漢 方 - 札幌医科大学

漢方総論 1
• 漢方の世界観と現代の世界観が違うことがわかる
漢 方
• 「証」という言葉をきいたことがある
• 「気血水」「肝心脾肺腎」がなんとなくわかる
総論1
• 「陰陽虚実表裏熱寒」がなんとなくわかる
札幌医科大学医学部
地域医療総合医学講座
森崎
龍郎
morisaki@sapmed.ac.jp
2006/03/16
「漢方」って難しいんじゃないですか・・・?
• いいえ、簡単です。
• 今回は敢えてこう言い切ってしまいます。
• 難しいことを言い出したらキリがありません。
• 雰囲気が分かればよしとしましょう。
• 少なくとも欧米人が漢方を理解しようとするよりは、
我々の方がズーっと理解しやすいはずです。
• 漢字文化圏で育ったなら、なじみのある言葉ばかり
ですから。
「漢方」
• 恐らく江戸時代から「蘭方」に対して使われ始めた。
• 鍼灸、あんまなども広い意味では「漢方医学」
• 「漢方」という場合、特に漢方薬(煎じ薬=湯液)を
とうえき
治療法に用いる場合を言うこともあります。
• 「六病位」がなんとなくわかる
• 「四診」「望聞問切」がなんとなくわかる
• 「傷寒論」を聞いたことがある
「漢方」と「中国医学」って同じなんですか?
• ちがいます。ただ、もとは同じですし、基本は一緒
です。(親類みたいなもの)
• 「 漢 方 」は中国古典医学 が日本に伝 わり、日本で
独自に変遷・発展したもの。
• 現在中国で行われている「中国医学」は、「中医学」
といいます。
• たとえば、日本の漢方では「腹診」が重視されます
が、中医学ではあまり診ないらしいです。
• 使う処方や生薬の量もちがいます。
用語の説明が多いみたいですが・・・
• 「漢方の勉強を始めようとすると、だいたい難解な
(漢文みたいな)用語がたくさん出てくるので、引い
ちゃうんだよねぇ・・・。」
• そこで引かれたら先に進めませんので・・・。
• 民間療法とはちがいます。(学問体系がある)
• 慣れて下さい!
• 「東洋医学」というと、もう少し広い意味?
• あまり意味を深く追求してはいけません!
• 「和漢診療学」(寺澤)
• 「雰囲気」です。「感覚」です。
• “Kampo Medicine” “Japanese-Oriental Medicine”
• 実際定義がはっきりしていないものがほとんどです。
(それが漢方の良さでもあるわけで・・・)
• 中医学=Traditional Chinese Medicine: TCM
1
漢方のひみつ
漢方のひみつ
~漢方はなぜどんな病気にも使えるんですか?~
• 漢方の世界は、基本的に「陰陽論」や「五行論=
木火土金水」というものによって「世界」(あるいは
「宇宙」)が形成されているという思想・哲学体系な
んですね。(多分・・・)
• 古代の中国人が「そういうもんだ」「そういうことに
しとこう」と仮定したわけです。
• で、この世の全てを「陰陽」とか「五行」とかで矛盾な
く説明できるよう、長い年月をかけて整合性を保て
るよう理論を練って来たわけです。
• 世の中の全ての事象を矛盾なく説明できるよう、
人間が数千年かけて作り上げてきたものなのです、
この理論は。
• だから、「漢方の理論」で生命の成り立ちから人間
の構造、病気の原因や経過、感情の動きまで全て
説明できちゃうんです。(さらに言えば、天候や季節といった
自然現象すべて・・・占星術なんかにもつながってるわけですね。)
• 例:生まれた日の星の位置がその人を定義してい
る→だから、その日の星の位置で、その人のその日
の健康などを占うことができる、というわけ。
漢方のひみつ
漢方のひみつ
• だから、漢方はどんな症状にも、どんな病気にも
対応できるわけです。(この世界観において・・・。)
だって全てを説明できることになってるんです
から・・・。
• 全てを「治せる」わけではないのです。
(と私は思っています・・・)
• ん?ってことは、全部作られた仮定のおはなしで
「インチキ」ってこと・・・?
• いえ、数千年の経験に基づく「真実」も、もちろん
この世界(漢方)の中には含まれているんですね。
• でなければ、ただの「妄想」「迷信」としてすでに消
滅しているはず・・・。
• 「漢方医学」の正当性を担保しているのは、
「歴史」と「伝統」です。
• 「現代医学」の正当性を担保しているのは、
「(西洋)科学」です。
漢方のひみつ
漢方のひみつ
• 全てを「治せる」わけではないけど、全ての問題に
「対応できる」
• これぞ「人間の叡智」です。
• ちなみに三大東洋医学であるインド伝統医学
「アーユル・ヴェーダ」は「生命の知恵」という意味
です。
• 科学的な最新のエビデンスも重要ですが、
いにしえより伝わる叡智にも学ぶべきところは
たくさんあるはずです。
• というわけで、漢方を学ぶにはまずその世界にどっ
ぷり浸かるしかありません。
• つまり、漢方を学ぶにはこれまでの西洋医学の常識
を忘れる必要があります(一時的に)。
• 診断(病名)
→
治療決定
• 症状に対して薬を処方する
ではありません!
のではありません!
• 心臓=血液を循環させるポンプ
ではありません!
• 漢方に「脳」という概念はありません!(たしか・・・)
• 「精神病」→狐惑の病(キツネ憑き)とされていた!
2
「証」(しょう)ってなんですか?
漢方のひみつ
これは漢方界では極めて深遠な問いなんですが・・・。
•
漢方を西洋医学の頭で理解しようとすることは、
• その時の患者さんの状態を表すものです。
• 日本語をすべてアルファベット表記して読もうとす
るのに等しい!
• 「虚証」=「虚」という状態にある
• 「葛根湯証」=葛根湯を投与すべき状態
• 体重をcmで、身長をkgで表そうとするのに等しい!
• 「この人は瘀血の証があります」
• ざるそばにミートソースをかけて喰うのに等しい!
• 患者さんの「証」を決定することが漢方の診断でも
あり、治療方針の決定でもある。
• 寿司をナイフとフォークで、クリームソースをつけて
食べるようとするのに等しい!!
• 「随証施治」(証に随って治を施す)
と思って下さい・・・。(これが大前提です。)
• この「証」という概念が、最も重要な概念のひとつ
「証」は時々刻々変化するのだ!
「証」(しょう)
•
和漢診療部に伝わる伝説
•
ある日夜間救急で喘息の患者さんが入院した・・・。
•
当直のI大先生:「よし、○○湯の証だ。○○湯を煎じてこい!」
•
研修医K:「ハイ、分かりました」(急いで自分で調剤し煎じてくる)
•
K:(40分後)「先生、煎じ上がりました!!」(飲んでもらう)
• 同じ患者さんの同じ病いの経過の中でも、
時々刻々変化しうるものです。
•
I先生:「むっ!脈が変わったぞ!○×湯の脈だ!○×湯を煎じてきてく
れ!!」
•
K:(40分後)「先生、できました!!!」(患者さんに飲んでもらう)
• 最初「太陽病期の実証」でも後に、「少陰病期の虚証」へ
化することもありますし
•
I先生:「ん。(しばらく後)むむっ?これはっっ!××湯に変更だ!」
•
K:「ハイッッ!分かりました!」(注:漢方医は徒弟制である)
• 「証」は診断と言いましたが・・・
• 西洋医学と違い固定したものではありません。
• 西洋医学の「診断」とは異なります!
• 「葛根湯証」から「柴胡桂枝湯証」になることもあります。
• (ここがミソです。)
変
•
その①
これを2~3回繰り返しているうち夜が明け、発作も治まっていった・・・。
(漢方薬が効いたのか、自然に治ったのか、気が通じたのか・・・誰も知る由は
なかった・・・。)
気 血 水
気血水(き・けつ・すい)
• 生命を維持する三要素
• 元気の「気」です。「気合いだー!」の「気」です。
• この3つがないと人間は生きていけない
• 気=先天の気+後天の気
• 気: 生命活動を営む根源的エネルギー
•
• 血: 気のエネルギーを運ぶ赤い体液
• (親から受け継ぐ)+(呼吸と飲食から得る)
• 水: 気のエネルギーを司る透明な体液
• なんとなく分かるでしょ?
=腎気+水穀の気(気←氣)
• 気は経絡を巡る(衛気)
• 血は脈管を巡る(営血)
• 気血水の乱れ→病気の要因
3
気 血 水
• 代表的な気血水の異常は6つ
五臓(ごぞう)
• 「五臓六腑にしみわたる」の五臓です
• 気虚(ききょ):気が足りない状態
• 五臓= 肝・心・脾・肺・腎
• 気鬱(きうつ):気の巡りが滞っている状態
• 六腑=胆・三焦・胃・大腸・膀胱・小腸
• 気逆(きぎゃく):気の流れが逆流してしまっている状態
• 血虚(けっきょ):血が足りない状態
• 瘀血(おけつ):血の流れが滞っている状態
• 水滞(すいたい):水が偏在・停滞した状態
• 現代医学的な臓器とは異なります(っていうか、こっちの概
念が先で、江戸時代に解剖学を翻訳するとき後から当ては
めたわけです。)
• 解剖学的名称ではなく、漢方独特の「機能単位系」
で、物質的働きだけでなく精神機能も含んでいます。
• 「木・火・土・金・水」の五行に属している
五臓
五臓
• たとえば・・・
「肝」は
• 精神活動を安定化させる
• 新陳代謝を行う
• 血を貯蔵し、全身に栄養を供給する
• 骨格筋のトーヌスを維持する
ですから、肝を病むと・・・
• 怒りやすくなったり、痙攣、精神不穏を起こしたり
• 栄養不良や全身倦怠感を生じる、とされてます
いんよう・きょじつ・ひょうり・ねつかん
陰陽・虚実・表裏・熱寒
• 漢方は基本的思想として「陰陽二元論」に基づい
ています
• 陰の反対は陽、陽の反対は陰
西洋的一神教的二元論
白
黒
健康
病気
生
死
善
悪
神
悪魔
• 太陽は陽、月は陰
• 昼は陽、夜は陰
• 女は陰、男は陽
• ただしあくまで相対的な判断(だと思ってます)
• そこが西洋的一神教的二元論と根本的に異なる
ところです
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東洋的陰陽二元論
陽
陰
昼
夜
健康
太極図
病気
生
死
「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる」
陰陽・虚実
表裏
• 病いを患ったときの反応が
• 陽:活発、激しい、熱い・・・
• 表裏は部位を示す
• 陰:おとなしい、動かない、冷たい・・・
• 表:体表に近い部分
• 実:充実している、満ち満ちている・・・
• 裏:体の深部(特に消化管の方)
• 虚:足りない、うつろ、虚弱・・・
• これも相対的概念です
半表半裏
表
裏
• 陰陽は全体的・総合的な評価として
• カゼの初期に現れる頭痛、発熱、悪寒、関節痛は
表証です(カゼの病邪は体の表面から侵入して
くるというイメージ)
• 虚実は部分的・局所的な反応として
• 便秘、下痢、腹満といった症状は裏証です
• 高熱で目が充血してたら、陽で実かな?
• 蒼白い顔をしてじっとしてたら、陰虚かな?
寒熱
六病位(ろくびょうい)
しょうかんろん
• 局所的な病状に用いられる
• 冷え、冷感、局所温の低下→寒
• 熱感、充血、局所温の上昇→熱
• 上半身が熱くて、下半身は冷える
=上熱下寒(じょうねつげかん)
• 「傷寒論」(漢の時代に書かれた医学書。日本漢方の
バイブル的書物)に基づく病態理念
• 疾病状態を6つにステージ分けしている
太陽病期:表の熱証
陽証 少陽病期:半表半裏の熱証
陽明病期:裏の熱証
太陰病期:半表半裏および裏の寒証
陰証 少陰病期:裏寒、表・半表半裏寒
厥陰病期:裏の極度の寒証
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六病位
六病位
表
• たとえば、太陽病期とは・・・
陽証
• 「太陽之為病脈浮頭項強痛而悪寒」
半表半裏
死
少陽病
p113の図
(傷寒論太陽病上篇)
• 「太陽の病いは、脈が浮いていて、頭や項が強く痛み、
悪寒がするものである」
陽明病
死
太陰病
陰証
• 太陽病期には、悪風、悪寒をともなう発熱、項背部の
凝りと痛み、頭痛を主徴とし、脈は浮・数(頻脈)である、
とされています
裏
太陽病
少陰病
厥陰病
死
漢方の診察=四診(ししん)
四診
• いままで述べてきた「証」を見極めるのに、漢方流
の診察をするわけです
• もちろん数千年前には、血液検査もレントゲンもあ
りませんし、聴診器もありません。
• それが「四診」です
• 四診では人間の五感のみを用います。
• 四診=望(もう)・聞(ぶん)・問(もん)・切(せつ)
• 漢方を実践していると、患者さんの情報を収集す
る唯一の手段が自分の五感に頼るしかありません
から、自ずと注意深く、一所懸命に患者さんを診る
ようになります。
• 望診:視診です。舌診も含みます。
• 聞診:聴くと嗅ぐです。声色やウンコの臭いも。
• 問診:自覚症状その他を訊きます。
• 切診:手で患者さんを触れる診察です。触診、脈診、
腹診を含みます。
漢方的四診の効用
• 医師-患者関係が強固になるでしょう。
• 診察のたびに必ず脈やおなかを触りますし、変化
がないか時間をかけて診ますので。
• さらに「証」は時々刻々流転しますから、診察のた
びにこの作業を繰り返さねばなりません。(そうし
ないと治療を決められないんです!)
治療の基本原則
• 漢方の治療原則は簡単です
(難しいことを言い出すとキリがないので)
• 熱いものは冷やし、冷たいものは温める
• 「聞診」として、ウンコの臭いまで嗅いだら患者さ
んは涙するかもしれません?
• 充実しすぎていれば(実)、取り除き(瀉・しゃ)
• 患者さんとのコミュニケーション手段の一つでも
あり、儀式的な意味も持つようになってきます。
• 表に邪があれば、汗とともに出し
• 足りなければ(虚)、補う(補・ほ)
• 裏に邪があれば、下す
• 気が滞っていれば、気の流れをよくし
• 血が足りなければ、血を補う
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漢方の治療
わかりやすい入門書・参考書
• 症例から学ぶ和漢診療学
• 「四診」で「証」を確定したら、この原則に則って治
療します。
• ひとつひとつの生薬に、それぞれ温めたり、冷や
したり、補ったり、気血を巡らしたりする効果があり、
その組み合わせで(方剤)の効用が決まってきます。
寺澤捷年
(症例とともに理論も明快に整理されている)
• JJNブックス絵でみる和漢診療学
寺澤捷年
医学書院
(イラスト豊富で基本的な理論を知るにはとっつきやすい)
• はじめての漢方診療十五話
三潴忠道
医学書院
(総合診療ブックス。千葉古方派(富山派?)の王道)
• 漢方診療のレッスン
金原出版
• 大建中湯(方剤):太陰病期、虚証に用いる方剤
• 構成生薬:人参、山椒、乾姜、膠飴
医学書院
花輪寿彦
(より臨床的・実践的か?)
• 明解!Dr.浅岡の楽しく漢方
浅岡俊之
ケアネットのDVD
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