競争に打ち勝つための俊敏性 コスト管理で成長を加速させ持続的な 成長を実現するには 「成長」は業種を問わず、すべて 景気の如何にかかわらず、あらゆる企業に の企業に課せられた永続的なテー とってコスト意識という文化の醸成は不可 欠です。そのためにはまず、組織全体を見 マの 1 つです。このことは、かつ 渡して支出を 100 %把握し、重複するコス てないほど不確実性を増している トや価値の創出につながらないコストを排 市場環境においても変わることは 除する必要があります。その際に効果を発 揮するのが、ゼロベース予算(ZBB, Zeroありません。企業の CEO(最高経 Based Budgeting)のアプローチです。ZBB 営責任者)や CFO(最高財務責任 では、予算は毎年ゼロから出発し、各予算 者) 、COO(最高執行責任者)は、 項目の所要(量と質)と金額(調達価格) 様々な不連続な変化(図 1)の中 の妥当性が検証されます。オープンで透明 性に優れたこの ZBB のアプローチは、各 で持続可能な競争力をなお発揮し 費目の裏に隠れている所要の量・質の問題 続けるために、組織が「フィット を 表 に 出 し、 そ れ に よ っ て 無 駄 な コ ス ト ネスを高め、その状態を保つ」こ の削減と、その後の継続的ななコスト管理 を可能にします。このプロセスでは、効率 とがいかに重要であるかを正しく 性を高めるべき優先領域を見極め、販管費 理解しています。とはいえ、競争 (SG&A)の伸び以上に売り上げを伸ばして に打ち勝つための俊敏性は 1 度の いく方法を探り出します。 努力で獲得できるものではありま せん。また、俊敏性は単なるコス ト削減、節約を意味するものでも ありません。企業が成功を収める には、削減されたコストを競争優 位の強化と成長の加速に向けて再 投資していかなければならないの です。 次のステップでは、事業運営モデル(組織 体制)の評価を行います。事業運営モデル は単に効率性が高いだけでは十分とは言え ません。変化への対応力や、ビジネス戦略 との整合性も求められます。このような組 織体制があって初めて、一連の流れとして の業務プロセスの標準化と改善の取組みが 効果を生み、業績の飛躍的な向上をもたら します。新たに獲得した経営の俊敏性と業 務プロセスが先進的な組織能力を発揮させ、 従来とは異なる事業展開を可能にします。 このことは、フィットネスを高めた企業が、 更にその上に不確実性の高い市場環境を乗 り切るための「筋肉」を付けていくことに 例えられるでしょう。 図 1.不連続な変化の原動力 EBITDA (減価償却前 営業利益) コスト 2 グローバル化 競争 市場の不確実性 組織は以下の各ステップを通じて、その効率性とスピードを改善し、 遂行能力と柔軟性を高め、顧客・消費者、市場のニーズに応えること ができるようになります。 • 全社のビジネス戦略と整合した、より効率性な事業運営モデル(組 織体制)の構築 • 組織を通貫する視点での、一連の流れとしての業務プロセスの卓越 性の強化 • 先進的な組織能力の獲得を通じた、差別化の実現 これらのステップこそが、“競争に打ち勝つための俊敏性”を構成す る主な要素です。この俊敏性が、短期だけでなく長期にわたって続く 競争力を企業に与えてくれます(図 2)。 図 2.競争に打ち勝つための俊敏性の獲得 設計 略 戦 新たな事業運営モデルにより、 俊敏性を獲得したグローバルな 食品企業 アクセンチュアはグローバルにビジネ ス展開するある食品企業を支援し、新 たな事業運営モデルの設計・構築を通 して効率性と俊敏性を向上させました。 新たに構築された同社の「グローバル・ ビジネス・サービス」部門は今後、サ プライチェーン、財務、人事、IT を含 む主要な機能を担っていきます。この プログラムを通して、同社は 1 億ドル のコスト削減を見込んでいます。これ により、地理的な拡大やブランド構築、 コアとなる組織能力の開発といった成 長戦略への再投資が可能となります。 実装 営 運 事業運営 モデル (組織体制) 卓越した 業務プロセス 組織能力の 開発 削減したコストの 再投資による、 競争優位の強化と成長 原動力 アナリティクス デジタル・テクノロジー 企業文化の変革と コミュニケーション 3 全社のビジネス戦略と整合した、より効率性な事業運営モデルの 構築 万能の事業運営モデルというものは存在し ません。シェアードサービスを追求する企 業もあれば、グローバル・ビジネス・サー ビス部門の構築、ベンチマーキング、管理 スパンと管理階層の見直しなどを追求する 企業もあります。このように唯一絶対のソ リューションは存在しないものの、企業に は共通する弱点があることも確かです。 最大の弱点は恐らく、ローカルな狭い視点 で考えてしまうことでしょう。企業は、ロー カルとグローバルの両方の視点をバランス 良く持たなければなりません。これができ なければ、事業規模拡大の機会を失うこと になります。極端にグローバルへと舵を切 り、各種機能を本社に集約するアプローチ を取っている企業が、依然として高い販間 費(SG&A)を抱えている、といったケース もあります。 企業は、バックオフィス/ミドルオフィス の効率性を高めるためにグローバル規模で 運営する機能と、市場との結びつきを高め コストを全社的に把握することに より、想像以上に経費が掛かって いることに多くの企業が気づくこ とになります。典型的なケースで、 間接費の現状水準は想定の 20 ~ 40% 増し、というレベルです 2。 るためにローカルに運営する機能とを適切 に見極めなければなりません。たとえば、 販売促進活動はローカルで行いつつ、キャ ンペーンで収集したデータの管理はグロー バルで行う、といったことが考えられるで しょう。 ローカルとグローバルのバランスは、地理 的な意味に限りません。各業務プロセスを 全社横断視点で見ることも重要でしょう。 世界中でプロセスの一貫性を維持すること が鍵になります。プロセスの一貫性はデー タの一貫性へとつながり、ビジネスの動向 をより的確に見極めて認識することを可能 にします。このような優れた認識力を備え た企業は、顧客・消費者のニーズにより効 果的に応えることができるでしょう。 高業績を収めるハイパフォーマンス企 業のうち、78 %が過去 2 年間に事業運 営モデルの合理化に着手、または完了 1 したと回答 。 可視性を高めるには、単に支出を 右から左へと括り直すのではな く、その支出の中身・用途を分析 しなければなりません。分析を通 じて、一般的にコストの 20 ~ 35% は分類が変わります 2。 1.アクセンチュア「ハイパフォーマンスファイナンススタディ 2014」 2.アクセンチュアのクライアント支援事例および分析に基づく 4 適切な事業運営モデルを設計する には: •会 社 の 支 出 に つ い て 可 視 性 を 高 め る( 何 に? ど の よ う に? なぜ?)。 •ゼロベース予算を 1 回限りでは なく年次の定常プロセスとする ことにより、持続可能なコスト 管理を推進する。 • SG&A と人件費の両方を対象に 含める。 •複数のビジネスモデルに対応す る柔軟性を備えた、新たな組織 体制を設計する。 調達プロセスの成熟度により変 わりますが、コスト削減は約 60 ~ 70% が所要の量・質の見直 しから、残りが調達価格の見直し からもたらされます。コスト削減 の 3 分 の 2 は、 削 減 努 力 開 始 か 2 ら 1 年で達成可能です 。 組織を通貫する視点での、業務プロセスの卓越性の強化 企業は、価値創出の前提として有効な組織 運営モデルを確立しなければなりませんが、 同時にバリューチェーンの各領域の有効性 を高めることについても考える必要があり ます。既存の業務プロセスは、往々にして 非効率的です。たとえば、一人のスタッフ を雇うに当たって、ある部門が採用活動を 行い、別の部門の予算から給与を支払い、 さらに別の部門がその人物の業績考課を行 う、と言ったことが見受けられます。この ような分断された業務プロセスはコストを 嵩ませるだけでなく、各部門が企業全体の ビジネス戦略に沿って整合的に動くことを 阻害するでしょう。 企業が成功するにはまず、業務プロセスの 断片化の原因となる組織内のサイロ化を是 正し、組織を通貫する一連の流れに沿って 一気通貫の業務プロセスを構築することに 焦点を当てる必要があります。販売促進活 動のようにすでに確立されたプロセスから、 標準化・集約化・簡素化・自動化に着手し ていくのが良いでしょう。このような合理 化は効率の向上に役立つだけでなく、長期 的なインパクトを生むプロセスの有効性強 化との最適なバランスの実現にもつながり ます。 卓越した業務プロセスの実現には、まずは そのプロセスのもたらすべき成果・目標を 明らかにし、そこへの道のりを逆算で考え る必要があります。たとえば、最終の顧客・ 消費者のニーズの把握からスタートし、そ のニーズに応えるという最終目標から逆戻 りして、そのために必要な個々のプロセス を組み立てていく、といったことです。 卓越した業務プロセスを構築するには、社内の複数部門を横断する一 気通貫の視点でプロセス改革を推進しなければなりません。一気通 貫とは、具体的には以下のような視点です。 •アイデア創出から生産停止に至るまでの、製品イノベーションプロ セス •需給調整・計画からから配送・納品までの、サプライチェーンプロ セス •財務・会計分野における、受注から入金までのプロセス •調達分野における、取引先選定から支払いまでのプロセス •人事分野における、採用から退職までのプロセス •企業活動の記録から報告までの、業績の可視化のプロセス 補修部品価格の最適化によるアフターサービス事業の成長 アクセンチュアの部品価格最適化サービスは、メーカーにおける補修部品の価格設定 を、従来の“コストプラス”のモデルから、顧客が実際に知覚する価値に基づいて価 格設定する顧客中心のモデルへと切り替えるものです。メーカーは、部品市場の分析 情報を活用して補修部品の価格設定を最適化しながら、価格戦略が売上げや販売量、 製品ミックスに及ぼす影響をモニタリングできます。たとえば、グローバルな電気機 器メーカーの事例では、電子制御盤の物理的な属性や機能を用いた分析モデルに基づ いて、メーカー希望小売価格の再設定を支援しました。 5 先進的な組織能力の獲得を通じた、差別化の実現 企業は業務プロセスの管理方法を改善する ことにより、組織としての能力発揮のレベ ルを改善できます。卓越した業務プロセス は、個人はもちろんのこと、部門ごとの機 能発揮の状況の可視性を高めるため、企業 はそこから得た情報によって、“意見”では なく“事実”に基づいた意思決定が行える ようになります。 ノン・コア業務においても、IT 関連業務を 例に取れば、レガシー・アプリケーション を統合型プラットフォームに切り替えるこ とにより、保守費用を削減したり、新製品 の市場導入を容易かつ短時間で実現したり、 といった形で、組織能力の発揮を改善でき ます。 卓越した業務プロセスを持つことにより、 このような情報を活用することで、企業は 社員やチームの働き方も変わります。その 自 社 に と っ て の コ ア 業 務 お よ び ノ ン・ コ 結果、プロセスの効率性と有効性が自律的 ア業務の機能発揮を改善できます。たとえ に改善し、より一層の差別化へと繋がって ば、インセンティブや販売奨励金の設定を いきます。先の自動車メーカーの例で言え コア業務とする自動車メーカーが、定価で ば、インセンティブ管理チームが営業チー 容易に売れる車種にまで販売奨励金を出し ムの実現したい目標に対する理解を深めれ ていれば、利益を毀損していることになり ば、両チームの協働が促進されて組織能力 ます。この場合、アナリティクスを用いて が強化され、結果として作業の手戻りが減 売れ行きの良くない車種を地域ごとに特定 り、コスト削減が実現され、究極的には競 し、それらの伸び悩んでいる市場に限定し 合他社とのさらなる差別化を図れる、といっ て販売奨励金を提供すれば、コストを削減 たことです。こうした試みにより、重複す しながら成長を加速化できるでしょう。イ るコストや価値創出につながらないコスト ンセンティブや販売奨励金の管理プロセス の見直しを推し進め、10 億ドル規模のコス を改善することにより、この企業は同時に、 ト削減を達成している企業もあります。 新たな組織能力を獲得したことになります。 北米の小売企業、アナリティクスを用いた意思決定で店舗展開を最適化 1,000 店舗以上を展開するあるアパレル企業はアクセンチュアと協業し、収益性の最 大化を目標に閉鎖すべき店舗の特定と定量化を行い、300 を超える店舗の閉鎖計画を 策定しました。同社は現在、高度な分析能力を備えた店舗閉鎖シミュレーションツー ルを用いて、憶測ではなく事実に基づいた意思決定を行っています。同社のツールは、 ある特定の店舗や複数の店舗を閉鎖した場合に、その店舗の顧客を他の店舗やオンラ インショップへと誘導できるかどうかを考慮に入れています。これにより、同社はコ スト削減が可能な領域を明らかにするとともに、店舗ごとの利益率の最適化を実現し ています。 6 先進的な組織能力を構築するに は、以下が不可欠となります。 •変化への迅速な対応を可能にす るための、柔軟な仕組みの構築 •不確実な市場環境を乗り切る戦 略の策定 •高いコスト意識を含んだ企業文 化の醸成 •顧客/消費者との対話・巻き込 みの向上 •先 進 的 な 組 織 能 力 の 発 揮 を 体 現できる、適切な人材の採用と 維持 変革の実現 以上の 3 つのステップを正しく踏むためには、企業はチェンジ・マネジメントとコミュニ ケーションに熟練していなければなりません。変革の旅は、平坦ではない場合もあります。 だからこそ、「変革によってどのようなメリットが得られるのか?」をコミュニケーショ ンによって伝え、全社的な賛同の機運を醸成することが大切です。従業員一人ひとりがそ の変革のもたらす価値、その変革が自らの役割に与える影響、そしてビジネス戦略全体に おけるその変革の重要性を理解しなければならないのです。 このような変革に向けて大きな一歩を踏み出す企業には、コスト削減と生産性向上により、 利益(EBITDA)と株主価値の増大というメリットがもたらされます。経営幹部の多くが「成 長」を最大の目標として掲げている今、このような変革こそが、そのような成長と刺激的 な新領域への進出の機会をもたらしてくれるでしょう コストの削減 収益漏出の縮小 生産性の向上 売上成長の加速 運転資本の最適化 成長への再投資 プロセス改善の 持続的推進 7 アクセンチュアについて アクセンチュアは「ストラテジー」 「コンサ ルティング」 「デジタル」 「テクノロジー」 「オ ペレーションズ」 の 5 つの領域で幅広いサー ビスとソリューションを提供する世界最大 級の総合コンサルティング企業です。世界 最大の規模を誇るデリバリーネットワーク に裏打ちされた、40 を超す業界とあらゆる 業務に対応可能な豊富な経験と専門スキル などの強みを生かし、ビジネスとテクノロ ジーを融合させて、お客様のハイパフォー マンス実現と、持続可能な価値創出を支援 しています。世界 120 カ国以上のお客様に サービスを提供するおよそ 37 万 3,000 人 の社員が、イノベーションの創出と世界中 の人々のより豊かな生活の実現に取り組ん でいます。 アクセンチュアの詳細は www.accenture.com を、 アクセンチュア株式会社の詳細は www.accenture.com/jp をご覧ください。 製造・流通本部のお問い合わせは こちらまで infoprd.jp@accenture.com 03-3588-4453(製造・流通本部直通) Copyright © 2016 Accenture All rights reserved. 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