トリアージ判定ドリル

トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
トリアージ判定ドリル
下
初級 2 & 中級
ケガ人を前にして、さぁ、あなたがトリアージ判定を行います。不安は
隠せません。でも、あわてることはありません。トリアージの目的は、
重症のケガ人を見つけて病院に運ぶこと、治療は医師がしてくれます。
頼りになる判定表があります。要領が分かると判定時間は15秒もかか
りません。初級、中級あわせて16の症例を用意しました。
誰でもできるそのコツとは?
著:小林 一郎
アサヒカコー株式会社
トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
トリアージ判定では「市民トリアージ表」を頼りにします。これは静岡市のNPO法人「災害・医
療・町づくり」が作成したもので、一般のトリアージ表とは若干異なる点があります。東海地震を想
定した場合、建物や家具の下敷きになるケースが予想されます。無事救出されても手足の筋肉などが
壊死するクラッシュ症候群の心配があります。クラッシュは重症です。即搬送・即治療の対象です。
発災から2時間を過ぎたら、そこを第一に見ます。さらに、ケガ人のうち重傷者は多くて20%、他
は中等症から軽傷です。その大半を速やかに見つければ、残りは赤タグ・重傷者となります。元気な
ケガ人は緑タグ、そこを分類できればトリアージ判定は効率的に進みます。すべての出発点、それが
「市民トリアージ表」です。
問い合わせ先:
NPO法人 災害・医療・町づくり事務局 triage@po4.across.or.jp
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トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
ドリル 初級2
ドリル初級2は6例を取り上げます。2000年代に起きた地震で比較的多かった症例と、どんな地域で
も起きうる症例を選んでいます。けがの状況を想像すると一刻も早く本格治療を始めなくてはと考え
がちですが、そこは冷静にデータに基づいた判断を試みてください。このドリルはそれを理解するこ
とを目的としています。
症例7:62才 男性 <右足関節捻挫、右膝関節靱帯損傷 >
走って転倒した男性が運ばれてきました。右膝と右足を打っています。
右足首は腫れて痛くて歩くのが大変です。でも何とか歩けます。右膝は腫れていて曲げにくく、
痛がっています。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:16回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症例8:40才 男性 <左肘(ひじ)切創 >
左ひじをガラスで切った男性です。ずっと左肘を押えていますが、まだ出血していて止まりませ
ん。見ている側も出血にギョッとします。手のしびれも訴えています。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:16回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
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トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
ドリル 初級2
症例9:19才 女性 <右肋骨骨折、右肘靭帯損傷>
自転車で転倒、右胸と肘(ひじ)を打ちました。右胸は肋骨が折れています。右肘も靱帯が傷み、そ
れが痛みを引き起こしています。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:22回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症例10:53才 男性 <右下腿高度汚染挫滅創>
道路の割れ目に右下肢がはまり、何とか脱出した男性患者です。足の皮膚はめくれ、広範囲に筋肉ま
で挫滅しています。無理に引き出したからでしょうか、出血もあります。汚れも右足全体に残ってい
ます。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行、ムリ
3 自己呼吸
4 呼吸数:24回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症例11:24才 男性 <左鎖骨骨折、左肩関節脱臼骨折>
通行中、地震の揺れで落ちてきた電柱のトランスが左肩に当たりました。直撃はまぬがれたものの左
肩は変形しています。肩の痛はひどく、男性は指先のしびれも訴えています。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:24回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
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ドリル 初級2
症例12:33才 女性 <左上肢熱傷 9%>
ヤカンの熱湯を左腕にあびた女性です。やけどした左上肢全体が赤く水泡を作っています。水泡は破れて
いません。水で冷やしてきたと言っています。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:18回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
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ドリル 初級2 回答と解説
症例7:緑タグ
患者さんへの質問では、手足が挟まれた事実を最初に確認しますが、自転車での転倒ですから2時間
以上の圧迫はもちろんナシです。自分で歩けますし、呼吸も回数も平常です。目の前で痛がられると
何とかしてあげたくなりますが、元気なケガ人は緑タグと覚えましょう。
[コメント]
自転車での通行中に地震に遭うケースは地方ばかりでなく都市部でも十分あり得ます。ただ転んだの
なら軽傷ですむかもしれませんが、怖いのは物が落下してくるケースです。都市部のビル街では上空
からガラスのあるが降ってきたという例も福岡市でありました。この後の症例の中に電柱からトラ
ンスが落ちてきたケガを紹介しています。意外なことではなく、都市が過密になるほど落下物は新た
な脅威となるのです。
症例8: 緑タグ
市民トリアージ表をご覧ください。条件通り項目の一番から当てはめていきましょう。答えは緑、
その場で応急処置をすることになります。
[コメント]
水で傷口を洗い止血をします。傷口はきれいな布で圧迫するだけで血は止まります。災害現場での処
置法として〝ラップ療法〟と呼ぶものがあります。水で傷口を洗った後、消毒薬は使わずに切り傷を
ラップをグルグルっと巻きます。家庭用のラップです。これでも治癒の効果は期待でき、いまでは日
常の軽い外傷をラップ療法で治す医療機関も増えています。災害現場での必需品にサランラップとは
意外かもしれませんが、水が極度に少ない場所ではラップ一枚で手づかみができることから大変重
宝します。
症例9: 緑タグ
自転車が二題続きましたが、転倒すると、どこでもケガの対象になります。
今回も自力歩行、自力呼吸などの現状から判断して緑となります。
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ドリル 初級2 回答と解説
症例10:黄タグ
足の皮膚が裂け出血していて、筋肉も一部はつぶれていていますから見ていても痛々しい状況です。
汚れを取って洗浄し、適切な治療を施します。平常時ならすぐ治療となる外傷です。
症例11: 緑タグ
肩の骨が変形するくらいのケガでも、歩けて呼吸数が30回以下なら緑と判定します。
[コメント]
空からの脅威と説明しましたが、今後の災害では都市部で増えることが予想されます。では、2000
年代の地震災害で多かった外傷は何かというと、ガラスなどのよる切り傷です。新潟地震では20%く
らいになりました。それも、手と足にそれぞれにありました。割れたガラスを踏み抜いたり、落ちて
いるのを気づかず素手でつかんでしまうケースです。その対策としてあげられたのが、軍手や厚手の
スリッパの用意です。ガラスばかりでなく陶磁器も凶器になります。地震の後は〝割れ物に注意〟と
覚えましょう。防げるケガは未然に!です。
では、次に多かった外傷は何だったでしょうか。
症例12: 緑タグ
ヤケドは面積の大きさによって影響が違います。30%を超えると重傷です。今回の場合は9%でした
ので緑となりました。水泡はあるものの破れていないのも好都合でした。バイタルが平常値なので、
それからも緑と判定できます。
[コメント]
災害時の外傷の第二位はヤケドです。古くて揺るぎがたいものの代名詞のようですが、それほど地震
の揺れと同時に火を消しに行く行動が絶えないと言うことです。発生の時間帯にもよりますが、揺れ
たら何をするか、それも考えなくてはなりません。ガスコンロは強い地震では自動的に供給が止まり
ます。仮にお湯が沸いていたとしても、消しに行かず放っておくのも一つです。さらに、揺れの後、
室内の歩行にはブーツか厚手のスリッパを使えばガラスなどの切り傷も防げます。グラッときた
ら・・、この対策は重要です。おすすめは、「グラッときたら頭を守る」です。
都市でのビルの高層化は今後の自然災害に不確定な脅威を残します。都会であっても地方でも、その
不安は変わりません。都市化は本当に快適性に通じるのか、信じる前に自らの安全への処方を考える
余裕が欲しいものです。
この後は、ドリル中級へ進みます。
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トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
ドリル 中級
災害時は軽症か中等症かの判断も素人にはつきません。そこで役立つのがスタート方式です。医師など
が治療の現場で実際に使っている判断方式で、それをチャートにしたものです。このホームページでも
「市民トリアージ表」としてご紹介しています。このチャートに従って進めていくと、おおよその判定
と間違いの少ない結果を導けます。中級では軽症でない疾病=ケガを扱います。難しいかもしれません
が、あわてず患者の容体とバイタルを基に判断していきまょう。
症例13:37才 男性 <右緊張性気胸>
ブロック塀が倒れて来てそこに強く胸を打ちました。ケガをした男性は苦しそうに息をしています。右胸
が痛み元気がありません。声も出せません。
【医療現状】
1 胸の圧迫。2時間は、はさまれていない
2 自力歩行、ムリ
3 自己呼吸
4 呼吸数:30回
5 手首の動脈:触れナイ
6 指示への応答、かすかにアリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症例14:30才 男性 <左眼球破裂>
飛んで来た瓦が左目に当たり 左眼球が破裂しました。ケガ人は「左眼が痛い、早く医者に連れて行っ
てくれ」と叫び続けています。周囲をはばからない勢いです。出血もしています。
【医療現状】
1 胸の圧迫。2時間は、はさまれていない
2 自力歩行
3 自己呼吸
4 呼吸数:18回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
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トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
ドリル 中級
症例15:57才 女性 <両下腿熱傷 16% >
湯沸かし器が倒れ熱湯を浴びました。両膝から足まで水ぶくれになっています。冷やすなどの処置は
していません。痛みはかなりあります。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行、ムリ
3 自己呼吸
4 呼吸数:20回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、アリ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症例16:47才 男性 <急性硬膜外血腫>
地震の揺れで自宅の2階から転落した男性。運ばれてきましたが、意識がありません。呼びかけて
も反応がありません。
【医療現状】
1 手足の圧迫、ナシ
2 自力歩行、ムリ
3 自己呼吸
4 呼吸数:10回
5 手首の動脈:触れる
6 指示への応答、ナシ ● あなたの判定 → 赤:黄:緑 どれ?
症状の重いものが中心です。呼びかけなどの意識に関わる記述に注目して判定を進めてください。
外傷の大きさばかりでなく、呼吸数も大事な判定要素になります。あなたはどう看るでしょうか。
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ドリル 中級 回答と解説
症例13:赤タグ
この症例で注目すべきは、自力歩行が出来ないこと、呼吸数が30回であることです。
チャートの2,4番をみてください。赤タグへとなっていますね。ケガ人が痛みから元気がない様子や手首
の振れがないことも事態の重大さを物語っています。
[コメント]
塀が倒れてきて下敷きになるケースが仙台地震でありました。ブロック塀があるところでは塀に沿って
歩くのは危険ですというメッセージはその時の経験から生まれたものです。どのように崩れるのか分か
らないものは近づかない!それを徹底するのも身を守る一つの方法です。電柱のトランスが落ちてきた
ように大きな構造物との接触は人に勝ち目はありません。ケガ人を見つけたら素早い救出とケガの部位
の確認、歩行・呼吸・意識のチェックを。
症例14:黄色タグ
眼球が破裂して飛び出しているのに黄色タグとは無情のように思われます。普段だったらすぐにでも治
療を始めるところです。あくまでも多くの重傷者がいて医療環境が逼迫しているという前提でこの症例
は考えていますので、厳しい判定のようにとれるかもしれません。バイタルは自力歩行可能で呼吸数は
18回とあります。これも大事な指標です。
[コメント]
この例題を考えた医師は、判定が分からなくなったときの解決法を次のようにアドバイスしています。
スタート方式は、あくまでも目安ですので、一目で重症な外傷であることが明らかな場合には、所見に
とらわれず、赤タッグや黄タッグと判定して結構です。又、判定に迷った時は重い方のタッグを選んで下
さい (赤か? 黄か?→ 赤。黄か?緑か?→ 黄)。
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トリアージ判定ドリル 2010年8月版 アサヒカコー株式会社 http://www.asahikako.jp/
ドリル 中級 回答と解説
症例15: 黄色タグ
[コメント]
全体の16%だから大したことことはない、とはいきません。下肢のほとんどがヤケドしていると考え
られます。熱湯を浴びる例は本当に多く、火を使っていると反射的に火を消そうと動いてしまうので
す。地震はランダムな揺れとなって襲いますから、火は消したものの次の一撃で熱湯を浴びることもあ
り得ます。揺れがおさまるまでは、まず自分の身の安全です。
症例16: 赤タグ
2階から落ちて頭を打ち意識がない男性。呼びかけても反応がありません。トリアージ表では2番の
「歩けるか?」からはじめ、Noで先に進み4番で呼吸数が30回以下でさらに進みます。手首はかすか
に触れるものの、意識がない点に注目。頭の中に脳を圧迫する何かが起きているのです。
[コメント]
トリアージで難しいのは、この症例のように意識がなくグッタリしている人は重傷だと分かりますが、
次に何をしたらよいのか、そこが分からないことです。平常時なら救急車を呼ぶことで最初の行動は終
わりますが、災害現場では救急車はおろか医師も看護師も来ません。もしあるとすれば、救護や看護の
経験のある人が応援に駆けつけることでしょうか。それでも戦力としては少数でしょうから、現場の力
とならざるを得ないのが医療経験のない地元の人たちです。それでも、ケガもなく無事な人は少ないか
もしれません。その人たちがケガ人を近くの病院まで運び、付き添わなくなはならないのです。運ぶ手
段も考えなくてはなりません。咄嗟にどうするのか。何を使うのか ... 、結構な難題です。
トリアージ訓練では、判定に注意が行きがちですが、大切なのはトータルとしての仕事量の把握です。
ですからトリアージ訓練はシミュレーションと考えて、様々に予想される事態を洗い出す機会にすれば
良いのです。考えておかなかったことは実行に移せない。これは何事にも通じる事実です。
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このドリルに関するご質問・お問い合わせは ...
アサヒカコー株式会社 トリアージ担当
小林一郎 joak0204@me.com
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