影 の時 期 として、夏 の大 三 角 の星 たちがよく見 え ピストル星(同 160 万倍)、はくちょう座 OB2#12(同 190 万倍)、ηカリーナ(同 500 万倍)などか見つかってい ることから、これらの星 の間 を移 動 しながら、実 際 の星 る。 の明るさを比較する。 ○トップスター 近くで見た太陽は巨 大 で明 るい星だったが、地球か ら見ると角度にして 0.5 度 程 度の大きさになる。さらに 遠ざかって、1光 年 くらい離 れると、他 の星 と変 わらなく なってしまう。 次 に 夏 の 大 三 角 の 星 の一 つ、ベガに接 近 する。 ベ 太陽の 100 万 倍も明るい星とは、いったいどのような ものなのか、実際の姿に迫ってみる。 ピストル星、はくちょう座 OB2#12、ηカリーナの実際 の写真を紹 介し、これらが皆 、星 雲に覆われていること を説明する。 ガまでの距離は 25 光 年 だが、地 球-太 陽 間 の距離で そして、η カリーナ 星 雲 を 撮 影 した 映 像 か ら、宇 宙 ある1au だけ離れてベガを見 ると、太 陽より大きく見え、 にはこうした星 雲 と呼 ばれる もの が存 在 していることを 太陽に比べ明るい星であることが分かる。 示す。 次 にデネブに接 近 する。デ ネブは 1等 星 であるが、 その後、星 雲の中に飛び込 んで、雲に隠されている 星までの距離はおよそ 1500 光 年もある。こんなに離れ 明 る い星 が 存 在 し、 自 分 自 身 を 吹 き 飛 ばすほど の 勢 ていても明るく見えると言 うことは、実 際 のデネブはもの いで輝いていることを紹介する。なお、この部分の演出 すごく明るい星であるということである。 は、様々な素 材を利用 してオリジナルの全 天 周 映像を 実 際 、1au の距 離 まで近 づいてみると、ドーム全 体 制作した。 が星で覆われてしまう。デネブは太 陽 の6万 倍 もの明る その後 に、ηカリーナの全 天 周 映 像 により、星 自 身 さがあり、星の中でも最 大 級 に明 るい星 であることが分 から吹 き飛 んだ ガスが 周 りを取 り 囲 んでいる 様 子 を 紹 かる。 介 した。 図2 トップスターを紹 介する場 面 の1コマ 図1 太 陽・アルタイル・ベガ・デネブの比 較 ○天 文 学 夏 の大 三 角 の星 たちは、太 陽 よりも明 るい星 だった。 ○エンディング 宇 宙 にはとてつもなく明るいトップスターが存 在 する。 しかしその寿 命 は短 く、超 新 星 爆 発 を起 こして死 んで しか し天 文 学 の 進 歩 に よっ て、もっと 明 る い星 が 見 つ しまう 、しか しそこからまた 新 しい星 が 生 まれることを、 かってきたことを紹 介 する。 最後に簡単に紹介してエンディングとする。 地 球・太 陽・アルタイル・ベガ・デネブの明 るさを、星 の大 きさによって示 す。実 際 には質 量 光 度 関 係 により、 重 たい星 ほど 明 るく 輝 いているが 、ここ では 感 覚 的 に 理解できるよう、大きさで比 較 した。 天 文 学 が進 歩 し、赤 外 線 や電 波 など様 々な方 法 で 観 測 するようになると、さらに明 るい星 が 見 つかってき た。 例えば、はくちょう座 P 星(太 陽の 60 万 倍 の明るさ)、 4.おわりに 近 年 の天 文 学 によれば、肉 眼 で見 える天 体 だけで なく、むしろ肉眼では見えないものの方がより宇宙に大 きな影響を与えていることを示している。 プラネタリウムを通して、なぜ見えないのにあることが 分 かるのか、その謎 解 きをしつつ、現 在 の天 文 学 の成 果を来館者に伝えることができればと考えている。
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