日本ヘラルド映画株式会社 御担当者様 春たけなわとなりました。皆様益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。 その節は字幕の件で大変お世話になりました。 『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』、興行収入も順調なようで、まずはおめでとうございま す。字幕の評判につきましても、現在までネット等での意見を見る限りでは「第1部とは段違 いに良くなった」との声が圧倒的です。前作の時のような「脚本をゆがめている」という批判は 全くありません。これも皆、関係者各位のご尽力の賜物です。「ロード・オブ・ザ・リング」のフ ァンとして、心より御礼申し上げます。 しかし、何事も完璧ということはなく、「直してほしい」という要望が皆無というわけではあり ませんでした。そこで今回、ネット上で見られたそのような意見を整理し、同時に議論を重ね て修正案も検討致しました。 DVD/ビデオ化に際し、前回同様に字数制限の緩和を勘案して字幕を再検討される際に、 何らかのお役に立てることを願って、提示させていただきます。参考としていただければ幸 いに存じます。 重ねて申し上げますが、『二つの塔』の字幕は全体では高く評価されており、本稿は決し て抗議や非難の性格を含むものではありません。作品を愛する多くのファンが、賞賛する箇 所は惜しみなく賞賛しつつ、活発な感想・意見の交換を行っている中から、共通して「ここの 字幕はこうだともっと良いのに」という点が浮かび上がってきたものをお伝えしたいという主旨 です。何とぞご理解頂けますよう、お願い致します。 鉄の足ダイン ゴン ハーブ 2003年4月14日 <連名者> 今回の送付趣旨・内容に賛同されたかたのお名前をいただきました。多くは、具体的 提案作成に実際に参加されていたかたです。 以下9名の本名・現住所 2 <字幕全体に関して> 問題となった箇所の具体的リストの前に、全体に関する報告を致します。公開直後から「今 回の字幕は本当に良くなった、しかし」と、実に多くの発言者から言及があったのが、予想通 り 1. 「やたらな傍点」 ・ ・ 例:セオドレドの死は 殿のせいではない 2. 「無意味なカタカナ」 例:長距離はヨワい 3. 「中途停止文」 例:おれたちが歌や物語に? これらの、訳の巧拙以前の「かたちの問題」でした。解釈や日本語表現など「訳の内容」 のほ うは、賛否両論もあり議論もありましたが、上記の3点についてはその必要を認める意見は見 られず、不評がもっぱらです。 さらに、今回の作品に限った特殊な「かたちの問題」として、 4. 「王が古詩を朗詠する名場面なのに、未読者には通常の会話と思われた」 → 引用符を付けるなど、詩であると分かってもらえる方策が必要。 5. 一部の二段組字幕は画面進行が早すぎ、読みきれないとの指摘がありました。 特にラスト近くのサムの長台詞では、場面転換のめまぐるしい映像と重なっての二段組字幕 となったため、両方を目で追うのが困難であった人も少なくなかったようです。 以下、具体的項目の重要度別リストとなっております。A・Bグループが、「ファンからの修正 FAX送付には Cは含まれておりませ 要望/希望」、Cグループは「参考資料」とお考え下さい( ん)。 3 <具体的項目> 《Aグループ》 「問題のある字幕」として多数から指摘があった箇所のうち、ぜひ修正していただきたい12項目を挙げます。 判断基準は ?? 単純な誤りと思われるもの ?? 英語脚本の意味と字幕訳から読み取れる内容の差が大きいもの ?? 日本語表現の問題ではあるが、作品全体の中で重要性が高いと思われる箇所。 (特に意義の大きいものは、★で示しました。★の数は重要度に比例します) ────────────────────────────────────── [1] ゴラムがフロドに誓う場面 Frodo:There is no promise you can make that I can trust. ─── (a) Gollum:We swears to serve the master of the precioussss. We swears on, on the precioussss! Gollum Gollum Frodo:★★The Ring is treacherous. It will hold you to your word. ─── (b) 【現行字幕】 (a) フロド: お前は信用できない(9) ゴラム:わしら誓うよ(以下略) (b) フロド: ★★指輪には心を許せないが(11)お前は約束を守れ(8) (a) 現行字幕は「お前」への不信だが、英語脚本では「約束」を信じられないと言っている。また、続く会話にお いても二者の関係と今後の展開においても、「約束/誓い」は重要なポイントとなっている。 (b) ★★ここは問題であるとの指摘が多い。原作を考慮した上での英語脚本の意味とも相当のずれがある。 >(原作)But it is more treacherous than you are. It may twist your words. >(瀬田訳)しかしあれはお前よりも術策にたけている。お前の言葉を曲げてしまうかもしれぬ。 ?? キーワード"treacherous"の意味を考えるなら、「指輪は言葉の趣旨を変え、誓いの当事者が意図したこと ではなく、指輪が実現したいと思うような内容に意味をねじ曲げた上で、それを守らせることになる」と解釈 できる。 ?? 現行字幕では「フロドが」約束を守れと命じていることになり、「指輪が」 "hold you to your word"とは主体 が違う。 ?? 日本語としては、第1部プロローグの「指輪はイシルドゥアを裏切り死に至らしめた」を思い出させる効果が あるので、指輪の性質を語るために「裏切る」という語が適切かと思われる。 (a) 【提案】約束しても信用できない(11) (b) 【提案1】指輪はお前を裏切る(9)/誓えば縛られるぞ(8) (b) 【提案2】指輪は裏切り欺くもの( 10)/しかもお前を縛る(8) 4 ────────────────────────────────────── [2] アラゴルン、レゴラス、ギムリがオーク隊を追跡中 Legolas:They run as if the very whips of their masters were behind them. 【現行字幕】鞭に打たれて走っているようだ( 14) ?? 「誰が」鞭打たれているのかについて、レゴラス自身と思った人、ギムリと思った人、メリーとピピンだと思っ た人などばらばらである。オークのことだとわかるようにしたい。 【提案】鞭で追われているような速さだな(15) ────────────────────────────────────── [3] 黒門突入を決意のサム Sam:I know, Mr. Frodo. I doubt these elvish cloaks will help us in there. 【現行字幕】エルフのマントでも無理だろう(14) ?? せりふの前後関係がわからず、唐突に感じたとの声、意味がとっさにわからないとの声多数。「エルフのマ ントにはどういう力があるか」も合わせて理解しやすいように。 【提案】エルフのマントも隠してくれない( 15) ────────────────────────────────────── [4] アラゴルンが、グリマを斬ろうとするセオデン王を制止する場面 Aragorn :No my lord! Let him go. Enough blood has been spilled on his account. 【現行字幕】彼に許しを(5) 流血はもうたくさんです( 11) ?? この箇所は当初から問題視する発言多数。「行かせる」(=追放する)のと「彼の罪を許せ」ではかなり意味 が違う。また、王に対して指図がましい印象、との声もある。 【提案1】行かせましょう(7)/流血は無用です(7) 【提案2】おやめ下さい(6)/お手を汚すまでもない(10) ────────────────────────────────────── [5] スメアゴルを見るフロドの心情 (英語スクリプ トを問題箇所の前後含めて引用) Frodo:You have no idea what it did to him. What is still doing to him. I want to help him Sam. Sam:Why? Frodo:★Because I have to believe he could come back. ─── (a) 5 Sam:You can't save him, Mr. Frodo. 【現行字幕】(a) 本来の自分に 戻れるはずだ(12) ?? I have to believe の切実さがほしい。 目の前にいるこの醜くも哀れな存在、自分もまたこうなってしまうのかもしれないという恐怖。だから「スメア ゴルだって元に戻れるはず、そう信じたい。信じなければやっていられない」という、悲痛な願いが"I have to believe"にはこもっている。 【提案1】何とか 元に戻してやりたい(12) 【提案2】元に戻れると 僕は信じたい(12) ────────────────────────────────────── [6] ガンダルフがエドラスを出発する場面 Gandalf [To Aragorn]:Good luck. My search will not be in vain. 【現行字幕】探索が成功したならば( 10) ?? 英文は断言しているのに、「∼ならば」という仮定になっている。出発に際しての決意が感じられない。 【提案】きっと見つけて来る(9) ────────────────────────────────────── [7] アラゴルン生還にギムリ Gimli:You are the luckiest, the cunningest, and most reckless man I ever knew! ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 【現行字幕】お前は ツイてて したたかで/ベラぼうに 向こう見ずな男だ(25) ?? ★ どう見ても異常に傍点だらけである。「見にくい」との批判が多数。 また、悪態をぽんぽん並べることで、喜びを表しているのである程度は長くなるにしても、短縮は可能であ ろう。 【提案】悪運が強くて しぶとくて/無茶な奴だ まったく!( 20) ────────────────────────────────────── [8] 生還したアラゴルン、「一万人強」 Aragorn :Ten thousand strong at least. 【現行字幕】少なくとも一万人強 6 ?? 単純誤訳と思われる。英語の"strong"に、日本語の「一時間強」のような用法はない。「(軍隊の)人数を表 す」"strong" である。 ?? 日本語としてだけ見ても、「少なくとも」と「∼強」は同義語重複である。 【訂正】少なくとも一万人 ────────────────────────────────────── [9] 城門の攻防で「何分ぐらい?」 Aragorn :How long do you need? Theoden:As long as you can give me! 【現行字幕】 アラゴルン:何分ぐらい?( 6) セオデン王:できるだけ長く(7) ?? 「何分」という時間単位は現代的で、気づいてしまうと時代にそぐわないことはなはだしい。また、直前は、 王が臣下に「持ちこたえろ!」と言っているのみなので、わかりにくい。 【提案】 アラゴルン:時間を稼ぎます( 7) セオデン王:できるだけ長く頼む( 9) ────────────────────────────────────── [10] 木のひげの台詞に「チビ」が3度も ?? 木のひげがメリーとピピンに呼びかける時。初対面ではオークではないかと疑っているので、 【現行字幕】チビのオークか で納得できるが、その後友好的になって「メリー君(Master Meriadoc)」と呼んでいるにもかかわらず、侮蔑 的な「チビ」がさらに2度も使われているのは問題。 ・ピピンに方向転換を頼まれて考える時: Treebeard :But then you are very small. Perhaps you are right. 【現行字幕】だがお前らは ともかくチビだ( 13)─── (a) ・アイゼンガルド洪水の時: Treebeard :Hold on, little hobbits! 【現行字幕】つかまってろよ チビども(11)─── (b) 7 この2ヶ所では侮蔑のニュアンスは全くないので、「チビ」連発は避けるべきであろう。 【提案】(a) だがお前さんらは 小さいからな(14) 【提案】(b) つかまれ ホビットたちよ(11) ────────────────────────────────────── [11] アイゼンガルドの戦い Treebeard :A hit. A fine hit. 【現行字幕】どうだ!見事命中だ(8) ?? 投げたのはメリーとピピン。吹替えが「命中 お見事じゃ」だけに、字幕の誤りに気づく人多数。 【提案】おお 見事命中だ!(7) ────────────────────────────────────── [12] セオデン王が詩を朗詠する場面 【最後に、やや特殊な問題として】 ?? ★★詩であるということが、多数の原作未読者には理解されず、混乱や誤解を招いた。具体的には、最 初の「あの馬と乗り手はどこへ行った?」が、知らない観客には「ガンダルフ不在を愚痴っている」としか 見えなかった、など。これではこの名場面の悲壮感が台無しである。 ?? 通常の会話の続きではないことを明確にするために 1. 各行に(一度に出される字幕ごとに)引用符をつけてほしい 。 2. 文語調または定型詩にすることができれば、耳で聞いても詩とわかるので、吹替えとも共通変更が可 能かもしれない。 【提案】たけうち 訳 Where is the horse and the rider? 「かの馬と乗り手は いずこ?」 Where is the horn that was blowing? 「響きし角笛は いずこ?」 They have passed like rain on the mountains, 「過ぎ行きぬ/山に降る雨のごとく」 Like wind in the meadow. 「草原の風のごとく」 The days have gone down in the West 「去りし日々は西の方に」 behind the hills 「丘の向こう─」 into shadow. 「影の中に」 かた 【五七調試案】 “かの馬と乗り手は 何処(いずこ)” “角笛の 響きも絶えて” “過ぎ去りぬ 山に降る雨 ―” 8 “野をわたる 風のごとくに” ゆ かた “逝きし日々 そは西の方” “丘の果て ― ” “影の中へと ” 《Bグループ》 主に「日本語として違和感・問題あり」という指摘です。類似意見が相当数出され異論は見られなかったものに 絞り、修正をお願いしたい16項目を取り上げました。 直訳調ゆえ目立った箇所も、意訳がすぎると言われている箇所もありますが、誤訳にあたるものはありません。 ────────────────────────────────────── [1] ブローチ発見の場面 Aragorn :Not idly do the leaves of Lorien fall. Legolas:They may yet be alive. 【現行字幕】 アラゴルン:わざと落としたな!( 8) レゴラス:まだ生きてる?( 6) ?? 英文「ロリエンの葉は無為に落ちる事はない」はどのみち意訳せずには使えないが、「わざと∼したな!」 はまるで悪いことをした者を叱っているようだし、2つの台詞の関連もわかりにくい。少し補足して、 【提案】 アラゴルン:目印に落としたのだ(9) レゴラス:では生きているな(8) ────────────────────────────────────── [2] サルマンがサウロンに Saruman:Rohan, my lord, is ready to fall. 【現行字幕】ローハンは落ちかけています( 13) ?? 日本語として、「落ちかけて」は戦争という状況にそぐわない、間抜けであるとの指摘多数。 【提案1】ローハンは陥落寸前です(11) 【提案2】ローハンはいつでも落とせます( 14) ────────────────────────────────────── 9 [3] メリーが古森の話をする場面 Merry:Folks used to say that there was something in the water that made the trees tall, and come alive. 【現行字幕(部分)】水が何かを含んでて(9) 木が生き物になるんだ(10) ?? 「わかりにくい」「木はもともと生き物じゃないか」などの声あり。 ?? ここは、ただ "alive" なのではなくて、"come alive" という熟語として考えると、意味として「意識を持つに 至る/止まっていたものが活動開始する」と考えられるので、一歩進めて日本語として落ちつくように、 【提案】何か特別の水のせいで(10) 木が動き出すって話だ(10) ────────────────────────────────────── [4] エオメル隊と遭遇の会話 Eomer:We left none alive. 【現行字幕】皆 殺した(4) ?? 直前とのつながりで、「その子供のような者達も含めて皆殺しにした」と解釈される (実際、「みなごろし」と読んだ人が少なくない)。殺しておいてあとで「捜せ」では、観客は面食らう。 【提案1】生き残りはない(7) ※吹替え準拠。 【提案2】見なかった(5) ※直前の台詞に合わせた意訳。 ────────────────────────────────────── [5] ガンダルフに再会 Gandalf:I've been sent back until my task is done. 【現行字幕】使命を成就するために(10) ・「使命」はフロドのもの(=指輪を葬ること)にしておきたい。英語も"quest" ではなく "task" 。 【提案】務めを果たすために(9) ────────────────────────────────────── [6] エオウィンの鬱屈 Aragorn :What do you fear, my lady? Eowyn:A cage. To stay behind bars until use and old age accept them. And all chance of valor has gone beyond recall or desire. 【現行字幕】 エオウィン:檻です(3) 鉄格子の中で老い(8) 10 ?? ここの "A cage" は檻ではなく「鳥籠」。日本語と同様英語でも「籠の鳥=自由のない身」は慣用表現、喩 えである。檻+鉄格子=現実の監獄(罪人)ではイメージが違う。 ?? 「檻です」は残しても、せめて「鉄格子」だけはなくしてほしい。 【提案】閉じ込められて老い(9) [7] ギムリ、馬に(ワーグ襲撃シーン) Gimli:Forward, forward, march forward. 【現行字幕】向きを変えろ!( 6) ?? 吹替では、「前に行きたいんだよ」で、馬がバックしていることがわかる。「向きを変えろ」では、Uターン・方 向転換。 【提案1】前へ行くんだよ(7) 【提案2】前へ進め、こら!( 7) ────────────────────────────────────── [8] ヘルム峡谷に帰還したギムリにエオウィンが問う Eowyn:Lord Aragorn, where is he? 【現行字幕】アラゴルンの殿は?( 8) ?? ごく普通の敬称で十分であろう。「∼の殿」は、一般には和風時代劇のように見えてひっかかる。誤植と思 った人も多い。 また、「アラゴルン殿」は女性らしさに欠けるかもしれないので、 【提案】アラゴルン様は?( 7) ────────────────────────────────────── [9] ファラミアがフロドに Faramir:As one of his companions, I had hoped you would tell me. (この直前にフロドがボロミアの死を知らされ驚いて「いつ?どうして?」) 【現行字幕】こっちが聞きたいぐらいだ( 12) ?? "one of his companions" という言葉を生かしたい。 11 【提案】仲間というなら私が聞きたい(13) ────────────────────────────────────── [10] フロド、ゴラムを指してファラミアに Frodo:This creature is bound to me. And I to him. He is our guide. 【現行字幕】僕とあいつの間には─( 9) 関わりが…( 4) 彼は案内人です(7) ?? ★"is bound to" は、「関わりがある」以上の強い結びつきを示唆している。フロドの心情としては、「運命 的な、お互い切っても切れないつながり」関係であろう。 つな 【提案1】僕とあいつの繋がりは( 10) 断ち切れない(6) ?? 「あいつ」でも問題はないが、原文は "This creature" で「人間以下」である。それと、指輪のからんだ真の 関係をファラミアに知られまいとして、慌て気味に「道案内です」と言い直していることも加味した案が次の 通り。 【提案2】★あれと僕とは( 6) 同じ道を歩んで…( 7) いや 道案内です(7) ────────────────────────────────────── [11] エントは知らん顔 Treebeard :The ents have not troubled about the wars of men and wizards for a very long time. 【現行字幕】わしらエントは人間や魔法使いの戦には知らん顔( 22) ?? 「知らん顔」は感じが悪いし、すぐそばでそっぽを向いているようなイメージ。また、「今までは長いこと」無 関心だった、ということなので 【提案】わしらは人間や魔法使いの争いには関わらなんだ(22) ────────────────────────────────────── [12] レゴラスの謝罪 Legolas:We have trusted you this far and you have not led us astray. Forgive me. I was wrong to despair. 【現行字幕】あなたは信頼に足る人だ/すまない/弱音を吐いた(11、4、6) 【現行吹替】あなたを信じたからこそ ここまでついてきた。一度でもあなたを疑った私を許せ。 12 ?? ここは、「字幕訳と吹替え訳のどちらが」より良いかは賛否両論。 しかし、字幕訳への批判はもっぱら「弱音を吐いた」の部分に集中している。理由は ① 「300対一万では、 全員死ぬぞ!」という当該台詞にも、② レゴラスのキャラクターにも「弱音」ではイメージが合わないから。 ?? "I was wrong to despair." という台詞の比重も、どちらかといえば前半の "I was wrong" が重いとも考えら れる。 【提案】あなたの判断を信じよう/許してくれ/僕が間違ってた」(11、5、7) [13] エルフの援軍到着 Aragorn :You are most welcome. 【現行字幕】君らを歓迎する(7) ?? 予期せぬ救いの手に感激しての台詞であり、"most" の語感も出したい。 【提案】よく来てくれた!( 7) ────────────────────────────────────── [14] 松明を持つウルク=ハイ Aragorn :(エルフ語の英訳)Kill him! Kill him, Legolas! Kill him! 【現行字幕】やつを倒せレゴラス!/殺せ!/殺せ!( 9、2、2) ?? 「殺せ」連発では指揮官としての威厳に欠ける。 ?? "Kill" よりも重要なのは、戦場では珍しい「特定の一人を指す "him" 」である。「火を持つ走者の意味する ところ」にアラゴルンがいち早く気づく、という状況。 【提案】あれだ! あいつを倒せ、レゴラス! あれを!( 3、10、3) ────────────────────────────────────── [15] ガンダルフとともに救援に駆けつけたエオメル Eomer:Rohirrim! 【現行字幕、吹き替えとも】 エオルの子らよ!( 7) 13 ?? セオデン王の "Eorlingas!" とは違う単語であっても字幕では同じものを指す固有名詞を統一する、という 意図はわかる。しかしながら、耳で聞く発音もあるので、騎馬隊へ呼びかける号令はやはりできればこれ にしてほしい。 【提案】ローハンの騎士よ!( 8) ────────────────────────────────────── [16] サムの独り長台詞 【最後に、やや特殊な問題として】 ?? 訳としては何ら問題がないのですが、前述の通り「映像の方で場面転換がめまぐるしいため、字幕が長い と両方を追うのが困難」との声が多かったため、短縮した字幕案を募集討議しました。 【】内が現行字幕、/ は2段組になっていることを表します。 その下が字幕案の提示です。長文のため字数は行ごとに表示せず、文頭をそろえることで現行字幕と長さ比 較が容易なように並べてみました。なお現行字幕と文案が全く同じ箇所は、文案を省略しました。 I know. 【分かってます】 わかります It's all wrong. 【こんなことになって】 何か間違ってる By rights we shouldn't even be here. 【しかもこんな所まで】 こんな所にいることも ── 間 ── But we are. 【来てしまった】 でもここにいる It’s like in the great stories, Mr. Frodo. The ones that really mattered. 【心に深く残る物語の中に/入り込んだ気がします】 まるで昔聞いた物語の中に いるみたいです Full of darkness and danger they were. 【暗闇と危険に満ちた物語】 暗く恐ろしい話では ― And sometimes you didn’t want to know the end. Because how could the end be happy? 14 【明るい話になり得ないので/結末を聞きたくない】 結末を知りたくない時も ありました How could the world go back to the way it was when so much bad had happened? 【悪いことばかり起こった世界が/元に戻ります?】 悪いことが起きる前に 戻れはしないから But in the end, it’s only a passing thing, this shadow. 【でもこの暗闇もいつかは/消え去ってゆくでしょう】 でも最後には 暗闇も去り― Even darkness must pass. 【暗黒の日々にも終わりが・・・】 朝が来る A new day will come. 【新しい日が来ます】 太陽が前よりも ― And when the sun shines it will shine out the clearer. 【そして太陽がより明るく輝く】 明るく輝く日が Those were the stories that stayed with you. That meant something. 【そういうのが心に残る/意味の深い物語です】 それが心に残る 意味のある物語 Even if you were too small to understand why. 【子供のときは分からなくても −】 But I think, Mr. Frodo, I do understand. I know now. 【なぜ心に残ったのか/今はよく分かる気がします】 なぜ心に残るのか 今ならわかります Folk in those stories had lots of chances of turning back only they didn’t. 【物語の主人公たちは/決して道を引き返さなかった】 物語に名を残した人々は 決して 引き返さなかった Because they were holding on to something. 【何かを信じて−】 【歩み続けたんです】 Frodo:What are we holding on to, Sam? 【何を信じればいい?】 15 Sam:That there’s some good in this world, Mr. Frodo. 【この世には/命を懸けて戦うに足る−】 この世には/戦うに値する― この世には/命を懸けるに値する− (注) 注:この部分のみ、2案併記となっております。 And it’s worth fighting for. 【尊いものがあるんです】 ────────────────────────────────────── ────────────────────────────────────── 16 《Cグループ》 上記A・B項目に該当しない、比較的少数意見および「かたちの問題」の具体的箇所も、ご参考の一助に資料 として紹介しておきます。 ただし単独発言に近いと思われるものは入れていません。また、問題視する発言が多くとも、賛否両論あったも のはこの項に入れ、その旨付記しました。 「訳の巧拙以前の『かたちの問題』」とは、前述した通り「やたらな傍点」「無意味なカタカナ」「中途停止文」です。 指摘する人の数は上記A・B以上でしたが、このCグループにまとめて収容しました。誤訳ではないとはいえ、 水準の高い今回の字幕では、誰にも分かり目立つだけに、不評も多く寄せられたものと思われます。 ────────────────────────────────────── [1] エオウィン:Women of this country learned long ago that those without swords may still die upon them. ★I fear neither death nor pain. ★ 【現行字幕】死や苦痛の恐れなど!(9) ?? 不必要な中途停止文である、との意見が出されました。 【提案】死も苦痛も恐れません(10) ──────────── [2] ダムロド?:Look. Osgiliath burns. Mordor has come. 【現行字幕】オスギリアスが炎上を(10) ?? こちらも、不必要な中途停止文である上緊張感がまったくない、との厳しい意見が出されました。「オスギリ アス」を優先すると字数上このようになるのは理解出来ますが、「オスギリアス」という単語は会話内で以前 に出ておりますので、あえて取ってしまってもよいのでは、という意見になりました。 【提案】炎上しています!( 7) ──────────── [3] ゴラム:You don't have any friends. Nobody likes you. 【現行字幕】お前に友達なんか!(8) ?? こちらも、不必要な中途停止文である、との意見が出されました。 【提案】友達なんかいない!( 8) ──────────── [4] サム:I wonder if we’ll ever be put into songs or tales. 【現行字幕】おれたちが歌や物語に?(10) ?? こちらも、不必要な中途停止文である、との意見が出されました。 【提案】おれたちも歌になるかな?( 11) ──────────── [5] ウグルク:Looks like meat's back on the menu boys! 【現行字幕】メニューに肉が戻るぞ(10) 17 ?? あまりに直訳過ぎる、後述する木のひげの台詞「ダム」と同様、カタカナに違和感等の意見がありました。 【提案1】肉が出来たようだぜ(9) 【提案2】ほれ肉だ 食え!(6) ──────────── [6] フロド:You know the way to Mordor? 【現行字幕】モルドールへの道を?( 9) ?? 残存する中途停止文の典型として注目を浴びました。 ゴラムの次の台詞で文末を受ける、字幕のごく一般的対処ではありますが、フロドの字幕のみでは道を 「知りたい/行きたい/教えて欲しい」のか判らず、悪目立ちをしているようです。 【提案1】モルドールを知っているな( 12) 【提案2】モルドールを知ってるな( 11) ※提案1、2の差は、字数調整のみです。 ──────────── [7] ギムリ:I'm wasted on cross-country. 【現行字幕】長距離はヨワい(7) ?? アラゴルン・レゴラスを「lad」と呼ぶ映画のギムリの台詞としては軽い、何故わざわざカタカナにするのか判 らない(違和感があって悪目立ちする)等の意見がありました。 【提案1】長距離は弱い(6) ※漢字に直したのみ。 【提案2】長距離は苦手だ(7) ──────────── [8] ガンダルフ:Theodred’s death was not of your making. ・ ・ 【現行字幕】セオドレドの死は 殿のせいではない(16) ?? この傍点には、字幕処理作法(ひらがなが続くと読みにくいので傍点を打つ等)以上の意味はなく、一般 観客には奇異である/予告編で「指輪のせいかな」が指摘された経緯からも、不必要な傍点の修正の必 要性と効果は大きいと思われる、との意見がありました。 【提案】セオドレドの死は 殿の責任ではない(16) ──────────── [9] サルマン:Send out your warg riders. 【現行字幕】ワーグに乗った兵を出せ( 11) ?? 「warg riders 」に「ワーグに乗った兵」と説明的な訳語を当てており、軍隊の指示として不自然という意見が ありました。 ワーグ 【提案1】魔狼 部隊を出せ(7) ワーグ 【提案2】魔狼 兵を出せ( 6) ──────────── 18 [10] サム:Make him sick you will, behaving like that. 【現行字幕】やめろ そんなマネ!( 8) ?? 無意味なカタカナに違和感、また原文の「旦那が気分悪くなるだろ!」という意味が訳出されていないの が残念、という意見がありました。 【提案1】気色悪いだろ!( 6) 【提案2】やめろ 気色悪い!(7) ──────────── [11] 木のひげ:Break the dam. Release the river. 【現行字幕】ダムを打ち壊せ( 7)/川の水を野に放て!( 8) ?? 吹き替えが「堰」を使用しているのに対し、何故か漢字の利用面では有利な字幕が「ダム」を使用している、 等の意見がありました。 また蛇足(重箱)ですが「野」に放っているわけではないため、複合案例を付与しました。 【提案】堰を壊せ!(4)/川の水を放て!( 6) ──────────── [12] フロド:I can’t do this, Sam. 【現行字幕】僕はもうだめだ(7) ?? ・こちらは吹き替え及び1月段階の字幕(「僕には出来ない」)から修正されている箇所ですが、賛否両論 がありました。内容的には「駄目だ」という台詞の意味が広すぎて、台詞の解釈が広がりすぎるという意見 でした。 (吹き替えの「僕には出来ない」については、「サムを刺すなんて僕には出来ない」の意味だと誤解した、と いう意見が多く出されました) 字幕提案例では、もっと元台詞に忠実に、「指輪の棄却は果たせそうにない」の意味を出 すように考えて みました。 【提案】僕には無理だ サム(8) ──────────── [13] (決戦の前の3人の会話) ギムリ:Well lad, the luck you live by, let's hope it lasts the night. レゴラス:Your friends are with you, Aragorn. ギムリ:Let's hope they last the night. 【現行字幕】ギムリ: 今夜もあんたに運がつくように(14) レゴラス:友が一緒だ(5) ギムリ: 今夜を生き抜こう(8) ?? アラゴルンが崖落ちから帰還した際のギムリの台詞(「悪運の強い奴め!」)から引き継がれている場面で すが、字幕ではその関連性が判りにくくなっています。 吹き替えに添わせて頂きたい、または「 Your friends are with you, Aragorn.」→「Let's hope they last the 19 night.」(「そのアラゴルンの友人連中も生き残るといいな」)のとぼけた味を生かしたい、という意見が出さ れました。 【提案】Gimli :今夜もお前に悪運がつくよう に(14) Legolas :友が一緒だ(変更なし) Gimli :じゃあそいつらも(8) ──────────── [14] 木のひげ:Burrahruum !(※聴き取り表記) 【現行字幕】ブルラフルーム ?? 元台詞はエント語でオークの意味である「ブラルム」burárumを、憎悪を込めて伸ばした発音と推測されま す。 現行字幕に対しては「ブルラフルームって何だ?」という意見がかなり出ました。しかし仮に「ブラルムども め!」と訳しても解説が必要になってしまい、いずれも好ましくありません。 【提案】本行のみ字幕削除。 ──────────── [15] グリマ:…especially now that your brother has deserted you. 【現行字幕】特に兄上がいなくなった今はな(14) ?? 自ら追放しておきながら"deserted you" というグリマのいやらしさを生かしたい、という意見が出されました。 【提案】特に兄上があなたを見捨てた今は( 15)※吹き替えに準じています。「特に」は削ってもよいかと思わ れます。 ──────────── [16] エルロンド:Let her take the ship into the West. 【現行字幕】西へ向かう船に…(7) ?? 裂け谷場面の会話には「…」終了が多過ぎ、明確なはずの台詞が曖昧になっているように感じる、という 意見が出されました。 【提案】西への船に乗る(7) ──────────── [17] アラゴルン:She stays because she still has hope. 【現行字幕】彼女には望みが…(7) ?? 裂け谷場面の会話には「…」で終わる台詞が多過ぎる、何とか hope とEstelの掛詞を匂わせたい、等の意 見が出されました。 【提案】望みゆえに残るのです( 10) ──────────── [18] エルロンド:She stays for YOU! She belongs with her people. 【現行字幕】残るのは君のためだ! 同族を捨ててね( 16) 20 ?? エルロンドの台詞としては格調が低い(軽い)等の意見が出されました。 【提案1】そなたゆえにだ! エルフでありながら(16) 【提案2】残るのはそなたのためだ! 一族を捨て(16) ****************************************** なお、吹替えに関しては、後日別稿にてご担当の方にお手紙させていただく予定です。吹替えは前回同様、 おおむね好評でしたが、特定の2箇所に「口調がオリジナルとはあまりにもかけ離れている」、という多数からの 批判が集中していました。訳については箇所ごとに賛否両論でしたが、全体として、「第1部は断然字幕より吹 替えが良かったけど、今回は字幕が良かった」との声もあったことをお伝えしておきたく存じます。 21
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