社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE MFMIS-FET 不揮発性メモリ用 強誘電体薄膜の成膜と評価 中尾 良昭† 関本 安泰 松浦 秀治 大阪電気通信大学 工学部 〒572-8530 大阪府寝屋川市初町 18-8 †E-mail: m02124@isc.osakac.ac.jp あらまし MFMIS(Metal-Ferroelectric-Metal-Insulator-Semiconductor)-FET 型不揮発性メモリでは強誘電体層と絶縁層に印加電 圧が分配されるため,強誘電体層に電圧を充分印加させるためには誘電率の低い強誘電体材料を用いる必要がある.そこで低誘 電率強誘電体材料 Sr2Nb2O7 に着目した.本研究では Sr2Nb2O7 薄膜を成膜するにあたり,出発原料として金属カルボン酸溶液 を用いた.金属カルボン酸溶液は化学的に安定なため,長期間保存することが容易である.MOD(Metal-Organic-Decomposition) 法を用いて Pt/SiO2/Si 基板上に成膜した結果,b軸配向の Sr2 Nb2O7 の多結晶が成膜した.次に,漏れ電流と強誘電体薄膜中の 浅い準位に存在するトラップが関係していると考えられるため,DCTS(Discharge current transient spectroscopy)法を用いて Sr2Nb2O7 薄膜中のトラップ密度と放出割合を評価した.その結果,Sr2Nb2O7 薄膜中に3種類の異なるトラップの存在を確認し た.現在,漏れ電流にこれらのトラップが及ぼす影響は検討中である. キーワード 強誘電体,不揮発性メモリ,Sr2Nb2O7,金属カルボン酸, MOD 法, トラップ, 漏れ電流, 放電電流過渡分光法(DCTS) Formation and Characterization of Ferroelectric Sr2Nb2O7 Thin Film for MFMIS-FET Type Non-Volatile Memory Yoshiaki NAKAO† Yasuhiro SEKIMOTO and Hideharu MATSUURA Department of Electronic Engineering and Computer Science, Osaka Electro-Communication University 18-8 Hatsu-cho, Neyagawa, Osaka 572-8530, Japan †E-mail: Abstract m02124@isc.osakac.ac.jp In the case of a combination of a high dielectric constant ferroelectric layer (e.g. PZT) and a low dielectric constant insulator (SiO2), almost of gate voltage is applied to the SiO2 layer, suggesting that high gate voltage is required to invert the polarization in the ferroelectric layer. Therefore, Sr2Nb2O7 was chosen as a low dielectric constant ferroelectric material. Since metal carboxylic precursors are chemically stable more than metal alkoxide precursors, Sr2Nb2O7 thin films were fabricated on Pt/SiO2/Si substrates by the MOD method using metal carboxylic acid. Since a leakage current in a capacitor is considered to be related to shallow traps in the ferroelectric film, the densities and emission rates of shallow traps in Sr2Nb2O7 films were determined by DCTS (discharge current transient spectroscopy). Three types of traps with close emission rates were founded, and now the influence of these traps on the leakage current is investigated. Keyword Ferroelectric,Non-volatile memory,Sr2Nb2O7,MOD method , Trap , Leakage current , Discharge current transient spectroscopy (DCTS) -Insulator-Semiconductor)型 FET が 提 案 さ れ た . MFMIS 1. は じ め に パーソナルコンピュータに用いられている 構 造 は MOSFET 上 に 強 誘 電 体 層 と 電 極 を の せ た 構 造 DRAM(Dynamic-Randam-Access-Memory) は 高 速 で 動 作 で あ り ,MFS 型 FET と 動 作 原 理 は 同 じ で あ る .ま た , 回 以 上 と 多 い .し か し , 絶 縁 層 に 熱 酸 化 膜 ( SiO 2 )を , 中 間 に 挿 ん だ 電 極 に 強 揮発性メモリであるために電源を切るとメモリに保持 誘電体と格子整合する材料を用いることができる.し し て い た 情 報 を 失 う の で 情 報 を HDD(Hard-Disk-Drive) かし,強誘電体層と絶縁層は直列接続されたキャパシ に保持している.そのため,パーソナルコンピュータ タ と 等 価 で り , 絶 縁 層 の SiO 2 (ε =3.9)よ り 誘 電 率 の 高 の 起 動 時 に 低 速 の HDD か ら メ モ リ へ デ ー タ を 読 み 込 い強誘電体を用いた場合,分極に必要なゲート電圧が む動作が必要となり,非常に時間がかかる. 高 く な る .そ こ で 誘 電 率 が 43 と 強 誘 電 体 材 料 の 中 で は し ,デ ー タ 書 き 換 え 回 数 も 10 12 DRAM と 同 等 の 能 力 を 持 ち ,な お か つ 不 揮 発 性 で あ るメモリが実現できれば,この問題は解決し,高速で 起 動 す る パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ が 実 現 す る .そ こ で , 低 い 誘 電 率 を 持 つ Sr 2 Nb 2 O 7 が MFMIS 型 FET に 適 し ていると考えられる. 現 在 ,Sr 2 Nb 2 O 7 の 調 整 方 法 は 金 属 ア ル コ キ シ ド 溶 液 強誘電体の残留分極を利用した強誘電体不揮発性メモ を 用 い た ゾ ル・ゲ ル 法 が 試 み ら れ て い る [4],[6].し か リ ( FeRAM) が 注 目 さ れ て い る . し ,金 属 ア ル コ キ シ ド 溶 液 は 化 学 的 に 不 安 定 な た め に , 1Tr1Ca 構 造 メ モ リ の メ モ リ セ ル は ,一 つ の ト ラ ン ジ 長期間保存することが困難であり,取り扱いにくい溶 スタとキャパシタから構成されており,強誘電体をキ 液である.本研究では,化学的に安定で加水分解を必 ャ パ シ タ 部 分 に 用 い る .1Tr1Ca 構 造 で は 線 間 容 量 よ り 要としない金属カルボン酸溶液を用いる,有機酸塩熱 大きい容量を確保するためにキャパシタ部の面積の低 分 解 法 (Metal-Organic-Decomposition : MOD 法 )に よ 減 に 制 限 が あ り ,メ モ リ セ ル の 集 積 化 を 妨 げ る .ま た , り , Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 を Pt/SiO 2 /Si 基 板 上 に 成 膜 し た . 情報を読み出すたびに分極を反転させる破壊読出しの 強誘電体薄膜の残留分極により中間部の電極に誘 ため,分極反転の回数が増加する.その結果,強誘電 起 さ れ た 電 荷 が 漏 れ 電 流 と し て 失 わ れ て し ま う と , Si 体の疲労が大きくなり,メモリとしての寿命が短くな 界面に誘起された電荷も失われ、形成していたチャネ る. ルが失われる.その漏れ電流の原因に強誘電体薄膜中 こ れ ら の 問 題 点 を 解 決 す る た め に MFS(Metal のトラップが関係あると考えられる.そこで, -Ferroelectric-Semiconductor)型 FET が 考 案 さ れ た . DCTS(Discharge-Current-Transient-Spectroscopy) こ の メ モ リ は MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)ト ラ 法により漏れ電流とトラップの関係を調べた. ンジスタの酸化膜部分に絶縁性強誘電体を用いた構造 2. 実 験 方 法 で ,強 誘 電 体 の 分 極 に よ り チ ャ ネ ル を 形 成 し ,ソ ー ス・ 2.1 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 作 製 ドレイン間に流れる電流により情報の判断をする.し 図 2 に Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 作 製 の フ ロ ー チ ャ ー ト を 示 す . か し ,Si 基 板 上 に 直 接 強 誘 電 体 や 酸 化 物 強 誘 電 体 を 形 出発原料として2エチルヘキサン酸ストロンチウム溶 成 す る と 格 子 不 整 合 や 不 要 な 酸 化 膜 形 成 に よ り ,Si 基 液と2エチルヘキサン酸ニオブ溶液を,また溶媒とし 板と強誘電体の界面にトラップが形成される.強誘電 2-Ethylhexanoate Niobium 2-Ethylhexanoate Strontium 体 の 残 留 分 極 に よ り Si 界 面 に 誘 起 さ れ た チ ャ ネ ル の 電荷がトラップに捕獲される.このため,ソース・ド Mixing(mol 比 1:1) レイン間に形成していたチャネルが失われ,情報の判 別ができなくなる.そこで MFMIS ( Metal-Ferroelectric-Metal Sol-Gel Coating Solution (Metal Carboxylic Acid) Gate Coating 1 : 2000rpm 10sec Metal (M) Coating 2 : 6000rpm 60sec Ferroelectric(F) Dry at 200℃ 30min Metal (M) Source n Drain + n P-Semiconductor 図1 Insulator (I) Pre-bake at 400℃ 10min + MFMIS 型 FRAM Semiconductor(S) Bake at 800℃ 60min 図2 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 作 製 の フ ロ ー チ ャ ー ト 信号を て2エチルヘキサン酸溶液を用いた. まず,2エチルヘキサン酸ストロンチウム溶液と2 エ チ ル ヘ キ サ ン 酸 ニ オ ブ 溶 液 を mol 比 1:1 で 混 ぜ 合 D(t , eref ) ≡ t [ I dis(t ) − I l (Vdis )]exp(−eref t + 1) qS (2) わ せ る . そ の 溶 液 を 溶 媒 (2 エ チ ル ヘ キ サ ン 酸 溶 液 )を と 定 義 す る .(2)式 に 過 渡 放 電 電 流 の (1)式 を 代 入 す る こ 用 い て 濃 度 70% に 薄 め ,金 属 カ ル ボ ン 酸 コ ー テ ィ ン グ とで式 溶液を調整した. 基 板 に は Si に 絶 縁 層 と し て 熱 酸 化 膜 (SiO 2 )を 50nm D(t, eref ) = ∑ N tietit ⋅ exp[−(eti + eref )t + 1] (3) i =1 形 成 し ,そ の 上 に 膜 厚 200nm の Pt を ス パ ッ タ リ ン グ を 導 く こ と が で き る . こ こ で , e ref は DCTS 信 号 の ピ に よ り 積 層 し た Pt/SiO 2 /Si を 用 い た . Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 ーク移動パラメータである. はこの基板上にスピンコーティング法により成膜した. 2.2 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 結 晶 化 得 ら れ た Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 を 200℃ で 30 間 乾 燥 さ せ た 後 ,酸 素 雰 囲 気 中 400℃ で 10 分 間 仮 焼 成 を 行 っ た .こ の 乾 燥 か ら 仮 焼 成 ま で の 工 程 を 1 回 か ら 10 回 と 変 化 さ せ た も の を 酸 素 雰 囲 気 中 800℃ で 60 分 間 焼 成 を 行 DCTS 信 号 は t peaki = 1 /(e ti + e ref ) (4) でピーク値 D(t peak i , e ref ) = N ti (1 − e ref t peaki ) (5) を と る こ と か ら 、ト ラ ッ プ 密 度 N ti と ト ラ ッ プ 放 出 割 合 い , 強 誘 電 体 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 を 結 晶 化 し た . 得 ら れ た Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 上 に 上 部 電 極 と し て Pt を 円 e ti は そ れ ぞ れ 形 状 ( 0.79mm 2 ) に ス パ ッ タ リ ン グ し , 電 気 特 性 測 定 N ti = 用の試料を作製した. 2.3 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 評 価 X-Ray Diffraction(XRD)測 定 に よ り Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 結 晶 性 を 評 価 し た . そ の と き の X 線 の 波 長 は CuKα e ti = =1.5405Å で あ る . ヒ ス テ リ シ ス 特 性 は ソ ー ヤ ・ タ ワ D (t peaki , e ref ) (6) (1 − e ref t peaki ) 1 t peaki − e ref (7) ー 回 路 を 用 い て 周 波 数 1kHz に て 測 定 を 行 っ た . と な り , そ れ ぞ れ の ピ ー ク か ら e ti と N ti を 求 め る こ と Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 中 の ト ラ ッ プ の 評 価 は DCTS 法 に よ り ができる.薄膜中にトラップが複数存在する場合,各 行った. ト ラ ッ プ の DCTS 信 号 が 互 い に 影 響 し あ い , 各 々 の ト 3 DCTS 法 の 原 理 [1],[2] DCTS 法 に は 図 3 に 示 す 回 路 図 を 用 い る .DCTS 法 で ラ ッ プ に よ る ピ ー ク が 明 確 に な ら な い DCTS 信 号 と な る .こ の と き は , e ref を 連 続 的 に 変 化 さ せ ,DCTS 信 号 は強誘電体薄膜中からの過渡放電電流を測定し,強誘 の最大を検出し,各々のピークを分離して評価するこ 電体薄膜中に存在する複数個のトラップを個別に評価 とができる. N t が そ れ ぞ れ 1.0×10 1 2 できる.測定方法は,回路図中のキャパシタ部に充電 電 圧 Vcha を 印 加 し , 膜 中 の ト ラ ッ プ に キ ャ リ ヤ を 充 分 と 7.84×10 -1 s -1 に よ る 放 電 電 流 を 用 い た と き の DCTS 捕 獲 さ せ る . そ の 後 , 放 電 電 圧 Vdis を 印 加 し た 時 の 過 5 (1) i =1 で与えられ, q は電荷量, S はキャパシタ構造の電極 面 積 , I1 (Vdis ) は リ ー ク 電 流 で あ る .ま た , eti と N ti は i 番目のトラップのキャリヤ放出割合と単位面積あたり の 密 度 を 表 す . 次 に , N ti と eti を 求 め る た め の DCTS A A Metal Ferroelectrics Metal 図 3 DCTS 測 定 回 路 D(t,eref ) [×1012 cm-2 ] 渡 放 電 電 流 I dis (t ) は I dis (t ) = − qS ∑ N ti eti exp(−e ti t ) + I l (Vdis ) cm -2 で e t が 3.74×10 -1 s -1 Peak1 -1 eref [ s ] 4 -6.00×10-3 -4.00×10-3 0 2.00×10-3 4.00×10-3 6.00×10-3 3 2 Peak2 1 0 10-2 10-1 図4 eref の 変 化 に よ る 最 大 値 の 推 移 100 101 102 Time [s] 103 104 et [s-1 ] Intensity [c.p.s] 10-1 厚 80nm 8膜 times prebake 10-2 7times prebake 膜 厚 70nm -5 図 5 0 eref [×10-3 s-1 ] 5 25 30 35 2θ [degree] eref の 連 続 変 化 に よ る e t の 分 離 図 7 XRD 測 定 結 果 ( 膜 厚 70nm 及 び 80nm ) 1.2 膜 厚 90nm 9times prebake 0.8 Intensity [c.p.s] Nt [×1012 cm-2 ] 1 0.6 0.4 0.2 0 -5 図 6 0 -3 -1 eref [×10 s ] 5 eref の 連 続 変 化 に よ る N t の 変 化 信 号 の e ref に よ る 変 化 を 図 4 に 示 す . 図 4 を 見 て も わ 25 30 35 2θ [degree] 図 8 XRD 測 定 結 果 ( 膜 厚 90nm ) 晶 成 長 が 観 測 さ れ な か っ た が , 膜 厚 80nm の 試 料 で は か る と お り , e ref の 変 化 に と も な い , 最 大 値 が Peak1 29.1°付 近 に 大 き な ピ ー ク が 現 わ れ , 30°と 32°付 近 か ら Peak2 へ と 変 化 し て い る の が わ か る . 次 に e ref を にもわずかながらピークが観測できた.図 8 から膜厚 変 化 さ せ た と き の 最 大 の 時 刻 か ら 見 積 も っ た et を 図 5 に 示 す .図 5 か ら e t が 分 離 し て い る の が わ か る .ま 90nm(仮 焼 成 回 数 9 回 )の 試 料 で は 30.1°に お い て 最 も た 図 6 に 示 す よ う に , N t に お い て も 同 様 で あ り ,設 定 で き る . し か し 膜 厚 80nm で 見 ら れ た 29.1°で の ピ ー した値とほぼ同じ値を検出している. こ の こ と よ り ,DCTS 信 号 は e ref を 連 続 的 に 変 化 さ せ 数 10 回 )の 試 料 で は 29.9°で ピ ー ク を 観 測 で き た . る こ と に よ り , e ref に 無 関 係 な N t と e t の 領 域 が 現 れ , 複数のトラップを分離できることがわかる. 4. 実 験 結 果 と 考 察 4.1 強 誘 電 体 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 結 晶 性 膜 厚 70nm(仮 焼 成 回 数 7 回 )と 80nm(仮 焼 成 回 数 8 回 ) の Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の XRD パ タ ー ン を 図 7 に 示 す .膜 厚 70nm 以 下 の 試 料 の 場 合 ,ま っ た く ピ ー ク は 見 ら れ ず 結 大 き な ピ ー ク が 現 わ れ ,32°と 33°に も ピ ー ク が 観 測 ク が 弱 く な っ て い る .図 9 に 示 す 膜 厚 100nm(仮 焼 成 回 こ れ ら の 結 果 か ら Pt/SiO 2 /Si 基 板 上 に Sr 2 Nb 2 O 7 の 多 結 晶 を 成 膜 す る に は 膜 厚 が 80nm 以 上 必 要 で あ る こ と が わ か る . そ し て , 膜 厚 80nm の 試 料 で は 面 方 位 [131] に ,膜 厚 90nm と 100nm の 試 料 で は 面 方 位 [141]で あ り , b軸方向に向いていることがわかる.また,それぞれ の ベ ー ス ラ イ ン が 直 線 で は な く 25°か ら 28°部 分 が 盛り上がった形になっていることからアモルファスが 結晶内に存在している可能性もある. Sr2Nb2O7 at 290K Intensity [c.p.s] 10times prebake 膜 厚 100nm Idis [×10-12A] 10-12 10-13 25 30 1 35 2θ [degree] 10 100 1000 Discharge Time [sec] 図 11 過 渡 放 電 電 流 図 9 XRD 測 定 結 果 ( 膜 厚 100nm ) 3.2 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の ヒ ス テ リ シ ス 特 性 2 図 10 に 膜 厚 100nm の 試 料 の ヒ ス テ リ シ ス 特 性 を 示 D(t,0) Sr2Nb2O7 at 290K Simulated signal す.ヒステリシスループの両端に微量ながら飽和が確 et = 2.00×10-3 s-1 Nt = 1.78×1010 cm-2 認できた.しかし,残留分極の値が非常に微弱な値で あ る . こ の 原 因 と し て は Sr 2 Nb 2 O 7 の 単 結 晶 で は c 軸 方 向 で の 分 極 し か 確 認 さ れ て い な い た め [5],今 回 成 膜 した結晶がb軸方向に向いていることにより,分極方 向に対して電圧印加方向が垂直になり,残留分極の値 が微弱になったのではないかと考えられる.しかし, D(t,0) [×1010cm-2] 認 で き , 残 留 分 極 が 15nC/cm 2 を 示 す 強 誘 電 特 性 を 確 maximum 1 庄 山 ら の 報 告 [6]に よ る と b 軸 配 向 時 で も 0.5μ C/cm 2 の残留分極がでているため、結晶配向以外に主たる原 因である可能性もある. 3.2 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 中 の ト ラ ッ プ 評 価 Keithley237 ソ ー ス ・ メ ジ ャ ー ・ ユ ニ ッ ト を 用 い て 過 渡 放 電 電 流 を 測 定 し た .DCTS 法 の 測 定 条 件 と し て , 測 定 温 度 290K に お い て ,試 料 に 充 電 電 圧 1.75V を 300 0 0 10 101 102 103 Discharge Time [sec] −1 図 12 DCTS 信 号 ( e ref = 0 s ) 秒 間 印 加 の 後 ,放 電 電 圧 を 0V と し て 1800 秒 間 で の 過 (2)式 を 用 い て DCTS 信 号 に 変 換 し た .図 12 に e ref =0 s -1 渡 放 電 電 流 を 測 定 し た . 図 11 に 測 定 し た 過 渡 放 電 電 の DCTS 信 号 を 実 線 で 示 す . ピ ー ク 時 間 501s に お い 流を示す. て , ピ ー ク 値 は 1.78×10 9 cm -2 で あ っ た . こ れ よ り (6) 得 ら れ た 過 渡 放 電 電 流 を spline 関 数 で 補 間 し た 後 , 式 と (7) 式 を 用 い て , キ ャ リ ア の 放 出 割 合 は 2.00 × 10 -3 s -1 ,ト ラ ッ プ 密 度 は 1.78×10 10 cm -2 と 求 め ら れ た . 得られた放出割合と密度から,シミュレーションした 結 果 を 図 12 の 破 線 に 示 す . こ れ よ り , 実 験 か ら 得 ら れ た DCTS 信 号 よ り シ ミ ュ レ ー シ ョ ン し た 信 号 の 方 が 狭 い こ と か ら , こ の Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 中 に は 他 に 複 数 の 準 位 が 存 在 す る こ と が わ か る .特 に ,50s 付 近 と 5s 付 近にピークが見られることから,少なくともあと2種 類のトラップが存在すると考えられる. 次 に , ピ ー ク 移 動 パ ラ メ ー タ e ref を 連 続 的 に 変 化 さ 図 10 Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の ヒ ス テ リ シ ス 特 性 せ , こ れ ら の ト ラ ッ プ の 検 出 を 試 み た . 図 13 に e ref =0.005s -1 の 時 の DCTS 信 号 を 実 線 で 示 す .最 大 時 間 44s に お い て , 最 大 値 は 8.43×10 9 cm -2 で あ っ た . 1 D(t,0.005) Sr2Nb2O7 at 290K Simulated signal -2 -1 Nt [×1010cm-2] maximum 0.5 trap1 10-1 et [s-1] D(t,0.005) [×1010cm-2] et = 1.78×10 s Nt = 1.08×1010 cm-2 trap2 10-2 1010 trap3 0 0 10 101 102 10-4 103 10-3 −1 e ref = 0.005 s ) D(t,0.025) [×109cm-2] Sr2Nb2O7 at 290K D(t,0.025) Simulated signal -1 -1 et = 2.93×10 s Nt = 6.99×109 cm-2 5 10-2 10-1 eref [s ] Discharge Time [sec] 図 13 DCTS 信 号 ( -1 図 15 eref の 連 続 変 化 に 対 す る N t と e t 5. ま と め XRD 測 定 よ り Pt/SiO 2 /Si 基 板 上 に Sr 2 Nb 2 O 7 の 多 結 晶 が 成 膜 さ れ て い る こ と が 確 認 で き た . ま た , Sr 2 Nb 2 O 7 の 多 結 晶 を 得 る た め に は Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 の 膜 厚 を 80nm 以上にする必要があることがわかった.得られた Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 は b 軸 方 向 に 配 向 し た 結 晶 性 を 示 し た . maximum ヒステリシス特性は,微量に飽和しており,残留分極 値 Pr が 15nC/cm 2 を 示 す 強 誘 電 性 薄 膜 で あ る こ と が 確 認できた. 成 膜 し た Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 を DCTS 法 を 用 い て 評 価 し たところ,3 種類の異なるトラップが存在しているこ とが確認できた. 0 0 10 101 102 103 Discharge Time [sec] 図 14 DCTS 信 号 ( e ref = 0.025 s −1 ) こ れ よ り ,キ ャ リ ア の 放 出 割 合 は 1.78×10 -2 s,ト ラ ッ プ 密 度 は 1.08×10 1 0 cm -2 と 求 め ら れ た .そ し て ,図 13 の破線は求められたトラップの値を用いたシミュレー ション結果である. 図 14 に e ref =0.025s -1 の DCTS 信 号 を 実 線 で 示 す . 時 間 3.1s に お い て ,最 大 値 は 6.43×10 9 cm -2 で あ っ た . こ れ よ り ,キ ャ リ ア の 放 出 割 合 は 2.93×10 -1 s,ト ラ ッ プ 密 度 は 6.99×10 9 cm -2 と 求 め ら れ た .図 14 の 破 線 は 求められたトラップの値を用いたシミュレーション結 果である. 図 15 に e ref の 連 続 変 化 に 対 す る DCTS 信 号 の 最 大 か ら 求 め た ト ラ ッ プ 密 度 N t と ト ラ ッ プ 放 出 割 合 et の 関 係 を 示 す .図 15 か ら わ か る と お り , e ref の 変 化 に 対 し て 3 つ の 水 平 領 域 が で き て い る こ と が 確 認 で き る .こ の こ と よ り Sr 2 Nb 2 O 7 薄 膜 中 に 存 在 す る 3 種 類 の ト ラ ップを分離できた. 参考文献 [1] H.Matsuura, et al, “Discharge Current Transient Spectroscopy for Evaluating Traps in Insulators”, Jpn. 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