物質工学域研究紹介 生物電気化学:界面と電子移動 生物電気化学研究室(辻村研究室) 実験室(理修棟 B222,D204) 辻村清也 (准教授) 教員研究室(F202) 1. はじめに 生体内では電子とイオンの流れにより生命 活動を支える「エネルギー」が生み出されてい ます.私たちは,生体内の電子とイオンの流れ (すなわち酸化還元反応)を担う“酵素”の機能 を電気化学的な観点から理解し,巧みにコント ロールすることで, 「環境・エネルギー」 「健康・ 医療」といった分野での利用を目指した創造的 なデバイスの開発を行っています. 辻村研究室は 2011 年 8 月にスタートした研 究室です.電気化学をベースに,生体材料(酸 化還元酵素,微生物),高分子材料,ナノ炭素 材料,微細加工技術を駆使し,研究を進めます. 国内外の企業や大学,研究機関との共同研究に も取り組んでいます. 2. 研究テーマ 2.1. バイオ燃料電池(バイオ電池) :持続可能なクリーンエネルギー 生体内エネルギー変換 化学反応の精緻かつ巧妙 な構造と機能に学び,糖や アルコールを燃料として 発電するバイオ燃料電池 を開発しています.酵素 (場合によっては微生物)を電極触媒として利 用し,負極では糖などの燃料の酸化反応,正極 では酸素の還元反応を進行させることにより, 化学エネルギー差を電力に変換します.レアメ タルを一切利用せず,血液・食物残滓などから 直接発電できる持続可能なユビキタス発電デ バイスであることから、次世代型の電池として 大変注目を集めています.出力、安定性、耐久 性、容量密度の向上が実用化に向けた課題であ り、私たちは電池に適した酵素や電極材料(多 格子炭素)の開発といった方面からアプローチ をしています。加えて、ウェアラブルタイプや 微小タイプといった新し いシステムの電池基盤形 成や、印刷による電池製 造プロセスの革新も同時 に進めています。 2.2. 酵素電極反応 :高効率電子移動を目指して 電子移動速度の向上 は電流密度の向上(電 池の高出力化,バイオ センサの高感度化)に つながります.したが って,いかに効率よく 酵素反応と電極反応を結びつけるかがデバイ ス開発の鍵を握っています.辻村研究室では, (1)電極と酵素の間での電子移動メカニズムの 解明,そしてこうした基礎理論に基づいた(2) 酵素と電極間の電子伝達を担う酸化還元メデ ィエータの開発,(3)電極表面への酵素およびメ ディエータの修飾方法の改良,(4)電極のナノ― マイクロ構造制御と化学的改質,(5)酵素の改変, に取り組んでいます. 2.3. メソ多孔炭素での酵素反応 :マルチスケール相界面の制御 酵素を電極上という過酷な環境でも十分な 機能を発現できるように,ナノマテリアルや高 分子など酵素の耐環境性能等を向上させる材 料および修飾方法も同様に研究しています.特 に,高い電気伝導性を有し,酵素反応に適した ナノメートルオーダーで細孔構造が制御され た多孔性炭素を用いることで,従来にない極め て高い性能(出力・安定性)を有する燃料電池 用酵素電極の開発に成功しました.数十ナノメ ートルの孔径を有するメソ多孔質炭素内への 酵素吸着、および界面電子移動反応挙動を解明 し,電子移動速度の向上および酵素の耐久性向 上を目指しています.さらに,マイクロメート ルのスケールでは物質輸送に適した電極 3 次元 構造の制御も試みています。 2.4. 今後 ヒトと社会(コミュニティー)を結びつける 生体材料と電子材料を融合した生体機能デバ イスは,今後重要性を増してくると期待されて います.バイオ燃料電池などの生物電気化学の 研究で培われたバイオ―ナノインターフェイ ス制御基盤技術をもとに,次世代の暮らしを担 う生体機能エレクトロニクスデバイスの開発 に展開していきたいと考えています. 2.5. 参考文献(20122013 年度) 印刷型バイオ燃料電池の開発 Shitanda, I., Kato, S., Hoshi,Y., Itagaki, M., Tsujimura S., Chem, Commun., 49, 11110‐ 11112 (2013). バイオ燃料電池電極の改良 Tsujimura, S., Suraniti, E., Durand,F., Mano, N., Electrochim. Acta, 117, 263‐267(2014). Nakagawa, T., Mita, H., Kumita, H., Sakai, H., Tokita, Y., Tsujimura, S., Electrochem. Commun., 36, 46‐49 (2013). Asano, I., Hamano, Y., Tsujimura S., Shirai, O., Kano K., Electrochemistry, 80, 324‐326 (2012). Tsujimura, S., Fukuda, J., Shirai, O., Kano, K., Sakai, H., Tokita, Y., Hatazawa, T., Biosens. Bioelectron, 34, 244‐248 (2012). Fukushi, Y., Koide, S., Ikoma, R., Akatsuka, W., Tsujimura, S., Nishioka, Y., J. Photopoly. Sci. Tech., 26, 303‐308 (2013). 酸化還元酵素の機能評価 Tsujimura, S., Asahi, M., Goda‐Tsutsumi, M., Shirai, O., Kano, K., Miyazaki, K., Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 20585‐20589 (2013). Kataoka, K., Kogi, H., Tsujimura, S., Sakurai, T., Biochem. Biophys. Res. Commun., 431, 393‐397 (2013). Suraniti,E., Tsujimura, S., Durand, F., Mano, N., Electrochem. Commun., 26, 41‐44 (2013). Courjean, O., Hochedez, A., Neri, W., Louerat, F., Tremey, E., Gounel, S., Tsujimura, S., Mano N., RSC Advances, 2, 2700‐2701 (2012) 多孔質電極での酵素反応の解析 Suraniti, E., Vives, S., Tsujimura, S., Mano, N., J. Electrochem. Soc., 160, G79‐G82 (2013). Hamano, Y., Tsujimura, S., Shirai, O., Kano, K., Bioelectrochem., 88, 114‐117 (2012). バイオセンサシステムの開発 Noda, T., Wanibuchi, M., Kitazumi, Y., Tsujimura, S., Shirai, O., Yamamoto, M., Kano. K., Anal. Sci., 29, 279‐281 (2013). Nieh, C.‐H., Tsujimura, S., Shirai, O., Kano, K., Anal. Chim. Acta, 767, 128‐133 (2013). Nieh, C.‐H., Tsujimura, S., Shirai, O., Kano, K., J. Electroanal. Chem., 689, 26‐30 (2013). マイクロカプセルへの酵素の固定 Fujita, S., Matsumoto, R., Ozawa, K., Sakai, H., Maesaka, A., Tokita, Y., Tsujimura, S., Shirai, O., Kano, K., Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 2650‐2653 (2013). 連絡先 TEL 029‐853‐5358 e‐mail seiya@ims.tsukuba.ac.jp http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~tsujimura_lab/
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