緑の国勢調査-日本の自然の現状と経年変化

東京大学農学部27年度Wターム「自然保護論」
(木曜日 担当教官:笹岡達男)
第4回「緑の国勢調査-日本の自然の現状と経年変化-」
(1月14日2限)
1 自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)
(1)緑の国勢調査(自然環境保全基礎調査)とは?
・ 緑の国勢調査の生い立ち ・・・ 環境庁発足後の新規施策の目玉の一つ
1972 自然環境保全法(概ね5年ごとに基礎調査を実施)
1973 第1回緑の国勢調査(3年計画を1年でやるように予算が増額)
・ どんな調査があるのか?(調査項目とその変遷)
第1回は「自然度調査」
、
「すぐれた自然の調査」
、
「環境寄与度調査」の三本柱
第2回以降は、調査対象の拡大と精度向上に取り組む(講義資料参照)
(2)調査成果の例(どんなことがわかったのか?)
・ 全国の植生状況(自然植生は国土の 2 割弱)
陸域自然環境のベースマップとして活用
印刷図 → メッシュデータ化 → ベクトルデータ化(GIS 化)
・ 中・大型哺乳類の全国分布とその変化(クマ、サル、シカ、イノシシ等)
20年間(1970 年代→1990 年代)分布拡大の傾向が顕著
集落(人里)の後退 → 調査員も減少
・ 鳥類の繁殖分布とその変化
分布が縮小した種、拡大した種
日本野鳥の会のマンパワーで、20年ぶりの調査も実現
・ 動物分布図集(3,304 種類)
分類群ごとの専門家の協力により分布図を描ける種が増加
調査密度(精度)については、まだまだ精粗がある
・ 河川、湖沼、海岸の改変状況(人工構築物の有無、生物相など)
・ 干潟、藻場、サンゴ礁の減少状況(過去の地形図、空中写真等から)
人工化等の物理的改変状況や過去からの減少状況は概ね押さえた
生物相・生態系の把握と追跡が課題 → モニタリングサイト1000など
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・ 中長期的変化の記録(モニタリング)
初期の基礎調査では現状把握が主体となり、モニタリングまで及ばず
「モニタリングサイト1000」に引き継がれたところ
(3)調査成果の活用(どんなことに活かされるのか?)
・ 保全施策への活用
(例)保全地域、国立公園等の新設・拡張候補地の抽出
レッドリスト作成・改訂の資料
・ 環境アセスメントの資料
(例)開発予定地の概況を把握し、スコーピング(アセスの方法書)等に活用
戦略的環境アセスメント(計画段階のアセス)においてあらかじめ問題点
を把握
・ 学術研究の資料
(例)調査データは一定のルールにより公開され、学術論文等への利用も可
・ 自然環境のデータバンク
(例)貴重な自然から身近な自然まで、保全活動や環境学習の素材・ヒントに
(4)調査体制(誰が、どうやって調べるのか?)
・ 行政と研究のコラボレーション
特に 植生調査、動植物分布調査、浅海域生態系調査等
・ 人海戦術とリモートセンシングの組合せ
面的な把握には、空中写真、衛星画像の活用と、地上調査を併用
(現存植生図作成、各種改変状況調査等)
生物相・生態系調査は現地調査が基本。判別(同定)能力も必要
・ 十分ではない予算とマンパワーでどのように実施するか?
調査手法(サンプリングの精度や調査項目の精査)の検討
学会、NGO、ボランティアなど様々な形の協力を求める
それでも予算は足りないが・・・
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(5)調査成果の公開(どうしたらデータが手にはいるのか?)
・ データの公開と共有の重要性
(一方で絶滅危惧種の保護や、調査協力者の権利保護のため一部は非公開)
・ 印刷物 → 電子化 → GIS 化 → 現在はほぼ全てが Web から入手可能
(6)生物多様性センターと生物多様性情報システム
・ (センターの機能)①調査、②情報、③標本資料、④普及啓発
・ (情報システム)①生物多様性情報システム(J-IBIS)
、②生物多様性情報クリア
リングハウス、③インターネット自然研究所、④いきものログ etc.
(7)新たな展開
・ モニタリングサイト 1000
長期にわたって定点で繰り返し調査
生態系タイプ・地域区分別にサイトを選定(日本全国 1000 ヶ所以上)
タイプ別にとりまとめ団体や調査項目を検討
調査データの公開 → 報告書の他に速報やニュースレターを発行
(モニタリングサイト 1000 トップページ)http://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html
2 その他の自然環境調査
(1) レッドリスト/レッドデータブック(環境省)
生物多様性センターの検索ページ
http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_f.html
第4次レッドリストの公表について(環境省発表資料)
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15619
環境省レッドリスト 2015 の公表について(環境省発表資料)
http://www.env.go.jp/press/101457.html
(2) 日本の重要湿地500(環境省)
重要湿地500のページ
http://www.sizenken.biodic.go.jp/wetland/
(3) 定点調査(シギ・チドリ類、コアジサシ)
(環境省)
生物多様性センター
http://www.biodic.go.jp/teiten/teiten.html
→ 現在は「モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査」として継続
(4) ガンカモ類生息調査(環境省)
生物多様性センター
http://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html
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(5) 鳥類標識調査(環境省/山階鳥類研究所)
生物多様性センター
http://www.biodic.go.jp/banding/index.html
(6) 河川水辺の国勢調査(国土交通省)
河川環境データベース
http://mizukoku.nilim.go.jp/ksnkankyo/index.html
(7) 田んぼの生きもの調査(農林水産省)
田んぼの生きもの調査
http://www.acres.or.jp/Acres/chousa/main.htm
(8) 森林生態系多様性基礎調査(旧:森林資源モニタリング調査)
(林野庁)
林野庁
http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tayouseichousa/index.html
《配布資料》
講義資料集(1)
《第2回講義時配布済》 *印は今回講義に関係するもの
① 自然保護年表
② 尾瀬の資料
③ 自然環境保全制度の概要
④ 自然環境保全制度の歩み
⑤ 環境省自然環境局の組織
⑥ 自然環境保全基礎調査関連資料 *
!! 講義レジュメ・講義資料は、今回講義終了後以降、4 回分ごとを目安にまとめて森
林風致計画研究室「関連講義」Web サイトにアップする予定。
!! パスワードは板書する
《参考図書、情報等》
【今回講義関係】
※ 自然環境保全基礎調査報告書
ほとんどの報告書及び調査データ(現存植生図、動植物分布図等を含む)は、
「生物多
様性センター」ホームページ「自然環境調査」からダウンロードできる。
http://www.biodic.go.jp/ne_research.html
《講師への質問等の連絡先》 メールアドレス tsasaoka@qkamura.or.jp
すぐに返事できない場合もあるので悪しからず
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(別紙)平成 27 年度講義計画(2016/1/14 現在)一部変更有り
※網掛けは今回まで終了分
回数・日程
テーマ
備考(テーマの分類)
1(1/7)
ガイダンス、自然保護とは
2(1/7)
自然保護問題の時代的変遷
3(1/14)
自然環境保全制度の概要と経緯
4(1/14)
緑の国勢調査-日本の自然の現状と経年変化
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5(1/21)
国立公園思想の展開と自然公園体系
6(1/21)
自然公園の保護と利用Ⅰ(仕組み)
概論・歴史と現状
国立公園・保護地域
7(1/28)
自然公園の保護と利用Ⅱ(課題と展望)
8(1/28)
地球規模の自然保護Ⅰ(世界遺産条約等)
9(2/04)
野生生物の保護管理Ⅰ(鳥獣保護管理対策)
10(2/04)
野生生物の保護管理Ⅱ(希少種、外来種対策等)
11(2/29)
地球規模の自然保護Ⅱ(生物多様性条約等)
12(2/29)
生物多様性戦略
13(3/1)
環境アセスメントと自然保護
14(3/1)
総括(事例から学ぶ自然保護)
生物多様性・野生生物
その他
(注1) 講義の進捗状況あるいは講師の判断により、回数・日程とテーマの順序が変更
になる場合もあります。
(注2) 2 月 18 日は、講師都合により休講のため、補講を 3 月 1 日に行う予定です。
(1
限・2限、第 7 講義室)←通常と同じ
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