エジプト農村における親族の居住分布の空間分析 The Spatial Pattern

エジプト農村における親族の居住分布の空間分析
後藤寛,加藤博,岩崎えり奈
The Spatial Pattern of Residence of Relatives in Villages of
Egypt
Yutaka GOTO, Hiroshi KATO, Erina IWASAKI
Abstract : Under a target on the rural villages of Egypt, it was tried to
restructure its spatial patterns by using a method to convert into angular
coordinates the location point of household groups. Here were reported
some information on household survey data we gut from fieldworks and to
stick wall photos taken by using a for all And to make clear the spatial
patterns of villages of Egypt by the point of view of itas social and
economical structure among this project.
Keywords : エジプト(Egypt),農村空間(space of farming community),
親族(family(Aila)),空間分布(spatial pattern)
エジプト農村の社会・経済的特徴の解明を
いまだ決め手がないと考えられる.
目指し,いくつかの類型を代表する村につい
ここではユークリッド座標を角座標へ変換
て世帯戸別のヒアリング調査を大規模に進め
することによりそれらを指標化する方法を提
ている.その中で村落内の居住地分布の空間
案し,上記のエジプト農村のデータを用いた
的特徴に意味があるように思われる指標がみ
その手法の検証結果を報告する.
られるため,村落間の比較を可能にする空間
分布傾向の表現方法の開発を目指した.
農村集落に限らず,都市社会内部の空間分
1.角座標系を用いた空間分布の表現方法
化については,同心円構造とセクター構造と
角座標とは,ユークリッド空間における x,y
いうモデル化が広く知られている.しかしそ
座標系に対して,中心点からの距離と方角で
れらの理念型と実証データの突き合わせには
表現される座標系のことである.
後藤, 横浜市金沢区瀬戸 22-2,
横浜市立大学
国際総合科学部,
Tel & Fax : 045-787-2083
e-mail : yutakagt@yokohama-cu.ac.jp
x,y 座 標系 か ら 角座標 系 へ の変換 に は ,ま
ず操作的に中心点を設定し,そこからの距離
l と,角度 r を求めることになる.ここでは
arctangent を用いて r をラジアン単位に変換
して求めている.
可能性が期待できると考える.
2.エジプトの農村集落の空間
構造
エジプトの農村は,上エジプ
ト(カイロ以南のナイル川流域)
と下エジプト(カイロ以北のナ
イルデルタ)では農村社会や形
成原理がまったく異なるとされ
ているが,加藤を中心としたグル
図1
2つの座標系
ープは国際的にみても初めて,そ
その際当然のこととして,中心点の設定の
れらを解明するための大規模な調
方法,および角度の基準とする方角の設定方
査を継続している.その主たる方法はサンプ
法が課題となる.
リングした世帯ごとに家計状況や親族関係等
集落の中心点の設定方法としては,地域研
膨大な項目のアンケートをとっていくという
究の目的からすれば,何らかの意味で中心性
ものであるが,その成果を空間分析にも生か
をもつ場所がふさわしいと考えられる.とは
すため,調査した世帯の位置の記録をしっか
いえこれは対象とするフィールドのさまざま
り残すこと,および集落のできる限り正確な
な事情,それぞれの文化的事情による中心性
地図を作成して調査データと連携できるよう
の定義の難しさや,その歴史的変遷も考慮す
配慮している.
る必要が出てくる.他方で,単純に空間デー
その中からここでは,Aila と呼ばれる親族
タ(ここでは調査した世帯の位置を示すポイ
関係のデータを基に,それらが集落の中でど
ントデータ)の平均を用いる方法も考えられ
の程度集住しているかの分析を試みた.
る.
エジプトの農村集落には,比較的歴史の古
角座標系での表現により,同心円構造を示
い,かつては城壁をもっていたタイプの核を
すデータであれば横縞が,セクター構造を示
もった集落の中と,小規模かつ比較的歴史の
すデータであれば縦縞が現れるのではないか
新しいタイプの集落があることがわかってい
と想定される.しかし基準とする方位の設定
る.親族分布を地図に落とすだけでも感覚的
方法,あるいは角座標系グラフの尺度の取り
に,前者においては,親族分布はおおまかに
方(距離方向はそのままでは中心に近いほど
いってセクター状の居住分布をしており,後
本来の密度が低くなる問題)をどのように解
者においては親族分布が帯状になっているこ
決するかなど,まだまだ技術的な課題は多い
とが地図上で容易に把握でき,それぞれの類
が,都市および農村集落内部の空間分析の比
型の村落の成長過程およびその方向性を示し
較を念頭においた空間分析のツールとしての
ていると考えることができる.しかしこれら
を指標化し,比較可能にしようとするとなる
図2
xy座標系による AbuSneita 村内の親族分布の表現
と工夫を要する.
り,たとえば村役場という固定的なものは存
農村に限らず,集落・都市内部の社会・経
在せず,敢えて想定するとすればガーミヤ(モ
済的の分化については,同心円構造とセクタ
スク)をもって宗教的・精神的な中心地と設
ー構造というモデル化が広く知られているが,
定するのが妥当と考えられる.これらについ
それらの理念型と実証データの突き合わせに
ても歴史的な変遷を考慮する必要もあるので
はいまだ決め手がないと考えられる.そこで
話はそう単純ではないが,空間分布から得ら
前述の方法をこのデータに適用してみたのが
れる客観的情報と,各村の歴史を含めた人
図2と図3である.
文・社会科学的情報を組み合わせて考察して
集落の中心点の設定一つをとっても,エジ
いくことで,集落形成のメカニズムにより深
プト農村ならではの条件を勘案する必要があ
く迫っていくことができるのではないかと考
えている.
図3
角座標系による AbuSneita 村内の親族分布の表現