スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 クルクミン投 与 がカルディオトキシン誘 導 性 筋 損 傷 における 炎 症 反 応 、酸 化 ストレスおよび炎 症 細 胞 浸 潤 に及 ぼす影 響 Effects of curcumin administration on inflammatory reactions, oxidative stress and inflammatory cell infiltration in cardiotoxin-induced muscle damage 1) 加藤孝基 ,川 西 範 明 大塚喜彦 3) 1) ,高 橋 将 記 ,今 泉 厚 3) 1) ,椎 葉 大 輔 ,鈴 木 克 彦 2) , 4) Kouki Kato 1 ) , Noriaki Kawanishi 1 ) , Masaki Takahashi 1 ) , Daisuke Shiva 2) , Yoshihiko Otsuka 3 ) , Atsushi Imaizumi 3 ) , Katsuhiko Suzuki 4 ) 1) 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 研 究 科 2) 倉敷芸術科学大学生命科学部 3) 4) 1) 2) 株 式 会 社 セラバリューズ 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 学 術 院 Graduate school of Sport Sciences, Waseda University College of Life Science, Kurashiki University of Science and the Arts 3) 4) THERAVALUES CORPORATION Faculty of Sport Sciences, Waseda University キーワード: 炎 症 反 応 、筋 損 傷 、酸 化 ストレス、マクロファージ、好 中 球 Key words: inflammation, muscle damage, oxidative stress, macrophage, neutrophil 抄 録 【緒 言 】運 動 や外 傷 に伴 う筋 組 織 の損 傷 時 には、炎 症 反 応 および酸 化 ストレスが誘 導 されることが知 られている。近 年 、クルクミンは抗 炎 症 作 用 および抗 酸 化 作 用 を示 すことが知 られている。したがって、 クルクミンの示 すこれらの作 用 が、筋 損 傷 後 の組 織 の炎 症 反 応 および酸 化 ストレスにも影 響 を及 ぼす 可 能 性 が考 えられる。そこで本 研 究 では、カルディオトキシン誘 導 性 の筋 損 傷 モデルを用 いて、クルク ミン投 与 が炎 症 反 応 および酸 化 ストレスに及 ぼす影 響 を明 らかにすることを目 的 とした。 【方 法 】9 週 齢 の C57BL/6J 雄 マウス (n=14)の片 足 脚 の前 脛 骨 筋 にカルディオトキシン、反 対 脚 の前 脛 骨 筋 に対 照 として PBS を注 入 した。また、クルクミン投 与 群 にはカルディオトキシン投 与 直 後 にクル クミン 3mg を含 む PBS 溶 液 を経 口 投 与 し、対 照 群 には PBS を同 量 経 口 投 与 した。クルクミン投 与 24 時 間 後 に採 血 および前 脛 骨 筋 を摘 出 した。筋 組 織 中 のサイトカインのタンパク質 濃 度 は ELISA 法 を 用 いて測 定 した。また、遺 伝 子 発 現 量 は real-time PCR 法 を用 いて測 定 した。 【結 果 】骨 格 筋 組 織 内 における炎 症 性 サイトカインタンパク質 濃 度 および遺 伝 子 発 現 量 は、カルディ オトキシン投 与 脚 において PBS 投 与 脚 と比 較 して有 意 に高 かった。しかしながら、クルクミン投 与 によ る有 意 な抑 制 はみられなかった。同 様 に hydrogen peroxide および NADPH-oxidase の遺 伝 子 発 現 29 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 は、カルディオトキシン投 与 脚 において PBS 投 与 脚 と比 較 して有 意 に高 かった。しかしながら、クルクミ ン投 与 による有 意 な抑 制 はみられなかった。 【結 論 】クルクミン投 与 はカルディオトキシン誘 導 性 筋 損 傷 後 の炎 症 反 応 および酸 化 ストレスに影 響 を 及 ぼさない可 能 性 が示 された。 スポーツ科 学 研 究 , 9, 29-40, 2012 年 , 受 付 日 :2011 年 9 月 1 日 , 受 理 日 :2012 年 4 月 30 日 連 絡 先 : 鈴 木 克 彦 〒359-1192 埼 玉 県 所 沢 市 三 ヶ島 2-579-15 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 学 術 院 Tel & Fax: 04-2947-6898 E-mail: katsu.suzu@waseda.jp Ⅰ. 緒 言 ファージや好 中 球 が関 与 する可 能 性 が考 えら 運 動 や外 傷 に伴 い骨 格 筋 組 織 の損 傷 が引 れる。 き起 こされる と、炎 症 反 応 および酸 化 ストレスが 天 然 ウコンの主 成 分 であるクルクミンは様 々 誘 導 されることが知 られている。実 際 に、圧 迫 損 な疾 患 モデルにおいて抗 炎 症 作 用 、抗 酸 化 作 傷 および薬 物 投 与 誘 導 性 筋 損 傷 モデルを用 い 用 を示 すことが明 らかにされている (Biswas SK た動 物 実 験 において、損 傷 後 の前 脛 骨 筋 で炎 et al., 2005; Menon VP and Sudheer AR, 症 性 サ イ ト カ イ ン の 一 種 で あ る TNF- α の 遺 伝 2007) 。 実 際 に 、 ク ル ク ミ ン は 誘 導 性 一 酸 化 窒 子発現が増加することが報告されている 素 合 成 酵 素 (iNOS)の産 生 を抑 制 することが明 (Collins RA and Grounds MD, 2001; Pelosi L らかにされている (Aggarwal BB et al., 2004)。 et al., 2007)。ヒトを対 象 とした研 究 においても、 iNOS はフリーラジカルの NO 産 生 を誘 導 するこ 筋 損 傷 を誘 発 するダウンヒル運 動 後 には外 側 とにより TNF-αなどの炎 症 反 応 を増 幅 させる。 広 筋 の IL-1βの遺 伝 子 発 現 が増 加 することが さらに、クルクミンは、腸 での吸 収 によりテトラヒド 報 告 されている (Fielding RA et al., 1993)。ま ロ ク ル クミ ンと い う 抗 酸 化 物 質 に 変 化 す る こ とが た、マウスにおいてダウンヒル運 動 後 に腓 腹 筋 知 られており (Osawa T et al., 1995)、テトラヒド の 過 酸 化 水 素 (hydrogen peroxide: H 2 O 2 ) や ロクルクミンはマウスの生 体 内 酸 化 を抑 制 するこ 一 酸 化 窒 素 (NO) の 濃 度 が 増 加 す る こ と が 報 と が 報 告 さ れ て い る ( 角 ら 、 2001) 。 興 味 深 い こ 告 さ れ て い る 2010; とに、近 年 ダウンヒル 運 動 を用 い た動 物 実 験 に 2010) 。 H 2 O 2 は おいて、クルクミン投 与 によりマウス骨 格 筋 の NADPH-oxidase を介 して産 生 されることが明 ら IL-1 β 、 IL-6 、 TNF- α タ ン パ ク 質 濃 度 の 上 昇 かになっているが、NADPH-oxidase は主 にマク が抑 制 されることが報 告 された (Davis JM et al., ロファージや好 中 球 に存 在 することから酸 化 スト 2007)。加 えて、我 々はクルクミン投 与 がダウンヒ レスの誘 導 にはこれらの炎 症 細 胞 が重 要 と考 え ル運 動 後 の酸 化 ストレスを減 少 させ、これらの現 られている。興 味 深 いことに、薬 物 投 与 やダウン 象 にマクロファージの浸 潤 抑 制 が関 与 する可 能 ヒル運 動 による筋 損 傷 後 にもマクロファージや 性 について明 らかにしている (未 発 表 データ)。 好 中 球 の活 性 化 や組 織 浸 潤 が亢 進 することも しかしながら、ダウンヒル運 動 は筋 損 傷 の誘 導 明 らかになっている (Tsivitse SK et al., 2003; に加 え、様 々な呼 吸 循 環 応 答 や代 謝 性 変 化 な Martinez CO et al., 2010)。したがって、筋 損 傷 ど の 全 身 的 要 因 を 伴 う こ と が 考 え ら れ る 。 IL-6 後 の炎 症 反 応 や酸 化 ストレスの誘 導 にはマクロ は運 動 中 の糖 ・脂 質 代 謝 に関 与 し、エネルギー Lima-Cabello E (Liao et al., P et al., 30 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 供 給 に積 極 的 に働 くことが指摘 されており 片 足 脚 の前 脛 骨 筋 に cardiotoxin (Sigma, St. (Pedersen BK et al., 2003) 、 1 時 間 以 上 の Louis, MO, USA)を PBS で希 釈 し、10μmol/l 60%Vo 2 max の持 久 性 運 動 時 には、IL-6 および 濃 度 で 100μl 注 入 した。また、対 照 として反 対 TNF-α の血 漿 濃 度 が増 加 することが報 告 され 脚 の前 脛 骨 筋 に PBS を 100μl 注 入 した。 ている (Pedersen BK et al., 2003: Nieman DC et al., 2003)。したがって、クルクミン投 与 による 3. クルクミン投 与 筋 損 傷 後 の炎 症 反 応 を検 討 するために、これら クルクミン投 与 群 には前 脛 骨 筋 にカ ルディオ の全 身 的 要 因 を排 除 した純 粋 な筋 損 傷 モデル トキシンおよび PBS を注 入 した直 後 にイソフルラ を用 いる必 要 がある。マウスの骨 格 筋 に筋 損 傷 ン吸 入 麻 酔 下 にてマウス1匹 あたりクルクミン を惹 起 する薬 物 であるカルディオトキシンは、筋 (細 粒 化 クルクミン: 株 式 会 社 セラバリューズ, 損 傷 を引 き起 こすだけでなく炎 症 反 応 および酸 Tokyo, Japan)成 分 3mg を含 む PBS を 200μl 化 ストレスを誘 導 することが明 らかになっており、 経 口 投 与 した。クルクミン非 投 与 群 には PBS を 骨 格 筋 の損 傷 と修 復 の機 序 を解 明 するために 200μl 経 口 投 与 した。なお、経 口 投 与 にはマウ 多 くの研 究 で用 いられている。 ス用 ゾンデ (夏 目 製 作 所 , Tokyo, Japan)を使 そこで本 研 究 では、クルクミンを経 口 で単 回 用 した。 投 与 し、マウスのカルディオトキシン誘 導 性 筋 損 傷 後 の骨 格 筋 組 織 の炎 症 反 応 、酸 化 ストレス 4. 筋 組 織 採 取 および炎 症 細 胞 浸 潤 に及 ぼす影 響 を明 らかに クルクミン投 与 24 時 間 後 に麻 酔 下 で安 楽 死 することを目 的 とした。 後 に解 剖 を行 い、両 脚 から前 脛 骨 筋 を摘 出 し た。摘 出 した前 脛 骨 筋 は、RNA later (Applied Ⅱ. 方 法 Biosystems, Carlsbad, California, USA)に浸 し 1. 実 験 動 物 と飼 育 条 件 て液 体 窒 素 で凍 結 させた後 、-80℃の冷 凍 庫 に て保 存 した。 本 実 験 では 9 週 齢 の C57BL/6J 雄 マウス ( 紀 和 実 験 動 物 研 究 所 , Wakayama, Japan) を 用 いた。室 温 21℃、湿 度 35%、21:00-9:00 を 5. Real-time quantitative PCR 暗 期 に 9:00-21:00 を明 期 に設 定 した飼 育 室 に 前 脛 骨 筋 の Total RNA は、RNeasy Mini Kit おいて、ゲージ内 で飼 育 した。MF (オリエンタル (QIAGEN, Vakencia, California, USA)および 酵 母 , Tokyo, Japan)の飼 料 を使 用 し、飲 水 は RNase-Free DNase Set (QIAGEN, Valencia, 水 道 水 を用 い、ともに自 由 摂 取 とした。マウス California, USA) を 用 い て 抽 出 し た 。 そ の 後 (n=14) の 片 足 脚 に カ ル デ ィ オ ト キ シ ン (CTX) 、 Nano Drop system (Nano Drop Technologies, 反 対 脚 にリン酸 緩 衝 生 理 食 塩 水 (PBS)を投 与 Wilmingston, Delaware, USA)を用 いて RNA 濃 し、無 作 為 にクルクミン非 投 与 群 (n=7)、クルク 度 を測 定 した。Total mRNA は、High Capacity ミン投 与 群 (n=7)に群 分 けした。 cDNA Reverse Transcription kit with RNase inhibitor なお、本 実 験 は早 稲 田 大 学 動 物 実 験 委 員 (Applied Biosystems, Carlsbad, California, USA) を 用 い て 、 逆 転 写 反 応 に よ り 会 の承 認 を得 て行 った (10K001)。 cDNA を 作 製 し た 。 cDNA は 、 Power SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems, 2. カルディオトキシン (cardiotoxin) 投 与 31 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 Carlsbad, California, USA) を 用 い て Fast 構 成 的 に 発 現 す る 遺 伝 子 と し て 、 real-time glyceraldehyde-3-phosphate PCR 7500 装 置 (Applied dehydrogenase Biosystems, Carlsbad, California, USA)により (GAPDH) を 使 用 し た 。 標 的 遺 伝 子 お よ び 内 因 定 量 した。PCR 条 件 は、95℃で 10 分 間 cDNA 性 遺 伝 子 として使 用 したプライマーを表 1 に示 を変 性 させた後 に、1 サイクル 95℃で 15 秒 間 、 した。 60℃で 1 分 間 の条 件 で、40 サイクル繰 り返 した。 表 1. Real-time PCR に用 いたプライマーの塩 基 配 列 GAPDH: Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, TNF-α : tumor necrosis factor-alpha IL: interleukin, NADPH-oxidase: nicotinamide adenine dinucleotide phosphate-oxidase, iNOS: inducible nitric oxide synthase, MCP-1: monocyte chemotactic protein-1 6. タンパク質 濃 度 測 定 7. 前 脛 骨 筋 は Tissue Protein Extraction Reagent (T-PER) with Protease H2O2 濃 度 測 定 H 2 O 2 濃 度 は SensoLyte ADHP hydrogen inhibitor peroxide assay kit (Fremount, California, (Thermo, Rockford, Illinois, USA)溶 液 でホモ USA) を 用 い て 測 定 し た 。 な お 、 蛍 光 強 度 の 測 ジナイズした後 、10,000xG、10 分 間 の条 件 で遠 定 には FLUOstar OPTIMA (BMG LABTECH, 心 操 作 を 行 い 上 清 の タ ン パ ク 質 を分 離 し た 。 タ Offenburg, Germany)を使 用 した。 ン パ ク 濃 度 は BCA Protein Assay (Thermo, Rockford, Illinois, USA)を用 いて測 定 した。 8. 血 漿 中 および前 脛 骨 筋 中 のクルクミン濃 度 前 脛 骨 筋 内 の TNF-α タ ン パ ク 質 濃 度 は マウス (n=4)にクルクミンを投 与 し、0, 1, 3, 6 Mouse TNF-α ELISA kit (R&D systems, および 24 時 間 後 にイソフルラン吸 入 麻 酔 下 で Mckinley, Minnesota, USA)、MCP-1 タンパク 開 腹 し、腹 部 大 動 脈 から血 液 をヘパリン処 理 真 質 濃 度 は Mouse MCP-1 ELISA kit (R&D 空 採 血 管 (TERUMO, Tokyo, Japan)に採 取 し systems, Mckinley, Minnesota, USA)を用 いて た。採 取 した血 液 は、2,600xG、10 分 間 の条 件 測 定 した。MPO タンパク質 濃 度 は、Mouse MPO で遠 心 し、上 清 の血 漿 を分 離 し-80℃にて凍 結 ELISA kit (Hycult Biotech, Uden, Netherland) 保 存 した。また、両 脚 から前 脛 骨 筋 を摘 出 した。 を用 いて測 定 した。なお、吸 光 度 の測 定 には 摘 出 した前 脛 骨 筋 は液 体 窒 素 で凍 結 させた後 、 VERSA Max microplate reader (Molecular -80 ℃に て 凍 結 保 存 し た。 摘 出 し た血 漿 お よ び Devices, California, USA)を使 用 した。 前 脛 骨 筋 は、HPLC-MS/MS システム法 にて解 析 定 量 を行 った (Sasaki et al., 2011)。 32 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 9. 統計処理 時 間 後 の血 漿 中 および前 脛 骨 筋 のクルクミン 結 果 は、平 均 値 ±標 準 誤 差 で表 した。カル 濃 度 を測 定 したところ、いずれも投 与 1 時 間 後 ディオトキシン投 与 およびクルクミン投 与 を要 因 にピークを示 した (図 1A および B)。血 漿 中 のク とした 測 定 項 目 の 変 化 につ いては 二 元 配 置 分 ルクミン濃 度 は、投 与 前 :0、投 与 1 時 間 後 : 散 分 析 を行 い、有 意 水 準 は 5%未 満 とした。多 2692.5 (2310.0 ~ 3170.0) 、 3 時 間 後 : 2325.0 重 比 較 検 定 は Turkey’s test を行 い、有 意 水 (1800.0~2770.0)、6 時 間 後 :1087.5 (740.0~ 準 は 5%未 満 とした。 1410.0)、24 時 間 後 :97.3 (29.5~152.0){平 均 値 ng/mg (最 小 値 ~最 大 値 )}であった。また、 Ⅲ. 結 果 前 脛 骨 筋 のクルクミン濃 度 は、投 与 前 :0、投 与 クルクミン投 与 による血 中 および骨 格 筋 組 織 に 1 時 間 後 :18.1 (10.9~32.4)、3 時 間 後 :15.6 おけるクルクミン濃 度 の変 化 (12.1~20.3)、6 時 間 後 :5.0 (3.4~6.3)、24 時 血 中 および骨 格 筋 組 織 のクルクミン動 態 を検 間 後 :0.6 (0.5~0.8) {平 均 値 ng/mg (最 小 値 ~ 討 するために、投 与 前 、投 与 1、3、6 および 24 最 大 値 )}であった。 A B 図 1. クルクミン投 与 0,1,3,6,24時 間 後 のマウスの血 漿 クルクミン濃 度 (A) および前 脛 骨 筋 のクルクミン濃 度 (B) (平 均 値 ±標 準 誤 差 ) 33 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 ク ルクミ ン 投 与 に よ る カル デ ィオ ト キシ ン 誘 導 性 ルクミン投 与 による有 意 な変 化 はみられなかっ の炎 症 反 応 の変 化 た (8.75±0.64 vs 9.31±0.918 pg/mg) (図 2)。 骨 格 筋 組 織 の炎 症 反 応 を検 討 す るために、 また、炎 症 性 サイトカインである TNF-α、IL-6、 炎 症 性 サイトカインのタンパク質 濃 度 および遺 IL-1βおよび IL-12 の遺 伝 子 発 現 は PBS 投 伝 子 発 現 を 測 定 し た 。 TNF- α タ ン パ ク 質 濃 度 与 脚 と比 べて CTX 投 与 脚 において有 意 な高 値 は PBS 投 与 脚 に お い て は 検 出 感 度 を示 した。しかしながら、PBS 投 与 脚 および CTX (7.8pg/mg)未 満 であったが、カルディオトキシン 投 与 脚 ともにクルクミン投 与 による有 意 な変 化 (CTX)投 与 脚 においては検 出 感 度 以 上 の濃 度 はみられなかった (図 3A-D)。 を示 した。しかしながら、CTX 投 与 脚 においてク 図 2. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX) 投 与 脚 の TNF-αのタンパク質 濃 度 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 ) 図 3. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の TNF-α (A), IL-6 (B), IL-1β (C), IL-12 (D)の遺 伝 子 発 現 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) 34 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 ク ルクミ ン 投 与 に よ る カル デ ィオ ト キシ ン 誘 導 性 したが、PBS 投 与 脚 および CTX 投 与 脚 ともにク の酸 化 ストレスの変 化 ルクミン投 与 による有 意 な変 化 はみられなかっ 骨 格 筋 組 織 の酸 化 ストレスを検 討 するために、 た (図 5A)。加 えて、NO を産 生 する iNOS の遺 (H 2 O 2 ) 濃 度 お よ び 伝 子 発 現 は PBS 投 与 脚 と比 べて CTX 投 与 脚 NADPH-oxidase, iNOS の遺 伝 子 発 現 を測 定 し において有 意 な高 値 を示 したが、PBS 投 与 脚 お た。H 2 O 2 濃 度 は PBS 投 与 脚 と比 べて CTX 投 よび CTX 投 与 脚 ともにクルクミン投 与 による有 与 脚 におい て有 意 に 高 値 を示 した 。し か し なが 意 な変 化 はみられなかった (図 5B)。また、ミエ ら、PBS 投 与 脚 および CTX 投 与 脚 ともにクルク ロペルオキシターゼ (MPO)のタンパク質 濃 度 は ミン投 与 による有 意 な変 化 はみられなかった PBS 投 与 脚 と比 べて CTX 投 与 脚 において有 意 ( 図 4) 。 同 様 に 、 H 2 O 2 の 発 生 を 誘 導 す る に高 値 を示 したが、PBS 投 与 脚 および CTX 投 NADPH-oxidase の遺 伝 子 発 現 は PBS 投 与 脚 与 脚 ともにクルクミン投 与 による有 意 な変 化 は と比 べて CTX 投 与 脚 において有 意 に高 値 を示 みられなかった (図 6)。 過 酸 化 水 素 図 4. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の H 2 O 2 濃 度 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) 図 5. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の NADPH-oxidase (A), iNOS (B) 遺 伝 子 発 現 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) 35 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 図 6. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の MPO タンパク質 濃 度 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) ク ルクミ ン 投 与 に よ る カル デ ィオ ト キシ ン 誘 導 性 に特 異 的 に発 現 するタンパク質 を認 識 する抗 のマクロファージ浸 潤 の変 化 体 F4/80 の遺 伝 子 発 現 は PBS 投 与 脚 と比 べて 骨 格 筋 組 織 のマクロファージ浸 潤 を検 討 する CTX 投 与 脚 に おい て 有 意 に 高 値 を示 した。 し ために、F4/80 および MCP-1 の遺 伝 子 発 現 を かしながら、PBS 投 与 脚 および CTX 投 与 脚 とも 測 定 した。マクロファージの組 織 浸 潤 を特 異 的 にクルクミン投 与 による有 意 な変 化 はみられなか に誘 導 する MCP-1 のタンパク質 濃 度 は PBS 投 った (図 8A)。加 えて、MCP-1 の遺 伝 子 発 現 は 与 脚 と比 べて CTX 投 与 脚 において有 意 に高 値 PBS 投 与 脚 と比 べて CTX 投 与 脚 において有 意 を示 した。しかしながら、PBS 投 与 脚 および CTX な高 値 を示 した。しかしながら、PBS 投 与 脚 およ 投 与 脚 ともにクルクミン投 与 による有 意 な変 化 び CTX 投 与 脚 ともにクルクミン投 与 による有 意 は みられなかった (図 7)。また、マクロファージ な変 化 はみられなかった (図 8B)。 図 7. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の MCP-1 タンパク質 濃 度 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) 図 8. クルクミン投 与 および PBS 投 与 による PBS 投 与 脚 およびカルディオトキシン (CTX)投 与 脚 の MCP-1 (A), F4/80 (B) 遺 伝 子 発 現 の変 化 (平 均 値 ±標 準 誤 差 、 ※ ※ p<0.01) 36 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 Ⅳ. 考 察 られる。本 研 究 ではこれらの影 響 を除 した筋 損 骨 格 筋 の損 傷 に伴 い炎 症 反 応 や酸 化 ストレ 傷 時 のクルクミン投 与 による影 響 を検 討 したが、 スが誘 導 されることが明 らかにされている。本 研 クルクミン投 与 はカルディオトキシン投 与 24 時 究 では、マウス骨 格 筋 の筋 損 傷 を誘 導 する薬 間 後 の炎 症 性 サイトカインの遺 伝 子 発 現 、 剤 であるカルディオトキシン投 与 によ り、前 脛 骨 NADPH-oxidase 遺 伝 子 発 現 および H 2 O 2 濃 度 筋 における種 々の炎 症 性 サイトカインの遺 伝 子 などの酸 化 ストレス指 標 に影 響 を及 ぼさなかっ 発 現 やタンパク質 濃 度 が増 加 することに加 え、 た。また、MCP-1 および F4/80 の遺 伝 子 発 現 H 2 O 2 濃 度 および NADPH-oxidase の遺 伝 子 発 にも影 響 がみられなかったことから、本 研 究 で用 現 が増 加 す ることが示 さ れた。近 年 、骨 格 筋 損 いた筋 損 傷 モデルにおいては、少 なくとも筋 損 傷 時 の炎 症 反 応 や酸 化 ストレスはマクロファー 傷 後 のクルクミン投 与 はマクロファージの浸 潤 を ジや好 中 球 などの炎 症 細 胞 によって調 節 されて 抑 制 することなく、炎 症 反 応 や酸 化 ストレスにも いることが報 告 されているが、本 研 究 ではカルデ 変 化 が認 め られな かっ た可 能 性 が 考 えら れる 。 ィオトキシン投 与 によってマクロファージの浸 潤 有 酸 素 運 動 時 には、ミトコンドリア電 子 伝 達 系 を 特 異 的 に 誘 導 す る MCP-1 遺 伝 子 発 現 や のアデノシン三 リン酸 (ATP)産 生 過 程 で H 2 O 2 F4/80 遺 伝 子 発 現 が増 加 することが示 された。 などの活 性 酸 素 が産 生 されることが知 られてい さらに、MPO 濃 度 がカルディオトキシン投 与 によ る (Powers SK et al., 2008)。一 方 で、筋 損 傷 り増 加 する ことも示 さ れ た。NADPH-oxidase は 時 にはマクロファージなどの炎 症 細 胞 が組 織 に 主 にマクロファージや好 中 球 の細 胞 膜 に存 在 し、 浸 潤 し、貪 食 を行 った際 に細 胞 膜 に存 在 する H2O2 の 産 生 を 誘 導 す る こ と が 知 ら れ て い る 酸 化 酵 素 である NADPH-oxidase が活 性 化 され、 (Powers SK and Jackson MJ. 2008)。また、MPO H 2 O 2 などの活 性 酸 素 が生 成 されることが知 られ は H 2 O 2 から次 亜 塩 素 酸 (HOCl)産 生 を誘 導 す ている (Halliwell B et al. 2007)。さらにこれらの ることが知 られている。したがって、カルディオト 活 性 酸 素 は、NF-κB などのシグナル伝 達 経 路 キシン投 与 によって炎 症 反 応 や酸 化 ストレスが を 活 性 化 し 、 IL ‐6 な どの 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン を 誘 導 されるが、これらの現 象 はマクロファージや 誘 導 し て い る こ と が 知 られ て い る (Gloire G et 好 中 球 の浸 潤 亢 進 によ って生 じた可 能 性 が考 al., 2006: Baeuerle PA, 1998)。本 研 究 より、カ えられる。 ルディオトキシン投 与 による炎 症 性 サイトカイン 一 方 で、抗 炎 症 作 用 、抗 酸 化 作 用 を示 すク および活 性 酸 素 の増 加 は炎 症 細 胞 の組 織 浸 ルクミンは筋 損 傷 後 の炎 症 反 応 を抑 制 すること 潤 によるものであり、局 所 的 な筋 組 織 損 傷 後 の が明 らかにされている。実 際 に、ダウンヒル運 動 炎 症 反 応 と 酸 化 ス ト レ スは 、 クル クミン 投 与 に よ を用 いた筋 損 傷 モデルにおいて、損 傷 4 日 前 り抑 制 さ れ ないことが示 唆 された 。今 後 は、ク ル からのクルクミン投 与 により、損 傷 24 時 間 後 の クミンの示 す運 動 時 の炎 症 反 応 への影 響 につ TNF- αや IL-1βなど の 炎 症 性 サ イ トカ イ ン濃 いて、筋 損 傷 を伴 わない低 強 度 の持 久 性 運 動 度 が減 少 することが報 告 されている (Davis JM モデルを用 いて検 討 する必 要 があると思 われ et al., 2007)。しかしながら、150 分 のダウンヒル る。 運 動 には 物 理 的 な 筋 損 傷 の みで な く 様 々 な全 また、クルクミンの影 響 が認 められなかった要 身 的 要 因 の影 響 を伴 うことから、純 粋 な筋 損 傷 因 として、ダウンヒル運 動 誘 導 性 筋 損 傷 に比 べ、 誘 導 モデルによる反 応 とは異 なる可 能 性 が考 え カルディオトキシン誘 導 性 筋 損 傷 時 には炎 症 の 37 スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 程 度 が大 きいことが挙 げられる。これまでに、 本 研 究 では、過 度 の筋 損 傷 モデルを用 いて 150 分 のダウンヒル運 動 (22m/min, -14%) 24 クルクミン投 与 の影 響 を検 討 したが、今 後 はより 時 間 後 には、筋 損 傷 マーカーであるクレアチン 軽 度 な筋 損 傷 モデルを用 いることや、組 織 学 的 キナーゼ活 性 がおよそ 220U/L まで上 昇 するこ 手 法 による免 疫 細 胞 の浸 潤 について検 討 する とが報 告 されている (Davis et al., 2007)。一 方 ことが必 要 である。また、本 研 究 ではカルディオ で、カルディオトキシン投 与 24 時 間 後 にはおよ トキシン投 与 直 後 にクルクミン摂 取 を行 ったが、 そ 600U/L まで上 昇 する (Shi H et al., 2010)。 損 傷 前 から 摂 取 さ せ 、 筋 損 傷 抑 制 効 果 に つ い さらに、Davis らによる研 究 (2007)では、炎 症 性 てさらなる検 討 を行 う必 要 があると考 えられる。 サイトカインである TNF-α のタンパク質 濃 度 が、 ダ ウ ン ヒ ル 運 動 24 時 間 後 に 20pg/100μg Ⅴ. 結 論 protein ま で 上 昇 し た の に 対 し 、 我 々 の 研 究 で カルディオトキシンによる筋 損 傷 誘 導 により過 はカルディ オトキ シン 投 与 24 時 間 後 にお よ そ 剰 な炎 症 反 応 および酸 化 ストレスが生 じるもの 85pg/100μg protein まで上 昇 した。したがって、 の、少 なくとも筋 損 傷 後 のクルクミン投 与 はこれ カルディオトキシン誘 導 性 筋 損 傷 はダウンヒル らの現 象 には影 響 を及 ぼさない可 能 性 が示 さ 誘 導 性 筋 損 傷 に比 べ過 度 の炎 症 を伴 うために、 れた。 クルクミンの効 果 が認 められなかったと考 えられ る。さらに、クルクミンの投 与 タイミングも影 響 を Ⅵ. 参 考 文 献 及 ぼす要 因 と考 えられる。Davis らの研 究 では、 1) Aggarwal BB, Shishodia S. Suppression of 運 動 72 時 間 前 よりクルクミン粉 末 を含 む餌 を摂 the 取 させていたのに対 し、我 々はカルディオトキシ pathway ン投 与 直 後 にクルクミンを経 口 投 与 した。本 研 phytochemicals: reasoning for seasoning. 究 では、通 常 のクルクミンの約 30 倍 もの吸 収 性 Ann N Y Acad Sci. 1030: 434-441. 2004. が認 められている細 粒 化 された高 吸 収 クルクミ 2) ンを用 いた。したがって、先 行 研 究 同 様 のプロト nuclear factor-kappaB by Baeuerle PA. at structures: コルを 用 い るとクル クミ ンの 吸 収 が 過 剰 と な る お inflammation それがあるために本 投 与 タイミングとした。Davis activation spice-derived IkappaB-NF-kappaB the interface control. Cell. of 95(6): 729-731. 1998 らの先 行 研 究 では血 中 および筋 組 織 中 のクル 3) クミン濃 度 が検 討 されていないため、我 々の研 Biswas SK, McClure D, Jimenez LA, 究 とクルクミン吸 収 動 態 を比 較 することは困 難 で Megson IL, Rahman I. Curcumin induces あるが、これらのプロトコルの違 いが及 ぼす影 響 glutathione も検 討 する必 要 がある。さらに Davis らの研 究 で NF-kappaB activation and interleukin-8 はヒラメ筋 が用 いられている。本 研 究 では、カル release ディオトキシン投 与 筋 損 傷 モデルで一 般 的 に用 in biosynthesis alveolar and epithelial inhibits cells: mechanism of free radical scavenging いられている前 脛 骨 筋 を対 象 とし たが、前 脛 骨 activity. Antioxid Redox Signal. 7(1-2): 筋 はヒラメ筋 に比 べ速 筋 繊 維 が多 く含 まれてい 32-41.7: 32–41, 2005. るため、これらの筋 繊 維 タイプの違 いが及 ぼす 4) 影 響 も考 慮 して今 後 実 験 を行 う必 要 がある。 38 Collins RA, Grounds MD. The role of スポーツ科学研究, 9, 29-40, 2012 年 tumor necrosis factor-alpha (TNF-alpha) Regul in skeletal muscle regeneration. Studies R599-607, 2010. in 5) TNF-alpha(-/-) N, Baldini M, Almar M, González-Gallego Histochem Cytochem. 49(8): 989-1001, J. Eccentric exercise induces nitric oxide 2001. synthase Davis JM, Murphy EA, Carmichael MD, factor-kappaB modulation in rat skeletal Zielinski MR, Groschwitz CM, Brown AS, muscle. Gangemi 575-583, 2010. JD, Ghaffar A, Mayer EP. expression J Appl through Physiol. nuclear Mar;108(3): Curcumin effects on inflammation and 11) Martinez CO, McHale MJ, Wells JT, performance recovery following eccentric Ochoa O, Michalek JE, McManus LM, exercise-induced muscle damage. Am J Shireman Physiol muscle regeneration by CCR2-activating Fielding Regul Integr Comp Physiol. 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