21 世紀幕開けの夢と雑感 - a-bombsurvivor.com

21 世紀幕開けの夢と雑感
∼ITから始まる大変革期∼
物流ロジスティクス誌
2001 年 1 月号
株式会社ロジタント 代表取締役 吉田祐起著
新年明けましておめでとうございます。長期化する経済不況や、あまりパッとしない話題
で明け暮れするのは、このところ年中行事になったって感じです。1年前はコンピューター
の誤作動の問題で騒いだものでした。
3百万人を突破する失業者や3万人以上の自殺者が慢性化状態のわが国経済状況の実態
を前に、はたまた火山活動による被災者の方々が各地で多くあられるなど、物身心全面で激
震するわれら日本人と日本列島って様相です。新年の目出度さもしたがって、今ひとつ冴え
ない感じがしないでもありません。
とは言いながら、それなりの新年のメリハリをつくることも肝要です。そんな思いからで
もあるのですが、60 歳代の最終年という極めてエポックメーキングな人生の節目を迎えた
わたしは、来るべき 70 歳代へのプロローグでもある、2001 年の新年を有意義に迎える
ことを目的に、それなりのものにチャレンジ(?)してみました。
21 世紀は文句無しに高齢「化」社会でなく、高齢社会そのものです。かく言うわたしは
その高齢者の一人ですし、厚生省所管財団が認定する「健康・生きがいづくりアドバイザ ー」
でもあることから、高齢社会における主役を演じるべき立場の者であるとの認識と自覚を持
っています。中高年齢者予備軍でもある若手社員教育の関連レクチャーにも、その精神を結
構活かしています。
ということからですが、本稿では一人のそうした人生理念を抱くおジンの立場から、21
世紀幕開けに抱く夢や雑感を含めて、読者へのささやかな情報提供をさせていただきたいと
思います。
さて、新世紀を迎えるに際して実行したわたしの第一歩は、新会社設立満7年を機に、積
年(?)にわたって積もりつもった書類や資料を整理することでした。大型年末整理をやっ
てのけ、サッパリした心境で新年を迎えました。
野口悠紀雄教授著の『「超」整理法』、『続「超」整理法・時間編』や、最近話題のベスト
セラーになった『「捨てる!」技術』
(辰巳 渚著)みたいなスマートな動機や整理法を見習
って、というのではさらさらないのですが、それでも、あの狭い四畳半SOHOの書棚や引
出しから整理の対象になった、せざるを得なかった印刷物や資料のボリュームは、何と大き
なビニール袋で 10 数個にもなりました。
ちなみに、平成5年に広島市内の中心地に本社を構えてスタートした新会社でしたが、高
額の家賃や通勤コストによる3年間の「高コスト本社体質」から脱却して、インターネット
時代に相応しい自宅のSOHOへ移転したのが平成8年の夏でした。
その本社移転の折、それまでの3年間の蓄積資料のすべてを全部洩れなく、大切に自宅本
社オフィスに持ち込んだものでした。多くの人たちからいただいたお手紙や、わたしが発信
したレタックスや書簡の写し等々、すべてがわたしにとって貴重な宝物って感じで、それは
それは大事に保管していたものでした。捨て難いものがあったのです。紙切れ1枚の資料で
も、正直言って、ビジネスチャンスへの可能性(講演・執筆・コンサルティング活動のネタ)
に結び付けなくっちゃあ、という執念に似た想い入れだったと想起します。
捨て難い資料
手紙の数々
30 数年間のトラック運送グループ会社経営から身を引いて、経営コンサルタント会社を
設立したときに、1週間の間を置いて出した二つの封書挨拶状があります。退社挨拶状と新
会社設立挨拶状がそれでした。約3千通セット(合わせて6千通)の宛先を同時に「毛筆」
書きして、最初の退社挨拶状を発送した1週間後に、新会社設立挨拶状を発送したものです。
その時分にいただいた多くの方からの励ましのお便りやファックスを袋詰めにしていた
のですが、整理の段階で出てきました。整理の手をしばしとめて、思わずその幾つかを読み
返しながら当時の思い出にしばし身をゆだねました。
その当時、物流ニッポン新聞でシリーズ寄稿していたのですが、この業界で極めて造詣が
深く、同紙のレギュラーライターでもあられる中田信哉・神奈川大学経済学部教授からのも
のは、今にして印象的であり、わたしにとって大きな教訓でした。
曰く、「フリーのコンサルタントの方は、アウトプットに気を使うよりも、インプットに
努力せよ、といわれておりまして、アウトプットというのは、インプットがあれば自然につ
いてくるということでしょう」
、
「…どうか、定期的に原稿執筆をなさって下さい。意見や考
え方を不特定多数の人に開陳していただきたいと思います。」と。
前者の同教授の教訓は、30 数年間の現役時代にわたしがインプットしたものに置き換え
られるでしょう。加えて、現在に至るわたしの執拗なまでの生涯学習概念の源泉でもあり得
るでしょう。後者の言葉は、わたしの7年間に及ぶ間断なき執筆活動であることから、ご助
言への忠実なフォローをしているな、と今にして思いを巡らすしだいです。
約7年間の蓄積で整理処分したペーパー資料は、保存量資料の 90%以上かもしれません。
厳選した希少存続保管資料のひとつに、同教授のそのメッセージがファイルされることは申
すまでもありません。
ところで、処分したペーパー資料のうち、当方が発信した分のコピーのほとんどは、フロ
ッピーやハードディスクに保存されていることは事実です。受信・受取資料の今後の保存整
理作業は、後述のデジタルカメラやスキャナーなどの装備がカバーしてくれるでしょう。I
T革命時代の「整理法」の一つになることだけは確かです。
思い切った整理を決断したのはほかでもありませんでした。IT革命時代に浮かれてのこ
とでは決してないのですが、もう一台のパソコンを導入するために生じた、スペースの確保
がそれでした。エッ!? 満 69 歳のおジンが新たな投資を?といった声が聞こえてきそうで
す。21 世紀高齢社会・IT革命時代の幕開けに相応しいエピソードとして、何時もの長文
のエッセイですが、興味をもって読んでくだされば幸いです。
徹底投資
IT化対応
「投資」と言えば大袈裟ですが、ダブル・パソコンを駆使(?)するために、同時にカラ
ープリンターやスキャナーや、それにデジタルカメラとそのアダプター。それに二つのパソ
コンのメッセージの伝達を行うためのルーター(中継装置)など、IT関連の一式器具装置
の新・増設を果たして新年を迎えました。
パソコン機能そのものの活用に関する限り、わたしのその能力と実績は極めて低いパーセ
ントではあります。にも関わらず、もう一台のパソコンを必要とする根拠は何ですか?です
が、まあ、説明させてください。
その前にですが、くだんの野口悠紀雄教授の弁を借りますと、パソコン導入の投資効果は
3つの機能活用で充分満足し得る、とかです。その一つは、ワープロ機能の活用、それもロ
ーマ字入力で。その二つは、電子メール機能の活用。その三つは、インターネットの活用と
かです。
満6年間続いてきた本誌への寄稿エッセイの執筆はすべてワープロ(テキスト文書)で、
ワンタッチの電子メール発信です。もっとも、その前はフロッピーの郵送だったのですが、
インターネット利用と同時に電子メールへと進化したものです。
加えて自身のホームページによる情報発信はもとより、英語を駆使したグローバルなイン
ターネット活用の情報収集や発信などの実績からすると、わたしのパソコン活用度や利用度
は野口教授論からすれば、優等生ってところではないかな、とニンマリしています。
さて、もう一台のパソコンが急務となった別の理由をこの際、ご披露させていただきます。
その一つは、一昨年末に立ち上げたホームページが自力による再編集が技術的に出来ず、心
ならずも正味1年間手付かずの状態を余儀なくさせたことへの反省によるものです。
幸いなことに、
「ホームページ・ビルダー2001」って実に便利なソフトが出現しました。
ワープロ入力の感じで自由に書いたり修正したり出来るシロモノですが、このソフトが案外
と容量を占めることから、もう一台あって欲しいということに相成ったのです。
パソコン増設のもう一つの理由は、わたしのささやかなロマンによるものです。本誌に執
筆し続けて満6年、その前は物流ニッポン新聞の1年間の、述べ7年間にもなる執筆活動や
実績ですが、その他の執筆も含めるとかれこれ百万字に達する勢いです。そうした著作を新
しく編集したホームページにインプットし、クリック一つでその情報を提供したいもの、と
いうのがわたしのロマンからくるパソコン増設意欲です。
ちなみに、ホームページアドレスは、http://www1.ocn.ne.jp/^logitant/です。
ああ懐かしき
PC導入期
ところで、パソコンと言えば思い出すことがあります。米国取材から帰国した時のことで
した。当時は物流ニッポン新聞への寄稿は4百字詰め原稿用紙に手書きでした。米国から持
ち帰った 150 枚の米国人友人たちの名刺を頼りに、礼状や交流のための手紙作成という目
的で購入したのがワープロ専用機でした。し かし、原稿寄稿に追われ、実際には、執筆手段
の改革になったシロモノです。
その後しばらくして購入したのがパソコンでした。インターネット時代に乗り遅れてはい
けない!って心境は否定できませんでした。IBMのアプティヴァってやつで、奇しくも米
国滞在中に親しくなったジョンソンさんというオーナオペレーターが、帰国後のわたしによ
こしてきた手紙の中で触れていた彼のパソコンと同じ機種でした。
折角購入したパソコンでしたが、ご他聞に洩れず、ホコリを被ったままで、かれこれ1年
間が過ぎたのです。専用機と同じオアシス・ソフトをインプットしたパソコンで、何時でも
転換できると心掛けたまでは良いのですが、原稿執筆に追われるゆえに、慣れた専用機から
パソコンへの転換に決心がつかなったのです。
と、ある日、その専用機が故障したのです。遊休中のパソコンがもし手元になかったら、
その先行投資をしていなかったら、が言いたところなのです。すぐさまパソコンのワープロ
に転換して急場を凌いだのです。それがパソコンへの取り組みの出発点でした。
もし、そのパソコン先行投資をしていなかったら、専用機の修理を待つか、その代替機の
使用でワープロ専用機専用の域を脱し切れなかっただろう、というのが今にして想像できる、
というのがオチなのです。
と言うことからですが、今回の新たなパソコンと関連装置器具一式の購入も、満 69 歳の
おジンにしては、想像されるその習熟度の実態からして、かなりの先行投資的なものになる
ことは覚悟のうえだ、ということです。体験がもたらすIT機器先行投資への決断、と言っ
たら大袈裟でしょうか?
劇的再会
Webの威力
「人生体験にリンク 英語・ワープロ・インターネット」
(本誌 1997 年 10 月号)でサ
ブタイトルに示す体験の幾つかを書いたことがあります。ホワイトハウスのホームページを
立ち上げて、クリントン大統領に「最低保有車両台数規制の撤廃への外圧を掛けて!」と電
子メールでアピールした直後のホワイトハウスの反応や、その後の返信メッセージの内容な
どはその時の拙稿のネタの一つでした。
本稿では「インターネットと英語」で最近体験した興味あることを書いてみます。
1993 年 10 月に米国単身個トラ取材旅行に出掛けた時以来、購読し続けているATA
(アメリカトラック協会)の週刊機関誌で「トランスポート・トピックス」があります。
30 ページから、多いときには 60 ページを突破する週刊誌です。
ちなみに、購読して7年になる同誌は、全部後生大事に保管していました。積上げた高さ
はかれこれ1メートルにも達してました。それをこの際、処分したのですが、その処分方法
も格好の話題です。
一応、全部のページをめくって見出しを読みながら、必要と考えられるものをすべてビリ
ビリとページごと切り取ってファイルしたのです。その厚さが約5センチにもなります。今
後の執筆や講演活動の資料にしたい貴重な資料として保存の新たな対象になる資料です。
さて、7年前の物流ニッポン新聞で 15 回連載された米国取材体験記のことになりますが、
そこでも書いた一人の人物があります。多くのオーナー・オペレターを傘下に擁しつつ、全
米屈指の株価を維持し続けているランドスター・システム株式会社という優良企業のブライ
アン・キンゼー副社長(当時)という人物です。
当時(1993 年)同社は、約7千人のオーナー・オペレター群を傘下に擁した典型的なノ
ンアセット型の元請け運送業者でした。渡米前からマークしていた会社でしたので、同社へ
の取材訪問か経営幹部との接触機会を狙っていたものです。
ディズニーランド本部があるフロリダ州・オアランド市で開催された全米恒例の年次大会
で彼との出会いがあったのです。ドラマチックな遭遇の様子はくだんの米国取材記で書きま
した。
その後、彼は貴重な多くの資料を送ってくれました。同社グループの「下請け運送契約書」
などのことも本誌で書いたことがあります。
このキンゼーさんは、ランドスター社が誇るオーナー・オペレター契約業務で、万全の管
理体制を構築したことで著名な人物です。
余談ですが、トランスポート・トピックス誌をみると、同社は現在では9千人のオーナー・
オペレター群に増大しています。1993 年以来、買収した運送会社が数社あるのですが、
それにともなう社員ドライバーもかなりの数になっているとかです。最近ではそれがオーナ
ー・オペ レターに転じているとかいった記事にも出くわしたことがあります。
くだんのキンゼー副社長には、かねてより緊密な接触をしたいものと思いながら、手が回
らないことから、心ならずも断念していたのです。電子メールアドレスがあれば、ことは簡
単なのですが、当時の彼の名刺にはそれがなかったのです。ちなみに、1993 年の米国取
材で持ち帰った米国人の業者やATA関係者などの名刺をみて今更のように感じるのは、電
子メールやホームページのアドレスが記載されていないことです。事実、当時は米国と言え
ども、IT革命直前だったんだな、ということです。
その電子メールですが、くだんのキンゼーさんにコンタクトする機会がひょんなことから
到来したのです。トランスポート・トピックス誌の昨年6月 19 日週号のある記事に、かの
キンゼーさんの写真記事が出ていたのです!
くだんの記事は「トラック運送会社はインターネット・ブームの肥沃な土地」と題するも
のです。「トラック事業こそがインターネット革命の矢面に立っている」ということから始
まっているのです。
同記事で知った興味あることの幾つは後述しますが、くだんのキンゼーさんが別の会社に
ヘッドハンティングされているのを発見したのです。
前述しましたが、彼はランドスター・システム社の副社長でした。その彼がキャリア・ポ
イントという会社の社長にリクルートされているのです。「インターネットを通じた企業の
立ち上げは花盛り」(同記事の中見出し)を地で行ってるのです。つまり、インターネット
を通して獲得した資金で企業を育成しているのです。同社は 125 万ドルの立ち上げ資金を
ベンチャー・キャピタルから獲得しているのです。
早速、インターネットの検索で同社の社名をインプットしてみました。同社のホームペー
ジをプラウザできたのは直ぐでした。くだんのキンゼーさんの顔写真の名前をクリックした
ら、彼の電子メールアドレスが出ました。実に7年ぶりのコンタクトがかくして実現したの
です。
「トランスポート・トピックス誌で写真記事をみた。詳細は後日作成する“1993 年以
来今日に至るわたしの活動報告”で知らせるが、取りあえず一報します」と発信しました。
翌朝電子メールを立ち上げたら、彼からの返信メールが入っていました。曰く「便りをとて
も喜んでいる。あれ以来の活動状況の詳細を早く知りたい。10 月 29 日から 11 月 1 日の
サ ンディエゴ年次大会に来ないか?当社は展示会場にブースを設営しているんだ…」と。
かく言うわたしは、目下暇をみては英文の「近況報告書」を作成しています。くだんのキ
ンゼーさんに約束した資料の作成ではあるのですが、何時の日か、電子メールにそれを「添
付」して、米国の友人たちへ発信することを計画しているのです。IT革命時代にあっては、
米国の友人たちに何時でも誰にでも「添付」して、わたしの近況報告に替えることのできる
資料であり、手段になることでしょう。肝心のトランスポート・トピックス誌への寄稿も視
野に入れています。
その写真記事で知った情報を幾つかお知らせするのも意義がありそうです。同記事の冒頭
にこんな記述があります。同記事に出てくる主人公の一人の弁です。「…(米国の)全事業
者中、72%が6台未満業者ということはオドロキだ」と。
1993 年の訪米当時にわたしが持ち帰った資料によりますと、
「6台以下が全体の 60%」
ということでしたが、米国でも「零細化」現象が覗われて興味津々です。
「零細化」はわたしの主張してやまない「わが国トラック運送事業の 21 世紀将来像」の
キーワードの一つです。本誌 9 月 号、10 月号で寄稿したそのときの講演全文テキストに
関連しますが、要点ずばりで簡略に後述します。
米国運送業者
ITの実態
くだんのトランスポート・トピックス誌記事で見つけたもう一つの興味ある情報を提供し
ます。米国の運送業者のインターネット利用度の表(ATA財団:資料)がそれですが、こ
の際、そっくり借用してご参考に供します。
業種
1996 年
1998 年
貸切業者
11%
51%
特積み業者
14%
61%
自家用業者
10%
51%
特装業者
9%
42%
この表からみると、2年前( 1998 年)の実態がほぼ「半数以上」ということから、2000
年の利用度は 70%台と推定できそうです。
運送事業はオールドエコノミーの最たる業種と思いきや、自社内の配車計画や運行管理な
どへのIT活用や、電子商取引に代表されるIT時代に則した物流の担い手へのあざやかな
変容ぶりが米国業者の姿と見受けます。
ひるがえって、わが国の場合はどうでしょう?森首相の提唱する「IT立国」を目指した
国家基本戦略案がありますが、IT出遅れ産業や、肝心のサラリーマンへのIT教育を補助
金や優遇税制などで補う気配が濃厚です。
大事なことは、ITを活用した産業や企業の構造改革です。IT革命の成否を決めるのは、
徹底した企業改革と競争促進です。規制緩和なくして果たせない、そして何よりもサラリー
マンの起業家精神的自己啓発努力なくしては果たせないIT革命だと認識すべきです。
米国のトラックドライバーが運転台でハンドルの上に端末機をのっけてキーボードを叩
いている姿が珍しくないのがその現れです。この業界でもIT後追いは否定できないでしょ
う。このことは後述します。
過信は禁物
インターネット
インターネット万能時代って感じの近年ですが、かく言うわたしもそのトリコになっては
いけない、と自身に言い聞かせているところです。もっとも、わたしの場合は、それによっ
て業務の拡大や切り込みが見込める未開拓の分野や余地が大きいので、当面は思い過ごしに
はならないと心得ます。
そんな折、日本経済新聞「回転いす(加藤氏の失策に学ぶ)」での稲盛和夫・京都商議所
会頭のコメントが興味でした。
「自民党の加藤紘一元幹事長はホームページ上で政権交代の持論を訴えたが、稲盛商議所
会頭は『インターネットは新聞、雑誌など数あるメディアの一つに過ぎない。それなのに、
加藤氏はネット上の(バーチャルな)世界で国民の信頼を得たと過信して負けた』と敗因を
分析する一方、『…今回の出来事は情報技術(IT)一辺倒の日本社会に警鐘を鳴らす。加
藤氏はけんかの仕方を知らなかった』という発言も飛び出し、政治でもビジネスでも戦略が
重要との思いをあらためて強くしたようだ」(記事原文のまま)と報じています。
加藤さんのホームページをウェブサイトしてみました。たしかに、今回の行動の動機や自
民党内の動きをリアルタイムで伝え、発言に対する釈明などをネットを駆使して世論に訴え
ておられます。
さて、国会議員の何割の先生方がそれを観られたたでしょうか、それとも観る能力をお持
ちでしょうか、が問題です。
ところで、ITは英語で言う「 Buzz Word(バズ・ワード:専門家や官庁の愛用語)
」の
感が否めない近年です。一時期の「最低保有車両台数規制の撤廃問題」もバズワードの類で
した。規制緩和推進3ヵ年計画が終了する今年3月末以降において、そのバズワードに真実
味や現実味が出てくることをひそかに願っているのです。
それにしてもですが、ITに関して言えば、所詮ITは一つの手段であって、目的では決
してあり得ない、ということをしかと心得ることが肝要だと思います。
3つのキーワード
新世紀の礎
南国土佐での「2000 全国事業者大会」を報じる全ト協広報紙「広報とらっく」に、
「ト
ラック業界新世紀へのキーワード」として、
「経営基盤・IT(情報技術)
・環境保全」の3
つの言葉が掲げられています。
第2分科会「IT(情報技術)の進展と事業経営について)」のレポートをみますと、か
なり後ろ向きの姿勢が否定できないな、と感じます。
「中小トラック事業者にとっては多くの中小荷主を含め、ITが浸透するにはかなりの時
間がかかり、現在の段階でのIT導入には限界がある」
、
「運行中のドライバーが行う車載端
末の入力作業は事故防止の観点から危険性の問題を含んでおり…」、
「インターネットを利用
した求荷・求車システムは、運賃の草刈り場につながる恐れがあり…」などがそれです。
米国の場合は、半数以上の企業労使がこのあたりはとっくにクリアしているのでしょうが、
どうやら、こうした面での欧米後追いも否定できないようです。
ところで、全ト協の3つの新世紀キーワードは、3つの分科会のテーマでもあったのです
が、奇しくもこのわたしは、昨年8月に全ト協・沖縄県ト協共催の「近代化物流セミナー」
講師として講演する機会を与えられました。
その時の講演全文テキストが本誌昨年 9 月、10 月号に分割掲載されたのは読者の知られ
るところです。演題は「わが国トラック運送事業の 21 世紀将来像」でしたが、本誌寄稿で
は3つのキーワードをアブタイトルにあしらいました。全ト協の新世紀キーワードとくらべ
て、何だか生臭いって感じですが、新世紀を迎えたのを機に、そのキーワードに限って凝縮
したものを再現(現在形で)します。わたしが自信をもって提唱するキーワードは「零細化・
3極分化・業務提携」の3つです。
キーワードⅠ
「零細化」
欧米物流先進諸国の1社当たり平均保有台数がほとんど「ひとケタ台数」であることは本
誌で何度か書きました。それに対して、日本のトラック運送会社のそれは「 20 数台」です。
この事実をもってと言ったら不見識かもしれませんが、日本の業界は「世界一規模」と皮
肉っております。その保有台数が年々少なく、すなわち、零細化すると予言します。
欧米後追い論を臆せず口にするわたしは、その理由の一つに、欧米物流先進諸国は1世紀
にわたる試行錯誤の体験と歴史を踏まえた上での「超零細化」であることを強調しています。
欧米文化の永年にわたる後追い事実が、IT(情報技術)でも近年みられる如く、物流分野
でも日本はそうした運送事業の形態を後追いする、と確信します。
日本には日本のやり方がある、という論理はグローバリゼーション時代にあって、もはや
通用しない、と考えます。
更に、その零細化の原因は「運賃価格破壊」という名の物流ビッグバンがもたらすもので
あると主張します。具体的には、そうした運賃価格破壊に対応し得るような「超低コスト実
輸送戦力」を保持するための手段として、零細化は避けられないということです。すなわち、
一般管理費が限りなくゼロになるためには、オーナー・オペレターという個人事業者に象徴
されるような超零細化が究極の到達点になる、ならざるを得ない、ということです。欧米物
流先進諸国は、はるか前からそうしたメカニズムを体感して実践してきた結果が、あの「1
社当たり平均保有台数=ひとケタ台数」であるのです。
キーワードⅡ
「3極分化」
次に、物流ビッグバン「運賃価格破壊」が生む、業界の「特化現象」による3極分化論を
提唱します。それは可能な限りの超低コストを保持するための業界の知恵の結果であるとも
言えるでありましょう。ここにも欧米物流先進諸国の後追い現象がみられると考えます。
第1極のセクトは、強い営業力を基盤にした「元請け業者」の地位を維持するセクトです。
しかし、この場合でも、自社トラックの超低コスト企業体質の保持は大事です。むろん、下
請け協力業者に対しても、そうした超低コスト体質を要求することは当然です。
更に強調すべきことは、元請け業者の企業規模は、大小には全く関係がない、ということ
です。つまり、元請け業者は強い営業力と信用力と超低コスト実輸送力を自社・協力業者と
もに維持する限り、1台でも、5台でも、50 台でも、500 台でも元請け地位は確保でき
る、といういことです。
第2極のセクトは、営業力保持を断念(放棄)し、代わって「超々低コスト実輸送戦力」
を基盤にした「下請け業者」に徹するセクトです。
コストを伴う営業力や管理能力などの把握を断念し、ただひたすらに「超々低コスト実輸
送戦力業者」に特化して、それを唯一の売り物にするセクトです。
ここでも強調すべきことは、この場合でも企業規模の大小には全く関係がない、というこ
とです。1台業者でも、10 台業者でも、100 台業者でも下請け業者に徹していくことで
結構生き残れる、ということです。昨 今の特積み大手企業が拠点間輸送をアウトソーシング
される傾向が顕著な事実は、そうした中堅企業の下請け特化へのビジネスチャンスを裏付け
るのです。
と、ここまでの「2極分化」論は誰でもよく口にすることです。この先がわたしのオリジ
ナルであることを強調します。
第3極のセクトは、近い将来必ず到来する「個トラ認可時代」によって台頭すると考える
べき、全く新しいセクトです。
「21 世紀はオーナー・オペレターの時代」と、かの長峰 太郎・流通大学教授も喝破され
ていますが、個トラが台頭したら彼(女)らが第3極のセクトを演じることになると確信し
ます。
その第3極セクトたちの行動範囲は多岐にわたります。具体的には、営業力のある個人業
者は、その甲羅に似た(と言ったら失礼かもしれませんが)零細小規模荷主の元請けとして
君臨し得るでしょう。家内工業の零細荷主さんの貨物を一手に引き受けて運ぶ傍ら、時には
工場内での作業にも手を貸し、時には社長さんのお抱え運転手の役もかって出る、って経営
手法です。こんなことは既存のトラック運送会社の社員ドライバーではできっこないでしょ
う。個トラ時代の落し子的新分野であるかもしれません。超々零細業者ならでは領域であっ
て、他の真似のできない、競争力抜群のシロモノであると言えるでありましょう。
一方、営業力のない個人業者の行方は豊富です。2つの道があるのです。その一つは、前
出・第1極セクトと第2セクトのいずれかの同業者の下請けに徹することです。前者を二次
下請け(孫下請け)と呼べば、後者は三次(曾孫下請け)とでも呼べるでしょう。
「下請け」って言葉や身分を自己卑下すべき(さすべき)でありません。元請け・下請け
関係の正常化や合理性を提唱することこそが、トラック協会の 21 世紀の課題だ、と喝破し
ます。
ここで特記したいことがあります。「2極分化」という言葉が跋扈するなかで、その趣旨
が概して「企業の規模」すなわち、極めて大きいか、小さいか、中途半端な規模が危ない、
といったものがあります。わたしに言わせれば、それでは中途半端な規模業者は立つ瀬がな
い、ということです。トラック協会の指導者がそんなことを公言したら、それに該当する会
員企業からは猛反発は必至です。
前述したように、元請けも下請けも、「企業規模の大小」には全く関係がない!というこ
とを強調します。その意義は前述した拙論から再認識してほしいと思います。こうした業界
指導をトラ協がされたら会員からの反発はないと思うのです。関係者はどう思われますでし
ょうか!?
キーワードⅢ
「業務提携」
以上のように3極分化する各セクトを有機的に統合するために不可欠とされるのがこの
「業者間業務提携」です。平たく言えば「元請け・下請け契約」ですが、いわゆる業者間の
融通配車です。
トラック運送事業発祥以来から営々として培われてきた制度ではあるのですが、どうした
ことか、トラック協会では正面からこの問題に取り組むことを避けてきたし、現に避けてい
ると指摘します。
全ト協秩序委員時代にわたしが提唱して、全国展開の運動項目に取り入れられたことは、
先の沖縄講演の全文テキスト寄稿でも書きました。もっとも、2年間で消えてしまった、曰
く因縁ものであることも書きました。
この「業務提携」も、元はと言えば、「超低コスト実輸送力保持セクト」と「営業力保持
セクト」の両者が双方の得意戦力・戦略を認め合い、補完し合うという、総合力発揮のため
の手段です。
融通配車が日常茶飯事のこの業界にあっては、「宿命的な業界構造システム」の再評価に
過ぎないとさえ思うのです。が、しかし、にも関わらず、トラ協自体がタブー視しているこ
とが否めません。
ピンはねする、される、といった業者間の不信感が根強いのがわが国のトラック運送業界
です。一方、元請け運賃を下請け契約業者にディスクロージャして、その 85%を下請けに
支払う、と公約するのが契約社会の欧米諸国のやり方です。トランスポート・トピックスの
どこをみても、日本の業界紙にみられるような元請け・下請け関係のドロドロした報道がな
いのはそのセイでもあると思うのです。
折角のそうした業界構造の機能性や可能性であるにも関わらずですが、この問題に関して
日・欧米間に大きなデバイド(格差)が生じるのは何とも残念としか思えません。このあた
りの問題解決や啓蒙こそが 21 世紀トラック協会の役割だと、ここでも喝破します。
企業労使間の労働契約から、企業間の取引契約等々、日本はまだまだ欧米先進契約社会諸
国のシステムづくりやコンセンサスづくりを見習う必要があります。それをやってのける企
業が、労使が生き残るということでもあるのです。
軽貨物業界
知恵の背後に
業者間の業務提携に関して言えば、特積み業者を含め、一般区域運送業者が既成事実とし
てよく利用しているのが軽貨業者です。本誌で何度も紹介したり、引用したことのある軽貨
急配株式会社(西原克敏社長)のことで耳寄りな情報があります。
同社は運転台の屋根の上に出張った大容量ボディーを搭載する独自開発の車両で特化さ
れていることはご案内のとおりです。通常の 1.75 倍の積載量ボディーであることをオリジ
ナルの目玉の一つにされております。
同社がまたまたオリジナルの軽車両を開発されました。牽引免許なしでけん引できる「ス
ーパートレーラー」と称すフルトレーラーです。「積載量の大幅アップにローコスト化、更
に新たなサービスへの展開など、さ まざまなニーズへの可能性を秘めたトレーラーです」と
は同社の弁です。
同社の西原社長さんは以前から、「いずれオーナー・オペレターが認められる時代が来る。
その時は、軽車両から2トン車に一斉に代替するだろう」と、不気味に言い放っておられま
す。そうした先取り意識が、くだんのフルトレーラーの開発を誘発したと思うのです。
かく言うわたしは、そうした軽貨業界の動向をもって、ドライバー教育の一環にもしてい
ることがあります。軽貨業者が一般トラック運送会社のドライバーにとって、侮り難い「ラ
イバル」になるんだ、ということです。同じことが経営者にも言えることになるでしょう。
その時こそが前述した「業務提携」の真価が問われることになるのです。
かつてわたしは、トラックディーラーの営業マンに拙著「軽貨物業界への提言 個トラ制
認可で革命を!」(本誌 1999 年 7 月号)のコピーを提供し、ボツボツそうした時代を先
取りすべく、ショートボディーで現在の軽貨業者に特化した車種を開発するようにメーカー
に提案したらどうです?と水を向けてみました。悲しいかな、反応は全くゼロでした。西原
社長さんだったら、トラックメーカーも耳を傾けること請け合いだ、と思うのですが、どう
でしょう?
ついに見直
物流大綱
昨年 10 月 9 日でした。広島市内の友人で材木会社社長を訪問したとき、偶然NHKテ
レビニュースが「物流大綱見直し」と、レポートしてました。曰く、「物流コストや通信コ
スト削減が求められていることを踏まえて、物流大綱を見直すことになった」と。思わず、
ガッツして、シメタ!と叫びました。
翌日の新聞(日本経済新聞と中国新聞)を期待に胸を膨らませながら、その記事を探しま
した。ありませんでした。翌日も、その次の日も、でした。図書館へ行って他紙を観るほど
の暇もないままでした。
関連記事を発見したのは他ならぬ、11 月 16 日号の物流ニッポン新聞でした。森総理主
宰の産業新生会議における意見交換の場でのこととあります。花王の常盤文克特別顧問の発
言のなかで、「一層の規制緩和など、物流大綱の見直しに反映させるよう」求めた、とあり
ます。
折しも、第二次森内閣がスタートしました。物流大綱は通産省と運輸省の所管です。モー
ダルシフトなる言葉がこの物流大綱では使われず、代わってマルチモーダルが使われている
ことを皮肉って本誌に書いたことがあります。
本稿が出版される時期には新省庁編成がスタートしています。経済産業省の平沼赳夫大臣、
国土交通省の扇千景大臣、それに行政改革担当相の橋本龍太郎大臣に期待したいところです。
でも、平沼大臣は「江藤・亀井派」です。亀井さんと言えば、ちょっぴり気になるのが自
民党議員の約6割が参加しておられる「行き過ぎた競争政策を見直す会」
(旧称:
「規制緩和
を見直す会」)の旗振り先生(?)です。ひと昔前の「契約スチュワーデス事件」の二の舞
はご勘弁願いたいのですが、IT基本法もあることから、産業新生会議の政策に積極的な英
断が期待されてやみません。
扇大臣には、持ち前の「白黒をはっきりさせるご性格と明快な語り口」に期待したいとこ
ろです。
橋本大臣は平成9年 12 月 6 日に当時の内閣総理大臣のお立場で、経済審議会(豊田章
一 郎会長)が提出した「建議書」をお受け取りになった方でもあります。言わずもがなで
すが、その建議書にで∼んと明記されていたのが、かの「最低保有車両台数規制の撤廃」で
あったのです。閣議でその個所が除外されたのは周知のとおりです。
行政改革担当相のお立場で、このあたりの再検討をお願いして切なるものがあるのです。
ちなみに、橋本大臣は沖縄・北方対策担当相でもあることから、重ねての期待を抱いてい
るのです。沖縄県は日本で唯一の「個トラ王国」です。琉球政府時代の名残りであり、事実
上は、オーナー・オペレター・ システムの本場米国がとった占領政策の一つとして認められ
て今日に及ぶものですので、ここは一番、沖縄方式の本土への上陸を認めてもらいたいもの、
とひそかに 21 世紀幕開けの夢としているのです。
(平成 12 年 12 月 7 日記)