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日本デジタルゲーム学会
Digital Games Research Association JAPAN
2015 年 年次大会 予稿集
Proceedings of 2015 Annual Conference
日本のゲーム開発におけるプロジェクト管理手法の現状
今給黎 隆ⅰ
田口 昌宏ⅱ
ⅰ
ⅱ
株式会社セガゲームス 〒144-8531 東京都大田区羽田 1-2-12
株式会社スクウェア・エニックス 〒160-8430 東京都新宿区新宿 6-27-30
E-mail: ⅰImagire_Takashi@sega.co.jp, Ⅱtagmasah@square-enix.com
概要 CEDEC 2015 で開催したラウンドテーブル「プロダクション分野のプロセスマネジメントについてコラボ
レーションツールやプロジェクト管理を中心に語るラウンドテーブル」の結果の分析を行い、CEDEC 2011 でのラ
ウンドテーブルとの結果の比較などを行った。プロジェクト管理ツールとして、近年 5 年間にわたり Redmine が広
く用いられ、オープンソースに関するプロジェクト管理ツールの寡占化が進んでいることが判明した。また、
「管理
ツールの導入方法」
、「進捗の確認手法」
、「仕様変更の共有方法」が開発者が興味を持っているテーマであり、各現
場で工夫をして対応していることも見て取れた。
キーワード プロジェクト管理, ゲーム開発, テレビゲーム
1.
はじめに
ターエンターテイメントデベロッパーズカンファレン
本研究では、CEDEC 2015 で開催した「プロダクシ
ス) におけるラウンドテーブルがある。粉川ら [3] は、
ョン分野のプロセスマネジメントについてコラボレー
CEDEC 2011 において、
「ゲーム開発効率化/品質向上ツ
ションツールやプロジェクト管理を中心に語るラウン
ール ラウンドテーブル」として、ゲーム開発の効率
ドテーブル」を主素材として、2015 年時点でのゲーム
化・高品質化のためのラウンドテーブルを開催した。
開発におけるプロジェクト管理手法に関する情報の取
また、田口ら[4]は、CEDEC 2014 においてプロジェクト
りまとめを行った。日本のゲーム開発において現場で
の進め方に関するラウンドテーブルを行った。しかし
用いられている開発手法を集積した資料は極めて少な
ながら、この際の議論の内容は、非参加者に誤解され
い。各社の情報を集積し、傾向の調査と将来の指針を
る可能性が高いとして、一般に公開されていない。
導くことは、開発競争力を向上させるために重要であ
り、情報を公開された形で残すことにより、業界全体
の開発力の向上への貢献を行う。
3.
調査手法
著者らは、CEDEC 2015 においてプロセスマネジメン
トに関するラウンドテーブルを開催した
2.
従来研究
[4]
。ラウンド
テーブルでは、優先入場者としてディスカッションの
ゲーム開発におけるプロジェクト管理技法に関して、
テーマを提示した参加者を議論しやすい席に誘導し、
複数の企業の手法について取りまとめた情報は多くは
それ以外の参加者を円卓から遠い席に誘導を行うこと
ない。GDC (Game Developers Conference) において、
による、積極的な参加者からより多く意見を引き出す
[1]
「Technical Issues in Tools Development」 の名称でラウ
ンドテーブルが行われており、その場では各企業の手
法が調査・議論されている。2014 年の GDC のディスカ
ための技法を採用した。
また、得られた結果を粉川ら[3]の結果と比較し、ゲー
ム開発の管理手法の推移について検討を行った。
[2]
ッションは、Geoff が議事録を公開しているが、必ずし
も議事録が開示されるわけではない。
日本における同様の調査として、CEDEC (コンピュー
4.
調査結果
表1
ツー
プロジェクト管理ツールの利用割合。1%未満のツールは非掲載。ツールの価格は、2016 年 1 月時点。
Excel
(1)
今回
JIRA
(2)
ル名
価格
Red-
¥540/ユーザー
Hansoft
(4)
Project
(3)
mine
Software
無料
$450/
月
$28/ ユ ー ザ
¥85,104
¥32,400/
(Project
月 /100
Standard)
ユーザ
/100 ユーザ
ー
Business
ー
(Professional)
Essentials)
Software)
調査
60~
(JIRA
5%程度
Brabio!
(7)
Trac
(6)
/ 月 (Office 365
50%
(5)
/
月
Man(8)
tis
無料
無料
内製ツ
付箋紙
ール
-
¥1,296/450
枚(3M)
ー
2%程度
1%程度
1%程度
なし
なし
なし
1,2 か月の
タスク管
70%
理例あり
粉川
2011
5%程度
70~
5%程度
なし
なし
なし
30%
30%
4%程度
3%程度
80%
4.1 プロジェクト管理ツールの利用度合い
参加者が利用している管理ツールに関して、会場で
調査した結果を表 1 にまとめた。利用率が 1%に満たな
いツールに関しては記載から外した。プロジェクト・
会社において複数のツールが使われている場合がある
ため、全ツールの割合の合計は 100%にならない。比較
として粉川ら[3]による調査の結果を「粉川 2011」の項
目に併記した。ただし、調査方法として、利用してい
るツールを聞いた後に、他にも使用している人を訪ね
る手法での人数の算出ステップをツール毎に行ったた
図1
CEDEC 2015 のラウンドテーブルの様子
め、調査した順番により利用率が偏っている可能性が
高い。また、詳細な利用度合いを定義していないため、
ラウンドテーブルでは円卓の周りに着席する主とし
て議論する参加者が 15 名程度、議論する参加者の外側
に着席する参加者が 85 名程度着席した。参加者数は、
計 98 名であった(図 1)。100 名弱の参加者では、ゲーム
業界全体の意見を吸い上げたとは言えないが、ラウン
ドテーブルへの参加者はプロジェクト管理に興味を持
つ開発者であるため、無作為なアンケートよりも精度
の高い情報が得られていると期待できる。
以下では、ラウンドテーブルの際に参加者にヒアリ
ングした利用ツールの調査の分析と、参加者が強く興
味を持った議題に関する評価を行う。
特に表計算ツールや付箋紙などの汎用性が高いツール
において、調査割合の数値の信頼性は低下している可
能性がある。さらに、
「粉川 2011」の調査とは、ラウン
ドテーブルの題目が異なるために、参加者の属性が異
なり、調査結果も異なる傾向が見られると考えるべき
である。
上記点を踏まえても、
「粉川 2011」の調査と比較して、
以下のゲーム開発の状況が読み取れる。
(1) Redmine の利用率は高い状態が続いている
(2) Trac や Mantis 等の Redmine 以外の OSS ツールの
利用率は低下
(3) 内製ツールの利用率の低下
(4) クラウドサービスが利用され始めている
オープンソフトウェアの管理ソフトに関して Trac 等
責任をもって進捗を把握しているというコメントが上
が使われなくなってきていることや、内製ツールの利
がった。デイリーミーティングを推奨するアジャイル
用の低下から、Redmine やそのプラグインによる管理へ
な考え方では、リーダーを置かず、チーム全員が進捗
の移行というツールの寡占化が進んでいることが分か
全体を把握することを目標とされるが、そのような体
る。また、クラウドの管理ツールの利用がみられるが、
制となっていないのは、大規模開発などで変更の発生
今後、複数の会社の協力体制において、セキュリティ
が少ない場合の最適化の結果であることが考えられ、
面と即時性の点から、これらサービスの利用率の向上
さらなる調査を必要とする。
が推測される。
4.4 仕様変更の共有方法
4.2 管理ツールの導入方法
仕様変更した際に、それをプロジェクト全体に共有
ラウンドテーブルにおいて、参加者が興味を強く持
する手法についても議題に上がった。仕様変更を共有
った議題の一つがプロジェクトに対する管理ツールの
する説明会を開催する参加者が複数おり、時間をかけ
導入方法についてであった。エンジニアに対しては、
ても全員に説明会を行うという発言もあった。また、
ツールを導入することでタスク管理以外にもドキュメ
プロジェクトによっては、Redmine に仕様を追加した時
ントや日報をつける習慣がついたという良い報告があ
点でメールで変更点を発信することで説明会を補強し
った一方、アーティストへの導入が難しいので、アド
ている。説明会の随時開催は非効率に感じられる向き
バイスをいただきたいという意見も存在していた(セ
もあるが、各プロジェクトでの失敗の対策として実証
ッションでは、プラグインの導入により、見た目を変
論的に確立してきた手法ととらえると、開発手法の新
えることは可能であるが、カスタムクエリによるフィ
たなパターンの顕在化と考えられ興味深い。
ルタリングになれることがカスタマイズよりも使い勝
手に影響するというコメントが得られている)。見た目
5.
まとめ
を変えることに関しては、導入時に各個人に個別の見
CEDEC 2015 で行ったラウンドテーブルの結果の分
た目を変えるテンプレートを準備することで導入をス
析から、ゲーム開発におけるプロジェクト管理手法の
ムーズに進めた例も聞かれた。なお、アーティストに
現状の取りまとめを行った。ゲーム開発では、海外を
よる評価が低い点としては、管理ツールは主としてテ
はじめとする開発の委託やアセットデータの社外発注
キストによる情報伝達を主としているため、視覚的な
という協力会社との連携であったり、売り上げ予測の
情報を多く取り扱うセクションでは、機能が不足して
難しさから生じるリリース計画の難易度の高さや、開
いるなどのツールと管理プロセスのミスマッチもある
発規模の大きさ・早さのばらつきの大きさから、プロ
ものと推測できる。
ジェクト管理は統一された一つの手法にまとまること
他の導入のための工夫として、チュートリアルのペ
はないと推測されるが、効果的な管理方法はある程度
ージを作成することで、抵抗感を減らす工夫をしてい
の数のベストプラクティスにまとめられることが期待
る意見も聞かれた。
できるため、本研究を基に、望まれるべき管理手法と
その手法への移行について、さらなる研究が望まれる。
4.3 進捗の確認手法
なお、本研究では、調査内容がラウンドテーブルの
進捗状況を確認するための方法としては、参加者の
参加者に限られているため、開発手法に興味を持って
60~70%がデイリーミーティングを実施していること
いる開発者による意見という偏りが存在する。今後、
が判明した。進捗の漏れを防ぐための工夫として、デ
網羅的な調査を行うことにより、より精度の高い状況
イリーミーティングを実施するとともに、リーダーが
の分析を行いたい。
文
献
[1] Geoff Evans (2016). Technical Issues in Tools
Development: Revision Control, Continuous
Integration, and Automated Testing Day 1,
Game Developers Conference 2016.
[2] Geoff Evans (2014). Technical Issues in Tools (Day 1),
The
Toolsmiths
<
http://www.thetoolsmiths.org/2014/03/19/technical-iss
ues-in-tools-day-1/> (2014/3/19).
[3] 粉川 貴至, 益 弘和 (2011). ゲーム開発効率化/品
質 向 上 ツ ー ル ラ ウ ン ド テ ー ブ ル , Computer
Entertainment Developers Conference 2011.
[4] 田口 昌宏, 松元 健, 今給黎 隆 (2014). 百花繚
乱 ! プ ロ ジ ェ ク トの 進 め方 ラ ウ ン ド テ ー ブル ,
Computer
Entertainment
Conference 2014.
Developers
[5] 田口 昌宏, 今給黎 隆 (2015). プロダクション分
野のプロセスマネジメントについてコラボレーシ
ョンツールやプロジェクト管理を中心に語るラウ
ン ド テ ー ブ ル , Computer Entertainment
Developers Conference 2015.
ソフトウェア
(1) 『Excel』
,マイクロソフト,1985.(Windows)
(2) 『Redmine』, Jean-Philippe Lang, 2006. (クロス
プラットフォーム)
(3) 『JIRA Software』, アトラシアン, 2002. (クロス
プラットフォーム)
(4) 『Hansoft』, Hansoft, 2002. (クロスプラットフォ
ーム)
(5) 『Project』,マイクロソフト,1984. (Windows)
(6) 『Brabio!』,ブラビオ株式会社,2009. (Web サー
ビス)
(7) 『Trac』, Edgewall Software, 2006. (クロスプラッ
トフォーム)
(8) 『Mantis Bug Tracker』, MantisBT, 2000. (クロ
スプラットフォーム)
Current status of project management techniques on the game development in
Japan
Takashi IMAGIREⅰ
ⅰ
SEGA Games Co., Ltd.
and
Masahiro TAGUCHIⅱ
1-2-12 Haneda, Ohta-ku, Tokyo, 144-8531 Japan
ⅱ
SQUARE ENIX CO., LTD. 6-27-30 Shinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo, 160-8430 Japan
E-mail:
ⅰ
Imagire_Takashi@sega.co.jp,
ⅱ
tagmasah@square-enix.com
Abstract We evaluated the results of a round table "Collaboration tools and project management round table with
respect to the process management on the production field," which was held in CEDEC 2015, and compared with results
of a past round table. As a project management tool, Redmine is widely used over recent five years; it has been found
that the oligopoly of the project management tools in the open source is progressing. In addition, "methods of
introducing management tools", "verify progress", "method of sharing specification change" are the themes that
interested developers, we also confirmed that developers have been devised a better method in each project.
Keywords
Project Management,Game Development, Video Games