TX テクノロジー・ショーケース イン・ツクバ 2008 医療・福祉・介護 P-48 過敏性腸症候群に対する塩酸ラモセトロンの有用性 ■ はじめに 過敏性腸症候群(IBS)とは、大腸組織に器質的 な傷害が認められないにもかかわらず、慢性の便 通異常や腹痛、腹部不快感を生じる機能性疾患で あり、下痢型、便秘型、混合型及び非分類型が存在 する。IBS は致死性の疾患ではないが、その症状は IBS 患者の QOL や労働生産性を著しく低下させる 事が報告されており、IBS が社会経済に与える影響 は無視できない規模であるとも考えられている。一 方、現在、IBS の治療薬としては、鎮痙薬、止瀉薬 及び乳酸菌製剤等が使用されているが、それらの有 効性には不十分な点も多い。IBS の発症要因として は、ストレス等による大腸運動や内臓痛覚の異常が 重要であると考えられており、近年、その病態生理 に関与するメディエータが徐々に明らかとなって きているが、特にセロトニン(5-HT)の関与が注 目されている。すなわち、5-HT 受容体の 1 つであ る 5-HT3 受容体は、消化管の腸管神経叢や知覚神経 に存在しており、大腸の運動、水分輸送及び痛覚伝 達を調節していると考えられているが、最近、内因 性 5-HT による 5-HT3 受容体の活性化が、IBS の病 態に深く関与していることが示唆されている。そこ で、我々の見出した選択的 5-HT3 受容体拮抗薬であ る塩酸ラモセトロンを下痢型 IBS 治療薬として開 発するため、以下に示す各種薬理試験を実施した。 ■ 塩酸ラモセトロンの薬理学的特徴 1. 5-HT3 受容体に対する親和性、選択性及び拮抗作用 ●塩酸ラモセトロンはヒト及びラット 5-HT3 受容 体に対して高い親和性を示したが、それ以外の受 容体、イオンチャネル及びトランスポーターに対 してほとんど親和性を示さなかった。 ●塩酸ラモセトロンは、5-HT によるモルモット 摘出結腸の収縮を濃度依存的かつ競合的に抑制 した。また、ラットに 5-HT を静脈内投与した時 代表発表者 平田 拓也(ひらた たくや) 所 属 アステラス製薬(株) 開発薬理研究所 問合せ先 〒 305-8585 茨城県つくば市御幸が丘 21 TEL: 029-863-6651, FAX: 029-852-5391 takuya.hirata@jp.astellas.com に生じる一過性徐脈反射を、塩酸ラモセトロンは 用量依存的に抑制した。 2. 排便に対する作用 ● IBS の動物モデル [ 拘束ストレス若しくは恐怖 条件付けストレス(CFS)によるラット排便異常 モデル ] において、塩酸ラモセトロンは用量依存 的な抑制作用を示した。また、塩酸ラモセトロン は、ストレスに応答して分泌することが知られて いるコルチコトロピン放出因子(CRF)や 5-HT によるラット及びマウスの排便異常に対しても 抑制作用を示したが、ラット及びイヌの自然排便 には影響を及ぼさなかった。 3. 大腸輸送能及び水分輸送に対する作用 ●塩酸ラモセトロンは、CFS によるラット大腸 輸送能の亢進及び CRF によるラット大腸水分輸 送の異常を改善した。 4. 腹痛に対する作用 ●塩酸ラモセトロンは、ラットの大腸伸展による 腹痛反応の発現閾値を用量依存的に上昇させた。 また、拘束ストレスによるラット大腸痛覚過敏を 改善した。 ■ 結語 塩酸ラモセトロンは、5-HT3 受容体を遮断するこ とにより、ストレスによる排便異常及び大腸痛覚異 常を改善し、下痢型 IBS の様々な症状に対して有 効性を示すと考えられる。 ࠬ࠻ࠬ ᄢ⣺∩ⷡવ㆐㧛ㆊᢅ ਛᨔ⚻♽ ᳞ᔃᕈ⚻ ᄢ⣺ χ ⣺▤⚻ฌ Ⴎ㉄䊤䊝䉶䊃䊨䊮 Ⴎ㉄ࡕ࠻ࡠࡦ ࠕ࠴࡞ࠦࡦߥߤߩ⚻વ㆐‛⾰χ ャㅍ⢻ㅴ χ ᳓ಽャㅍ⇣Ᏹ ᄢ⣺િዷ ឃଢㅴ ਅ∯ ■キーワード: (1)過敏性腸症候群 – 50 – (2)ストレス (3)5-HT3 受容体拮抗薬
© Copyright 2024 Paperzz