アンチセ 緒言 このインタビューではエクソン・スキッピング - Treat-NMD

デュシェンヌ型筋ジストロフィー 治療法としてのエクソン・スキッピング
Dr. Annemieke Aartsma-Rusとのインタビュー
オランダ・Leiden University Medical Center
4月1日にドイツUlmで開催された第20回Congress of the Scientific Council of the “Deutsche
Gesellschaft für Muskelkranke”(ドイツ筋肉疾患の患者会)において、Günter Scheuerbrandt, PhD
は、Dr. Annemieke Aartsma-Rus(Leiden University Medical Center助教授)との以下のインタ
ビューを記録した。これはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療技術であるエクソン・
スキッピングの現状に関するもので、その安全性と効果を実証するために患者における臨
床試験が実施されている。この技術には、Dr. Aartsma-Rusのチームが活発に関わってきたが、
あらゆる研究アプローチの中で最も開発が進んでおり、そう遠くない未来、多くのデュシ
ェンヌ型筋ジストロフィー患者に効果的な治療を行える可能性がある。
以下の文章は口頭インタビューを編集したものである。Dr. Aartsma-Rusの承認を受けて公表
されている。私の質問はイタリック体で、Dr. Aartsma-Rusの回答は標準体で表示されている。
エクソン・スキッピング薬の科学名であるantisense oligoribonucleotideは、以下ではアンチセ
ンスオリゴまたはAOと省略される場合が多い。
緒言
このインタビューではエクソン・スキッピングについて論じますが、主にデュシェンヌ型
筋ジストロフィーの男児または青年患者のご家族に読まれることを想定しています。この
技術の詳細については、私の研究報告書(http://www.duchenne-information.eu.)をインター
ネット上でご覧ください。エクソン・スキッピングについては多くの読者がご存知かと思
いますので、ここでの説明は割愛します。したがって、デュシェンヌ型筋ジストロフィー の
男児において非常に有望なこの技術を使用した臨床試験について、また近いうちに誰もが
待ち望んでいる効果的な療法に結びつくことが期待される結果に焦点を絞りましょう。
Annemieke、まずは自己紹介をお願いします。
2000年以降、私はLeiden University Medical Centerのヒト遺伝子学部で研究を続けてきました。
ここでは約10名のエクソン・スキッピング研究チームのリーダーを務めています。デュシ
ェンヌ型筋ジストロフィー治療に使用するエクソン・スキッピングの開発に研究の焦点を
当てています。
エクソン51スキッピングの臨床試験
モナコで2004年に行ったインタビューにおいて、ヒト遺伝子学部の学長であるProfessor
Gertjan van Ommenは、およそ10年でデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児患者にエクソ
ン・スキッピング薬が入手可能となるであろうと述べています。
その予測は正しいと思います。目標に近づいていますから。ただ、この推定ができるのは
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エクソン51のスキッピングのみです。180名のデュシェンヌ型筋ジストロフィー男児におけ
る第III相エクソン51の臨床試験では患者の組入れ中です。これはプラセボ対照試験であり、
エクソン・スキッピングが効果的かつ安全であると実証されることが期待されています。
新薬登録および販売承認を得るために、試験の結果は欧州EMAと米国FDAに提示され、評
価されます。様々な話題を議論しますが主に効果と安全性に焦点をあてます。一般的に、
臨床試験では副作用が発現します。問題は、それが薬剤起因性のものかどうかであり、プ
ラセボ群と治療群の副作用を比較することで評価されます。
臨床試験終了後、結果の解析と登録申請には時間がかかるでしょうし、エクソン51のスキ
ッピングが必要な患者が薬局で購入できるようになるでしょう。
エクソン51のスキッピングが必要な男児にのみ利用可能となるでしょう。
次のエクソンをスキッピングする臨床試験
次に開発するのはエクソン44のスキッピングですね?
はい。エクソン44のスキッピングは現在、少人数の男児における第I/II相試験段階で実施中
ですが、結果はまだ得られていません。したがって、エクソン44をスキッピングする薬剤
(アンチセンスオリゴまたは44-AO)がジストロフィン修復につながるかどうかは不明です。
第III相試験が必要となるかどうかも分かりません。
つまり、エクソン44スキッピングのプラセボを投与する患者が不要となるかもしれないの
ですか?
その可能性があります。エクソン44スキッピングがジストロフィン修復につながり、エク
ソン51のスキッピングの結果、ジストロフィン修復が機能改善につながると分かれば、エ
クソン44のスキッピングに関してプラセボ対照試験が必要かどうか検討できますから。プ
ラセボ対照試験が必要でなければ、エクソン44のスキッピングは早期に利用可能となるで
しょう。
この臨床試験もグラクソスミスクライン(GSK)とProsensa社との共同で実施されるのです
か?
現在のところProsensa社単独で実施されています。51-スキッピングに関してはGSKと
Prosensaの共同です。GSKはエクソン44のスキッピングにオプションを有しています。
次に優先順位が高いエクソンは?
Prosensa社はエクソン-45、-53、-52、-55をスキッピングする前臨床試験を準備中です。
6分間歩行試験で筋機能を測定する
エクソン51の臨床試験について、NIHのウェブページで公表されている臨床試験の詳細を検
討すると、6分間歩行試験が主要転帰項目となっています。ジストロフィンの測定には言及
されていません。その理由は何でしょうか?ジストロフィンの信頼性を検討するのは困難
すぎるのでしょうか?
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ジストロフィン修復がみられただけでは薬剤は承認されません。機能向上がみられた場合
にのみ承認されるのです。機能向上とは、患者が回復するか、病状進行が抑えられたこと
を意味します。機能転帰の手段として、実証済みで規制当局に認可されている技術がいく
つかあります。6分間歩行試験は実証済みの試験であり、新薬登録に際して受け入れられて
います。他の試験を使用するためにはその試験を実証する必要があるため何年もかかりま
す。ですから、6分間歩行試験を使用する方が簡単なのです。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者用にこの試験が開発されたのですか?
6分間歩行試験は心臓病患者のために開発されたもので、神経筋疾患の患者用ではありませ
ん。Genzyme社がポンペ病の治療薬を探索する時に使用しました。神経筋疾患の転帰測定用
として使用できることを最初に示したのが彼らです。その後、ニュージャージーのPTC社が
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児患者において実証したのです。
PTC社が実施した、中途停止コドンを読解するアタルレンの臨床試験が不成功となった後、
試験で実施した、6分間歩行試験が公表され、アタルレンは高用量よりも低用量で良好な結
果を示すことが表の減少線で明示されたのです。
公表されたアタルレンの治験結果で示されたのは、プラセボ群の男児被験者の状態は治験
期間中の48週間で悪化したことです。これは疾患の自然経過ですが、プラセボ効果の可能
性もあり、実際の経過はさらに悪化していたかもしれません。現在のエクソン51の第III相
試験で期待されるのは、減少線が緩やかとなるか、患者の何人かで機能が維持または改善
されることです。
Prosensa社の第I/II相試験のデータがこの他にも入手されています。全被験者が継続投与試験
に参加して、治験における最高量である6mg/kg/週が投与されています。これまで18カ月以
上の治療が行われており、治験はさらに継続されます。3~6カ月後には、ほとんどの被験
者に改善がみられることが判明しています。しかし当然ながら、継続投与試験ではプラセ
ボ効果が大きい可能性があります。というのは、どの被験者も治療を受けていること、前
回の治験でジストロフィン修復がみられたから治療を受けていることを知っているからで
す。このプラセボ効果は除外できないものの、データは非常に有望と思われます。ベルギ
ー・リューベン大学病院のNathalie Goemansは最近、48週間治療を受けた患者の6分間歩行の
データを示し、機能改善効果は継続すると思われると発表しました。
投与継続試験中に生検は行われますか?
治験開始後6カ月目に生検が行われます。それ以外に生検を行うかどうかは分かりません。
筋生検は侵襲性が高く激しい痛みを伴うので、6カ月ごとどころか年に一度も行えません。
そもそも、試験開始時に患者にはあまり筋肉が残っていないのですから、生検はできる限
り避けたいと思っています。
筋生検は、治療期間中にスキッピング薬が新規ジストロフィンとそのメッセンジャーRNA
産生につながるかどうか確認したい時に必要となります。しかし、メッセンジャーRNAも
新規ジストロフィンも検査するのが困難です。検査手順には様々なバリエーションがあり、
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研究所ごとに異なるものです。先ほども申し上げましたが、結果を得るために使用した手
段を新薬登録過程において実証する必要があり、ジストロフィンおよびメッセンジャー
RNAの分析に使用する標準法の開発には何年もかかるでしょう。エクソン・スキッピング
に関わっている研究者たちはジストロフィン値の評価を標準化しようとしていますが、こ
れは困難な課題です。
したがって、この問題を回避するために血清中のバイオマーカーを探索するプロジェクト
が行われています。これはBIO-NMDと呼ばれ、ヨーロッパの他の科学者たちと共同で行う
EUプロジェクトであり、イタリア・フェラーラ大学のAlessandra Ferlini(www.bio-nmd.eu.)
がイニシアチブを取っています。デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の血清中である種
のタンパク質量が高く、ジストロフィン産生後にその血清値が低下することが判明すれば、
その血清値は代理マーカーと考えられます。6カ月ごとの採血は筋生検よりもずっと簡単で
す。
エクソン50スキッピングの臨床試験
米国のAVI BioPharma社がエクソン50のスキッピングに焦点を当てていますね。
私の情報はプレス・リリースに基づくものです。エクソン50のスキッピングを目的として
ペプチド抱合型モルホリノ・アンチセンスオリゴが開発されたと理解しています。オック
スフォードのKay Davies研究所のAurélie Goyenvalleは、ジストロフィンもウトロフィンも存
在しない非常に重度のデュシェンヌ型筋ジストロフィーマウス・モデルに化学修飾された
モルホリノオリゴを投与してエクソン23のスキッピングを行いました。このマウス・モデ
ルを使用した実験は成功し、化学修飾された薬剤の忍容性は良好でした。問題は、ヒトは
マウスと違うという点です。サルを使用したAVI社の実験では、毒性の問題が多少生じまし
た。ペプチドを変更して毒性を弱めることで薬剤を最適化しているのかどうか不明です。
ペプチド抱合型モルホリノの臨床開発研究をすべて中止したのか、延期しているだけなの
かも分かりません。
1年前にAVI社は、Francesco MuntoniやKate Bushbyを中心とした英国の研究者たちと共同で
系統的な第Ib/II相臨床試験を行い、モルホリノ・アンチセンスオリゴでエクソン51をスキッ
ピングしました。これは現在Eteplirsenと呼ばれています。予備結果は4月にホノルルで開催
されたAmerican Academy of Neurologyの会議で発表されました。
異なるタイプのアンチセンスオリゴ
現在の臨床試験で主に使用されている2種類のアンチセンスオリゴに話題を移しましょう。
それぞれの化学的性質は異なり、化学的性質が異なると特性も異なります。名称は、Prosensa
社/GSKが使用している2’O-メチル-ホスホロチオエート(2’O-メチル AOとも呼ばれる)と、
AVIが使用したモルホリノAOです。静脈内または皮下投与によって血流に入り、腎臓で除
去されます。これらは非常に小さい分子であるのでろ過されてしまいます。これはどのAO
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でも同じです。2’O-メチルの利点は、ホスホロチオエートバックボーンと血清中タンパクと
の結合です。こうして血清中タンパクがキャリアの役割を果たします。非結合AOは腎臓で
除去されますが、血清と結合したAOは保護されるので、血清中2’O-メチルAOの半減期は数
週間となります。逆に、モルホリノは血清中タンパクと結合できず、ずっと早くろ過され
てしまいます。血清中モルホリノの半減期は2~4時間に過ぎません。これがモルホリノと
2’O-メチルの大きな違いです。
モルホリノの治験と2’O-メチルの治験の結果を比較すると、モルホリノの活性は非常に局部
的であるのに対し、2’O-メチルはより均一なジストロフィン修復につながっていることが分
かります。その理由として、おそらく2’O-メチルは血清中に長く存在するので筋肉内に浸透
する機会が多いからでしょう。モルホリノの有効時間帯は非常に短く、筋肉内に浸透して
効力を発揮するか、何もしないうちに腎臓でろ過されてしまうのです。これが主要な相違
かどうかは定かではありませんが。
モルホリノのほうが高価ですよね?
モルホリノの作成のほうが2’O-メチルより高価であり、また高用量が必要なので高価になり
ますが、特許期間が終了したので以前ほど高価ではないはずです。
遺伝子導入を使用したエクソン・スキッピングについてのLuis Garcíaの研究はいかがです
か?
言うまでもなく、遺伝子導入の利点は治療が一度で完了し、遺伝子治療の効果は永遠に続
くことです。現時点での問題は、あまり効率的でないことでしょう。マウスでは全筋肉を
治療できますが、マウスの体重は20gに過ぎません。今のところ、圧力下にウィルスベクタ
ーを血管内に注入しなければならないため、ヒトの四肢を治療するのは困難です。第一の
問題は、小児患者の全身を直ちに治療できないことです。遺伝子療法にはその毒性による
リスクがあります。いったん始めたら中止はできません。スキッピング薬剤では治療中止
が可能であり、AOを体外に排出でき、より最適化された薬剤を使用することもできます。
しかし、遺伝子療法が効果的で安全であることが示されれば、治療が一度で完了するのは
とても魅力的です。ただ、まだそこまで到達していません。
異なる変異に対するエクソン・スキッピング
ここで異なるジストロフィン変異に対するエクソン・スキッピングについてのご意見をお
願いします。
これまでに開発されてきたのは、単一のエクソン・スキッピングです。ほとんどのジスト
ロフィン遺伝子欠損には単一のエクソン・スキッピングが必要です。二重のエクソン・ス
キッピングが必要となる欠損もあります。ジストロフィン遺伝子中ではイン・フレームの
エクソンよりout-of-frameエクソンのほうが多いため、点変異はイン・フレームのエクソン
よりもout-of-frameエクソンであることが多いのです。イン・フレームのエクソンなら単一
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エクソンのみをスキッピングすればよいのです。しかし、変異がout-of-frameエクソンの場
合、2つのスキッピングが必要となります。
培養細胞および動物モデルでの経験から、2つのエクソン・スキッピングは可能だと分かっ
ています。しかし、2つのエクソン・スキッピングに関する臨床試験をどのようにして行う
か見当がつきません。規制当局が毒性試験を要求する可能性もありますし、登録済みのア
ンチセンス薬剤を組み合わせることが許可される可能性もあるからです。または、2種類の
AOを別個に注射する可能性もあります。こうすれば、薬剤カクテルよりも容易に承認が得
られるかもしれません。
しかし、たとえばよくある例ですが、エクソン46と50が欠損しているためエクソン51と45
のスキッピングが必要な男児に対する規制当局の考え方が判明していません。エクソン51
のスキッピングは開発中であり、エクソン45のスキッピングは優先順位が高いのです。両
方が利用可能になれば、どちらも処方・投与可能になります。
規制当局の観点から、2つのエクソン・スキッピングをどう取り扱うべきか不明なのです。
重複の修正法はいかがですか?
重複はきわめて困難です。問題はAOが2つのまったく同じエクソンを認識することです。2
つのうち一方だけをスキッピングをしたいと思っても、両方がスキッピングされることに
なります。単一エクソン重複の場合は解決法があります。重複の前または後ろの3番目のエ
クソンをスキッピングして読み枠を復元できるからです。大きな重複では非常に複雑とな
り、難しいのですが、研究は続けられています。10年または15年後には欠損や点変異に対
する単一および二重のエクソン・スキッピングが利用できるようになっているかもしれま
せんが、重複に関してはもっと長い時間がかかりそうです。重複にはエクソン・スキッピ
ングが不可能だと判明する可能性もあります。
稀有変異に対するエクソン・スキッピング
この時間的推定は、稀有変異を有する男児における単一エクソン・スキッピングついても
該当しますか?
はい。ただ、100グループを越える稀有変異それぞれについて世界中でごく少数の患者しか
いないため、これは別の問題です。臨床試験をしたいと思っても薬剤を開発するのは非常
に困難となります。患者数が少なすぎるので統計的な問題が出てくるからです。
問題となるのは、適切な診断を受けた稀有変異の患者のほとんどは西欧にいますが、大部
分の患者が中国とインドに住んでいることです。中国とインドでも的確な診断・介護が行
われる地域もあります。それでも大部分の患者が受けられる介護は西欧よりも少なく、診
断も行われず、変異について知る人もなく、疾病そのものも認識されていないことでしょ
う。それが第一の問題だと思います。理論的には、ある稀有変異について1000人以上の患
者が存在する可能性がありますが、情報がないのです。
私は、世界中の小児科医に情報提供するのを支援してもらえるよう所属するロータリーク
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ラブに働きかけています。彼らを介してこうした発展途上国の「未知の」デュシェンヌ型
筋ジストロフィー患者の家族と接触ができるかもしれません。
それは素晴らしい発案だと思います。多くの期待していなかった国々でも優れたDNA診断
を行っている施設が1つ2つあることにも驚かされます。私は2週間前にルーマニアに滞在し
ていたのですが、近代的なMLPA技術を使用して変異分析を行う遺伝子研究所がありました。
インドでもMLPA検査を行っている研究所が複数あります。デュシェンヌ型筋ジストロフィ
ーは稀な疾患であり、一般的にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断はオランダのよう
な国または地域全体の研究所1ヵ所のみで行われます。
各国の研究所のリストはありますか?研究所の所在地を尋ねるEメールをたくさん受け取
っているのです。
ヨーロッパでデュシェンヌ型筋ジストロフィーだけでなく他の疾患についてもDNA診断を
受けられる施設のリストがインターネット上で公表(www.eurogentest.org.)されています。
他の研究方法
ここで、エクソン・スキッピングでは治癒しない患者のために開発されている他の治療法
についてお話しください。
そうですね、たとえばイデベノンは呼吸器筋・心筋の質および骨格筋をも改善する可能性
があります。Biomarin社はウトロフィンをアップレギュレーションする薬剤を開発していま
したが、健常被験者における血中薬剤濃度が低すぎたために開発が中止されました。ウト
ロフィンのアップレギュレーションが中止された問題ですが、ここでもマウスで有望と思
われる物質がヒトでは異なることが多いという現実です。マウスで十分な血中濃度を得る
ことは容易ですが、ヒトでは違うかもしれません。なぜでしょうか?私たちはマウスでは
ないからです。つまり、マウスでは有望と思われても、ヒトはマウスよりもずっと大きく、
異なっていること、またマウスで成功した技術の多くはヒトでは使えないことを認識すべ
きです。
エクソン・スキッピングに関してGSKは第III相臨床試験を実施中であり、こうした試験に
よってその有用性が判明することでしょう。他の方法については第III相に至っていません
が、有用性について予測するのは非常に困難です。ここでもマウス等の動物で有望と思え
る物質もヒトでは有用ではない可能性があるからです。私たちはエクソン・スキッピング
の研究を10年以上継続してきましたが、まだ成功に至っていません。ある物質が有用と判
明するまでには長期間かかることで示されるように、ある技術が効果的で安全なデュシェ
ンヌ型筋ジストロフィーの治療薬となる時期を予測するのは実に難しいのです。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーと共に生きる
このインタビューの締めくくりとして、難しい質問をしたいと思います。成長して障害の
重いデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の生命を現代のあらゆる管理法を使用して延長
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するのは、本当に意味のあることなのでしょうか?
いい質問だと思います。この質問に答えられるのは1人だけ、つまり患者本人です。治療や
介護を受けたいかどうか決めるのは患者です。私たちからみると、指を上げられるだけ、
目を動かせるだけというのは恐ろしい状態に思えます。けれども、私が知っているこうし
た状況の患者は、「私の人生はとても貴重ですし、この生活が好きです。コンピューター
を持っていますし、お芝居にも、映画にも、サッカーの試合にも行けるし、幸せです。」
と言っています。
患者が幸福であり、生きたいと思うなら、それは患者の決断です。もし「私は生きていた
くない、こんな人生はいやだ。」と言うなら、それも患者の決断です。成人になったら、
介護を受け続けたくないという決断を患者自身が下すことができます。デュシェンヌ型筋
ジストロフィー患者の前向きな態度を知ると、自力で歩いて何でもできるのに不平を言う
自分が恥ずかしくなります。患者さんはできることが非常に限られているのに、満ちたり
て幸福なのです。
20、30年前を思い起こすと、当時のデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さんは補助呼吸
器が利用できませんでした。今では補助呼吸器のおかげで生活の質が大きく向上しました。
空気が足りない状態は不快なものです。寿命が延びただけでなく、生活の質も向上した点
が重要です。ですので、質問に対して正直で説得力のある答えを求めているなら、デュシ
ェンヌ型筋ジストロフィーの男児または青年に質問してください。
最後の難しい質問に洞察力のあるお答えをもって、デュシェンヌ型筋ジストロフィー研究
の最先進技術であるエクソン・スキッピングに関する議論を締めくくります。また、この
インタビューを読む予定の患者とその家族に代わって、今回のご説明と「我々の息子たち」
の治療法を発見するためにあなたと同僚が行っているすべてに対して感謝いたします。
Annemieke Aartsma-Rus, PhD.
a.m.rus@lumc.nl
www.dmd.nl/gt
Günter Scheuerbrandt, PhD.
gscheuerbrandt@t-online.de
http://www.duchenne-information.eu
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