ナバックレター 養鶏版Vol.24 家禽のサルモネラ菌対策の戦略的アプローチ(1) Christian Lückstädt, technical director, Addcon, Asia 飼料産業、そして食糧生産セクターは、病原性細菌による飼料汚染と、それに起因する増体量の低下やへい死率の 増加など、畜産動物における損害を未だに受けています。 畜産における飼料中への抗生物質(成長促進目的の抗生物質:AGP)の使用禁止が、EU、ならびに韓国主導による アジアの一部で導入され、畜産物生産者や飼料製造業者へのプレッシャーが高まる中、革新的な畜産栄養学者にも 厳しい課題が突きつけられています。 このような問題に適切な方法で取り組むことは、業界にとって、食品の安全性に不安を抱いている消費者やNGOの 信頼を回復するのに役立つと考えられます。現在、フードチェーン(食品の生産から消費までの工程)からAGPを 除外することによって生じた穴を埋めるため、 新たな飼料成分が採用されています。 有機酸 有機酸は、飼料中のグラム陰性病原性細菌の抑制を目的とし、長年にわたり主に養豚産業において使用されてきま した。現在、この有機酸添加について、家禽栄養、特にサルモネラ菌の抑制を目的として更なる研究が進められて います。 サルモネラ菌をはじめとする病原性細菌による汚染は、社会的にも経済的にも、世界中で巨大な負担となって います。 例を挙げると、英国経済においてはサルモネラ菌対策費用が年間7600万USドルを超えており、それがEU全体 では41億USドル前後までふくれあがると推定されています。人でのサルモネラ症例は広い範囲で報告されて います。最新のEU統計(2007)では、その年、サルモネラ菌に直接感染した患者数は15万2千人にのぼりました。 したがって、サルモネラ菌の排除は緊急課題の一つであり、経営管理法や飼料給与法とともに家禽生産において 非常に重要な戦略と言えます。 一価の有機酸には、飼料保管時に細菌や真菌による飼料の劣化を抑制する働きがあると考えられます。胃内pH及び 腸内細菌叢に対する作用は何十年も前から知られており、多くの実験室内試験や野外試験で証明されています。 酸性化剤は腸内(主に上部消化管)のpHを低下させ、有害な微生物の増殖を阻害することにより、成長促進剤と して働きます。腸の酸性化によって酵素活性が亢進することによって、栄養素やミネラル類の消化・吸収を最大限 に高めます。 非解離型有機酸は細菌細胞の脂質膜を通過すると、陰イオンと水素イオンに解離します。pH中性の細胞質内に入る と、有機酸は酸化的リン酸化を阻害し、アデノシン三リン酸から無機リン酸を生じる経路を阻害することにより 細菌の増殖を抑制します。 ギ酸 一価の酸の飼料添加によるブロイラー能力改善の最初の報告の1つがギ酸でした。その後、Izatら(1990a)は ブロイラー飼料中にギ酸カルシウムを添加し、屠体及び盲腸検体におけるサルモネラ属菌の汚染率の顕著な低下を 確認しました。 Izatら(1990b)は続いて、プロピオン酸緩衝液を使用してブロイラー腸内細菌叢を構成している病原性細菌を 抑制することが可能であり、その結果として大腸菌及びサルモネラ属菌が大幅に減少したこと、さらに屠体におい ても同様の結果が得られたことを明らかにしました。 種鶏用飼料への純ギ酸の添加により、トレイ運搬車や孵化場廃棄物のサルモネラ・エンテリティディス汚染が劇的 に減少しました。 1 ナバックレター 養鶏版Vol.24 Hinton及びLinton(1988)は、ギ酸とプロピオン酸の配合剤を用い、ブロイラーにおいてサルモネラ感染症が どの程度抑制されるか実験を行いました。実験条件下、6kg/t( 0.6%)のギ酸とプロピオン酸の配合剤は、自然 汚染または人為的汚染した飼料由来のサルモネラ属菌による腸内でのコロニー形成を防ぐのに効果があることを 明らかにしました。 能力の改善 有機酸の使用によってブロイラーの能力や衛生状態が改善することは、前述したように多数の論文で報告されて います。しかし、有機酸は鶏の上部消化管(そ嚢から筋胃)で急速に代謝されるため、増体能力に対する効果が減弱 することが重大な欠点と言えます。二ギ酸カリウムを主体とする家禽用飼料添加物は、サルモネラ菌やカンピロ バクターなど消化管全域の病原性細菌に効果があることが立証されています。 前述のように、二ギ酸カリウムは家禽生産において深刻な問題である病原性細菌を抑制します。この作用について 詳しく解明するための試験を実施しました。 本試験の目的は、ブロイラーの幼雛飼料と育成飼料中の二ギ酸カリウム(0.3%と0.6%)の効果を評価することで した。スペインの高温条件下で本製品の消化管内細菌汚染抑制作用について陰性対照と比較検討しました。 1バッチ125羽、14バッチに割り付けたブロイラー初生雛1750羽(1試験群当たり5バッチ。ただし、対照群 のみ4バッチ)を使用しました。ブロイラーには、幼雛飼料を21日間、育成飼料を18日間、仕上げ飼料を3日間 給与しました。 試験開始39日後、仕上げ飼料の給与前に3試験群から各々10羽を抽出し、詳細な細菌学的検査を行いました。 二ギ酸カリウムを添加したのは幼雛飼料と育成飼料のみでした。仕上げ飼料(最終3日間)には二ギ酸カリウムを 添加せず、14バッチは全て同一の飼料でした。得られた結果を表1∼3に示します。 (次号に続く) これは「International Hatchery Practice Vol.24,No.5,P15・17」を抄訳したものです。 表1. 二ギ酸カリウム各添加量によるカンピロバクター抑制効果(検体陽性率%) 二ギ酸カリウム群 対照群 そ嚢(細菌検査) 腸(細菌検査) 屠体(抗体検査) 0.6% 0 0 0 0.3% 0 20 0 60 80 80 表2. 二ギ酸カリウム各添加量によるサルモネラ抑制効果(検体陽性率%) 二ギ酸カリウム群 対照群 そ嚢(細菌検査) 腸(細菌検査) 糞便(細菌検査) 屠体(抗体検査) 0.3% 0 0 0 0 20 20 25 0 0.6% 0 0 0 0 表3. 腸内細菌検査結果(CFU/g) エンテロバクター 乳酸菌 ビフィズス菌 対照群 107 107 105 2 二ギ酸カリウム 0.6%群 105 108 106
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