国際平和論 テキスト第6章「国際政治をとらえる」レジュメ ∼国家安全保障と覇権安定論的思考∼ 2003/6/5 @フェリス女学院大学 蓮井誠一郎(hasui@mx.ibaraki.ac.jp) 1.国家安全保障 一言で言えば、国家の構成要素である領土、主権、国民を侵略や反乱から守ること。 A.その前提 ・国家の安全=国民の安全 →国家の安全なしに、国民の安全は実現されない ・国民は自らの安全確保を国家に委託する →だからこそ税金や兵役というコストを支払う B.国家安全保障が大切な理由 ・国家が機能しなくなった例を、ソマリアやルワンダ、一時のアフガニスタンなどにみること ができる。これらの国は政府がその機能を果たせなくなったために、国内が戦国時代のように 大混乱に陥り、たくさんの人々が命を落とした。 ・国家は領域の内外から来る危害に対して、個人の財産を効率的に集めて警察や軍隊を維持し、 これに対処できる。 ・国家が徴税し、それを再配分することで、インフラ整備や公共サービス、大きな規模での福 祉が可能となる。 2.世界システム論以外のシステム論的世界観 A.リーダーシップ・サイクル学派;モデルスキー 「グローバル政治システム」 西暦 1500 年頃に出現したとされている。大航海時代と関連。西欧の影響が世界規模へと拡大し たのに伴って出現。 (文献)ジョージ・モデルスキー、浦野起央・信夫隆司訳、『世界システムの動態 治の長期サイクル−』(晃洋書房、1991 年) −世界政 ①サイクルのフェーズ (a)フェーズ 1;グローバル戦争 秩序の選好性=高い;秩序をもたらす可能性=( ) 激しい政治対立。秩序を求める向きは強いが、対立からくる無秩序に対処できない。 (b)フェーズ 2;世界大国 秩序の選好性=高い;秩序をもたらす可能性=( ) 政治対立を通して、秩序を求めるが、それは勝者によるリーダーシップを通してなされ る。 だが、勝ち残った世界大国も、グローバル戦争による痛手と、秩序を供給するコストに 疲弊し、やがて衰退していかざるを得ない。 (c)フェーズ 3;正統性の喪失 秩序の選好性=( );秩序をもたらす可能性=高い 国際の安全が十分に達成され、秩序の優先度が低下する。 すでに安全であるので、それよりも自由をもとめる。世界大国も、秩序維持のコストか ら、疲弊が激しく、他の国々からの支持も得にくくなる。 -1- (d)フェーズ 4;分解 秩序の選好性=低い;秩序をもたらす可能性=( ) 秩序への選好が低くなり、富や知識といった社会財への選好がわき起こる。そして秩序 の供給も低下し、システムは分解へ。 社会財の支配を求めて、世界大国の座を巡るグローバル戦争へ。 サイクル 覇権の状態 秩序選好性 秩序可能性 フェーズ① グローバル戦争 高い フェーズ② 世界大国 高い フェーズ③ 正統性の喪失 フェーズ④ 分解 高い 低い ②ここでいう「平和」とは フェース 2 ∼フェーズ 3 の間。 秩序が維持されて、戦争もない。 →そこにはいつも世界大国がある。 (小林よしのり『戦争論2』43 頁。) B.パワー移行学派;ネオリアリズム的世界(国際)システム(前提はパワーのサイクル) 国際社会はこれを統治する政府のないアナーキーな社会であり、そこでの国家間の対立は不 可避であり、それをいかにして調整するのかを追求するのがリアリズムの国際政治学 ①パワー移行 (a)経済成長と戦争 国民的な経済能力の成長が戦争の諸条件に影響を及ぼす →経済成長すれば戦争が減るなどと言う単純なものではない。 (b)秩序と挑戦国 支配国による秩序が確立された後にパワーを付けてきた国は、パワーはあっても現状 に満足していない。支配国に対抗できるパワーがあり、自らが支配国になれば大きな利 益が得られるなら、挑戦国は従属的地位に甘んじようとはしない。 (c)パワー・サイクル 一国の能力の盛衰には規則性がある、という前提(前述のサイクルのフェーズ参照) -2- (d)支配国による安定 戦争は、勢力が均衡したとき、挑戦国が現状へ戦争という手段で挑戦して起こる。 →支配国や連合が挑戦国の現状への挑戦を不可能にするほどの支配力を持つとき、平和 が訪れる。 =古典的な国際政治学の理論である勢力均衡の考え方に異を唱えた。 ②覇権安定論 国際システムの安定は、他のすべての国々が連合して挑戦しても勝てないような、強力な 国力を持った覇権国の国際公共財供給能力によって維持される。 キンドルバーガー、ギルピンらによって主張された。 (文献)Robert Gilpin, War and change in world politics, Cambridge Univ. Press, 1981. ロバート・ギルピン著、大蔵省世界システム研究会訳、『世界システムの政治経済学:国際 関係の新段階』(東洋経済新報社、1990 年) (a)覇権と戦争と平和 覇権国の力が衰えると、その座を巡って世界戦争が始まり、その勝者が新たな覇権国 となって新たな秩序が形成される。 →覇権国(米国)が強い国力を持って繁栄し、他の大国もその秩序を支持しており、こ れによって挑戦国の台頭や挑戦そのものが不可能な状態であるときこそ、自由貿易体制 が維持され、システムにはグローバル戦争もなく、安定した(=平和な)状態が維持さ れる。 →だからこそ、平和を願うなら、その他の大国は覇権国をサポートしなければならない。 (b)「長い平和」 冷戦(cold war)は、戦争ではなく、50 年近くにわたる大国間の戦争のない、平和な時 代であった、という説。 →覇権国米国が世界に秩序と公共財を提供し続けたから、というのが主な理由。 (文献)John Lewis Gaddis, The long peace : inquiries into the history of the cold war, New York : Oxford University Press, 1987. <邦訳> J.L.ギャディス著、五味 俊樹他訳『ロング・ピース』(芦書房、2002 年) -3- 世界大国 登場の契機 ポルトガル ・イタリア戦争 (1494-1517) オランダ ・スペイン戦争(オラ ンダ独立戦争) (1579-1609) イギリス(第一次) ・フランス戦争(ルイ 14世)(1688-1713) イギリス(第二次) ・フランス戦争(ナポ レオン)(17921815) アメリカ 制度上の革新(公 衰退の契機 共財) ・トルデシラス条約 ・探検と発見の組織 ・スペインと合併 (1494) 化 (1580) ・広範囲の基地網 ・宗教戦争 ・インド貿易 ・アントワープの中 継貿易港 ・スペインとの12 ・海洋の自由、自由 ・対英戦争 年間休戦協定 貿易 (1609) ・アムステルダムの ・対仏戦争 銀行、株式取引 (1672-1675) 所、穀物取引所 ・東インド会社 ・イギリス革命 ・ユトレヒト条約 ・海洋の制覇(海 ・合衆国独立 (1713) 軍) ・欧州の勢力均衡 ・ポーランド分割 ・世界貿易の間接 ・フランス革命 的管理(重商主義) ・イングランド銀行、 国債(1694) ・パリ条約、ウィー ・「ヨーロッパの協 ・英独建艦競争 ン会議(1814調」 1815) ・制海権 ・帝国主義 ・奴隷廃止 ・ロシア革命 ・自由貿易、金本位 ・大恐慌 制 ・産業革命 ・インド統治(セポ イの反乱:18571859) ・ラテンアメリカの独 立 ・中国、日本の開国 ・ベルサイユ条約 ・国際連合 ・冷戦? (1919) 戦後秩序 ・ドイツ戦争(両次大 戦)(1914-18,3945) ・日本戦争(太平洋 ・ヤルタ、サンフラ ・戦略核抑止 戦争)(1941-1945) ンシスコ、ポツダ ム(1945) ・多国籍企業 ・非植民地化 ・宇宙開発 表1.覇権の歴史 -4- ・ベトナム戦争?
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