AIPLA コメント翻訳: Translation of AIPLA`s Comments 2015 年 8 月 6

AIPLA コメント翻訳: Translation of AIPLA’s Comments
2015 年 8 月 6 日
公正取引委員会
経済取引局 取引部 相談指導室
IP ガイドライン一部改正ご担当者様
〒100-8987 東京都千代田区霞が関 1-1-1
Via Fax: 011+81-3-3581-1948
Re:「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(ドラフト)の一部改正に関する
AIPLA コメント
公正取引委員会
御中:
アメリカ知的財産協会(AIPLA)は、標記の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指
針」(ドラフト)(以下 IP ガイドライン)につきまして謹んで意見を申し上げたく存じます。
アメリカ知的財産協会(AIPLA)は、民間、法人企業、政府、そして学会で活動している
主に弁護士である約 14,000 人の会員から成り立つ全米法曹協会です。AIPLA の会員は
個人、企業、特許・商標・著作権・トレードシークレットの業務に直接又は間接的に関与
する機関、そして不正競争防止法ならびに知的財産に影響を与える他の法律の分野まで、
広く多様な範囲を代理しております。会員は知的財産権の所有者そして使用者の両方を
代理しております。AIPLA の使命は健全な競争、合理的なコスト、及び、基本的な公
平と、公益のバランスを取りながら、発明を奨励し、もって公平かつ効果的な国際法と
国際政治を確立し、維持することを含みます。
以下のコメントは、公平、合理的、かつ非差別的(FRAND)な条項のライセンスを必要
とする契約において、標準必須特許(standard-essential patents :SEPs)の扱いに関する IP ガ
イドラインのパート 3(1)(i)(e)とパート 4(2)(iv)の新しい資料に焦点を合わせております。
AIPLA Comments to Japan Fair Trade Commission
August 6, 2015
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新しい規定は、SEP 保有者がライセンス希望者(willing licensee)に対して FRAND 条項で、
SEP をライセンスすることを拒否したり、あるいは、差し止めを求めるような状況につ
いて規定しております。我々が理解しているところでは、もし、ライセンス交渉が成立
しなかった後に、当事者が裁判所又は仲裁を介してライセンス条件を決定しようと意図
した場合、その当事者は“ライセンス希望者”と見なされるようです。改正案は、SEP
所有者がライセンスを拒否したり、あるいは差止め請求をした場合は、日本法の下で不
公正取引であると見なすようです。
一般的に、標準設定契約に基づく知的財産権に関する AIPLA の見解は、標準設定の活
動に透明性と柔軟性が必要であり、そして全ての利害関係者(出資者)が幅広く参加でき
る必要性を強調してきました。この点における利害関係者(出資者)とは、標準技術のユ
ーザーだけでなく、技術が利害関係者(出資者)の合意に基づいて、標準技術に含まれる
ことになる知的財産権の所有者も含みます。この一貫した見解に基づき、AIPLA は、
標準設定に関連して、技術開発に投資する意欲を維持し、そのような技術が標準設定努
力に貢献するように、強力な知的財産権(IPR)の保護が重要であることを指摘したいと
存じます。そのような発明に対する意欲が強く確実に残るように、標準設定組織
(Standards-Setting Organizations’: SSOs’)の IPR ポリシーは、特定の SSO ポリシーに記載
された特殊な場合を除いて、特許権者の権利に制約を課すべきではなく、又は、課すよ
うに解釈されるべきではないと考えております。
AIPLA への連絡先は下記の通りです。
American Intellectual Property Law Association
241 18th Street South, Suite 700
Arlington, VA 22202 USA
Phone: 703.415.0780
Fax:
703.415.0786
Email: atramposch@aipla.org
Please find below AIPLA’s comments on these issues as raised by the draft IP Guidelines.
AIPLA Comments to Japan Fair Trade Commission
August 6, 2015
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IP ガイドラインのドラフトに提起されたこれらの問題について、AIPLA のコメントを
以下に記載致します。
1. IP ガイドラインは契約違反の問題(争点)を不公正取引の問題(争点)に変えるべきで
はない
IP ガイドラインのドラフトに提案された新しいテキストのパート 4(2)(iv)は、SEP 所有
者がライセンスを拒否したり、あるいは差止命令の救済を求めたりすることは、たとえ
それらの行為が記載された製品市場において実質的に競争を制限しなかったとしても不
公正取引になると規定しています。
この幅広い提案は、不公正取引は競争に損害を与えているという証拠が必要であるとい
う、広く受け入れられている要件を放棄することになります。これは業界の利害のバラ
ンスを崩すものであり、IP ガイドラインは、業界標準契約に基づく特許技術の使用に
取り組む上でそのバランスを認識すべきでしょう。そのバランスは、SEPs を所有し、
新しい標準技術の為にリスクの高い技術革新へ投資をする技術革新者の利益を認識する
だけでなく、その標準技術を採用し、ライセンスを介してこのような革新的技術を利用
することを求める者の利益も認識する必要があります。
ほとんどの標準組織は、この基本的バランス 1を認識しています。それには、2 つの同
等に重要な目標を考慮する必要があります。一つ目は、(1)技術開発者に対して、公平、
合理的、かつ非差別的な条項のSEPsライセンスを通して、十分な補償を提供すること、
そして二つ目は、(2) 標準技術に準拠する製品を生産販売しようとする実地者のために
その技術への合理的なアクセスを確保することです。
FRANDとは、基本的には、特定の条件でライセンスを利用できるようにする自発的な
当事者間の商業協定です。しかし、ライセンサーとライセンシーの間の商業紛争の結果
1
The ETSI IPR Policy, by way of example, provides that “the ETSI IPR POLICY seeks a balance between the
needs of standardization for public use in the field of telecommunications and the rights of the owners of IPRs.”
ETSI Rules of Procedure, Annex 6, Sec. 3.1
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August 6, 2015
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としてFRANDライセンスが成立しなかった全てのケースが不公正取引の問題のレベル
まで引き上られるべきではありません。実際、不公正取引の追及の恐れがあるという脅
威だけでさえも、ライセンシーには本来有していない実質的な交渉力が与えられること
になります。このような脅威があることは、技術革新者が潜在的なライセンシー又は、
侵害者 2と交渉することを困難にし、早期における技術革新、標準化技術革新の開発を
阻止する可能性があります。
SEP が不当な主張を行っているという主張に関して行われる競争法の分析は、いかなる
ものも客観的な証拠と経済分析に基づくものでなければなりません。それを行わないこ
とは、標準設定環境を構成する微妙な利益のバランスを崩壊させる可能性があります。
改正提案は、FRAND紛争をFRAND紛争に関連する競争法の問題であると扱っています。
このような紛争は、一般的には、当事者間の契約問題として扱われることが適切で、競
争法が適用されるべきではありません。従って、IPガイドラインは、ライセンスを拒否
した場合、それとは別に更に不公正取引の要件も満していなければならない、というこ
とを明確にするべきです。参照IPガイドラインパート 3(1)(i)(d) 3。
2. 差し止め救済の利用可能性
IP ガイドライン改正案は、差止めを正当化するクレームと正当化しないクレームを区
別する基準を示していません。FRAND はライセンス希望者に技術をライセンスする
SEP 保有者の意思表示ですが、差止命令による救済を請求する権利を全面的に放棄させ
ることではありません。例えば、特許権者は FRAND レートを提供したが、ライセンシ
ーはそれを拒否したような場合など、差し止め命令による救済が利用可能であるべき状
2
Id. at 5-6
“Under the circumstances in which a product standard has been jointly established by several entrepreneurs, it may
fall under the exclusion of the business activities of other entrepreneurs when the right-holder refuses to grant
licenses so as to block any development or manufacture of any product with a standard, after pushing for
establishment of that standard, which employs a technology of the right-holder, through deceptive means, such as
falsification of the licensing conditions applicable in the event the technology is incorporated into the standard,
thereby obliging other entrepreneurs to receive a license to use the technology.” IP Guidelines, Part 3(1)(i)(d)
(emphasis added).
3
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August 6, 2015
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況があるかもしれません。同様に、特許権者は、必ずしも全ての状況で差止命令救済を
受ける権利が必要である訳ではありません。そのためにも、裁判所は特許権者は
FRAND 条件を守っているかどうかなど、衡平法の観点を検討する必要があります。
差止命令による救済の可能性があることは、適切な状況では必要で、例えばライセンシ
ーが FRAND ロイヤルティーを支払うことを拒否したり、支払いを不当に遅延したりす
る場合、SEP 保有者を守るための重要な方法です。差し止め命令による救済が利用でき
ない場合、SEP 保有者は SSO に参加すると権利を執行出来なくなったり、実質的に制
限されるので、SSO に加入するインセンティブが失われるでしょう。SEP 保有者が潜在
的なライセンシーが要求する条件のライセンスに同意できないことを正当化できる状況
はあり得ます。(例えば、潜在的なライセンシーが、直接的(明示的)に、あるいは間接的
(擬制的)に FRAND 条項の受け入れを拒否する場合など)
当事者が、「ライセンス希望者」であるか否かは、単に訴訟や調停を行う意図の有無を超
えた、様々な事実と状況によって異なります。例えば、SEP 保有者の相互ライセンスを
与える意図や、侵害者のローヤルティー支払い能力の欠如などがあります。他の例では、
侵害者がライセンスを進んで行うと思われていたが、最終的に合理的な条件でライセン
スを受けることを拒否したり、または、他のライセンシーよりも有利な条件を要求する
場合があります(特許権者は、差別を行ってはいけない義務を負っています)。
または、侵害者は、誠実に交渉すると主張していても、不当に長い時間交渉し、その間、
中間ローヤルティを支払わず、ライセンスを請けている者に比べて不当な利益を得るこ
とがあります。
そのような侵害者の行為はライセンスを「進んで受ける」とはいえませんが、IP ガイ
ドラインの改正案はこれらのライセンシーの区別をつけていません。潜在ライセンシー
が、特許権者は不当な要求をして FRAND の申し立てをしていない、あるいは受け入れ
ないと主張するだけで特許権者が差し止めを訴訟で要求できなくなるようにすべきでは
ないでしょう。
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August 6, 2015
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また、いずれの当事者も、FRAND レートの決定や差し止めによる救済の利用可能性を
含め、裁判所に判決を求めることができるようにすべきです。訴訟者は、たとえ SEP
保有者であれ、ライセンシーであれ、最終判決が出るまで、そしてその上訴に最終的決
着があるか、あるいは上訴するための有効期限が切れるまで、FRAND に違反している
とか、修正案の下で不公正取引があったと見なされるべきではありません。必要であれ
ば、地裁、又は控訴裁判所は差し止め命令を停止でき、そしてどの条項の停止を解除す
るべきか否かを決定するために、衡平法を考慮すべきでしょう。勿論、SSOs はそれぞ
れの IPR ポリシーにおいて差し止めを制限することは自由にできるべきです。
必要にとなるケースバイケースの分析に基づく指示がなければ、この改正部分は、SEP
保有者から、特許権者に明示的に与えられた独占権を実質的に奪うことになるでしょう。
3. 標準設定の IPR ポリシー
改正案は、SSO は、「一般的に…標準設定の参加者に対して何らかの必須特許(出願中を
含む)を保有しているということと、それらを FRAND 条項でライセンスを行うという
ことを明確に示す」ことを前提としています。パート 3(1)(i)(e)
もしそれが SSO は必須特許であることの決定を行わなければならないことを示唆して
いるとすると、それは誤りといえます。非常に重要なことは、開示しなければならない
という要件も、どのように表現しなければならないかということも、それはいかなるサ
イズの特許権者にとっても、特に大規模な特許権者にとっては非常な負担となることで
す。著名な SSO の大半は、会員に対して「関連する」特許を開示することを要求するこ
とは全くありません。そうではなく、普通は「必要」または「必須」の特許クレームを
含むであろうと考えられる特許の開示を求めます。
例えば、開示規定が、メンバーに対して定期的にその特許ポートフォリオを検索するこ
とを要求した場合、そのような義務に費やされる管理諸経費のために大手の特許所有機
関にとっては SSO に参加しなくなる十分な理由となります。この管理プロセスは、問
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題のクレームが出願中で修正される可能性があるときや、標準技術がまだドラフトフォ
ームであり、補正される可能性がある場合は更に複雑になります。標準技術はダイナミ
ックに進化します。特許クレームが不可欠であるか、または必須であるかどうかは、標
準技術が開発されている時間の経過と共に変化することが常にあります。特許が標準技
術を「読み込んで」いるか否かについて特許権者が決定することは非常に困難な場合があ
ります。また、大規模なポートフォリオの所有者は、それらの特許のいずれかがドラフ
トの規格案を読み取ることになるか、あるいは、特定のクレームの文言を厳密に分析す
ることは非常に困難です。更に、このような要件を課すことは大変な費用を課すことに
もなります。大規模な特許ポートフォリオを持つ組織では、標準技術への修正の効果を
決定し、ポートフォリオの包括的な見直しのために特許弁護士のチームを編成する必要
があることもあるでしょう。
また、秘密保持の問題のため、多くの SSO は、発行された特許および公開特許出願の
みの開示を要求するか奨励をしています。企業は、未公開の特許出願に関連する機密情
報の開示を躊躇するもので、特に、標準技術が開発途中で、特許クレームが必須のもの
として残るか不明の場合にはそうです。
4.
反 FRAND 特許(FRAND-Encumbered Patent)の新しい所有者への移転
IP ガイドラインの改正案は、標準設定時に元の特許所有者に課された FRAND の義務と
同じ義務を新しい特許譲受人にも課しています。
特許譲受人は、時として、法律上、移転された特許に課せられている既存の義務を負う
こととなりますが、AIPLA は、ガイドライン案では、SSO によって課せられた義務を
超えて、更なる FRAND の義務を課せられると解釈される恐れがあることを懸念してお
ります。
標準技術の対象となる製品を投資開発する者が知りたいことは、彼らは前任者に課せら
れたライセンス条件に依存することが出来るかということです。
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AIPLA が指摘させていただきたい点は、標準技術を起草する時には、SSO と参加者達
は、特許権者が宣言するライセンス義務は、その組織自体と将来の特許権者を拘束する、
という規定を含んでいるかという点です。AIPLA が更に提案したい点は、SSO の IPR
ポリシーは、そのような義務は新しい権利者(破産手続きによる承継者を含む)へ移転さ
れても継続され残ることを奨励することと、その旨の規定が宣言書例に記載されている
ことです。
5. 不公正取引となるためには競争への影響が必要
ある行為が不公正取引になるという結論は、競争に悪影響を及ぼすという事実認定に基
づいている必要があります。一般的に、競争法は、問題の行為は事実上、常に反競争的
であり、正当化は一切できない場合のみであるという市場への影響の証明までは必要と
しません。しかし、特許保有者がライセンスを拒否する場合や、ライセンシーが
FRAND 条項でライセンスを得ることを好まない場合に、差し止め命令による救済を求
めることが常に反競争的効果をもたらすと推定することは、競争法の原理に反し、技術
革新を阻害します。
従って、我々はパート 4(2)(iv)では、反 FRAND SEPs からのライセンスでも競争的結果
が生じ得るということと、不公正取引法の違反は反競争効果を示す経済的分析によって
支持される客観的な証拠がある場合にのみ立証されるということを明記することをお勧
めします。
最後に、AIPLA は、特許と標準化に関するアンケート調査への応答コメントを提供さ
せていただく機会が得られたことを感謝しております。上述のいずれかの問題に関して
我々が追加情報を提供すべき場合は、前記宛先までご連絡ください。
草々
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August 6, 2015
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シャロン・A・イスラエル
プレジデント
アメリカ知的財産協会