RT―nested PCR法によるニンジン種子からのニンジン黄化ウイルス核酸

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植 物 防 疫 第 66 巻 第 8 号 (2012 年)
RT―nested PCR 法によるニンジン種子からの
ニンジン黄化ウイルス核酸の検出
大阪府立大学生命環境科学研究科
望月 知史・岡 久美子*・岡村 有佳子・大木 理 による伝染(汁液伝染や接ぎ木伝染,媒介生物による伝
は じ め に
搬等)が認められないユニークな特徴を持つ。一方で,
植物ウイルス病の多くは媒介生物(主として昆虫類)
種子伝染しないウイルスでも未熟種子や登熟種子の種皮
により伝搬され,その感染を拡大させる。一方で,植物
や胚への存在が認められる場合がある。これらウイルス
ウイルスの中には種子を経由して子孫植物に伝染するも
は種子の成熟過程や貯蔵期間中に感染性が失活するため
のがあり,約 20%の植物ウイルスが種子伝染するとさ
に,子孫植物に全身感染を成立させることができない。
れ て い る(J OHANSEN et al., 1994 ; A GAR WAL and S INCLAIR ,
以上のように,植物ウイルスの種子伝染性は,①ウイル
1997)
。我が国では種子伝染するウイルス病として 50 種
スの胚への侵入,および②種子の成熟・貯蔵・発芽生育
の病気がリストアップされている(大畑ら,1999)。種
期間におけるウイルス感染性の維持,の二つの要因によ
子伝染性ウイルスは多属多種にわたるが,その多くは
って決定される(JOHANSEN et al., 1994)。
Nepovirus 属,Comovirus 属,Ilarvirus 属,Potyvirus 属
ニンジン黄化ウイルス(Carrot red leaf virus, CtRLV)
に含まれる。植物ウイルスの種子伝染には大きく二つの
は Luteovirus 科 Polerovirus 属 に 属 し(H UANG et al.,
経路,すなわち,種子中の胚を経由する種子伝染と胚以
2005)
,世界各地で発生が認められている植物ウイルス
外 の 組 織 を 経 由 す る 種 子 伝 染 が あ る(JOHANSEN et al.,
。CtRLV ゲ ノ ム
で あ る(WATERHOUSE and MURANT, 1982)
1994;大畑ら,1999)
。胚以外の組織を経由する様式で
は約 5,800 塩基の+鎖一本鎖 RNA で,少なくとも六つ
植物防疫
は,種皮に感染あるいは付着したウイルスが発芽後幼苗
のタンパク質をコードしている(図―1 A;HUANG et al.,
の茎葉や根に物理的傷害により感染すると考えられてい
2005)
。CtRLV により引き起こされるニンジン黄化病は,
る。この経路により種子伝染するウイルスは,粒子の物
生育初期では植物体が激しく矮化して叢生症状を呈し,
理的安定性が高いキュウリ緑斑モザイクウイルスやトウ
。我が国
古い葉では赤みを帯びた黄色になる(図―1 B)
ガラシマイルドモットルウイルス等の Tobamovirus 属ウ
でのニンジン黄化病の発生は 1956 年に報告されている
イルスに限られる。また,メロンえそ斑点ウイルスのよ
(小室・山下,1956)。CtRLV はニンジンアブラムシと
うに,種子に付着したウイルス粒子が土壌中の媒介菌に
ニンジンフタオアブラムシによって永続的に伝搬され,
より幼植物根へ媒介されるという伝染経路もある。一方
汁液伝染や種子伝染はしないとされている(WATERHOUSE
で,ほとんどの種子伝染性ウイルスは胚を経由する様式
。
and MURANT, 1982)
をとる。この場合,ウイルスはまず植物の胚のうあるい
植物ウイルスの種子伝染性は,農作物種子の輸出入で
は花粉に感染し,そこから種子の胚にまで侵入する。多
問題となる場合がある。CtRLV は種子伝染しないとさ
くの場合胚への侵入はウイルスが開花期までに全身感染
れているにもかかわらず,近年,海外のニンジン種子輸
していることが必要で,開花後の感染ではウイルスは胚
入 検 疫 に お い て CtRLV 汚 染 の 検 査 項 目 が 含 ま れ た。
にまで侵入できないという報告が多い。胚で生存したウ
CtRLV がニンジン種子から検出されるとそのロットの
イルスは発芽後に生育した子孫植物に全身感染し,発病
ニンジン種子すべての輸入が許可されないため,検疫前
させる。このほかに,植物に無病徴感染して病気を引き
に CtRLV 汚染の有無をチェックする必要がある。LEE et
起こさない種子伝染性潜伏ウイルスもある。種子伝染性
al.(2004)は精製したニンジン種子 RNA に罹病ニンジ
潜伏ウイルスは高頻度で種子伝染するが,その他の様式
ンから調製した CtRLV―RNA を混合した溶液を試験的に
Detection of Carrot Red Leaf Virus―RNA in Carrot Seeds by RT―
Nested PCR. By Tomofumi M OCHIZUKI , Kumiko O KA , Yukako
OKAMURA and Satoshi T. OHKI
を検出できる方法を確立したとの報告を行っている。し
(キ ー ワ ー ド:ニ ン ジ ン 黄 化 ウ イ ル ス,ニ ン ジ ン 種 子,RT―
nested PCR,種子汚染,内在コントロール)
*
究所
大阪府立大学 21 世紀科学研究機構,現:(独)
農業生物資源研
用い,RT―PCR 法によりニンジン種子から CtRLV 核酸
かしながら,私たちが 2010 年ころから研究を開始する
まで,ニンジン種子から CtRLV が検出されたという学
術報告はなかった。実際に LEE らの方法では市販ニンジ
ン種子から CtRLV 核酸を検出することは難しく,した
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