連載 世 界 の 生 き 物 ミャンマー作物遺伝資源紀行 1 渡辺進二(元国際協力事業団JICA専門家) 秋濱友也(アグリバイオ研究所/元明治大学教授 ) 近年、地球温暖化の影響が早くも始まったと思われる 大洪水、旱魃、熱波などのニュースが続いている。当然、 作物被害は資源危機をもたらし、一刻も早く貴重なDNA をもつ遺伝資源を収集保存せねばならない。 日本人のルーツは、食べ物の味覚や嗜好の保守性から 考えて、イネ、チャ、ミカンの3点セットを特に好む民族の 多いミャンマー (特に北部) 、中国の雲南地方、インドのア ッサム地方、ラオスや北タイの地域にあると考えられる。 この地方の赤ん坊のお尻には青黒い蒙古班が見られ、日 本の赤ちゃんとそっくりである。これはまさに日本人のルー ツといえるだろう。 幸か不幸かミャンマーは長い間、鎖国状態にあり、人々 は気の毒であったが、遺伝資源の保存の立場から見ると、 誠にかけがえのない地域である。国際協力事業団のミャ ンマー・シードバンク計画は1997年10月にスタートし、本 年5月に終了した。今後はミャンマーの遺伝資源は宝石と して輝き、未来に向けて大きく羽ばたくことになるだろう。 NATURE INTERFACE Dec. 2002 no.12 060 1. 日本の援助でミャンマーの首都ヤンゴンから 北へ約300km以上あるピンマナの町に建設さ れたシードバンクの全景 2. 種子保存庫に入れる前に、種子の水分測定 や発芽試験のノウハウを指導する専門家(渡 辺) 3. シードバンクに近いピンマナの市場にて。自 分の畑で育てた野菜を売る農夫たち。人々の 社交場でもある 4. イネの田植え前に畑でおこなわれる代掻き 作業の風景。スキやシロカキ機は2頭立ての 牛に引かせる 5. 野生イネの遺伝資源探索収集。成熟すると もみがこぼれやすいので注意深く収集する 6. 飲み水は人々の生きるための必需品である。 2つのバケツを肩の前後にぶらさてげ運ぶミャ ンマーの農村の女性 7. イネ。Oryza sativa L. イネの品種はアジア に4000種以上あるが、ミャンマーにも大変多 くの品種があり、主食とされている。もみの長 さは0.7∼0.98cmの幅がある 8. Acacia pennata Willd. コニマの葉はカレー に入れる。野菜サラダにしたりタマゴとともに フライにして食べる。ミャンマー原産で、約 1000年も前から存在している 9. 遺伝資源探索旅行には、道路事情によって は牛の荷車が便利である。ただしあまり遠乗り はできない 10.Vigna mungo(L.)Hepper.ササゲの仲間。 インド原産で500年前に導入された。約50品 種がミャンマーにある。輸出用として栽培され ている 11. コリアンダー。Coriandrum sativa L.古く南 ヨーロッパから伝わった。スープやカレーに入 れると香りがよい 12. コリアンダーの種子。直径0.3cm。薬用に 用いる 13. ゾウコンニャク。Amorphophallus Campanulatus BL.コンニャクの仲間だが、イモにはコ ンニャクをつくる成分はなく、おもに若い葉や 茎を煮たり、炒めたりして食べる 14.カンナ Canna indica L. 南米原産だが導 入されてミャンマー全域で見られる。主として観 賞用であるが、地下茎の大きい品種は食べら れる 15. ニガウリ。Momordica charantia L. ミャンマ ー起源のニガウリで、若いうちはそれほど苦くな く、カレーに入れたり、煮たり、ゆでたりして食 べる 16.スターアップル。Chrysophyllum cainito L.1980年頃にフィリピンから導入された 17.スターアップルの葉は濃緑色。熟した果実 を食べる。果実径は5∼7cm 18.ケナフ。Hibiscus cannabinus L.ミャンマー 原産で葉は野菜として食べる。カレーに入れた り、地方によってはジャムにしたりする 10 9 12 11 1 15 14 13 2 17 16 5 18 061 世界の生き物 4 8 3 7 6 19.フサナリイチジク。Ficus glomerata ROXB.マレー、インドネシア起源、樹高25m にもなる。小枝に密集して着生する 20.ミャンマーの竹。Bambusa Spp.種類が 多く、竹細工にするなど利用価値が高い。タ ケノコは15∼20cmほどで、肉や魚と一緒に 煮て食べる 21.ターメリック (ウコン) 。 Curcuma longa L.ミャンマー原産として古くからあった。草丈 1m未満の宿根草本の根の部分から、カレー の香辛着色料としてデンプンを採取する。黄 色成分はクルクミンである 22.フサナリイチジクの果実。球型や洋梨型 などがある。果径は4cm程度で赤色である。 果実は生食、または乾燥粉砕して食べる。ヒ ンズーの聖木である 23.ゴレンシ。Averrhoa carambola L.マラヤ 原産で、100年以上前に導入された。果実は 生食する。なかには、甘く酸味のあるものも ある 24.スターグズベリ。 Phyllanthus cicca Muel.ミャンマーでは、100年前から庭先に植 えられていた。甘酸っぱく、ビタミン含有量が 非常に高い。生食にする 25.Limonia acidissima L.柑橘の仲間でタナ カと呼んでいる。約2000年前から広く栽培さ れている。樹皮をはいで樹液をそぎとり顔に 塗り、化粧品として使う 26.Pterocarpus indicus Willd.少女の頭に飾 ら れ た 黄 色 の 花 が ガ ム キノフ ラ ワ ー (Padauk) 。最近ミャンマーの国の花になっ た。甘い香りがする 27.タナカ。Thanat-kaは独特の香りがあり、 すべてのミャンマーレディが顔に塗っている 21 25 20 19 24 23 22 27 26 Tomoya Akihama アグリバイオ研究所 〒206-0011 東京都多摩市関戸1‐1‐5 ザ・スクエア A310 Tel&Fax 042‐372‐5365 e-mail : akihamat@d9.dion.ne.jp NATURE INTERFACE Dec. 2002 no.12 062
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