Topic 42 米国アリゾナ州の VCP(その2); 同州の Institutional Controls 1)Institutional Controls(ICs)のおさらい 2)アリゾナ州では お疲れ様です。環境メルマの佐藤です。都合により先週金曜日分のメルマを本日発信させてい ただきます。Topic 42 では、前回ご紹介したアリゾナ州の VRP(自主的浄化プログラム)に続い て Institutional Controls をみてみます。 1)Institutional Controls(ICs)のおさらい まずは ICs のおさらいです。ICs とは日本語に直訳すると「制度的管理」。これは、人が汚染 物質に暴露される可能性を低減させるために、対象サイトの土地利用方法や人の活動を、契約書 などを用いて制度的に制約することによって管理していく手法を意味します。(例:このサイト を宅地として利用してはいけません、とか、ここでは井戸を設置してはいけません、など)。な ぜ米国では土壌汚染問題に ICs が必要になってきたかというと、リスクベースの浄化方法を採択 するケースが増えてきたからです。リスクベースで浄化するということは、つまるところ対象サ イトに汚染を残してしまうこと。ですから、その残存する汚染が自然に衰退していくまでの間、 どうやってその汚染地の環境情報をトラッキングして管理していくか、そして人の健康と生活環 境保護にその情報を役立たせるかを考えていくことが議論されるようになってきました。 「制度的」というぐらいだから ICs に関する法律があるのだろうかと推測してしまいますが、 米国は ICs を法律化していません。ICs は地方行政レベルで実施されているのが現状です。これ を国レベルで取りまとめる必要があると考え、立案されたのが統一環境誓約法「UECA: Uniform Environmental Covenant Act」です。2005 年 9 月時点で、米国 10 州が UECA を導入。12 州が試 験的に導入しているようです。 2)アリゾナ州では アリゾナ州が ICs に関心を寄せるようになった直接のきっかけは、1990 年代後半に州の地下水 浄化スタンダードが修正されてリスクベースの浄化が可能になり、汚染物質の自然衰退(natural attenuation)をモニタリングすることが浄化方法として受け入れられるようになったことです。 まさに汚染を「管理」していくことが必要となったのです。1999 年には、ICs の規制法考案に関 心のあるビジネス業界の代表者、地方政府の役員、環境コンサルタントらが、「土地利用規制を 定めるだけではなくて、現在そして将来の土地所有者がその情報を責任もって管理していくよう なルールが必要性である」と主張し始めました。このような動きにたいして不動産業界や title company は反対したようです。なぜならそのようなルールが制定されると不動産取引のプロセス がより面倒になるからです。このような反対を押し切って、2000 年 4 月に「環境土地利用規制 の宣言(DEUR: Declaration of Environmental Use Restriction)」と呼ばれる ICs の規制が成 立しました。これに伴い同州の VRP も再度見直されました。 この DEUR(アリゾナ州の ICs といってもいい)は、ICs を採用しているサイトの所有者が情報 を記録すること(汚染責任者ではありません)、そしてサイト所有者と州の環境局が ICs の管理 作業を進めること、と定めています。市は直接関与しなくてよいことになっているのですね。ICs を実施するにあたり「モニタリングおよび情報管理の責任は誰がとるのか」が議論の的になり勝 ちですが、このあたりを同州は線引きしたようです。 DEUR は、州の自主浄化プログラム(VRP)に登録して浄化プロセスを踏んだサイトのみに適用 されることになっています。前回の Topic でお話したとおり、アリゾナ州における浄化プロセス は VRP に登録せず民間で実施してしまうケースがほとんどであるため、DEUR を採用するケース はそれほど多くないのが現状のようです。今後、VRP および DEUR の登録数を増やすこと、また ICs に関する情報管理費用をどのように確保していくか、およびサイトにおける残存汚染に関す る係争が起こった際の環境負債の処理等、さまざまな課題を挙げていますが、アリゾナ州は、ICs のシステム改善に前向きな姿勢を見せています。この州の ICs 制度をモニタリングしていくと日 本でも応用できそうな情報が得られるかもしれませんね。 今週金曜日は、環境メルマの一周年記念号をお送りすることになります。只今、環境メルマは ヨーロッパで開催されているブラウンフィールド会議に出席中ですので、その会議の模様をお伝 えしたいと思います。どうぞお楽しみに。 Thanks God It’s a work day! Thanks God It’s Brownfield!! 環境メルマ 佐藤(t.sato@ers-co.jp) 坂野のつけたし(banno@ers-co.jp) 事例紹介 –Salt River Pima-Maricopa Indian Community(ソルトリバー ピマ-マリコパ イ ンディアンコミュニティー):アメリカ合衆国には、ネイティブアメリカン(「インディアン」 という呼び方のほうがわかりやすいのかもしれませんが、以下こう呼ぶことにします)が 250 万人ほど住んでいます。アリゾナ州は、カリフォルニア州とオクラホマ州に次いで、ネイティブ アメリカンの人口が多く、州全体の人口の約5%(25.5 万人)のネイティブアメリカンが州全 体の面積の約 28%の広さの土地で生活しています。同州には、ピマ-マリコパのほかに、アパッ チやナバホといった西部劇でおなじみの名前の居留地が存在します。 さて、EPAは 2006 年にピマ-マリコパのコミュニティーに対して、環境調査や浄化に使用するた めに計 55 万ドルの助成金をつけました。約 64 万㎡の廃止済みの家畜飼育場では、肥料や農薬に よる土壌汚染が発生し、さらに不法投棄による環境問題も発生しています。コミュニティーでは、 この土地であらたな農業を興し、雇用を確保しようと考えています。 (http://www.epa.gov/brownfields/06arc/saltriver.pdf) (ピマ-マリコパについて知りた い方は、http://www.saltriver.pima-maricopa.nsn.us/ をご覧ください。)
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