Newsletter No. 2 2011.10 ◆プロジェクト研究紹介 反応速度の壁を突破する炭素資源の低温・迅速ガス化 文部科学省 最先端・次世代研究開発支援プログラム 炭素資源エネルギー学部門 教授 林 潤一郎 新規ガス化プロセスでエネルギー損失を大幅低減 ガス化は,石炭やバイオマス等の固体炭素資源をエネル 低温・迅速ガス化を実現する反応器・反応操作概念 図 1 に、このガス化の反応器・反応操作概念を示します。 ギー・化学共通のプラットフォームである水素・CO に統合 熱分解駆動チャーガス化、揮発成分・チャー間の化学的相 的に変換する反応プロセスであり、それゆえに次世代のエ 互作用(VCI)の強化と排除に加えて、チャーの酸素・水蒸 ネルギー・物質ネットワークにおいて hub の役割を担うと期 気ガス化で発生した含水蒸気高温ガスを迅速な揮発成分・ 待されます。現行の石炭ガス化技術は、原料の一部を燃や チャー同時改質・ガス化によって 600℃程度まで冷却しなが して高温を作り出す高温部分燃焼をベースとしており(反応 ら合成ガスを製造します。さらにこの合成ガスを熱分解に 系出口での生成ガスの温度は 1400℃以上)、その結果、石 よって 400℃以下の低温まで化学的にクエンチします。言い 炭が持つ化学エネルギーの 20% 強が失われます。ガス化の 換えますと、ガス化炉出口温度 400℃以下となるガス化を実 本質的機能を発現させるには化学エネルギー損失を大幅に 現します。 低減する必要があり、これは水蒸気あるいは炭酸ガスを酸 二つのガス化・改質炉はいずれも、体積当たりの炭素量 化剤とする吸熱的ガス化を最大限導入することを意味します。 を最大にできる粒子移動層から成ります(図 2)。もう一つ しかしながら、吸熱反応導入は反応温度と反応速度と資源 の特徴は、チャー表面で高い運動性と適度な揮発性を持つ 転換率の低下をもたらし、例えば、バイオマスガス化にお カリウム触媒(相間移動触媒)を二つのガス化炉の間で循 いて未だに解決されていないタール残留等の問題を生じさ 環させ化学クエンチ、タール消去を確実なものにすることで せます。次世代ガス化に求められるのは、低温・迅速とい す。 う相矛盾する性能の両立です。触媒適用はガス化の低温化 に有効であり、これまでに多くの報告があります。遷移金属 触媒を固体資源に担持すると、600℃程度の低温でチャー (初期反応である熱分解によって生成する炭化物)のガス化 熱の化学エネルギーへの再生と炭素資源の水素・CO への統合 低温ガス化をガス化複合発電(IGCC)あるいはガス化・ が進行しますが、特例を除けば事前触媒担持に経済的合理 燃料電池複合発電(IGFC)に組み込むことによって、ガスター 性が見出されず、技術的には低温でメタン生成が支配的とな ビンからの排熱(IGCC の場合、〜 700℃)あるいは燃料電 る熱力学制限や触媒担持後の脱水や水処理によるシステム 池からの排熱(IGFC の場合、〜 950℃)をガス化炉におい 効率低下の問題が避けられません。著者らは、これまで石 て化学再生することができ、化学エネルギー損失は実質的 炭、バイオマスの熱化学変換に関する研究を行ってきました が、そのなかで得た知見等を踏まえ,ガス化反応系を抜本 的に見直し、新規のガス化プロセスを考案するに至りました。 図 1 低温化、迅速化するための鍵となる三つの現象 図 2 反応器システムの一例(多段粒子移動層システム) Research and Education Center of Carbon Resources, Kyushu University Newsletter No.2, 2011.10 1 にゼロあるいは正味の増幅が可能です。また、提案法に含 ス化は,ガス化が本来持っている異種炭素資源の水素・CO まれる化学クエンチの概念は、現行の高温ガス化や中高温 への統合を示す事例となり、これは将来に期待されるガス 熱排出プロセスに適用することによってガス顕熱の化学再 化による異種炭素資源・熱の水素・CO への統合(再生)を 生を行うことができます。さらに、本研究によって低温ガス 核とする持続的炭素サイクル化学大系の構築に道を拓くこと 化とともに概念実証される石炭・バイオマスハイブリッドガ になります。 ◆エコテクノ 2011 に出展 炭素センターの取り組みをパネル展示 ◆ GCOE「新炭素資源学」公開講座 2011 年 10 月 12 日(水)~ 14 日(金)、北九州市西日本総 ~今後のエネルギーベストミックスへ向けた課題と展望~ FUKUOKA SCIENCE MONTH 合展示場で「エコテクノ 2011 地球環境・新エネルギー技術 展&セミナー」が 開催され、炭素資源国際教育研究センター は、九州経済産業局の「地球温暖化防止ゾーン」で、センター の取り組みをパネル展示しました。ブース内の石炭等高度利 用推進コーナーで、石炭等の高度利用推進パネル、石炭サ 九州大学グローバル COE「新炭素資源学」 公開講座「エネルギーベストミックス」 日時 先端研究プロジェクトの紹介として、次世代ガス化や褐炭の 炭の利用やエネルギー 政 策、センターの連 携 について等の質問があ り、今後 のエネルギー 利用の動向や産学連携 での取り組みに対する 関心の高さがうかがえま 九州大学筑紫キャンパス 総合研究棟(C-CUBE) ■共催:国公私立大コンソーシアム・福岡 講 演 会 体験・展示コーナー C-CUBE 1 階 筑紫ホール 11:00 - 12:00 C-CUBE 3 階 各研究室の研究内容を、パネルをはじめビデオ・ 課題と展望」 物品展示・デモ実験を使って説明します。 講演者:堀 史郎 ちびっ子・一般実験コーナー 12:00 - 15:00 経済産業省資源エネルギー庁国際エネルギー情報調査官、 九州大学客員教授 ・果物電池で発電しよう! ・体温で発電するよ! 研究室見学 ・スライムで電池を作ろう! ・身の回りの放射線を測定してみよう! 大学の研究室に足をふみ入れてみよう! 第 1 回 13:00 - 13:40 (コース A、B) 第 2 回 13:45 - 14:25 (コース A、B) 所要時間 身近なものから炭を作ろう ! ※この実験は、研究室見学 各コース約 40 分程度 出発場所 で行います。 原田研究室(環境・生体分子計測) コース B 遊びに来てね! 林研究室(バイオマス・石炭変換) エッソ石油 JR九州鹿児島本線 ↑ 博多 春日公園 3 丁目 市立春日野中学校 白木原 1 丁目 580 応用力学研究所 P 県立春日高等学校 通用門 ※歩行者専用 P C-Cube P 西鉄天神大牟田線 ↑ 福岡天神 春日高校前 春日門 580 生協 ・学食 P 総合理工学府 筑紫自治 会館 サニー JR 大野城駅 東口 JR 大野城駅前 JR 大野城駅 西口 白木原 2 丁目 西鉄白木原駅 東口 西鉄白木原駅 西口 市立大野中学校 約400 m 先導物質化学研究所 P P 産学連携センター P 市立大利中学校 P 九大筑紫キャンパス C-Cube で行 われます。講演会では、堀史郎 先生(資源エネルギー庁国際エ ンター教授)に、3.11 震災後の 九州大学 筑紫地区 キャンパスマップ サニー春日 公園店 春日野 中学校前 講座が、2011 年 11 月 5 日(土)、 ネルギー調査官、前九大炭素セ コース B(13:00 発、13:45 発) C-CUBE 1階 受付前 菊池研究室(液晶材料) コース A 12:00 - 16:00 研究室紹介パネル展示 「今後のエネルギーベストミックスへ向けた エネルギーベストミックスについ て九州大学の研究者でまとめた 100 m 200 feet 効率利用のパネルを展示紹介しました。来場者からは、石 会場 11月5日(土) <英語同時通訳付> ンプルとともに、炭素センター紹介、連携の取り組みとして、 炭素資源コンソーシアム、低炭素システム研究会のパネル、 2011年 ■主催:九州大学グローバルCOE「新炭素資源学」 GCOE「新炭素資源学」の公開 市立大利小学校 報告書の内容を中心に講演いただきます。講演後は、討論・ ディベートを予定しています。また同時開催で、市民の方々 に楽しんでもらえる企画も用意しています。研究室見学ツ アーや研究室紹介コーナー、パネルやビデオ、デモ実験 などでご紹介します。 「スライムで電池を作ろう!」、 「身近 なものから炭を作ろう」といった、子供から大人まで気に なる実験体験コーナーもあります。ぜひお越しください。 http://ncrs.cm.kyushu-u.ac.jp/520.html した。 ◆石炭と燃料電池に関する国際会議(CCT&FCs-2011)を開催します 7t h I nte r n a t i o n a l Co n f e r e n ce o n C l e a n Co a l の開発といった世界で最先端のクリーンエネルギー技術に Technology and Fuel Cells(CCT&FCs-2011(第 7 回クリー ついて議論します。会議のテーマは以下の通りです。1) ンコールテクノロジーと燃料電池に関する国際会議)を クリーンで高効率な石炭燃焼、2)高効率石炭火力発電技 2011 年 11 月 8 日(火)~ 10 日(木)、九大筑紫キャンパ 術、3)エネルギーの再生利用技術、4)環境保全技術、5) スで開催します。この国際会議は、 (財)電力中央研究 二酸化炭素排出削減技術、6)燃料電池システム技術、7) 所と上海交通大学が、この分野における問題意識の共有 燃料電池性能の進歩、8)クリーンエネルギーのためのス や、新技術の情報交換を目的に毎年開催してきたもので マートプロセス技術。2011 年 11 月 8 日 (火)、11 月 9 日 (水) す。今回の会議は、新たに炭素資源国際教育研究センター の 2 日間のスケジュールで、総合講演、基調講演、口頭発表、 も共同で開催することになりました。日本、中国、さらに ポスター発表を行います。また、最終日の 11 月 10 日(木) 欧米、オーストラリア、東南アジア各国から、著名な研究 には、電源開発(株)若松研究所の EAGLE 石炭ガス化プ 者を招へいし、石炭のクリーンで高効率利用や燃料電池 ラントの見学ツアーを企画しています。 編集後記 ◆炭素センター展示室の世界地図 写真は、MAP OF THE COAL FIELD OF THE WORLD、1972 年の 地図で、地質の年代で色分けされた炭鉱が記されています。この 大きな地図の前では、地球の息吹が聞こえるのではという想像も。 展示室には他に、化石資源の標本約 50 点、研究紹介パネルなど があります。一度、見に訪れてみてはいかがでしょうか。 発行 九州大学炭素資源国際教育研究センター 〒 816-8580 春日市春日公園 6-1 Tel & Fax 092-583-7614 E-mail c-center@cm.kyushu-u.ac.jp http://cr.cm.kyushu-u.ac.jp/ 編集 人材育成推進室 清水康彰 行事一覧 開催日 名称 2011/9/20 エネルギーベストミックス研究会報告書「今後 のエネルギーのベストミックスへ向けた課題と 展望」を公表 2011/10/12-14 エコテクノ2011 炭素センターの取り組みをパ ネル展示 2011/11/5 GCOE「新炭素資源学」公開講座~今後のエネ ルギーベストミックスへ向けた課題と展望~ 2011/11/8-10 7th International Conference on Clean Coal Technology and Fuel Cells (CCT&FCs-2011) Research and Education Center of Carbon Resources, Kyushu University Newsletter No.2, 2011.10 2
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