July 2012 Vol. 11 リーダーを支えるフォロワーシップ (学)産業能率大学 総合研究所教授 曽小川 久英 強靭な組織は、リーダーシップとフォロワーシップの相乗作用によって、は じめて築きあげられる フォロワーシップの衰えに無頓着ではないだろうか フォロワーシップの醸成は、リーダーシップの強化に重なる 職場エネルギーの創出 (学)産業能率大学 経営管理研究所 主席研究員 矢部 則之 高めることは大切…分かっていても取組みが長続きしない「組織エネ ルギーの創出」 今、再び「組織エネルギーの創出」が求められる3つの要因 「組織エネルギー」に向けた現場マネジャーの4つの働きかけ “ 社長の座右の銘 ”とその理由 “ 上野陽一語録 ” © 2012 The SANNO Institute of Management リーダーを支えるフォロワーシップ 学校法人産業能率大学 総合研究所教授 曽小川 久英 Hisahide Sokawa 経営組織の革新と人材育成、自立した個人の育成と組織マネジメントの方向性の検討等の コンサルティング゙や研修を実施 リーダーシップと フォロワーシップの相乗作用 待望されます。ふりかかり山積する課題や 難問に円滑かつ速やかに対処するには、 リーダーシップは欠かせません。戦略的な 日本の社会は、そして日本の企業も、い 展望を持ち、複数の選択肢から適切な判 まが正念場かもしれません。平穏で順調に 断をくだし、説得力のある発言ができ、人び 物事が推移しているときより、突発事態や とをひとつにまとめ、彼らを動かし、明確な 緊急事態に遭遇したときほど、混沌とした 結果をもたらすことが、組織のリーダーには 曖昧な事態を切り拓く頼もしいリーダーが 期待されています。 ただ、リーダーは全知全能でも完全無欠 でもありません。見落としもあれば、思いこ みや囚われもあるでしょう。あらゆる答えを リーダーが与えてくれると期待するのは、 達成しえない過重な負担を背負わせること にもなりかねません。リーダーは衆知を集め たうえで決断します。良質な見解や指摘が 適切なタイミングでリーダーに届かねばなり ません。組織が継続的に成果をあげ続ける には、リーダーを支える優れたフォロワーの 存在が不可欠です。困難にも挫けずに立ち 向かう強靭な組織は、リーダーシップと © 2012 The SANNO Institute of Management フォロワーシップの相乗作用によって、 が大切だから、効率的に進めねばならない はじめて築きあげられるものだからです。 からと言い訳をちりばめて、粘り強く考え続け 見落としがちな フォロワーシップの衰え リーダーシップ論の碩学、ウォレン・ベニス ることを忌避したがる。「どうしたらいい ですか」とすぐに答えを求める。ネットで検索 して、それらしき情報やデータを見つけるや、 安易に飛びつき鵜呑みにする。 は、「私はある時、組織の成功に欠かせな いものでありながら、見落とされてきたものが 主 体 的 に 自 分 ご と と し て 捉 え ら れ な い あることに気づいた。それは、偉大なフォロ ―― 何か問題が起きると、「経営が悪い」 ワーシップである」(『リーダーになる』新潮 「戦略が悪い」「他部門が悪い」といつも誰 社)と指摘しています。リーダーの本気度や かのせいにする。評論家的に野党的に、ま 信頼性を判断し、たとえ自らの立場を危うく るで他人事のように何かを非難し誰かを批 するリスクを感じても、率直に懸念や疑問を 判する。当事者としての意識が欠落し、物 表明し、リーダーの足らざる点を補佐・補完 事を主体的に捉えられず、自分にも関わり して施策を遂行するのがフォロワーの役割 があると考えられない。自らの言動を棚上 です。優れたフォロワーは、フォロワーなりに げして、自分はいつも高みの見物を決め 自立していること、自らの見識や倫理観にも こむ。 とづいて考えていること、受動的でなく能動 的かつ自覚的にリーダーについていくことを 選択していなければなりません。 フォロワーシップの醸成は、その裏返しとな るリーダーシップの強化に重なります。リー だが昨今の風潮として、リーダーシップの ダーが魅力的なビジョンを語り、一緒に歩む 醸成には熱心でも、フォロワーシップの衰え メンバーを支援し、懸念や批判にはオープ には無頓着ではないでしょうか。組織のなか ンに対応する。そんなリーダーのもとでこそ、 にこんな徴候が散見されたら、フォロワー 優れたフォロワーが育ちます。 シップが衰えているのかもしれません。 組織のリーダーは自らの言動を省察しな がら、いつも自問すべきではないでしょうか すぐに安直な答えを求める ―― 問題を ―― メンバーがフォロワーシップを発揮した 解決するための万能な魔法の杖のごとき方 いと思えるリーダー行動を実践しているか。 法論は見出しがたい。さまざまな視点があり 組織のなかにフォロワーシップを育む環境を 多様な主張がある。物事には光もあれば影 築いているか。自分自身は企業経営に向け もある。自らで深く考えて方法論を編みださ たフォロワーシップを発揮しているか。 ねばならない。なのに、忙しいから、スピード ■ © 2012 The SANNO Institute of Management 職場エネルギーの創出 学校法人産業能率大学 経営管理研究所 主席研究員 矢部 則之 Noriyuki Yabe マネジメント構想・中長期戦略策定、次世代リーダー育成の指導・教育、管理者研修等を実施 古くて新しい 「職場エネルギーの創出」 ことになると、異なる文化背景や考え方をも つ個人や集団をマネジメントしていく機会も 職場のエネルギー創出への取組みは、 増えます。そうした動きの中で、今再び職場 私たちのダイエットにどこか似ています。健 エネルギー創出への期待が高まっている背 康体を持続するために、それが大切なこと 景には、3つの要因があるように思われます。 は分かっていても、なかなか継続できませ 一つ目は、組織に蔓延する“澱み”の解消で ん。 す。その背景には、仕事の先行きに対する 「職場エネルギーの創出」は、古くて新し いテーマです。過去にも、組織開発や小集 不透明感やゆとりの欠如があります。二つ 目は、人間本来の“働く喜び”の再認識です。 団活動の名のもとで行われていました。しか し、時間の経過とともにそれが途絶えてし まったのは、成果との関わり、とりわけ、企業 が実現しようとする戦略との関連が曖昧 だったという指摘がなされています。一方、 「成果主義人事」を導入した企業の態様が 昨今明らかになってきましたが、制度の浸 透と組織の活力との間には明確な関連が 見られないことが示されています。 今後、企業が持続的な成長を遂げるため、 海外進出や企業合併を一段と加速していく © 2012 The SANNO Institute of Management 自分の居場所がある、成長している、世の エネルギー創出のマネジメントでは、それを 中の役に立っていると実感したい、という組 メンバーが自分自身のものに再構成するプ 織成員の思いや欲求が強まっています。三 ロセスを重視します。二番目は、メンバーの つ目は、仕事観・労働観が変化する中での 能力面だけでなく、感情面にも配慮したア “チームの再構築”です。多様な能力・専門 サイメントを行うことです。ここで留意すべき 性を総合的に発揮できなければ、成果は は、メンバーが楽しい、あるいは辛いと感じ 創出できないからです。 る仕事は、一人ひとり異なるし、時間ととも 相互作用によるエネルギー を作り出す に変化するという点です。三番目は、目の 前の仕事に熱中できるような“オモツライ目 標(簡単にはうまくいかないけれども、それ こうした 要因に対し、制度面からバック 自体を追い求めることが面白い) ”があるこ アップしていくことも必要ですが、それだけで とと、これによる協働を促進し、メンバー間 は到底歯が立たないのが現実です。持続 に新たな結合を生み出すことです。最後は、 的な業績向上と職場エネルギー創出との マンネリに陥らず、一つ上を目指すチャレン 双方を見据えた重層的、組織的な取組み ジを継続できるよう、自職場に足りない点を を仕事の現場でスタートする必要がありま フィードバックしてくれる外部の「カウンター す。そのためには、組織の目指す方向と個 パートナー」をもつなど、意図的な内省機会 人の目指す方向とを今まで以上にシンクロ を職場につくり出していくことです。 させて、“相互作用によるエネルギー”を創り 4つの働きかけに着手する際、職場のボト 出していく必要があります。 ルネックとなる部分に目を向けがちですが、 相互作用によるエネルギーを創り出すの その必要はありませんし、4つの順番に拘わ は 、 以 下 の マ ネ ジ ャ ー の 4 つ の 働き か け る必要もありません。まずはマネジャー自身 です。 の強みをうまく活かせるところから着手し、4 つのテーマの一つひとつを着実にクリアして 1.メンバーをビジョンに共鳴させる いくことが継続のポイントになります。その意 2.個々のメンバーのもち前を引き出す 味でマネジャーは、スタートで頓挫せず、継 3.職場内に新たなつながりをつくる 続できることは何なのかを、自分自身よく問 4.慣性を打破しチャレンジを継続する うてみることが重要です。現場のマネジャー の一人ひとりが、「職場エネルギーの創出」 これまでのマネジメントでは、マネジャーが への活動を一歩一歩前進させることのでき 魅力的なビジョンを掲げ、それをメンバーに る“マイプログラム”をもつことが大切 “浸透する”ことに力が注がれてきました。 なのです。 ■ © 2012 The SANNO Institute of Management 上野陽一語録 ページ) 世の中はみんなが、お互いによりか かりあって、はじめてでき上ってい るものである。 ( 上野陽一選集2 人を使う法 1 ~日本最初のマネジメント・コンサルタント(本学創立者)の言葉~ 上 野 陽 一 (1883 ~1957 年) 本学のプロフィール 産業能率大学の創立者。日本最初のマネジメント・コンサルタント。 生涯、信念としたのは「人または物のもつ『もちまえ』を十分に発揮させる」ことでした。 日本と産業の未来という大きな視点からいまを凝視し、産業と企業に貢献する「マネジメント」のあり方を 具現化させていった彼が目指したのは、徹底した現場主義と組織をリードする人材の育成でした。 現場に立って産業と企業のニーズに応 えつづけた90 年の歴史と創立者の理 念が、本学の質の高い実践教育に受け 継がれています。 産業能率大学は" 上野陽一" によって “ 社長の座右の銘 ”とその理由 設立された、企業のニーズに実践で応え る、社会人教育と学生教育の2つの活動 を持つ大学です。 経営者は何を指針とし、どのように考えて行動しているのか? ■“以前は「信用第一」、今は「忍耐」” 本学のルーツである「日本産業能率研 究所」は1925 年に創立されました。 (製造業、63歳) 景気がいいときはとにかく「信用」で仕事があった。時代の変化かな 現在、社会人教育事業では ■“8割 5倍” コンサルティング (運輸業、49歳) 完璧を目指す徒労より、8割の成果を繰り返す方が5倍の成果を得る 企業内研修 オリジナル教材・ツール開発 ■“「欲がない人間」、「好奇心のない人間」に用はない” アセスメント 公開セミナー (土木・建設業、62歳) 通信研修 を通じて、企業のご支援を継続的に実施 ■“おもしろき、こともなき世をおもしろく ” (情報サービス業、33歳) 暗い世情に立ち向かっていくに相応しい言葉と考えているため しています。 経営、戦略、組織、人事、生産、販売、 財務、物流、研究開発などの分野の専 門家が、90 年の実績によって培われた 理論や最新の手法・ノウハウを駆使して、 ■“コミュニケーションで最も大切なことは、相手の言わない本音を聞くこ とである” (卸売・小売業、50歳) 様々な場面でコミュニケーションの大切さを感じているから 様々なご要望にお応えしています。 http://www.hj.sanno.ac.jp 本誌創刊にあたって 研究心を忘れず、常に努力できる体力を備えること 本誌に関するお問い合わせ 03-5758-5115 経営管理研究所 チェンジマネジメント支援センター e-mail: Executive@hj.sanno.ac.jp 学校法人産業能率大学は、日本の企業経営・事業運営をよりよいものへと後押しするために、経営に携わる方々ならびに経営活 動に関心のある方々へ情報をお届けしようと本誌を作成いたしました。今後も、皆様方のお役に立てる情報をお届けしてまいります。 © 2012 The SANNO Institute of Management
© Copyright 2024 Paperzz