第 2 回 神経難病における音楽療法を考える会

第 2 回
神経難病における音楽療法を考える会
プログラム・抄録集
<日
時>
平成17年6月10日(金)
<場
所>
鳥羽市民文化会館
<共
催>
「神経難病における音楽療法を考える会」
代表世話人
近藤
清彦
厚生労働省「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」班
班長
<後
中島
孝
援>
日本神経治療学会
プ ロ グ ラ ム
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
17:10∼17:25
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
演奏
開会および主催者あいさつ
17:30∼17:35
17:35∼17:40
開会あいさつ
「音楽療法に期待するもの」
特別講演
17:45∼18:45
演題
18:50∼18:58
独立行政法人国立病院機構新潟病院副院長 中島 孝
公立八鹿病院神経内科 近藤 清彦
座長 北海道医療大学教授
「歌うとなぜ「心と脳」にいいか?」
座長
田代 邦雄
京都大学名誉教授
大島 清
脳血管研究所附属美原記念病院院長 美原 盤
1)東北大学病院音楽療法室の試み
東北大学病院 音楽療法室 室長
市江 雅芳
2)本町クリニックでの音楽療法
本町クリニック ○服部優子、
19:02∼19:10
音楽療法士 小川尚子、加藤美砂
3)矢津クリニックにおける神経難病患者に対する在宅音楽療法について
19:14∼19:22
医療法人矢津内科消化器科クリニック ○認定音楽療法士 永野裕見子、
院 長
矢津 剛
4)音楽療法を利用した神経難病ボランティア育成の試み
19:26∼19:34
国立病院機構新潟病院
○医療社会事業専門員 三浦修、
看護師長 岩崎文子、看護副師長 桑原和子、
コーディネーター 小黒須美子、副院長 中島孝
19:38∼19:46
19:55
5)患者と家族から音楽療法に期待すること
日本 ALS 協会東京支部、NPO 法人さくら会理事 川口 有美子
閉会のあいさつ
2
♪♪♪♪♪♪♪
演奏の紹介
♪♪♪♪♪♪♪
二胡演奏/大塚庸子
<曲
目>
蘇州夜曲
川の流れのように
おぼろ月夜
花(喜納昌吉)
あなたが好きで(森山良子)
舟唄(八代亜紀)
童神(夏川りみ)
他
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
3
■第2回神経難病における音楽療法を考える会に寄せて・・・・・・・
第2回「神経難病における音楽療法を考える会」の開催を心から御祝い申し上げます。
欧米では音楽療法士という職種が専門職として認知され、音楽療法が広く普及してきてい
ることに鑑み、わが国でも特に神経難病を対象とした音楽療法の意義を考えてみようとの近
藤清彦先生のご提案は誠に時宜を得たものでした。昨年の第1回研究会に、神経難病の医療
と支援に携わり、患者さんと家族のQOLを考える多くの職種の人たちが多数参加し、熱心
な討議が行われましたことは、この分野への関心の高まりを証明するものとなりました。
私は音楽の持つ力、可能性を信じます。この確信を如何に証明するかが課題と考えてきま
した。この研究会が今後とも、この学際的な分野における共通の研鑽の場として大いに発展
し、神経難病の患者さんと家族のQOLの向上に貢献できるよう祈念致します。
新潟大学脳研究所神経内科
西澤
正豊
最近、日本でも音楽療法への関心が高まってきているように感じていたところ、昨年、
「神
経難病における音楽療法を考える会」からお誘いを受け、光栄に存じております。
薬のように、音楽が直接患者の治療や回復に役立つことは、あまりないとは思います。で
も音楽は人が感じるもの、人が心で受け取るもの。いわばヒトが作り出してきたもので、目
に見ることは出来ず、手で触れることもできない、心、あるいは精神世界のもっとも人間特
有のものではないでしょうか。
音楽は人々を沈静化させたり高揚させたり、あるいは意欲をかきたてたり、生き甲斐にす
らなることがあります。
そういった意味で、心に何か問題を持った人、身体に何かハンディを背負った人たちほど、
音楽に喜び、心の奥深くで楽しむ様子をしばしばみてきました。
医療の方々が、この音楽の力を活かすべく我々音楽の世界の者を利用していただければ、音
楽の世界もまた新しい展開を迎えることでしょう。
この音楽・音楽療法の世界に新たな可能性を引き出すかもしれない「神経難病における音
楽療法を考える会」の活動に私が大きな期待を寄せる由縁です。
東海大学教授、ヴィオラ・ダ・ガンバおよび音楽療法
4
志水哲雄
■ワインをも癒す音楽・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
先日、東京の丸ビルの地下にあるソトコトというワインバーで行われた面白いイベントに
参加してきました。音楽がワインをも癒し味を変えるということを体験する会でしたので、
そんなバカなと半信半疑で参加しました。部屋には1個の筒状のスピーカーがアンプにつな
がれており、よい音色のジャズが流れていました。スピーカーは1個なのに音は立体的に広
がり、左右の分離もよく、あたかもライブの音楽を聴いているようでした。そのスピーカー
の名前はMS(多発性硬化症ではなくエムズシステム)というもので、干渉波を除去すること
により素晴らしい音を再現することに成功したのです。そこで実験が始まりました。
スペインのあるワインをグラスについで一口味わいます。その味、色、香は決して悪いも
のではなく、中級と評価できるものでした。その後、ワインの入ったグラスをMSの傍にお
いて、ミシャ・マイスキーの奏でるバッハ無伴奏チェロソナタを3分間聴かせたのです。
そしてそのワインを口に含みました。すると、なんと驚く程味がよくなっており、あたか
も10年もののボルドーワインのような味に感じられたのです。参加者全員が口をそろえて
「変わった、確かに変わった」と言いました。その後、MSで音楽を聴かせたワインは普通
のスピーカーで聞かせた場合に比べ、電気抵抗が有意に低下していることが示されました。
つまり、生演奏に近いよい音楽はワインをも癒し、とてもおいしい味に変えるのです。これ
は確かにデカンタージュによるものではありませんでした。
私達の身体は70%が水でできており、よい響きの波動は細胞の1個1個に作用し、身体
の根本から癒してくれる可能性があります。
このスピーカーの開発者は、お母様がパーキンソン病で、最後施設でお世話になったそう
です。「そこでは非常に素晴らしい環境で介護を受け濃密なコミュニケーションもとれ、最
後感謝の1年間だったけれど、今思えば皆で音楽を楽しみましょう、といって集まったホー
ルにおいてあったのは小さなラジカセで、流れていたのは音楽と呼べるものではなかった、
この素晴らしい音を聴かせてあげられなかったのが唯一の後悔である」と彼は言っています。
私は音楽療法は聴く人の感性に基づくものと思っていましたが、もっともっと奥深いもの
があるようです。恐らく意識のない人にも有効かも知れません。ナラティブであれエビデン
スベーストであれどんな方法でもよいからこの研究会の皆さんによって音楽療法研究が進み、
難病に苦しむ患者さんだけでなく、全人類の癒しの法則を見出して頂くよう切に願っており
ます。
国立長寿医療センター研究所
5
田平
武
■“ありがとう”を音楽に乗せて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“あんたの好きな音楽をかけて”と言うアイコンタクトから始まる訪問入浴。
数年の間にCDが何十枚にもなっていました。
歌声は想い出にふちどられ|テレサテン
音楽はその時々の想いと重なり、時には涙を流したり、時には微笑んだり。
車椅子に乗り、季節の花々を見ながら聞こえてくる主人の大好きな歌。
穏やかな主人の横顔を眺めながら飲むコーヒーのおいしい事。
ほんの少し前まで、しかめっ面をしていたとは思えないほどの穏やかなひと時。
ある日主人に買ってきたCDの中に「ありがとう」と言う歌が・・・
もう嫌だとハンストをして困らせ、大喧嘩になった後に“その歌をかけて”と主人に言われ
て、許してあげました。
今の三重県では、音楽療法が何かも良く理解できない人が殆どでしょう。
私もその中の1人なのですが、同時に、音楽に助けられ癒された経験を持つ1人でもありま
す。
立って聞く音・座って聞く音・寝て聞く音、状態によりそれぞれ違う音が聞こえることでし
ょう。
ALS患者にとって、どの様な音が、音楽が、どのような療法に結びつくのか?
とても興味があり、少しでも解き明かされる事を期待しています。
みえalsの会
副会長
笠井
敬子
■ごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「第2回神経難病における音楽療法を考える会」の開催おめでとうございます。
近畿ブロックの総会の時に近藤先生の「音楽療法」の講演で、初めて「音楽療法」がある
ことを知りました。講演中は興味深く聞かせていただきました。講演の話を聞いてこんなユ
ニークな治療法もあるんだなと思いました。神経を活性させるため、私も音楽療法を受けて
みたいと思いますが、私の地域では聞いたことがないです。
寝た切りの神経難病患者にはリハビリと同じように受けられるように広まるよう期待して
います。
日本ALS協会近畿ブロック会長
6
和中
勝三
∞∞∞∞∞∞∞∞∞
主催者挨拶
∞∞∞∞∞∞∞∞∞
根治療法のない難病では QOL を高めるために、リハビリテーションや緩和ケアの研究がなさ
れてきましたが、音楽のもつ力をどのように利用すればよいか十分に研究されてはいません。困
難な病態のもとでも人は音楽により根源的な感動を呼び起こし生きる希望を見出せる可能性があ
ります。
アメリカ医学教育の父ウイリアム・オスラー博士( 1849 年-1919 年)は著書の「平静のこころ」
で The practice of medicine is an art, based on science(医療は科学に基づくアートである)と
述べています。私が、この言葉を最初に学んだのは、日野原重明先生(日本オスラー協会会長)
から学生時代に講義を受けたときでした。その後、神経難病の診療を行うことになったのですが、
この言葉の本当の意味がわからないまま仕事をしてきました。その後、人を支える仕事や営みの
中には、かならず、普遍的な価値観である真、善、美の要素があると考えることができるように
なりました。つまり、現代医療は科学性と倫理性すなわち、真と善に基づいて仕事が行われてい
ますが、それだけでは医療は無理だということがようやく理解できるようになりました。
この研究会の中心的なテーマである難病については現在、患者や介護者の中で、生きる意味へ
の葛藤や介護負担からくる患者の「尊厳死意識」に対してどのようにケアをすすめていくのかの
問題が出てきています。医学が Art と言われてきたゆえんは人を生物的な存在として支えるだけ
でなく、どのような状態にあっても人間存在として根源的に支える必要性があるからと思います。
これは、スピリチュアルケア(Spiritual care)に対応すると考えられますが、方法論、理論化の最
も難しいものです。Spiritual care の一つとして音楽の臨床利用は大きな可能性を持っています。
Spiritual care とは生命力、肉体の機能の低下が避けられないときにでも、生きていく希望や光を
えられるように支えていくもので、音楽は患者が感じる健康と病気、生と死の二元論を超える力
となると思っています。
臨床における音楽の持つ力は多様であり、リハビリテーションとして有用です。難病医療・福
祉における多専門職種ケア(multidisciplinary care)としての音楽の利用について、音楽家や音
楽療法士と保健・医療・福祉関係者が十分にコミュニケーションして、深めていく必要がありま
す。音楽が患者の QOL 向上に貢献すると同時に、難病患者の希望の光となることを祈念します。
厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究」班
主任研究者 中島孝(国立病院機構新潟病院副院長)
7
∞∞∞∞∞∞∞∞∞
主催者挨拶
∞∞∞∞∞∞∞∞∞
本日は、
「第2回神経難病における音楽療法を考える会」へご参加いただきありがとうござ
います。この会は、神経難病をもって療養されておられる患者さんに音楽がどんな意味をも
つか、音楽にどんな力や効果があり療法となりうるか、などを医療関係者、音楽関係者、当
事者である患者さんやご家族、ケアスタッフなどがいっしょになって議論する場として企画
されました。
日本神経治療学会の関連研究会として位置づけていただき、第1回は昨年6月に札幌で開
催し、特別講演として村井靖児先生の「医療と音楽」、近藤里美先生の「医療現場における音
楽療法の可能性」のお話を拝聴し、一般演題では、パーキンソン病とALS(筋萎縮性側索
硬化症)の患者さんに対する音楽療法の実践の報告がありました。
本年は、音楽療法でもっとも利用されることが多い、
「歌うこと」について、大島清先生に
ご講演いただくことができ、大変光栄に思っております。
音楽療法を考えることは、すなわち、それを受ける患者さんの生き方を考えることだと思
います。今回、縁あって三重県で開催させていただきました。この会を通して、三重県内の
患者さんと音楽関係者、医療福祉関係者が顔なじみになり、治療や介護の現場で音楽が患者
さんの療養にさらに役に立つ形で用いられていくことを期待しています。
「神経難病における音楽療法を考える会」代表世話人
公立八鹿病院神経内科
8
近藤
清彦
特
別
講
演
17:45∼18:45
「歌うとなぜ「心と脳」にいいか?」
京都大学名誉教授
京都大学名誉教授・医学博士
大島
大島
清
◇ 講 師 略 歴 ◇
1927年、広島生まれ。東京大学医学部卒業。ワシントン大学助教授、京
都大学霊長類研究所教授などを経て、現在、愛知工業大学客員教授、京
都大学名誉教授。生殖生理学専攻、医学博士。サロン・ド・ゴリラ主脳とホ
ルモン、産科学からエイズまで、その研究はきわめて広い。『頭脳200%生
活法』(PHP研究所)、『世紀の病』(光文社)など著作多数。
自然愛好、マウンテンバイク、水泳、陶芸、料理、チェロ、社交など多芸・多
趣味である。
<座
長>
北海道医療大学教授
田代
邦雄
9
清
歌うとなぜ「心と脳」にいいか?
京都大学名誉教授・愛知工大客員教授
大島
清
音楽療法の存在を御存知だと思う。唱えたのはシュタイナー。彼は音楽の三要素(メロデ
ィ、ハーモニー、リズム)について、このように述べている。
1.メロディは脳にはたらく
2.ハーモニーは呼吸に作用する
3.リズムは手足の運動や血液の循環、そして物質代謝をコントロールする
病気と言えば、この3つのバランスが崩れること。だから、音楽によって調整すればよい、
ということになる。病人でなくとも、このバランスを利用することで心身の健康を高い水準
で維持できる。要するに、音楽には心を浄化する力がある、ということだ。
いまの私の場合、気持ちの安らぎを得たいときは、バロック音楽やモーツアルトを聴き、
元気を出したいときはベートーベンを聴き、勇気出したいときは行進曲だ。要するに、音楽
には心を浄化するパワーがある、ということだ。
でもね、私は音符を読めない。親父が大工だったせいか、真似して歌っていたのは、浪花
節か都都逸だった。今でも音符をすらすらと読める人には尊敬の眼差しを向ける。大学にい
た頃、ヴァイオリンを抱えて通っていた女学生に恋心を覚えた。そんな私が、大学教授定年
退官の式で、モーツアルトの「きらきら星」を弾けたのは、偶然に非ず、私の努力。
私の友人の娘の出産を依頼されて、昔とった杵柄(産婦人科医)が効を奏して無事出産。
「退官式まであと半年、私がお教えするからきらきら星をお弾きになったら」と。無我夢中
が効を奏して、「何とみごとな演奏だった」とか。
60歳過ぎでも、やればできるのか。それが、いろんなことへの私の自信につながった。
60歳過ぎの音楽療法のおかげで、間もなく80歳になろうという私が、元気なのはそん
なところだろう。「歌うとなぜ心と脳にいいか」御理解いただける小話である。
10
演
題
1)18:50∼18:58
東北大学病院音楽療法室の試み
東北大学病院
音楽療法室
室長
市江
雅芳
本町クリニック
服部
優子
2)19:02∼19:10
本町クリニックでの音楽療法
3)19:14∼19:22
矢津クリニックにおける
神経難病患者に対する在宅音楽療法について
医療法人矢津内科消化器科クリニック
認定音楽療法士
永野
裕見子
4)19:26∼19:34
音楽療法を利用した神経難病ボランティア育成の試み
国立病院機構新潟病院
医療社会事業専門員
三浦
修
5) 19:38∼19:46
患者と家族から音楽療法に期待すること
日本ALS協会東京支部、NPO法人さくら会理事
<座
長>
脳血管研究所附属美原記念病院院長
美 原
11
盤
川口
有美子
演題1)
東北大学病院音楽療法室の試み
東北大学病院音楽療法室
室長
市江 雅芳
音楽療法は、医療、福祉、教育、保健という大変広い領域を対象としているが、音楽療法士が国
家資格の医療職ではないため、音楽療法を行っても診療報酬の対象とはならず、医療の場における
臨床実践や研究は大変少ない。その結果、音楽療法士の医療職としての国家資格化や、音楽療法
の医療の場への導入が妨げられるという、悪循環に陥っている。
欧米の事例では、小児科、精神科、心療内科、老人科、リハビリテーション科、神経内科、外科、E
R、ICU、NICU、緩和医療、ターミナルケアなど、様々な医療の場で音楽療法が実践されているが、
日本では精神科における作業療法が中心である。
日本の医療システムの中で音楽療法を行うには、越えるべきハードルがいくつかある。医療職とし
ての音楽療法士教育、医療としての音楽療法の定義、診療システムにおける音楽療法室の位置づ
け、そして医療関係者が納得する Evidence の提示など。
東北大学病院では、2005 年、外来棟に音楽療法室を開設した。準備は、2002 年、東北大学病院
の各診療科長(教授)に対するアンケート調査において、いくつかの診療科で音楽療法のニーズが
確認できたことに始まる。2003 年、東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻(全国で唯一、医学
部出身者以外が学ぶことが出来る医学部の大学院)の門戸を音楽療法士にも開き、医療の場にお
ける教育と研究を開始した。2004 年4月、未来科学技術共同研究センターに市江が異動となり、同
時に大学院医学系研究科に音楽音響医学分野を開設し、それまでに入学した音楽療法士の大学
院学生は全て新分野に移った。
専門教育としては、人体解剖実習や生理学などの基礎医学教育や関連診療科医師によるレクチ
ャーを行っている。また、カルテを閲覧し、治療目的を明確にした音楽療法を実施するため、雇用関
係を結んだ上でセッションを行わせている。ボランティアとしての関わりは、医療としての音楽療法に
はあり得ない。
2004 年6月、緩和ケア病棟で音楽療法を開始し、これまでに 13 名の患者さんにセッションを行っ
ている。現在の医療制度では、健康保険を利用している入院患者さんに自由診療として音楽療法を
行うことは混合診療禁止の原則に抵触するため、音楽療法士は雇用しているが、患者さんから料金
はいただいていない。
今年開設した音楽療法室は外来患者さんを対象とし、全ての診療科が利用可能な中央診療部的
な運用を目指している。自由診療が基本であり、当日は他の診療科を受診しないことで、混合診療と
なることを避けている。
現時点では、音楽療法士の医療職としての国家資格化は極めて困難であり、音楽療法を医療の
枠の中で実施することは難しいが、現行の医療制度の中で音楽療法のモデルケースを提示していく
ことが、東北大学病院音楽療法室の使命と考えている。
ホームページ
12
http://www.music.med.tohoku.ac.jp/
演題2)
本町クリニックでの音楽療法
― パーキンソン病患者における通院および在宅での音楽療法を通して ―
本町クリニック服部神経内科
○服部 優子、小川 尚子、加藤 美砂、服部 達哉
1.はじめに
パーキンソン病(PD)は動作緩慢や歩行障害などの運動障害に加え、抑うつなどの精神症状、起
立性低血圧などの自律神経症状を合併することが多く、患者のQOLを低下させる大きな原因とな
る。
我々はPD患者に通院音楽療法(MT)を行い、血圧などへの生理的効果、抑うつなどへの心理的
効果、ADLやQOLへの効果を検討し報告してきた(第 42,44,45 回日本神経学会総会、第2回日本
音楽療法学会総会、第 23 回日本神経治療学会総会)。進行に伴い在宅医療に移行した症例には
在宅MTを取り入れているが、3年間継続できた一例を紹介する。
2.通院PD患者に対する集団MTの5年間の検討
PDに対する集団MTを1999 年10 月から月に1回施行。対象者は当院に通院中のPD患者(年齢
44-81 才、ヤール重症度1度から4度)や家族、その他の患者計 30 名。プログラムは約 60 分、発声
練習→歌唱→体操→鑑賞→合奏等を含めた歌唱→終わりの歌の順で行う。評価項目として、①セッ
ション前後の血圧.脈拍、②抑うつに対する影響(SDS)、③QOLに対する影響(PDQ39)、④ADL
に対する影響(UPDRS)、⑤患者へのアンケート、を毎年調査し、MT非併用群と比較検討をしてい
る。
これまでに、MTがPD患者の低血圧を上昇させる可能性、抑うつやQOLに対しては悪化を阻止
する可能性、ADL特に bradykinesia(動作緩慢)の悪化を阻止する可能性などが得られており、MT
がPDの非薬物治療のひとつになりうる可能性を考えている。
3.重症PD患者K氏に対する在宅MTの3年間の検討
対象は経過 10 年PD患者、84 才男性、ヤール5度。構音、嚥下障害が強く会話は小声で聞き取
れず、食事摂取不能で胃瘻管理中。①発声練習、歌唱による嚥下機能維持、喀痰排出機能の維持、
②口頚部筋のリラックスによる拘縮予防、③患者や家族のストレス緩和、を目標として、週1回患者宅
で診療後に約 30 分のMTを施行。ベッド上臥位で、妻、看護師を交えて行う。楽曲にあわせた関節
の受動的体操から発声練習へと進み、季節の歌の歌唱、患者が好きな曲の歌唱、最後はふるさとを
全員で歌って終わる。
経過とともに発声は困難となっ ているが、歌唱により痰の吸引がしやすくなったり、腹圧を利用し
た発声を日常の聞き取りにも応用したり、頚部筋の拘縮が予防させるなどの効果が現れている。ま
たビデオから観察されたMTの効果として、①介護者が口腔ケア、歯の異常に気を使うようになる。
② 口周囲筋の動きの改善、③家族、ヘルパー、看護師が積極的にMTに参加、協力して患者さんを
治療とする姿勢がみられる、などが挙げられた。神経変性疾患の進行期には構音、嚥下障害の合併
が必須であるが、当患者ではMT開始後は一度も誤嚥性肺炎を併発することはなかった。
妻にMTの効果について尋ねたところ、「痰の吸引がしやすくなった」点をあげ、「介護者である私
が一番癒されています」と添えられた。慢性進行性の神経難病においては介護者である家族の精神
的、物理的負担が大きいが、彼らをMTに積極的に参加させることで介護者のストレス緩和にも役立
つ可能性が伺われ、家族も交えた在宅MTが適応となる場合があると思われた。
13
演題3)
矢津クリニックにおける神経難病患者に対する
在宅ケアの取り組みについて
(医)矢津内科消化器科クリニック
○永野
裕見子、矢津
矢津クリニック訪問看護ステーション
片山
剛
泰代
【矢津クリニックでの音楽療法】
当クリニックでは、平成 11 年より、癌等の末期患者、また、筋萎縮性側索硬化症(以後ALS)、脊
髄小脳変性症等の神経難病患者を中心に、QOLの向上を目指し、在宅音楽療法の導入を試みて
いる。
平成 13 年には訪問看護ステーションが設立され、音楽療法士は矢津クリニックより訪問看護ステ
ーションに派遣される形で、在宅ケアチームの中で補助療法の1つとして従事している。
これまで、7例の神経難病患者に対し在宅音楽療法を導入し、療養生活の中の楽しみとして、また、
ご家族のストレスケア等への有用性が示唆されている。一方で経過が長い神経難病患者に対し、音
楽がどのような作用をもたらすかは、患者個々の性格的な背景などが大きく影響する。
今回、演者が経験した7事例の中から現時点での導入段階である2事例を紹介し、導入に至った
経緯などに触れながら、音楽療法が介入する事で表出された反応、期待される可能性、示唆される
有用性等について考察する。
【対象・方法】
① A氏 30 代 男性。平成X年6月頃から左上下肢の麻痺が出現。原発性側索硬化症と診断され
る。その後平成X5年、筋萎縮性側索硬化症と診断される。音楽療法は、1ヶ月に1回のペースで
平成X4年7∼11 月の間で5回行った。方法は、ライアを用いた能動的方法、受動的方法と、CD
などの音源を用いた音楽聴取、また、セラピストが直接歌いかけるなどした。その後熱発し、入院
し、平成X5年3月退院される。退院後、現在音楽療法の再開をふまえ、調整中。
② B氏 70 代 女性。筋萎縮性側索硬化症。平成X年5月、保険婦の紹介あり、当院紹介、訪問診
療、訪問看護開始となる。療養生活の中の楽しみとして、看護師のケア、リハビリ等に同行し、歌
いかけ等を行う。平成X1年 11 月より月1回、訪問看護訪問時に同行し、音楽療法セッションを行
う。平成X1年 11 月∼X2年2月までの4回の音楽療法セッションの報告を行う。その後B氏入院、
4月に退院され、音楽療法隔週で再開、現在継続中。
【結果・考察】
A氏はライアを初回に用い、自身も看護師の誘導などにより、楽器に触れ、発音された事に対して
笑顔が表出されたものの、2回目以降、楽器に対し笑顔などはなく、この楽器に関する関心が感じら
れなかった。5回目で歌いかけを行ったところ、A氏の表情に笑顔が浮かんだ。日々続く療養生活の
中で、A氏にとって新鮮さ、楽しいと感じる事を見出し、そういった時間を持つ事は大きな意味を持っ
てくると考えられる。
B氏に対しては、療養生活の中の変化や楽しみとして徐々に導入されていった事が言える。歌い
かけを中心に行った。選曲は音楽療法士がB氏の年代、知っていると思われる曲を中心に行った。
B氏は音楽療法士の歌唱中、じっと目を開き、音楽療法士を見つめていた。音楽は、B氏の生活
に何らかの新鮮さをもたらしたのではないかと思われる。ALS患者にとって徐々に症状が進行してい
く中での長い療養生活において、『楽しく感じる時間』『新鮮に感じる時間』を持つ事はQOLの向上
に大きく関与するものと思われる。A氏、B氏とも、関わりとしては導入期にあたる。今後の反応、変化
を注意深く見ながら、接していき、A氏、B氏のQOLの向上につながるようなアプローチを探求して
いきたい。
14
演題4)
音楽療法を利用した神経難病ボランティア育成の試み
国立病院機構新潟病院
○三浦
修、岩崎
小黒
文子、桑原
須美子、中島
和子
孝
【はじめに】
難治性、進行性で障害が高度になりがちな神経難病においては通常の多専門職種ケアによるリ
ハビリテーション、緩和ケアのみならず、ボランティアの導入が必要である。神経難病ボランティアの
育成のためには地域の保健所と連携した難病ボランティア育成研修会を十分に開催することが必要
であり、ボランティアの自律的活動につなげるために、ボランティアの動機づけが重要であると思わ
れた。今回、音楽療法を利用した音楽レクリエーシ ョンを継続実施することで、難病患者のQOL向
上を図るとともにボランティアの意欲を引き出すことができた。
【方法】
厚労省が支援し県が実施している「難病患者地域支援対策推進事業」の『医療相談事業』の中で
地域保健所と当院の共催で一般市民を対象とし、神経難病領域で活動するボランティアを育成する
ための研修会を実施した。
研修プログラムの中でも「音楽レクリエーシ ョン講座」にボランティアが大きな関心を持ったこと、さ
らに研修会終了後も「学び実践できるボランティア」として活動したいとの声がボランティア自身から
あがったことを受け、音楽レクリエーションを毎月 1 回継続していくこととなった。
【結果】
ボランティア研修生 14 名のうち、平成 16 年 10 月∼平成 17 年4月の間で(平成 17 年 11 月は中
越地震のため中止)、月平均4名のボランティアが参加。
講師によるレクチャーを受けた後、患者数名、看護師、ボランティア、講師とで音楽を用いたレクリ
エーションを行う。(グループレクリエーション)
平成 17 年1月からは、「個別活動」を行い、さらに患者とボランティアとが深く関われるプログラムを
展開している。プログラム終了後には、ボランティアによる個別記録の作成、グループワークを行い、
さらに看護師による「フェイススケール」などを用いて、記録、評価を行っている。
<ボランティアの記録より(一部抜粋)>
「最初は表情もなく内心どうしようと不安だったが、声かけをし、音楽が始まると声も出て、さらに、手も
動かし、楽しそうな表情に変わり、たった何分でもないのにびっくりしました。」
「リクライニングに乗って いる、かなり 重症な 患者さん、 手指が固くな って 、しっかり車いすをつかんで
いましたが、 音楽を聴きな がら、 お手玉を握っているうちにだんだん指が開くようになり、 肘も曲るよう
になりました。音を聴いているうちに瞳が少しずつ動いて、泣きそうな表情になってきました。」
「音、響きを通じて患者さんとコミュニケーションがとれるなんて素敵ですね。」
【考察】
病院で活動するボランティアにはさまざまな役割があるが、直接難病患者に接する難病ボランティ
アを育成するためには、継続する研修会が重要であることが分かった。今回、音楽療法士の協力を
得ることができ、「音楽レクリエーション」を継続実施できたことは、ボランティアが患者のQOL向上に
とって有効に機能していくための足がかりになった。
さらに、ボランティアは車いす介助などの技術援助はもちろん、神経難病の疾患理解を通して心
理面でのサポート、緩和ケアの重要性を感じている。音楽療法は、リハビリテーション効果や心理面
へ作用する効果があると考えられることから、今後も「音楽レクリエーション」を継続し、学びながら実
践できるボランティアを育成していく予定である。
15
演題5)
音楽が難病にもたらすもの
NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会、日本ALS協会東京都支部
川口
有美子
「もっぱら、私の生は比類ないものであるという意識から、宗教、学問、そして芸術が生じ
る。そしてその意識が生そのものである。」(ヴィトゲンシュタイン『草稿』p.265;1916)
哲学者らは芸術と生とに深い関係性を見出して数々の言葉を残していますが、難病と闘う
人々も日々生きる意味を問い直す中で自分の生を「比類なきもの」と知り、過酷な生とも折
り合いをつけていきます。そして、やがてその身体環境にあった楽しみを見出すこともでき
るようになり、生命倫理と芸術の架橋を思わせるような気づきが与えられる人もいます。
たとえば、私の母は在宅療養中のALS患者ですが、闘病4年目に「美しいものを美しい
と感じていられる間は生きていくつもりです」と言い残しました。今はもっとも過酷な症状
を示して、私たちとのコミュニケーションもなくなりましたが、母のその言葉に私たちは逆
に支えられているのです。
ALSの人は発病から最終的なステージに至るまで長い経過を辿りますが、事あるごとに
社会からの逸脱を感じるので絶対的孤独に苛まれる日々もあります。しかし、芸術はその普
遍性や平等性において、孤独な患者さんの心の深遠に到達し時には医療や介護を圧倒してし
まいます。私たちがどんなに患者さんのために努力しても、決して触れることができない最
も奥深い部分から患者さんを癒して変えてしまいます。
中でも音楽は単にその芸術性のみならず、さまざまな効用をもっています。例えば、①音
楽はその平等性においても比類なきもので、すべての人々が公平に楽しめるものですから、
患者や障害者にも社交の場を提供してくれます。②その非言語性は発語の厳しくなった患者
さんにストレスを与えませんし、非常に自由が制限された療養生活の中で「選択の自由」を
患者さんにもたらします。③懐かしい音楽は想い出を喚起して患者さんを内面から癒してく
れます。
上記のような効用を踏まえて音楽を緩和ケアとして日常的に取り入れることにより、患者
さんのインフォームドコンセントを助け、ナラティブの書き換えを促す効果が期待できるよ
うに思われます。
特に発症直後から呼吸器を装着するまでのもっとも不安の強い初期の時期に上手に音楽を
取り入れることはよりよい選択を可能にするためにも有効だと思われます。また、意思の伝
達が困難になった最重度の患者さんには脳波や脳血流を用いた意思伝達装置の訓練で脳を活
性化させるためにも音楽を有効に用いることができるように思われます。
そして音楽を趣味として生きがいにつなげた活動をされている方もおられます。たとえば
千葉の舩後さんは作詞と演奏活動により社会参加を実現して成果を挙げています。
このように難病患者にとって音楽とは本当の治癒が可能になる日まで、もっとも有効な緩
和ケアのひとつになりえると思われます。そしてまた、患者さんと共に神経難病と闘う人々
にも新たな目標やアイデアを与えてくれるだけではなく、病いの現実から一時でも解放され
た安らぎの時間を共有する機会を提供してくれることでしょう。
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【 活 動 事 例 紹 介 】
●パーキンソン病に対する音楽療法CD本の出版について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・林 明人
●第2回神経難病における音楽療法を考える会の開催によせて・・・・・・・・・・・・・・山中 賢治
●パーキンソン病患者・家族の会 年間活動紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・西村 ひとみ
●音楽療法研究会「ぐんま」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 美原 盤
【患者さんからのメッセージ】
●わが家の音楽会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・松井 寿惠
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「パーキンソン病に対する音楽療法CD本の出版について」
順天堂大学脳神経内科・大学院リハビリテーション医学
林
明人
『パーキンソン病に効くCDブック』というタイトルで、これまでの音楽療法の研究とパ
ーキンソン病の6月15日にマキノ出版から出版することになりました。
パーキンソン病の音楽療法について、1997年から取り組んで参りましたが、この度、
出版の運びになりました。患者さんだけでなくその周囲の家族の方や福祉介護医療者の方々
に音楽療法が理解され、お役に立てばと思います。本の中で、これまでの研究や患者さんか
らのアンケート結果なども載せることができました。本文中の大江健三郎氏と音楽療法のコ
ラムを以下に抜粋紹介します。適切な音楽療法が広まっていくことを願いつつ、この会の発
展を願うものです。
本文のコラムより、抜粋
*大江健三郎氏の音楽観に共感:音楽を聴くのは能動的な行為*
今回、このCDブックを出版するに当たり、高校時代の友人から、大江健三郎氏の『「話し
て考える」と「書いて考える」』
(集英社)という本を紹介してもらいました。大江氏はご子
息の光さんが音楽に優れた才能を持つということもあり、音楽に対してある深い考察をされ
ています。それは、音楽の持つ癒しの力の意味づけについてです。
私が抱いていた音楽に対する考えと同じであり、強い共感を覚えました。この場でその考
えを、紹介させていただきたいと思います。
「私の考え方はこうです。音楽が人を癒す、という。その言い方が、私には次のように聞
こえるのです。肉体を、あるいは心を、またその双方を病んでいる・傷つけられている人が
いる。その人たちが音楽を聴きながら、受身でじっとしているだけで、いつの間にか癒され
る・・・・・・
しかし、そういうことが、ありうるものだろうか?
私の経験から(省略)考えています
のは、人が癒されるのは、決して受身の出来事ではない、ということなのです。
私はそのことをはっきり示すために、癒されるというのではなく、恢復するという言葉を
使ってきました。大人であれ、子供であれ——障害を持っている子供であればなおさらに——、
人が病んでいる・苦しんでいる状態から恢復するのは、その人の能動的な行いのはずだ、と
私は考えるのです。その人が、よし、自分は恢復しよう、という意志を持つ。恢復したい、
とねがう。希望する、といってもいい。恢復できるように、祈る、といってすらいいと思い
ます。そこから人間の恢復という道すじが始まる、と私は考えています」
この大江氏の言葉は、パーキンソン病の音楽療法の効果のメカニズムについての私の考え
と同じように思えます。つまり、聴くだけであっても、それは決してまったくの受身の行為
ではなく、受け手側でなにかが積極的な能動的な意味を持って変わっていくのだと思ってい
ます。
18
「第2回神経難病における音楽療法を考える会の開催によせて」
みえalsの会
事務局長
山中
賢治
このたび、
「神経難病における音楽療法を考える会」が、第 23 回日本神経治療学会総会の
後援を受け、この三重の地で開催されますことは、まことに喜ばしく心よりお祝い申し上げ
ます。
代表世話人の近藤清彦先生より私共の「みえ als の会」の紹介の機会を頂きましたこと、
有難く感謝いたします。お言葉に甘えまして「みえ als の会」の生い立ち、活動内容を紹介
させていただきます。
「みえ als の会」の前身は、H14 年1月のメーリングリストの開設に始まります。メーリ
ングリストの参加者はALS患者さんに携わる三重県保健福祉部の保健師や医師達でした。
これまで三重県のALS患者さん達は日本ALS協会の近畿ブロックに所属され、種々の情
報を近畿ブロックより頂いておりました。しかし、交流会への参加は距離的な問題もあり、
なかなか叶うものではありませんでした。そこでメーリングリストの有志が集まり、三重県
での交流会が企画されました。H14 年8月に第1回の交流会が開催されました。この時の企
画は、患者さん達に何か楽しんでいただこうということで、有志による音楽の生演奏が行わ
れました。何をしようか?と考えた時、私共の答えは、まさに“音楽”だったのです。この
交流会の時に集まられた三重県のALS患者さん達より、三重県にも患者会を作って欲しい
との強い要望がでてまいりました。そこで、H14 年 10 月に設立準備会が発足し、設立に向
けて準備が始まりました。日本ALS協会の近畿ブロックより多大なご支援とご助言を頂き、
H15 年4月に無事「みえ als の会」を設立することができました。
私共の会の特徴は、会員となって頂いた患者さん、支援者の皆さんをインターネットで相
互に結びつけたことです。物理的にも精神的にも孤立しがちな患者さんや御家族の皆さんに
リアルタイムに情報を発信し、またその情報を皆が共有できるようメーリングリストに参加
していただいています。インターネットに接続できる環境にない方には、会から担当者が訪
問してコンピューターの設定から使用法まで指導させて頂いております。情報の不足は患者
さんだけではありません。医師(神経内科を専門としていない)、看護師、ヘルパー、行政や
福祉担当者など患者さんに携わる全ての人が、これまで情報不足に困惑し、それぞれが試行
錯誤を繰り返していました。この問題も解決すべく支援者も同じメーリングリストに参加し、
個々の経験を情報として発信し、情報(経験)の共有化をはかっています。これまでの点(会)
と点(患者さん)を結ぶ線の情報ではなく、
「みえ als の会」は、まさしく全ての点を結ぶネ
ットワークを目指しています。活動はまだまだ始まったばかりで、これからも皆様からの御
支援を賜りたく存じます。
「みえ als の会」の活動としては、このインターネット事業と、年1回の総会、年2回
の交流会、年2回の会報の発行、個別の患者訪問、相談などを行っています。昨年の交流会
では、落語をきいて患者さん達と一緒に大いに笑いました。これからの交流会では、音楽観
賞も取り入れていこうと考えております。
三重ではまだ音楽療法が十分に認知されていないのが現状で、この「神経難病における音
楽療法を考える会」の開催をきっかけとして三重の地でも音楽療法が根付いて欲しいと期待
いたします。
最後になりましたが、貴会の益々のご発展を祈念申し上げます。
19
「パーキンソン病患者・家族の会
年間活動紹介」
パーキンソン病患者・家族支援グループ‘そよ風’音楽療法士
西村
ひとみ
音楽療法
医療講演会
リハビリ講演会
日帰り旅行
総
会
奈良県郡山保健所管轄内にあるパーキンソン病患者・家族の会(18 家族、会員は約 40 名)
は、年間活動として音楽療法、医療講演会、リハビリ講演会、小旅行、総会を実施していま
す。患者・家族が自主性を持って活動する中で、保健所とパーキンソン病支援グループ(そ
よ風)がサポートとして関わっています。
活動の中で 2001 年度から始まった音楽療法は、メイン活動になり、一緒に仲間と歌い、楽
器を演奏することにより、心身ともにリフレッシュして、外出する楽しみに繋がっています。
※連絡先
20
E-mail(PC):onen@iris.eonet.ne.jp
ぐんま
音楽療法研究会「ぐんま」では全日本音楽療法連盟認定音楽療法士の先生を中心に
各界第一線でご活躍の著名な講師をお招きし,勉強会を開催しています.音楽療法
士を目指したい方,音楽療法に興味がある方,音楽療法の理解を深めたい方であれば
どなたでも参加できます.
また,研究会受講者には,認定音楽療法士の資格認定や更新に役立つ,講習会の受講証明書を発行
しています.( 日本音楽療法学会 団体登録番号 GRN −C−0 1 5 )
今までに講義をいただいた講師の先生
青拓美先生・ 塩谷百合子先生・ 岡崎香奈先生・ 貫行子先生・ 市来真彦先生 他
研究会
毎月 1 回 (土曜日) 2 時∼ 5 時
入 会
随時受付可能
会 費
年会費
研究会
500 円
参加費 1,000 円
(研究会に参加された方のみ)
予定講師 青拓実先生・ 坂上正巳先生・ 岡崎香奈先生他
詳しくは 美原記念病院内 音楽療法研究会「 ぐんま」 事務局 相澤まで
電話 0270−20−1551
FAX 0270−20−1552
E−mail : zkmihara@kakaa.o r.jp
世話人代表 (財)美原記念病院院長 日本音楽療法学会評議員 美原 盤
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◆ わ が 家 の音 楽 会 ◆
松井
寿惠
皆さんこんにちは。私は寝たきりの主人の介護を始めて丸4年になります。主人はALS
という徐々に身体中の筋肉が萎縮して動かなくなるという難病です。今では人工呼吸器をつ
けて家で過ごしておりますが、これまでは入退院の繰り返しでした。介護を始めた頃は本当
に大変でした。(今も大変ですが・・・。)
夜も吸引や体位変換、布団やクッションの位置を変えるために何度も起き、ゆっくり眠るこ
ともできませんでした。そして、膀胱炎などの痛みがあったりして、介護が本当につらかっ
たです。今では、痛み止めが効いて夜はよく眠ってくれるようになり、私も以前と比べると
嘘のようによく眠れるようになりました。介護にもだんだんと慣れ、病気ともうまく付き合
えるようになり、今は殆ど困ることはありませんが、一番つらいと思うのは、話すことがで
きないということです。
3年程前に、
「伝の心」というパソコンを町から給付を受けました。当時指でスイッチを押
し、文章も作ることができていましたが、指が動かなくなってからは、息子がいろいろと工夫
をしてくれ、吸引のチューブを使って舌で穴をふさいだり、または、歯でかんだりと、次々
に考えてくれました。けれど体調が悪いとそれも使えませんので、私が主人の口の動きをよく
見て察するか、文字盤を使って一字一字、字を拾って言いたい事を理解するかどちらかです。
それでもなかなか伝わらず、主人も私も疲れきってしまうこともしばしばです。
このような状態の中、今、主人と私の一番の楽しみは、月1回の近藤先生が往診に来られた
時にして下さる「音楽療法」です。音楽療法士の木村先生のキーボードの演奏に合わせて先
生が歌ってくださいます。季節に合った唱歌や演歌など私も一緒に歌います。昔を思い出し
ながら・・・。月1回我が家での音楽会です。主人は歌うのも聞くのも好きな方でしたから、そ
の頃のことを思い出してか、涙ぐんだり、笑ったりして、かすかに口を動かしています。病気
の事もつらさも忘れてしまったかの様に楽しいひと時を私たちは過ごしています。主人のう
れしそうな顔を見ていると、私も介護の疲れが吹き飛ぶ様な感じがします。
主人は、病院や施設に入るよりこの家が大好きです。これからもこの家で看護師さんやヘ
ルパーさん、その他大勢の方の支援を受けながら、過ごして行きたいと思います。
皆様方のお力添えがなかったら私どもの生活は成り立つ事はできません。いくら感謝して
もしきれない程の毎日を過ごさせていただいております。これからもまた迷惑をおかけいた
しますが、どうぞよろしくお願いたします。
(公立八鹿病院の御家族様より寄稿
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平成15年3月
機関紙より)
第2回
神経難病における音楽療法を考える会
関係者名簿
◆世話人
近藤
清彦(代表)公立八鹿病院 神経内科
中島
孝
独立行政法人 国立病院機構 新潟病院
美原
盤
財団法人 脳血管研究所 美原記念病院
生駒
一憲
北海道大学大学院 医学研究科 リハビリテーション医学
市江
雅芳
東北大学 未来科学技術共同研究センター 音楽音響医学創製分野
上杉
春雄
札幌山の上病院
近藤
里美
北海道医療大学 看護福祉学部
鈴木
則宏
慶応大学 神経内科
寺山
靖夫
岩手医科大学 神経内科
中山
ヒサ子
札幌大谷短期大学 音楽科
永野
裕見子
医療法人 矢津内科消化器科クリニック
林
明人
順天堂大学医学部 脳神経内科 リハビリテーション医学
矢津
剛
医療法人 矢津内科消化器科クリニック
吉井
文均
東海大学 神経内科
志水
哲雄
東海大学芸術学部音楽療法学科
成田
有吾
三重大学神経内科
佐藤
正之
三重大学神経内科
田代
邦雄
北海道医療大学 心理科学部
木村
格
独立行政法人 国立病院機構 西多賀病院
田平
武
国立長寿医療センター研究所
西澤
正豊
新潟大学脳研究所神経内科
木村
百合香
公立八鹿病院 中央リハビリテーション科
生駒
真有美
北海道大学病院
相澤
勝健
財団法人 脳血管研究所 美原記念病院 地域連携室
小黒
須美子
千葉県
岩崎
広子
特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班事務局
◆顧
神経内科
問
◆事務局
木更津市
<事務局>
公立八鹿病院
〒667-8555
音楽療法室
兵庫県養父市八鹿町八鹿 1878-1
E-mail:music@hosp.yoka.hyogo.jp
TEL:079-662-5555(代)
FAX:079-662-3134
23
利き手交換した左手にて
兵庫県・佐藤恵子
「音楽は不思議ですね。折々に感じるものが違います。」
日本ALS協会会長
24
橋本
操