申請者 (研究代表者) 陶安あんど (和文) 共同利用・共同 研究課題名 研究期間 共同研究員 本研究所 専任教員(氏名) 共同利用・共同研 究課題の概要 研究の目的 研究の意義,特に 共同利用・共同研 究課題として展開 することの意義 里耶秦簡と西北漢簡にみる秦・漢の継承と変革ーー中国古代簡 牘の横 断領域的研究(2) The new boundary-crossing approach on Ancient Chinese Slip and Tablet Documents(2):Change and Duration in the Qin and Han as (英文) seen through a Comparison of Wooden Tablets from the Qin site of Liye and North-west Border Area of Han 2014 年度 ~ 2016 年度 ( 3 年間計画) 14 名 陶安あんど 「里耶秦簡」と「西北漢簡」とは、地方官庁で作成・使用された文書や帳簿を主たる内容とする共 通性を示しつつ、秦・漢の変革を跨るという時代的特性を持つ簡牘史料である。本研究は、「新簡 牘分類理論」という本研究特有の研究手法によりこの二つの史料群の正確な解読と比較研究を横断 領域的に進め、伝世文献によって映し出されている「秦漢時代」の連続性を打破して、秦・漢王朝 の継承と変革の実態を明らかにする。 具体的には、本研究は、毎月二回程度、年間二十四回程度史料の輪読会を開催し、輪読による新知 見を「史料ノート」として随時HPに公表し、他の専門家と交流しつつこの史料ノートの集積を中心 に里耶秦簡の訳注を作成・公表する予定である。また、新史料の講読を通じて、我々の方法論の有 効性を実証しつつその理論化を図る。研究課題の三年目には、AA研の言語研修の場を借りて簡牘セ ミナーを開催し、若手研究者に研究課題の成果を伝授することに努める。 「秦漢時代」という言葉の背後には驚くべき異質性が隠れている。秦王朝は、戦国時代七雄の一つ として戦時総動員体制を敷き、官制や爵制等を通じて資源や労働義務の分配を中央集権的に掌握す ることに巧みに成功したが、統一達成後、国家による資源や労働力の丸抱えの非効率性等が露出 し、体制は、新しい社会状況に対応できずに崩壊に傾いた。漢楚抗争を経て秦の故地を根拠地に再 統一を成し遂げた漢王朝は、秦の法律や制度を継承しつつ、最初は運用面で工夫を凝らして制度を 新しい実態に合わせ、前漢中期から後漢初期にかけて、儒教化の名の下で一種の文芸復興として再 構築された経学の知識体系を参照して制度設計そのものにも大きな変更を加えていった。制度と文 化の両面において先秦ないしは秦の概念が踏襲され、半ば意図的に継承性が演出されたが、本研究 は、出土資料が提供する豊富な社会経済史的史料を通じて、不可視化された変革に肉薄する予定で ある。 出土資料は、拡散的性格の故、好都合な記述を掻い摘んで一般化する危険を孕むが、本研究は、簡 牘というシステムの中で秦と漢を分析することによって、個別的事象を超えた歴史的連続性と不連 続性を分析する視点を確保している。同時に、先行研究課題における方法論的探究によって、本研 究は、多分野から集まった共同研究員が共有する認識基盤を獲得した。具体的には、「中国古代簡 牘の横断領域的研究」においては、永田英正以来の「古文書学的簡牘研究」と籾山明が提唱した 「出土簡牘の生態的研究」とを駆使しつつ、簡牘の多様性に対応した多角的視点を持つ簡牘学の構 築に力を注いできた。「出土簡牘の生態的研究」とは、文字情報に加えて簡牘の出土状況・形態・ 綴じ方等に関する情報等を元に、製作から利用と再利用を経て廃棄に至るまでの「簡牘のライフサ イクル」を明らかにする新手法を指すが、それを通じて、文字情報に止まらない広義の文脈情報が 得られ、本当の意味における史料の発掘が可能になる。さらに、高村武幸によって、形態分類と機 能分類を明確に区別する新たな簡牘分類理論が提示され、本研究を支える鋭利な分析道具となって いる。 連絡先:sueyasu@aa.tufs.ac.jp(陶安あんど)
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